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第66号
お奨め国内盤新譜(1)
2012.9.4〜10.19 までの紹介分


ALPHA



Alpha602
(国内盤)
\2940
フォーレ:ピアノ五重奏曲 第1・2 番
 〜ピアノを含む室内楽作品集Vol.3〜


ガブリエル・フォーレ(1845〜1924):
 1. ピアノ五重奏曲第1 番op.89(1905)
 2. ピアノ五重奏曲第2 番op.115(1922)
エリック・ル・サージュ(p)
エベーヌ四重奏団
 ピエール・コロンベ(vn1)
 ガブリエル・ル・マガデュール(vn2)
 マチュー・エルツォグ(va)
 ラファエル・メルラン(vc)
 痛快企画、続々登場——樫本大進参加の大好評・ピアノ四重奏曲集に続いて「高雅なるフランス」と「気鋭のフランス」を1枚で双方強く印象づける五重奏曲集が!
 フォーレ晩期の充実と深まりを印象づけてくれる共演者は、なんとエベーヌ四重奏団!!またもや強力な新譜が出てまいります。

 Alpha レーベルが昨年度よりスタートさせたUt Musica Poesis(音楽は詩なり、詩は音楽なり)シリーズの第4弾リリース、このレーベルですでに11タイトルからなるシューマンのピアノ曲・室内楽作品集を完成させてきたフランス最前線の俊才ピアニスト、エリック・ル・サージュが全5タイトルで世に問う、フォーレの室内楽作品全集の第3弾!
 フォーレ、つまりいうまでもなく「フランスの洗練と繊細」を代表する存在として広く認知されているこの芸術家の真の魅力には、やはり他のフランス音楽と同じく、フランス人やフランスで活躍する演奏家にしかわからない機微があるのでは...と私たちはよく思うわけで、その意味では20 世紀半ばにErato やEMI などで録音されてきた、よりすぐりのフランス人奏者たちの名演群がそうした要求に応えてきたわけです。
 しかし、今や時代は21 世紀——ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』(1955)でLP レコードが出てきたり(そもそもこの映画は白黒です)、『空飛ぶモンティ・パイソン』に冷戦時代ならではのジョークが出てきたりすれば、すでに小さな驚きや違和感(...どちらの映像も、それを乗り越えるくらいの痛快さはあるでしょうが)をおぼえずにはおれなくなっているのと同じように、ステレオ初期のフランス音楽解釈にもある種の(今では決してたどりつけない)風格があるとはいえ、やはりそれらの名演はある意味でもう、私たちと同時代の目線ではないような気がしなくもない。
 その点において、同時代の録音、新しい録音を追い求めつづけることには大きな意義があるわけですが、このエリック・ル・サージュとフランスの演奏家たちによるシリーズはまさに、そうした切り口での「いまの」「フランスでしか聴けない」「フォーレ」の響きの機微というものを、私たちの感性にすんなり届けてくれる点で、まさにかけがえのない新録音になっているのです。
 それがとくに顕著にあらわれているのが、おそらくこのピアノ五重奏曲2曲——というのもフォーレにとって、かたや弦楽四重奏という編成はとりもなおさず「ドイツ音楽」という(彼にとって昔からとても大切だった)影響源の象徴だったともに、かたやそこにピアノを加えたピアノ五重奏という編成は、どちらかといえば19世紀の末に彼をはじめとする一連のフランス人作曲家たちが室内楽を書き始めてからというもの、このジャンルにおける大先輩であるドイツ人たちよりもずっと集中的に傑作を生んできたジャンルでもあるのです(サン=サーンス、フランク、そしてフローラン・シュミット…)。
 そしてフォーレはこの「フランス人ならではのジャンル」ピアノ五重奏曲にかなり後年になってから初挑戦し、第1作は途中で放棄されたものの10年の時を経て完成、さらに第2作は最晩年の英知が結集した傑作...と、どこまでドイツ的なのか、またどこからフランス的なのか、その踏み込み具合はいかにも、同じフランス語を話しながらドイツ音楽(ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト…)に限りない愛も感じている、そんな演奏家たちこそ最も的確にとらえられる——しかも本盤、ル・サージュが共演に選んだのはなんと、Virgin に名盤あまたのエベーヌSQぱドイツ音楽でも実績をあげてきた豪華そのものの超一流だからこそ、Alpha の名に恥じない絶妙のフランス的解釈も可能というものでしょう。もちろん解説充実、全訳付です!
 


Alpha188
(国内盤・訳詞付)
\2940
ラファエル・ピション&Ens.ピグマリオン
 ミサ曲ロ短調の原型

 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
  ミサ・ブレヴィス ロ短調 〜
   1733 年、ザクセン選帝侯フリードリヒ=アウグスト2 世に献呈
    (のちの『ミサ曲 ロ短調』)
ラファエル・ピション指揮
Ens.ピグマリオン(古楽器使用)
ユジェニー・ワルニエ、
アンナ・ラインホルト(ソプラノ)
カルロス・メーナ(アルト=カウンターテナー)
エミリアーノ・ゴンサレス・トロ(テノール)
コンスタンティン・ヴォルフ(バス)
 とてつもない「Alphaのバッハ盤」がまたひとつ登場します!
 「音楽の父」畢生の大作、『ミサ曲 ロ短調』のおおもとの形——つまり、バッハが最初に着想した形は、このような「長大なミサ・ブレヴィス」だった!

 またしても「今秋屈指の話題盤」が到着してしまいました——あのバッハ最晩年の超・傑作にして、この「音楽の父」が人生最後に仕上げた大作声楽曲である「ミサ曲 ロ短調」が書かれたのは、実はライプツィヒから少し離れたドレスデンに宮廷楽団を擁していた、ザクセン選帝侯のカトリック宮廷礼拝堂での上演を見込んでのこと...というのは、バッハ・ファンの間では有名な話。
 しかしバッハ畢生の大作たる『ミサ曲 ロ短調』の全曲録音はどんな指揮者や演奏団体にとっても一大事——本来プロテスタントだったバッハがカトリックのラテン語ミサ曲で声楽作曲の集大成をなした、という点に意識が向き、バッハという芸術家のたどりついた普遍的音楽言語のあり方を探る...という方向で作品の演奏に臨む(そしてそのことにこそ意欲を燃やす)ケースが多いのではないでしょうか(特に、古楽器系ではない往年の巨匠たち)。
 もちろん、そうしたアプローチで突き抜けた名演がいくつも生まれてきたのはまぎれもない事実——しかし、古楽先進国フランスきっての秀逸小規模レーベルAlpha から出てくるアルバムの場合、そんな通り一遍の企画でこの大作へストレートに臨むよりも、こうして「楽譜そのもの」と正面から向き合い、本来あるべき姿、18 世紀当時にありえた姿をひたすら追求する...といった「一味違う」アプローチの方がしっくりくる気がします。
 そしてその演奏結果が、他の並居る名盤群に軽く比肩する、まったく新鮮かつ強烈な印象を残さずにはおかない名演になっている点もまさしくAlpha らしいところ
 ——そう、このアルバムの仕掛け人は、すでに同レーベルで2枚、バッハのミサ・ブレヴィス4曲の録音をリリースし日本でも痛快な売れ行きをみせているフランス古楽界のサラブレッド若手集団、アンサンブル・ピグマリオンを弾いるラファエル・ピションその人なのです!
 彼らはここで、後年ごてごてと追加され、度重なる改訂で整えられていった「クレド(ニカイア信条)」以降の章がいっさいない、最初にドレスデン宮廷に献上されたときのまま、つまり「キリエ」と「グローリア」だけからなる版でこの作品を演奏。しかもドレスデン宮廷の楽団編成を徹底検証、通奏低音から金管の使い方、テンポ設定にいたるまで周到な作品研究のもと、「当時ドレスデンで演奏されたならこう響いていたはず、選帝侯はこの響きを聴いたはず」という、バッハの創意の原点に迫る決定的解釈を打ち出してみせたのです!
 しかも独唱にヴェテラン名歌手カルロス・メーナ、器楽陣も首席奏者に(ヘレヴェッヘやガーディナーの共演者でもある)ソフィー・ジェント、金管に初期のムジカ・アンティクヮ・ケルンでも活躍をみせていた大御所フリーデマン・インマー(!!)...と桁外れの大物がぞろぞろ加わっているのですから、確かにとてつもない名演に仕上がらないはずはないわけです。
 企画の性質上、CD1枚に入っているのも食指をそそる点。指揮者自身による気合の入った解説も例によって(歌詞ともども)全訳付!
 

Alpha533
(国内盤・訳詞付)
\2940
新たなるヒスパニア
 〜新大陸の伝統音楽と古楽器、中米から西海岸へ〜

 ①一番ふつうのラ・バンバ(カスティーリャ兄弟による)
 ②世界地図を見てみたんだが(フアン・コルナゴ 1400〜1474)
 ③マリサパロス(スオラ写本(17世紀)より)
 ④クンベー(サンティアゴ・デ・ムルシア 1682〜1735)
 ⑤ハエンのモーロ娘三人(作者不詳 16 世紀)
 ⑥巨人たちの踊り(サポテコ族の伝統歌)
 ⑦愛をこめて、お母さん(フアン・デ・アンチエータ 1462〜1523)
 ⑧さあハカラだ、みんな(ラファエル・アントニオ・カステリャーノス 1765〜1791)
 ⑨ハカラ(作者不詳 キート・ガト編)
 ⑩ありえないことばかり(ロス・インポシブレス)(サンティアゴ・デ・ムルシア)〜
  泣き虫な彼女(ラ・ジョロンシータ)(旅楽師の歌)
 ⑪七面鳥の調べ(ラ・グアホローテ)(ミステコ族の歌)
 ⑫ラ・ペテネラ(ウアステコ族の歌)
 ⑬雄牛の調べ(エル・トリート)(メキシコの伝統歌)
 ⑭味わい深きもの(ウアステコ族の歌)
 ⑮栗毛のむすめ(旅楽師の歌)
Ens.マーレ・ノストルム(古楽器使用)
ノラ・タッブシュ(歌)
アンドレア・デ・カルロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ&総指揮)
キント・ガート(バロックギター、ビウエラ、打楽器)
ホズエ・メレンデス・ペラエス(木管コルネット、ハラナス、歌)
リンコルン・アルマダ(アルパ)
アンナマリア・ジェンティーレ(ヴィオラ・ダ・ガンバ、ヴィオローネ)
 スペインから新大陸へと渡った人々が根づかせていった古い音楽の系譜を、古楽側といまのラテン音楽シーン、両面からたどる。
 古楽器のオーガニックな音色と、ラテン的情熱!
 思い出したように新譜を繰り出してくるAlpha の白ジャケット・シリーズ「レ・シャン・ド・ラ・テル(大地の歌)」。
 楽譜になっていない口承の民俗音楽や即興系の音楽などが、クラシックのミュージシャンたちと出会った時に起こる驚くべき化学変化を、あざやかな自然派サウンドで収録したこのシリーズには、初期のマルコ・ビズリー&ラルペッジャータによる『ラ・タランテッラ』に象徴されるとおり、クラシックの枠に限られない広範かつ熱心なファンを生み、ジャンル越境型音楽の面白さを知らしめるのに大きな貢献をしてきました。
 最近では英語圏の音楽なども視野に入り、より多角的なってきた同シリーズですが...やはりフランスのレーベル、自家薬籠中とも言えるのは「ラテン系ヨーロッパ」がからんでくるサウンド。
 今回は大西洋を渡り、さらには太平洋側まで視野に入れながら、かつての大航海時代にイベリア半島を離れ、世界の海をまたにかけて活躍したスペイン人たちが残していった音楽が、「新大陸」にどういったかたちで根づいていったのか、それらの末裔は「スペイン古楽」とどれほど深い親和性を持っているのか...と、そうしたコンセプトを「理屈ぬき、聴けば伝わる!」というサウンドに乗せ、じっくり深い味わいの古楽器演奏で愉しませてくれるのです。
 仕掛け人はアンドレア・デ・カルロ——ジャズ・ベーシストとして音楽の世界に入り、イタリアの異才ガンバ奏者パオロ・パンドルフォに師事、若い頃には物理学者を志していたという筋金入りの「ジャンル越境者」。
 すでに16 世紀から新大陸の伝統舞踊などを取り込んできたスペイン古楽の傑作からラテンアメリカ的要素を抽出してみたり、ラテン・ポップのラ・バンバが実は大航海時代に端を喫するものであることを突き止めたり、そういったことを「古楽のオーガニックさと素朴さ」+「ラテンの情熱とうたごころ」な艶やか自然派サウンドに乗せてくるセンスの良さは、まさにため息もの。
 フォルクローレにも通じるそこはかとない郷愁の香りは、冬へ向かうこの季節の空気にしっとり寄り添ってくれそうです。
 古楽肌のファンにも満足いただける詳細解説(これがまたなかなかの充実度)も、歌詞ともども全訳付。商品価値の高いアイテムとしてお届けいたします。

CALLIOPE



CAL7628
(国内盤)
\2940
※在庫限り
CALLIOPE貴重在庫シリーズ
 チェコの名門ターリヒSQの傑作全集から、絶美の2曲

モーツァルト(1756〜1791):
 1. クラリネット五重奏曲 イ長調 KV581
 2. 弦楽五重奏曲 ト短調 KV516
ターリヒ四重奏団
ボフスラフ・ザフラドニク(クラリネット)
カレル・レハク(ヴィオラ)
 Calliope レーベルの超・名盤がまたひとつ、まとまった在庫を確保できることになりました。
 モーツァルトの“枯淡の美”と“疾走する悲しみ”を深く感じさせてやまない不朽の名演、チェコの名門ターリヒSQの傑作全集から、絶美の2曲を。
 LP 時代から「フランス輸入盤」の代表格のひとつだった秀逸レーベルCalliope は、昨2011 年に前経営者が活動を休止したのですが、その屋号やカタログ・在庫などはIndesens!レーベルのディレクターが受け継ぎ、現在はさらなる新譜発売も続けながらCalliope 自体を保持運営している状態——
 過去のカタログはひとまず全て廃盤になり、現在庫がなくなり次第(Indesens!含め、いくつかのレーベルから出ているような仕様変更による音源移行でもないかぎり)プレス切れ・販売終了となる流れだそう...
 Indesens!のディレクターも仕様変更盤を徐々に制作してくれはいるものの、新譜制作と並行しながらだけあって発売点数は限られています。
 そこで、過去の名盤はできるだけ市場流通在庫などをかき集め、ひとたび日本語解説付でリリースして日本でも存在をひろくアピールしてゆこう・というのがスタンスなのですが、このたび新たに一定数を確保できたのは、Calliope が音盤シーンで育ててきた超・実力派たちのなかでも指折りの名門団体、チェコのターリヒ四重奏団によるもの。
 この団体が同レーベルに残したスラヴ系ロマン派作品(ボロディン、チャイコフスキー...)や古典的傑作(ハイドン、モーツァルト...)は実に味わい深く、古楽器演奏の考え方がかなり浸透した今あらためて聴いても、いっさい古びた印象を感じさせない説得力に貫かれています。
 ここにお届けするのは、『フィガロの結婚』の初演後ウィーンで干されはじめたモーツァルトが、独特の哀調そのままに仕上げたヴィオラ2本の傑作弦楽五重奏曲KV516 と、その少し後にすっかり金銭的に行き詰まってしまったところ、鷹揚に金を貸しつづけてくれたプーフベルク氏にせめてもの返礼として献呈された傑作クラリネット五重奏曲——チェコ屈指の俊才奏者ふたりをゲストに迎え、伸びやかな美音が渋いニュアンスを微妙に変化させてゆくところが美しいクラリネット五重奏曲も、かつて批評家の小林秀雄が「疾走する悲しみ」と名付けたことで有名なト短調五重奏曲の静かなドラマも、室内楽大国であるチェコの底力を感じさせる絶美のアンサンブルで、ひたすら深く美しく織り上げられてゆきます。
 原盤には大した解説も掲載されていないところ、日本語解説は別途完備。演奏の魅力を深く堪能できる逸品なのです。

CONCERTO



CNT2069
(国内盤)
\2940
ルケージ(1741〜1801)忘れられた「楽聖の導き手」
 〜ベートーヴェン少年期の「楽長」〜

 アンドレーア・ルケージ(1741〜1801):
  ①ソナタ ハ長調(I:全3楽章)②ロンド ヘ長調(アンダンテ)
  ③ソナタ ハ長調(II:プレスト)④ソナタ ニ長調(I:アレグロ)
  ⑤ソナタ ヘ長調(I:アレグロ)⑥ソナタ ハ長調(III:アレグロ・アッサイ)
  ⑦ソナタ 変ロ長調(I:アンダンテ)⑧ソナタ ヘ長調(II:アレグロ)
  ⑨ソナタ ト長調(アレグロ)⑩ソナタ ニ長調(II:アレグロ)
  ⑪ソナタ ヘ長調(III:グラーヴェ)⑫ソナタ 変ロ長調(II:アレグロ)
  ⑬ソナタ ヘ長調(IV:アレグロ)
  ⑭ロンド ハ長調(アレグロ)⑮ソナタ ヘ長調(V:全2楽章)
ロベルト・プラーノ(ピアノ)
 あらゆる巨匠たちと同じように、楽聖ベートーヴェンも最初から大作曲家だったわけではない...32曲のピアノ・ソナタで歴史に名を刻んだこの大物の少年時代、その創意を導いたのは「音楽の本場」イタリアからドイツに来た巨匠だった...?本場の名手が解き明かす、その真相。
 アンドレーア・ルケージ...と聞いてピンとくる人がおられるとすれば、相当な音盤通・秘曲通か、ないしは筋金入りのベートーヴェン愛好家の方に違いありません。
 1741 年生まれ、つまりボッケリーニやカール・シュターミッツなどと同世代で、おもに18 世紀中後半に活躍したイタリア出身のこの実力派作曲家、歌うようなメロディラインの美質と堅固な曲作りの小気味良さで、古典派前夜のイタリア主導型音楽界ならではの気持ちのよい鍵盤ソナタを多々残しています。
 イメージとしては、かつて巨匠ミケランジェリが好んで弾いていたガルッピやスカルラッティらのソナタと、モーツァルトやハイドンに代表される古典派ソナタのちょうど間をゆくような作風...と思っていただければちょうどよいかも。
 しかしてこのルケージが後半生を送ったのは、ほかでもない、ケルン大司教選帝侯の宮廷——そう、それは折しもこの大司教の離宮のあるボンで、我らがベートーヴェンが少年時代を過ごしていた頃のこと。本場イタリアで修業を積んだのち、ウィーンでドイツ語オペラまで書いて成功を収めたというこの多芸な作曲家は、ボン宮廷の楽長職をベートーヴェンの祖父の後継者として引き継ぎ、オルガンの名手ネーフェに師事しながら宮廷楽員として働いていた少年ベートーヴェンと同じ職場で働き始めたわけです。
 ルケージが少年ベートーヴェンの直接の師匠となったかどうかはいまだ確証がないようですが、音楽学の現場ではしばしば、そのイタリア仕込みの作曲スタイルが少年時代のベートーヴェンに多大な影響を及ぼした...とする説もあるそうで、まったく見逃せない存在なのです。というよりもまず、本盤でロベルト・プラーノなるイタリアの俊才が、ぴりっと引き締まったセンス抜群のピアニズムで聴かせてくれる古典派前夜のソナタがとびきり美しいというのが重要——こうした音楽が少年期の体験として楽聖の脳裡に刻まれ、のちに「鍵盤芸術の新約聖書」とまで呼ばれるようになった32 曲のソナタをベートーヴェンが書く出発点になったというのであれば、これはもう俄然、じっくり聴き深めたくなる内容ではありませんか!
 スカルラッティ風の単一楽章もあればガルッピ風の複楽章もあり、ベートーヴェンと同じ土俵で聴き比べるにも好適な現代ピアノでの演奏も至極痛快な巧さ。適切な解説(訳付)とともに、真相をじっくり聴き究めたいものです。ご注目を!

