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第70号
お奨め国内盤新譜(1)
2013.4.9〜2013.614


AEON



MAECD1225
(国内盤)
\2940
アルディッティ四重奏団
 ロベルト・ジェラルト(1896〜1970):

  1.弦楽四重奏曲 第2番(1961)
  2.弦楽四重奏曲 第2番(1950-55)
  3. 無伴奏ヴァイオリンのためのシャコンヌ(1959)
アルディッティ四重奏団
アーヴィン・アルディッティ(vn)
 現代音楽集団アルディッティSQ、今度はぐっと時代を遡り、スペイン・カタルーニャの20世紀へ。
 カザルスの活躍をよそに、あらゆる技法が交錯する1950年代、シェーンベルク直系の技法を独自に消化していった才人ジェラルトの音楽世界を、聴きごたえ充分の無伴奏曲とともにぱ演奏家4人がヘリコプターに乗って弾くシュトックハウゼンの『ヘリコプター弦楽四重奏曲』やライヴ・エレクトロニクス(演奏中の電子操作)を駆使しまくる前衛作品など、現代音楽界トップスターのアルディッティ四重奏団は何かと常人の通念をくつがえす「何が来ても驚かない」系の実績もずいぶん積んではきましたが、そんな彼らが最近aeon に録音するようになってから、とみに接しやすいプログラムが増えているように思います。
 スペクトル楽派全盛のフランス楽壇にあって「わかりやすい響きの美」を決して忘れないデュサパンや、コンセプチュアルな音の仕掛けをストレートなメッセージ性とともに伝えてくる英国人バートウィッスルや...その路線から今回、なんとマルティヌーやプーランクの同世代人が書いた、ショスタコーヴィチやストラヴィンスキーがまだ存命中で現役だった頃の音楽にまで時代を遡ってみせた彼ら。なんと1950〜60 年代、ようやく新ウィーン楽派の語法が少しずつ世に膾炙しはじめようかという時代に、およそ前衛音楽とは程遠そうなスペインから世に出てきた大家、ジェラルトの音楽世界でございます(ちなみに彼の名はGerhard と綴りますが、カタルーニャ人なので「ゲルハルト」(ドイツ語読み)でも「ヘラルド」(標準スペイン語=カスティーリャ語読み)でもないことに注意)。
 アルベニスやグラナドスを育んだカタルーニャ地方で生まれ、1924 年にはウィーンに赴き、音楽史上唯一の「スペイン人でシェーンベルクに師事した作曲家」となったジェラルトは、その後社会主義政権下のスペインで中央側の大物になってしまったことが災いして、フランコ独裁政権樹立後はロンドンに逃れ、以後故郷ではその偉業がいっさい黙殺されたまま——怨恨が長く続いたのか、その余波はほぼ20 世紀中続いていたのですが、英国をはじめ諸外国では生前その名声はきわめて高く(こういったあたり、なんとなくフランスのジャン・フランセを思わせます)、英国人集団アルディッティSQ としても特別の思い入れがあるのかもしれません。シェーンベルクの語法から独自の音作りを模索していったジェラルトが晩年に綴った2曲の弦楽四重奏曲と無伴奏曲は、ショスタコーヴィチの交響曲や弦楽四重奏曲と同時代の作品。明らかに「前衛現代」ではなく「近代」、いまじっくり聴き返してその美を味わうに足る響きと出会えるのです。
 無伴奏曲ではアーヴィン・アルディッティの面目躍如、彼が真っ向勝負でも人心を蕩かすほどの、とてつもない音楽性の持ち主だったことをあらためて印象づける銘解釈を聴かせてくれます。作品解説も例によって充実していてわかりやすく(全訳付)、探究心と室内楽愛好の心とを等しく満たしてくれる1枚なのです。どうぞお見逃しなく...ぱ

ALPHA



Alpha187
(国内盤・訳詞付)
\2940
ダウランドのリュート、ダウランドの歌
 〜リュート独奏曲とリュート・ソングさまざま〜

 ジョン・ダウランド(1563〜1626):
  ①プレルディウム ②ほら、もう一度! と恋神も誘っている(STTB)
  ③好機よ、わが仇敵よ ④デンマーク王のガリアード
  ⑤好きなひとが泣いていた(TB)⑥流れよ、わが涙(SB)
  ⑦ダウランドは変わらず、憂いは変わらず ⑧悲しみよ、留まれ(SB)
  ⑨憂愁のガリアード ⑩彼女は許してくれるだろうか(STTB)
  ⑪或る夢 ⑫落ちるがいい、水晶のごとき涙よ(STTB)
  ⑬ラクリメ(涙)⑭かえるのガリアード
  ⑮もう——ああ、もう行かなくては(STTB)
   ※特記なしはリュート独奏
トーマス・ダンフォード(リュート)
ルビー・ヒューグズ(S)
レイナウト・ファン・メヘレン(T)
ポール・アグニュー(T)
アラン・ビュエ(B)
 フランス古楽界の大御所ガンバ奏者を父に持つ俊才、ついに世に問うソロ・アルバムは伝説的古楽レーベルAlphaから——
 同レーベル初の単体ダウランド盤を飾るにふさわしい名歌手たちのしなやかな歌唱が折々興を添える、このうえないリュート盤に仕上がっています欧州古楽界の「実勢」、つまり「私たちの心を奮わせてくれる音楽をどれだけ届けられるか」は、同じ演奏家が同じだけリサイタルを行える環境にない遠隔地である日本には、なかなか伝わりにくいもの——畢竟、私たちは録音やインターネットラジオなどを通じてその魅力を知ることが多いのですが、こうして頼れるレーベルから充実した美しいパッケージで届けられるCD は、手にする喜びも含め格別なものがあるのではないでしょうか。
 そんな喜びを他のどのレーベルよりも深く伝えてくれるAlpha が、基本シリーズ187 番目のアルバムにしてついに、英国ルネサンスの憂愁のシンガーソングライター、ダウランドの単体アルバムをリリースしてくれましたぼ 私室でゆっくり鑑賞する音楽でも、ダウランドの作品はいつだって(リュート独奏でも、歌が入っていても)格別なものですが、さすがは秀逸古楽レーベルAlpha、人選が絶妙。弾き手のトーマス・ダンフォードは、フランス古楽界では知らぬ人がいないほど多忙な活躍を続けている若手最前線の俊才で、父親である凄腕ガンバ奏者にして名教師ジョナサン・ダンフォード(彼もAlpha やAS MUSIQUE に名盤がありますね)のもと、いたるところで通奏低音奏者・歌曲伴奏者として玄妙な響きを作ってきた「頼れる現場の人」。
 昨年はSaphir で制作され欧州各地の古楽専門誌などから絶賛された、フランス17 世紀後半の歌曲(エール)の達人バシイの作品集でも、一部のソロ・トラックを含め素晴しい演奏を聴かせてくれていました。
 その彼が正面からダウランド盤に取り組むと知って、黙ってはいないのが欧州古楽界の腕利きソリスト歌手たちぼヘレヴェッヘやガーディナー、コープマンといった超大物指揮者たちからも信頼を寄せられている歌手たちが一部トラックで添える二重唱・四重唱の歌声は、この時代の英語発音にも一家言あり・の彼らだけに、もはや神がかり的といってもよいほど美しく...例によって解説も充実(歌詞ふくめ全訳付)、Alpha ならではのオーガニックな秀逸自然派録音、同時代の細密画をセンス良くあしらった美麗Digipack 外装も含め、「古楽=静かに味わう大人の音楽」という構図を強く印象づけずにはおかない、とびきりの1枚なのです。お見逃しなく
 


Alpha813
(国内盤13枚組)
\7665
エリック・ル・サージュ
 シューマン:ピアノ独奏作品全集

 ①蝶々op.2 ②六つのインテルメッツォop.4
 ③ダーヴィト同盟舞曲集op.6 ④ピアノ・ソナタ第3番op.14
 ⑤クララ・ヴィークの主題による即興曲op.5 ⑥幻想曲ハ長調op.17
 ⑦フモレスケop.20 ⑧ピアノ・ソナタ第1番op.11 ⑨色とりどりの小品op.99
 ⑩交響的練習曲op.13⑪ノヴェレッテンop.21 ⑫四つの行進曲op.76
 ⑬ピアノ・ソナタ第2番op.22 ⑭四つの夜曲op.23 ⑮幻想小曲集op.111
 ⑯暁の歌op.133 ⑰幻想小曲集op.12 ⑱クライスレリアーナop.16
 ⑲四つのフーガop.72 ⑳子供のためのアルバムop.68
 (21)アレグロop.8 (22)ウィーンの謝肉祭の道化op.26
 (23)四つのピアノ小品op.32 (24)子供のための三つのソナタop.118
 (25) パガニーニの奇想曲による大練習曲集op.3
 (26)パガニーニの奇想曲による演奏会用大練習曲集op.10
 (27)アベッグ変奏曲op.1 (28)子供の情景op.15 (29)謝肉祭op.9
 (30)三つのロマンツェop.28 (31)アラベスケ(アラベスク)op.18
 (32)トッカータop.7(33)アルバムの綴りop.124 (34)花の曲op.19
 (35)フゲッタ形式による七つのピアノ曲op.126
 (36)天使の主題による変奏曲(幽霊変奏曲)WoO.24
 (37)ベートーヴェンの主題による変奏曲 (38)森の情景op.82
エリック・ル・サージュ(ピアノ/スタインウェイD)
 来日公演でのソロ演奏も好評、ますます存在感を強めてきたル・サージュがAlphaに残した偉業、ピアノ版のほうも日本語解説付にてBOX リリースとあいなります!フランソワ=サッペイ教諭の的確な解説もさることながら、演奏の確かさは比類なし。
 じっくり聴きたい13枚組!
 4月のラヴェル協奏曲での素晴しい立ち回りに続き、5月の単独来日公演も大成功、コンサートゴウアーたちにもソリストとしての風格をいかんなく示したフランス最前線の超実力派、エリック・ル・サージュ!
 個々の作品への情熱もあらたかに、しかし絶妙の客観性をもって的確な演奏解釈に結実させてゆくセンスの確かさは、あらためて日本のシーンにも深く記憶されることとなったのではないでしょうか。
 ともあれ、CD コレクター側ではすでに2006 年から2011 年初頭にかけ、シューマン生誕200 周年をはさみ、サティやメトネルにさきがけてピアノ音楽史上とりわけユニークな傑作を多々残したこのロマン派の大家の「ピアノ曲、およびピアノを含む室内作品」をすべて録音していたことが記憶に新しいところ。
 それがAlpha という、全曲シリーズ開始直前までは大半が古楽or 古楽器演奏ばかりだった秀逸小規模レーベルで行われたことは、この「もとBMG アーティスト」にとっても、またレーベル側にとっても、ひとつの快挙でした。フランス語によるシューマン単体研究書も出している音楽学者B.フランソワ=サッペイ教授が全面的に解説執筆を続けてきた、シューマンを知る、いやドイツ・ロマン派音楽を知るうえでのレファレンスともいうべきこの傑作シリーズから、先日リリースされた室内楽部分のみのBOX に続き、ピアノ音楽のほうを全て収録したBOX も完全日本語解説付にてお届けいたします!
 BOX 発売にさいし、日本語解説は1冊子にまとめるべく完全再編集。
 川田朔也氏による適切な注解も単体リリース時同様に含まれ(他に同氏による序文付)、BOX としての商品性にすぐれた逸品です。
 全集でなければめったに演奏されない作品まで抜かりない解釈。
 

