RAMEE
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RAM1004
(国内盤)
\2940 |
オペラや協奏曲の名声に埋もれがちなヘンデルのチェンバロ作品に真正面から取り組んだ超・名演!
ジョージ・フレデリック・ヘンデル(1685〜1759):
①組曲 第8番 ヘ短調 HWV433 ②エール
変ロ長調 HWV471
③組曲 第3番 ニ短調 HWV428 ④メヌエット
ト短調 HWV434
⑤組曲 第5番 ホ短調 HWV438 ⑥ソナチネ
ト長調 HWV582
⑦組曲 第7番 ト短調 HWV432 |
クリスチャーノ・オウツ(チェンバロ)
使用楽器:18世紀ドイツ北部モデル(M.クラーマー2004年製作) |
ヘンデルのチェンバロ作品集——って、どうしたものかチェンバロの録音が意外に出てこないジャンルでもあったりします。
なにしろ雄弁な音楽を書かせたら右に出る者はいないヘンデル、オペラ並みの壮大なスケール感から叙情豊かなカンタービレまで自由自在。しかしそんな作風を、チェンバロ語法を意識して不必要なゴージャスさを避けながらピアノで録音する人が意外と多い反面、チェンバロで録音してくれる人が意外にいないのです。英国の小規模レーベルなどには気の利いた充実録音もある一方、国内盤となるともう壊滅的なんじゃないでしょうか。
そんな「盲点」ともいえるヘンデルのチェンバロ録音に、本場オランダでじっくり研鑽を積んだ本格派の古楽肌チェンバロ奏者、クリスチャーノ・オウツが真正面から取り組んでくれました。なにしろオウツのRamee
録音といえば、第1弾のマッテゾン作品集が、作曲家の(そして、演奏家の)知名度の低さにもかかわらず大いに売れた実績もありますから(『レコード芸術』
でも特選でした)、注目せずにおれぬわけがない。
なにしろ驚かされるのが、歴史的チェンバロではあまり聴かれない16
フィート弦列(記譜音より1オクターヴ下の音が出る弦列)の音がすること。慌ててチェンバロのスペックを見たところ、それはれっきとした歴史的モデルの復元楽器で、18
世紀ドイツのチェンバロ製作理念を教えてくれるハンブルクの貴重な現存楽器を手本に製作されたもの(J.C.フライシャーと、バッハも絶賛した名工ミートケの門弟C.ツェルの楽器にもとづく、とのこと)。この16
フィート弦列のほか通常の8フィート弦列を2列、4フィート弦列(1
オクターヴ上の音が出る弦列)を1列そなえ、2段鍵盤とレジスター操作でニュアンス豊かな音色変化も愉しませてくれるこの銘器を、オウツは楽器のスペックによりかかることなく縦横無尽に弾きこなし、ヘンデルが的確に配した音符ひとつひとつの存在意義を痛烈に印象づけてくれるのです!