COO RECORDS


COO-032
(国内盤・2枚組)
\3465
J.S.バッハ ライプツィヒ・コラール集
 〜「バビロンの流れのほとりに」 17 のコラール〜

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
 ①今ぞ来たれ、異教徒の救い主よ(I)BWV659
 ②「今ぞ来たれ、異教徒の救い主よ」によるトリオ BWV660
 ③今ぞ来たれ、異教徒の救い主よ(II)BWV661
 ⑥いと高き天には神のみにぞ栄光あれ(I)BWV662
 ④いと高き天には神のみにぞ栄光あれ(II)BWV663
 ⑤「いと高き天には神のみにぞ栄光あれ」によるトリオBWV664
 ⑦イエス・キリスト、我らが救い主(I)BWV665
 ⑧イエス・キリスト、我らが救い主(II)BWV666
 ⑨おお、神の仔羊は汚れなく BWV656 ⑩今ぞ諸人、神に感謝せよ BWV657
 ⑪主イエス・キリスト、我らを顧み給え BWV655
 ⑫バビロンの流れのほとりに BWV653 ⑬我は神より去ることなしBWV658
 ⑭汝を飾れ、おお愛すべき魂 BWV654
 ⑮来たれ、神よ、創造主にして聖なる霊 BWV667
 ⑯来たれ、聖霊、主なる神 BWV652
 ⑰「来たれ、聖霊、主なる神」による幻想曲 BWV651
岩崎 真実子 ( オ ル ガ ン )
使用楽器:テイラー&ブーディー社 Op.30
(立教女学院聖マーガレット礼拝堂)
 手鍵盤3段と、足鍵盤。いかなる表現環境でも最高の音楽として響くよう整えられた、バッハ盤年の金字塔的傑作「ライプツィヒ・コラール集」—-穏やかに沁みわたるように、音のひとつひとつを丁寧に。
 指定登録文化財の銘器が響かせる、ぬかりないバッハ解釈の味わいを、じっくりと。「音楽の父」ことバッハが、後半生を通じて「自らの仕事の集大成を」と、自分がそれまで手がけてきたジャンルひとつずつと正面から向き合い、至高の傑作をつくりあげていったのは有名な話。
 教会声楽曲では「マタイ受難曲」「ヨハネ受難曲」の浄書譜と『ミサ曲 ロ短調』を、チェンバロの世界では一連の『鍵盤練習曲集』(その最後の巻が「ゴールトベルク変奏曲」)を、そして少年時代から向き合ってきた「教会の鍵盤楽器」オルガンのためには、かつてヴァイマールで過ごした青年期の『オルゲルビュヒライン(オルガン小曲集)』を手直ししながらまとめられた、1曲ごとに壮大かつ充実した音楽世界が広がるオルガン独奏コラール曲を集めた『ライプツィヒ・コラール』を...。
 とくにこのオルガン曲は、視力の衰えきった後も門弟に口述筆記させてまで完成させた、まさに畢生の大作と呼ぶにふさわしい重要な作品集に仕上がっており、名盤も数多いのは言わずもがな。しかしルネサンスから現代まで幅広いレパートリーを早くから手がけ、ボストンのニューイングランド音楽院から帰国後、立教女学院の礼拝堂に自ら東海岸の名工テイラー&ブーディーの楽器を導入した岩崎真実子が、この長年公式奏者として演奏してきた銘器に向かい、4年の歳月をかけてじっくり丁寧に録音していった17曲(完成過程や楽譜の内容に諸説ある終曲は除外)を耳にすると、そのシンプルでありながら気品に満ちた解釈ゆえのことでしょうか、この曲集がしみじみ隅々まで傑作であったことを改めて実感せずにはおれません。
 傑作であればあるほど、ごまかしのない正面からの解釈は難しいもの——そして、それが達成されたときの鑑賞体験の深さ、聴いている私たちを作品そのものの魅力の奥底まで誘ってくれる喜び、それはかけがえのないものがあるのだ、と今更ながらに感じ入らずにおれない...演奏者曰く、設置から30年以上を経てきた今こそ「楽器が空間によくなじむようになった」とのことですが、名技師・小川洋氏による絶妙なワンポイント収録のおかげで、その空間のあたたかさも本盤ではとても綺麗に再現されているのが嬉しいところ。
 自然素材の穏やかな振動が伝わってくるような、包み込まれるような音響空間のなか、バッハ芸術の真髄を堪能できる名演・名録音なのです。
 


COO-029
(国内盤)
\2940
ワンダフル ファゴット 前田正志の初ソロ名義作品
 〜世界の室内楽曲とファゴットの調べ〜

 ラヴェル(1875〜1937):
  ①亡き王女のためのパヴァーヌ *+
 萩 京子(1956〜):
  ②三つの悲歌 *(書下ろし作品)
 林 光(1931〜2012):③ソナチネ風夜曲(遺作)
 ラルフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1872〜1958):
  ④イギリス民謡による六つの習作
 ビゼー(1838〜1875):⑤間奏曲〜
  歌劇『カルメン』より *
 マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ(1895〜1968):
  ⑥エクローグ * +
 ヴァーツラフ・ヤン・シーコラ(1918〜1974):
  ⑦二つの瞑想曲
 アストル・ピアソラ(1921〜1992)⑧タンゴ・エチュード 第3・4番
前田 正志 (ファゴット)
榊原 紀保子(ピアノ)
古川仁美(フルート*)
助川太郎(ギター+)
 あまりにも甘美なラヴェルの調べに導かれ、めくるめく室内楽のひとときへ...
 林光の遺作も含めバレエ伴奏、室内オペラなど他ジャンルとの交流でも柔軟な活動を続けてきた筋金入りの才人が仲間たちと送る、おだやかな変化がひたすら心地よい室内楽世界。
 全員、超実力派揃い。

 ファゴット奏者を主役にしたアルバム...というと「ファゴットにピアノ伴奏だけが延々と続く単調さ」のようなものをイメージされるかもしれませんが、まずは何より「このアルバムは単調さとはまるで無縁」と申し上げておきたいと思います——
 なにしろ本盤、思わぬ多芸な才人が揃う知る人ぞ知る室内歌劇集団「こんにゃく座」で活躍中、また全国規模で封切られる映画収録への参加も珍しくない東宝オーケストラでも、幾多の名作の収録に参画してきた筋金入りの名手、前田正志の初ソロ名義作品なのですから。
 フランス、英国、日本、イタリア、チェコ、アルゼンチン...と世界各地の作曲家によるよりすぐりの名品を集め、伴奏楽器は適宜ピアノとギターとを使い分けながら、どちらも卓越した腕前のパートナーが共演者に付いている。折々に英国帰りの俊才フルート奏者・古川仁美が新たな音色で彩りを添えて、くりひろげられる多彩な近代室内楽プログラムは、それでいて散漫な印象をいっさい与えないのです。
 何はともあれ、冒頭のラヴェル作品の歌いはじめから強く惹きつけられること間違いなしのクオリティ。
 レスピーギとニーノ・ロータのちょうど間をゆく存在ともいえるイタリア近代の名匠カステルヌオーヴォ=テデスコの名品やピアソラ作品など、ファゴットの美音と思わぬ相性をみせる作品の存在も嬉しければ、ヴォーン・ウィリアムズの逸品での絶美の音響空間にもため息がこぼれます。
 こんにゃく座の作曲家である萩京子氏の新作もまた、耳をそばだてずにはおれない魅力に満ちているところ。
 そして今年1月に惜しまれながら亡くなった現代日本屈指の名匠・林光が、本盤制作のため前田氏から委嘱を受け、昨年病床につく前に完成させた遺作『ソナチネ風夜曲』も、本盤の大切な聴きどころのひとつです。
 流して聴くもよし、じっくり1曲ずつ聴き深めてみるもよし。ファゴットという楽器の表現力と可能性をあらためて痛感せずにはおれない、単なるアンソロジー・アルバムとは明らかに一線を画した逸品。
 秋の夜長にも似合いそうな1枚です。どうぞお見逃しなく!

CYPRES



MCYP4633
(国内盤)
\2940
ヴリュールス(1876〜1944)見出されたベルギーの芸術家
 〜ヴァイオリンとピアノのための二つのソナタ(1900/1923)〜
ヴィクトル・ヴリュールス(1876〜1944):
 1) ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1 番 ロ長調(1900)
 2) ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番 ト長調(1922/23)
アンサンブル・ジョゼフ・ジョンゲンのメンバー
エリオット・ローソン(ヴァイオリン)
ディアーヌ・アンデルセン(ピアノ)
 ジョンゲン、イザイ、ルクー...すばらしく繊細なヴァイオリン芸術は、ベルギー近代にあり。
 Cypres レーベルが新たに発掘してきたのは、19世紀末の耽美と新時代の堅固の双方に通じた同国随一の俊才!ジョンゲン作品の復権などにも貢献してきた実力派の充実解釈でどうぞ!

 次にご紹介しているフランクにしてもそうですが、ベルギーという国は地理的にもオランダ、ドイツ、フランスと3つの大国に囲まれていることもあり、クラシックの全盛期でもある19 世紀から20 世紀にかけての楽壇では、フランス最先端のテイストを柔軟に取り入れながら、その素晴しさをドイツ音楽の堅固さと併存させてみせる...というバランス感覚のよい作風の大家が続々とあらわれました。
 しかしベルギーのそうした忘れがたい近代作曲家たちにとって何より不幸だったことが、ふたつあります。
 ひとつは20 世紀前半に起こった2 度の世界大戦で、最も甚大な被害を蒙った国のひとつがここベルギーだったこと。
 そしてもうひとつは、いつも柔軟に新しい文化を取り込もうとする同国の芸術家たちの気質ゆえに、第2 次大戦後は前衛音楽ばかりがもてはやされ、少し前の(そして一部は存命中でもあった)ロマン派末期〜近代の穏健な作風の作曲家たちが、ことごとく存在を無視されるに等しい扱いを受け、忘却の淵へと易々と追いやられてしまった...という悲しい運命の流れ。
 しかし21 世紀のいま、そもそも現代音楽シーンでさえ極度な前衛をよしとせず、あくまで触感確かな響きと流れのある音楽を志向する大家が続々活躍するようになってきた今、そうした「アンチ前衛の晩期ロマン派・近代」あたりの大家の偉業が続々見直されてきているのは、実に嬉しいところでしょう。
 CD 時代になって音盤制作が多少容易になったおかげもあり、たとえばブリュッセルに本拠をおくCypres でもジョゼフ・ジョンゲンの復権に大いに寄与、他の近代フランス語圏ベルギーの巨匠たちを積極的に紹介してきたことでも実績のあるレーベルに育ってきました。
 さて、そんなCypres から「秋の日の、ヴィオロンの...」というヴェルレーヌの詩(上田敏訳)が口をついて出て来そうな、耽美にして堅固な作風を誇るソナタを2曲集めたアルバムが登場いたします。
 作曲者はヴィクトール・ヴリュールス——20 世紀の初頭、ベルギー楽壇の活況に興奮したパリのヴァンサン・ダンディが、ベルギーで聴くべき作曲家といえば何といっても「ジョンゲン、ヴリュールス、A.デピュイだ」と語ったそうですが、さもありなん。美術家・歴史家などとも親交の深かった芸術擁護者オクターヴ・モースとの関わりから生まれたソナタは、その長大さがきわめてしっくりくる曲の組み立て方のセンスといい、折々にため息ものの艶やかなカンタービレがひそんでいたりするところといい、ドビュッシーやフォーレの作風(どちらかといば場後者?)が好きな方にもおすすめできる、えもいわれぬ香り立つような美質に貫かれているのです。
 活動歴は例によって解説書で詳述(もちろん日本語訳付)、ジャケットの美ともあいまって、発見の喜びを薫り高いベルギービールで祝いたくなること必至の商品性の高い1 枚。
 


MCYP4637
(国内盤・4枚組)
\5880
フランク:室内楽作品全集
 〜ベルギー・ロマン派からフランス近代へ〜

セザール・フランク(1822〜1890) :
 ①ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調(vn/p1886)
 ②メランコリー(vn/p 1883)
 ③アンダンティーノ・クイエットーゾ(vn/p 1844)
 ④ヴァイオリンとピアノのための協奏的二重奏曲〜
  ダレラックの歌劇『ギュリスタン』の主題による(vn/p 1844)
 ⑤弦楽四重奏曲 ニ長調(2vn/va/vc1889-90)
 ⑥ピアノ五重奏曲 ヘ短調(2vn/va/vc/p1879)
 ⑦ピアノ三重奏のための三つの協奏的三重奏曲 作品1(vn/vc/p 1843)
 ⑧ピアノ三重奏のための協奏敵三重奏曲 第4番 ロ短調 作品2(vn/vc/p 1843)
 ⑨弦楽五重奏の伴奏を従えたピアノのための独奏曲
  (p/2vn/va/vc/cb 1844)
  ( )は編成と作曲年代
デイヴィッド・ライヴリー(ピアノ)
マリブラン四重奏団(王立モネ劇場のメンバー)
タチヤーナ・サムイル、
ヨラント・ド・マーイエル(vn)
トニー・ネイス(va)
ユストゥス・グリム(vc)
+ コルネール・ル・コント(cb)
 フランス近代を代表する大作曲家にもかかわらず、「全貌」が見えにくい大家の代表格。
 故郷ベルギーの「いま」を代表する王立モネ劇場の俊才たちが結集、自国の巨匠としての若き日からの足跡をじっくり4CDで——ドキドキするロマン派的名作も、晩年の幻の名品も!

 音楽史の折々を代表する巨匠でありながら、ごく一部の作品を除いていっさい見過ごされている大作曲家は少なくありません。『カルメン』と『アルルの女』のビゼー、『わが祖国』と弦楽四重奏曲のスメタナ、鍵盤ソナタだけ有名なD.スカルラッティ、『魔弾の射手』のヴェーバー、今でも多くの人には晩年の交響曲と弦楽四重奏曲しか知られていないハイドン...
 ニ短調の交響曲(1887)とヴァイオリン・ソナタ(1886)だけが飛びぬけて有名なフランクも、まさにそうした一人。
 生まれたのは1822 年、この2曲を書いたときには60 年以上も活躍していたうえ、そもそも天才少年としてデビューしたはずだったのでは? というもやもやが多少なりと解消されるケースがあるとすれば、ジャンルとしてもあまり聴かれないフランス近代のオルガン音楽に興味が出てきた時などでしょうか——
 確かに、パリの聖クロティルド教会での活躍が後年のフランクの名声を育んだ側面もあるでしょうが、そのフランクが実は若い頃、早熟のロマン派作曲家として(そう、ちょうどシューマンが室内楽を書きはじめた頃に!!)思わぬ大作管弦楽曲や室内楽曲をいくつも書いていたこと、それらが決して忘却の淵に追いやられていてよいはずのない逸品ぞろいだったということは、はたしてどのくらいの人に知られているのでしょう?
 ブリュッセルの王立モネ劇場や王立リエージュ・フィルなどとのつながりも深いフランス語圏ベルギー随一のレーベルCypres はいま、満を持して、そうしたフランク初期に遡る室内楽の傑作をすべて、王立モネ劇場のピットを支える凄腕たちの素晴らしい新録音だけで聴かせてくれるというのですから、これはフランス近代好きにはたまらないセットではないでしょうか?
 嬉しいのは、モネ劇場のコン・ミスである異才タチヤーナ・サムイルの弾くヴァイオリン・ソナタと並んで、なぜか滅多に録音されない晩年の弦楽四重奏曲までしっかり収録されているところ(全集なので当たり前といえばそうなのですが)... 歿年のはじめに完成をみた最晩年の充実作なのですが、フォーレのそれと同じく存在すら知らない方が多いのでは。フランス語圏の演奏団体が録音したのは、ひょっとするとこれが初めてかもしれません。
 他の作品すべてに出演している多芸な俊才ピアニスト・ライヴリーの立ち回りも巧みで、これもほとんど存在自体謎の五重奏付ピアノ独奏曲(貴重な録音です!)などでの絶妙名演にも感服。
 フランク単体の日本語文献の少ないところ、全訳付の充実解説も重要なセールスポイントになること必至です!