Alpha534
(国内盤)
\2940
ゴールウェイで、素敵なこと
 〜魔女たちのアイルランド音楽〜

  ①彼女は起き上がり、わたしを招き入れた
  ②とある紳士がまとめたラグ(アイルランドのラグ)
  ③ギャラウェイ公の嘆き ④アリック・バーク卿
  ⑤メアリ・オニール ⑥冷たい大地の上に
  ⑦ベッラミラ ⑧モリーは貧乏人(モリー・オヘイルピン)
  ⑨リメリックの嘆き⑩お前を愛したことがある
  ⑪リメリックは包囲された ⑫顧問官マクダノーの嘆き
  ⑬ジェニーの気まぐれ、しわくちゃ小僧をもみくちゃに
  ⑭ライトの少年たち
  ⑮ジョニー・コック、お前のビーバー:グラウンドによるスコットランドの調べ
  ⑯王様のホーンパイプ、ニューカッスル
  ⑰ハミルトンのお嬢様
  ⑱吾輩の手で(おまえの手を貸してくれ)
アンサンブル・レ・ウィッチズ(古楽器使用)
クレール・ミション(各種笛&太鼓)
オディール・エドゥアール(バロックvn)
フレディ・エシェルベルジェ(チェンバロ、竪型チェンバロ、シターン)
ショバン・アームストロング(中世式アイリッシュ・ハープ)
パスカル・ボケ(リュート&バロックg)
シルヴィ・モケ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
 民俗音楽と古楽の融合、Alphaの白シリーズの快進撃の初動を支えた「このジグは誰のもの?」の感動ふたたび——バロック・ヴァイオリン奏法が、古楽器ハープの音色が、数百年を超え「いま」に伝わるアイリッシュ・ミュージックの粋を、鮮明に。小説家ナンシー・ヒューストンの寄稿も!
 周到に作り込まれた古楽アイテムばかりを連発、それでメジャー真っ青のセールスを続々記録してきたAlpha レーベルのリリースは、古楽その他の「クラシック」の範疇で語れる録音を扱う黒ジャケット・シリーズのほか、民俗音楽や即興演奏など、楽譜に残っていない「口伝え・即興」が重要な役割を演じるタイプの音楽を扱う「レ・シャン・ド・テル(大地の歌)」(ジャケットが白いシリーズ)でも痛快なリリースが相次いでいます。
 そんな“白シリーズ”の初期のセールスを支えたのが、かの異才古楽歌手マルコ・ビズリーと精鋭集団ラルペッジャータによる『ラ・タランテッラ』と、英国17 世紀のカントリー・ダンスを集めた『このジグは誰のもの?』(Alpha502)というアルバム——後者の演奏団体であるフランスの古楽集団レ・ウィッチズは、その後のリリースも概して好調、とくに2009 年リリースの『フランダースのすてきな古楽』(Alpha526)は「いつの間にか在庫が切れる」静かな定番アイテムにもなってくれています(それは上記『このジグは誰のもの?』も同様…リリースから10 年が経過したいまも、というのが驚きです)。
 そんな彼女たちがいま改めて、当人たちにとっての「海の向こう」、英国諸島に立ち返ってくれました。ワールド棚でもとくに人気ジャンルのひとつであるアイルランド伝統音楽を、古楽器で...
 これ、Alpha 白シリーズの新たな定番になること必至——充実解説(全訳付)にはフランス語と英語で創作する現代屈指の小説家ナンシー・ヒューストンも寄稿、ドキドキするような本格アイリッシュ・サウンドの魅力を幾倍にも引き立ててくれています。

ARCO DIVA



UP0101
(国内盤・訳詞付)
\2940
モーツァルトと、中欧の音楽伝統
 独唱モテットと合唱曲 オーストリアの教会様式〜

モーツァルト(1756〜1791):
 ①レジーナ・チェリ(天の皇后よ)変ロ長調 KV127
 ②ラウダーテ・ドミヌム(主をほめたたえよ)
  〜証聖者のための荘厳晩課 KV339より
 ③テ・デウム・ラウダムス(我ら汝主を讃えん)KV141
 ④エクスルターテ・イウビラーテ(喜びに舞い上がれ、祝福された魂よ)KV165
 ⑤アヴェ・ヴェルム・コルプス
  (めでたし、まことの御体は)KV618
 ⑥レジーナ・チェリ(天の皇后よ)ハ長調 KV108
シモナ・ホウダ・シャトゥロヴァー(ソプラノ)
ペトル・フィアラ指揮
チェコ室内合奏団
チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー合唱団
 引き締まって穏健、しっとりとしてみずみずしい——傑作でも外さない、中欧の演奏家たち!
 いつだって最高のモーツァルト解釈者!チェコ合唱界の重鎮たる世界的指揮者フィアラとともにチェコの実力派たちがスロヴァキアの名歌手とともに織り上げた「盲点的ジャンル」の傑作集!

 天才モーツァルトの作品多しといえど、意外に見過ごされがちなのが教会音楽——モーツァルト傑作選には必ず入るいくつかの有名曲(レクィエム、ハ短調ミサ、戴冠式ミサ、エクスルターテ・イウビラーテ、アヴェ・ヴェルム・コルプス...くらい?)を除くと、いったい誰が、この隠れ名作ぞろいの充実ジャンルについて詳しく知っているでしょう?
 しかし、モーツァルトは若いころから声楽曲を器楽曲とまったく同じセンスの良さで、古典派時代のとびきりのメロディセンスで続々作ってきた天才。
 18 世紀オーストリアでは隣国チェコやハンガリーなどと同じく、修道院での音楽活動が盛んになり、そこから数多くの忘れがたい作曲家たちも育ってきたのですが(なにぶんドイツ語圏にはまだ音楽院など存在しない時代、教会音楽の手伝いをしながらラテン語を覚えて音楽家としてのしあがり、宮廷人になる...というのは、中流以下の家庭に生まれた人間が立身出世するための選択肢の一つでもあったわけです)、ザルツブルク大司教というカトリックの強力な権力者のお膝元にいただけあって、モーツァルトはそれこそ少年時代から教会音楽にはとびきりの適性をみせていました。かたや、少年時代から何度もイタリアに行っては「本場」のオペラ界で作曲家として名をなしてきたモーツァルトだけに、有名な『エクスルターテ〜』のように独唱者がいっぱしの協奏曲のソリストのごとく活躍する、洗練された独唱モテットも多数残していたのです。
 モーツァルトの協奏曲という協奏曲をすべて聴きつくし、何となく物足りなさを感じているリスナーの方がおられたら、これらの独唱モテットは本当にぜひじっくり聴き究めていただきたい...と常々思っているのですが、いかんせんなかなか的確な音盤が出てこないのが悩みどころ。しかし、『ドン・ジョヴァンニ』の初演地プラハを中心に広がるチェコの人々が、このオペラの初演以来とくに愛してやまないモーツァルトと改めて向きあったチェコArco Diva レーベルのこの1枚は、そうした渇を癒してやまない内容。
 古楽器演奏全盛の今でも、(オーストリアと違い旧“東側”だったからかもしれませんが)チェコでは中欧独自の音楽伝統が今も生きているのか、古楽器を使わずとも中欧らしい堂に入った古典派演奏を聴かせる名手が多いもの——本盤も独唱・合唱・器楽合奏、すべてにおいて飛びぬけて腕達者な実力派が揃い、有名曲と秘曲をバランスよく集め、聴きごたえある世界を織り上げてくれます。古楽演奏とは意味合いの違う「本場感」に、改めて脱帽するほかありません。ヒストリカル音源ファンと古楽器ファン、両方を不思議と魅了してしまう懐の深さ、ぜひご体感を!

ARS MUSICI



AMCD232-183
(国内盤)
\2940
ヴァルター・ヴェラー指揮&バーゼル響
 ヤナーチェク(1854〜1928): ラシュスコ舞曲集(1889-90/1925 改訂)
 バルトーク(1881〜1945): 管弦楽のための協奏曲(1943)
ヴァルター・ヴェラー指揮
バーゼル交響楽団
 「新時代の巨匠指揮者」となりつつある、ウィーン・フィルの伝説的コンサートマスターも中欧の伝統を肌で知る男——多角的楽団バーゼルSOの音楽監督時代に残した引き締まった解釈が頼もしい名録音、Digipack仕様での復活盤も国内流通盤でお届け!
 近年ではブリュッセルのベルギー国立管弦楽団の音楽監督として辣腕を奮い、オーケストラ作品の思わぬレパートリー選択で有名曲(ブラームス、R.シュトラウス…)から秘曲充実作(マルティヌー、スーク…)まで、Fuga Libera レーベルの名盤群によってその確かな音楽性をあらためて印象づけているヴァルター・ヴェラー。生粋のウィーンっ子としてボスコフスキー時代の「音楽の都」で鍛えられ、1960 年代にはウィーン・フィル最年少のコンサートマスターとして広くその名を世界に轟かせ、その後もヴェラー四重奏団のDecca への名録音でレコード・ファンたちにも深く記憶されているこの名手、すでに指揮者として活躍しはじめてから何十年の時が経ったでしょう——
 日本のクラシック界では、輸入盤CD が最も売れていた1990 年代に英国での録音盤(Chandos でのベートーヴェンの交響曲全集など)がよく知られていたため、英国と分かちがたく結びつけられた存在として記憶されている方も多いようですが、実のところヴェラーの真骨頂はやはり「中欧=旧ハプスブルク帝国圏」の近代作品。
 オーストリアの作曲家たちはもちろん、チェコやハンガリーなど、この世界の“血脈”が滔々と流れ込んでいる民俗音楽・民俗舞踊のリズムや空気感がその魂に流れ込んでいるのでしょうか、彼がそうした地域の作品を振るときに醸し出される独特の「本場感」は、オーケストラが変わろうと、つねに一本筋の通った解釈をつくりだし、ヴェラーここにあり・という存在感を明らかにしてみせるのです。Deutsche Harmonia Mundi とかつては同母体だったArs Musici レーベルには、そうしたヴェラーの感性がありありと刻印された、ヤナーチェクとバルトークの民族系傑作2編によるアルバムが1枚あり、これは彼が長年タッグを組んで幾多の名演をくりひろげてきたバーゼル交響楽団(両大戦間、スイスの近現代音楽界が最も活発だった時代をも彷彿とさせる、あらゆる国の作品をその持ち味のまま再現する腕に長けた実力派集団!)との録音なのですが、このたび改めてその内容を鑑み、国内流通でお届けさせていただくことに——
 DHM の音楽学的センス、作品成立背景をふまえた的確なアルバム作りの精神は、この、中欧の魂を心に宿したヴェラーによる適切なレパートリーでの録音にも健在。埋もれてほしくない頼もしい名盤、どうかお見逃しなきよう!
 


