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第72号
お奨め国内盤新譜(1)
2013.8.20〜2013.10.18


AEON


MAECD1221
(国内盤・訳詞付)
\2940
〜シャンパーニュの貴紳、
  ナファロワの王にして吟遊詩人
    13世紀の宮廷恋愛歌〜

 シャンパーニュ伯=ナファロワ王ティボー(1201〜1253):
  ①歌を作りたい気分だ
  ②これまでは、相手ほど深く愛したりはしなかった(器楽)
  ③正しき愛は美と礼節からなる
  ④恋の相手に、忠実に使える者は(器楽)
  ⑤それは散歩中のこと ⑥恋する男の慰めは
  ⑦王の第7エスタンピ(器楽)⑧ひとつだけ願いを聞いて下さい
  ⑨ちょっと言わせてくれ、俺の思うところを
  ⑩苦しみを和らげるため
  ⑪ある日、ある朝、森と牧場の間で
  ⑫聖母マリアの優しき名、MARIA の5文字について語ろう
  ⑬このご時世ときたら⑭王の踊り(器楽)
  ⑮諸君のうち、聖地へ行かない者は
  ⑯王の第5エスタンピ(器楽)
ブリジット・レーヌ (歌、中世ハープ、プサルテリウム、打楽器)指揮
Ens.アッラ・フランチェスカ(古楽器使用)
ティボー・ド・シャンパーニュの歌
 時代は遡って、なんと13世紀——中世騎士物語さながらの、十字軍士にして吟遊詩人たる王ティボー・ド・シャンパーニュは、ナファロワ(ナバラ)王国の主君でありながら、時代を代表する大の文学通ぱ破天荒な人生と恋をうたった、せつなくも神秘的な古楽歌唱と古楽器の響き...ひさしぶりに、中世ものを——
 今やシャンパンの生産地として知られるフランス東部シャンパーニュ地方の領主の家に生まれ、のちにフランスの南からスペイン北東部にかけて広がるナファロワ王国(バスク語がつかわれていた場所。スペイン語流に言うなら「ナバラ」、フランス史では「ナヴァル」として出てくる国)の王様になったティボー・ド・シャンパーニュは、一国の王として戦乱の中世ヨーロッパに君臨し、十字軍にも従軍して戦った正真正銘の騎士道的人物だったかたわら、恋多き人生も歩んでいたようで、そのかたわら母親がアキテーヌのアリエノール(居城のあったボルドーを、フランス随一の芸術音楽と詩文学の中心地にした芸術擁護者)だったこともあり、若い頃から一流の詩人たちに囲まれ、卓越した吟遊詩の技法を身につけ、フランス文学史に確たる名を刻んだのでした。
 その歌の数々は、北イタリアで編纂されたとも、十字軍貴族のためにまとめられたとも言われる謎めいた写本「王の歌集」(美しい細密装飾画に彩られた美術品として、太陽王ルイ14 世が所有していたところからついた綽名)に数多く書き留められており、生前のティボーがいかに吟遊詩人として高い名声を誇っていたかを窺わせてくれます。
 ただ、中世音楽というのはどれほど素晴しい可能性がそこに詰まっていようとも、その息吹を「いま」に蘇らせられるだけの見識をそなえた、経験ゆたかで飛び抜けた演奏技量にも事欠かない一流古楽奏者がいなくては、私たちにその素晴しさが伝わってこないもの——今回、私たちがいくら感謝してもし足りないほどの名演を紡いでくれているのは、濃密でありながら透明感のある不思議な歌声で、OPUS111 やZig-Zag Territoiresなどに幾多の名演を刻んできたアンサンブル・アッラ・フランチェスカの主宰者、ブリジット・レーヌ。
 アンサンブルの5人は中世ハープや弓奏ヴィエル、リュートなどの中世古楽器で典雅な音を綴り(中世音楽の常として、低音専門の楽器がないことからくる独特の浮遊感がなんともたまりません——
 幾百年の時を軽やかに飛び越えるかのよう)、艶やかな歌声で綴られる韻文の抑揚はなんとまたせつなく、美しいことか...歌詞全訳付、作者と時代について解き明かした解説も全訳付。妥協なき本格派でありながら、誰しもの耳も魅了する1枚です。