GRAMOLA


GRML98945
(国内盤)
\2940
バッハの鍵盤芸術を、アコーディオンで
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750)
  1. パルティータ 第2番 ハ短調 BWV826
  2. 目ざめよと呼ぶ声が聞こえ(BWV140 より)
  3. パルティータ 第4番 ニ長調 BWV828
ヴォルフガング・ディメトリク(アコーディオン)
 どんな楽器でも演奏できるけれど、「作曲家自身は知らなかった」楽器での素晴しい演奏は、やっぱりいとおしくてたまらない——アコーディオンで奏でられる、音楽の父バッハの鍵盤芸術の集大成『パルティータ』と、あのあまりにもうつくしいコラール編曲...至福です。
 作曲家自身が何かと自作品の編曲を好んだこともあってか(というより、それが当時の一般的な演奏習慣だったわけですが)、バッハの音楽は意外とどんな楽器で弾いても「やはりバッハはいい!」という結果につながるから不思議なもの...ヴァイオリンのための音楽を鍵盤楽器で、チェロのための音楽をフルートで、歌声のための音楽を金管合奏で、あるいはマリンバやウクレレなど、バッハ自身が絶対知り得なかったような楽器で、驚くばかりの鑑賞体験を提供してくれる凄腕奏者たちもいるほどです。
 しかし、それでもやはり相性というものは確かにあるのかもしれません——そんなことを考えて思わず嬉しくならずにおれないのが、この「アコーディオンで弾くバッハ」。ナポレオン戦争や相次ぐ革命でヨーロッパの市民生活が疲弊していた頃、壊れたパイプオルガンを修復したり新設したりできない教会の区域で礼拝を助ける楽器として生まれた蛇腹鍵盤系の楽器が、アコーディオンの祖先...だったとすれば、1750 年に亡くなったバッハがこの楽器を知っていたはずもないのですが、両手を使う鍵盤楽器でかつオルガンに似た音の特質があり、そのうえクラヴィコードのように「音の呼吸」をつくりやすい、ニュアンスをつけやすい親密な楽器だからでしょうか、その響きはそれらの楽器を愛してやまなかったバッハの音楽に、とてもよく合うのです。
 などと思えるのはしかし、本盤の演奏が並外れて素晴しいから、オーストリアの俊才ディメトリクのセンスが飛びぬけているからなのでしょう。なにしろ彼がここで弾いているのは、バッハが自らの鍵盤芸術の集大成とすべくまとめた後期の大作『パルティータ』からの2編——バッハ本来の企図通りチェンバロ(ないしピアノ)で弾いてもややこしい仕掛けだらけの奥深い大作なのに、それをまるでこともなげにアコーディオンで弾いてみせ、緩急自在のニュアンスで織り上げてゆくなど、そう易々とできることではないはず!
 ヴォルフガング・ディメトリク。10 代初頭からグラーツ音楽院で研鑽を重ね、ドイツの異才シュテファン・フッソングの門下で腕を磨いた末、24 歳の頃にはもう教職について教える立場になっていたというこの名手は、アンサンブル・モデルンやアンサンブル・ルシェルシュなど欧州随一の現代音楽集団のメンバーとしても活躍をみせてきただけでなく、ヴィトマン、フーバー、ヘルスキーといった現代作曲家たちの新作初演にもずさわってきたほか、『ゴールトベルク変奏曲』で鮮烈CD デビューを果たした後、ハイドンのピアノ・ソナタを集めたアルバム(!)があまりにも素晴しい!とオーストリア第1 放送から賞をもらうなど、音盤シーンでも注目すべき立ち回りをみせてきた人だったのでした。
 


GRML98938
(国内盤)
\2940
イングリット・マルゾーナー(p)/フンメル&ベートーヴェン
 フンメル(1778〜1837):
  1.ピアノ協奏曲 第2番 イ短調 op.85
 ベートーヴェン(1770〜1827):
  2 ピアノ協奏曲 第1番 ト長調 op.15
イングリット・マルゾーナー(p)
トーマス・レスナー指揮
ビール=ビエンヌ交響楽団
 「ピアノの貴公子」リストは、この協奏曲でデビューした! 徹底した作品愛が、曲の魅力を十二分に伝えてやまない——モーツァルトの弟子だった名匠フンメルのイ短調協奏曲は、知らずに過ごすのはあまりに勿体ない傑作。堅固で精緻なベートーヴェンも、また美しい。
 美しいジャケットに息をのみます。深まる秋を思わせる紅葉を背景に、ふたりの演奏家——しかし美しいのはジャケットだけではありません。筋金入りの協奏曲アルバムです。
 アルプス山塊のスイスやオーストリアを拠点にインテンスな活躍を続けている気鋭ソリストと俊才指揮者の息はぴったり、演奏は痛快そのもの——ベートーヴェンの第1番の堂々堅固な名演を聴くだけでも、確かに本盤を手にとる価値はあるでしょう。とはいえ、本盤の目玉は恐らく間違いなく「フンメルの第2協奏曲」。生前はモーツァルトに学んだ世界随一のピアニストとして大活躍し、後年は文豪ゲーテが顧問官をつとめていたヴァイマールの宮廷ピアニストに任命されながら、寛容な主君のおかげで諸外国にも演奏旅行に出かけ、ますます名声にハクをつけていった...シューマンの『音楽新報』にもたびたび名前が出てくるくらい、つまり19 世紀前半の、リストやタールベルクやメンデルスゾーンや...といった世代が活躍する前までのヨーロッパでは、およそこのピアノの名手=稀代の作曲家のことを知らない人は皆無だったくらいの著名人、それがこの協奏曲の書き手J.N.フンメル。
 亡くなった直後にロマン派全盛の時代が来て、新しい感性の音楽に埋もれて忘却のかなたへ追いやられてしまい、いま一番有名な曲といえば(生前の活躍からすれば代表作などではまったくない)トランペット協奏曲だけ...という状態ですが、その作品、なかんずくピアノの入る曲をいくつかご存知なら、同時代を生きたベートーヴェンとはまた少し違った趣きのロマン派情緒を深く愛しておられる方も多いのでは。
 つねに穏やかな気高さを保ちつつ、不穏と安定とのあいだで絶妙の起伏をつくりながら語り進められてゆく、そんな音作りの巧みさには、19 世紀人たちの好みの変化などを理由に打ちやられてしまうには惜しすぎる、聴き深めるに足る味わいが溢れているのです!
 その典型例ともいえるのが、本盤の第2協奏曲イ短調——実はこの曲、かのフランツ・リストが少年時代に初めて公開演奏会に出演したさい、協奏曲での演目として弾いてみせた作品として音楽史にも名を刻んでいるのですが、超絶技巧と抒情のブレンド具合がたまらないソロ・パート(名うてのバッハ弾きとして注目を集めつつあるマルゾーナーの、きわめてよく弾き込まれた解釈はまさに絶品!)もさることながら、 管楽器の音色の組み合わせ方といい、弦の交錯で織り上げられてゆく主題展開のセンスといい、なんとなく流し聴いているだけでも引き込まれずにはおれないオーケストラにも聴きどころが満載。
 Hyperion のスティーヴン・ハフ盤が整然と高貴なフンメル像を描き出しているとすれば、こちらは筆致の味わいまで奥深い油彩画のよう——19 世紀初頭の音楽語法を知り尽くし、とりわけ初期ロマン派を得意とするビール=ビエンヌ交響楽団(ビール=ビエンヌは多言語国家スイスの言語国境付近にある、珍しくドイツ語とフランス語の両方がほぼ均等に使われる小都市)の手堅くも躍動感あふれる演奏は、ベートーヴェン作品との相性も抜群。実に聴きごたえあるアルバム、お見逃しなく!

INDESENS!



INDE043
(国内盤・3枚組)
\4200
フランセ 室内楽傑作選
 〜フランス近代の系譜をひく名匠〜
    フランセ自身のピアノ共演を含む貴重な録音

ジャン・フランセ(1912〜1997):
 ①弦楽四重奏曲(1937)②ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ(1934)
 ③主題と変奏 〜クラリネットとピアノのための(1974)
 ④ディヴェルティスマン 〜ピアノと弦楽三重奏のための(1933)
 ⑤十重奏曲 〜弦楽五重奏と木管五重奏のための(1987)
 ⑥八つのバガテル 〜ピアノと弦楽四重奏のための(1980)
 ⑦モーツァルトの五重奏曲KV452にもとづく九重奏曲〜
  オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと弦楽五重奏のための(1995)
 ⑧八重奏曲 〜クラリネット、ホルン、ファゴットと弦楽五重奏のための(1972)
 ⑨ディヴェルティスマン 〜ファゴットと弦楽五重奏のための(1942)
 ⑩クラリネット五重奏曲 〜クラリネットと弦楽四重奏のための(1977)
 ⑪羊飼いのひととき、またはブラッスリーの音楽 〜
  ピアノ*と弦楽五重奏のための(1947・世界初録音)

   ※録音:1996 年・⑧〜⑪2004 年
フランス八重奏団
ジャン・フランセ(p/指揮)
ビンセンス・プラ(fl)
マルク・プープラン(ob)
ダヴィド・ブラスラフスキー(p*)
 忘れちゃいけない記念年作曲家——「妬まれすぎた天才」も今や生誕100周年、同い年のケージとはまるで違う、ひたすら美しく繊細な「フランス近代」の正当な後継者。
 フランセの瀟洒にして深遠な音楽性は、やはりフランス人奏者たちだからこそ隅々まで伝えられるもの...

 「ジャン・フランセ...まるで国旗のような名前ではないか」とは、フランスの大指揮者マニュエル・ロザンタールの言葉——確かに「ジャン」は太郎、「フランセ」は発音上「フランス人」という単語と一緒ですから、いかにもそのとおり。そして実際フランセは20 世紀にあって、ラヴェルやフォーレ、フランス六人組...といった「フランス近代」の路線に連なる名匠として、高雅にして繊細、ダイナミズムにも事欠かない、誰しもを魅了してやまない接しやすさと気高さを兼ね備えた名品を、次から次へと書き続けたのでした。
 ところが、なにしろ時代は20 世紀——同い年のジョン・ケージに代表される「誰もやらなかったこと」のできる作曲家こそ真の現代芸術家だ、とばかり難解・斬新な前衛音楽ばかりがもてはやされた現代楽壇では、多くの人を魅了してやまないフランセの音楽は往々にして不当な軽視の対象にもなってきました。幼少の頃から(めったに子供を教えないと標榜していた)ナディア・ブーランジェに見出され、若い頃から同国の巨匠シャルル・ミュンシュを筆頭に、アンセルメ、オーマンディ、フリッチャイ、シェルヘン...と諸外国の錚々たる巨匠指揮者たちとも仕事をしてきた稀代の管弦楽作曲家にして、「管の王国」出身者にふさわしく管楽器の扱いに通暁していた室内楽作曲家でもあり、かつ自らもピアニスト・指揮者として聴衆を前に活躍をみせてきた。
 .そしてその音楽が高い芸術性そのままに、親しみやすさゆえに多くの聴衆まで味方につけてきたとあっては、自分の偉大さが理解されずにくすぶっていた前衛作曲家たちの嫉妬を買わずにいられるはずもない。彼がミュンシュと写っている写真を見つけた音楽を知らないハウスキーパーが、ミュンシュをヒットラーと混同して彼を告発するや、フランス楽壇はたちまちフランセからあらゆるチャンスを奪ってしまったのです。
 この誤解が長らく晴らされないままだったのは悲運というほかないのですが、幸い諸外国(とくにドイツとイギリス)では彼に対する根強い支持があり、おかげで20 世紀末頃ともなるとようやく、フランス人ならではの機微と抒情を他国の誰よりもみごとにすくいとって表現してみせる同国の名手たちも徐々に増えてきました。

 フランス管楽芸術の素晴らしさを「いま」に伝えてきたIndesens!レーベルがここに送り出すのは、室内楽シーンのみならず無声映画復権などにも寄与している多芸な実力派集団、フランス八重奏団が世紀の変わり目前後に残した、フランセ自身のピアノ共演を含む貴重な録音——否、「貴重な」という以前に、彼らの卓越した室内楽演奏を愉しむだけでも本盤に手を伸ばす価値はある。そういう「名品揃い」の「名演集」としてこのセットが仕上がっているのが、何より大切な点ではないでしょうか。
 フランスにおけるフランセ再評価の第一歩を飾る...などという歴史的意義を抜きにして、ひとたび耳を傾けて頂ければ、フランス近代音楽が好きな方ならすぐに虜になってしまうはず。
 フランセについて詳述された日本語文献も少ないところ、アマチュア奏者にも人気の高い作曲家ですから、解説付で曲数多く・という点も商品性の高さにつながっていると思います。
 


INDE038
(国内盤)
\2940
トマジ:トランペットのための作品全集
 〜フランス近代音楽の系譜〜

 アンリ・トマジ(1901〜1971):
 ①トランペット協奏曲(1948)
 ②3本のトランペットのための組曲(1964)
 ③グレゴリオ聖歌「サルヴェ・レジーナ」の旋律による変奏曲〜
  トランペットとオルガンのための(1963)
 ④クスコの聖週間 〜トランペットと管弦楽のための(1962)
 ⑤トランペットとピアノのための三部作(1957)
 ⑥無伴奏トランペットのための三つの練習曲(1955)
 ⑦礼拝のファンファーレ 〜金管合奏、合唱とソプラノのための(1944)
 ⑧クスコの聖週間〜オルガン伴奏版(1962) 
 
エリック・オービエ(トランペット)
ニコラオス・サマルタノス(p)
ティアリー・エスケシュ(org)
①マリユス・コンスタン指揮
パリ・オペラ座管弦楽団
②アレクサンドル・バティ、
フレデリク・メヤルディ(2nd・3rd tp)
③⑧ティアリー・エスケシュ(org)
④フランソワ=グザヴィエ・ヴィルジェ指揮
ブルターニュ管弦楽団
⑤ニコラオス・サマルタノス(p)
⑦ジャン=フィリップ・ダンブルヴィル指揮
ルーアン金管アンサンブル、
オート=ノルマンディ合唱団、
アンナ・ステファニアク(S)
 「ブラス系ユーザー垂涎」の「フランスもの新譜」、なぜなら主役は天才エリック・オービエ!
 近代フランス音楽界でユニークな存在感を放った作曲家トマジを、その得意分野であるトランペット音楽の世界から味わい尽くす。
 共演陣にも豪華な面子が続々…見逃せません!
 なにしろトマジといえば(楽器奏者ではないクラシック系ユーザーにこそあまり知られていないかもしれませんが)「管楽器の王国」たる20 世紀フランスで活躍したこともあり、管楽器プレイヤーが強烈に入れ込んで演奏したがる絶品名品をいくつも残している20 世紀屈指の巨匠ぱいわば「ヴィドールとロジェ・ブートリの間をつなぐ、ブラス系ユーザー御用達の大家」のひとりなのです。
 そのトマジがとくに数多く名品を残しているのが、金管楽器をソロにした音楽。おもに1940〜60 年代にかけて書かれながら、イデオロギー先行の前衛音楽とは明らかに一線を画した、まるで「ジャン=リュック・ゴダールよりもフランソワ・トリュフォー」とでもいいたくなるような高雅にして親しみあふれる音楽の送り手なのです(作風的には、多少語弊があるかもしれませんが 「フランスのオルフ」「フランスのハチャトゥリヤン」といったところ?)。
 エキサイティングな「クスコの聖週間」の妖艶なバーバリズム的盛り上がり、スタイリッシュなトランペット協奏曲、合唱や独唱まで動員しての官能的な「礼拝のファンファーレ」、そして三つのトランペットや無伴奏トランペットのための異色作...そのどれもが、故モーリス・アンドレの衣鉢を継ぐフランス最高峰の、いや世界最高峰のトランペット奏者エリック・オービエの縦横無尽な演奏で、その美質を幾倍にも増幅させたかたちで私たちの耳に届くのですから、これはもう本当に至高の1枚というほかありません——
 嬉しいことに各曲単位で解説がついていますから(もちろん全訳付でのお届けです)、トランペット愛好家系ユーザー様には確実にレファレンス的存在にしていただけるアイテムとなることでしょう。
 脇を固める共演陣にも、さりげなくパリ管のソリストがいたり、今をときめくブルターニュ管弦楽団がいたり...相当豪華な布陣に、数段跳び抜けた演奏水準にも納得。「これもフランス近代」な官能的・直截的な音楽の魅力が、この演奏水準ゆえに非ブラス系ユーザーにも訴えるものとなっています。
 


INDE042
(国内盤)
\2940
Calliope レーベルの名盤、ここに堂々復活!
 ドビュッシー(1862〜1918):
  1. 神聖な舞曲と世俗の舞曲 〜ハープと弦楽のための
  2. シランクス 〜無伴奏フルートのための
  3. チェロとピアノのためのソナタ
  4. フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ
  5. ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
ジャン=ルイ・ボーマルディエ(fl)
ファブリス・ピエール(hrp)
ピエール=アンリ・クスエレーブ(va)
アンニク・ルーサン(vn)
ジェローム・ペルノー(vc)
エリザベート・リゴレ(p)
ラ・フォリア室内管弦楽団
 機微と瀟洒の国フランスの音楽は、やはり同国の演奏家たちが一番よく知り尽くしている——
 楽譜にひそむ機微を、作曲家と同じ言葉で考え生きてきた百戦錬磨の名手たちが刻んだ、20世紀最後の傑作録音集——Calliope レーベルの名盤、ここに堂々復活!

 今年、生誕150 周年を迎えるフランス近代最大の作曲家ドビュッシー。その一筋縄ではいかない独特の作風は、作曲家自身の個性とも不可分にむすびついていたのでしょう。
 ドビュッシーは若い頃とくに文学青年としても旺盛な活躍をみせ、フランス詩を好んで読み漁ったばかりか、自らペンをとり「ムッシュー・クロッシュ(八分音符氏)」というペンネームで批評家としても辣腕をふるった人。第一次大戦が勃発すると、それまでの欧州全体の芸術音楽の世界でとりわけ大きなムーヴメントを作ってきたドイツの音楽を「憎き敵国の音楽」と嫌い、自ら「フランスの音楽家」と誇らしく自称しながら、太陽王ルイ14世の時代に黄金時代を迎えた古き良きフランス音楽をなつかしみ、ドイツ音楽が影響力を持つようになる以前の、そうした古い時代のフランス音楽の伝統に連なろうとしたのでした...と、ドビュッシーの活動を少し振り返ってみただけでも、彼において「フランス的であること」と「フランス語で考えるということ」がいかに重要だったかが改めて思い起こされますが、そうした「フランス性」がとくに強く問われるのは、おそらく何よりもまず、最晩年にかけて連作として作曲された3曲のソナタにほかならないのではないでしょうか——
 おりしも第一次大戦のさなか、彼は一連のソナタ作曲を通じて「フランスならではのソナタのあり方」を模索、斬新な形式感覚、時には思わぬ楽器の組み合わせで、それらのソナタを完成へと導いてゆきました。「ソナタでありながら、ドイツ的ではない」——この機微を最も正しく理解できるのは、おそらく、生まれたときからフランス語で生活しているフランス人の演奏家たちに違いありません。
 そこで、本盤——これはフランス屈指のインディペンデントレーベルとして、LP 時代から良心的な名盤を連発してきたCalliope レーベルで制作されたものの、昨年同レーベルの運営終了に伴い永遠に廃盤となるや?と思われていたもの。演奏者は全員がフランスの超・実力派室内楽奏者で、他のレーベルで活躍している名手も少なくありませんが、フルートのボーマルディエを筆頭に現役盤は限りなく見つけにくいものばかり。

LAUDA



LAU012
(国内盤2枚組・訳詞付)
\3570
ローマのビクトリア
 〜16世紀、ナヴォナ広場の復活祭〜

《CD I》
 ①8声のモテトゥス「神に歓喜せよ、全地の民よ」(ジョヴァネッリ)
 ②5声の詩編曲「神よ、わたしを悩ませる者はかくも多く(デ・ケルレ)
 ③8声のアンティフォン「それは主が創られたる日」(パレストリーナ)
 ④5声のイムヌス「かくも偉大な秘跡に」(ビクトリア)
 ⑤ファンファーレI(ベンディネッリ)
 ⑥6声のモテトゥス「善き羊飼いは甦った」(ビクトリア)
 ⑦3声のラウダ「キリスト、まことの人にして神」(ラッツィ/ベルカーリ)
 ⑧4声と5声のイムヌス「そなえよ、仔羊の祝宴に」(ビクトリア)
 ⑨6声のモテトゥス「燃えさかるのはわが心」(パレストリーナ)
 ⑩器楽合奏「讃えよ、パスハの生贄を」(インファンタス)
 ⑪4声のモテトゥス「わたしは命あるパン」(ビクトリア)
 ⑫4声のイムヌス「イエスさま、我らが贖い主」(アゾーラ/ビクトリア)
 ⑬リチェルカータ「ラ・ミ・レ・ファ・ミ・レ」(ローディオ)
 ⑭8声のレスポンソリウム「清めよ、古きパン種を」(パレストリーナ)
 ⑮ファンファーレII(ベンディネッリ)

《CD II》
 ①6声のイムヌス「私たちはあなたを讃えます、神よ(テ・デウム)」(デ・ケルレ)
 ②第2旋法による、オルガンのためのティエント(クラビホ・デル・カスティーリョ)
 ③4声のモテトゥス「おお聖なる食卓」(ビクトリア)
 ④8声のセクエンティア「讃えよ、パスハの生贄を」(パレストリーナ)
 ⑤3声のヴィラネスカ「あなたの苦しみを知らなければ」(ゲレーロ/ロペ・デ・ベガ)
 ⑥5声のアンティフォン「甦った救世主は」(アニムッチア)
 ⑦詩編曲による変奏(113編?)「イスラエルを離れ」(コンフォルティ)
 ⑧5声のアンティフォン「そのかたは十字架を背負い」(パレストリーナ)
 ⑨4声のラウダ「わが魂、何を考えているのか」(作曲者不詳/マンニ)
 ⑩8声のアンティフォン「天の皇后(レジーナ・チェリ)」(ビクトリア)
アルベルト・レカセンス指揮
ラ・グランド・シャペル
(古楽器使用)
 知る人ぞ知るスペインの極上知的古楽レーベルLAUDA。
 実は古楽も熱い国スペインで、自国文化への周到な検証とラテン系ならではの美的センスを存分に発揮、美麗Digipack と極上演奏で「パレストリーナとビクトリアの時代」の真相に迫る充実企画

