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アメリカのテロの悲劇の直後、アリアCD店主ラスコルは9月12日から19日までドイツへ行ってきました。かなりの強行軍ではありましたが、多くの音楽文化・音楽家とのふれあいに、本当にたくさんのことを吸収できました。実際にこの場を借りて皆様に紹介する以外に、文章として表現できない感覚的な体験も多かったのですが、とりあえずここでは向こうで得た情報や、エピソード、そしてそれほどたくさんではないのですが現地で入手したレア・アイテムをご紹介させていただきたいと思います。
みなさまのご理解を得て思い切って出かけてきて、本当に良かったと思います。ありがとうございました。
以前来たときは思わなかったのに、今回来たときはその成熟した街の雰囲気に驚いた。日本がいかにあわただしく、また子供の街になっていたか気づかされた。街全体にドイツ最高の文化都市という気概と自信が溢れている。ただ世界最大のビール・フェスティヴァル「オクトバーフェスト」はまだ始まってなかった。残念!
オルフェオ訪問記クラウス氏は長年ドイツ・オーストリアの放送局で仕事をしていたために現在でも多くの放送局に強力なコネクションをもち、それらの放送音源の中から優れたものを選んでリマスタリングし、DG、BMG、EMIからリリースしてきた。ご存知のとおり最近ではオルフェオ・ドール・シリーズから熱心なリリースを続けている。もちろんクラウス氏自身若い頃からの熱心な音楽ファンであり、多くの伝説的巨匠の名演に立ち会ってきたが、とくにフルトヴェングラーのコンサートは17回も聴いたというおそるべき視聴体験をもつ。実際の演奏会での体験を語り始めると目が潤み始め、いまだにフルトヴェングラーの壮絶さは忘れられないと言う。 ご自身が復刻したCDには実際の演奏のすごさがどのくらい収められているのかという問いに、それは目の前のブリジッド・バルドーと白黒写真のブリジッド・バルドーを比較するようなものだ、と笑いながら話した。でも、白黒写真でも持っていたほうがいいだろう?とも。そして、優秀な白黒写真を復刻するために、自分の記憶する実際の響きを再現することを最も重視していると熱心に語った。 リマスタリングにあたり、演奏上の傷や欠落をどのように修正するか、どこまで修正するかという問いに対しては、「すべてをあるがままにそのまま復刻するのがいいという人もいるが、私はその演奏会での雰囲気や色合いを豊かに再現するためには多少の修正も必要だと思う。それによってそのときの演奏がより普遍的な形で後世に残ることになるから。」と話した。 今後リリースされる予定について、フルトヴェングラーのものはもうないが、ミトロプロス、セル、ギレリスなどが考えられるという。クナッパーツブッシュは、バイエルン国立Oとのブルックナー3,5,8,9などが可能性として残されているらしい。日本人のクラシック・ファンはとても熱心なので、ぜひバイエルンの放送記録やザルツブルグ・フェスティヴァルでの演奏記録をたぐって、これはというものがあれば是非教えてほしい、と話していた。ご自身が復刻できうる音源の数はなんと数千にも上るといわれ、その中にとんでもないお宝が眠っている可能性は高い。
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南ドイツと北ドイツ |
ミュンヘンの観客 |
今は亡きアルス・ヴィヴェンディ
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ルーマニアELECTRECORDのベートーヴェン
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クナッパーツブッシュとケンペのお墓ミュンヘン郊外の「ボーゲンハウゼンの聖ゲオルク教会」。ここに眠る二人の巨匠。クナッパーツブッシュとケンペ。ケンペのお墓は入ってすぐのところ、こんもりとした茂みの中に真っ白い墓石。案外こじんまりとしている。クナはずっと奥。奥さんと一緒。きれいな十字架に花が添えられていた。日本と違い、ドイツのお墓は契約が切れると掘り起こされてなくなってしまうんだそうだ。(その後お客様から「ボーゲン・ハウゼンの墓地はミュンヘンに貢献した著名人のための墓所であり、一般の方々が埋葬されている墓所のように、期限が来たからといって掘り起こされるようなことは無い」、というお知らせがありました。よかったです。) |
バンベルク交響楽団とカイルベルト・ザール |
ローテンブルグ・ヤコブ教会のオルガン
自分もその一人なのだがローテンブルグの日本人観光客の多さにはちょっとびっくりした。ドイツ観光では必ずこの街が組みこまれるらしい。そんな日本人街のようなローテンベルグだが、街の最大の観光名所ヤコブ教会は、さすがに日本という文化文明に全く汚染されることなく、異様なまでのドイツの敬虔な雰囲気を保っていた。そしてヨーロッパで最も美しいといわれるそのオルガン。なんとかそのオルガンのCDがないかと探していたらありました。切符切りの小屋の中に。EDITION
