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第58号お奨め国内盤新譜(1)


8/12までの掲載分


ACOUSTICA

ACST2010-01
(国内盤・2枚組)
\4515
フランツ・リスト(1811〜1886):
 詩的で宗教的な調べ(1853/全10 曲)
イシドロ・バリオ(ピアノ)
異能の人、登場——思わぬ「ゴールトベルク変奏曲」で明敏なリスナーを驚かせたスペインの名匠バリオは、タリアフェロやゼッキのもとで育った「古き伝統」の継承者——気鋭レーベル第1弾から、リストの難曲集…不思議な透明さの美音、圧巻のスケール!そもそもCD 時代に入ってから、いろいろな国で地元密着的な活躍をみせている異色のスーパースターに出会いやすくはなっていると思うのですが(メキシコの異才指揮者バティス、エコール・ノルマルの知られざる名教師クロード・ベスマン、アルバニアの俊才テディ・パパヴラミ...)このたびスペインで新たに立ち上げられたAcoustica というレーベルを引き受けることになったのですが、その第1 弾リリースの情報を拝見して驚きました。イシドロ・バリオ!スペイン音楽の名盤を丹念に探してこられた方なら、Koch レーベルでスペイン近代の名匠トゥリーナの協奏曲作品を集めたアルバムや、18 世紀スペインを代表する名匠ソレールの鍵盤ソナタを続々と録音していた異才としてバリオをご存知かもしれませんが、最近では2009 年にすみだトリフォニーホールで『ゴールトベルク変奏曲』(!)を披露、そのユニークな解釈で明敏なピアノ・ファンや批評家勢からの注目を集めた異能の人、という新たな評判がその威光にハクをつけたばかり。
実はこのピアニスト、スペイン古楽史に名高いルネサンス曲集『宮殿の歌集(カンシオネロ・デ・パラシオ)』にも曲が収録されている作曲家ペニャローサにまで遡る由緒正しき音楽家の家系に生まれ、師事してきたピアニストにはマルモンテルとコルトーの愛弟子で近代フランス屈指の名解釈者として知られたマグダ・タリアフェロをはじめ、ブゾーニ直系のイタリアの巨匠カルロ・ゼッキ、あるいはアレクシス・ワイセンベルク…と、19 世紀ロマン派の伝統を脈々と受け継いできた偉大な名匠の名が続々! 英語のGrand という単語が色々な意味で似合う、大時代的な雰囲気がまったく仰々しくならず、むしろその雄大さとそこに並存する細部への慈しみが、実に男性的に聴き手を魅了してやまない、まさしくスペイン貴族のようなロマン派解釈をみせる名手へと育っていったのでした。
そのバリオが、新たに発足したAcoustica レーベル第1 弾録音として、なんとリストの『詩的で宗教的な調べ』を全曲録音するという——先日もフランスの「ベートーヴェン弾き」F-F.ギィが繊細かつ思索的な全曲録音をZig-Zag Territoires で披露してくれましたが、これはまったく違う視点からの解釈。『詩的で宗教的な調べ』は本来、超絶技巧は大前提ながらそれほど派手に見栄を切る、という感じで技巧性を示す瞬間があるというより、むしろリスト後期へといたる不思議な和声感、祈るような詩的情緒といった「楽譜に書けない解釈」を要求するという意味での難曲だと思うのですが(1曲15〜20 分ほどの大作も多々...)、ギィが細やかに伸縮する新世代的気配りの名演だとすれば、こちらは磨き抜かれた美音の圧倒的な透明感のもと、雄大でありながら隅々まで研ぎ澄まされている、まさに往年のヴィルトゥオーゾたちを彷彿させるようなカリスマ的演奏。それでいて古くささとは無縁、新しい何かを期待させてやまない感じはある意味、ヴィルトゥオーゾ・ピアニズムのティーレマンといってもいいかもしれません。
かつてバーンスタインがバリオのことを「在りし日のヨーロッパの演奏様式で、当時の威容と風格そのままに演奏解釈する芸術家」と絶賛したというのも、まったく頷ける話——ジャケットに掲げられた、古色蒼然としたポートレートに宿る威容と男性的な優しさ、そのままの秀演。スペイン特有の知性と気品、夏の夜にうってつけのピアノ盤です!

AEON


MAECD1097
(国内盤・ 訳詞付)
\2940
77は、ナポリの数
 〜女・リズム・悪魔〜
 ①失われゆく時間(N.アレーニ)
 ②今年ももうすぐ謝肉祭(E.ベンナート)
 ③悪魔は大騒ぎ(ズンパ・ズンパ)(C.ダンジオー)
 ④ウチワマメの樹の言い伝え(作者不詳/R.デ・シモーネ編)
 ⑤農村彼女(伝承歌)⑥ナンニネッラ(アンナちゃん)(P.ダニエレ)
 ⑦リッチウリーナ(巻き毛の女の子)(伝承歌)
 ⑧クンチェのお嬢様(P.ダニエレ)
 ⑨歌われ踊り(舞踏歌)(E.ベンナート)
 ⑩ユツェッラに捧げる歌(E.ベンナート&C.ダンジオー)
 ⑪チチェレネッラ(ヒヨコマメの女の子)(伝承歌)
 ⑫洗濯女たちが、口をそろえて言うには(R.デ・シモーネ)
 ⑬11ヵ月と29日(伝承歌)
ネアポリス・アンサンブル
マリア・マローネ(歌)
エドアルド・プッチーニ(ギター)
サルヴァトーレ・デッラ・ヴェッキア(マンドリン、マンドーラ)
マルコ・メッシーナ(各種リコーダー、バンスリ、バス・フルート他)
ワリー・ピトゥエッロ(チェロ)
ラファエレ・フィラーチ(打楽器)
 Alphaの『ラ・タランテッラ』あたりがお好きなら、迷わずお勧め。
 南イタリア、そこは魔術的リズムに統べられた土地。ナポリの伝承歌を現代屈指のグループが絶妙アレンジ、クラシック×民俗音楽(×現代音楽?)のクロスオーヴァ—、虜になること間違いなし!

 民俗音楽。そのテイストがクラシックの領域にもずいぶん生々しく浸透して...などと書くと「そんなのは大昔からだ!」と言われそうですが。実際、バロックの宮廷舞曲の多くは農村などの大衆舞踏だったものが非常に多く含まれていますし、ベートーヴェンやブラームスが民謡のメロディなどを自作に取り入れてみせたり、オペラに民謡が盛り込まれたり、なんていうことは昔からあったわけですし、いうまでもなくバルトークやヤナーチェクあたりはそういうことで作風を確立してきた人です。
 しかし、そんなことはどうでもいいのです——現代音楽から古楽まで、幅広く「良い音楽」「聴かれるべき音」を集めてくるとびきりのセンスを誇るフランスのレーベルaeon、あの「レコード・アカデミー賞に3点同時入賞」の技ありレーベルが新たに提案してくれたのは、現代音楽・クラシック・民俗音楽の3領域を軽々と越境してしまうクロスオーヴァ—的グループ、ネアポリス・アンサンブルの超ユニーク・アルバム!
 「ネアポリス」とは世界史でも教わるとおり、ギリシャ語でナポリのこと。地中海に突き出たブーツことイタリア半島のスネあたりに位置する港町ナポリは、古代ギリシャ人の植民地として紀元前9世紀頃に建設されて以来、人間がずっと住み続けている町としては世界最古の部類に属するところ——。
 17 世紀以降「オペラの故郷」としても知られてきたとおり、この町の音楽文化は実に豊かで、長い歴史のあいだに地中海各地と交易を続けながら、精彩鮮やかな音楽伝統が培われてきました。イタリア半島の「かかと」プーリア地方から伝わったタランテッラなど、もはやナポリ独自の文化のごとく根づいて世界中を魅了しつづけていますし、低音弦楽器コラシオーネは今や本物志向の古楽器演奏バンドが南イタリア音楽を弾く時には欠かせない民俗楽器になっていたり...で、ネアポリス・アンサンブルはもともと民俗音楽系のグループとしてスタート、ジャンル越境系の活動を続けるうち、現代音楽方面ですぐれた録音を続けているaeon のプロデューサーとの出会いをへてこのアルバムの録音に乗り出したもよう。
 使われている楽器はリコーダーやバンスリ、マンドーラ、打楽器関連などの古楽&民俗楽器系のものもあり、正統派クラシックのチェロもありですが、そこから流れ出るサウンドは強烈にナポリ的!南イタリアのパワー全開で(レブエルタスやヴィラ=ロボスなどの南米クラシックとも相通じる、あのパワーです)、涼しげなマンドリン、憂愁あふれるギターの響き、そして低い地声を生かしたマリア・マローネの民俗歌唱、理屈抜きに熱っぽい響きでありながら、カラッと晴れた夏空というよりむしろ残暑涸れかかる秋の夜、といった郷愁がほんのり漂う、えもいわれぬ魅力は必ずやクセになる人続出のはず。
 マルコ・ビズリー&アッコルドーネやラルペッジャータ、ガリード&アンサンブル・エリマあたりの民俗系古楽サウンドの“エモーショナルなうねり”が好きな方には無条件でおすすめいたします!
 テーマは「女・リズム・悪魔」。南イタリアの音楽のリズムに息づいている女性の力、陽気な悪魔たち、リズムの根源にある「数字崇拝」の民間伝承...そのあたりのからくりを解き明かす解説も、謎めいた魅力たっぷりの歌詞も、実に示唆的(全訳付!)。
 イタリアを知るなら、この1枚は避けて...いや、避けるなんてもったいない!これからの季節を盛り上げてくれること請け合いです。

ALPHA


Alpha179
(国内盤・訳詞付)
\2940
ダヴィデ王が歌うとき 〜旧約聖書の『詩編』と17世紀ドイツ北方の巨匠たち〜
 ブクステフーデ、ブルーンス、ゾンマー...

ディートリヒ・ブクステフーデ(1637〜1707):
 ①主は言われたBuxWV17(ラテン語詩編第109編)
 ②哀悼の句 BuxWV76
ザムエル・シャイト(1584〜1654):
 ③コルネットによるカンツォーン
ヨハン・フィリップ・フェルチュ(1652〜1732):
 ④深い淵の底から(ドイツ語詩編第130編
ユリウス・ヨハン・ヴァイラント(1605 頃〜1663):
 ⑤全地よ、神に向かって喜びの叫びをあげよ(ドイツ語詩編第66編)
マティアス・ベックマン(1616〜1674):
 ⑥4声[と通奏低音]のためのソナタ
ニコラウス・ブルーンス(1665〜1697):
 ⑦前奏曲とフーガ ホ短調
 ⑧全地よ、主に向かって喜びの叫びをあげよ(ドイツ語詩編第100編)
クリストフ・ベルンハルト(1628〜1692):
 深い淵の底から(ドイツ語詩編第130編)
ヨハン・ゾンマー(1570頃〜1627):
 ⑩主よ、至高のかたよ(ドイツ語詩編第8編)
 ⑪4声[と通奏低音]のための器楽シャンソン
ジャン・チュベリー(コルネット&指揮)
Ens.ラ・フェニーチェ(古楽器使用)
ハンス=イェルク・マンメル(T)
ダーフィト・ファン・バウヴェル(org)
 バッハに強く感化を与えたブクステフーデ、その世界を育んだ先人たち、そして...聖書のなかでもとりわけ音楽化されることの多い「詩編」をテーマに、生のままの17世紀へ。筋の通った古楽もの企画、その演奏内容の飛びぬけたセンスではやはり、Alphaが一番!
 ドイツ・バロックの来し方といえば、やはりバッハとその先人たち——とはいえ、17 世紀音楽というのはその大半が、へたな演奏をすると音楽のカタチすらわからないものになってしまう困難な領域。この点で飛びぬけたセンスをみせてくれるのが、昨今なお躍進めざましいフランス語圏の古楽シーンの演奏家たちでしょう。
 日常的にクオリティの高い演奏世界があるうえ、「こうでなくてはならない」から「ならこうもできる」へ、古楽の響きを崩さぬまま、より広い聴き手に届くアプローチをいちはやく展開し、カウンターテナーがスター歌手になるほどの現在のユニークな環境をつくってきたのがフランス語圏のスタイリッシュな古楽奏者たちだったことは、もはや常識といってもいいかもしれませんね。しかし、彼らは(これは現代楽器の演奏家たちもそうだと思うのですが)ドイツの芸術にはしばしば独特の敬意を払う一面もあって、たとえばドイツ語歌詞のドイツ・バロック作品でドイツ人歌手を迷わずパートナーに選ぶようなこともあるわけです。
 フランス語圏ベルギーを拠点に、自らコルネット(リコーダーと同じくらいの大きさの、吹き口だけ金管風の木管楽器(象牙製もありますが)を縦横無尽に吹きこなすスーパープレイヤーでもある合唱&古楽指揮者ジャン・チュベリー率いる精鋭集団ラ・フェニーチェは、ここでドイツ屈指の俊才古楽歌手H=J・マンメルを起用!鬼才フォルテピアノ奏者スホーンデルヴルトとの『冬の旅』でも実績をあげたこの歌い手が、今度はドイツ音楽のルーツともいえる、イタリア音楽からの強い影響のもとに自分たちのドイツ精神を静かに見つめ直していた17 世紀北方の声楽作品を、深々とわかりやすい歌い口で、その魅力全開のパフォーマンスで聴かせてくれるのです。
 テーマは「詩編」。旧約聖書に収録されている、古代イスラエルの伝説的君主ダヴィデ王が竪琴片手に歌ったという詩を中心に選ばれたこの詩歌集は、音楽史上非常にしばしば素晴らしい宗教曲の歌詞に使われてきたわけですが、ここではその「詩編」がドイツ・バロックの音楽家たちにどう影響し、プロテスタント的解釈でどう音楽化されていったかを概観できる、1枚のCD としては驚くほど内容の詰まったものとなっています。
 なにしろ声楽曲もあれば器楽合奏曲もあり(羊腸弦も古楽管の素朴さ加減も、絶妙…)、17 世紀初頭のシャイトから18 世紀近くのブルーンスやフェルチュまで、音楽史本で必ず目にするような有名作曲家と玄人筋垂涎な未知の作曲家をほどよくとりまぜ、メリハリの利いたプログラムで68分たっぷりと。静かに流して効くにも、歌詞訳片手にじっくり向き合うもよし——こういうのはやはり、筋金入りの古楽レーベルとして始まったAlpha ならではですね。すでに欧州でも好評です!