 21世紀以降、スペインは欧州で最も古楽に熱心な専門家の集まる国の一つとして、独特な存在感を放ってきています。
 長らく欧州屈指の歴史ある古楽奏者養成機関バーゼル・スコラ・カントルムでヴィオラ・ダ・ガンバ科を任されてきたジョルディ・サヴァール御大が、故郷スペイン・カタルーニャ地方の音楽院に移ってからのことでしょうか。古楽大国ベルギーや古楽先進国フランスなどと同様、この国にも18世紀以前の芸術遺産がきわめて豊かにあるうえ、スペイン語という話者人口の多い言語での「知」の世界での充実ぶりは目を見張るものがあります。
 なにしろ演奏家たちはラテン気質の猛者ぞろい、そのうえ他国の演奏家たちも、気候も食事もすばらしいスペインには喜んで訪れる…とあっては、古楽に本腰を入れだしたとたん欧州最高峰のメルティング・ポットになったのもうなづけようというものです。
 昨今でこそ経済状況が微妙になったものの、地方政府も積極的に文化活動に投資、豊かな研究&古楽演奏環境が整えられてきた、そんなスペインに冠たる古楽専門レーベルがLAUDA。
 第1弾は、スペイン・ルネサンス最後の巨匠ビクトリアを主人公とする2枚組——『レコード芸術』でもヘレヴェッヘ盤『レクイエム』が特選をとり、さらに来年は日本スペイン通商記念年でますます注目が集まりそうなスペイン音楽史上最高の(そして古楽ファン垂涎の)巨匠ですが、実はこのビクトリア、若い頃にはかなり長いあいだ「永遠の都」ローマで活躍していました。
 カトリック対抗宗教改革まっただなかの当時、そこで活躍していたパレストリーナ(本盤の「裏の主人公」です)を横目に、ビクトリアは同市で幅をきかせつつあったスペイン系の貴族ボルジア家の人々とともに、どのような芸術を育んでいたのか——金管・弦とも名手ぞろいの大編成古楽バンドと精緻な古楽合唱が、理屈抜きに美しい祝典的なサウンドを織り上げてゆくなか、古楽ファン必読の解説も情報満載の読みごたえ。

PAN CLASSICS



PC10270
(国内盤)
\2940
テュルーと2人の門弟〜
 フランス19世紀、失われたフルート楽派〜

 ジュール・ドメルスマン(1833〜1866):
  ①詩のような小幻想曲 ②ボレロ
  ③ピアノとフルートのためのソナタ 第2番 作品23
  ④テュルーに捧ぐ
 ジャン・ドンジョン(1839〜1912):
  ⑤風の歌 ⑥悲歌=練習曲
 ジャン=イ・テュルー(1786〜1865):
  ⑦2本のフルートとピアノのための協奏的デュオ
  ⑧王様のコーヒー
  ⑨ゼルミーラのカヴァティ—ナ
   (ロッシーニの歌劇『ゼルミーラ』1822/26)による)
   ※曲順は①②③⑤⑥⑦⑧④⑨
ラ・ファン・コーンウォール(フラウト・トラヴェルソ)
向山朝子(フラウト・トラヴェルソ2)
トーマス・ライニンガー(フォルテピアノ)
フルート:ゴドフロワ1827〜28年製オリジナル/
ピアノ:ヌーシャテルのクンツ1840〜45年製オリジナル
 ベルリオーズやシューマンらと同じ時代のフルートには、今とはまるで違う響きの質感がある——ノンヴィブラートが限りなく美しい、フォルテピアノも美麗、これがロマン派時代のフルート芸術!
 もちろん解説充実、全訳付。フルートの芸術性を問い直す、極上オリジナル楽器の古雅な魅力。

 古楽奏法の研究や過去の楽器へのまなざしがいっそう研ぎ澄まされてきた昨今、管弦楽作品ばかりではなく、室内楽や独奏曲にも「当時の楽器」を用いようとする傾向は少しずつ高まっている。
 とくに古楽器オーケストラでも折々活躍したり、自分の所属するオーケストラがピリオド志向になって古楽器も使うようになったり...といったことが増え、誰よりも深く古楽器のことを考える機会が多くなるのはやはり、管楽器奏者でしょう。
 そうしたことの結果、このアルバムのように「失われた19世紀の伝統」がいかに素晴しいものであったか、新しい楽器の開発と改良が進んだ19世紀にかたくなに「進化」を拒み続けた音楽家たちの耳や心にも、どれほど貴重な美的感覚が宿っていたか、そうしたことを教えてくれる素晴しい企画が音盤化されたりもするようになったのです(こうした個々の管楽器奏者たちの弛まぬ研究活動や実践への応用が、アニマ・エテルナ・ブリュッヘやシャンゼリゼ管などをはじめとする古楽器使用のオーケストラの指揮者たちにも数々の示唆を与えてきたことは、インマゼールやヘレヴェッヘら指揮者たち自身の証言からもよくわかるとおり—— 古楽器の演奏家こそが担うシーンの最先端、というのが確実にあるのです)。
 本盤は徹頭徹尾、ロマン派時代の艶やかで変幻自在なフルート独奏曲の味わいを愉しませてくれるものですが、どの曲でも使われているのは1827-28 年製の木製フルート。「フラウト・トラヴェルソ」という古楽器風の呼び方が通用しそうな楽器では最も新しい部類に属しますが、名手ファン・コーンウォール(「ファン」以外は英語読みで、と本人の希望)はそれをノンヴィブラートで、まっすぐ素朴な、木材の温もりそのままの美音でふわりと鳴らしてみせる...その絶妙の吹き口にぴたりと合った音楽の数々を書いたのは、19世紀初頭から半ばにかけ、フルート製作と演奏技術のあり方が最も大きな変化にさらされた時期を生きたフランスの作曲家たち。現代フルート運指の基礎となったベーム式キィ・システムがドイツで特許認定され、いちはやくパリ音楽院にベーム式フルートが採用されたのが1839 年だそうで、その少し前からパリ音楽院で教鞭をとっていたテュルーはこれに猛反発、キィが少なく管内が末端に向かって円錐状に広がっている18 世紀以来の古風なフルートこそ至高!という立場を崩しませんでした。
 そのテュルーと志を同じくしていた製作家ゴドフロワの貴重な現存オリジナルに、共演者のピアノもアップライト風の1845 年製オリジナル...という、まさに19 世紀初頭のサロンをそのままに再現したセッティングで綴られるテュルーの一門の音楽に、気分は時間旅行さながらです。楽器を変え、その道の専門家が吹けば「サロン向け小品」と軽視されてきた音楽がこれほど豊かになるものなのですね!

PAN



PC10274
(国内盤・訳詞付)
\2940
ゼレンカ 独唱のためのモテット集
 〜バッハの同時代人、さらなる傑作教会音楽〜

ヤン・ディスマス・ゼレンカ(1679〜1745):
 ①復活祭のモテット「野蛮に残酷に、かつ荒々しいのは」ZWV164(1733)
 ②聖母マリアのアンティフォン「贖罪主のやさしき母なるかた」ZWV126(1730)
 ③ヒポコンドリア(憂鬱質の人)ZWV187 〜
  2本のオーボエ、ファゴット、2部のヴァイオリン、ヴィオラと
   通奏低音のための(1723)
 ④救世主(ルビ☆キリスト)、憐れみたまえ 〜ZWV29(1740)
 ⑤哀歌 III-2(『聖金曜日のための第1・第2哀歌集』より)ZWV53-6(1722)
 ⑥オラトリオ『贖い主の聖墓の前、悔い改める者たち』序曲 ハ短調 ZWV63(1736)
 ⑦降誕祭のモテット「おお、偉大なる玄義」ZWV171(1723/28)
 ⑧独唱モテット「炭鉱夫たちは、気をもみながら金鉱をもとめる」ZWV209
ドミニク・キーファー(vn)指揮
カプリッチョ・バロック合奏団
アレックス・ポッター(カウンターテナー)
(古楽器使用)
 バッハも一目置いた、いや人によっては「バッハ以上!」と評することさえある幻の名匠ゼレンカ。
 バッハのカンタータとフランス・バロック教会音楽のあいだをゆくような、あまりに繊細な旋律美とコントラストの魅力を、古楽のメッカ・バーゼルの俊才たちが心ゆくまで。見逃せない1枚です!

 ゼレンカ『誓願のミサ』の名演(Zig-Zag Territoires:ZZT080801)が驚くほどの反響をいただいたのをよく覚えています(というより、このアルバムは今でもセールスが続いているだけでなく、つい先日発売になったばかりの『婦人画報』で、江川紹子氏の連載ページでもとりあげていただいたばかり)。
 なぜか? それはゼレンカの書く作品、なかんずく教会音楽(本来ならそう売れるジャンルではないはずですよね?)が、人の心を不思議とゆさぶってやまない強烈な表現力をいつも秘めているから——修道院こそが音楽家育成の拠点になっていたチェコで生まれ、敬虔なカトリックとして育ち、彼が着任する少し前に政治的理由でカトリックに改宗したばかりのドレスデン宮廷で、礼拝堂のための作曲家として熱心に曲を書き続けたゼレンカの作品は、同時代のテレマンや大バッハ(!)でさえ絶賛を惜しまなかったほどだったのです。
 本盤はそんなゼレンカ教会音楽の魅力を最も端的に伝える、独唱と小規模楽団のための声楽作品を集めた1枚なのですが、そもそも演奏陣がとてつもない実力派揃いというか、一聴してわかる「絶妙にうますぎる古楽器演奏」に仕上がっているのが嬉しいところ!
 カプリッチョ・バロック合奏団は(かつてレオンハルトやアルノンクールを、その後もサヴァール、バンキーニ、ガッティ...と桁外れの名匠を続々育ててきた)古楽教育の超名門・バーゼル・スコラ・カントルムで腕を磨いた俊才たちが、そのありあまるみずみずしい感性をひとつにして「歴史に埋もれた秘曲の魅力を解き明かす!」ということに命をかけている頼もしい団体なのです。
 『哀歌に駄作なし』と言われるほど名曲の多い聖週間のための小品での、ひたすら静謐な通奏低音伴奏——そしてガット弦の意気揚々とした交錯が意気揚々と独唱を盛りあげる急速楽章での、バッハのカンタータ群にも比肩しうる華麗な抑揚...独唱にはヘレヴェッヘ、ヘンゲルブロック、ベルニウス...といった古楽合唱畑の巨匠たちに鍛えられてきた英国の俊才ポッターが立ち、日本の古楽声楽ファン...いやバッハの声楽作品をこよなく愛する日本のファンが最も心そそられるに違いない、あのまっすぐな美声(たまりません)でゼレンカの絶妙な旋律美を歌い上げてゆくのですから、少し試聴するうち心動かされること必至!
 ゼレンカの活動歴をたどった解説(訳付)も的確で面白く、訳詞とともにじっくり味わい尽くせるアルバムになっています。



ZIG ZAG 旧譜
ゼレンカ:ミサ曲「誓願のミサ」

ZZT080801
(国内盤)
\2940
ヤン・ディスマス・ゼレンカ(1679〜1745)
 ミサ曲 ホ短調 ZWV18「誓願のミサ」(1739)
ヴァーツラフ・ルクス指揮
コレギウム・ヴォカーレ1704、
Ens.コレギウム1704(古楽器使用)
ZZT 080801
輸入盤
¥2800→¥1790
 早くから由緒正しき精鋭楽団、ドレスデン宮廷楽団にヴィオローネ(コントラバス)奏者として参加していたチェコ出身の音楽家ゼレンカは、後から人気作曲家ハッセが仕事仲間に加わり、宮廷の趣味を最新のイタリア・オペラ全盛にしてしまったため、宗教音楽の大家として活躍をみせるチャンスに恵まれなかったと言われていますが、敬虔なカトリック教徒だったゼレンカの残した教会音楽は、いわばプロテスタントにおけるバッハの作品にも充分すぎるほど張り合える、驚くべき表現力が凝縮された傑作の連続にほかなりません。
 1738 年、大きな病魔に襲われ「この病を生き延びたら、神への感謝をミサ曲のかたちで残す」と願いをかけたゼレンカが、翌年めでたく快復したあとに作曲した『誓願のミサ』は、この作曲家の晩期における途方もない深まりを十全に示してやまない名品——いや、無名古楽作品と思って聴き始めたら、おそらく仰天してしまうに違いありません!
 バッハの大作群にも比しうる長大さ、先の読めなさ、和声展開の妙、息をもつかせぬ躍動感、静謐な弱音の響き...圧倒的な聴きごたえは、CD1枚の収録時間を埋め尽くす演奏時間がむしろ短く感じられるほど。躍進めざましいチェコ古楽界をベースに、すでにヨーロッパでは引く手あまたの多忙な俊才ヴァーツラフ・ルクスの率いる精鋭集団が、合唱の他はオーボエ属と弦だけとは思えないほど精緻なアンサンブルで、その魅力を十二分に伝えてくれます。


何度も紹介してすみません・・・
店主がゼレンカに、そしてヘンゲルブロックに開眼した1枚

独HM
88697 52684- 2
\2500→\1790

最近少しジャケットが
変わったみたいです。
ゼレンカ:ミゼレーレ ハ短調
J・S・バッハ:カンタータ第12番「泣き、嘆き、憂い、怯え」BWV.12
アントニオ・ロッティ:3部合唱のためのミサ曲
トーマス・ヘンゲルブロック(指揮)
バルタザール=ノイマン合唱団と管弦楽団

 プラハ城のほとりにロレッタ教会という聖母マリアにちなんだ教会がある。かつてモーツァルトもそこを訪れ、オルガンを弾いたという。
 そのロレッタ教会から歩いてすぐのところに、客が3,4人も入ればいっぱいになりそうな小さなクラシックCD専門ショップがある。
 そこで珍しいCDがないかいろいろ物色していた。

 そのとき、今回のチェコ旅行最大の衝撃が店主を襲った。
 いや、店主の長いような短いような35年のクラシック視聴人生の中でも10本の指に入る恐るべき体験。

 突然、これまでまったく聴いたことのない宗教曲が始まったのである。
 それがすごい曲だった。
 魂の底を干渉するかのような地獄的な通奏低音に、漏れそうな吐息をそのまま肺に戻させるような迫力の合唱。しかもその展開は背筋が戦慄するほどに刺激的で天才的。

 誰だ?こんな曲を作ったのは!?
 この劇的なまでの痛切さ!これに匹敵できるのは、ただモーツァルトのK.626のレクイエムだけか・・・?
 とにかく常人ではない。
 見たいような見たくないような、おそるおそる、試奏中のアルバムに手をやる。
 ・・・誰だ?

 ・・・ジャン・ディスマス・ゼレンカ。

 ゼレンカ?
 あのゼレンカ?
 初心者の頃バロック音楽の代表的な作曲家の勉強をしていると、イタリア人でもドイツ人でもフランス人でもイギリス人でもなく、突然「ボヘミア人」という肩書きでポツンと、完全に浮いた形で登場する後期バロックの作曲家がいた。それがゼレンカ。・・・当時、どう分類していいのかわからず、理解の妨げになるので、いなかったものとしてノートから消したりした。その後ARCHIVなどから出た代表的作品のアルバムを聴いてみたが、かつて「いないものとして」存在をムリヤリ封じ込めたその作曲家の作品は、どう聴いても魅力的に思えなかった。
 最近になっても、ときおりバロック宗教作品アルバムの中に1曲が入っていたりすることはあったが、とくに店主の印象を変えてくれるようなことはなかった。
 そんな、店主にとってはどうでもいい、いるのかいないのかどっちでもいいような、あのゼレンカ・・・?
 まさか。
 しかし何回CDのジャケットを見ても、それはまちがいなくゼレンカの作品だった。まさに今自分が足を踏み入れているここボヘミア出身の。
 このプラハまで来たのなら、これまでの非礼を許して、この地方出身の作曲家の最高の音楽を堪能させて上げよう。・・・まるで神様がそう言っているかのようにその音楽は店主の耳に鳴り響いた。

 怒涛の合唱が終わり、ようやく曲名をみた。
 ミゼレーレ。
 ゼレンカのミゼレーレ。・・・あったか?全然知らない。
 曲はわずか15分ほど。あっという間に終わる。前半の激しいMISERERE部分と中間の穏やかなGLORIA PATRI、そしてラストにもう一度MISEREREが戻ってくる。
 曲としては中間部がやや天才的な魅力に欠けるきらいもある。とはいえ両端部のMISEREREの突出した異様なまでの存在感を浮き立たせるにはかえって好都合。ラストにMISEREREがもう一度始まったときは全身に鳥肌が立った。
 そして曲が終わった。
 心が落ち着くまでには少し時間が必要だった。胸の高鳴りを押さえ、店頭に飾ってある1枚を買って帰った。

 しかし旅先で恋に落ちることがよくあるように、これもちょっとした気の迷いかもしれない。帰国してから数日して、ようやく再びそのアルバムをかけた。
 気の迷い?とんでもない!
 スピーカーから響いてきたその曲は、あのプラハで聴いたときよりなお一層の迫力と衝撃で眼前に鳴り響いた。信じられない。
 先ほども言ったが、これほどの音楽はモーツァルトのK.626だけじゃないのか・・・。というか、あのK.626に強い影響を与えたんじゃないかと思いたくなるほど・・・この曲のインパクトは大きい。
 こんな曲があるのだ。
 数多くの名盤を抜き去り、今年最高のアルバムはプラハで出会った。

 蛇足ながら、数少ない同曲の別演奏も聴いてみた。全然違う。ものすごく生ぬるい演奏もあった。
 それを思うとこの録音は、ドイツの俊英ヘンゲルブロックが再発見し、作品を洗いなおし、改めて世に問うた、きわめて貴重なものだったのかもしれない。


 