チェンバロ独奏を聴いていて、まるで古楽オーケストラと向き合うかのような多元的な響きに出遭えるのは、弾き手・楽器・作曲者の3者がすべて卓越した超一流であればこそ。18
世紀当時、ロンドン到着後から飛ぶ鳥を落とす勢いで人気を馳せ、「あのザクセンの田舎者が!」とアンチ勢力が歯がみするくらい評判をとったヘンデルの鍵盤作品は、出版される前から手書きで書き写されて大人気を誇り、すぐに海賊版楽譜が出回るほど大人気だったそうですが、「なるほど」と納得せずにおられません。 |
RAM1008
(国内盤)
\2940 |
どれを聴いても「もう1曲!」と聴き進めてしまう不思議な多彩さと面白さ
ジュゼッペ・サンマルティーニ(1695〜1750):
①合奏協奏曲 イ長調 作品2-1 ②合奏協奏曲
ト長調 作品5-4
③オーボエ協奏曲 ハ長調 S-Skma Xe-R166:30
④序曲 ヘ長調 作品10-7
⑤オーボエ協奏曲 ト短調 作品8-5
⑥序曲 ニ長調 作品10-4
⑦合奏協奏曲 ホ短調 作品11-5 ⑧序曲 ト長調
作品7-6 |
ピーテル・ファン・ヘイヘン指揮
Ens.レ・ムファッティ(古楽器使用)
ブノワ・ローラン(バロック・オーボエ) |
室内合奏団、古楽オーケストラ...ロマン派末期から近代にかけて極限まで肥大化したフルオーケストラへの反動なのか、20
世紀中盤くらいから、ヴィヴァルディ、ヘンデル、バッハ、テレマンなどの「いわゆるバロック音楽」の人気が急上昇、今ではすっかり市民権を得たような状況があるわけですが、ここでカギカッコ入りで「バロック」と書いたのにはわけがあって、実はこうした室内合奏団が得意のレパートリーにしてきた協奏曲・合奏協奏曲などの音楽は、ヘンデルにせよヴィヴァルディにせよ、あるいはジェミニアーニ、ロカテッリ、タルティーニ...といった作曲家たちのものにせよ、厳密に言えばバロックというより、むしろその次の「ギャラント様式の草創期」に属する音楽といったほうがしっくりくるのが実態だと思うんです。
なんて書くと音楽史の学説みたいでうんざりですが、ようするに何が言いたいかというと、日本人にとっても一番しっくりくる「バロック的な安心感」の正体は、結局18世紀中旬前後の流行音楽のセンスではないかと。
で、18世紀中盤までに協奏曲作曲家として人気をはせた巨匠たちのほか、コレッリやパーセルなどごく一部の17世紀作曲家も好き...というような現代日本人の感覚は、考えれば考えるほど、18世紀のイギリス紳士たちの音楽趣味に酷似しているのです。そう——18世紀のイギリスで人気だった作曲家の音楽は、必ずや「日本の平均的なバロック・ファン」に受け入れられる。
その意味でほんとうに大推薦なアルバムが、バロック・ヴァイオリン奏者ライナー・アルントの主宰するRamee
レーベルから届きました。18世紀英国で最も人気だったヘンデルと古き名匠コレッリ、楽譜出版の販売部数でヘンデルと並んだジェミニアーニらとともに、当時の有名な英国人音楽著述家ジェンキンズが「現代のビッグ4」と絶賛していたのが、本盤の主人公サンマルティーニ——ミラノ交響楽派の祖G.B.サンマルティーニの兄でオーボエ奏者としても活躍、唯一リコーダー協奏曲1曲だけが飛びぬけて有名なこの作曲家は、1750
年に急逝した頃には名声の絶頂期にあり、新作を求める愛好家たちの声に応えて遺作から数冊の曲集がさらに編まれたほどの人気ぶり。本場イタリアから来たセンス抜群の作曲家、というわけですが、事実その作品はヴィヴァルディの突飛すぎるところをセンスよく収め、アルビノーニの食い足りないところを数段面白くし、ジェミニアーニに比肩しうる先進性をひとたらし。独特の古典派寄りな耳馴染みの良さなども含め、どれを聴いても「もう1曲!」と聴き進めてしまう不思議な多彩さと面白さにあふれていて。
しかも本盤の演奏は、ラ・プティット・バンドやレザグレマン、アムステルダム・バロック・オーケストラなどの超一流団体ともメンバーが多々重複するベルギーの俊才集団、アンサンブル・レ・ムファッティ!ブリュッヘ(ブリュージュ)国際古楽コンクールで優勝して以来、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の俊才ローランが吹くバロック・オーボエ独奏も実に魅力的。後期の作品ではナチュラルホルンも活躍、コレッリ流儀の合奏協奏曲はスタイリッシュなヴァイオリンのやりとりと折々の抒情的な和声進行がまあ美しいこと...英国18
世紀の人気者、やっぱりしっくり来ます。 |