ALPHA


Alpha529
(国内盤・訳詩付)
\2940
クロスカルチャーが魅力のAlpha 白ジャケット・シリーズ「レ・シャン・ド・ラ・テル」新譜
船が来た! 〜風の歌、海の歌、潮の歌
 英国諸島の伝統歌を、古楽器で〜

 ①人魚の歌/舟は絶望的/舟は旅立つ
 ②バーバリ海岸は高し ③ボウインの流れ/モリスンのジグ*
 ④海草を引いて ⑤ほっそりした乙女ふたり
 ⑥アイルランドの岸/船を失うということ/水夫のジャケット/釣れるのはウナギばかり*
 ⑦海の魚は ⑧ジェイムズ船長* ⑨うるわしのスーザン
 ⑩メイガン船長* ⑪水夫淑女* ⑫アレン・ドゥイン(茶髪のアレン)
 ⑬ディニー・ディラニー* ⑭キティ・メイジニーズ*
 ⑮未踏の島 ⑯グリーンランドの鯨狩り* ⑰いきがる水夫
 ⑱昆布を採りながら*
 ⑲ドゥニーンの岸壁(* 印は器楽のみのトラック)
クアドリーガ・コンソート(古楽器使用)
 Alpha の「白シリーズ」は、民俗音楽テイストが古楽サウンドと交わる不思議な世界——『このジグは誰のもの?』(Alpha502)以来の英国ものは、うっすらケルト風味の海風を感じる、船乗りの笛の音、弦の音、乾いた太鼓とノスタルジックな歌声。

 “異国人だからこそ”の本物!
 クラシックにあって異色のセールスを静々と伸ばしてきた、“楽譜になっていない民俗音楽や即興+古楽”のクロスカルチャーが魅力のAlpha 白ジャケット・シリーズ「レ・シャン・ド・ラ・テル」。
 移民大国であるとともに、地方文化にも豊かな多彩さが残るこの国だからこそ、そして古楽のノウハウを知り尽くしたレーベルとしてスタートしたからこそ、この特殊なシリーズは国境を越えて多くの人の心を捉えつづけるユニークな名盤をいくつも生んできたわけです。
 基本的にいちばん多いのは、やはりフランスがらみの企画——南仏ものやフランス古楽界の俊才による企画、中世音楽や民謡・童謡・・・と思いがけぬ音響美をさりげなく発掘してきたこのシリーズから、今度は思いがけずケルトがらみの英国ものが登場いたします!
 チェンバロ、リコーダー、バロック・ヴァイオリンにバロック・オーボエ、ヴィオラ・ダ・ガンバ...と使っている楽器はあくまで16〜18世紀の古楽器なのですが、弾いている曲は作者不詳、スコットランドやアイルランドに口伝えで残ってきた伝統音楽がメイン——曲目一覧にも、むしろケルト系のバンドのアルバムで聞いたような曲名も見つかるのでは?
 テーマは「海の歌」。
 イギリスもアイルランドも日本と同じく島国で、漁師や水夫が大海原で“ふるさとを切望する気持ちの歴史”をつちかってきた国ですから、船乗りたちの歌は風の音や潮のうねり、夜の静けさや恋人への想い...といった、海の上ならではのさまざまな事象や心理がえもいわれぬ音楽美につながっている名曲が少なくないのですね。
 ロマン派のケルト復興運動とも、バロック後期のスコットランド民謡ブームとも、はたまたアイルランド・ハープ普及活動のような意識ともまったく違う、純粋に民謡歌唱的なヴォーカルの魅力と古楽器のうつくしい音色(郷愁をさそう素朴なガット弦のたわみが実にきれい...)、音楽的な雰囲気感だけでアルバムを成立させてしまうことができるのは、やはり「Alpha の白ジャケ」ならではの魔力なのだ...と痛烈に感じずにはおれません。

 そこでは、弾き手と弾き手の間合いで揺れている“空気”までみごとにすくいとってしまう異才技師ユーグ・デショーのオーガニックな録音センスがものを言っている部分も大きいに違いありませんが、今回のアルバムにはちょっと意外な要因もひとつ。なんと、この比類なく心そそる英国民俗的古楽サウンドを紡ぎ出してみせているのは、英国人でもフランス人でもない、オーストリアの異色古楽集団クアドリーガ・コンソートなのです!
 グループ結成以来ひたすら英国音楽ばかりを追い求めてきたという彼ら俊才たちは、異国人だからこその強い憧憬で、英国の古い伝統音楽の何のまじりけもないエッセンスに真っ直ぐ辿り着いたのに違いありません。夏を涼しくやり過ごすのにも絶妙な、素材感あふれるナチュラルさ。忘れられない1枚になりそうです!

ARCANA


Mer-A360
(国内盤)
\2940
ジョヴァンニ・アントニオ・パンドルフィ・メアッリ(1629〜1679)
 『ヴァイオリン独奏[と通奏低音]のためのソナタ集』作品4(1660)
 1. 第1ソナタ「ラ・ベルナベイ」
 2. 第2ソナタ「ラ・ヴィヴィアーナ」
 3. 第3ソナタ「ラ・モネッラ・ロマネスカ」
 4. 第4ソナタ「ラ・ビアンクッチア」
 5. 第5ソナタ「ラ・ステッラ」
 6. 第6ソナタ「ラ・ヴィンチョリーナ」
グナール・レツボール(バロック・ヴァイオリン)
アルス・アンティクヮ・アウストリア(古楽器使用)
 「バロック」とは本来、17世紀音楽のこと。その意味で、本盤はバロック・ヴァイオリン芸術の極致!
 息をのむほど美しいピアニシモから、あざやかに激情迸らす響きまで、「歌声」と「感情」とを羊腸弦に託し、ハプスブルク家の貴族たちを瞠目させた至芸を、超実力派が縦横無尽に!

 かつてフランス発のメジャーレーベルErato の古楽セクションを盛り上げたあと、小規模レーベルAstree を立ち上げた敏腕技師ミシェル・ベルンステンが、生涯最後に興した古楽専門レーベルArcana——そのベルンステン急逝後、イタリアの古楽プロデューサーに買われて奇跡の復活を遂げたこの名門が、今ますます勢いづいています。
 2009 年再取り扱いとともに大人気を記録したフェシュテティーチ四重奏団のハイドン全集、廃盤状態から復活あいなったガンバ奏者ドゥフトシュミットやエンリーコ・ガッティ、ファビオ・ビオンディらのイタリア鬼才勢の傑作盤...に続き、新録音で素晴らしい充実企画と名演を続々放ってくれているのが、ベルンステンがこのレーベルに引っ張ってきた、「音楽大国」オーストリアの古楽界で最も注目すべきバロック・ヴァイオリンの異才、グナール・レツボール!
 昨年は大バッハが若い頃にヴァイマール宮廷のトップを張っていた巨匠ヴェストホフの「無伴奏ソナタ集」を圧巻の技量で録音、古楽探究の楽しみをあらためて実感させてくれましたが、このたび彼が新たに放った企画は、さらに時代をさかのぼり、17 世紀中盤のオーストリアで活躍したイタリア・トスカーナ出身の「知る人ぞ知る」異色作曲家パンドルフィ・メアッリ!そう、かつてharmonia mundi france で(否、それ以前にChannelClassics で)英国の俊才アンドルー・マンゼが発掘、バロック・ヴァイオリン芸術の未知なる面白さを印象づけた作曲家です。
 しかしこの歴史に埋もれていた異才については当時詳細が分からなかったのですが、その活躍地であるオーストリアの古楽界を担うレツボールらの解釈でその音楽世界に踏み入ることができるだけでも行幸というのに、そこには2005 年に上梓された新校訂譜の編纂に携わった音楽学者F.ロンゴによる画期的なパンドルフィ研究の成果も反映されており、「知られざる謎の人物」としてパンドルフィを扱っていたマンゼ盤とは全く違う新境地を、詳細解説(全訳付)と本場奏者の充実解釈でじっくり味わえる注目アルバムになっているのです!
 現存する2 冊の曲集ひとつひとつにアルバム1作を割く2 連続企画の「上巻」にあたる本盤では、刻一刻と移り変わる感情をヴァイオリンで代弁するかのような真に迫った音運びが、えもいわれぬ羊腸弦の響きで味わえるのがたまりません。ひっそりとした最弱音から強い情感吐露まで、なんと広い表現の幅!いわくありげな各曲表題も気になりつつ、通奏低音にはチェンバロ、オルガン、アーチリュート、バロックギター、コントラバス、さらにヴェネツィアでも使われた南イタリアの民俗楽器コラシオーネまで登場、多彩な音色の組み合わせが作品の面白さをさらに引き立ててくれます(もちろん、弾き手も超実力派揃い!)。バロック好きには見逃せない新録音、要注目!

ARCO DIVA


UP0134
(国内盤・訳詞付)
\2940
巨匠マーツァル、満を持してマーラー音楽祭に登場!!
 グスタフ・マーラー(1860〜1911):
  1. 交響曲第1番 ニ長調「巨人」
 アルマ・マーラー(1879〜1964):
  2.七つの歌曲(管弦楽編曲:コリン&デイヴィッド・マシューズ)
ズデニェク・マーツァル指揮
プラハ交響楽団(FOK)
バルボラ・ポラーシコヴァー(メゾソプラノ)
UP 0134-2
\2300→¥2090
紹介済みの輸入盤
詳細不明だったUP0134のマーツァルのマーラーの1番のアルバムの詳細が代理店マーキュリーにより判明。

 Arco Divaから待望リリース、堂々の「巨人」は風格と繊細さを兼ね備えた、味わい豊かな名演——しかも併録は映画「君に捧げるアダージョ」で注目度再燃中、アルマ・マーラーの濃厚絶微な歌曲!マーラー記念年が絶賛継続中なのはいうまでもありませんが、とくにこの6月は映画『マーラー 君に捧げるアダージョ』もよい感じで波及効果を呼びつつある頃——そんな折、チェコから日本でも大人気の巨匠ズデニェク・マーツァルによる充実したマーラー録音が電撃登場!!
 考えてみれば順当な流れではあるのですが、チェコ有数の音楽事務所であるArco Diva が同国イフラヴァで開催しているマーラー音楽祭でのライヴ収録というかたちでの登場で(ご存じのとおり、マーラーはチェコの生まれで、15歳までこのイフラヴァという小さな町で育ったのでした)、さらに嬉しいことに今回は自主制作レーベルが俊才ネトピルの『わが祖国』で快調な滑り出しをみせた老舗名団体、プラハ交響楽団がオーケストラなのです!
 そして曲目は「巨人」——ロマン派の伝統をがっちり継承しながらも、いかにもマーラーらしい民謡テイストや諧謔味もあざやかに盛り込まれたこの人気作を、マーツァル&プラハ交響楽団という理想的タッグはじっくり堅固に織り上げながら、ライヴなればこその緊張感でとびきり味わい深い演奏内容に仕上げてくれました。チェコ・フィルとの練り上げられた録音群ともまた一味趣の違った「チェコ人マーツァルがチェコ人に向けて、チェコの老舗楽団と織り上げた“チェコ出身の”マーラー」は、耳の肥えたクラシック・ファンにとっても聴きどころ(=聴き比べどころ)満載の注目度の高い1枚になることでしょう(日本での動きとは別にこういう嬉しい驚きがあるから、海外制作アルバムっていいですよね)。
 そしてこのアルバム、併録曲がまた実にツボを押さえた選曲で...映画でも「ひとりの人間」として強い存在感を放っていた作曲家の妻アルマ、自らツェムリンスキー門下で学んだ作曲家としても知られる彼女のロマン派情緒豊かな作品7編を、マーラー「第10 番」の補筆完成者でもあるイギリスの作曲家兄弟デイヴィッド&コリン・マシューズが実に的確なオーケストレーションで(管楽器の重なり具合とか、知らないで聴いたら晩期ロマン派そのもの...さすがです)管弦楽伴奏版にしてくれたヴァージョンが、この音楽祭で堂々、使われているのです(余談ながら、弟コリンは例のホルスト『惑星』の「冥王星」を仕上げた人物でもあります)。
 馥郁たるロマン情緒、中欧人による中欧人へ向けられた「本場」の滋味深さ——「わたしは三重の意味で根無し草なのです、オーストリア帝国内では“チェコ生まれ”扱い、ドイツ語圏では“オーストリア人”扱い、そして世界のどこでも“ユダヤ人”扱い...」と語ったというマーラーの言葉も改めて忍ばれる、チェコなればこその本格派マーラー、じっくり聴き深めたいものです!

ARCO DIVA


JBR-010
(国内盤)
\2940
ソナタとジャズ
 〜サクソフォンのための20 世紀アメリカ音楽、三つのソナタ〜

  ビル・ダビンズ
   1. ソプラノ・サクソフォンとピアノのためのソナタ
  ラモン・リッカー
   2. ジャズ・ソナタ 〜アルト・サクソフォンとピアノのためのフィル・ウッズ
   3. アルト・サクソフォンとピアノのためのソナタ
パヴェウ・グスナル(ソプラノ&アルト・サクソフォン)
トマシュ・フィリプチャク
 ワルツも、オペレッタも、クラシックになった。タンゴとも相性がいい、そしてジャズは今...?
 正々堂々「クラシック」と呼べる世界で、本物のジャズはどう居場所を広げてきたのか。コープランドやバーンスタインのそばで脈々と育った伝統を、本物の名手が見つけてきました。
 「クラシック」の世界に取り込まれて、いつのまにか不可欠な要素になっていった「もと・非クラシック」の要素って、思いのほかたくさんありますよね。すぐ思いつくのは、ワルツやオペレッタ——どちらも大衆文化だったはずなのに、今ではクラシックの演奏家・歌手たちが幾年月をかけてじっくり取り組み、下手だと批評家からダメ出しもあるくらいの存在に。シューベルトの歌曲だって当初は大衆芸能扱いでしたが、今では音楽院もコンクールも超・重視するジャンル。モーツァルトの木管合奏、サン=サーンスの初期映画音楽、プレイフォードの舞曲集...みんな「芸術音楽」ではなかったのに、いつのまにか芸術音楽扱いされている。それだけ深めるに足る要素があって、長い歴史のあいだに培われたソナタ形式や管弦楽法とも相性がいいとわかってきたせいでしょうか(そういえば、古典派ソナタの重要な構成要素であるメヌエットだって、もとは社交のためのダンス音楽だったわけで)。最近ではピアソラの活躍を介して、しだいにタンゴもクラシックの範疇に取り込まれつつありますが、それを言うならもっと“伝統”が長いのが、クラシックの世界にジャズの要素を取り込もうとする動き。
 ラヴェルやストラヴィンスキーたちの世代がジャズから多大な影響を受けていたことはいうまでもありませんが、その「本場」であるアメリカの作曲家たちにとって、ジャズは異世界でも新要素でもなんでもなく、いわば「当たり前にそこにある」日常的な存在。音楽院で教わるようなハイ・クラシックの作法に、彼らは難なくジャズ的要素をかけあわせてみせるのです。
 で、今なぜわざわざそんな音楽を聴かなくてはならないかというと、ほかでもない、サックスという表現能力あふれる楽器をフルスペックで使いこなせるのは、やっぱりジャズを肌で知っている人たちだから...!
 ここに収められた3曲のサックス・ソナタは、すべてアメリカのジャズ界で活躍してきた作曲家たち(よく見れば正真正銘のジャズ界の大物サックス奏者、フィル・ウッズが混じっていたり...)が、真正面からクラシックの作法と向き合ってできた、いわば“ピアソラのクラシック楽曲”のアメリカ版——ソプラノとアルト、そのしなやかな音色がいちばん映えるフレーズを次々と紡ぎ出すセンスは、クラシック系の作曲家とは少し違う、ジャズの世界で無限の即興演奏を経験してこそ、の明らかな天性の勘を感じさせてやみません。
 下品にならない、絶妙のラインで耳をくすぐるフレーズの快楽——それらの曲の魅力を見出したのが、直感的な音楽性にすぐれた才人の多い“外国”ポーランドの俊才ふたりというのが、ある意味象徴的だと思います。
 外からだからこそ、よく見える真相...サックスの中高音域の魅力をしみじみ感じさせてくれる、管楽器好きにはぜひおすすめしたい1枚です!