PC10272
(国内盤)
\2940
イタリア初期バロック、通奏低音楽器による器楽作品さまざま
【登場する作曲家】
 ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィターリ(1632〜1692)
 ◆ジローラモ・フレスコバルディ(1583〜1643)
 ◆ドメーニコ・ペッレグリーニ(17 世紀前半〜1662以降)
 ◆ディエゴ・オルティス(1510〜1570)
 ◆ベッレロフォンテ・カスタルディ(1581〜1649)
 ◆バルトロメオ・セルマ・イ・サラベルデ(1580 頃〜1638 以降)
 ◆アダム・ヤジェンプスキ(1590〜1649)
 ◆フランチェスコ・ロニョーニ(1570〜1626)
 ◆ジュゼッペ・コロンビ(1635〜1694)
 ◆ユリウス・デ・モデナ(1498〜1561)
【収録作品】
 ①B 字のルッジェーロ、B 字のベルガマスカ(ヴィターリ)
 ②2声の低音旋律のための第16カンツォーナ(フレスコバルディ)
 ③X のためのクラント(ペッレグリーニ)
 ④「甘き思い出」による第1レセルカーダ(オルティス)
 ⑤半音階的コルレンテ(カスタルディ)
 ⑥2声の低音旋律のための第14カンツォーナ「漁村の女」(フレスコバルディ)
 ⑦低音部独奏のためのファンタジア(セルマ・イ・サラベルデ)
 ⑧B字のトッカータ、B字のチャコーナ(ヴィターリ)
 ⑨ひとつの数字にもとづくカプリッチョ(ヴィターリ)
 ⑩2声の低音旋律のための第4カンツォーナ (フレスコバルディ)
 ⑪コニスベルガ(ケーニヒスベルク)(ヤジェンプスキ)
 ⑫オルランドゥス・ラッススの歌「シュザンヌはある日」(ロニョーニ)
 ⑬チャッコーナ(コロンビ)
 ⑭低音部独奏のための第7カンツォーナ「目の覚めるような淑女」と、
   2声の低音旋律のための第15カンツォーナ「ラ・リエヴォラータ」(フレスコバルディ)
 ⑮甘美なるタステッジョ(カスタルディ)
 ⑯雷に打たれたガリアルダ(カスタルディ)
 ⑰E字のパッサガッリ(ヴィターリ)
 ⑱第10リチェルカール(デ・モデナ)
ユナイテッド・コンティヌオ・アンサンブル(古楽器使用)
 いまの欧州古楽界は、ほんとうにエキサイティング——はじく音、こする音、叩く音、それらが入り乱れオーガニックな古楽器サウンドで織りなされてゆく、興奮必至な至福の聴覚体験!欧州随一の精鋭集団が、バロック初期の楽器を堪能させてくれます。
 同種盤でも、これは出色の仕上がり!
 現代楽器とはさまざまな点で異なり、演奏やメンテナンスが容易でないかわり、自然素材と簡素な構造のおかげでひときわオーガニックな、人間サイズの音楽を紡ぎ出してくれる「古楽器」——その魅力を十全に伝えられるのは、ほんとうに経験豊かな、卓越した腕前をもつ古楽器奏者だけ...であるとすれば、熾烈な競争社会でもあるドイツ古楽界で腕を磨いてきた凄腕たちが集まっているユナイテッド・コンティヌオ・アンサンブルによる本盤の突き抜けた面白さ、味わい深さ、センスの良さといったものは、やはり出色の出来として強くおすすめするに値するのだと思います。
 本盤のテーマは「通奏低音楽器」——まだ楽器の統一規格がなかった16世紀末に始まった、バロック特有の演奏習慣。
 伴奏パートは低音部のメロディだけ音符にして数字を添えたシンプルな楽譜にし、演奏者の手に入る楽器で自由にそれを弾くという通奏低音書法は、すぐに欧州全土で流行するところとなりました。おかげで「通奏低音楽器」つまり和音を出せたり、低音域のメロディが弾けたりする楽器も大いに発展したところ、「それならいっそ、伴奏だけでなく主役の楽器も低音楽器にしてしまおう!」と、低音楽器が首座をとる楽曲まで登場しはじめたのが17 世紀。このアルバムでは、そうした低音楽器主役の器楽合奏曲をはじめ、パッサカリアやクラントのような舞曲なども交え、17 世紀初頭の「新たな音楽先進地」イタリアで生まれ育った極上のアンサンブル作品を次々と、まるで飽きさせない変幻自在の演奏で愉しませてくれるのです。
 編成はヴィオラ・ダ・ガンバにヴィオローネ(チェロとコントラバスの中間をゆく「小型コントラバス/大型ガンバ」)、ドルツィアン(初期ファゴット)、トロンボーン、テオルボ(大型リュート)、バロックギター、リュート、チェンバロ、室内オルガン、そして打楽器。
 さきのテレマン盤(PC10238)でもみせた多元的な対応力が、本盤でもますます冴えわたります。

PHI



LPH006
(国内盤・訳詞付)
\2940
J.S.バッハという、新しい聖歌隊監督
 〜1723年、ライプツィヒ着任初年度の多彩なるカンタータ4編〜

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
 1. 教会カンタータ
   『まともなところもありません、
     このわたしの肉体には』BWV25(1723.8.29)
 2. 教会カンタータ
    『なぜ苦しむのか、わが心』BWV138(1723.9.5)
 3. 教会カンタータ
    『あなたの僕(しもべ)を
     裁きにかけないでください』BWV105(1723.7.25)
 4. 教会カンタータ
    「しかし見よ、そこに悲しみがあるかというなら」BWV46(1723.8.1)
( )内はライプツィヒでの初演年月日
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(古楽器使用)
ハナ・ブラジコヴァー(S)
ダミアン・ギヨン(C-T)
トーマス・ホッブズ(T)
ペーター・コーイ(Bs)
 こんなタイミングで「ヘレヴェッヘのバッハ」のさらなる新譜に出会えるとは、なんと嬉しいこと!
 めったに録音されない意外な秘曲カンタータも含め、暗中模索でカンタータを書きはじめた「音楽の父」ライプツィヒ着任当初の多芸ぶりを、あまりにあざやかな演奏で聴ける喜び...!痛烈な新譜の登場です。

 『ヨハネ』『マタイ』両受難曲の画期的な古楽器演奏をはじめ、バッハ作品の演奏にはとりわけ定評のあるフィリップ・ヘレヴェッヘが、2010 年に発足させた自主制作レーベルPhi から送り出す充実企画…
 現状の最新盤であるビクトリアのレクィエム(LPH005)が現在発売中の『レコード芸術』史上で特選となったこの瞬間に、30 年来のホームグラウンドであるコレギウム・ヴォカーレ・ヘントを率いた彼の最新録音で、バッハの思わぬカンタータが4編も聴けるとは。
 独唱陣は、これもまた少し前に『レコード芸術』特選をマークした「ミサ曲ロ短調」(LPH004・2枚組)のときと同じ超・精鋭陣、器楽陣営にもオーボエのマルセル・ポンセール、金管のアラン・ド・リュデル、木管コルネットのブルース・ディッキー(!)、オルガンには近年ZZT レーベルでダミアン・ギヨンとの絶妙なバッハ・アルバムを制作してくれたモード・グラットン...とすばらしい名手が居並び、きわめて充実した古楽解釈を鮮やかに織り上げてくれています。
 しかし今回、注目すべきはそのアルバムコンセプト——ヘレヴェッヘがこの4曲をプログラム選んだのは、ちゃんとわけがあるのです。
 アルバム原題は「おお、この甘美なる渇き...!」——カンタータの詩句からとられた一節と思われますが、それはバッハが齢40 を目前にした頃ついに射止めた「ルター派教会の聖歌隊監督(カントール)」という立場で、海綿が水を吸うかのごとき貪欲さで新作カンタータを次々書かずにはいられなかった、そんな気持ちを代弁する言葉として掲げられているわけです。
 事実、彼は曲順選択にも周到なセンスをみせており、明らかに古風すぎる異質な冒頭合唱をトロンボーン群が支えるBWV25 で始め、オーボエ・ダモーレや金管楽器のソロが印象的な作品をへて、最後にイタリア的要素がいたるところで興を添えるBWV46 へと至る、つまり17 世紀ドイツの伝統から新時代へと至るバッハ独自の模索と芸術性進展を、このプログラムひとつで象徴的に示してみせたのです!
 バッハ・アルヒーフのヴォルニー教授による解説はまたしても充実至極(全訳付)、ジャケットの美麗さも含め、あらゆる点でスキのない、それでいて寛いだ音楽愛・作曲家愛を感じさせてやまない、極上のバッハ新譜。




話題の2タイトル

LPH005
(国内盤・訳詞付)
\2940
ヘレヴェッヘ&コレギウム・ヴォカーレ・ヘント
 ビクトリア:レクイエム

トマス・ルイス・デ・ビクトリア(1548〜1611):
 ①逝ける者への聖務日課(レクィエム)
  〜皇太后マリア・デ・アウストリアの逝去に寄せて(1605)
 ②おお、主イエス・キリスト(1585)
 ③主よ、わたしは取るに足らない者です(1583)
 ④ごきげんよう、天の皇后(サルヴェ・レジーナ)(1576)
 ⑤わたしは立ち上がり、かの町に行こう(1572)
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント
ハナ・ブラジコヴァー、
ドミニク・フェルキンデレン(Sop1)
ジュリエット・フレイザー、
ズュジ・トート(Sop2)
アレックス・ポッター、
アレクサンダー・シュナイダー(C-T)
シュテファン・ゲーラー、
デイヴィッド・マンダロー(Ten1)
ヘルマン・オスヴァルト、
マヌエル・ヴァルヴィッツ(Ten2)
ペーター・コーイ、
マティアス・ルッツェ、
アドリアン・ピーコック(Bs)
LPH005
(輸入盤)
\2400→\1890

日本語解説なし
 『ロ短調ミサ』の興奮さめやらぬまま、名匠ヘレヴェッヘはいま「原点」へと立ち戻る——。極限まで絞られたルネサンス小規模編成で、歌い手は全員が精鋭ソリスト。
 峻厳・端正、スペイン・ルネサンスの最後を飾る大家ビクトリアの、あまりにも美しい世界へ...!

LPH004
(国内盤2枚組・訳詞付)
\4200
ヘレヴェッヘ&コレギウム・ヴォカーレ・ヘント
 バッハ:ミサ曲 ロ短調 BWV232(1733〜1749)
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(古楽器使用)
ドロシー・ミールズ、
ハナ・ブラジコヴァー(S)
ダミアン・ギヨン(C-T)
トーマス・ホッブズ(T)
ペーター・コーイ(Bs)
LPH004
(輸入盤2枚組)
\3500→¥2990

日本語解説なし
 20 年以上前の録音から一転、バッハ生涯最後の大規模声楽作品を、長年の経験の末ついに再録音!




RAMEE



RAM1108
(国内盤)
\2940
中世のチェンバロと、笛の調べ〜中世北イタリア、ゴシック期の器楽芸術〜
 ①ある日、美の女神は(ドナート・ダ・フィレンツェ Pit)
 ②誇り高き鷹(Fa)仲よくできないのは、欲望と、希望(Fa)
 ④喜ばないようにするために(ギラルデッロ・ダ・フィレンツェSq)
 ⑤無題の小品(Fa 第93 葉表面・第94 葉表面)⑥ガエッタ(L)
 ⑦ディアナはもう恋人に(ヤーコポ・ダ・ボローニャ Fa)
 ⑧サルタレッロ(L)
 ⑨優美なる鹿、気高きけもの(バルトリーノ・ダ・パドヴァ Fa)
 ⑩素敵な花ひとつ(アントニオ・ザカラ・ダ・テナーモ Fa)
 ⑪楽しいことの始まり(L)
 ⑫ロゼッタの調べ(アントニオ・ザカラ・ダ・テナーモ Fa)
 ⑬めでたし海の星(グレゴリオ聖歌 Fa)⑭無題の小品(Fa 第49 葉 裏面)
 ⑮わたしが家路をたどるとき (ギヨーム・ド・マショー MA)
 ⑯皇帝は座し(バルトリーノ・ダ・パドヴァ Fa)
 ⑰なぜなら、わたしの悲しみは(ギヨーム・ド・マショー MA)
 ⑱なんという痛み(フランチェスコ・ランディーニ Fa)
 ⑲サルタレッロ(L)

  【楽譜出典】
   Fa:ファエンツァ区立図書館 MS117(通称「ファエンツァ写本」)/
   L:英国国立図書館 Ms Add.29987/
   Pit:パリ、フランス国立図書館 イタリア叢書568/
   Sq:フィレンツェ、メディチ=ラウレンツィアーナ図書館Platino87
    (通称「スクヮルチャルーピ写本」)/
   MA:パリ、フランス国立図書館 フランス叢書1514(マショーA 写本)
コリーナ・マルティ(中世チェンバロ、各種中世リコーダー)
 時代は飛んで、ルネサンスよりもさらに昔の中世へ——理屈抜きに音の美にも浸りたい、ダ・ヴィンチらルネサンス絵画の三大巨匠さえまだ活躍していなかった頃、すでにチェンバロがこんなに美しい音楽を奏でていた!
 リコーダー無伴奏曲も素朴で快い、いとおしき古楽器盤。

 古楽器の録音と言えば、後々まで末永く味わえる充実した企画ばかりを出してきてくれているのが、ラ・プティット・バンドやリチェルカール・コンソートなど古楽大国ベルギーの一流楽団でバロック・ヴァイオリン奏者として活躍してきたライナー・アルントの主宰するRamee——誰も知らなかったすてきな音色の楽器、誰も知らなかった思わぬ作曲家の名品、そうしたものを集めてくるセンスは、やはり自分が発見し、弾く側の人間だったからこその視点があるからなのでしょう。
 近年ヨーロッパの古楽界で研究者・実践者として目覚ましい躍進をみせている中世音楽のパイオニア、コリーナ・マルティも、このレーベルが見出し世界に広めた俊才のひとり...2008 年には現存最古のチェンバロ(15 世紀末製、縦型のドイツ製楽器)をモデルに復元した中世チェンバロを用い、リュートとの共演で『最古のチェンバロ、その傍らに』(RAM0802)という注目アルバムを発表、その前には十字軍時代のキプロス島にあったフランス君主の国に花開いた声楽芸術に注目(RAM0602)、このアルバムは今なお売れています。
 そんな「発見」の視座が新たに着目したのは、研究者たちのあいだではつとに知られた「ズヴォルのアルノー」なるオランダのフランス人が残した1440 年のチェンバロ設計図をもとに復元した楽器による、前作よりもさらに古い時代の鍵盤作品アンソロジー!15 世紀中盤以前、マショーやランディーニといった中世末期の大家たちの作品を織り交ぜながら、中世でも最重要の器楽曲集のひとつ『ファエンツァ写本』の作品を中心に、ダ・ヴィンチらルネサンス絵画の三大巨匠さえまだ活躍を始める前の「中世のチェンバロ音楽」を次々に綴ってゆくのです!
 チェンバロのような新発明楽器が奏でられるのは非日常、祝宴の席...というセッティングで、祝いの場には欠かせなかったリコーダー作品も無伴奏でいくつか演奏(ひとりで何種もの楽器をこなせるのが、本物の中世音楽専門家たちのすごいところ)。教会での自然派録音でほどよい残響感とともに収録された古雅なチェンバロの美音が、素朴なつくりの音符の並びのなかで端正に響きわたる...弦に楽器の爪が当たり、たわみ、爪が外れて音が作られる瞬間ひとつひとつが、限りなくいとおしく感じられてなりません。解説充実、全訳付。Digipack ジャケットの美しさも魅力です。


コリーナ・マルティ旧譜
目からうろこ系の中世アルバム・・・
Von elder Art
RAM0802
(国内盤)
\2940
『最古のチェンバロ、その傍らに』
 〜15世紀 ゴシック期のリュートと鍵盤音楽

 『ローハム歌集』より 3曲
 『ブクスハイム・オルガン写本』より12曲
 バーゼル大学図書館所蔵の写本より 4曲
 ウィーン、オーストリア国立図書館所蔵の
 写本より 4曲 他、計26曲収録
コリーナ・マルティ(クラヴィシテリウム=竪型チェンバロ)
ミハル・ゴントコ(リュート、ギテルン)
 中世末期、ゴシック時代——古雅なエキゾチズムもただよう「ほぼ最古の鍵盤音楽」の時代は よく考えてみたら、リュート音楽さえも発展途上!
 典雅にして涼しげな音響世界を 「中世キプロスの音楽」(RAM0602)でヒットを飛ばしたユニットが、じっくり愉しませる!
 ラ・プティット・バンドやリチェルカール・コンソート、レザグレマンなどで活躍してきたバロック・ヴァイオリン奏者ライナー・アルントが録音・主宰する優良古楽レーベルRAMEE、快進撃は続きます!
 古楽アーティストが運営しているだけに、「音」へのこだわり、企画のユニークさ・最先端ぶりには毎回まったく驚かされるが(他でやってないことばかり、しかもいちいち素敵な結果!)今度の新譜はなんと「ゴシック時代の鍵盤音楽&リュート音楽」——考えてもみてください、チェンバロ音楽の歴史を遡ると、だいたい有名どころではバッハやスカルラッティ→クープラン→フローベルガー→フレスコバルディ→イギリスのヴァージナル音楽…と、せいぜい16世紀後半が「最古」あたりなわけですが、ここに収められた作品群ときたら、なんと15世紀のものが大半。まともなチェンバロはおろか、活版印刷術も鉄砲もない頃の鍵盤音楽とは!
 トン・コープマンが手がけたときも教会の大オルガンでしか録音していない15世紀の貴重な資料『ブクスハイム・オルガン写本』(この頃「オルガン」といえば「鍵盤楽器」くらいの意味)からの曲目をメインに、古風なおもむきの中世旋法がうつくしい佳品の数々を、現存最古のチェンバロと目されている、ロンドン王立音楽アカデミーのクラヴィシテリウムにもとづく銘器で、たおやかに聴かせてくれるのです!
 コピー制作は現代きっての名工E.ジョバン——レオンハルト御大の名盤(Alpha026)や、某誌特選に輝いたクラヴィコード盤(MFUG508)も彼の手がけた楽器が使われているが、ここでもチェンバロとはまた違う、リュート風ミュートのかかったような妙音が美しく。必聴モノ!
 で!考えてみれば、15世紀までさかのぼってしまうと、チェンバロどころかリュートの音楽だってまだまだ未開発の発展途上なわけで。当時の音楽理論書によれば、鍵盤楽器はしばしばリュートとのデュオで弾かれることが多かったらしく、そんなわけで本盤ではリュートがクラヴィシテリウムの伴奏的に参加するだけでなく、こちらもきわめて貴重な15世紀末のタブラチュアなどをもとに「最古のリュート独奏曲」の世界までも復元してしまうという周到さ!
 演奏は、一昨年から連綿売れ続けている『中世キプロスのフランス音楽』(RAM0602)の仕掛け人ふたり。あの納涼サウンドにも通じる、忘れがたい音響世界をどうぞ!