AMCD232-353
(国内盤)
\2940
トリオ・ジャン・パウル
 ベートーヴェン:
  1.ピアノ三重奏曲 第2番 ト長調 作品1-2
  2.ピアノ三重奏曲 第6番変ホ長調 作品70-2
トリオ・ジャン・パウル
 ウルフ・シュナイダー(vn)
 マルティン・レーア(vc)
 エッカルト・ハイリガース(p)
 世紀の変わり目以来、トリオ・ジャン・パウルはドイツ楽壇最前線をひた走る——筋の通った音楽性で描き出すのは、楽聖ベートーヴェンの“陽気さ”を代表する隠れ名作。
 ピアノ三重奏曲全7曲中最も見過ごされがちな2曲、破格の聴きごたえで開眼させます。
 ヨーロッパ広しといえど、日本のクラシック・ファンにとってとくに注目せずにおれないのはやはり、バッハ、ベートーヴェン、ワーグナー、R.シュトラウス...といった“王道の”巨星たちを続々生み出してきたドイツ楽壇の動きではないでしょうか——ベルリン・フィルやバイエルン放送交響楽団、バイロイト祝祭劇場、ドレスデン・シュターツカペレ、ケルン歌劇場、NDR、WDR、HR...ちょっと思い出すだけでもファン垂涎の超一流オーケストラや歌劇場、意欲あふれる放送局などがいくらでも出てきますが、その確かな「本場の風格」というものは、個々の演奏家レヴェルでの比類ない技量あればこそ。ムター(vn)、オピッツ(p)、シュライアー(T)、ゲルハーエル(br)など錚々たる大御所ソリストを輩出してきただけでなく、近年でもハーゲンSQ やアルテミスSQ、フォーレPQ、ラーヴェンスブルク・ベートーヴェン・トリオ...と世界的なアンサンブルが相変わらず続々登場、ミュンヘンARD コンクールの活況などと相まって、この国のクラシック界の層の厚さと深みは衰えるところを知らないかのよう——そんな熾烈な競争社会を生き抜いてきたドイツのアンサンブルのなかに、ピンポイントなメジャーレーベルでの録音リリース戦略に乗らず(というか「振り回されず」)、日本でそれほど演奏活動をしていないというだけで、「日本では」知られていないだけのとてつもない実力派がごろごろしているのは、よくご存知のとおりでしょう。
 トリオ・ジャン・パウルはそうした「ドイツ楽壇のいま」を代表する、すでに確実に大御所となりつつあるアンサンブル——
 文豪ジャン・パウルの名を団体名に関しているところからも察せられるように、音楽作品の文学的側面(まるで私小説のように作曲家の生涯をたどってみたり、実際の文学作品や文学者たちとの関連を調べたり...)を作品解釈に反映させる筋の通った活動姿勢は、3人のメンバーの比類ない演奏技量とあいまって、折々に重要な音楽賞を捧げられる確かな評価をドイツで築き上げてきたのでした。同国のArs Musici レーベルには、Deutsche Harmonia Mundi と同母体でレーベル運営がなされていた近年までのカタログに同団体のアルバムがいくつか含まれているのですが、昨今の取扱盤でベルチャSQ やブレンターノSQ、F-F.ギィといった大物たちが続々と販売実績をつくっているところ、彼らの技量がとびきり際立っているこのベートーヴェン盤をどうして国内仕様でお届けせずにおられましょう?
 記念すべき楽聖の初出版作品たる第1 番や師匠ハイドンに苦い顔をさせた短調の第3 番、クラリネット版で知られる第4 番「街の歌」、第5 番「幽霊」やかの有名な「大公」など、この作曲家のピアノ三重奏曲全7曲には話題に事欠かない注目作も多々あるところ、彼らはあえて最も注目されていない2曲を選択。しかしご存知の方はもちろん少なくないと思いますが、これら2曲はそれぞれ重要曲とセットで楽譜刊行されただけあって、他の5曲にまったく遜色ない、知らずに過ごすのは大きな損失といえる充実名作なのです(交響曲で言えば、たとえば4番や2番を全く知らない人がいたら、ちゃんと聴いた方が絶対おもしろいよ!って奨めたくなるでしょう...?)。「英雄然とした気難しい楽聖」ではなく「笑う芸術家としての楽聖」を印象づける2作だ、とこれら2作を位置づける彼ら(同団チェリストによる解説の全訳付)の解釈でその初体験ができるなら、とてつもなく贅沢なこと...

CALLIOPE



CAL1210
(国内盤)
\2940
アニー・ダルコ/アンドレ・ナヴァラ
 フレデリク・ショパン(1756〜1791):

  1.ピアノのためのワルツ 第1〜14 番
   (アニー・ダルコ…ピアノ)
  2.ピアノとチェロのためのソナタ op.65
   (アンドレ・ナヴァラ…チェロ/エリカ・キルヒャー…ピアノ)
アンドレ・ナヴァラ(vc)
エリカ・キルヒャー(p)
アニー・ダルコ(p)
 高雅で知的なピアニズム、艶やかさと豪放さを兼ね備えた確かな中低音弦の妙——
 「フランス19世紀の作曲家」ショパンの魅力を確かに伝えてくれるのは、フランス特有の独特の音楽感性を身につけた、20世紀の異才たち...至高のCalliope音源、ここに復活。

 「フランスの高雅なるエスプリ」「理知の国フランス」——そうしたフランス独特の文化に気高いプライドを持っているフランス人たちは、今では少しずつ少なくなっているのでしょう。国粋主義的なプライドから諸外国の文化をみとめないのは、その国の文化にとっても決してプラスではないところ、そういうバランス感覚の欠如がなくなってゆくはよい流れなのだと思うのですが、そのかたわら、国ごとの文化的特徴のようなものはもう、20 世紀の頃よりもすっかり減じてしまっているのが、この21 世紀という時代なのかもしれません。
 何はともあれ、20 世紀のフランスは、英語圏を横目に何百年も文化大国だった誇りを背景にしてか、諸外国のスタイルに流されないユニークな文化土壌「を背景に」、周辺諸国からの影響をいろいろなかたちで受けながら、その比較のなかで絶妙のアイデンティティを保っていたところ——
 映画産業はハリウッド的なものを軽妙に受け流しながら彼らなりによいところを取り入れ、美食の世界はかたくなに伝統料理を守ろうとするシェフたちのかたわらヌーヴェル・キュイジーヌという「軽い」料理の萌芽がみられ、哲学や文学などフランス語による「知」の世界でも国際的なイニシアティヴをドイツやアメリカと分かち合い...そして音楽の世界では、「管楽器の王国フランス」の威信にかけてオーケストラの色彩的サウンドが独特の魅力を保つなか、ピアニストたちも弦楽器奏者たちも「フランスならでは」と言って差し支えない、高雅さと理知とを兼ね備えたユニークな個性を世界に発信しつづけていた頃。そんな時代の録音シーンを支えてきたCalliope レーベルは、近年屋号をIndesens!レーベルのディレクターに譲渡して心機一転、嘗てのコンサヴァティヴな路線での新録音を続けながらも、廃盤になってしまった過去の録音群をこうして丁寧に拾いあげ、あらためて世に出す労も惜しみません。
 ここで嬉しくも復活してくれたのが、ロン=ティボー国際コンクールにその名を残す名手マルグリット・ロンの高弟、名盤あまたのアニー・ダルコによる薫り高きショパンのワルツ!そして戦後ドイツでも教鞭をとるようになったチェロの巨匠で、その晩年の名盤群がCalliope に眠っているアンドレ・ナヴァラによる、艶やかにして逞しいチェロ・ソナタの名演——Indesens!傘下で復刻された原盤にはない新規の日本語解説も添え、ファンは多いにもかかわらず現行盤が圧倒的に少ないナヴァラやアニー・ダルコの名録音をお届けできるのは、いちフランス演奏家ファンの担当としても嬉しいかぎりでございます。
 


CAL1209
(国内盤)
\2940
フランス × ピアノ × ロシア
 〜バレエ・リュスと作曲家たち プロコフィエフ、
  ストラヴィンスキー、リムスキー=コルサコフ〜

リムスキー=コルサコフ(1844〜1908):
 ①交響詩「シェエラザード」(ギヨン=エルベール編)
ストラヴィンスキー(1882〜1971):
 ②『ペトルーシカ』より 3章
プロコフィエフ(1891〜1953):
 ③『シンデレラ』からの6章op.102より 3章
 ④『ロメオとジュリエット』からの10章 op.75より6章
フィリップ・ギヨン=エルベール(p)
 「バレエ音楽」の「ピアノ編曲」は、なぜこんなにも愛されるのか——「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」などの成功作がさまざまなレーベルから相次いだのち、今度は20世紀初頭のバレエ・リュスに焦点をあてた極上盤がCalliopeから…これぞフランスの「いま」を示す名演。

 近年、ピアニストたちはなぜかバレエ音楽に注目しているようです。諸外国が陸続きで隣りあい、移動も至便なヨーロッパでは、ただでさえ腕ききのピアニストたちがいたるところで活躍しており、国境を越えて個性を競い合ってもいるわけですが、そこで「別ジャンル」とのコラボレーションなどにも力を注ぐ実力派ピアニストが多いところ、無声映画やダンサーとの共演などでも名をあげている人も少なくありませんが、実はそうした動きとは全く別に、日本のユーザーさまにも「ピアノでバレエ音楽を」という企画盤はことのほか愛着がわく部分が多いもよう——
 ここ数ヵ月でもフランスのSaphir から『くるみ割り人形』のピアノ連弾版(LVC1177)、ドイツのNCA からも『眠れる森の美女』(NCA60251)の連弾版...と相次いでチャイコフスキー作品のピアノ編曲版アルバムがリリースされ、意外なまでに早い出足でイニシャル分が完売してしまう快挙もみられたのですが、それはおそらくバレエの音楽が、小学生時代のバレエ教室通いなどで体にしみこんでいる方も多いからでは...と。そのうえピアノの音もまた、多くの家に家具並の普及率で置かれていた楽器ならではの「親しみある響き」と感じられるのかもしれません。
 そういった「バレエ音楽+ピアノ」の親和性のかたわら、今度はかつての過程音楽の定番スタイルである連弾ではなく、プロのピアニストならではの、技巧あらたかな独奏編曲による秀逸盤がフランスから届きました。
 テーマは「バレエ・リュス」!
 20 世紀初頭のパリを拠点に活躍をみせたセルゲイ・ディアギレフ傘下のロシア・バレエ団(フランス語で「バレエ・リュス」)は、ドイツの脅威を牽制する露仏同盟の親和性のもと、革命ムードとあいまってフランスを続々訪れる才能ある作曲家たち・ダンサーたちとのコラボレーションで『ペトルーシカ』『春の祭典』などのストラヴィンスキー作品をはじめ、数多くの傑作を世に送り出してきたカリスマ的団体。彼らが舞台にかけた作品を中心に、ロシア音楽特有の躍動感あふれるリズム、高雅で端正な作品美をあざやかにピアノ上の十指で再現してみせる俊才、パリ音楽院直系の俊才ギヨン=エルベール——壮大な傑作管弦楽曲「シェエラザード」は自ら編曲も手がけ(これがまた実にあざやかな名品に…)、凄腕ピアニストとしても知られていたプロコフィエフの有名な編曲版でも巧みなセンスを発揮、ファツィオーリの透明なサウンドを縦横無尽に活かしながら、スタイリッシュなフランス流儀のピアニズムで、夢幻の異国情緒へと私たちを誘ってやみません。
 充実した作品解説片手に、極上のバレエ音楽のひとときを。