ARCO DIVA


UP0127
(国内盤)
\2940
「ショスタコーヴィチ最後の作品」世界初録音
 冷戦に埋もれた思わぬ音源が正規発売へ!

  チェコのヴィオラ、三つの世紀
    〜メンデルスゾーン、ショスタコーヴィチ、グラズノフ〜

  メンデルスゾーン(1809〜1847):
   1. ヴィオラとピアノのためのソナタ ハ短調 (KF)
  ショスタコーヴィチ(1906〜1975):
   2. ヴィオラとピアノのためのソナタ 作品147 (LM)
  グラズノフ(1865〜1936):
   3. ヴィオラとピアノのためのソナタ ハ短調 (JH)
カレル・シュペリナ(ヴィオラ)
カレル・フリエスルKF、
リディエ・マイリンゴヴァLM、
ヨセフ・ハーラJH(p)
 ヨーロッパ随一の芸術大国チェコはソ連当局の鶴の一声でいろいろ理不尽なこともあったようで、今回ここに登場する歴史的名演は、そんな時代ならではの埋もれ方をしていた重要な音源です。
 ご存知のとおり、20 世紀最大の作曲家のひとりショスタコーヴィチ(1906〜1975)は長年にわたって室内楽作品を書き続け、とくに名団体ベートーヴェン四重奏団が彼の弦楽四重奏曲の多くを初演してきたわけですが、このカルテットのヴィオラ奏者ドルージニンのために晩年の作曲家が病床で仕上げた『ヴィオラとピアノのためのソナタ』作品147 こそ、この大家が生涯最後に残した完成作。
 その比類ない美しさに魅せられたチェコの若き俊才ヴィオラ奏者が、チェコ放送のプログラムのためにこの作品を録音したのが1976年3月9日・・・その後、作品の被献呈者であるドルージニン自らソ連のMelodiya レーベルで発表したのが本作の世界初音源ということになっていましたが、本盤の解説に曰く、どうやらチェコ放送で録音された音源の方が、収録日付ではドルージニンの録音より先だったらしいのです!
 しかもこの音源、制作当初は「嘆かわしいことに、他の諸々の困難にさらされ」(解説書(全訳添付)の表現)お蔵入りになっていたのですが、当のヴィオラ奏者の門弟が近年、このソナタに関する論文を執筆しようとしたさい、この録音が同作の世界初録音だったことを突き止め、35 年ぶりに日の目を見ることになったというわけです。
 そう、本盤は他の収録作品も含め、すべてチェコ放送およびチェコ東部プルゼニュ放送の音源保管庫から発掘された、古きよき20 世紀後半の「幻の音源」なのです!
 音質的には何ら新録音に遜色なく(当初歴史的音源だったとは気づかなかったほど)、精妙かつ温もりあふれる解釈はけだし絶妙。音源の存在意義を噛みしめながら聴けば、ヴィオラという楽器の滋味深い中音の美がひとしお心に沁みる思い。なにしろその「若き俊才」とは、その後30 年にわたりチェコ・フィルで活躍、その首席奏者として、またソリストとして申しぶんないキャリアを重ねてきた巨匠、カレル・シュペリナだったのですから!
 ピアニスト勢もチェコ随一の巨匠ばかり(ショスタコーヴィチ録音ではシベリア出身のチェコの名手マイリンゴヴァが活躍)、メンデルスゾーン初期の端正なソナタやグラズノフの優美な一編も、こんな名演で録音してくれたことが嬉しい稀少音源です。

ARS MUSICI


AMCD232-158
(国内盤・訳詞付)
\2940
ドヴォルザーク(1841〜1904):
 1) アヴェ・マリア op.19b
 2) 聖三位一体の祝日に捧ぐ讃歌
 3) めでたし、海の星op.19b
 4) いとも聖なる、信心深くやさしき処女マリアop.19a
 5) ミサ曲 ニ長調 op.86(初稿版)
ヴォルフガング・シャフナー指揮
フランクフルト・カントライ
エドガー・クラップ(org)
ドロテア・レーシュマン(S)
インゲボルク・ダンツ(A)
クリスティアン・エルスナー(T)
ヨハンネス・マンノフ(Br)
 忘れてはならない——否、忘れていてはもったいない“ドヴォルザークの歌心”。その原点を美しく伝えるのは、素朴な信心深さが玄妙な美へと結実した合唱曲、そして思わぬオルガン伴奏の傑作歌曲。
 大作曲家の隠れた魅力、みごと伝えます。

 かつてBMG 傘下にあったDHM(ドイツ・ハルモニア・ムンディ)の母体だったフライブルク・ムジークフォールムが、大規模セールス優先のビジネスではたどり着き得ない丁寧さで、その音楽的良心と筋の通った音楽学センスを発揮し続けてきたプライヴェート・ブランド、ARS MUSICI。
 ルネサンス・バロックの知られざる名品をサヴァール&エスぺリオンXX、デュファイ・アンサンブル、フラウタンド・ケルンといったDHM と通じる超一流古楽バンドと録音、さらにアルテミス四重奏団、フォーレ四重奏団、イーゴル・カーメンツ(p)などドイツ楽壇の21 世紀を担うスーパープレイヤーたちを積極的に紹介しながら、このレーベルでしか聴けない魅力あふれるレパートリーを次々と開拓してきました。
 音楽学にすぐれた主催団体の常として、彼らが大事にしてきたのが「声楽曲」。なかんずく合唱ものの充実度は目を見張らされるものがあり、とりわけ超絶的プロ集団レーゲンスブルク大聖堂少年合唱団やアウクスブルク、ハノーファーなどの聖歌隊による充実した録音群には、ルネサンスの傑作ポリフォニー・ミサからロマン派・近代のオーケストラ付大作にいたるまで、思わぬ隠れた名演がいくつも潜んでいたりします。
 本盤もまさにそんな知られざる傑作盤のひとつ——
 それは管弦楽を伴う大作や室内楽でばかり注目されているチェコ随一の巨匠ドヴォルザークの、見過ごされがちながら一度知ったら忘れられない魅力の一端をあざやかに浮き彫りにした名演なのです。
 メイン曲目はドヴォルザークがイギリスをはじめ諸外国でも絶大な人気を獲得しはじめ、交響曲・協奏曲などのかたわら「スターバト・マーテル」や「幽霊の花嫁」などの傑作合唱曲を次々と生み出していた1880 年代の『ミサ曲 ニ長調』。無数の大作の合間にじっくり作り込まれたこの本格的ミサ曲は、伴奏をオルガンだけに絞ったストイックな編成で、合唱芸術の粋をどこまでも追及した巨匠後期の隠れ重要作...かなりの人気作にもかかわらず国内盤は皆無。
 で、このアルバムはさらにうれしいことに、同様の状況に甘んじている瑞々しいオルガン伴奏付歌曲まで収録。ソリストたちは単独でも歌曲盤多数の名歌手エルスナーをはじめ実力派ぞろい、オルガンはクーべリック、リヒターなどミュンヘンの大御所たちの信頼も厚い大物E.クラップ、そして合唱は戦後のバッハ復興の大立者クルト・トーマスがドイツ敗戦直後に結成したフランクフルト・カントライぱリリング、アルノンクール、パロット...と折々の大御所たちと培ってきた精緻なアンサンブルと力強いメリハリが、これらの傑作の美を幾倍にも増幅させてくれます。
 後期ドヴォルザークを知るうえで欠かせない1枚!

CONCERTO


CNT2060
(国内盤)
\2940
レスピーギ:ドリア旋法による弦楽四重奏曲、
 ヴァイオリンとピアノのためのソナタ、六つの小品
 オットリーノ・レスピーギ(1879〜1936)
  1) ドリア旋法による弦楽四重奏曲(1924)
  2) ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番 ロ短調(1917)
  3) 六つの小品(1901〜1905)
ミラノ・スカラ座四重奏団
フランチェスコ・マナラ(第1vn・vn独奏)
ピエランジェロ・ネグリ(第2vn)
シモニーデ・ブラコーニ(va)
マッシモ・ポリドーリ(vc)
クラウディオ・ヴォーゲラ(ピアノ)
 「ローマ三部作」だけじゃない——イタリア近代の超・大物の至芸は、室内楽にあり。
 あまりに艶やかな後期ロマン派情緒、マルティヌーやプーランクばりの新古典主義センス、その真髄を過不足なく、しかも極上の仕上がりで聴かせられるのは、イタリアの名手だけ。

 『ローマ三部作』があまりにも有名なレスピーギ、『リュートのための古風な舞曲集』でさらにその名声に拍車をかけるレスピーギ——オペラ一辺倒だったイタリアでも19世紀末頃から器楽芸術がひそかなブームになり、その後爆発的な盛り上がりをみせたのが1920年前後のことだったとすれば、その最もおいしいところをさらっていったのが“イタリア1880年の世代”と呼ばれる一連の作曲家たち。
 ピッツェッティ、マリピエーロ、カゼッラなども忘れがたい傑作を残しているとはいえ、飛びぬけて注目度が高いのはやはりレスピーギでしょう。
 イタリアきっての知的芸術の牙城である大学都市ボローニャで学んだレスピーギが、聖チェチーリア音楽院の作曲科で教鞭をとるべく首都ローマに移ってきたのが1913 年。有名な三部作の第1 作「ローマの噴水」はその4年後に書かれ、第2作「ローマの松」が大きな成功を収めるのが1925 年——しかし、彼は当時むしろバロックやルネサンス以前の音楽に詳しい新古典主義者として知られていたほか(有名な『リュートのための古風な舞曲集』はご存じのとおり、ルネサンス作品を現代楽器の合奏でも弾けるようにした作品です)、自身ボローニャ時代にはヴァイオリニストとして研鑽を積み、ローマに来てからもピアニストとして公に演奏することもあったほど...
 そんな彼が、古い時代の語法をあざやかに取り入れながら、世紀転換期の瀟洒なサロン文化らしい美質を漂わせた小品から大掛かりなソナタまで、さまざまな室内楽曲の名品を残していることは、いったいどのくらい知られているのでしょうか。CD シーンには散発的に気の利いたレスピーギ室内楽盤も出てはきますが、ここにご紹介するのは、そうした企画としてはこれ以上ないほど贅沢に充実した新譜。
 ミラノ・スカラ座の名奏者たちが集うスカラ座四重奏団と、同じくイタリアの俊才ピアニストが「最初期の小品」「中期の大規模充実作」「作風確立期の注目作」と、三つの作品を通じてレスピーギ室内楽のうまみを多角的に味あわせてくれる逸品ぱ なにしろ歌心にかけては並ぶ者のいないイタリア人、とりわけスカラ座の名手マナラがソロを弾くソナタと「六つの小品」では、ブゾーニもかくやという濃密・壮大なネオ=バッハ様式を少しも胃もたれすることなく味あわせるセンスの良さ、小品それぞれの個性を明敏に際立たせる様式感で、あざやかな室内楽世界を味あわせてくれます。
 「ドリア旋法による四重奏曲」は名前こそ難渋そうですが、その響きはフォーレ後期やプッチーニの「菊」にも通じるような、グレゴリオ聖歌風の美しい流れとロマンティックな優雅さが相半ばする、誰しも魅了されずにおれない味わい深さ。
 本場の一流が聴かせる、極上のイタリア室内楽がここにあります!

CYPRES


MCYP1620
(国内盤)
\2940
ロジステル:弦楽四重奏曲 第2番・第6番
 〜イザイと同じ時代を生きた、ベルギーのヴィオラ芸術家〜
ジャン・ロジステル(1879〜1964)
 1) 弦楽四重奏曲第2番ハ短調(1928)
 2) 弦楽四重奏曲第6番ヘ短調(1914)
ゴン四重奏団
ハンシャン・ゴン(第1ヴァイオリン)
インライ・チェン(第2ヴァイオリン)
ジャン=クリストフ・ミハルレク(ヴィオラ)
マルティン・ヘセルベイン(チェロ)
 芸術大国ベルギーの20世紀といえば、画家マグリットやアンソル、タンタンの冒険、演奏家ではヴァイオリニストのイザイとプロ・アルテ四重奏団...しかし、作曲家も多士済々なのです!
 艶やかな浮遊感と堅固な曲調。ロジステルの四重奏曲は、フランス音楽好きにおすすめ!