 


RAM1204
(国内盤)
\2940
音楽不毛の地?いや、17世紀の英国はこんなにもがんばっていた!
 ふたつのヴァイオル 英国音楽の分岐点
  〜17世紀英国、リラ・ヴァイオル二重奏のための音楽さまざま〜

【登場する作曲家】
 ジョン・ジェンキンズ(1592〜1678)
 ウィリアム・ロウズ(1602〜1645)
 クリストファー・シンプスン(1605頃〜1669)
 ジョン・バニスター(1624〜1679)
 トーマス・バルツァー(1631 頃〜1663)
 ソロモン・エックルズ(1649〜1710)
  ①リラ・ヴァイオルのためのコンソート ニ長調(ジェンキンズ)
  ②二つのディヴィジョン・ヴァイオルとオルガンのための組曲ト短調(ロウズ)
  ③二つのヴァイオルのためのディヴィジョン第7番ト長調(シンプスン)
  ④プレリュード(バルツァー)
  ⑤ジョン・エックルズ氏のグラウンドによるディヴィジョン(エックルズ)
  ⑥二つのヴァイオルのためのディヴィジョン第1番ハ長調(シンプスン)
  ⑦リラ・ヴァイオルのためのコンソート ニ短調(ジェンキンズ)
  ⑧二つのヴァイオルのためのディヴィジョン第5番ヘ長調(シンプスン)
  ⑨バニスター氏のグラウンドによるディヴィジョン(バニスター)
  ⑩リラ・ヴァイオルのためのコンソート ニ短調(ジェンキンズ)
Ens.ミュージック・アンド・マース(古楽器使用)
イレーネ・クライン、
ヤーネ・アハトマン(vg)
アマンディーヌ・ベイエール(vn) 他
 「ピューリタン革命で、英国音楽は枯渇した」...?いやいやいや、17世紀こそは英国音楽が最もエキサイティングだった時代のひとつ。「知られざる古い響き」を伝えるRameeの新録音は艶やかさとダイナミズムが交錯する、ルネサンスからバロックへの極上ヴィオラ・ダ・ガンバ音楽!
 クラシックの世界で、いったい誰がいつ「イギリスは音楽不毛の地」という世評を作ったのやら——おそらく19 世紀、ロマン派初期のことでしょう。当時はパリのグランド=オペラ作曲家たちをはじめとするフランス語圏の巨匠たち、ウィーン古典派から初期ロマン派へいたるドイツ語圏の作曲家たち、いわずもがなイタリアのベルカント・オペラ作曲家たち...といった外国人たちがロンドンでも大いに幅を利かせていたところ、外国文化好みの英国人たちは自国の作曲家たちにあまり関心を払わなかったのですから。
 いまの音楽史はおおむね19 世紀以降のドイツ語圏で作られたので、英国人をひいきにする理由はなく、結果なしくずし的に「英国=音楽不毛の地」の図式ができあがってしまった次第。しかし!そもそも今の英国はどうでしょう?ビートルズを生んだこの国の音楽界は、実は19 世紀だけが妙に自己評価の低い時代だったのであって、18 世紀以前、とくに14〜17 世紀の英国は立派な音楽先進国でした。
 中世末期にはフランス人作曲家たちやネーデルラントの作曲家たちが英国の作曲家たちを手本にしていたほどで、17 世紀にもフランスやドイツの作曲家たちが、英国のヴァイオル(ヴィオラ・ダ・ガンバ)のための合奏曲をさかんに模倣していました。本盤に収録されているのは、そうした「ヴィオラ・ダ・ガンバ音楽の先進国」としての英国をありありと印象づける、17 世紀中盤から後半にかけての名曲の数々。この時期にはリラ・ヴァイオル(イタリアのヴィオラ・バスタルダとも関係があると言われる、独奏用のガンバ)のための音楽が人気を得て、ふたりの独奏者のための二重奏作品が数多く書かれました。
 ルネサンス期のガンバ四重奏・五重奏は名盤も多いところ、この時期の英国のガンバ二重奏は意外に名盤がなかなか出ないもの。
 ドイツ古楽界の最先端をゆく(かつては俊才ヒレ・パールも参加していた)ユニット「ミュージック・マース」が、一部ヴァイオリンを使う新時代の曲ではなんと(Zig-Zag Territoires に名盤あまたの)俊才アマンディーヌ・ベイエールも交え、オーガニックな羊腸弦の響きをしなやかに操り、豊かなる17世紀英国音楽の変遷をじっくり味あわせてくれます。「古い時代の知られざる音はRamee」の面目躍如な1枚です!

RICERCAR



MRIC203
(国内盤)
\2940
お早目にどうぞ!
アドルフ・サックスと19世紀のサクソフォン
 〜サンジュレーの作品を中心に〜

ジャン=バティスト・サンジュレー(1812〜1875):
 ①デュオ・コンセルタン([ピアノ伴奏付の]協奏的二重奏曲)作品55 〜
  ソプラノ・サクソフォン、アルト・サクソフォンとピアノための
 ②田園幻想曲
 ③テナー・サクソフォンとピアノのための協奏曲 作品57
 ④演奏会用独奏曲 第7番 〜
  バリトン・サクソフォンとピアノのための
 ⑤サクソフォン四重奏曲 第1番
ジュール・ドメルスマン(1833〜1866):
 ⑥セレナード 作品33
ザ・サクソフォン・プレイヤーズ(古楽器使用)
クリスティアン・ドベック(s-sax)
ギィ・グータルス(a-sax)
ローラント・シュナイダー(t-sax)
ウルリヒ・ベルク(br-sax)
ギィ・パンソン(p/エラール1870年頃製作オリジナル)
 楽器の発展は、意外と最近まで続いていた——つまり、ロマン派全盛の19世紀はわりと「異世界」。
 古楽大国ベルギー発、Ricercar レーベルが復活直後にリリースした充実盤は、19世紀製の貴重な古楽器サクソフォンでの絶妙名演! 演奏者コメント含め充実解説の全訳付。

 「古楽器演奏」はバッハやヘンデル、ヴィヴァルディなど、18 世紀前半以前のバロック音楽をより作曲者の意図に近く演奏するための行為...という認識も今は昔、1980 年代にはモーツァルトやベートーヴェンの古楽器演奏による録音も始まっていたくらいで、今やドビュッシーやストラヴィンスキーやプーランクなども「当時の楽器」を使って「作曲家の本来の意図」を探ろうとする試みもあるほど。それは決して過激な発想でもなんでもなく、なにしろ楽器(とくに、管楽器)の改良の工夫というものは20〜21 世紀にも絶えず続けられているわけで、裏を返せばロマン派全盛の19 世紀にはまだ、多くの楽器が今のそれとは全く違う形状・機構・奏法・音色で奏でられていたのです。
 有名なところでは、ブラームスのホルン三重奏曲(1865)が実はヴァルヴ装置ぬきのナチュラルホルンのために書かれていたり、メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』(1842)の楽譜にはチューバではなくオフィクレイドを使う指定があったり...。
 そうしたわけで、1846 年にベルギーの管楽器製作者アドルフ・サックスが製造特許登録をしたサクソフォンという管楽器も、当時はいまジャズ・シーンで使われている楽器とはかなり違う美意識で音作りがなされていました。その当初の発展を支えたのが、ブリュッセルの王立モネ劇場管弦楽団でコンサートマスターをしていたヴァイオリニスト=作曲家のJ-B.サンジュレー。サックスを吹いたことのある方々なら、サックスの「発明者」アドルフ・サックスの友人でもあったこの作曲家が残した、数多くのロマン派情緒漂う名品をご存知のはず。少し時代は違いますが、何か特定の楽器と深く結びついた作曲家という意味では、いわばギター界のソルやジュリアーニ、コントラバス界のボッテジーニやドラゴネッティ、フルート界のタファネルやクーラウ...といった感じの存在かもしれません。
 その代表作のひとつであるサクソフォン四重奏曲第1番まで含め、4種類のサクソフォンのみならず伴奏のピアノもすべて19世紀から現存するオリジナル楽器を使い、まだ発明されて間もないこの楽器がどのような美質をもっていたのか、古楽大国ベルギーで活躍する超実力派奏者たちの離れ技で堪能できるのが、このアルバム。
 同国随一の古楽レーベルで『Ricercar 古楽器ガイド』の版元でもあるRicarcar が、2004 年の経営体制変更直後に制作した名盤ですが、演奏者コメントも収録した解説もかなり長く充実しているので、ここに解説訳付の国内仕様でお届けする次第です(楽器の機構や成立事情もさることながら、オリジナル楽器で四重奏の音色を揃える苦労など、卓越した演奏からは窺い知れない配慮や苦労も一読の価値あり)。
 なお、この時期に制作されたCD は最近いったんプレス切れになると再プレスまで相当時間がかかるか、最悪再プレスなしというケースも多くなっておりますので、お早目にどうぞ!

SAPHIR



LVC1161
(国内盤)
\2940
モーツァルト:ソナタ第11番「トルコ行進曲」と四つの変奏曲
 〜KV331・398・455・500・573〜

モーツァルト:
 ①ピアノ・ソナタ 第11 番イ長調 KV331「トルコ行進曲」
 ②パイジェッロの歌劇『哲学者気取り』の
  「主よ、幸いあれ」による変奏曲 KV398
 ③グルックの歌劇『メッカの巡礼』の
  「愚かな民が思うには」の主題による変奏曲 KV455
 ④アレグレットと12 の変奏 KV500
 ⑤デュポールのメヌエットによる変奏曲 KV573
ヴァディム・サハロフ(ピアノ)
 フォルテピアノも、破天荒な解釈も、もちろん面白い——しかし、現代音楽畑で活躍してきた名手サハロフが紡ぎ出すのは、絶妙に過不足のない、限りなくやさしいモーツァルト。
 パッケージも新たにDigipackで美しく。「トルコ行進曲」の静かな興奮から、枯淡の境地へ...

 作曲家たちが知っていた当時の楽器を、当時の奏法・スタイルで...という新録音がすっかり増えてきた昨今ですが、そのかたわらでシュニトケやシルヴェストロフといった前衛作曲家たちの新作を積極的に紹介してきたピアニストが、現代ピアノを使った驚くほど正攻法の名演でモーツァルトを聴かせてくれたりするから、音楽シーンは奥が深いなあ...とつくづく思います。
 2011 年にいったん屋号を畳んだフランスの名門レーベルCalliope が積極的に支援し、かけがえのない名盤を作り続けてきた稀代の名手たちのひとりヴァディム・サハロフは、日本の音盤業界では鬼才ギドン・クレーメルの共演者として、ロッケンハウス音楽祭をはじめとする前衛音楽の世界で活躍してきたことでも有名なロシアのピアニスト——アルノンクールとクレーメルによるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲録音でも、現代作曲家シュニトケが作曲した、ベートーヴェンがこの曲のためには1音も書いていない楽器であるピアノを登場させたカデンツァの部分で演奏に参加するなど、何かと先鋭的な活躍ぶりがめだつ弾き手という印象をお持ちの方も多いかもしれません。
 しかし、たびたび日本でも行われてきた彼の単独リサイタルを聴かれた方ならご存知の通り、サハロフの弾く古典的レパートリーは何よりもまず、いつも変わらぬ徹底した美しさに貫かれているもの...日本にも門弟の多いピアニストではあると思いますので、門外漢の自分がその真意をどうこう邪推するのもはばかられるのですが、モーツァルトのピアノ曲のなかでもとりわけ有名な「トルコ行進曲」のソナタを軸に据え、作曲年代もさまざまな四つの大作変奏曲をあわせて収録するという構成で録音されたこのアルバムこそ、そのことを演奏そのものが実証してやまない、一度聴いたらその後の人生でも何かと聴き返したくなる、そんな美質に貫かれた逸品になっているのは、動かしがたい事実だと思うのです。
 トルコ風の行進曲で終わるソナタ第11 番も冒頭楽章は変奏曲、つまりこのアルバム全体のテーマとして「変奏曲」があるわけですが、それは18 世紀当時サロン音楽の最も重要な演目であったとともに、家庭でピアノを弾くアマチュア子女向けの楽譜として最も人気のあったタイプの楽曲でもありました。
 自ら貴族たちのサロンを渡り歩く凄腕ピアニストとして人々を驚かせもすれば、特定の雇い主なしにもウィーンでオペラを書きながらピアノを教えるだけで生きていけた時代もあった、そんなモーツァルトの喜怒哀楽に思いを馳せて聴くもよし、気分転換や仕事の合間に1曲じっくり聴くもよし。
 


LVC1177
(国内盤)
\2940
〜2台のピアノで聴く、チャイコフスキーの3傑作〜
 チャイコフスキー:
  1) 交響的幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」(アンセル編)
  2) 『くるみ割り人形』組曲(エコノム編)
 パウル・パプスト(1854〜1897):
  3) チャイコフスキーの歌劇『エフゲニー・オネーギン』
   による演奏会用パラフレーズ
リュドミラ・ベルリンスカヤ、
アルチュール・アンセル(p)
 クリスマス前に、これは嬉しいリリース——ロシアとフランスのつながりは、いつだって実り豊か。
 ボロディン四重奏団の伝説的名チェロ奏者の娘ベルリンスカヤが、気心の知れたフランスの俊才とくりひろげる絶妙のデュオは、最高にファンタスティック、息をのむほど玄妙で、シンフォニック。
 今から10 年くらい前、とある料理雑誌のプレ創刊号で「二か国料理」という絶妙な特集が組まれていたことがありました。フレンチ×和食、エスニック×イタリアン...というように、常識にとらわれず明らかに違うタイプの料理をふたつかけあわせて素敵なおいしさにたどりつこう、というアイデアの提案で、目から鱗のレシピがたくさん載っていて刺激を受けたのをよく覚えています。ともあれ、そこまで世間の通念をくつがえさなくても、昔から豊穣な結果を生む組み合わせの「お国柄」というのは多々あったのも事実。中国のお茶を好きになった英国人たちのアフタヌーンティ、オランダ人やベルギー人たちのゴシック〜ルネサンス絵画が妙に似合うスペインのプラド美術館、なぜかアルメニア人が妙に活躍している20 世紀アメリカ文学...例をあげだすときりがないのですが、そうした異文化交流でもとくに間違いなく実り豊かな結果が生まれやすいのは、やはりフランス文化とロシア文化のむすびつきではないでしょうか——
 そもそもフランス料理のフルコースからしてロシアの正餐の要素を取り入れた産物だと言われますし、かたやロシアは19 世紀半ばくらいまで、上流階級の人々がロシア語では手紙も書けず、パーティなどの集まりでもロシア語では洗練された会話術もないためフランス語でしか話さない...などという時代が続いたとか。そして芸術の領域では言うまでもなく、ディアギレフ率いるパリのロシア・バレエ団がストラヴィンスキーと上演してきた素晴しい舞台の数々を思い浮かべずにはおれない——
 そう、この二つの国は何よりもまず、音楽と舞踏によって阿吽の呼吸で心を交わすことができるのです。
 そうしたロシア=フランスの芸術的親和性をあらためて痛感させてくれるのが、そぞろクリスマスのことを考えつつ、フランスの新酒を待ちながらロシアの雪景色に思いを馳せたり...というような気分になってくる頃、お目見えするこのアルバムぱSaphir レーベルではフランス派の大御所ヴァイオリニスト、ジェラール・プーレとの録音ですでに一度登場しているロシア新世代の俊才ピアニスト、リュドミラ・ベルリンスカヤ(ボロディン四重奏団のチェロ奏者ベルリンスキーの愛娘で、ただでさえ才能に恵まれているところ、父の友人たちである大御所奏者たちに早くから薫陶を受けてきたサラブレッド的名手です)。
 異様なまでのバランス感覚と舞踏センスさえ感じさせるピアニズムをみせるフランス人奏者アルチュール・アンセルと組んで描きあげる、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」組曲を中心とする管弦楽作品やオペラの「2台ピアノ版」の数々。
 連弾よりもさらにシンフォニックな表現が可能な2台ピアノのアンサンブルは、彼らのふたりの名手にかかるや実に多元的なめくるめく世界を描き出す——
 瑞々しくも多彩な音色美のカラフルさは、フランス人ならではのセンス全開なDigipack のジャケットの美麗さとあいまって実に心地良く、バレエ音楽のリズムで続く音の紡ぎ方、完璧な阿吽の呼吸に、まさに「くるみ割り人形」の物語のごとく、どんどん陶酔の世界へと引き込まれること間違いなしです。
 辛口なフランス批評界も、このアルバムには続々と絶賛を寄せはじめているところ——秋冬のあいだじっくり付き合いたくなる、素敵な1枚なのです。
 


LVC1178
(国内盤・2CD)
\3465
ドップラー兄弟 フルート作品集Vol.2&3
 〜19世紀最大のフルート芸術家兄弟〜

フランツ・ドップラー(1821〜1883)&カール・ドップラー(1825〜1900):
 ①ベートーヴェンの主題による変奏曲 作品43
 ②『みずみずしきハンガリー音楽の真珠』第1集(チャルダーシュ選)+
 ③ブラウンの歌曲「母の心だけが」による幻想曲 作品41
 ④エルケルの歌劇『ラースロー・フニャディ』による幻想曲++
 ⑤アメリカ風デュエッティーノ 作品37
 ⑥オベールの歌劇『ポルティチの物言わぬ娘』によるフルート二重奏曲
 ⑦グノーの歌劇『ファウスト』による幻想曲++
 ⑧サロン風夜想曲 作品17
 ⑨ヴェーバーの歌劇『プレチオーザ』によるフルート二重奏曲
 ⑩マイヤベーアの歌劇『悪魔ロベール』による幻想曲I
 ⑪マイヤベーアの歌劇『悪魔ロベール』による幻想曲II
 ⑫2本のフルートを伴う歌曲「羊飼いの調べ」+
 ⑬『みずみずしきハンガリー音楽の真珠』第2集(チャルダーシュ選)+
 ⑭ヴァラキア地方の歌さまざま 作品10
 ⑮フルート、ヴァイオリン、チェロとピアノのための夜想曲 作品19
 ⑯サロン風マズルカ 作品16
 ⑰ドニゼッティの歌劇『連隊の娘』によるフルート二重奏曲
 ⑱愛の小唄 作品20
 ⑲ロッシーニの歌劇『セビーリャの理髪師』によるフルート二重奏曲
  〔無印:フランツ・ドップラー作曲/
   +...カール・ドップラー作曲
   ++…兄弟で共作〕
クラウディ・アリマニ(fl)
アラン・ブランチ(p)他
①-⑲クラウディ・アリマニ(fl)
⑥マクサンス・ラリュー、
⑰工藤重典、
⑨⑫ヤーノシュ・バーリント、
⑲マッシモ・マルチェッリ(fl)
①③⑤⑧⑭⑱アラン・ブランチ、
②⑬マルタ・グヤーシュ、
④⑦⑩⑪⑭ジョン・スティール・リッター、
⑫ミシェル・ヴァゲマンス(p)
⑤ジョアン・エスピーナ、
⑮クリスティアン・シヴュ(vn)
⑮マグダレーナ・マナージ(vc)
⑫イングリド・ケルテシ(S)
 ロマン派時代を代表するフルート芸術家ながら、驚くほど録音がなされないドップラー
 その体系的録音が、贅沢すぎるほどの演奏陣で登場!貴重な2本フルート作品を吹くのは日本を代表する世界的フルート奏者と、巨匠ランパル最後の大物弟子...実に豪華です

 「管楽器の王国フランス」とよく言いますが、名手は他の国にも多々いました。たとえば19 世紀最大のオーボイストのひとりパスクッリはイタリア人でしたし、クラリネットの名手ベールマンはドイツ人。
 そしてフルートの世界には『ハンガリー田園幻想曲』で作曲家としても有名なフランツ・ドップラーが、オーストリア=ハンガリー帝国から世界に出て大活躍をみせました。
 弟カールもやはりフルート奏者=作曲家として活躍、若い頃にはデュオ活動でも有名でしたが、なにしろ一人一人が腕達者なので、そんな贅沢な饗宴活動は10 年ほどで終わり、弟カールはブダペストとシュトゥットガルトで、兄 フランツは帝都ウィーンでそれぞれ要職につき、作曲活動にもいそしんだのでした。
 今は亡き巨匠ジャン=ピエール・ランパル直系の愛弟子であるスペイン人奏者クラウディ・アリマニは、秘曲発掘に熱心だった師匠の衣鉢を継ぐかのごとく、このドップラー兄弟の作品を近年、まとめて続々Saphir レーベルに録音しはじめています。
 すでに工藤重典との共演によるVol.1 が好評をもって迎えられたのち、今回は2枚組特価での新譜登場——19 世紀ならではのオペラ原曲による幻想曲群をはじめ、2本のフルート、弦楽器を交えての室内楽...とその内容はかなり多様。原作オペラを知らずとも、フルートという楽器がロマン派やベル=カントの語法でここまで自由自在に、深みの点でも申し分ない音楽を綴りうるものだったのかぱと、あらためて感慨が深まるはず。
 しかも本盤では2本フルート無伴奏作品や弦楽器、声楽家も参加する小品があったりと、曲目構成も前作以上に充実しています。