最近注目のチャイコフスキーのピアノ編曲もの

SAPHIR
LVC1177
(国内盤)
\2940
〜2台のピアノで聴く、チャイコフスキーの3傑作〜
 チャイコフスキー:
  1) 交響的幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」(アンセル編)
  2) 『くるみ割り人形』組曲(エコノム編)
 パウル・パプスト(1854〜1897):
  3) チャイコフスキーの歌劇『エフゲニー・オネーギン』
   による演奏会用パラフレーズ
リュドミラ・ベルリンスカヤ、
アルチュール・アンセル(p)
LVC1177
(輸入盤/日本語解説書なし)
\2600→\2390
 クリスマス前に、これは嬉しいリリース——ロシアとフランスのつながりは、いつだって実り豊か。
 ボロディン四重奏団の伝説的名チェロ奏者の娘ベルリンスカヤが、気心の知れたフランスの俊才とくりひろげる絶妙のデュオは、最高にファンタスティック、息をのむほど玄妙で、シンフォニック。
 今から10 年くらい前、とある料理雑誌のプレ創刊号で「二か国料理」という絶妙な特集が組まれていたことがありました。フレンチ×和食、エスニック×イタリアン...というように、常識にとらわれず明らかに違うタイプの料理をふたつかけあわせて素敵なおいしさにたどりつこう、というアイデアの提案で、目から鱗のレシピがたくさん載っていて刺激を受けたのをよく覚えています。ともあれ、そこまで世間の通念をくつがえさなくても、昔から豊穣な結果を生む組み合わせの「お国柄」というのは多々あったのも事実。中国のお茶を好きになった英国人たちのアフタヌーンティ、オランダ人やベルギー人たちのゴシック〜ルネサンス絵画が妙に似合うスペインのプラド美術館、なぜかアルメニア人が妙に活躍している20 世紀アメリカ文学...例をあげだすときりがないのですが、そうした異文化交流でもとくに間違いなく実り豊かな結果が生まれやすいのは、やはりフランス文化とロシア文化のむすびつきではないでしょうか——
 そもそもフランス料理のフルコースからしてロシアの正餐の要素を取り入れた産物だと言われますし、かたやロシアは19 世紀半ばくらいまで、上流階級の人々がロシア語では手紙も書けず、パーティなどの集まりでもロシア語では洗練された会話術もないためフランス語でしか話さない...などという時代が続いたとか。そして芸術の領域では言うまでもなく、ディアギレフ率いるパリのロシア・バレエ団がストラヴィンスキーと上演してきた素晴しい舞台の数々を思い浮かべずにはおれない——
 そう、この二つの国は何よりもまず、音楽と舞踏によって阿吽の呼吸で心を交わすことができるのです。
 そうしたロシア=フランスの芸術的親和性をあらためて痛感させてくれるのが、そぞろクリスマスのことを考えつつ、フランスの新酒を待ちながらロシアの雪景色に思いを馳せたり...というような気分になってくる頃、お目見えするこのアルバムぱSaphir レーベルではフランス派の大御所ヴァイオリニスト、ジェラール・プーレとの録音ですでに一度登場しているロシア新世代の俊才ピアニスト、リュドミラ・ベルリンスカヤ(ボロディン四重奏団のチェロ奏者ベルリンスキーの愛娘で、ただでさえ才能に恵まれているところ、父の友人たちである大御所奏者たちに早くから薫陶を受けてきたサラブレッド的名手です)。
 異様なまでのバランス感覚と舞踏センスさえ感じさせるピアニズムをみせるフランス人奏者アルチュール・アンセルと組んで描きあげる、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」組曲を中心とする管弦楽作品やオペラの「2台ピアノ版」の数々。
 連弾よりもさらにシンフォニックな表現が可能な2台ピアノのアンサンブルは、彼らのふたりの名手にかかるや実に多元的なめくるめく世界を描き出す——
 瑞々しくも多彩な音色美のカラフルさは、フランス人ならではのセンス全開なDigipack のジャケットの美麗さとあいまって実に心地良く、バレエ音楽のリズムで続く音の紡ぎ方、完璧な阿吽の呼吸に、まさに「くるみ割り人形」の物語のごとく、どんどん陶酔の世界へと引き込まれること間違いなしです。
 辛口なフランス批評界も、このアルバムには続々と絶賛を寄せはじめているところ——秋冬のあいだじっくり付き合いたくなる、素敵な1枚なのです。

NCA60251
(国内盤)
\2940
チャイコフスキー/ラフマニノフ編:
  バレエ音楽『眠りの森の美女』〜連弾版全曲
オリガ・ホテーエヴァ、
アンドレイ・ホテーエフ(p)
NCA60251
(輸入盤/日本語解説書なし)
\2600→\2390
クラシック・ファンよりもむしろ、バレエ・ファンが黙ってはいられないような...こういうのがCD というフォーマットのよいところだと思います。
かわいすぎる絶美のDigiPack ジャケットにくるまれているのは、リヒテル直系のロシア人奏者による“妥協なしのロシア・バレエ音楽”!

 バレエ女子ならかつて一度は憧れたチャイコフスキー『眠りの森の美女』を、絶妙のフェミニンなデザインのDigipack でくるんで送り出してくるあたり、センスの良さにドキドキします。
 演奏内容は「いっさい妥協なしの生粋ロシア芸術」!かつて巨匠フェドセーエフとのチャイコフスキー協奏曲全集(Koch)で度肝を抜いたロシア・ピアニズム直系の超実力派ホテーエフ(!)と妻ホテーエヴァによる、ひたすら堅牢でありながらどこまでも優美、隅々まで抜かりのない絶妙解釈で織り上げられてゆくこの編曲版を手がけたのは...なんと『眠り』初演時にはまだ10 代の若者だった未来の巨匠、天才少年セルゲイ・ラフマニノフ(!!)なのです!チャイコフスキーは『眠り』を当時自らのバレエ音楽の最高傑作と自認しており、その普及のため連弾編曲を名手ジロティに依頼したのですが、ジロティは多忙なため、よい研鑽になるとの考えから門下の有能な若者ラフマニノフを紹介。
 彼が巨匠の叱咤激励を受けながら完成させた編曲版は、最終的にその未来を嘱望させる才覚をチャイコフスキーに強く印象づけることとなったのでした。抜粋盤ではたびたび演奏される機会もあるものの、このような全曲盤での録音はまさに画期的!
 容赦ない超絶技巧をものともしない編曲の妙をじっくり鑑賞するもよし、もちろんバレエ教室時代をなつかしめる絶妙のギフトアイテムとしてもばっちり活躍してくれそうな、外面的にも内容的にもセールスポイントに事欠かない優良盤なのです!


CYPRES



MCYP4635
(国内盤・訳詩付)
\2940
アイブレクツ(1899〜1938)歌曲作品全集
 〜ベルギー近代の人知れぬ天才〜

アルベール・アイブレクツ(1899〜1938):
 ①サーディの薔薇 ②秋の歌
 ③それは、妖精たちの夕暮れ時だった
 ④忘れまいとして
 ⑤星占いの歌
  (一月生まれ/六月生まれ/七月生まれ/十一月生まれ)
 ⑥小唄(花の心)⑦田園詩 ⑧呪われた詩人の墓所
 ⑨ある馬鹿正直な女に捧ぐ祈り ⑩シシリエンヌ**
 ⑪エドガー・アラン・ポーの三つの詩
  (エルドラド/どうなろうが気にするものか/川辺にて)
 ⑫ミルリトン
 ⑬ヴェラーレンの二つの詩
  (日陰も輝き/ああ、穏やかな夏の庭)
 【編成】
   無印:ピアノ伴奏
    *:弦楽四重奏伴奏 **: ピアノ独奏
ロール・デルカンプ(S)
マリー・ルノルマン(Ms)
マルシャル・ドフォンテーヌ(T)
リオネル・バムス(p) MP4四重奏団
 ルクーやイザイ、ジョンゲンらを生んだフランス語圏ベルギー近代、さらなる天才が復権中…!
 ルーセルとプーランクのあいだをゆくような、玄妙さと洒脱さのあわいを突く歌曲の数々。訳詩つきでじっくり味わうに足る、ベネルクス気鋭陣たちの気合の入った演奏に心蕩けます。

 フランス語圏の近代芸術、なかんずく19 世紀末から20 世紀初頭にかけてのフランス語文学は、ベルギー人の詩人たちの活躍なくしては考えられません。また美術の世界でもアール・ヌーヴォー建築家のオルタ、象徴主義の画家クノップフなど、全世界に冠たる影響力を誇った異才が続々——そんなフランス語圏ベルギー(というか、この頃の同国ではまだオランダ語が公の言葉としては非常に劣勢でした)の近代芸術シーンが、音楽においても飛びぬけてすぐれていたことに、明敏な音楽ファンたちはもうかなり前から気づいています。フランコ=ベルギー派の名匠グリュミオーやボべスコの弾くルクーのヴァイオリン・ソナタ、あるいはイザイの無伴奏ソナタやジョンゲンの管弦楽作品...
 そしてフランス語圏の近代音楽で、とくに見過ごせない重要ジャンルのひとつが「歌曲」。フランス語歌曲のCD もまた、実はかなりの数が輸入盤リリースされているにもかかわらず、日本語情報の圧倒的不足のために流通に困難が生じているのも確かではないでしょうか。
 しかし、ひとたび確かな流れで出れば、誰もが「ドビュッシーとフォーレだけがフランス語歌曲ではない」ことくらいとうにわかっている現在、どうしても手がのびてしまうのがファン心理...まして、それが注目に値する作風の作曲家であれば、なおのことです。アイブレクツはプーランクと同じ1899 年生まれ、内向的な気質からほとんど楽譜を世に出さず、その作品が(近代作曲家たちの擁護者として知られる)スプレイグ=クーリッジ夫人主宰のコンクールで入賞し夫人自ら会いたいと言ってきたにもかかわらず、その千載一隅のチャンスに怖気づいて雲隠れしてしまったという、現在無名なのも致し方ない芸術家——しかし近年ではさまざまなベルギーの音楽機関が、遺族との連携のもと、見過ごしがたいその作品群の復権にいそしむ風潮がとみに強まっており、同国の作曲家たちの再評価に意欲的なCypres レーベルも(かつてのジョンゲン作品復権に次ぎ)全面的にその後援につとめています。
 今回はルーセルやラヴェルにも比しうる逸品が出並ぶ、思わぬ名曲揃いの歌曲集!時に弦楽四重奏伴奏の作品もあり、ゾクゾクするような憂愁と耽美のあいだをゆく音作りは、同い年のプーランクとはまったく別世界で、近代歌曲の奥の深さ、フランス語歌曲の高雅さをあらためて痛感させてくれます。解説充実全訳付、もちろん歌詞訳付。フランス近代ファンには迷わずお勧めの1枚なのです!