 ベルギーは、言わずと知れた音楽大国。昨今ではS.クイケンのラ・プティット・バンドやフィリップ・ヘレヴェッヘといった古楽勢の大物が多いですが、ちょっと振り返っただけでも異才指揮者アンドレ・ヴァンデルノートや巨匠アンドレ・クリュイタンス(←ベルギー人です)、ヴァイオリンの巨匠イザイにプロ・アルテ四重奏団…と、歴史的音源ファン垂涎の偉人たちが続々!そう、20 世紀前半から中盤にかけてのこの国の楽壇の充実度には目をみはるものがあるのです。
 考えてみれば、当時ベルギーは「これはパイプではない」の画家ルネ・マグリットや19 世紀末から愉快な骸骨風俗画ばかり描いたアンソル、妖艶で静謐な女性の絵を描くシュールレアリスムの大家デルヴォー...など美術方面では世界的な大家を続々輩出していた頃で、19 世紀末以来の文化充実度がそのまま継続していた状態。では作曲家は? 大局的に見ると、マーラー、ベルク、ラヴェル、フランス六人組、エルガー、ヒンデミット、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、バルトーク、ヤナーチェク...と諸外国では多士済々なのに、なぜか飛びぬけてベルギー人だけがいない印象。
 実は、これにはからくりがあるのです。ベルギーは19 世紀前半の国家独立から先進的な文化に敏感でありつづけ、だからこそ19 世紀末以降の芸術的盛り上がりも体現したわけですが、その後1950 年代以降の現代音楽シーンが「斬新さのないものは存在する意味がない」くらいの勢いで突飛な音ばかりを求め続け、美よりも新しさを絶賛し続けた結果、後期ロマン派〜近代の経験が集積された「ほんとうに美しい音楽」を書いた20 世紀初頭の作曲家たちが黙殺されつづけ、不当に忘却へと追いやられた。それが、「ベルギー20 世紀前半の見せかけ上の不毛時代」の正体なのです。
 やっと近年、この時代の巨匠ジョゼフ・ジョンゲン(1873〜1953)はようやく復権を果たし始めたようですが、上記のような事情で忘れ去られた聴くべき名曲の書き手は、まだまだ多い・・・そのあたりをまざまざと印象づけてくれるのが、フランス語圏側のベルギーで活発なリリースを続けているCypres、FugaLibera、Musique en Wallonie などのレーベルです。
 すでに一連のジョンゲン・シリーズで日本の近代音楽ファンにもそうした実績を印象づけてきたCypres は、昔からベルギー近代巨匠の掘り起こしに熱心なレーベルですが(近日、さらなる最新新譜2タイトルもご案内します!)ここに国内初登場となる弦楽四重奏曲2曲は、わずか21 歳でブリュッセル音楽院の教授に就任、世界的なヴィオラ奏者として活躍するかたわら作曲もこなしたジャン・ロジステルという作曲家のものなのですが、これが、実に素晴しい!ミヨー初期やラヴェル後期をもうすこしロマン派寄りにしたような、あるいはヒンデミットやマルティヌーのアクをハーブとワインの力で旨味に変え、ひたすら洗練して高雅にしたような、スタイリッシュでありながら玄妙、斬新さよりもむしろ匂い立つ薫り高さで心をとらえる、いずれ劣らぬ充実作2曲なのです。
 比類ない弦の美質といい、軽やかに交錯する対位法的パッセージの浮遊感といい、「印象主義前後のフランス近代」がお好きな方には無条件でお勧め!ベルギーの俊英団体による霊妙高雅な音作りも実に頼もしいところです。もちろん解説全訳付。

MCYP1660
(国内盤・訳詞付)
\2940
ハイドン、18世紀末、ピアノと女性
 〜ピアノのための傑作群とカンタータ「ナクソス島のアリアンナ」〜
ヨーゼフ・ハイドン(1732〜1809)
 1) ピアノ・ソナタ 変ホ長調 Hob.XVI: 49
 2) 幻想曲または奇想曲 ハ長調 Hob.XVII: 4
 3) ピアノ・ソナタ ハ長調 Hob.XVI: 48
 4) カンタータ「ナクソス島のアリアンナ」Hob.XXVIIb-2
 5) アンダンテと変奏 ヘ短調 Hob.XVII: 6
リュカス・ブロンデール(ピアノ)
リースベト・ドフォス(ソプラノ)
 ハイドン晩年の新境地を切り開いたのは、実はある女性の存在だった。
 12曲のロンドン交響曲や四重奏曲集op.64 などの傑作のかたわら、深められていった音楽好き垂涎のピアノ作品群と、傑作カンタータ。ベルギー俊英勢の確かな腕が光ります。

 かつて異才グレン・グールドは、とある対話集のなかで「最近、深夜にひとりで弾くのはハイドンの曲が多いんだ。面白くてたまらない——モーツァルトよりもね」といったことを語っていますが、ハイドンのピアノ曲、それも後期のソナタなどの奥深さを知っている方なら、このコメントには大いに頷かされることでしょう。またハイドンの音楽をよく聴かれる方(歿後200 年の2009 年以降、じわっと増えた気配が...「じっくり聴きたい」方も多いCD ユーザー層ほど、その傾向があるのでしょうか?)なら、この作曲家の作風が1790 年代からさらなる変転をくりかえし、とりわけソナタや三重奏曲などピアノを使う分野では、ある意味モーツァルトでさえたどりつかなかったユニークな境地を切り開いていったことも、よく御存じでしょう。
 この頃のハイドンに、何があったのか——伝記をひもとけば、突如として舞い込んだ依頼に応じ、還暦近くになって生涯初の外国旅行をしたこと(ロンドン行き...つまり、一連のロンドン交響曲の初演立ち会いのため)と並んで、もうひとつ必ずといっていいほど言及される事実があります。
 マリアンネ・フォン・ゲンツィンガー夫人との出会いです。
 ゲンツィンガー夫人はハイドンの主君だったエステルハージ侯の侍従医の妻で、その後主君の死とともに侯爵家を離れた作曲家のもとに、彼の交響曲の一部をピアノ編曲した楽譜をみてもらおうと彼女が楽譜を送り、その編曲手腕の素晴らしさにハイドンが驚いたのがきかっけで、ふたりは友愛を育みはじめます。夫人がハイドンを芸術家として尊敬していた一方、長いあいだ不幸な結婚生活に苦しめられてきたハイドンの方は、ひそかな情熱を心の奥に秘めつづけていたようです。不運にして夫人は1793 年に亡くなりますが、彼女が最初の手紙をハイドンに送った1789 年からこの年にかけ、彼がピアノのために書いた音楽でもとりわけ注目すべき傑作がいくつか集中的に書かれていることは、特筆されてしかるべき事実ではないでしょうか。
 ゲンツィンガー夫人のピアノ譜の出来栄えが、ハイドンにピアノ音楽への興味をかきたてた、その返礼として夫人に献呈された有名なソナタ49 番に始まり、献呈こそ彼女宛てにはなっていないものの、1793 年作ということで多くの研究者が彼女を喪った悲しみと結び付けてきた「アンダンテと変奏」まで・・・。卓越した現代ピアノ演奏でハイドン晩期作の魅力をたっぷり味あわせてくれるのは、古楽大国ベルギーの俊英リュカス・ブロンデール。普段はむしろフォルテピアノ演奏ですぐれた技量を発揮している彼が、あえて現代ピアノでこのアルバムを制作したことの意義は、過不足なく作品の美質と楽器の豊饒さをむすびつけてみせた本盤の演奏で明らかになることでしょう。
 「ナクソス島のアリアンナ」は、棄てられた女性の呆然とした悲しみが怒りへと変わってゆくさまを、あでやかな旋律美と精緻なピアノ書法で緻密に描き上げた超・充実作(訳詩付)——ブロンデールとの共演も多いという俊才ドフォスの濃淡鮮やかな歌が、緩急あざやか・細部まで精妙なピアニズムと絶妙に絡みます!

FOK(プラハ交響楽団自主制作)


FOK0003
(国内盤)
\2940
コダーイ、モーツァルト、ベートーヴェン
 〜チェコ・オーケストラ芸術の深き伝統〜

 コダーイ(1882〜1963):
  1. ガランタ舞曲
 モーツァルト(1756〜91):
  2. クラリネット協奏曲 イ長調 KV622
 ベートーヴェン(1770〜1827):
  3. 交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
イジー・コウト指揮
プラハ交響楽団(FOK)
ヤン・マフ(クラリネット)
FOK 0003-2
\2300
紹介済みの輸入盤
 もはや言うまでもない、老舗団体プラハ交響楽団の緻密にして滋味あふれる音楽性。
 しかし自主レーベル第3弾は、引き締まった音作りが痛快な「ガランタ舞曲」や充実堅固なベートーヴェンもさることながら、とびきりの名演は...クラリネット協奏曲!!

 音楽芸術のすぐれた伝統を誇る中欧随一の文化大国、チェコ屈指のオーケストラの一つプラハ交響楽団の自主制作第3 弾は、18 世紀・19 世紀・20 世紀からそれぞれ「通好み」(?)な選曲で集めてきたバランスの良いプログラムが魅力...どうです、まるで本場プラハで行われている定期演奏会をそのまま追体験させてもらえるような演目ではありませんか!
 「前プロ」、つまり1曲目には隣国ハンガリーを代表する傑作といっても過言ではない象徴的名品「ガランタ舞曲」——めくるめくオーケストラ・サウンドを引き締まった解釈にまとめあげ、のっけから心そそる幕開けに。
 大トリはほかでもないベートーヴェン、それも「第8」なんですが、ドイツでのキャリアの方が長いくらいの名匠イジー・コウトがこの楽団とつくりあげた解釈像は、どちらかというと室内管弦楽団的な堅固な音づくりで攻めるのかと思いきや、実に頼もしいスケール感...じっくり練り上げた精緻さもあるのに、楽員の意気ゆえか指揮者の注ぐ気合ゆえか、どんどん曲が大きく感じられてくるのが頼もしいところ。聴いていてわくわくするベートーヴェン解釈だと思います(真打ちの位置に置かれているのも大きいのでしょう...こういうの、実にコンサートらしい盛り上がり方だなあと)。
 しかし本盤で正直いちばん強く驚かされるのは「中プロ」、つまり2曲目の位置にあるモーツァルトのクラリネット協奏曲ではないでしょうか? 独奏者ヤン・マフは1990 年代からミュンヘンARD コンクールに入賞するなど好成績を...というからまだ若手といって差し支えない人で、プラハ交響楽団のメンバーでもあるわけですが、オーケストラ・指揮者と阿吽の呼吸で織り上げてゆくこの傑作の解釈が、ほんとうに息をのむほど素晴らしい——欲しいところで欲しい音、という演奏はともすればつまらなくもなってしまうのでしょうが、これはその予定調和が桁外れのセンスでくりひろげられ、モーツァルト最晩年の枯淡の境地というのが本当にしみじみ感じられる、絶美の名演に仕上げられているのです(そういえば、プラハはこの作曲家が最も愛した町のひとつでもありましたね)。
 正直、今でも支持者の多いプリンツ&ベームの至高の名演にさえ追い迫るのでは?というほどの仕上がりではないでしょうか...何度も聴き確かめたくなる、本当にしみじみ良いモーツァルト解釈でございます。
 ドイツものでも中欧国民楽派ものでもその持ち味を十全に生かしきってみせる、老舗楽団の「いま」が理想的な形で結実した1枚。

FUGA LIBERA


MFUG584
(国内盤・2枚組)
\4515
シューベルト:ピアノ三重奏編成のための作品集
 〜ピアノ三重奏曲第1・2番、アルペジョーネ・ソナタ、幻想曲〜

フランツ・シューベルト(1797〜1827)
 ①ピアノ三重奏曲第1 番 変ロ長調 op.99/D898
 ②ピアノ三重奏曲第1 番 変ホ長調 op.100/D929
 ③アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D821
  〜アルペジョーネ(チェロ)とピアノのための
 ④幻想曲 ハ長調 op.posth.159/D934
  〜ヴァイオリンとピアノのための
トリオ・ダリ
 クリスティアン=ピエール・ラ・マルカ(vc)
 ヴィネタ・サレイカ(vn)
 アマンディーヌ・サヴァリ(p)
 シューベルト晩年の、あの創意にみちた輝きを、これほど痛烈に、深々と描き出せるのはトリオ・ダリだけ。
 晩年になってからの仕事が、それまでの創作活動を覆すほどの充実度をみせた大作曲家はたくさんいますが(ヤナーチェク、ブルックナー、ラモー...)そのなかでもとくに晩期の充実度が高い人として、シューベルトの名を出さないわけにはいかないでしょう。齢31 で亡くなった早世の作曲家でありながら、最後の2年間には規模・内容ともけたはずれの傑作がいくつも居並んでいます。弦楽五重奏曲、ハ長調の大ミサ曲、『冬の旅』(次項参照)と『白鳥の歌』、ヴァイオリンとピアノのための幻想曲、そして2曲のピアノ三重奏曲...いずれ劣らぬ名曲だけに、すでに名盤が多いものも少なくありませんが、数年ごとに聴くべき名演が登場してしまうことこそ、名曲の名曲たるゆえん。しかし本盤の充実度はその作品内容と同じくらいけたはずれと言っても過言ではないかもしれません。
 トリオ・ダリ。
 2008 年、世界的な室内楽の巨匠演奏家たちが審査員に居並ぶ大阪室内楽コンクールで優勝を果たして以来、ベルギーFuga Libera レーベルで録音されたデビュー・アルバムはDiapason、Classica、Scherzo などヨーロッパの名だたる批評誌が軒並み最高点をつけ、さながらヴァイオリニストのネマーニャ・ラドゥロヴィチやピアニストのフレデリク・ヌーブルジェらにも比する快進撃をみせているフランス新世代のピアノ・トリオ。
 ヴァイオリンのヴィネタ・サレイカは独奏者としても先日ヴュータンの協奏曲全集(MFUG575)で活躍をみせてくれましたが、なにしろ3人が3人ともソリスト格の風格というか、最初の旬ともいうべき上昇機運に乗っているのか、彼らが録音してきた音盤群はどれも演奏が始まった瞬間に「格が違う」と襟元を正させる、飛びぬけた才能を感じさせずにはおかないものばかり。若手ならではのツキというのとは全然違う、すでに熟練の室内楽集団のようなアンサンブル。隅々までおろそかにしない作品解釈の確かさは、このFuga Libera2作目となるシューベルト晩期作品集でも最高の結実をみせてくれました。
 それぞれ演奏時間40 分を超える、シューマンも絶賛した2曲のピアノ三重奏曲でみせる、阿吽の呼吸、熾烈なパッション、全体をみごとに統率してみせる周到な構築性——さらにヴァイオリニストとチェリストがそれぞれソロで立ちまわり、ピアニストとの二重奏でその持ち味をじっくり味わえる『アルペジョーネ・ソナタ』と『幻想曲 ハ長調』の、今にも切れてしまいそうで決して切れない、痛切な哀調。1823年作のアルペジョーネ・ソナタを除けば(充分「後期作」ですが)、すべてシューベルト最後の傑作群で占められたこの2枚組も、ヨーロッパでリリースされるや、点の厳しいフランス語圏の批評各誌でレビュー賞を総なめに。いま知るべき名演。ご注目を。


トリオ・ダリのアルバム

MFUG547
(国内盤)
\2940
ラヴェル(1875〜1943):
 1. ピアノ三重奏曲
 2. ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
 3. ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
トリオ・ダリ
クリスティアン=ピエール・ラ・マルカ(vc)
ヴィネタ・サレイカ(vn)
アマンディーヌ・サヴァリ(p)
「これぞ完璧なトリオ」(メナヘム・プレスラー(ボザール・トリオ)談)...いやまさにその通り!曲構造をしっかと踏まえ、響きわたる絶妙・精妙な音楽美!!2008 年の大阪国際室内楽コン優勝はダテじゃない、飛びぬけた才人たちの傑作録音!