なぜか初紹介
ドップラー兄弟 フルート作品集第1弾

LVC1119
国内盤
¥2940
フランツ・ドップラー(1821〜1883)&カール・ドップラー(1825〜1900)

1)ハンガリーの主題によるデュエッティーノ作品36sk
2)アンダンテとロンド作品25ca
3)ハンガリー風幻想曲作品35+ca
4)シューベルトの歌劇『謀反人』による演奏会用パラフレーズ作品18sk
5)プラハの追憶作品24+sk
6)ブラヴーラ風ワルツ作品33+ca
7)ヴェルディの歌劇『リゴレット』の主題による幻想曲+ca
8)アデリーナ・パッティ夫人の追憶sk

無印...フランツ・ドップラー作曲/
   +...フランツ&カール・ドップラー作曲
工藤重典sk、
クラウディ・アリマニca(フルート)
 ...第1フルート演奏曲を略号で表示
アラン・ブランチ(ピアノ)
ロマン派まっさかりのドイツ語圏で、天才兄弟が綴りつづけた艶やかなフルート芸術!離れては近づき交錯し協和しあう二筋の旋律。
現代最高の顔ぶれによる、待望の録音。

 

LVC1128
(国内盤)
\2940
シュールホフとスミット フルートを伴う室内楽作品集
 〜忘れられた近代フルート芸術 アムステルダムとプラハで、そして…〜

エルヴィーン・シュールホフ(1894〜1942):
 ①フルート、ヴィオラと
  コントラバスのためのコンチェルティーノ(小協奏曲)(1925)
 ②フルートとピアノのためのソナタ(1927)
 ③ズージ 〜フルートとピアノのためのフォックス・ソング(1937)
レオ・スミット(1900〜1943):
 ④フルート、ヴィオラとハープのための三重奏曲(1926)
 ⑤フルート、ハープと弦楽三重奏のための五重奏曲(1928)
 ⑥フルートとピアノのためのソナタ(1943)
  ※曲順は①④②⑤③⑥
ヴィルジニー・ライベル=エスコフィエ(p)
ダヴィド・ハルチュニアン(vn)
フローラン・ブレモン(va)
ベアトリス・プティ(vc)
フィリップ・ノアレ(cb)
ヴァレリア・カフェルニコフ(hrp)
ロマン・デシャルム(p)
 ドビュッシーをはじめ、フランス音楽のデリケートな新機軸をあざやかに取り込んだ近代音楽。
 パリ管、ベルリン・フィル、バレンシア歌劇場...と世界的な超一流楽団でピッコロを吹いてきた異才のフルートを軸に、ハープや弦にも超実力派が揃う「消された名曲」の美しき真相とは...?
フルートと、ハープ。繊細なフランス音楽を想起させずにはおかない組み合わせです。ドビュッシーの有名な三重奏ソナタを皮切りに、20 世紀初頭の近代音楽の世界には、これら二つの楽器(ないしそのどちらか)をさまざまなかたちで取り込んだ名曲が意外に多いのですが、よく知られている曲はごく少ない。
 .それではもったいないぱとアルバム制作に乗り出したのが、フランス楽壇の最先端で活躍する名手たちをよく知っているSaphir レーベル。企画提案はしかし本盤の主人公、ライベル=エスコフィエという桁外れのフルート奏者から出されたもののようです。
 彼女の本職はピッコロ奏者で、実はパリ管弦楽団とベルリン・フィルをまたにかけてピッコロのソロを吹いてきたという超・強者ぱもちろん多少低い音域のフルートでも実に艶やか、深みある多彩な音色で名演を聴かせてくれるわけですが、彼女のみならず共演者たちも腕利き揃い。ハープは(近年ストラヴィンスキーの「古楽器録音」で有名になった)レ・シエクル管弦楽団でソロをつとめる異才ロシア人奏者、ピアノは飛ぶ鳥を落とす勢いでフランス楽壇を賑わせているロマン・デシャルム、弦陣営には10 代の頃からリヨン国立歌劇場やパリ・オペラ座で活躍してきた凄腕コントラバス奏者フィリップ・ノアレやギトリスの絶賛を貰ったアルメニアの異才など、もう全員が曲者という豪奢な顔ぶれ(Saphir 制作盤はよくそういうことが起こっています)。
 そんな極上の演奏陣で奏でられてゆく6曲の作品を書いたふたりの作曲家は、どちらも1940 年代にナチス・ドイツの収容所で亡くなった悲劇の天才——「退廃芸術」の烙印を押され、戦後の現代音楽シーンが全世界的に超前衛的傾向となってしまったため、彼らが残した表現力あふれる、あるいはひたすら美しい響きにみちた玄妙な傑作の数々は、長らく忘却の淵に追いやられたままでした。しかしどうでしょう——古代ユダヤ王国の伝説的名君ダヴィデが奏でた竪琴以来、ハープという楽器がいかにユダヤ人たちにとって大切だったか、また(メニューインやパールマン、ミンツといった巨匠たちをあげるまでもなく)ヴァイオリン属の楽器がどれほど彼らにとって馴染み深く、使いこなし甲斐のある楽器だったか、それは20 世紀に入っても同じだったのだ...とあらためて痛感せずにおれないほど、シュールホフとスミットの名品は絶妙な鑑賞体験をもたらしてくれるのです。
 シュールホフはプラハ生まれのチェコの作曲家(マルティヌーと同世代)、かたやスミットは昔からユダヤ系住民の多かったオランダで活躍しましたが、その美しい音作りは確かに復権の価値ありだと思います。解説日本語訳も完備。詳しく知りたい方は多いが日本語資料の少ない分野ですので、その意味でも商品価値は高いはず!
 


LVC1176
(国内盤)
\2940
レジス・パスキエ(ヴァイオリン)
 ベートーヴェン:

 1. ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61
 2. ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンツェ第1番 ヘ長調 op.40
 3. ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンツェ第2番 ヘ長調op.50
レジス・パスキエ(ヴァイオリン)
エマニュエル・ルデュク=バローム指揮
バルト室内管弦楽団
(サンクトペテルブルク・フィル選抜メンバー)
 フランス派の伝統を伝えるレジス・パスキエの、においたつような旋律美——そして引き締まった少数精鋭集団による、ベートーヴェン時代のサイズの響きの作り方。
 Calliopeが運営終了直前の時期に残した名盤が、Saphir レーベルから待望の登場。これは必聴もの。

 パリの中央にある劇場を拠点に、この「花の都」の本場奏者たちのあいだで独自のネットワークを持ち、フランスならではの比類ない名盤を数々世に送り出してきたSaphir レーベル——このレーベルの盛り上がりと入れ替わるようにひっそりと店を畳み、経営権を別のオーナー(Indesens!レーベルのプロデューサー)に譲ったのが、LP 時代からやはり「フランスならでは」のすぐれた名盤を作り続けてきたCalliope レーベル。音源はすべて廃盤になったものの、新しいオーナーも精力的にその名録音を復活させているほか、他のレーベルに渡ってパッケージも一新され再登場する名盤も出てきたのは嬉しい限りで、Saphir もかなり多くの音源を買い取り、カタログ復活を続けてくれています。
 ここにご紹介する新譜も、そうしたCalliope 流れの逸品のひとつ——このアルバムは比類ないクオリティを誇りながらも同レーベル前経営者時代の最後の方でリリースされたもので、それほど出回っていなかった部類に属すると思われ、このようなかたちでのカタログ復活は非常に嬉しいところでしょう。
 なにしろ独奏者はレジス・パスキエ——フランス派の伝統をひくこの名手、かつてはharmonia mundi france にレ・ミュジシャン名義でペヌティエ(p)やローラン・ピドゥー(vc)らと数々の名盤を刻んでいましたが、2000 年前後あたりから玄人ソリストとしての存在感が音盤シーンでもいや増しに高まってきて、世界各地での演奏会で弾きこなしてきた傑作の数々を続々録音、においたつようなフランス的感性とブレのない作品解釈、みずみずしい超絶技巧などで、私たち遠隔地に住む者達の耳を潤してくれるようになりました。
 ベートーヴェン中期の「傑作の森」を代表するヴァイオリン協奏曲は、そもそもこうしたフランス派の感性とたいへん相性のよい傑作(思えばこの作品を歴史上最初に積極的に紹介したのも、フランコ=ベルギー派の伝説的名手アンリ・ヴュータンでした)。
 ほれぼれするような旋律美の高雅さはまさにパスキエならではの境地、対するオーケストラは名門サンクトペテルブルク・フィルの精鋭だけが集う、ベートーヴェン時代のオーケストラ規模を彷彿させるような引き締まった少人数楽団。確かな信頼で結ばれた音楽監督のタクトも冴えわたる、極上のベートーヴェンがここにあります。

ZIG ZAG TERRITOIRES



ZZT308
(国内盤・4枚組)
\5670
インマゼール&アニマ・エテルナのシューベルト:交響曲全集
 SONY/VIVARTE 音源がZIGZAGから復活!

  ①交響曲 第7(8)番 ロ短調 D.759「未完成」②交響曲 第6番 ハ長調 D.589
  ③交響曲 第4番 ハ短調 D.417「悲劇的」④交響曲 第2番変ロ長調 D.125
  ⑤ 交響曲 第3 番 ニ長調D.200 ⑥交響曲 第5番 変ロ長調 D.485
  ⑦交響曲 第1番 ニ長調 D.82
  ⑧交響曲 第8(9)番 ハ長調 D.944「ザ・グレート」
ヨス・ファン・インマゼール指揮
アニマ・エテルナ・ブリュッヘ(古楽器使用)
 SONYで制作された幻の絶妙全曲録音、なんとZig-Zag Territoiresから再発売!
 現在同レーベルでは急ピッチで再構成中。徹底した研究と実践反映でたどりついた「当時の楽器と奏法・編成」で繰り出される、稀有の名手たちの競演。当然、解説訳付です!
 まさかの企画がZig-Zag Territoires から相次ぎます——ドビュッシー記念年に「20 世紀初頭の古楽器でドビュッシー」というとてつもない企画が音盤化、その後に入ってきた情報がこちら。
 20 世紀も終わる頃、Sony からリリースされ静かな話題を呼び、Channel Classics のモーツァルト・ピアノ協奏曲シリーズに次ぐ「革命児」インマゼールと古楽器集団アニマ・エテルナ(現アニマ・エテルナ・ブリュッヘ*)が大きく存在感を強めるきっかけとなった「古楽器演奏によるシューベルト交響曲全集」!
 当時はすでにロイ・グッドマン&ハノーヴァー・バンドの古楽器演奏がNimbus から、Virgin からはマッケラス指揮エイジ・オヴ・エンライトメント管の、そしてほぼ同時期に完成した全集としてPhilips のブリュッヘン&18 世紀オーケストラの古楽器録音があったにもかかわらず、インマゼール盤は(アンサンブルの目新しさとあいまってか)独特の存在感で話題を呼んでいたように記憶しています。
 しかしSony はその後この種の録音を安定供給できるかたちでは再発売しておらず、多くのファンがヨーロッパでもこの再発売を切望していたのでしょう——
 Zig-Zag Territoires はエンジニアがプロデューサーを兼ねるタイプのレーベルでもあるため、音源復活にさいしては(その後のアニマ・エテルナの同レーベルでの録音に対応してきた経験をふまえ)より本来のサウンドに近いリマスタリングが行われている可能性も。
 使用楽器への徹底したこだわり、フレーズ感や作曲背景への鋭い洞察力といったインマゼールならではのこだわりが演奏に直結したこの銘全集、さらなる新録音の台頭にも押されないだけの存在感をこれからも放ち続けるであろうことは間違いありません。そのうえSony 時代の原盤ブックレットに掲載されていた解説も再録されるというので、こちらも当然ながら全訳付でお届け。レファレンスとしても価値ある存在になるはずです。
 


ZZT315
(国内盤・4CD)
\5880
ベルチャ四重奏団
 ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集vol.1

 ①弦楽四重奏曲 第6番 変ロ長調 op.18-6
 ②弦楽四重奏曲 第12 番 変ホ長調 op.127
 ③弦楽四重奏曲 第2番 ト長調 op.18-2
 ④弦楽四重奏曲 第9番 ハ長調 op.59-3「ラズモフスキー第3 番」
 ⑤弦楽四重奏曲 第11 番ヘ短調 op.95「セリオーソ」
 ⑥弦楽四重奏曲第14 番 嬰ハ短調 op.131
 ⑦弦楽四重奏曲第1番 ヘ長調 op.18-1
 ⑧弦楽四重奏曲 第4番 ハ短調 op.18-4
ベルチャ四重奏団
コリーナ・ベルチャ(vn1)
アクセル・シャヘル(vn2)
クシシュトフ・ホジェルスキ(va)
アントワーヌ・ルデルラン(vc)
 EMI時代にリリースされたアルバムで、才能豊かな音楽性と、ベテランかと思わせるような堂々たる歌いっぷりに「未来の大弦楽四重奏団」を予感させていたベルチャ四重奏団。
 しかしその後アルテミスSQとレパートリーがかぶったか、あまり録音が出なくなり、この2,3年は音沙汰がなかった・・・ところが突如ZIG ZAGに移籍!見れば第2ヴァイオリンも女性から男性に。・・・もともとファースト・ヴァイオリンのベルチャの個性が異様に強い四重奏団だったのだが、さらに彼女の求心力が高まっての今回の新録音であることは間違いないだろう・・・しかも放つはいきなりのベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集。これが出したくてEMIを離れたか、ベルチャ。しかしその選択は間違っていなかったと店主は思う。いずれにしてもこのところ話題作、大作が相次ぐZIG ZAGから、またもとんでもない大物録音が登場することになった。期待大。
 これは痛烈なまでに新定番の予感——メジャーから一転してZig-Zag Territoiresに移籍、堂々カルテット至上最高にして最難関の「全集」に乗り出した気鋭集団・ベルチャ四重奏団!!
 1枚目から、明らかに桁違いのクオリティ。
 フランス随一の小規模超強力レーベルZig-Zag Territoires は...!インマゼールのドビュッシー管弦楽作品集、クリヴィヌのラヴェル傑作集に続いて登場が予告されたのは、なんと——ついこのあいだまでEMI で続々と傑作盤を連発してきた世界随一の新世代カルテット、ベルチャ四重奏団の登場!
 よりによって、移籍早々にスタートするのが、弦楽四重奏曲の歴史上…いや、西欧音楽史上でもとくに重要な16 作、楽聖ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集とは!!
 ご存知の通り、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲16曲は、この天才作曲家が「鍵盤芸術の新約聖書」とうたわれたピアノ・ソナタ全32 曲を書き終えた後もなお綴り続け、死ぬ直前まで手掛けていたジャンルでもありますが、いかんせん最晩年の恐ろしいまでに濃密な音楽感性がそのまま(それぞれ交響曲並の、いやそれ以上もの長さを誇る)熟れきった作品構造のなかで展開されてゆく、しかも「腕利き」でかつ「アンサンブルができる」とびきりの弦楽器奏者が4人そろわないとできない、取り組むのがとてつもなく困難なジャンルとなっています。
 これまで全曲録音を敢行した団体も実は意外なくらい少ないのですが、この「ベルチャ版」は明らかに、つい先ごろまで続けられてきたアルテミス四重奏団のツィクルスにまさるとも劣らない——否、軽やかに凌駕しかねないほどのクオリティに満ちているのです。彼らは2012 年秋からのシーズンでヨーロッパ・ツアーに乗り出し、その演目がベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏を各都市で...というおそろしく「攻め」な活躍ぶりをみせているのですが、その前段階で粛々と進められていた録音プロジェクトと演奏結果の、なんと充実していることか!第6 番のあの強烈な和音の始まりから主題の歌い出しまで聴いただけでも、その卓越した演奏内容はただちに感じ取れるはず。
 手引きとなる解説もきちんと訳付でお届けします。
 アタックの効いた美音のしなやかさ、深いカンタービレとアンサンブルの妙、演奏内容の「攻め」具合と、培われてきた感性のとてつもない豊かさ... やはりベートーヴェンの全集を作ろうという段階にきたカルテットは、それだけの「格」に達しているのですね!!



旧譜
新時代の到来を感じさせたベルチャ四重奏団の名盤
昔の紹介文から
Schubert - String Quintet
EMI
CDS 9670252
(2CD)
\3400→\1990
ベルチャ四重奏団/シューベルト:弦楽五重奏曲、死と乙女
 弦楽五重奏曲*
 弦楽四重奏曲第15番ト長調D.887
 弦楽四重奏曲第14番D.810「死と乙女」
ベルチャ四重奏団
*ヴァレンティン・エルベン(チェロ)
 存在感を増すベルチャQのシューベルト。しかも元ABQのエルベンと共演。
 ベルチャQにとって2作目のシューベルト、前作(CDE-2357372)の「ロザムンデ 他」に続くシューベルトの名四重奏曲に、傑作として知られる五重奏曲の組み合わせ。
 最近新譜がないのが残念だがこのところ台頭してくる新世代クァルテットの先頭を行くグループ。
 録音:2009年6月*、2008年5月 ポットン・ホール、サフォーク州ブリリアント・ボックス 12Pブックレット

 


ZZT311
(国内盤)
\2940
エマニュエル・クリヴィヌ指揮&ルクセンブルク・フィル
 ラヴェル管弦楽作品集

 ラヴェル(1875〜1937):
 ①道化師の朝の歌(1918)
 ②ボレロ(1928)
 ③海上の小舟(1906)
 ④シェエラザード 〜独唱と管弦楽のための(1903)
 ⑤ラ・ヴァルス(1920)
 ⑥逝ける王女のためのパヴァーヌ(1910)
  ④訳詞付)
エマニュエル・クリヴィヌ指揮
ルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
カリーヌ・デエー(メゾソプラノ)
 痛快、絶妙——異才クリヴィヌの「お国もの」、その冴えわたるタクトは、理屈ぬきに心を射る。
 超一流、極上、そういう言葉は、この演奏のために使うべき言葉...フランス語圏随一の由緒正しき精鋭楽団に、『シェエラザード』の独唱はなんと、今をときめく名歌手デエー!
 ごらんの通りの、極上の人選で録音されたラヴェル管弦楽作品集——古典派以来のレパートリーはもちろん、現代音楽の超難曲やフランス近代のみずみずしく美しい秘曲系でも素晴しい成果をみせるルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団(ルクセンブルクはドイツ語と地元言葉も公用語ですが、一番通じるのはもうひとつの公用語であるフランス語...接客業と文化事業はフランス語でまわっている国なのです)がZig-Zag Territoires に登場したと思ったら...なんと指揮者はフランス屈指のスーパーマエストロ、エマニュエル・クリヴィヌ御大!
 そう、20 世紀末に稀代のモーツァルト解釈者として名をあげただけでなく、フォーレ『レクィエム』の傑作録音、Timpani レーベルでのロパルツやドビュッシーなどフランス近代もの、Naive でのシベリウスやドヴォルザーク、そして最近ではあろうことか、楽器選択も含めピリオド解釈を大々的に導入してのベートーヴェン交響曲全集(シャンブル・フィラルモニークと。Naive)で痛快なヒットを出し、ここへきて急速に「クリヴィヌここにあり」と印象づけた感があります。
 そうした隅々まで徹底した楽譜分析のセンスそのまま、そしてクラシック王道系を一枚上手の解釈で聴かせるカリスマ性そのままに、この人の感性は生粋の知性派エンターテイナーたる大作曲家ラヴェルの音楽と、ここまで痛烈に相性がよいものか...。
 近年はフランスを中心に欧州騒然の快進撃を続けているカリーヌ・デエーを独唱に迎えた『シェエラザード』の高貴さもさることながら、絶妙のテンポとコントラストの妙で迫真のドラマへと聴き手の心を引き込んでゆく『ラ・ヴァルス』のあざとさ、あまりにも美しい『逝ける王女のためのパヴァーヌ』でのルクセンブルク・フィルの名手たちの立ち回り、そして冒頭からドキドキせずにはおれない(音の録り方が絶妙にウマいZig-Zag Territoires ならではの成果!)
 すこーしだけハイテンポで進むにもかかわらず一切焦りを感じさせない、逆にこちらがどんどん得なくならざるを得なくなる、理屈抜きに痛快な13 分45 秒の『ボレロ』...!白黒写真で無機物を録っているだけなのに不思議な肉感性を漂わせているDigiPack ジャケットも実に「何か素敵なことがありそうな予感」に満ちています!