FUGA LIBERA


MFUG711
(国内盤)
\2940
ブロッホとペルト 神秘の詩
 〜ヴァイオリンとピアノのための、二つのソナタと二つの小品〜

 エルンスト・ブロッホ(1885〜1977):
  ①ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番「神秘の詩」(1924)
  ②ヴァイオリンとピアノのための「ニグン」(即興歌)〜
   『神の名の師正しきユダヤの暮らし』(1923)より
  ③ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番(1920)
 アルヴォ・ペルト(1935〜):
  ④フラトレス 〜ヴァイオリンとピアノ版(1980)
エルサ・グレテール(ヴァイオリン)
フェレンツ・ヴィズィ(ピアノ)
 仏Diapason誌 5ポイント満点!
 静かな瞑想から高雅な技巧性まで、ユダヤのヴァイオリンと、北欧の至宝…
 誰もが知りたい作曲家のこと、そして誰もが愛してやまない自然派作曲家のこと——
 フランスの室内楽シーンに、次々現れる超実力派たちぱじっくり聴き究めたい至高の室内楽。
 「中欧」という言葉がさす範囲というのは意外と広いようで、なんとなく「東ヨーロッパの西寄り」のあたりをさすものかと思いきや、場合によってはドイツやスイスも中欧として扱われることもあるようで...ためしにネットの辞書をひいてみても「ドイツ、ハンガリー、オーストリア、スイスなどを含む地域」と意外な定義がされてました。
 そう考えると、ドイツとスイスで活躍したユダヤ系作曲家であるブロッホという人は、その音楽から感じられる中欧っぽさそのまま、正真正銘まさしく中欧の作曲家だった...ということになるのでしょう。この作曲家、ユーディ・メニューインやミシャ・マイスキーらをはじめとする20 世紀の大レーベル録音型スーパープレイヤーたちも折々しっかりした録音を残してきたのに(とくに、チェロ独奏のための「シェロモ」)、なにぶんユダヤ人の生活に密着した作品が多いためか、その生活感覚とは無縁の世界で生きている人々には意外と「ひとりの作曲家」としての存在感が強く認識されていないきらいが——
 しかしどうでしょう、メニューインの録音したヴァイオリン協奏曲やマイスキーの「シェロモ」など、この作曲家に興味を抱かせるに十分すぎる名録音はすでに、比較的入手しやすいところでも多々あったはずぱそうした「ブロッホとは誰か?」というもやもやした疑問を痛烈に晴らしてくれ、艶やかな神秘性と“中欧らしい”土臭さの感じられる激しさとのあいだで絶妙のバランスをとってみせる、この作曲家のすばらしい芸術性を広く印象づけてやまない新名盤を、Fuga Libera が世に送り出してくれましたぱ弾き手はエルサ・グレテール、ドイツを目と鼻の先に望むアルザス地方出身のフランス人奏者——パリ音楽院、インディアナ大学、ボストンのニューイングランド音楽院と熾烈な競争社会で腕を磨いてきた彼女はなんと、満を持してのファーストアルバムに、自ら強く望んでブロッホとペルトの作品を選んだのですぱブロッホはユダヤ系作曲家だけあってヴァイオリンの名品が多いところ、意外にも録音がめったになされない2曲のソナタを軸に、アンコールピースとして非常にひろく演奏されている「ニグン」をはさむバランスのよい選曲。
 2編のソナタはかたや単一楽章の玄妙な「神秘の詩」(それがそのままアルバムタイトルに使われています——いかにも、この名前と作曲年(イザイの無伴奏ソナタとほぼ同時期ぱ)が示す通りの、艶やかな名品ぱ)、かたや堅固な3楽章形式、民俗的な精悍さと濃密な情感表現を、ただ激情にまかせず高雅に、えもいわれぬ美音でまとめた名演には息をのむばかりぱ他方、「神秘の詩という言葉はこの曲にもぴったり」と彼女が自ら解説(全訳付)に寄せた言葉でも書いているのが、数少ない「CD が売れる作曲家」ペルトの代表作「フラトレス」ぱ長めの小品ですが、その瞑想的雰囲気はグレテールのしっとりとしていて端正な演奏にぴたりと寄り添うかのよう、まるで彼女のために書かれたかのような確かさで心に迫ってきます。ルーマニアの俊才ソリストF.ヴィズィの的確な自己主張も痛快、きわめて充実した室内楽盤に仕上がっています。
 


MFUG599
(国内盤)
\2940
ヴィラ=ロボス〜ギター協奏曲
 ヴィラ=ロボス(1887〜1959):
 1. ギターのための五つの前奏曲 W419(1940)
 2. ギター協奏曲 W502(1951)
 3. 感傷的な調べ W555(1958)
  〜ヴァイオリンと管弦楽のための
  (ベルナルト・フミェラジによるギター・ヴァイオリン・管弦楽版)
クシシュトフ・メルシンゲル(ギター)
アンドルー・ヘヴロン(ヴァイオリン)
ジョゼ・マリア・フロレンシオ指揮
セント・マーティン・アカデミー室内管弦楽団
 夏めいてきました!ギター協奏曲がらみ、爽やか&濃密な良盤が届きます——
 ヴィラ=ロボスの艶やかでダイナミックな世界を、唖然とするほどの技量でクリスピーに。
 オーケストラは、マリナー御大が結成した「あの名門」。実は、昔からラテン系にも強いのです!
 南米もの、ギターもの。そういう音楽が似合う季節がやってきますね...!昨年度からディレクターが変わり、ジャケットデザインも新しくなってきたFuga Libera レーベルから、そんな折にぴったりの新譜が届きます。
 ヴィラ=ロボスのギター協奏曲——ほぼ同年の作のカステルヌオーヴォ=テデスコの五重奏曲と並んで「なぜか」新録音が出てこない傑作のひとつですが、本盤は世界に冠たるギター大国ポーランドからやってきた破格の若手・メルシンゲルのあまりの芸達者さに仰天させられるほど、名手セゴビアの独奏を想定していたためか超絶技巧的なフレーズも容赦なく繰り出されるソロ・パートを難なく、圧倒的な感性をつよく印象づけながら弾きこなしてしまう...そこへオーケストラは「あの」アカデミー室内管、マリナー時代から衰えることがないどころか、長年コンサートマスターをスペイン系奏者がつとめていたためかラテン系作曲家にも適性ばっちりだったことをあらためて痛感させてくれる腕前確か&ヴィヴィッドな“のめりこみ”具合で、20 世紀に冠たるこの傑作協奏曲の味わいをみずみずしく伝えてくれるのです!ちょっとかけただけでもドキドキしてくるこの仕上がり、もう試聴機に入れるしかない!といった感じで...シメの曲では少し前、エリザベート王妃国際コンクールで大いに株をあげた俊才へヴロンが絶妙なヴァイオリンの歌を聴かせて加わり、隅々まで南国芸術の魅力たっぷり、まったくあぶなげないどころか、ノリ過ぎ注意で聴いている側がむしろあぶないくらい——いや、いい1枚です。
 クラシック・ギター界は20 世紀の末頃から旧・共産圏の圧倒的な名手というのがとみに存在感を強くしつつあって、なかでもポーランドは弊社扱のアイテムだけでもクシシュトフ・ペウェフ、グジェゴシュ&アンジェイ・クラヴィエツ兄弟など、「異能」というほかない破格の若手が続々出てきている状況(ピアノや弦の世界でのポーランド人奏者たちの芸達者ぶりを思えば、さすが音楽大国の面目や駆除!ということなのでしょうが)。

GRAMOLA


Schubert: Winterreise D911
GRML98909
(国内盤・訳詞付)
\2940
シューベルト:連作歌曲集『冬の旅』(全曲)
 〜ウィーン国立歌劇場の名歌手と名教師ピアニストによる
    「ウィーンのシューベルト」の世界〜

フランツ・シューベルト(1797〜1828):
 連作歌曲集『冬の旅』D.911
  〜ヴィルヘルム・ミュラーの詩による24 の歌曲
アドリアン・エレート(バリトン)
エドゥアルト・クトロヴァッツ(ピアノ)
 シューベルトの詩情を育んだ町ウィーン。『冬の旅』もまた、この音楽都市と分かちがたく結び付けられている——来日も相次ぐウィーン国立歌劇場の新たな名歌手が、同じく来日多き実力派名教師と織り上げた、精緻な解釈。これぞ「ウィーンのシューベルト」!
 毎年のように新たな名盤が生まれ、決定盤ともいうべき録音が続々更新されかねない、曲を愛している人ほど、すでに愛聴している録音だけが全てではなく、必ずや新たに出会うに足る名盤が現れつづけることを確信している——
 そういうジャンルの定番名曲というのがいくつかあるとすれば(バッハの『ブランデンブルク協奏曲』全曲、リストのロ短調ソナタ、ブラームスのヴァイオリンとピアノのためのソナタ3曲...)声楽曲におけるその種の記念碑的曲目なのが、シューベルトの『冬の旅』。某誌声楽レビュー欄担当の方が「今月は『冬の旅』が来なくてホッとできると思う月がまれにある」と悲鳴をあげるほどに、音盤業界では詩人の孤独と作曲家の死の影を延々と追い続けているもののようです。それもそのはず、なにしろシューベルトという「悲しがる若者」「孤独」「放浪」といったことを音にさせたら右に出る者はいない作曲家が、そのすべてをひとつづきの連作歌曲に織り込んだ傑作なのですから、歌い手たちとしても、また「詩」や「声」というものが自分の楽器にはないピアニストたちにとっても、いつかは自分なりの全曲解釈を世に提示してみたい...と、世界中でそんな思いを募らせながら活躍している音楽家がいるのでしょうし、そうなればおのずと、私たち鑑賞者はその最も素晴らしい成果に継続的に出会えるというわけです。
 しかし、それほど世界的に愛されているレパートリーだからこそ、私たちはつい、忘れがちになってしまっているのではないでしょうか——シューベルトは、中央の帝都ウィーンという、ややユニークな都市での生活と切っても切り離せない人物だったことを。そう、この楽都の空気を知らなければ決して伝えられないものがある...と、ヨハン・シュトラウスやモーツァルトを弾くウィーンの音楽家たちが確信と誇りをもって標榜するのとまったく同じように、シューベルトの『冬の旅』にもまた、ウィーンを知らなくては伝えきれない機微があったのだ...!と、この音楽都市で第一線を張っている新旧世代の名手ふたりによるこの録音を聴いて、あらためて思わずにはおれません。
 ウィーンの中心にあるグラーベン広場に店をかまえるGramola レーベルが提案するこの新たなる全曲録音は、昨今ウィーン国立歌劇場(ウィーン・フィルのお膝元)の引っ越し公演などでもたびたび来日している同劇場の新たなスターのひとり、アドリアン・エレートが満を持して提案してみせた解釈。しかもピアニストは、こちらも長年日本を訪れ続けている名教師=稀代の連弾奏者クトロヴァッツ!異彩に偏らず丁寧に謳いあげられてゆく濃やかな歌い口には、いたるところでハッとさせられる「ことば」の妙への対応力、全体を通じての構成の確かさなど、歌い手がいかにこの傑作曲集と真摯に向き合ってきたか、同郷人として心を尽くしてきたか...といったことを感じさせてやまない瞬間がそこかしこ——ピアニストは歌い手との息もぴったり、この曲を弾き込んできたであろう一音一音へのこだわりもまた、「ウィーンのシューベルト」を強く印象づけます。
 歌い手自身による鋭い洞察力の作品分析はかなり周到で、読みごたえあり!歌詞とともに全訳付ですので、あわせて読みながら『冬の旅』の世界にさらに踏み込めること間違いなしの1枚です。

INDESENS!