トリオ・ダリの演奏は、ノンヴィブラート精妙系、冒頭いきなり違いを感じさせる、今までになかった「21 世紀のラヴェル像」を打ち出しにかかる飛びぬけぶり!若手的な気負いはまるでなし、肩の力の抜けた、只者ではない落ち着きっぷり——「風格」と呼んでも差し支えないでしょう——で、曲構造を完璧に見据えながら、各パートの自発性たっぷりに弾き進めてゆくスタイルは、ピエール・ブーレーズの指揮にも通じるような透明感が。
そのじつ、全員すごくインテンスな熱情を奥に秘めているようで、それが室内楽全体の響きとなってクライマックスを盛り上げるのです! ピアノなしの、批評家アンドレ・マルローが「ラヴェル屈指の傑作」と褒めたたえたヴァイオリンとチェロのためのソナタでも、きわめて洗練された唐草模様のように「戦わずして精緻に絡み合う」といった感じの絶妙アンサンブルがたまりません!霊妙なヴァイオリン・ソナタ含め、精妙路線で作品像をさらりと一新してくれる、不思議な名演…!

GRAMOLA


GRML98898
(国内盤)
\2940
少年ハイドンは、ハインブルクを後にして...
 〜ウィーン古典派音楽の育ち方〜

  ヨハン・ゲオルク・アルブレヒツベルガー(1736〜1809):
   ①前奏曲とフーガ ハ長調 作品6-1*
  ヨーゼフ・ハイドン(1732〜1809):
   ②ごきげんよう、天の皇后(サルヴェ・レジーナ)Hob.XXIIIb-2
   ③音楽時計のための三つの小品Hob.XIX-12〜14*
  ヨハン・ヨーゼフ・フックス(1660〜1741)
   ④第6ソナタ K366*
  ミヒャエル・ハイドン(1737〜1806):
   ⑤第五旋法によるマニフィカト(わたしの魂は主をあがめ)MH176
   ⑥ああイエス、その慈悲なる膝に MH131
  ヨハン・ゲオルク・ロイター(1708〜1772):
   ⑦オルガン協奏曲 ヘ長調 ( * はオルガン独奏)
アントン・ホルツァプフェル(ポジティヴ・オルガン)
フローリアン・ヴィーニンガー指揮
Ens.ドルチェ・リゾナンツァ(古楽器使用)
 ベートーヴェンやブルックナーなど後代の巨匠たちもそうですが、「音楽大国」であるところのオーストリアの音楽史を支えてきた作曲家の大半が、実は教会音楽をベースに作曲の勉強をしていた...というのは示唆的な話だと思います。なにしろ、その昔は音楽教育どころか義務教育もなかったわけで、子供に学をつけようと思ったら教会付属の学校に通わせることになったわけですし、ましてや音楽院などという贅沢な制度が成立する前までは、音楽で身を立てるというのはある意味ひとつの職人仕事、その勉強をするには地元教会の聖歌隊に連なって歌を覚え、ごく数人の楽師からなる奏楽隊でヴァイオリンやオルガンの弾き方を学び...といったルートが最も一般的だったわけです。
 「交響曲の父」パパ・ハイドンもまた、その一人——ローラウという片田舎で馬車の車輪を作っていた職人だったハイドンの父は、息子に音楽の才能があると見るや、ハインブルクという小都市で聖歌隊監督をしていた親類に息子を預け、その才能を伸ばしてもらおうと考えたのでした。結果、これが功を奏することとなり、父の親類のもとでハイドンはめきめき頭角を現し、美しいボーイソプラノの声はたまたまハインブルクを訪れたウィーン聖シュテファン大聖堂の楽長、ゲオルク・ロイターに見いだされ、彼は晴れて大都市ウィーンで勉強できるようになったのでした。
 やがて変声期が訪れ、弟ミヒャエル(彼もまた、のちに宗教音楽の大家になりました)が聖シュテファン大聖堂聖歌隊に入ってくると、歌手として居場所がなくなってロイターのもとを追い出されてしまうのですが、その後なんとか自活してチャンスを掴んでゆくことができたのも、聖歌隊歌手として大都市ウィーンに来れていればこそ、そして教会でオルガンやヴァイオリンの弾き方を学んでいればこそ、のことだったわけです。
 そんなハイドン青少年期の、古典派前夜のオーストリアの音楽環境をありありと、絶妙の巧みな古楽器演奏で再現してくれるのが、ウィーンの中心に拠点を構えるGramola レーベルからのこの新譜!
 ハイドンを育てたハインブルクの教会での録音で、足鍵盤を使わない簡素なオルガン演奏、18 世紀当時のオーストリア特有の「各パートひとり、チェロなしコントラバスあり」(!)の弦楽器編成からなる器楽隊は、純粋に上手すぎることを除けば、何もかも18世紀流儀そのまま! 素朴な長調音階をベースに、合唱曲も1パートひとり、独唱を際立たせたハイドン初期の教会音楽、弟ミヒャエルの秀逸なアリア、さらには「対位法芸術の宝庫オーストリア」を印象づける新旧巨匠のオルガン曲(ハイドンが作曲を学んだ教科書の作者フックスのソナタと、ベートーヴェンの先生になったアルブレヒツベルガーの貴重な擬古的作品!)を交え、ハイドンの出世を促した上述のロイターの協奏曲まで聴けるのですから、その後古典派からロマン派へと至るオーストリア音楽のルーツを知る上ではもう必聴!
 充実解説(全訳付)も必見ですが、何よりロイターの曲をはじめ、全音階的なやさしい前古典派サウンドが絶妙...天上的な弦音を静かに支える古楽器コントラバスの穏やかな低音も、手鍵盤だけのオルガンのかわいい音も、実に癒されます。

MELOPHONE


MEPH005
(国内盤)
\2940
バッハとハ短調
 〜トリオ・ソナタ連作シリーズ2〜

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
 ①幻想曲とフーガ ト短調 BWV542
 ②最愛の神に統べられし者みな BWV647(シュープラー・コラール集より)
 ③フランス序曲 BWV831a より(ハ短調による初期稿)
 ④トリオ・ソナタ 第2番 ハ短調BWV526
 ⑤パッサカーリャとフーガ ハ短調 BWV582
 ⑥汝を飾れ、おお愛すべき魂BWV654
 ⑦幻想曲とフーガBWV537
国分桃代 (オルガン)
使用楽器:ブクリエ・プロテスタント教会(ストラスブール)のトマ・オルガン
 第1弾は、軽やかに「レコード芸術」特選に。ブリュッセルのフィニステール聖母教会で正規奏者をつとめる国分桃代が、バッハの傑作トリオ・ソナタと調性の秘法を解き明かしてゆく充実企画は、オルガン芸術揺籃の地ストラスブールへぱ選曲も今回は贅沢そのもののです。
 バッハのオルガン曲...といってもあまりに膨大な海のような世界で、なにしろ全曲録音するとなるとCD の枚数が15 枚から20 枚くらいに達するくらいですから、録音する方もさることながら、それと向き合うのも一苦労。きれいな切り口を見つけ出して、すんなりアプローチできるきっかけを作ってくれる企画というのは、何かのきっかけでパイプオルガンの良さに目覚めてバッハを聴いてみようという方にとっても、その面白さをじっくり味わってきた玄人ユーザーの方にとっても有難く、嬉しいものだと思います。
 その意味で絶妙なのが、ベルギーの首都ブリュッセルで、中心街から延びるショッピングストリートに面して静かに聳えるフィニステール聖母教会の正規オルガニストをつとめている国分桃代のトリオ・ソナタ連作シリーズ。歿後いったん忘却の淵に沈みかかったバッハですが、18 世紀後半にかろうじて熱心な愛好者たちのあいだでその偉大さが忘れられずに済んだのは、おもに宗教曲とオルガン音楽・鍵盤楽曲の素晴らしさによってだったわけですが、そのなかでもとくに手鍵盤2段と足鍵盤を駆使し、高音2声+通奏低音という3人分の音楽をオルガニストひとりで弾く「オルガン独奏のためのトリオ・ソナタ」全6曲は、何よりも高く評価されていたもののひとつ。
 この6曲からCD1枚につき1曲ずつを選び、その調性にあわせて他のバッハ作品を選曲、CD1枚ごとに独自の世界観をもった、全6巻からなるユニークなオルガン作品集を次々と録音してゆく...というのがこのシリーズの趣旨。
 バッハをはじめとする18 世紀の作曲家たちは、調性ひとつひとつの個性というものを強く意識して作曲していたそうですが、国分はさらにCD1枚ごと、ヨーロッパ各地の個性的なヒストリカル・タイプのオルガンを選んで使うことに。 昨年末に登場した第1 弾『バッハとホ短調』では、ベルギーのスパという保養地にある現代の名工トマが手がけたオルガンが使われましたが、今度の“舞台”はフランス東部、ドイツ語圏だった時期も長いアルザス地方の主都ストラスブールの楽器。ここはバッハとゆかりの深いオルガン建造家ジルバーマン兄弟も活躍していた場所で、フランス式のオルガン建造理念がドイツ式のそれと坩堝のごとく併存・混在してきた場所でもあります(19 世紀末〜20 世紀初頭のドイツ領時代には、世界的医学者であり偉大なオルガン奏者としても知られたアルベルト・シュヴァイツァーも輩出しました)。
 ハ短調という調性を軸に選曲し、そこから演奏に向かうべきオルガンのイメージを固めていったという演奏者曰く、ハ短調は「ドストエフスキー的なばたばた感」を感じる、とのこと——落ち着かなげで神経症的、自己内面的といった含みだと思うのですが、前作で『レコード芸術』特選に輝いたその頼れる確かな解釈が描き出すのは、きわめて確たる安定した演奏からじんわり伝わってくる、そうした独特の内的興奮。いかにも、曲そのものの味わいをおのずと語らしめている、というのはこういう感じを言うのでは?と感服させられてしまいます。
 今回はさらに、選曲の贅沢さも瞠目もの。主役のトリオ・ソナタに加え、傑作「パッサカーリャ」や幻想曲とフーガ、さらにはチェンバロ独奏曲として知られる「フランス序曲」の思わぬ抜粋まで——全ての収録曲に必然性と説得力をもたせる自然な曲順が、作品美をさらに引き立ててくれる好企画なのです。


国 分 桃 代〜バッハ:トリオ・ソナタ連作シリーズ1〜

MEPH004
(国内盤)
\2940
バッハとホ短調 〜トリオ・ソナタ連作シリーズ1〜
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
  ①前奏曲とフーガ イ短調 BWV543
  ②主なる神、今ぞ天の扉を開きたまえ(イ短調)BWV617
  ③イエスはわが喜び(ホ短調)BWV713
  ④オルガン独奏によるトリオ・ソナタ ホ短調 BWV527
  ⑤前奏曲 ロ短調 BWV869(平均律クラヴィーア曲集第1巻より)
  ⑥イエス・キリスト、我らが救い主(ホ短調)BWV665
  ⑦最愛の神にのみ統べられし者みな(イ短調)BWV642
  ⑧われ心より希わん(ロ短調)BWV727
  ⑨主なる神、汝われを憐れみたまえ(ロ短調)BWV721
  ⑩前奏曲とフーガ ホ短調 BWV548
国 分 桃 代 (オルガン)
使用楽器:サン=ルマクル教会(ベルギー南部スパ)のトマ・オルガン
1小節ごと、1曲ごと聴き進めるうちに、その音楽や楽器の音色に引き込まれてゆく——演奏はしだいに静かに白熱していって、トリオ・ソナタの全体像が現れる頃には、その堂々とした響きが心底心地よくなるほど、聴き手の心も音楽になじみ、演奏者とともに我知らず、さらに音楽に没入してゆく。核となるのは、このソナタのホ短調という調性…他も(みなそこから近い調とはいえ)全て短調の作品なのに、なんと寛いで音楽に浸らせてくれるのでしょう!美食や美術と同じく、ベルギーは音楽でも「何気なく最上質」を送り出してくれるのですね。

SAPHIR


LVC1133
(国内盤・訳詩付)
\2940
知る人ぞ知る『冬の旅』の異色盤 シュトゥッツマン&セーデルグレン
 シューベルト:連作歌曲集『冬の旅』(全曲)
ナターリャ・シュトゥッツマン(コントラルト)
インゲル・セーデルグレン(ピアノ)
 恋に破れた男の心情を濃やかに歌いあげるのは、なんと現代最高のコントラルト(女声)、ナターリャ・シュトゥッツマン。 Calliopeからの移行盤、待望の国内盤流通で復活。
 2010 年から2011 年にかけて、ヨーロッパであまたの名盤を生んできたふたつの重要な小規模レーベルが看板をたたみました。かたやイタリアのSymphonia——この国の古楽界の快進撃を音盤面から支えてきたこのレーベルの音源は、幸いPan Classics やGlossa などの良心的なレーベルが買い取り、それぞれのレーベルポリシーに合致したきめこまかな新装盤となって市場に復活しつつあります。他方、LP時代からアンドレ・ナヴァラやターリヒSQ などの巨匠たちの隠れ名盤をいくつも生み出し、欧州小規模レーベルという魅惑の世界を日本のリスナーたちにも印象づけてきたCalliope レーベルは、いくつかの音源を他レーベルに譲渡しながら、現在は新しいオーナーのもとで復活への準備を着々と進めているところとか。
 そんな折も折、パリ音楽院の名教師たちをはじめとするパリ楽壇の重要筋に顔の利く劇場主が経営するSaphir Productions から、久しくCALLIOPEの輸入盤でしか流通していなかった忘れがたい傑作盤が新装登場します。
 現代屈指の名アルト歌手ナターリャ・シュトゥッツマンによる、恋破れた青年の歌『冬の旅』...。
 シュトゥッツマンという歌い手はいわば、フランスのサンドリーヌ・ピオーやパトリシア・プティボンと並ぶ...いやいやもっと大御所ですね、DG でもおなじみのフォン・オッターや英国のフェリシティ・ロットあたりと同格ぐらいでしょうか、はたまた一時代前のカバリエやベルガンサの存在感に並ぶ人というべきでしょうか。一時期RCA にも多数の録音を残していたり、Hyperion ではヴィヴァルディのカストラートもの教会音楽などで筋の通ったソロも聴かせていますが、いわばカウンターテナーの逆版といいましょうか、オペラでも歌曲リサイタルでも、男性心理の曲や男性役などに好んで取り組み、大きな成果をあげてきた人。本盤の『冬の旅』も、ご存じのとおり若者が異国の地で恋に破れ、冬の夜中にその街を抜け出て寒さのなかを逍遥し、さまざまな心象風景が現実の冬の世界に投影されてゆく...といった内容なのですが、本盤に刻まれているのは、それを何ら無理をしている感じのない、驚くほどナチュラルな語り口で静かにうたいあげてゆく、けれども歌声は低くはあっても確かに女性のそれ...という、本当にひそやかでさりげない革命的解釈なのです(訳詩も添付されていますが、読みながら聴き進めていると、その不思議な魅力がじわじわ心に広がってくるはず…)。
 スウェーデンの隠れ超実力派セーデルグレン(Calliope にはソロ録音の名盤も多々ありましたよね。ベートーヴェンとか…)との息の合った駆け引きも実に巧妙、キャスティングの異例さを差し引いたとしても、その音楽的クオリティは『冬の旅』録音史上にこれからも残りつづけるであろう境地ぼ男声との差別化を徒らに狙わずとも飛びぬけた解釈になる、その音楽性あればこその「聴くべき異色名盤」です。棚に常備したい逸品、お見逃しなく。