LADE。日本にも代理店はあるけれど、残念ながらこのCDは扱っていない。ローテンベルグに行った事のある人もない人も、この壮麗なオルガンの音色にしばし浸ってみてはいかがでしょう。 |
バイロイトのマルクグラーフィン・ウィルヘルミーネ
ヴィクトル・ルーカス(チェンバロ)、ルーカス・コンソート |
バイロイト・ワグナー博物館自主制作CD
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ワグナー新発見オペラの自筆譜 ¥2000その博物館で売っていたワグナー新発見オペラの自筆譜。ワグナーが青少年オケのために書いた未完のオペラの自筆譜の載った本。全曲ではなく部分部分の自筆譜を載せながら解説されている。ドイツ語。
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ニュルンベルグ |
AUDITE会談シュトゥットガルトではAUDITEの前社長と現在の社長からいろいろお話しを聞くことができた。 AUDITEの創設者である前社長マウエルマン氏は、バイエルン放送の理事を務めていたお兄さんに連れられて(このお兄さんもそこに来ていて、いろいろ興味深いエピソードを語ってくれた)たくさんのコンサートに行ったが、その中でもクーベリックの演奏には深く心を打たれたという。 それから20年後、自分でAUDITE社を興し、レアな作品のレコーディングを中心に行っていたが、どうしてもクーベリックの録音を復刻させたくてついにカーゾンとのモーツァルトのピアノ協奏曲のCD化に踏み切った。(第21,24番 AU 95453 その後 第23、27番 AU 95466 / ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4、5番 AU 95459 もリリースされた)それを聴いたAUDITEの日本代理店キング・インターナショナルの担当者がAUDITEに対して「クーベリックとバイエルン放送響のマーラーもぜひ復刻させてほしい」、と要請、それを受けAUDITEはマーラーの第5番をリリース、それが世界的な大ヒットとなった。(その後の一連のマーラー・チクルスによってAUDITEは一気に世界中のクラシック・ファンに知られる名レーベルとなった。)現在は、社長の座をかつてFERMATEレーベルを創設しハイペリオンなどでディレクターをやっていたベッケンホフ氏に譲り、今はそのベッケンホフ氏が今まで以上に熱心に歴史的録音の復刻に取り組んでいる。 クーベリック・マーラー・チクルスは第3番、第8番の編集が終り、1970年の大地の歌を発見したことで、残るは第4番のみとなり、現在この音源を全力をあげて探しているとのことである。 またそれ以外には、最近はあまり注目されなくなったズーカーマン、彼が1969年4月に急病のミルシテインに代わって登場してきたときのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲も控えているらしい。そのヨーロッパ・デビューは、奇跡的な名演として当時の新聞では大きく取り上げられ、テクニックだけでないドイツ的で甘い、色彩色豊かな演奏、と大絶賛されたらしい。もちろん指揮とオケはクーベリックとバイエルン放送響。 さらに1980年代のザンデルリンクの録音のリリースも予定。ショスタコーヴィチの5番、ブルックナーの4番などが計画されている。そして最近にわかに再評価の機運が高まり始めた名匠リステンパルトもリリースされる。非古楽器系の巨匠として再注目されているリステンパルト、今回のリリースでは彼がいつもこだわった共演者にも興味が集まる。シェリングやヴンダーリヒ、アンドレといった大アーティストとの録音が復刻されるかもしれない。最後に渋いながら日本でのセールスも順調なライトナーも予定されているとのこと。膨大なバイエルン放送の音源をふんだんに盛り込んだAUDITEの快進撃はまだまだ続きそうである。
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AUDITEの創設者マウエルマン氏のお兄さんエーリヒさんは、バイエルン放送で長年理事を務めていたという(でも外見はミュンヘンのただの気のいい酔っ払い)。そんなお兄さんから2つの興味深い話しを聞いた。
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HANSSLER社訪問 新しい「FASZINATION MUSIC」シリースがベストセラーを続け、ここへきて一躍脚光を浴び始めたシュトゥットガルトに本拠を置くHANSSLER社。その社屋は広大な敷地に最新の設備を整えた最先端工場。もともと出版系の会社らしくその倉庫は8割が書籍だったが、HANSSLER社は我々音楽関係者が考えるよりはるかに巨大な企業であった。音楽部門の社長は知的で合理的、そして西洋風の帝王学を身につけた颯爽とした人。彼はHANSSLER社の歴史を語るより、今話題の二人のアーティストに引き合わせてくれた。