INDE019
(国内盤)
\2940
〜「管楽器の王国フランス」の伝説的名手たち〜
カミーユ・サン=サーンス(1833〜1921):
 ①バソンとピアノのためのソナタ op.169
 ②クラリネットとピアノのためのソナタ op.167
 ③オーボエとピアノのためのソナタop.168
 ④ロマンスop.36(ホルンとピアノのための)
 ⑤カヴァティーヌop.144(トロンボーンとピアノのための)
 ⑥七重奏曲op.65
  (トランペット、ピアノ、2挺のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとコントラバスのための)*
モーリス・ブールグ(オーボエ)
モーリス・アラール(バソン)
モーリス・ギャベー(クラリネット)
ジャック・トゥーロン(トロンボーン)
ジルベール・クルジエ(ホルン)
ロジェ・デルモット(トランペット)
アニー・ダルコ(p)
パスカルSQ*
ガストン・ロジェロ(cb)*
ジャン=マリー・ダレ(p)*
 あまりに高雅で、むせかえるよう…管楽器の王国フランスを代表する伝説的名手たちが、芸術性の深まった1970年代、Calliope レーベルに残していた傑作録音がいま甦るPD音源からの「七重奏曲」追加復刻も、ファンの心をくすぐる絶妙さ...これぞフランス音楽。
 フランスが「管楽器の王国」と呼ばれているのは、1870 年にプロイセン=ドイツとの戦いに敗れたこの国で、意欲あふれる作曲家たちが「フランスならではの音楽を!」と志し、フランス国民音楽協会を創設した頃からの伝統——
 ヴァイオリンやチェロなど弦楽器を多用するドイツ古典派・ロマン派の絶対音楽をよそに、管楽器にもより深い可能性はあるはずだ...と、フランス人作曲家たちが積極的に管楽器のための作品を多々書いたことも、この国の管楽器奏者たちの名声向上に大きく寄与したのでした。この頃、まさにその国民音楽協会の立ち上げに寄与し、初代主幹となったサン=サーンスこそは、オーケストラ音楽における管楽器やオルガンでの色彩感あふれる表現もさることながら、彼が——実は彼よりも早く亡くなった(!)ドビュッシーと同じように——管楽器のために3曲ものピアノ伴奏付ソナタを残して世を去ったということは、実に象徴的な事実と言えるでしょう。
 そんなサン=サーンス晩年の偉業を最も的確に伝え得たのはやはり、20 世紀の伝統を「いま」に伝えたパリ音楽院の名教師たちだったのではないでしょうか...? パリ音楽院演奏会協会管弦楽団の後継団体ともいえる、パリ管弦楽団のソリストたちのすぐれた録音を数多く世に送り出してきたフランスIndesens!レーベルはいま、2011 年に屋号を継承したCalliope レーベルで制作されていた音源のなかから、そうしたサン=サーンス晩年の三つのソナタを中心とする、パリ音楽院の名手たちによる傑作録音を掘り出し、みごとなアルバムとして世に送り出してくれたのです。
 レーベル主宰者は自らフランス随一の名手エリック・オービエに師事したトランペット奏者であるとともに、古いフランスのオーケストラ録音には一家言ありのレコード・マニアでもあり、こうしたものの復刻盤を作るにはうってつけの人物。数多くのフランス人ソリストと録音を続けてゆくうえで、こうした音源をきちんと世に送り出すとなれば、たとえCalliope 時代にCD 化されていたとしても(Calliope のもとオーナーも、この点では彼にひけをとらない耳の持ち主だったと思いますが)うっかりした音の盤など世に出せるはずがないのだ…と、改めて痛感いたしました。
 なんと高雅な「フランスの管」!Erato のヴィヴァルディ名盤群などでも聴けるブールグのオーボエが、なんとまろやかに香り高く響くことでしょう——
 アラールのフランス式バソンが、なんとぴたりとサン=サーンスの瀟洒さをとらえていることでしょう。
 アルバム末尾にはEMIのPD 音源から「七重奏曲」を引っ張ってきて、これも丁寧に復刻(幻のピアニスト、J-M.ダレによるサン=サーンス協奏曲全集の余白に入っていたのと同音源...入手しづらいBOX ゆえ、これは嬉しい計らい)。愛さずにはおれない1枚なのです

PAN CLASSICS



PC10267
(国内盤)
\2940
ハーゲン、最後のリュート作曲家
 〜18世紀中盤、古典派前夜の傑作リュート・ソナタ6編〜
 リュートはNAXOSヴァイス・シリーズのロバート・バルト!

ベルンハルト・ヨアヒム・ハーゲン(1720〜1787):
 1. ソナタ ヘ短調
 2. ソナタ ニ長調
 3. ソナタ ト短調
 4. ソナタ 変ロ長調
 5. ソナタ ハ短調
 6. ソナタ ヘ長調
  ※使用楽譜:アウクスブルク市立図書館の手稿譜
ロバート・バルト(リュート)
使用楽器:アンドレアス・ヤウフのモデルに基づき
アンドリュー・ラトバーフォード1988年製作
 日本で最も人気のあるリュート音楽は、バッハとヴァイスの作品——しかし、彼ら巨匠たちのスタイルに近い、とてつもなく美しいリュート音楽を綴る人がさらにいたのです...!
 艶やかで繊細なリュートの響きに、古典派前夜の優しい音楽が息づく。俊才バルトの面目躍如。
 リュート——さまざまな西欧名画にも描かれ、貴族たちの楽器としてとくに人気の高い古楽器のひとつ。
 その音楽の最盛期はまず間違いなく16〜17 世紀の初期・中期バロック時代だったはずで、そもそもドイツ語圏をはじめヨーロッパでは18 世紀にはもうほとんど独奏楽器としての存在感が薄れ、チェンバロやヴァイオリンなどにその「高貴なる楽器」としての座を奪われるに甘んじるしかなくなっていった...というのが、大筋の音楽史に語られるリュートという楽器ですが、しかし実情はもう少し複雑でした。なんとドイツ中部では、他の多くの地域ではすでに存在さえ廃れてしまっていたはずのリュートという楽器が、どうやら18世紀半ばまで根強く支持されていたらしいのです...
 とくに、欧州随一の精鋭音楽家が集うドレスデンの宮廷では、バッハの友人でもあったとされる名手S.L.ヴァイスが非常に旺盛な活躍をみせていたほか、かの大バッハもリュートでの演奏を想定しながらいくつかの作品を書いていて、不思議なことに?日本ではそうしたドイツ18 世紀のリュート作品こそが(全リュート音楽の流れからすれば圧倒的な少数派、まるで王道に属していないにもかかわらず)たいへん高く評価され、最も売れるジャンルとなっているのが実情(近年もNaxos で久々にシリーズ最新刊が出た、ロバート・バルトによる全曲録音シリーズの存在感はとくに際立っています)。
 しかし、いつもヴァイスばかり、ないしはバッハのリュート作品ばかり...となってくると、もっとほかに同時代の、彼らに近い感性でリュート曲を書いていた人がいてもよいのでは...と思いはじめてしまうところですが、大変うれしいことに、実は他にも数人、古典派前夜まで活躍したバロック最末期のリュート芸術家は確かに存在したのです
 のちにワーグナー楽劇の聖地となる、18 世紀当時も宮廷文化の華やかさで知られたバイロイトで、宮廷ヴァイオリン奏者として活躍していたハーゲンは、同じ宮廷に仕えていたデュランやファルケンハーゲンといったリュートの名手たちを意識してか、数々のリュート作品を残しているのですが、それらはどれもロココ風の繊細さに貫かれた、流し聴きにしても聴き深めても味わい深い名作ばかり——オーガニックな倍音を感じさせてやまない、かそけき美しき羊腸弦の響きで綴られるその音楽は、どんな心にも癒しと潤いを与えてくれるに違いありません。なにしろ本盤、弾き手はNaxos でヴァイス録音にいそしんできた名手ロバート・バルト
 作曲家の人生や作品分析が満載された解説の日本語訳付で、この周辺のリュート音楽をよく知りたい方にも自信を持ってお勧めできる逸品なのです!

PHI(Φ)



LPH011
(国内盤・2枚組)
\4200
モーツァルト(1756〜1791):
 1.交響曲 第39 番 変ホ長調 KV543
 2.交響曲 第40 番 ト短調 KV550
 3.交響曲 第41 番 ハ長調 KV551「ジュピター」
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
シャンゼリゼ管弦楽団(古楽器使用)

LPH011
(2CD)
\4000→\3690
紹介済輸入盤
 待望の来日公演と前後して、こんなとてつもない新譜が!! 新聞評などでの盛り上がりを必ずや受けるであろうところ、巨匠ヘレヴェッヘは「いま」なにをモーツァルトに求めるのか。壮大さ、統一感、泰然自若の「疾走する哀しみ」——
 耳をそばだてるべき解釈、ここに!
 レオンハルト&アルノンクールのバッハ・カンタータ全曲録音に合唱指揮者として起用されたのも数十年前、古楽大国ベルギーの先端であらゆる演奏家たちを牽引する立場にあるフィリップ・ヘレヴェッヘの快進撃は今や、決して古楽にとどまらない広がりをみせています。
 自主制作レーベルPhi を立ち上げてから4年目に突入、カタログ全9タイトルは現在ほぼすべてが『レコード芸術』誌で特選。しかも2枚に1枚は必ずバッハの録音で、合唱畑から育ってきた技量をいかんなく発揮、彼との絶大な信頼感で結ばれている演奏者たちと、稀有の一体感で音楽をつむぎあげてゆくヘレヴェッヘの「呼吸」の泰然自若さは、たとえその演目がベートーヴェンやドヴォルザークの巨大な管弦楽付き合唱曲であろうと、いっさい変わることがないのです——
 最小限の微妙な表現差で、とてつもないスケール感を描き出してみせる、その音楽性の深まり。この6月の来日公演での期待感もいや増しに高まるところ、なんと来日公演曲目(モーツァルトの「ジュピター」と「レクィエム」)を意識したかのような、待望すぎるモーツァルト交響曲の録音が届いてまいりました。
 思えば、ヘレヴェッヘはこれまでベート—ヴェン(現代楽器)やブルックナー(古楽器)、マーラー(古楽器)...といった19世紀以降の交響曲の録音こそしてきたものの、古典派交響曲の録音はなんと、おそらくこれが初(ヘレヴェッヘでモーツァルトといえば、なによりもまずhmfの「レクィエム」と「ハ短調ミサ」が思い浮かぶところですが)。
 届いたサンプルの神々しさに恐る恐るかけてみれば、ひとつひとつ深い彫琢、凄腕の古楽奏者たちとともに細かなフレーズまでいっさいおろそかにしない丁寧な作品解釈がありながら、全体としてはなんと自然な、なんと作品そのものに歌わせるような、それこそ日常のことばで話しかけるようなモーツァルトの世界が広がっている..
 .ピリオド奏法をことさらに意識した団体がしばしばみせるエッジの効いた先鋭性とも違う、かといって現代楽器のスケール感ともまるで違う、ただひたすら濃やかな音楽愛で、いつくしむように紡がれてゆくモーツァルトの、なんという説得力..!解説全訳付はいつもの通り!