SAPHIR


LVC1133
(国内盤)
\2940
ブラームス:オルガンのための作品全集
 青年時代から、最後の出版作品へ〜

ヨハンネス・ブラームス(1833〜1897):
 ①前奏曲とフーガ イ短調 WoO 9(1856)
 ②前奏曲とフーガ ト短調 WoO 10(1856)
 ③オルガン独奏のためのフーガ 変イ短調 WoO 8(1856)
 ④「おお悲しみよ、おお心の苦しみよ」による
  コラール前奏曲とフーガ WoO 7(1858)
 ⑤11のコラール前奏曲 作品122(1896)
エドアルド・オガネシアン(オルガン/リガ大聖堂)
 ドイツ正統派のブラームスも、心のふるさとにオルガンがありました——実は晩年、最後の出版番号もオルガン作品に宛てられています。その深々とした味わいを、すべて濃密・極上の演奏で聴けるとしたら...?俊才オガネシアン、風格と静謐の充実名演!
 パイプオルガンという楽器は、ことドイツ・ロマン派の音楽世界にあっては、なんとなく肩身の狭い思いをしている楽器のようなイメージが。・・・と思いきや、なにしろバッハを生んだお国柄、この楽器に対する敬意とあこがれは連綿と生き続けていたのです!
 ご存じのとおり、本年生誕200 周年を迎えたフランツ・リストがこの楽器で幾多の名曲を書いていたのをはじめ、新ドイツ楽派陣営ではロイプケやラハナーが、そして誰あろうブルックナーも、この楽器を深く愛し、ピンポイント的に傑作を残してはいますが、彼らの作品が後世人たちに注目されるにいたったのは、とりもなおさず、19 世紀中盤のオルガン作曲家たちが、概してルネサンス=バロック時代からほとんど変わっていないかのような古めかしい音楽作法を墨守しつづけ、古風な作品ばかりしか書かなかったせいなのでは。
 しかし、新ドイツ楽派の「仮想敵」ともいえる新古典主義系ロマン主義路線の作曲家たちとて、ロマン派時代ならではの思わぬオルガン作法を開拓していなかったわけではありません——ライプツィヒ音楽院系のメンデルスゾーンが素晴らしいソナタを多数書いているだけでなく、その門弟でもあったニルス・ゲーゼ(デンマーク人ですが)もドイツ滞在中に名品をいくつか残しています。しかし、やはり本命はどう考えてもこの人——ブラームスでしょう!
 ブラームスが若い頃からオルガンにもひとしきり興味を示していたことは意外と知られておらず、シューマンやバッハの音楽に開眼した20 代には、本格的な室内楽曲よりも先にオルガン独奏曲の作曲をひとしきり試していたくらいですし、この作曲家の音楽世界はすべて網羅したい!と思ったことのある方(これは少なくありますまい)なら、晩年、彼の最後の出版番号(op.122)を付された最晩年の作品が、ほかでもないオルガン独奏曲だったことに驚かれた経験が必ずやおありのはず。
 本盤はそうした数少ないながら重要なブラームスのオルガン曲をすべて集めた、ありそうでない超・注目盤なのです。
 弾き手のオガネシアンは、ピアニストとしてA.クニャーゼフとレーガーのチェロ作品全集の録音でひそかな注目を集めたばかり(LVC1103)——長いあいだ事実上ドイツ語圏だったラトヴィアの首都リガ(ワーグナーも若い頃ここで楽長をしていました)の大聖堂で、壮麗・典雅な響きをじっくり練り上げて丹念に仕上げられていった録音は、すがすがしいまでのストイックさと、その禁欲性をもってしても隠しようのないブラームス随一のメロディセンスと構成感覚とをありありと感じ取れる素晴しい仕上がりを誇っています。これを知らずしてブラームスは語れない秀逸企画!

PAN CLASSICS


PC10227
(国内盤)
\2940
見過ごされがちな英国バロック最大の大家、ヘンリー・パーセルの室内楽曲
 パーセル:3声・4声の室内楽曲さまざま〜ソナタ、パヴァーン、グラウンド...〜

  ヘンリー・パーセル(1659〜1695):
 ①4声部のパヴァーン ト短調Z.752
 ②4声部の組曲 第3番 ト長調Z.662
 ③3声部のパヴァーン ト短調Z.751
 ④音階によるグラウンドZ.645
 ⑤3声部のソナタ 第7番 ホ短調Z.796
 ⑥3声部のパヴァーン イ短調Z.749
 ⑦4声部のファンタジア 第3番 ト長調Z.734
 ⑧3声部のソナタ 第6番 ハ長調Z.795
 ⑨4声部のファンタジア 第2番 ヘ長調Z.733
 ⑩4声部のソナタ 第4番 ニ短調Z.805
 ⑪4声部のチャコニー(シャコンヌ)ト短調Z.730
 ⑫プレリュードとグラウンド「汝、歌心あるムーサよ」Z.344
 ⑬4声部のソナタ 第5番 ト短調Z.806
 ⑭組曲第7番 ニ短調 Z.668
 ⑮グラウンド上で3声部(4声部のグラウンド)Z.731
  ※④ ⑭ はチェンバロ独奏
Ens.コルダルテ(古楽器使用)
マルクス・メルクル(チェンバロ)
ダニエル・ドイター、
マルグレート・バウムガルトル(バロック・ヴァイオリン)他
 ヘンリー・パーセルといえば、英国随一の大作曲家——17世紀、ピューリタン革命の嵐が巻き起こって「ぜいたくは敵だ!」とばかり次々と楽器が破壊され、教会のオルガンもずいぶんだめになったといいますが、実はそれ以前の17世紀前半まで、イギリスは数百年におよぶ音楽大国として知られていました。
 ピューリタン革命後、まずフランスに亡命していたチャールズ2世が英国王室にフランスかぶれの流行をもたらし、ルイ14 世の楽団をまねてヴァイオリン合奏団を結成、この期に及んで弦楽器といえばヴィオラ・ダ・ガンバしか知らなかった英国貴族たちを驚かせます。これにモヤモヤしたのが、イタリア音楽の素晴らしさを知る一部の心ある音楽家たち...パーセルはガンバ合奏の伝統をひくパヴァーンやグラウンドなどの音楽を書きもすれば、自身が指揮を任されたこの王室楽団のためにフランス風の合奏曲も書きましたが、むしろぜひとも広めたいと思っていたのが、英国の音楽家たちのあいだで秘かなブームになりつつあったイタリア音楽の感覚。そこで彼は国王への献辞を添えながら、全12曲からなるトリオ・ソナタ集と、主声部3パートに通奏低音を添えた、全10 曲からなる四重奏ソナタ集を刊行し、のちのコレッリやアルビノーニのそれにも通じるセンス抜群のソナタ芸術を英国人たちに伝え、かつヴァイオリンという楽器の魅力も再確認させたのでした。
 ここに収録されているのは、そうしたパーセル随一の合奏曲の数々。
 チェンバロ独奏曲も2曲収録しながら、イタリア趣味のソナタはもちろん、フランス流儀の組曲あり、古風なパヴァーンやグラウンド(変奏曲)あり...と、およそこの作曲家が書き残した室内楽世界のすべてを端的に示してくれるプログラム。
 しかし実のところ——これはたぶん、イタリアやドイツ語圏の「知られざる名匠」の発掘が面白くてたまらないバロック・ヴァイオリン奏者があまりに多いせいでしょう——最近は古楽シーンがこれほどの活況をみせているのに、なぜかパーセルの室内楽曲でアルバムを作る、という古楽器奏者がめったにいないのが奇妙なところ。ヨーロッパ屈指の古楽拠点ケルンで多忙な活躍をみせている演奏家たちが集うアンサンブル・コルダルテの闊達きわまる演奏は、その意味でもまったく貴重な新録音なのです。
 不協和音の拾い方・際立たせ方も実にセンス抜群ですし、イタリアのトリオ・ソナタ編成にもうひとつ主声部が増えた「3パートと通奏低音」の作品では、この編成特有のあやういバランス感覚が実にスリリング——でありながら、あくまで高雅な響きが崩れないのが、パーセルならではの不思議な魅力。その作品美がこれほど生きる演奏、なかなかないです!

PAN CLASSICS


PC10233
(国内盤)
\2940
イタリアのヴィオラ・ダ・ガンバ 合奏曲さまざま
 〜16〜17世紀、ルネサンスからバロックまで〜
  ①「西風」の調べをテノールに、12の変奏を(ヴァレンテ)
  ②第10ソナタ 〜4挺のガンバ[と通奏低音]のための(フェルロ)
  ③ガリアルダ(ジェズアルド)
  ④第3フランス風カンツォーネ(サルヴァトーレ)
  ⑤オラツィオ・バッサーニ氏のトッカータ(F.M.バッサーニ)
  ⑥「貞節」の調べによる変奏曲(パルティータ)(トラバーチ)
  ⑦奇想天外な協和音(トラバーチ)
  ⑧チャコーナ(シャコンヌ)(ヴィターリ/ピッチニーニ/ストラーチェ)
  ⑨第3ガリアルダ(G.ストロッツィ)
  ⑩戦いのバッロ(ストラーチェ)
  ⑪フランス風カンツォーナ(トラバーチ)
  ⑫大公のバッロ(ブオーナメンテ)
  ⑬デュレッツェ・エ・リガトゥーレの調べ(トラバーチ)
グイード・バレストラッチ(各種ヴィオラ・ダ・ガンバ)
アンサンブル・ラモローゾ(古楽器使用)
 「ヴィオラ・ダ・ガンバ」はイタリア語。英国やドイツのコンソート音楽も、音楽史では「イタリア起源」。
 なのに、なぜか滅多に聴けない「イタリアのガンバ合奏」、極上演奏でじっくり聴かせます。鬼才バレストラッチ&イタリア名手勢の決定的名盤、Pan Classicsから堂々国内初登場。

 つい最近、活動休止となったイタリア随一のレーベルSymphonia は、古楽ファン垂涎の、高い企画性と極度にすぐれた演奏内容の古楽盤を延々と連発しつづけてくれた充実レーベルでした。幸い、その音源はいくつかの頼もしい小規模レーベルに分散され、受け継がれるかたちとなり、ちょうど時を同じくしてオーナー会社がスイスからドイツの会社に変わったPan Classics レーベルにも、かなり多くの音源が渡りました。
 さて、そんなSymphonia 音源のなかでも、かねてから気になっていたのがこのユニークなガンバ合奏盤。チェロよりもずっと昔からあるヴィオラ・ダ・ガンバという弦楽器は、ヴァイオリン属のように高音楽器から低音楽器までさまざまな亜種楽器があり、弦楽四重奏の前身ともいうべき三重奏・四重奏はもちろん、さまざまな組み合わせで合奏ができるフレキシブルな古楽器でした。
 ガンバ合奏といえば、たいてい英国ルネサンスものかドイツ初期バロックものと相場が決まっているわけですが、音楽史をひもとけば、英国のガンバ合奏のルーツはイタリアにあるという。そもそも「ヴィオラ・ダ・ガンバ」というのはイタリア語で「膝のヴィオラ」という意味...なのに、肝心のイタリアで演奏されていたヴィオラ・ダ・ガンバ音楽は独奏・合奏とも、めったにお目にかかれないのが昨今の演奏会シーン・音盤シーンの謎。クイケンもサヴァールもパンドルフォも、イタリアのガンバ音楽はほとんど手付かずとはどういうことか...と思っていたところ、なんとイタリア新世代を、いやフランス語圏まで足を延ばして大活躍中の俊才バレストラッチ氏が、まさにそのミッシング・リングを埋める好企画盤を制作していたのです。
 ここに集められているのは、ナポリ、ヴェネツィア、ボローニャなど16〜17 世紀のイタリアを代表する音楽都市で活躍していた大家たちが、ガンバ合奏を念頭に置いて書いたか、もともと鍵盤楽器のために書かれていたけれどガンバ合奏でも演奏可能だった、そんな多彩な作品群。作曲年代で言えば16 世紀後半から17 世紀後半まで、17 世紀の作品を中心に、高音2声・中音・低音の全4声のものが多いものの、なかにはテノール2声に低音、高音・中音・低音4声(コントラバスの前身・ヴィオローネも大活躍)...と異色編成もちらほら。
 ガンバのほかにはチェンバロor 室内オルガン、打楽器(冒頭には波の音のような効果音も?)、また心地よいテオルボやバロックギターを奏でるのは俊英・今村泰典氏という頼もしさ。のどかで涼しげな羊腸弦の中高音もオーガニックで美しければ、折々に効果的に使われる不協和音もむしろ心地よく、低音域の厚みある音の重なりも見事。
 古楽に「癒し」を求める方にも、古楽ならではの静かな興奮を味わいたい方にも、音楽史をじっくり辿りたい方にも、ひとしくお奨めできる「かゆいところに手が届く」傑作盤。古楽棚には必ず置いておきたい1枚なのです。