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ロジャー・ノリントン 日本で高い人気を誇るノリントンだが、なぜかCDリリースでは常に受難に遭うことが多かった。かつてEMIからリリースされた名盤たちは次々廃盤、ようやく最近になってVIRGINの普及盤でいくつか復活してきたが国内盤はさらに目も当てられない状況。DECCAから新録音が出てもノリントンの名前がクローズアップされることはあまりない。そんな状況の中で、FASZINATION
MUSICからリリースされたシューマンの交響曲第2番、ベートーヴェンのミサ・ソレムニスは抜群の出来で、手兵ロンドン・クラシカル・プレイヤーズを解散して新たに踏み出した活動が順調であることをうかがわせてくれた。しかし、とにかくいかんせん彼の情報は乏しい。一体今何を考えて、どんな音楽活動を送っているのかさっぱりわからなかった。
そんなときに、ノリントンが主席指揮者を務めるシュトゥットガルト放送交響楽団との練習風景に立ち会うことができた。そのあとにはほんのちょっとだけ話しをする機会もあり、今のノリントンを知る格好のチャンスを得ることができた。 リハーサルの演奏曲目はヴォーン・ウィリアムズの田園交響曲。4楽章すべてがモデラート、レントという、第1次大戦の犠牲者に対するレクイエムとなっている。このあたり今回のテロ事件と関係があるのかもしれない。7月のプロムスで演奏をしたことがあるらしいが、メンバーもかなり変わっているという状況でしかも今回が最初の練習ということだが、驚くべきことにほとんど曲はできあがっていた。プロのオケとはこんなものなのか?明日のコンサートのためのリハといわれてもわからない。しかもノリントンのきびきびした指示に俊敏に応えるオケの面々。そうとうに反応性の高いオケである。ノリントンは一時期心配されていた大病の影響は全く感じさせないはつらつとした指揮ぶり。ときおりユーモアを交えながら団員といい感じで練習をすすめていく。チェリ時代からの生き残りのこわもて奏者達もとくに場違いな風もなくノリントンの音楽性と共存している。指揮者とオーケストラの関係がかなりいいものであることを感じさせてくれた。 練習後2,3の質問をすることができた。といっても本人はいたっておだやかで優しく、愉快な人で、写真を撮るときもおどけてばかりいた。(また練習風景を見やすいように巨大スピーカーの位置を自分でずらしてくれたりした) ラスコル: 5年程前に大病をされたと聞いて心配していたのですがもう大丈夫なのでしょうか。 ノリントン: 10年前だよ。ご覧のとおり、今はすっかり元気。 ラスコル: よかったです。シュトゥットガルト放送交響楽団と新しいベートーヴェンの全集を出すと聞いたんですが。 ノリントン: え?そんな計画はないよ。でも頭にはあるけどね。いつかはやりたいと思ってる。ほかにもやりたいことはいろいろあるしね。 ラスコル: 日本にはなかなかノリントンさんの情報がはいってきません。ですので今度の来日は多くの人が期待していると思います。これからも何度も来日してファンを喜ばせてください。 ノリントン: そうなるようにがんばるよ。 ラスコル: ありがとうございました。 そのあとわざわざ日程を変更して今度はベートーヴェンの「田園」を聴かせてくれるということで張り切っていたノリントンだったが、どうしても先を急がねばならず、本当に残念ながらその場を後にした。ノリントンの優しさとちゃめっけが印象に残った。でも「田園」、聴きたかった。金管とティンパニは楽団からの提案でオリジナル楽器でやるのだそうだ。
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極秘!シュトゥットガルト放送交響楽団の歴代指揮者の横顔シュトゥットガルト放送交響楽団の楽団のかたに歴代の主席指揮者について本音で語ってもらった。ちょっとショックな話しもありますけど・・。
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路傍のCD−ホルヴァート/ブルックナー:ロマンティック
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シュトゥットガルト国立歌劇場で手に入れたCD
日本ライトナー協会の会長に見せたら10万円でいいから譲ってほしいといわれたお宝CD。すでに売店でも残り5枚しかなく、極東の日本人が全部買い占めてしまって本当によかったのだろうか。すべてライトナー50年代のDG録音。もちろん初CD化。
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