RAMEE



RAM1207
(国内盤・2枚組)
\4515
パスカル・デュブリュイユ(チェンバロ)
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
  六つの組曲 通称『イギリス組曲』

  1.第1 番イ長調BWV806 4.第4 番ヘ長調BWV809
  2.第2 番イ短調BWV807 5.第5 番ホ短調BWV810
  3.第3 番ト短調BWV808 6.第6 番ニ短調BWV811
パスカル・デュブリュイユ(チェンバロ)
使用楽器:アムステルダムのティテュス・クライネン1996年製作
(リュッケルス1624年製作モデルによる復元楽器)
バッハの肝は「音楽のことばづかい」、いわゆる音楽修辞学。
 この道を究めるフランスの名手、新たに世に送り出した充実録音は、なんと「あの名曲集」——
 バッハの組曲語法の粋が凝縮された音楽、1音1音の含蓄はとてつもなく深く...RAMEEならではの自然派録音で!
 ラ・プティット・バンドやリチェルカール・コンソートなどベルギー最前線の古楽バンドでバロック・ヴァイオリンを弾いてきたライナー・アルントが、自ら録音技師やプロデュースまでつとめる秀逸古楽レーベル、RAMEE。
 近年のリリースからもわかるとおり、基本的には誰も聴いたことのないような、それでいて多くの人の耳と心に理屈抜きで刺さる古い音楽(現存最古の15 世紀チェンバロ、16 世紀のフランス語教会音楽、ルネサンス・フルート合奏...)を選んでくるセンスがずばぬけているレーベルですが(このあたり、録音技師自身が古楽器奏者である点も大きいのでしょう)、そのセンスそのままに有名作曲家の王道名曲盤を作ったときの仕上がりの洗練度たるや、いつも破格のものがあり。
 そのことは、2008 年末に制作された同レーベル初の2枚組アルバム、バッハの『パルティータ』全6編でいかんなく示されていました。その弾き手であるフランス最前線の名手パスカル・デュブリュイユが満を持して新たに世に送り出すのが、新たなるバッハの名演、『イギリス組曲』の全曲盤! デュブリュイユはフランスのレンヌ音楽院でチェンバロのみならず「音楽修辞学」、つまり古い音楽の音の並びがどういう「語順」で組み立てられていて、それぞれ何をいわんとしていたのか?についての研究でも確たる信頼を勝ち得てきた人物で、こうした音楽修辞学がバッハの音楽を演奏するうえでいかに大切か、『パルティータ』盤では説得力あふれる演奏のみならず、長大な解説(同盤は全訳添付にて発売中)でも詳述していました。
 実際、それがあるとないとでは、ただでさえタッチの強弱で音の強弱を変えられないチェンバロという楽器での演奏は、これほど大きく変わってくるのか——そのことをあらためて印象づけずにおかないのがデュブリュイユの演奏なら、この最新新譜もまさにそういう意味で圧倒的な存在感を放っていると言ってよいでしょう。
 名工ティテュス・クライネンが作ったチェンバロはRAMEE レーベルでの過去録音でも愛奏している精巧かつ充実した銘器で、その美音のニュアンスを的確に拾いあげ、多すぎない残響感とともに自然な響きで私たちの耳に届けてくれるオーガニックなエンジニアリングも、なんと快いこと...そうした「お膳立て」が整っているからこそ、私たちはバッハの音楽の深さをいっそう奥まで体感できるのかもしれません。
 充実解説の全訳も完備、意外に全曲盤の新録音が出ないこの傑作集を、ありとあらゆる角度から味わい尽くす逸品!

RICERCAR



MRIC320
(国内盤)
\2940
これがイタリアのガンバ音楽!
 バルベリーニ宮のガンバ合奏
  〜17世紀ローマ、イタリア初期バロックのガンバ音楽〜

 ジローラモ・フレスコバルディ(1583〜1643):
   『音楽の花束』(1635)より
     トッカータ(2曲)、半音階的トッカータ、カンツォーン、リチェルカール/
   『第1カンツォーナ集』(1628)より
    ロマネスカによる4声のカンツォーナ、ルッジェーロによる5声のカンツォーナ
 ドメーニコ・マッツォッキ(1592〜1665):『第1マドリガーレ集』(1638)より
  ああ、きみがもう二度と、いとしい瞳の輝きを/
  瞳を閉じてしまうのか、アルミーダ
 ◆ジョヴァンニ・ピエールルイージ・ダ・パレストリーナ(1525 頃〜1594):
   第1旋法による4声のリチェルカール/
   第4旋法による4声のリチェルカール
 ◆ケルビーノ・ヴェージヒ(1630 頃活躍):『5声のカンツォーナ集』(1632)より
  カンツォーナ 第1・3・5・12・17 番、
  ガンバ合奏を伴うマドリガーレ2編 *
    〔灼けつくようだ...あなたゆえに、わが命の君よ/おお、恋を裏切る女〕
 ◆ジョヴァンニ・ジローラモ・カプスベルガー(1580頃〜1651):
   『バッロ、ガリアルダとコルレンテ集』(1615)より
     ウッシータ、バッロ、ガリアルダ、コルレンテ
 ◆ドメーニコ・スカルラッティ(1685〜1757):
   ソナタ ロ短調 K.87
アンドレア・デ・カルロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ&指揮)
Ens.マーレ・ノストルム(古楽器使用)
* 拡大編成の追加メンバー:
ヴォクス・ルミニス(声楽アンサンブル)
リカルド・ロドリゲス・ミランダ、
ヴィーラント・クイケン(vg)
 私たちは「ヴィオラ・ダ・ガンバ」とイタリア語で呼ぶのに、イタリアのガンバ音楽はなぜか未知領域?
 パンドルフォ門下の異才、ローマ生まれのガンバ奏者が、故郷でもある「永遠の都」に捧げる
 17世紀ローマにおけるガンバ合奏の集大成——ゲストにはBCJ ソリスト歌手や「あの巨匠」も!
 ヴィオラ・ダ・ガンバの音楽...というと、バッハの傑作群以外で私たちが最もよく接するのは、マラン・マレの曲などフランスの独奏曲であったり、英国ルネサンスの合奏曲であったり...ということになるのでしょう。しかし、よく考えてみてください——にもかかわらず、私たちはこの楽器をヴィオラ・ダ・ガンバという、イタリア語の名前で呼んでいるではありませんか。
 実はこの楽器の音楽を最初に育んだのは、ほかでもないイタリアだったのです。17 世紀が進むにつれイタリアではヴァイオリンがどんどん人気になるのですが、バロック初期、モンテヴェルディやフレスコバルディの時代にはまだ、ガンバはイタリア人にとっても最も高貴な楽器であり続けていたのです。
 そんなイタリアでもとりわけガンバ合奏が大切にされていたのが「永遠の都」ローマ。
 全カトリックの首長たる教皇庁の威光を背景に、画家カラヴァッジョやレーニ、建築家=彫刻家ベルニーニをはじめ、美術の世界でも17 世紀イタリアを代表する芸術都市となっていたローマでは当時、教皇の親族であるバルベリーニ家がたいへんな財力と権勢を誇り、極上の音楽を楽しんでいたわけですが、とくに彼らの私邸では、ほかでもないガンバ合奏による芸術性の高い音楽が夜な夜な耳を喜ばせていたとか。ガンバ専門の曲集があまり残っておらず、この領域は長らく未踏のままだったのですが、そもそも当時は「何で弾くか」を楽譜上で明記することが稀だったため、音楽史研究が進んだ昨今まで、本来ガンバ合奏で演奏されていたイタリア音楽はほとんど見過ごされたままだったのです!!
 異才パオロ・パンドルフォの頼れる門下生で、欧州古楽界の猛者たちとユニークな活動を続けているローマ出身の異才ガンバ奏者アンドレア・デ・カルロ(Alpha の“白いシリーズ”にも登場しましたね)は、実力派ぞろいの凄腕集団を率い(2トラックの声楽曲でのゲストにはBCJ ソリストとしても名をあげている名歌手たちや、超大御所ヴィーラント・クイケンの名前も!)、フレスコバルディやマッツォッキらローマの大家たちの曲を中心に、時には16 世紀の“源流”や18 世紀への思わぬ“余波”など含め、玄妙かつ高雅なガット弦の響きの重なりをじっくり堪能させてくれます。
 「古楽器ガイド」の著者ルジュヌ博士による詳細・端的な解説(全訳付)も絶妙...「17 世紀イタリアはややこしい声楽ばかり」と敬遠がちな方にも大推薦!の1枚です。
 


MRIC326
(国内盤)
\2940
“ヴィターリのシャコンヌ”の正体
 〜T.A.ヴィターリとG.B.ヴィターリ、ボローニャ楽派の弦楽芸術〜

トマゾ・アントニオ・ヴィターリ(1663〜1745):TAV
ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィターリ(1632〜92)GBV
 ①トマゾ・ヴィタリーノの楽譜(TAV)
 ②ヴァイオリン独奏のための「喇叭のカプリッチョ」(GBV)
 ③フルラーナ(フォルラーヌ)(GBV)
 ④バラバーノ(GBV)
 ⑤ヴァイオリンが時を告げる(GBV)
 ⑥ルッジェーロ(GBV)
 ⑦パッサメッツォ イ短調(TAV)
 ⑧第1ソナタ イ短調(TAV)
 ⑨第12ソナタ:チャコーナ(シャコンヌ)(TAV)
 ⑩ソナタ ニ長調(TAV)
 ⑪ヴィオローネのためのベルガマスカ(GBV)
 ⑫ヴァイオリンのためのベルガマスカ(GBV)
 ⑬パッサメッツォ(GBV)
 ⑭ヴァイオリン独奏のためのトッカータ(GBV)
 ⑮第2ソナタ イ短調(GBV)
ステファニー・ド・ファイー(バロック・ヴァイオリン)
使用楽器:ジョヴァンニ・パオロ・マッジーニ1620年製作オリジナル
アンサンブル・クレマチス(古楽器使用)
 まさか、この曲が実は「18世紀のオリジナル作品」だったとは——音楽史上の発見の興奮をさますどころか、ますます興奮に油を注ぐかの凄腕名演に酔わずにおれない...
 古楽大国ベルギー発、欧州古楽勢の俊才たちが解き明かす「ヴィターリのシャコンヌ」とその周辺。

 古楽大国ベルギーを過去30年以上にわたり音盤面から支えてきたRicercar レーベルは、主宰者自身がエンジニアであり、同時に音楽学者でもあるという筋金入りの古楽レーベルなのですが、その良さが最上のかたちで結晶したアルバムがまたもや登場ぱ近年のピリオド・アプローチ全盛の流れのなか、19世紀〜20世紀初頭にひところ流行した「偽作なんちゃってバロック」の傑作(たとえば、ヴァイオリンの名手クライスラーが「作曲」していたコレッリ、プニャーニ、タルティーニ、フランクール...「風の」作品など)はますます録音されにくくなっていますが、その煽りを最も大きく受けているのが、おそらく「ヴィターリのシャコンヌ」ではないでしょうか——
 コレッリの「ラ・フォリア」と並ぶ、超絶技巧も少なからず駆使しなくては極上の演奏には仕上がらない難曲でありながら、どうにもバロック期の作にしてはやたらと情感表現が濃密すぎ、加えて楽譜資料をきちんと突き止めた学者があまりおらず、ごく何となく「19世紀に作られた偽作」という風評が立ちはじめ、いつのまにかとんと新録音を見かけない(メジャーや国内盤など、ここ数十年皆無に近い状態??)レパートリーになってしまいました。
 ところが...近年、実はこの曲の確かな18世紀史料が発見されたとのことで(そのあたりは本盤の解説(長大ですが全訳つきます)に詳述されています)、驚くべきことに、この異形の変奏曲が実は18世紀オリジナル、間違いなくT.A.ヴィターリの真作だったことが判明したというのです
 うかつな遊びはやりにくい、古楽専門家の猛者が揃うベルギーでこのようなアルバムが出てきたということは、これはどうやら信頼に足る事実のよう——解説を読み解きながら、実は父子2代にわたって一族の名を高めた「ヴィターリ家」の2名匠の音楽世界は、彼らの活躍地であり、かつコレッリやトレッリが若い頃に修行を積んだ場所でもあるボローニャのヴァイオリン芸術がどういうものだったのか、バロック中期から後期へと移る時代がどういう時期だったのか、さまざまなかたちで彷彿とさせてくれます。
 羊腸弦の魅力そのまま、「シャコンヌ」の世界が新たに立ち現れる…古楽ファン向けというより、ヴァイオリン・ファン向けのアイテムとして注目されそうな…何はともあれ、本当に見逃せない1枚なのです

ZIG ZAG TERRITOIRES



ZZT070301
(国内盤)
\2940
C.P.E.バッハ:フルートのための無伴奏ソナタと、三つの協奏曲
 カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜1788):
  1.フルート協奏曲 イ長調 H.438(1753)
  2.フルート協奏曲 イ短調 H.431(1750)
  3. フルート協奏曲 変ロ長調 H.435(1751)
  4. 無伴奏フルート・ソナタ イ短調(1747)
ジュリエット・ユレル(フルート)
アリー・ファン・ベーク指揮
オーヴェルニュ室内管弦楽団