PAN CLASSICS


PC10230
(国内盤・訳詞付)
\2940
中南米で、ビヤンシーコを...SYMPHONIA音源から復活!
 〜ラテンアメリカのルネサンス&バロック音楽〜

【作曲家】
 《スペイン》フアン・イダルゴ(1612〜1685)、ヘロニモ・ゴンサレス修道士
 《メキシコ》エルナンド・フランコ(1532〜1585)、
 ガスパル・フェルナンデス(1570頃〜1629)、
 フアン・グティエレス・デ・パディーリャ(1590〜1664)、
 フアン・ガルシア(1619〜1678)MX
 《グヮテマラ》アントニオ・デ・アビラ(16世紀頃活躍)、
 ディエゴ・フェルナンデス(16 世紀頃活躍)
 《ボリビア》フランシスコ・デ・ペニャローサ(1470 頃〜1528)、
 フアン・デ・アラウホ(1646〜1712)、
 ディエゴ・ホセ・デ・サラサル(1660頃〜1709)
 《ペルー》トマス・デ・トレホン(1644〜1728)
【収録作品】
 ①追い出せ! 小さな暴れ牛を(サラサル)
 ②ハナクパチャプ・クスィクィニン[=天の喜びであらせられる方](作者不詳、ペルー)
 ③舞曲(D.フェルナンデス)
 ④愛するものが眠っているなら(アラウホ)
 ⑤わたしの嬰児が生まれた祝いに(イダルゴ)
 ⑥舞曲(ペニャローサ)
 ⑦トレカンティモ・チョキリヤ[=歌おう、わたしの小さな花に!](G.フェルナンデス)
 ⑧もしも、神がお貸しくださったなら(G.フェルナンデス)
 ⑨眠れ、眠れ、わが子よ(G.フェルナンデス)
 ⑩舞曲(アビラ)
 ⑪あふれる恩寵とともに、お生まれになった美しき嬰児(G.フェルナンデス)
 ⑫舞曲(フランコ)⑬ディオス・イトラツォ[=われらが主の、祝福されたる母](フランコ)
 ⑭なんと静謐な夜(ゴンサレス)
 ⑮ああ!聖フランチェスコさま(パディーリャ)
 ⑯うるわしき愛は(ガルシア)
 ⑰シャカラ・シャカリーリャ[=さあ幕間劇だ](パディーリャ)
 ⑱わが主はお気づきになりました(トレホン)
 ⑲花火と見れば歌いたくなる(作曲者不詳、ペルー)
 ⑳教えてください、愛するかた(アラウホ)
 (21)黒い人たち、星の兄弟たち(アラウホ)
ガブリエル・ガリード指揮
Ens.エリマ(古楽器使用)
マリア・クリスティナ・キーア(S)
グイード・モリーニ(cmb)他
 「民俗テイスト古楽」は、ここから始まった?
 ラルペッジャータとアッコルドーネを生んだ“導師”ジュネーヴの鬼才古楽人ガブリエル・ガリードがSymphonia に残した超・重要録音は夏→秋にぴったりの、熱くてスタイリッシュな“中南米古楽”・・・。BGM にも聴き込みにも最適です。
 レーベル休止により歴史的傑作盤が多数廃盤になってしまったイタリア最高の古楽レーベル、Symphonia...ご存じエンリーコ・ガッティ最初期の傑作企画群や、古楽鍵盤奏者ラウラ・アルヴィーニ、オーストリアの天才グナール・レツボールの充実企画など名盤目白押しだったのに...というこのレーベルからまとめて音源を買い取ったPanClassics が、いま思いがけぬセンスで同レーベルの意外な傑作盤を次々と発掘・再リリースしてくれています。
 Symphonia 時代には国内盤化など思いも寄らなかったところですが、やはり、埋もれていた重要盤こそ日本語解説・歌詞訳も完備で続々日本にも紹介を続けよう——というわけで、暑い夏から切ない晩夏→秋への流れにぴったりな“中南米ノスタルジック古楽”の傑作盤を堂々、国内仕様でお届けいたします!
 「中南米の古楽?」と驚くなかれ。何しろスペインやポルトガルから宣教師が続々来訪、そのスペインやポルトガルは全盛期で音楽文化も超・充実していた...となれば、中南米に早くからすぐれた音楽が育たなかったはずもなく。いま私たちがフォルクローレ・バンドで耳にするような土着の音楽ともないまぜになりながら、この地域には他のどこにもない独特な音楽美が息づいていたのです。
 リコーダーやガンバ、チェンバロなどにパンパイプや打楽器がからみ、素朴な旅情を感じさせる古楽合唱がストレートに心の奥へと刺さってくる——こんな思わぬ秘宝を掘り起し、全世界にアピールしてみせた仕掛け人は、実は日本ではびっくりするくらい知名度のない「ヨーロッパ古楽界の大御所」ガブリエル・ガリード!
 アルゼンチン出身のガリードは、ドイツ語圏のバーゼル・スコラ・カントルムが有名になる前からヨーロッパ屈指の隠れた古楽拠点だったジュネーヴを拠点に、こうした「新大陸古楽」を積極的に紹介。民俗音楽的なテイストをフランス語圏・イタリア・スペインなどの古楽界に息づかせたのは、何をかくそう、このガリードの熱心な異色研究あればこそだったのです(アッコルドーネのグイード・モリーニも、ラルペッジャータのプルハルも、カフェ・ツィマーマンのパブロ・バレッティも、実はみんなガリードのアンサンブル・エリマでの刺激的体験をへて独自の活躍へと向かったことは、もっと注目されていい事実かも)。古楽シーンの「いま」を知るうえで欠かせない“熱情的繊細体験”を、あなたにも!

PAN CLASSICS

PC10235
(国内盤・訳詞付)
\2940
トマス・ルイス・デ・ビクトリア(1548〜1611):
 1. 朝の祈り「わたしの魂は生きることを厭う」
 2. マリア・デ・アウストリアに捧ぐレクィエム
 3. レスポンソリウム「わたしを思い起こして下さい」
 4. アンティフォナ「天の国にて」
セルジオ・バレストラッチ指揮
ラ・スタジョーネ・アルモニカ(古楽声楽集団)
ラッスス、パレストリーナと並ぶ「ルネサンス最後の巨匠」ビクトリア(さりげなく歿後400周年)!スペイン的・ラテン的な色香をたたえて整然と響きあうア・カペラ——それは、ラテンの本格団体ならではの古楽歌唱。イタリアの実力派バレストラッチ「父」の、艶やかな至芸。夏が近づくこの季節、南国スペインに心が向かう方も少なくないのでは——しかし暑苦しい響きではなく、南国ならではの清涼な響きを・という方にぜひ味わっていただきたいのが、この1枚。
ルネサンスのア・カペラ合唱、員数は多すぎず少なすぎず、楽器はいっさいなし、演奏団体は「ラテンの知性」を感じさせてやまないイタリアの古楽集団...ほどよい残響を残しながらの教会録音、折々に複数の合唱が歌い交わすところもあり、オーディオ的にも申し分なし。夏の夜に、しみじみ深く聴き入るには絶好の1 枚なのです!
このアルバムで何より注目すべきは、やはり作品と演奏者の相性でしょう。ここでとりあげられているのは、スペイン・ルネサンス末期を代表する世界的巨匠のひとり、ビクトリアの『死者のためのミサ曲』(レクィエム)——南ドイツで活躍したネーデルラント楽派のラッスス、イタリアで活躍しつづけたパレストリーナと並び、16 世紀末期を代表するルネサンス声楽芸術の世界的大家ビクトリアは、カトリック信仰の根強いスペインを離れ10 代の頃からローマで研鑽を積み、パレストリーナ門下で鍛えられたあと、40 歳目前までずっと「イタリアのスペイン人作曲家」として過ごしました。ここに収録されているのは、その後スペインに戻って比類ない巨匠となった彼を擁護した元・神聖ローマ皇妃マリア・デ・アウストリアの逝去を悼むミサ曲...1603 年作といいますからかなり後期の作品ではありますが、対位法の横の線と和声的な縦の線のバランスが絶妙なその音楽は、玄人のみならずルネサンス初心者をもただちに取り込まずにはおかない、ア・カペラの静かな響きの美しさが誰にでもわかるかたちで息づく傑作です。
時折グレゴリオ聖歌(ベルリオーズの『幻想』終楽章への引用で有名な「怒りの日」もそのまま収録!)をはさみながらの進行をきれいに整理、静謐にして人間的な温もりを感じさせてやまないア・カペラの妙なる和声を紡ぎ出してくれるのは、サヴァールからペーター・マークまで新旧多彩な大指揮者たちから絶大な信頼を勝ち得てきたイタリア屈指の少数精鋭古楽合唱団、ラ・スタジオーネ・アルモニカ!指揮者バレストラッチはほかでもない、昨今弊社扱いで名盤を連発中のガンバ奏者グイード・バレストラッチの父なのです。すでに何十年も前、古楽復興が声楽作品でもさかんに行われていた20 世紀半ば過ぎにはすでに全世界が注目する巨匠にまで復権を遂げていたのですが、その再評価に最も大きく寄与してきたのは、合唱大国でもある英国のルネサンス専門団体ばかりでした。今ほど古楽環境が整っていなかった当時はそれでもよかったのですが(なにしろタリス・スコラーズやシックスティーンら英国勢の録音は、この作曲家の整然とした迫力をみごとに再現した名演が多かったわけですし)、こうして欧州ラテン系の古楽合唱で聴いてみると、ほどよい情感を歌声にたたえて響きあう音響世界には、英国的な精妙さとはまた違った、先天的に作品美へとたどりつく格別の適性を感じずにはおれません。
ビクトリアは教皇庁時代が長かったため、イタリアの古楽集団が歌うのはまったく正統的でもあると思います。当時のスペインの音楽環境をふまえ、たった1本補佐で入っているルネサンス・ファゴットがまた絶妙...「生のまま」のルネサンス美、名画鑑賞のBGM にも絶妙です。

RAMEE


RAM1004
(国内盤)
\2940
オペラや協奏曲の名声に埋もれがちなヘンデルのチェンバロ作品に真正面から取り組んだ超・名演!
 ジョージ・フレデリック・ヘンデル(1685〜1759):
  ①組曲 第8番 ヘ短調 HWV433 ②エール 変ロ長調 HWV471
  ③組曲 第3番 ニ短調 HWV428 ④メヌエット ト短調 HWV434
  ⑤組曲 第5番 ホ短調 HWV438 ⑥ソナチネ ト長調 HWV582
  ⑦組曲 第7番 ト短調 HWV432
クリスチャーノ・オウツ(チェンバロ)
使用楽器:18世紀ドイツ北部モデル(M.クラーマー2004年製作)
 ヘンデルのチェンバロ作品集——って、どうしたものかチェンバロの録音が意外に出てこないジャンルでもあったりします。
 なにしろ雄弁な音楽を書かせたら右に出る者はいないヘンデル、オペラ並みの壮大なスケール感から叙情豊かなカンタービレまで自由自在。しかしそんな作風を、チェンバロ語法を意識して不必要なゴージャスさを避けながらピアノで録音する人が意外と多い反面、チェンバロで録音してくれる人が意外にいないのです。英国の小規模レーベルなどには気の利いた充実録音もある一方、国内盤となるともう壊滅的なんじゃないでしょうか。
 そんな「盲点」ともいえるヘンデルのチェンバロ録音に、本場オランダでじっくり研鑽を積んだ本格派の古楽肌チェンバロ奏者、クリスチャーノ・オウツが真正面から取り組んでくれました。なにしろオウツのRamee 録音といえば、第1弾のマッテゾン作品集が、作曲家の(そして、演奏家の)知名度の低さにもかかわらず大いに売れた実績もありますから(『レコード芸術』 でも特選でした)、注目せずにおれぬわけがない。
 なにしろ驚かされるのが、歴史的チェンバロではあまり聴かれない16 フィート弦列(記譜音より1オクターヴ下の音が出る弦列)の音がすること。慌ててチェンバロのスペックを見たところ、それはれっきとした歴史的モデルの復元楽器で、18 世紀ドイツのチェンバロ製作理念を教えてくれるハンブルクの貴重な現存楽器を手本に製作されたもの(J.C.フライシャーと、バッハも絶賛した名工ミートケの門弟C.ツェルの楽器にもとづく、とのこと)。この16 フィート弦列のほか通常の8フィート弦列を2列、4フィート弦列(1 オクターヴ上の音が出る弦列)を1列そなえ、2段鍵盤とレジスター操作でニュアンス豊かな音色変化も愉しませてくれるこの銘器を、オウツは楽器のスペックによりかかることなく縦横無尽に弾きこなし、ヘンデルが的確に配した音符ひとつひとつの存在意義を痛烈に印象づけてくれるのです!
 チェンバロ独奏を聴いていて、まるで古楽オーケストラと向き合うかのような多元的な響きに出遭えるのは、弾き手・楽器・作曲者の3者がすべて卓越した超一流であればこそ。18 世紀当時、ロンドン到着後から飛ぶ鳥を落とす勢いで人気を馳せ、「あのザクセンの田舎者が!」とアンチ勢力が歯がみするくらい評判をとったヘンデルの鍵盤作品は、出版される前から手書きで書き写されて大人気を誇り、すぐに海賊版楽譜が出回るほど大人気だったそうですが、「なるほど」と納得せずにおられません。

 RAM1008
(国内盤)
\2940
どれを聴いても「もう1曲!」と聴き進めてしまう不思議な多彩さと面白さ
 ジュゼッペ・サンマルティーニ(1695〜1750):
  ①合奏協奏曲 イ長調 作品2-1 ②合奏協奏曲 ト長調 作品5-4
  ③オーボエ協奏曲 ハ長調 S-Skma Xe-R166:30
  ④序曲 ヘ長調 作品10-7
  ⑤オーボエ協奏曲 ト短調 作品8-5
  ⑥序曲 ニ長調 作品10-4
  ⑦合奏協奏曲 ホ短調 作品11-5 ⑧序曲 ト長調 作品7-6
ピーテル・ファン・ヘイヘン指揮
Ens.レ・ムファッティ(古楽器使用)
ブノワ・ローラン(バロック・オーボエ)
 室内合奏団、古楽オーケストラ...ロマン派末期から近代にかけて極限まで肥大化したフルオーケストラへの反動なのか、20 世紀中盤くらいから、ヴィヴァルディ、ヘンデル、バッハ、テレマンなどの「いわゆるバロック音楽」の人気が急上昇、今ではすっかり市民権を得たような状況があるわけですが、ここでカギカッコ入りで「バロック」と書いたのにはわけがあって、実はこうした室内合奏団が得意のレパートリーにしてきた協奏曲・合奏協奏曲などの音楽は、ヘンデルにせよヴィヴァルディにせよ、あるいはジェミニアーニ、ロカテッリ、タルティーニ...といった作曲家たちのものにせよ、厳密に言えばバロックというより、むしろその次の「ギャラント様式の草創期」に属する音楽といったほうがしっくりくるのが実態だと思うんです。
 なんて書くと音楽史の学説みたいでうんざりですが、ようするに何が言いたいかというと、日本人にとっても一番しっくりくる「バロック的な安心感」の正体は、結局18世紀中旬前後の流行音楽のセンスではないかと。
 で、18世紀中盤までに協奏曲作曲家として人気をはせた巨匠たちのほか、コレッリやパーセルなどごく一部の17世紀作曲家も好き...というような現代日本人の感覚は、考えれば考えるほど、18世紀のイギリス紳士たちの音楽趣味に酷似しているのです。そう——18世紀のイギリスで人気だった作曲家の音楽は、必ずや「日本の平均的なバロック・ファン」に受け入れられる。
 その意味でほんとうに大推薦なアルバムが、バロック・ヴァイオリン奏者ライナー・アルントの主宰するRamee レーベルから届きました。18世紀英国で最も人気だったヘンデルと古き名匠コレッリ、楽譜出版の販売部数でヘンデルと並んだジェミニアーニらとともに、当時の有名な英国人音楽著述家ジェンキンズが「現代のビッグ4」と絶賛していたのが、本盤の主人公サンマルティーニ——ミラノ交響楽派の祖G.B.サンマルティーニの兄でオーボエ奏者としても活躍、唯一リコーダー協奏曲1曲だけが飛びぬけて有名なこの作曲家は、1750 年に急逝した頃には名声の絶頂期にあり、新作を求める愛好家たちの声に応えて遺作から数冊の曲集がさらに編まれたほどの人気ぶり。本場イタリアから来たセンス抜群の作曲家、というわけですが、事実その作品はヴィヴァルディの突飛すぎるところをセンスよく収め、アルビノーニの食い足りないところを数段面白くし、ジェミニアーニに比肩しうる先進性をひとたらし。独特の古典派寄りな耳馴染みの良さなども含め、どれを聴いても「もう1曲!」と聴き進めてしまう不思議な多彩さと面白さにあふれていて。
 しかも本盤の演奏は、ラ・プティット・バンドやレザグレマン、アムステルダム・バロック・オーケストラなどの超一流団体ともメンバーが多々重複するベルギーの俊才集団、アンサンブル・レ・ムファッティ!ブリュッヘ(ブリュージュ)国際古楽コンクールで優勝して以来、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の俊才ローランが吹くバロック・オーボエ独奏も実に魅力的。後期の作品ではナチュラルホルンも活躍、コレッリ流儀の合奏協奏曲はスタイリッシュなヴァイオリンのやりとりと折々の抒情的な和声進行がまあ美しいこと...英国18 世紀の人気者、やっぱりしっくり来ます。