最近のクリヴィヌを代表する録音
Dvorak - Symphony No. 9
NAIVE
V 5132
\2500→¥2290
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」
シューマン:コンチェルトシュトゥック
ホルン/
デイヴィッド・グリアー、
アントワーヌ・ドレイファス、
エマニュエル・パデュ、
ベルナール・シラー
エマニュエル・クリヴィヌ(指)
ラ・シャンブル・フィルハーモニク
録音:2008年1月0822186 051320

 古楽器オケでクリヴィヌが「新世界」。
 前回のメンデルスゾーンこそなんとなく雰囲気合うけど「新世界」となるとちょっとどうだろう。どうせやるならまだ8番のほうがよかったんじゃないかな。
 「新世界」には聴く側もどうしても爆発的なエネルギーの壮大な演奏を求めるし、第2楽章だってそうした体力があってこそ充実した演奏になる。
 ということでちょっと聴くまでに時間があった。

 ・・・そうしたらこれがまあ素晴らしい演奏だった。
 古楽器オケといっても指揮はクリヴィヌ。ハッタリかましたり、とんでもないアゴーギグを利かせるなんてことはない。・・・のだが、細部まで念入りに手を入れた極めて精密で心のこもった室内楽的演奏と、自由で溌剌とした晴朗な感性がまったく矛盾なく同居し、聴いていてすがすがしく、そしてドキドキするような刺激を与えてくれる。胸が熱くなったり、ゾクゾクと背筋が寒くなるような見せ場も何度も何度も何度も現れる。ちょっとエキセントリックな楽器バランスのときもあったりして、そういうときには「おろろ、こんな素敵な裏メロディーがあったの!」と新たな感動を与えてくれる。しかもそんな細部のこだわりを見せながらも、スケールもそうとうでかい。終楽章ラストの盛り上がりなど、大メジャー・オケもぶっとぶ壮大なパノラマを描いてくれる。
 とにかく徹頭徹尾生き生きと飛び跳ねるような活力が音楽そのものに躍動的なエネルギ−を与え続けてくれる。聴いているだけでこちらのパワーも2倍にも3倍にもアップさせてくれる純粋で根源的な生命力がある。
 最近聴いたオケものでは白眉。今年(2008年)10本の指に入る名演といっていい。迷わず、どうぞ。 

 


ZZT310
(国内盤)
\2940
ヴィヴァルディ、新しい季節
 〜世界初録音を含む、最新研究の成果〜

アントニオ・ヴィヴァルディ(1678〜1741)
 ①ヴァイオリン、オルガン、弦楽合奏と
   通奏低音のための協奏曲 ハ長調 RV808(全楽章版世界初録音)
 ②チェロ協奏曲 イ短調 RV420
 ③フルート協奏曲 ホ短調 RV431(中間楽章:RV438)
 ④ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 RV194(世界初録音)
 ⑤フルート協奏曲 イ短調RV440
 ⑥チェロ協奏曲 ニ長調 RV403
 ⑦ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 RV235
 ⑧ヴァイオリン、オルガン、弦楽合奏と通奏低音のための協奏曲 ト短調
  (二つのヴァイオリンのための協奏曲RV517 より編作)
独奏:
アマンディーヌ・ベイエール、
フラーヴィオ・ロスコ(vn)
レベーカ・フェルリ(vc)
マヌエル・グラナティエーロ(ft)
アマンディーヌ・ベイエール(バロック・ヴァイオリン)
アンサンブル・リ・インコニーティ(古楽器使用)
 現代のバロック・ヴァイオリン界を背負うスーパープレイヤー!名門バーゼル・スコラ・カントルムでキアラ・バンキーニの後任となったアマンディーヌ・ベイエール、あの傑作盤「四季」録音のさらに先へと突き進む——研究の最新成果と極少編成が浮かび上がらせる、ほんとうの作曲家像!
 ヴィヴァルディ——バロック・ファンが理屈抜きに目の色を変える、あのフェティッシュな協奏曲作曲家!耳にやさしい現代楽器での弦楽合奏による『四季』が流行したのはとうの昔、今やヴィヴァルディといえば『四季』そのものも含め、実は語義どおりの「バロック」という表現がふさわしい刺激的かつ極端さもいとわないパンクな音楽だったことを、当時流儀の古楽器演奏に端を喫するエッジの効いた演奏解釈で明らかにするプレイヤーがすっかり増えてきました。
 ファビオ・ビオンディの鮮烈な録音さえ20 年も前のものとなった今、音楽史研究の最先端ではこの作曲家の真相がどんどん明らかになり、管楽器の扱いやオペラの上演状況、ヴィヴァルディ自身がヴェネツィア以外の場所でどう活躍したか...など多角的な調査が進んだ結果、私たちが知っていた認識(古楽器ブームが全盛になった後のもの含め!)も少しずつ覆されつつあります。
 さらに新発見の楽譜などもいろいろ整理され、断片しか残っていない楽譜も状況証拠に照らし合わせ、より当時流儀に近いと思われる復元版で演奏できるようになったり…本盤はそうしたヨーロッパにおけるヴィヴァルディ最新研究の成果を、古楽教育のメッカであるバーゼル・スコラ・カントルムのヴァイオリン科でキアラ・バンキーニの後任として主任教授となったアマンディーヌ・ベイエールが、気の置けない演奏家仲間たちと結成した超・俊才集団リ・インコニーティとともに、きわめてヴィヴィッドに私たちの耳に届けてくれる企画——新復元の作品や世界初録音なども当然のように盛り込まれています。
 そもそも1曲目からして独奏楽器になんとオルガン(!)が加わるという異色作品で始まるあたり、タイトルに「新しい季節」(欧州言語ではこれで「新しい四季」とも読めます)という表現が使われている企図もよく伝わりやすくなっているのでは。ベイエール曰く、ヴィヴァルディの協奏曲は必ずしも全てがヴェネツィアのピエタ慈善院の修道女オーケストラのために書かれていたわけではなく、代表作『四季』からしてマントヴァ公の小規模楽団のために書かれていたように、そもそも通奏低音以外は各パート一人ずつの極少編成で(本盤もそうしています)弾くのがふさわしい音楽とか...そうした理論面の解題や、18 世紀のさまざまな証言からの引用を含む解説書の充実度もまた、本盤のかけがえのない魅力(もちろん全文日本語訳付でお届けです)。
 南仏生まれのベイエールらラテン系の腕利き古楽器奏者たちがつくりだす躍動感あふれるサウンドは、ヴィヴァルディの鮮烈な音楽にぴったり——痛快なアルバムになりそうです。
 


ZZT313
(国内盤)
\2940
インマゼール&アニマ・エテルナ
 ドビュッシー管弦楽作品集

  1. 海 〜管弦楽のための三つの交響的素描
  2. 映像 〜管弦楽のための
  3.『牧神の午後』への前奏曲
ヨス・ファン・インマゼール指揮
アニマ・エテルナ・ブリュッヘ(古楽器使用)
 これは間違いなく、ドビュッシー記念年を飾る新録音でも最大の「問題作」のひとつになる!
 ドビュッシーがどんな管弦楽表現を志していたのか、本当はどんな響きを求めていたのか当時の楽器と奏法を突き詰め、名うての異才が突きつける「真の印象主義音楽」とは!?
 どう考えても話題作にならないはずがない超・充実企画の情報が舞い込んできました。今年生誕150 周年を迎え(8/22 が誕生日でした)世界中があらためて注目しているフランス近代最大の巨匠、クロード・ドビュッシー...「印象主義音楽」と呼ばれる新境地を切り拓き、既存の楽曲形式にとらわれない全く新しい音楽表現で20 世紀音楽の幕開けを飾ったこの作曲家の、管弦楽のための最重要作3曲を集めたこのアルバムは、いま欧州で最も注目されている古楽系指揮者のひとりヨス・ファン・インマゼールが、精鋭古楽器集団アニマ・エテルナ・ブリュッヘとともに「20 世紀初頭のフランスの楽器」ないしその復元モデルを使って録音した、世界でも類をみない画期的な企画なのです!
 ご存知の通り、オーケストラの楽器は19 世紀初頭から現代にかけて大きく変化を続け、現在のスタンダードにたどりついたのは第2次大戦が終わってしばらくした頃のこと——それ以前のオーケストラのあり方をよく調べてゆくと、楽器も違えば楽員の並べ方も違うなど、つまり今のオーケストラでは、実は1900 年前後の作曲家たちが念頭に置いていたのとはまったく違う音を出していることになるのです!
 それでは、音色表現の機微にとりわけ強いこだわりを見せ、全く斬新なオーケストラ語法を模索しつづけたドビュッシーはいったい、どんな響きを思い描いていたのか——このことは、当時の楽器と演奏習慣を徹底的に調べ、かつ音楽性豊かに再現できる演奏団体なくしては、決してわからないことだったのです。
 これほどまでに画期的な企画が、この作曲家の生誕150 周年という記念すべき年に録音物として刻まれ、世に送り出されることの意義の高さ...!
 彼らの録音は(2 年前にリリースされたラヴェル作品集でも示されている通り)たんに「古楽器使用」による珍しげな音を出しているだけ...というのとは明らかに違う、痛烈に存在感のある演奏解釈を打ち出してくることばかりなので、いやがうえにも期待は高まるというものです。
 またファン・インマゼールは近年、ライナーノートに詳細なコメントを寄せることも多く、演奏解釈や使用楽器についての思わぬ情報満載の記事が今回も期待できますから(当然、全文日本語訳付でお届けします)、これは俄然「音」だけでなく「音盤」として注目したい企画ということになるでしょう。
 


ZZT303
(国内盤)
\2940
エネスク:ピアノ三重奏曲 第1・2 番
 〜新発見の楽譜より〜

ジェオルジェ・エネスク(1881〜1955):
 1. ピアノ三重奏曲第1 番ト短調(世界初録音)
 2. 遠くのセレナーデ
 3. ピアノ三重奏曲第2番イ短調(旧・第1 番)
トリオ・ブランクーシ マラ・ドブレスク(p)
サテニク・フルドイアン(vn)
ラウラ・ブルイアーナ(vc)
 ドイツ語圏の伝統を身につけ、フランスで活躍した稀代の「近代作曲家」。メニューインの師匠の作曲家としての存在意義を見直そうという動きに大きな一石を投じる、初期の壮大な新発見曲!
 同郷のピアニストが率いる俊才集団、そのあざやかな演奏も「発見」。損はさせない注目盤!

 自らヴァイオリニストとして絶大な名声を誇り、メニューイン、グリュミオー、ギトリス...と錚々たる名手たちを育てたエネスク。パリでの活躍が長かったこともあり、ルーマニア人がフランスに来たときの慣習に従いフランス語風に「エネスコ」と呼ばれるようになったこの名手はしかし、ヴァイオリンを弾いていただけの人物ではありませんでした。
 ご存知の通り指揮者としても大きな活躍をみせましたし、なんとピアニストとしても一流の腕前。多芸な天才だったために後年は音楽院での仕事や演奏活動があまりにも忙しく、本当は一番やりたかったことの一つでもあった作曲活動に時間が割けなかったのは本人としても大きなストレスだったとか。
 とはいえ、そんなエネスクが13歳でウィーン音楽院を卒業してしまうほどの天才児で、モーツァルトのように10 代の頃から音楽史に残るにふさわしい傑作を続々書いてくれていたのは、本当にありがたいことです。なにしろ、彼の作品のうち現在もっともよく演奏されている3曲の傑作ヴァイオリン・ソナタのうちの2曲は、実は彼が10代後半にパリ音楽院で勉強していた頃に書かれた曲だった...と言えば、彼の早熟ぶりはご理解いただけるかもしれません。
 ところで音盤業界ではどうしたものか、ここ数年にわかにエネスク作品の録音(なかんずく、室内楽)が増えており、その偉業が(CD 制作をするほどの)シーン最前線の演奏家たちに急速に見直されつつある世情も伝わってくるのですが、それまで不当に見過ごされていた作曲家まわりの話題が活発になってくると必ず出てくるのが「新発見の楽譜」!
 嬉しいことに、なんとエネスクの場合はそのヴァイオリン・ソナタ2曲を書いていたのとまさに同じ頃、多作かつ豊穣な作曲活動が続けられていた時期に生まれた全4楽章からなるピアノ三重奏曲の楽譜が、まるまる1曲新発見されたのです!
 それはソナタ第2番などと同じように、みずみずしい初期ロマン派風の響きを基調にたたえながら(短調の主題旋律からして痛快な聴きごたえ)、折々ベートーヴェンを、いやドビュッシーらの新時代のフランス音楽さえ予感させるような独特の半音階進行が現れ聴き手を驚かせてやまず(そういうのが出てくるタイミングはしばしば非常にさりげなく自然、この作曲家の天才ぶりを否応なしに印象づけます)、これからますます演奏されるようになるのでは?と強く感じさせる名品。
 同じくパリ音楽院時代の曲として最近発見された「遠くのセレナーデ」も、デュカス、メル・ボニス、フォーレ...といった1900 年前後のフランス人作曲家たちを想起させる繊細さ、また新発見曲の登場で「第2 番」となった1916 年の充実した三重奏曲はそもそも知る人ぞ知る・の名品だったわけですから、この1枚でエネスクという人の天才ぶりは多角的に印象づけられようというものです。
 なにしろ演奏が実に見事——ルーマニアの新世代ふたりとアルメニア系フランス人、と聞くだけで3人とも凄腕そうな印象ですが、期待を裏切らないどころか大きく上回る演奏結果には必ずやご満足いただけるはず。見逃せない1枚です!


エネスクの室内楽作品の旧譜から

Indesens
INDE036
(国内盤)
\2940
エネスクの室内楽
 〜傑作短編・中編さまざま〜
 ジェオルジェ・エネスク(1881〜1955):
  ①パヴァーヌ〔p〕〜組曲 第2番op.10 より(1903)
  ②演奏会用即興曲 変ロ長調〔vn,p〕(1903)
  ③バラード〔vn, p〕(1895)
  ④ヴィオラとピアノのための協奏的断章〔va,p〕(1906)
  ⑤カンタービレとプレスト〔fl,p〕(1906)
  ⑥夜想曲とサルタレッロ〔vc, p〕(1897)
  ⑦パストラーレ、悲しいメヌエットと夜想曲〔vn, p 連弾〕(1900)
  ⑧伝説〔tp,p〕(1906)
  ⑨朝の歌〔vn, va, vc〕(1899)
  ⑩遠くのセレナーデ〔vn, vc, p〕(1903)
  ⑪タランテッラ〔vn, p〕(1895)
タチヤーナ・サムイル(vn)
ジェラール・コセ(va)
ヴァンサン・リュカ(fl)
ユストゥス・グリム(va)
フレデリク・メヤルディ(tp)
カルメン・ロタル(p)
クラウディア・バーラ(p)
輸入盤
¥2500→\2290
 大体、エネスコの室内楽作品なんて今までまともに聴いたことがあったか。

 ジョルジェ・エネスコ。ルーマニア語読みならエネスク。
 クライスラーやティボーと並ぶ20世紀前半の三大ヴァイオリニストの一人。同時にピアノの名手であり、指揮者でもあり、教育者でもあり、そしてもちろん大作曲家でもあった。
 いわゆる天才。
 しかしいずれにおいても並外れた才能を見せたが、そのマルチ・タレント故に「なんでもできてしまう器用なヒト」という印象があって、バッハの「無伴奏」録音や、辺境作曲家作品としては異例の人気を誇る「ルーマニア狂詩曲」などは結構楽しませてもらってきたが、さらにその奥までこの天才音楽家の音楽を突っ込んで聴いてみようとはしなかった。
 そんなだから、室内楽作品も、ヴァイオリン・ソナタ第3番以外の印象はきわめて薄い。ELECTRECORDに膨大な室内楽作品の録音があるということは知っているが、実際聴いたのはその中の数枚だけだったような気がする。

 そんなエネスコの室内楽アルバムの新譜が出た。
 初めは無視していたのだが、メーカーが自分で「すごいアルバムが出来たんだ!すばらしい。毎日聴いてる!」と言っているというものだから、「そんじゃまあ聴いてみようか」ということに。

 そうしたら・・・ううむ・・・確かに面白い。
 抜群に面白い。
 こんなに感性豊かで洒脱で優美で素敵だったのか・・・エネスコの室内楽作品。
 実は今回集められたのは1900年前後、つまり作曲者が20歳頃の作品。
 エネスコは70代中盤まで生きたから、これらは「若書き」の作品と言っていい。ただ、彼の代表作と言っていい「ルーマニア狂詩曲」もこの時代の作品。
 エネスコは12、3歳でウィーン音楽院を卒業して(おまけに銀メダルも授与されている)、その演奏はブラームスにも絶賛されたという神童。その後10代後半にはパリに渡ってマスネとフォーレに作曲を師事していたというから、20歳のとき彼はもう超一流の音楽家だった。
 ウィーンとパリの最先端の芸術的気風と、最高の音楽教育、そして天から与えられた才能。・・・考えてみれば、この頃の作品が悪い筈がない。十分完成された音楽になっているわけである。
 その後エネスコは1910年代後半から作曲のペースが落ち、きわめて慎重な姿勢を取るようになる。しかし芸術創作というのは、その質と、それに費やした時間が比例するものではない。ときに、書き飛ばしたかのように見える作品が超一流になることもある。
 これらエネスコ20歳の作品群も、まさにそういう匂いがプンプンする。
 あふれ出てきて仕方がない楽想をあわてて書きとめた、そんな贅沢で豊潤な天才にあふれた、きわめて魅力的な作品集なのである。
 ちょっとロマンティックすぎるとか、ちょっとポピュラーにすぎると思われるかもしれない。ただエネスコの身体には当時こういう音楽が満ち満ちていたのである。

 演奏は、ベルギー王立モネ劇場のコン・ミス、タチヤーナ・サムイル、ヴィオラ界の重鎮ジェラール・コセ、リュカやメヤルディといったパリ管のソリストと、これまた申し分ない。魅力的な演奏ばかりだが、とくに3曲目の「バラード」など、まるでライヴに立ち会っているような緊張感と興奮を味あわせてくれる。



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