 変幻自在、「人間のうつろう心」を音楽にしたエマヌエル・バッハの作風は、奏者の息づかいを間近で伝えるフルートこそ最適。フランスの俊才ユレル、お国ものだけじゃない玄妙名演ですひジュリエット・ユレルひ今年のラ・フォル・ジュルネで(つまり、日本の音楽批評界で…ということにもなるのでしょうが)新たに最も大きな注目を集めたのは、このフランス出身の世界的フルート奏者と、カスタネットの名手ルセロ・テナの二人だったのではないかと思います——パリ音楽院出身、すでにゲルギエフ時代からロッテルダム・フィルで15 年にわたりソロ奏者をつとめてきたこの異才、数年前からZig-Zag Territoires レーベルでソロ名義ないし室内楽奏者として続々名盤を世に送り出し、2011 年にリリースされたフランス近代作品集(ZZT110401)は世界的に注目され、日本でも『レコード芸術』誌で準特選に輝くなど、彼女のソロ奏者としての存在感をいやおうなしに印象づけたのも記憶に新しいところ。ニュアンス豊かな息遣いで繰り出される玄妙な吹き口はまるでフランス語の詩を朗読しているかのよう、音符の運びにひとつひとつ確かな意味を感じずにはおれないその比類ない音楽性がなによりぴたりと合ったのが、確かに“お国もの”であるフランス近代作品だったというのもあるでしょう。
 しかし——実は、そんな彼女がソロ・デビュー盤に選んだ作曲家は、いかなる近代作曲家でもなく、18 世紀、まだキィの少ないフラウト・トラヴェルソが使われていた時代の音楽だったのですひC.P.E.バッハ——大バッハの次男にして、多感様式という独特の主情的表現を得意とした、そしてフランス啓蒙思想にかぶれたフリードリヒ大王のもとで長年チェンバロ伴奏者をしてきた重要人物ひというより、この次男バッハは新譜への注目度がつねに高い不思議な作曲家でもあるわけですが、ユレルが彼のフルート作品をソロ・デビュー盤で大々的にとりあげたいと思ったのは、ニュアンス豊かな吹奏をつねに追求してきた彼女の音楽性が、刻一刻とうつろう人の情感というものを音楽にしようとしていたC.P.E.バッハの芸術信念や作風と、ぴたりと合致していたからなのだと思います(とくに、最後の無伴奏ソナタ!!)。
 事実、本盤では現代楽器による18 世紀作品演奏にすぐれ、古楽器全盛の“いま”でも常にトップランナーとして瑞々しい作品解釈を続けてきたオーヴェルニュ管とともに、爽快なスピード感のなか音の粒ひとつたりと疎かにしない至高の名演ぶりを聴かせ、居並ぶ競合盤などものともしない“新定盤”的仕上がりを愉しませてくれるのですひ仏ランパル協会主宰者D.ヴェルースト氏の詳細解説(全訳付)も実に興味深く、美麗Digipack とともに商品価値をひときわ高くしているのです。


 


ZZT318
(国内盤・3枚組)
\5040
フランソワ=フレデリク・ギィ(ピアノ)
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集vol.3

ベートーヴェン(1770〜1827):
 ①ソナタ第1番 ヘ短調op.2-1 ②ソナタ第2番イ長調op.2-2
 ③ソナタ第3番 ハ長調op.2-3④ソナタ第26 番 変ホ長調op.81a「告別」
 ⑤ソナタ第27番 ホ短調op.90
 ⑥ソナタ第29番 変ロ長調op.106「ハンマークラヴィーア」
 ⑦ソナタ第30 番 ホ長調op.109
 ⑧ソナタ第31 番 変イ長調op.110
 ⑨ソナタ第32 番 ハ短調op.111
フランソワ=フレデリク・ギィ(ピアノ)

ZZT 318
(3CD)
先日ご紹介の輸入盤

¥5000→\3990
 前2作の『レコ芸』特選という追い風を受けながら、第3作の充実度は「ますますとんでもない」!
 BOX三つに周到に振り分けられたソナタ全32曲、堂々の完結編には「最初の3曲」と「最後の3曲」、そして「ハンマークラヴィーア」...様式の違い、感性の深まり、鮮烈全集完結ひNaive レーベルでフィリップ・ジョルダン指揮フランス放送フィルと録音したベートーヴェンの協奏曲5曲が、時として辛辣な批評もいとわないフランスの批評界を騒然とさせたのも、はや数年前のこと——
 その後Zig-ZagTerritoires に移籍し、リスト中期の難曲集『詩的で宗教的な調べ』の全曲録音で圧倒的なテクニックと比類ない音楽性をあらためて印象づけたあと、2011 年末からはついに、かねてから構想を練り上げてきたベートーヴェンのソナタ全曲録音に着手。これはモンテカルロ音楽祭の音楽監督マルク・モネ(現代作曲家ひ)との語らいから生まれた計画だそうで、ただ全32 曲を順番に弾いたところで何の創造性もない...との意見から、三つの3枚組、CD9枚に32 曲が独特の曲順で収録されているという内容——
 そして上述のリスト盤同様、前2作はどちらも堂々『レコード芸術』特選に選ばれており、このピアニストの桁外れな技量と深い音楽性はあらためて日本のファンにも知れわたるところとなりました。
 そしていま、満を持してリリースされる完結編は、同じく『レコード芸術』特選に輝いた同レーベルのベルチャSQによる弦楽四重奏曲全集と同じく、この楽聖の重要なレパートリーのディスコグラフィが、あらためて新時代へ向けて拡充しつつあることを如実に印象づけてやまない存在となったのです!
 ピアノ・ソナタ全曲録音も弦楽四重奏曲全集も、たとえ単発盤の連続はあったとしても、なにしろベートーヴェンの作品となると、そうおいそれと全曲セットでは録音されないのが実情...ギィのソナタ全曲盤は、その意味でもファンにとって耳を通さずにはおれないマストアイテムなのです。
 とくにこの最終巻は、初期作品集となった第1 巻(ZZT111101)であえて外していた「最初の3曲」に始まり、ベートーヴェンの重要なパトロンであったオーストリア大公との別れと再会に触発されて書いたという「告別」、後期ベートーヴェンの始まりを告げるかのような圧倒的長大さで迫る「ハンマークラヴィーア」などの作品をへて、この楽聖が残したピアノ・ソナタとしては最後の3曲となった、ソナタ形式というものへのアンチテーゼのような深遠&異色の第30〜32 番...と、我らが大作曲家のピアノ芸術の「出発点」・「極致」・「到達点」をあざやかに伝えてくれる、バランスの良いプログラミングになっているところも大きな魅力——
 しかもギィというピアニスト、その堅固な解釈姿勢で初期作品のクリスピーな魅力をいかんなく味あわせてくれる一方、「ハンマークラヴィーア」以降の晩期作品でもそれぞれの音作りの彫琢をわかりやすく示しながら、あるときは芯の強い芸術性に貫かれた雄弁そのもののドライヴ感で、またあるときはかそけき響きに宿る幽かな差異で、各ソナタのとほうもない深遠を垣間見せてくれる、なんという頼もしくも桁外れな感性でしょうひ充実の解説(全訳付)とともに、いまいちど楽聖の芸術家像をふかく考えてしまう...既存巻ともども、お見逃しなく!
  

Tedi Papavrami: Violon seul (Solo Violin)
ZZT320
(国内盤6枚組)
\6300
テディ・パパヴラミ(ヴァイオリン)/ 6枚組ボックス
 〜金字塔的傑作と編曲作品でたどる、無伴奏ヴァイオリン驚異の可能性〜

◆ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
 ①無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全6編)BWV1001-1006
 ②オルガンのためのファンタジアとフーガ ト短調 BWV542*
 ③チェンバロのための組曲 ト短調 BWV822*
◆ドメニコ・スカルラッティ(1685〜1757)*:
 ①ソナタ イ短調 Kk54 ②ソナタ ハ長調 Kk32
 ③ソナタ ヘ短調 Kk466④ ソナタ ヘ短調 Kk481
 ⑤ ソナタ ハ短調Kk11 ⑥ソナタ イ長調 Kk380
 ⑦ソナタ ロ短調 Kk87 ⑧ソナタ ニ短調 Kk141
 ⑨ソナタ ト短調 Kk426 ⑩ソナタ ト短調 Kk185
 ⑪ソナタニ短調 Kk9 ⑫ソナタ イ長調 Kk322
◆ニコロ・パガニーニ(1780〜1840):
 無伴奏ヴァイオリンのための24 の奇想曲 op.1
  (全曲録音2種:ライヴ版/スタジオ版)
◆ウジェーヌ・イザイ(1858〜1937):
 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番
◆ベーラ・バルトーク(1881〜1945):
 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
テディ・パパヴラミ(ヴァイオリン)
 ヴァイオリニストひとり、世界は無限。
 明敏なリスナーのあいだでは、日本でもすでに確かな支持——カルト的人気を確立しつつある「21世紀ヨーロッパの子」、故郷アルバニアからフランスに渡り世界的活躍をみせる異才パパヴラミはヴァイオリンひとつでCD6枚、易々と戦ってみせる。
 書下しインタビュー「まで含め」解説全訳付です!
 MEZZO やARTE、Medici TV、France Musique など、最近ではフランス系のインターネット配信にも手が届きやすくなり、明敏なリスナーには欧州シーンの現状がいちはやく伝わってくるようになりました。そうしたなか、広告戦略に毒されずとも確かな信頼を築き上げ、その驚くべき至芸に業界関係者もあつい期待を寄せているフランスの名手パパヴラミは、今世紀初頭にも来日公演でたいへんな熱狂を呼びさまし、熱心なファン層をまたたくまのうちに築きあげた「腕一つの才人」!
 故郷アルバニアでは物理的に決して満足とはいえない環境にありながら、ロシア経由で伝わってきたフランコ=ベルギー派の奏法にも確かな適性をしめし、早くからフランスのフルートの大家アラン・マリオンに見出されて破格の対応でパリに連れて来られて以来、フランスの名手として圧巻の腕前を印象づけてきたパパヴラミは、aeon レーベルで過去10 年にわたり、バッハの無伴奏全曲はもちろん、パガニーニの『奇想曲集』を全曲ライヴ録音(一点の曇りもなし!)し過去のスタジオ録音(Pan Classics 制作)と2枚組でリリースしたり、鍵盤奏者の左手・右手の交錯がめまぐるしくも面白い曲が多々あるスカルラッティのソナタを、まさかのヴァイオリン1本編曲で12曲も録音してしまったり...と、何かとリスナーを驚かせてやまない驚異のCD リリースでも知られてきました。
 今回aeon レーベルと同じオーナー傘下にあるZig-Zag Territioires レーベルが、そんなaeon での傑作アルバム4作(CD 全6枚)をひとつのBOX に収録!
 これは、アルバニアの大作家イシマイル・カダレの専任翻訳家もつとめる(なんという多芸ぶり...)パパヴラミ自身がフランスで書き起こした自伝とあわせ、フランスでは同じ表紙で同時リリースされました。パパヴラミの技量とその独特の生涯は、日本でももっと広く知られるべきもの!と強く考える弊社はここで、BOX 本体に解説書として寄せられているパパヴラミへの最新インタビューはもちろん、過去リリース時の解説文もすべて日本語訳をつけ(バッハはリリース実績なしで完全新訳、他は過去リリース時のものを同梱)、原盤以上に「無伴奏ヴァイオリン(と鬼才パパヴラミ)を知り尽くすBOX」として遜色ないリリースといたします。




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