RICERCAR


MRIC213
(国内盤・2枚組)
\3700
フランク:ハルモニウム(リードオルガン)のための作品全集
 &『前奏曲、フーガと変奏曲』*
セザール・フランク(1822〜1890):
 ①五つの小品(1864) ②前奏曲、フーガと変奏曲
 ③奉献唱 変ホ長調 ④小奉献唱 ⑤行進曲のように
 ⑥奉献唱:マエストーゾ・マ・ノン・レント
 ⑦ブルターニュのノエルによる奉献唱 ⑧アントレ
 ⑨無題の小品 ハ短調『ロルガニスト』(未完):
 ⑩七つの小品 ハ長調/ハ短調⑪七つの小品 変ニ長調/嬰ハ短調
 ⑫七つの小品 ニ長調/ニ短調 ⑬七つの小品 変ホ長調/変ホ短調
 ⑭七つの小品 ホ長調/ホ短調
 ⑮七つの小品七つの小品 変ト長調/嬰ヘ短調
 ⑯七つの小品 ト長調/ト短調 ⑰七つの小品 変イ長調/嬰ト短調
ヨーリス・ヴェルダン(各種歴史的ハルモニウム)
ヨス・ファン・インマゼール(エラール・ピアノ)*
 ハルモニウム——足踏みオルガン。大作曲家がこの楽器に正面から取り組んだのが19世紀、フランクの傑作群は、聴いておくべき「素朴な優雅さ」に満ちた、とびきり美しく深い名品揃い。二重奏作品では俊才インマゼールが共演!

 ベルギー屈指のオルガニストが、聴かせます。
 ドイツ語でハルモニウム、フランス語ではアルモニウム、英語ではハーモニアムまたはリード・オルガン——そして日本語では「小学校の足踏みオルガン」。
 足踏み式で空気を送る家庭用のオルガンとして19 世紀に開発されたハルモニウムが、実はピアノ流行の傍らでひそかに普及しつづけていたことは、19 世紀音楽について少し詳しくなると必ずやどこかで知る事実でしょう。時おりしも合唱ブーム、市民層の暮らしがどんどん豊かになってゆき、各地に市民オーケストラが続々と結成されるかたわら合唱団も無数に生まれ(ブラームスやブルックナーもそうした流れで名曲を多々残していますね)、宗教的合唱曲の伴奏などにもハルモニウムは大活躍。しかし、それは必ずしもオルガンの代用品ではなかったのです。
 ハルモニウムにはハルモニウムの良さがある、そのことを何より知っていたのが、教会のオルガニストをしていた音楽家たちでした。なかでも特に注目すべき巨匠は、いうまでもなく、セザール・フランク。フランス近代音楽史に確たる足跡を残したフランクがオルガン奏者として、またフランス交響楽派のオルガン芸術家たちの心の師匠として、揺るぎない存在感を放っていたことはよく知られているでしょうが、そんなフランクが残した無数の「ハルモニウム音楽」。
 今日ではオルガンで演奏されて親しまれている曲も中にはいくつかありますが、フランク自身はオルガン曲はオルガン曲、ハルモニウムのための作品はハルモニウムのため、と楽譜上にはっきり明記し、その区別を明確にしていたのです。この種の足踏み式オルガンの音には、アコーディオンにも似た、なんともいえない素朴な繊細さが宿っているもの。音色美に敏感でもあったフランクがわざわざハルモニウムのために書いた音楽の数々は、あるときは彼の管弦楽つき作品にも通じる構想の確かさで、あるときは彼の合唱曲のような霊妙さで私たちを魅了してやまず、小さい音楽に宿るかけがえのない味わいの豊かさは、おそらく教会の巨大なオルガンではまず味わい得ない、清らかな気持ちやなつかしい気持ちを静かに呼びさます美しさを感じさせてやみません。
 2000 年前後のレーベル休止後に復活を遂げて間もなくRicercar がリリースした本盤はしばらくプレスが切れていたのですが、ようやくカタログに復活、待望の解説全訳付日本リリースが実現することとなりました。
 なにしろ演奏はベルナール・フォクルールの後の世代でも随一と言えるほどの充実活動を続ける、19 世紀フランスものに通暁した俊英ヨーリス・ヴェルダン!何種類か弾き分けている演奏楽器は、すべてフランク在命中(あるいは歿後1年後程度)に製作されたオリジナル古楽器で、古雅で滋味あふれるしっとりとした響きで「生のままの19 世紀」を実感できること間違いありません(こういう古いものの魅力を伝えさせたら、ベルギー人の右に出る者はいないのではないか?とさえ思えてきます)。しかもピアノとの二重奏では「あの」インマゼール御大が絶妙のピアニズムでエラール1850 年のヴィンテージ・ピアノ演奏を披露。
 聴きどころ満載の、かけがえのないアルバム。

RICERCAR


MRIC292
(国内盤・訳詞付)
\2940
ジョヴァンニ・フェリーチェ・サンチェス、
 皇帝たちに魅入られたローマ人
 〜『1,2,3,4声のモテット集』(1638)より〜

ジョヴァンニ・フェリーチェ・サンチェス(1600頃〜79):
 ①天上で喜びに沸くのは、聖なる魂
 ②主にとりなしてくださるかた
 ③やさしき愛するかた、イエス
 ④第1トッカータ(カプスベルガー作曲)
 ⑤お救いください、良きイエスよ
 ⑥ごきげんよう、天の皇后
 ⑦主よ、わたしたちの罪過を忘れてください
 ⑧聖母は立てり、悲しみにくれ
 ⑨『オルフェーオ』のリトルネッロ(L.ロッシ作曲)
 ⑩あなたはわたしの心をときめかす
 ⑪第7トッカータ(M.ロッシ作曲)
 ⑫おおイエス、誰よりもわたしにやさしいかた
 ⑬歌で讃えよう、喜びに声を張りあげよう
 ⑭めでたし、海の星 ⑮讃えよう、栄えある方々を
Ens.スケルツィ・ムジカーリ(古楽器使用)
 上で紹介したパンドルフィ・メアッリは、トスカーナ地方からヴェネツィアをへて、インスブルックにあったハプスブルク家の離宮で活躍を続けたイタリア人音楽家でしたが、ここに紹介するサンチェスもまた、そうした「ハプスブルク家を魅了したイタリア人」のひとり——しかも、声楽芸術こそが音楽の真髄とされていた当時、サンチェスの書くオペラや教会音楽などの声楽作品は、イタリアの諸都市でも大人気を誇り、ウィーンの皇室に来てからも、彼はフェルディナント2世、フェルディナント3世、そして自ら作曲家としても歴史に名を刻んだレーオポルト1世...と、サンチェスは歴代のハプスブルク皇帝に魅入られた巨匠でありつづけ、末は貴族の位まで与えられたのでした(彼が1679 年まで長生きしてしまったからこそ、皇室楽長の座は決して動かず、後世の評価がさらに高いシュメルツァーは在命中たった2年しか皇室楽長でいられなかったのです)。
 モンテヴェルディやカプスベルガーらの17 世紀初頭のバロック音楽と、スカルラッティやコレッリら17 世紀末頃のバロック音楽がまったく違っているとすれば、その間をつなぐ最大の巨匠のひとりがまさにこのサンチェス——でありながら録音が滅多に見当たらないのは、17 世紀イタリア音楽に理解が不十分な昨今の音盤シーンの悲しい運命なのかもしれません。ともあれ、独唱者一人と通奏低音、という簡素な編成から2声、3声、4声…と「全員主役」の重唱芸術を織り上げてゆくセンスは実に見事なもので、心とろかすメロディの美、古楽大国ベルギー屈指の演奏陣が聴かせる充実解釈や古楽歌唱・古楽器の妙音とあいまって、その音楽は21 世紀の私たちの心、いや感覚をも直接的にからめとらずにはいません。そう、本盤の演奏を何より素晴らしいものにしているのは、ベルギー古楽界きっての「弾き歌い」の才人ニコラ・アクテンの周到な作品解釈と、リローネやバロック・ハープなど17 世紀特有の珍しい楽器まで動員しての巧みな演奏編成、それをみごとな技量で奏でつつ、まっすぐ伸びてしなやかに震える官能的な古楽的歌声を操る実力派歌手たちとともに、鮮やかなセンスでアンサンブルを織り上げてゆく演奏陣ひとりひとりの飛びぬけた技量なのです!
 プログラムの大半を占める曲集は1638 年刊行と比較的初期のもので、アクテンらはローマで培われたサンチェスの音楽性を考慮、カプスベルガーやM.ロッシら複雑系和声を使いこなした17 世紀ローマ楽派の器楽曲を交え(これも単なる独奏にせず、当時流儀のアンサンブルに編み変えられているのがまた見事...)、聴きごたえあるプログラム進行を作ってくれています。
 なまじな本格古楽解釈だと、慣れない人にはリズムの取り方からして感じ取りにくい、非常に聴きにくい音楽に堕してしまいがちなのがこの種の17 世紀音楽——なのに、誰の耳にも快楽を与えてくれる明快な解釈でその魅力をあざやかに伝えられるのですから、全く侮れない団体です。ル・ポエム・アルモニークがAlphaに登場した頃も彷彿させる...のは、演奏曲目の時代と地域が彼らの初期盤と同じせいだけではありますまい。

ZIG ZAG TERRITOIRES


ZZT110101
(国内盤)
\2940
東へ。
 〜チェロとアコーディオン、東欧の調べと響き〜

  ①チャルダーシュ(ミレナ・ドリノヴァ/クリストフ・マラトカ)
  ②バイカル(ジョスラン・ミアニエル)
  ③ルーマニアの調べでメドレーを〜ステファン・グラッペリの即興から
  ④夢(マチュー・ネヴェオル)
  ⑤ハンガリー狂詩曲 作品68(ダヴィド・ポッパー)
  ⑥チャルダーシュ(クリスティアン・ショット)
  ⑦イディッシュ(サムエル・シュトルーク)
  ⑧ルーマニア民俗舞曲(バルトーク)
フランソワ・サルク(チェロ)
ヴァンサン・ペラニ(アコーディオン)
 日本は海を隔てて諸外国と切り離され、ひとまず日本語を中心とした独特の文化を築いてきた場所。その私たちから見てヨーロッパという地域が何よりも面白いのは、いろいろな言葉を話す人々が、地続きに国境を越えて諸外国とのあいだを行き来し、余所者同士が当然のようにすれ違いあい、あるいは交流し、それぞれの“空気感”を交換しあっているという、そんな文化の多様性があるからではないでしょうか。
 アイデンティティはさまざま、それぞれにルーツがあったり、ルーツなど忘れ去られた何かを連綿と継承しつづけていたりしますが、その意味で特に面白いのが、フランスという国。
 古くから亡国のポーランド人、職を求めてやってきたチェコ人職人・音楽家、ロシアの亡命貴族、地中海南岸や中近東からの移民たち...と、およそ国を問わず各地から人が集まり、何代かにわたって根付いてきた、いわば異国の人々が故郷の空気感そのままに隣り合う場所なのです。
 かくてフランスのZig-Zag Territoires が放つ今回のアルバムのテーマは「フランスからみた“東”」。
 登場するのはヨーロッパ・ジャズ界でヴァーサタイルな活躍をみせているパリ音楽院出身の異才アコーディオン奏者ヴァンサン・ペラニと、エリック・ル・サージュのシューマン作品集で素晴しいチェロを聴かせてくれた俊才フランソワ・サルクという二人のフランス人奏者。彼らは、ハンガリーへ、シベリアへ、ルーマニアへ、ロマ(ジプシー)の住むところへ...と、フランス人たちが遠く思いを馳せる“東”のイメージをかきたててくれるナンバーを、丁々発止、艶やかでスリリングな二重奏で綴ってゆくのです。
 「二人のフランス人」といえど、二人ともラテン系ではないルーツを感じさせる名前ですから、ひょっとしたら個人的なルーツ探索もあるのでは、と思ってみたりもするのですが、示唆に満ちたエピソード満載のインタビュー(解説書、全訳添付)にはそのあたりに対する独特の距離感についても詳述されています。
 しかし何はともあれ、サウンドがとにかく絶妙——この点がもう理屈ぬきに本盤に手が伸びる理由というのでしょうか。クラシックの棚に来るアコーディオン系のアルバムにはハズレが少ないと思うのですが、曲者揃いのパリ音楽院ジャズ科を満場一致の一等で卒業したというだけあって、ペラニの紡ぎ出す呼吸感は天才的なセンスを感じさせてやまず、そこへ切り込んでくる情感豊かな、しかし完璧なリズム感で音を刻むサルクの弓さばき、男性的な色香を放って散りばめられる急速パッセージ...これから夏へ向け、こんな肉感的・直感的サウンドが恋しくなるはず。




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