ALPHA



Alpha535
(国内盤・訳詞付)
\2940
アッコルドーネと、イタリア17世紀の独唱モテット
 〜歌い手ひとり、神との対話〜

 ①めでたし、海の星(ボニファチオ・グラツィアーニ1604〜1664)
 ②ああ、ありがたきヒエロニムス様(アレッサンドロ・グランディ 1586〜1630)
 ③歌え、神に(イグナツィオ・ドナーティ 1570〜1638)
 ④3声部のソナタ「離れよ、傷ついた心よ」(ビアージョ・マリーニ1587〜1663)
 ⑤喜びにわきあがれ、町中の者たちよ(クラウディオ・モンテヴェルディ 1567〜1643)
 ⑥いとも思慮深きおとめ(ジュゼッペ・ジャンベルティ 1600〜1662)
 ⑦歌を捧げてまいります、神に(グランディ)
 ⑧3声部のソナタ(ジョヴァンニ・パオロ・チーマ 1570〜1622)
 ⑨聖母は立てり、悲しみにくれて〔スターバト・マーテル〕
  (ジョヴァンニ・フェリーチェ・サンチェス 1600〜1679)
 ⑩神よ、あなたに希望をかけましょう(ドナーティ)
 ⑪ごきげんよう、皇后さま〔サルヴェ・レジーナ〕
  (ジョヴァンニ・パオロ・カプリオーリ 1580頃〜1627頃)
 ⑫ 第7ソナタ(ジョヴァンニ・バッティスタ・フォンターナ 1571〜1630)
 ⑬蘇えられたのです、よき羊飼いが(ケルビーノ・ブザッティ ?〜1644)
 ⑭ごきげんよう、皇后さま〔サルヴェ・レジーナ〕(モンテヴェルディ)
マルコ・ビズリー(歌)
グイード・モリーニ(cmb・org・指揮)
アンサンブル・アッコルドーネ(古楽器使用)
 越境系古楽の旗手アッコルドーネ、あざやかすぎる新譜を電撃発表! そのルーツでもある「歌い手ひとり」のイタリア・バロック最盛期の至芸は、最小限の演奏編成で驚くほどの広がりをみせる——声の魔術師ビズリー、異才モリーニ、変幻自在の17世紀!サンプル盤の到着はまだですが、間違いなく今年後半の古楽棚屈指の注目盤のひとつになるであろうリリース情報が舞い込んできましたので早速——
 イタリア古楽界でも特異な存在感を示す、変幻自在の美声でバロックはもちろん、グレゴリオ聖歌から民俗音楽、カンツォーネまであざやかに歌いこなす“声の魔術師”マルコ・ビズリーと、ルネサンス=バロックの様式でも曲を書く作曲家でもある天才古楽鍵盤奏者グイード・モリーニを中心とする異才集団アッコルドーネ、昨今ようやく日本発売あいなった『ナポリのことなら、いくらでも話せる。』(Alpha532)の興奮もさめやらぬうち、またしても名門Alpha から新譜をリリースするとのこと!
 さきの『ナポリの〜』といい、その前の『アッコルドーネの南イタリア伝統音楽』(Mer-A359)といい、昨今は歌い手ビズリーの故郷でもあるナポリの民俗系サウンドに焦点をあてたアルバム制作がめだったアッコルドーネですが、今回は久々に正統派古楽路線、イタリア・バロックの粋ともいえる17 世紀の独唱芸術を重点的に攻めた1枚に。
 幾筋ものメロディを同時進行させてゆくルネサンス多声教会音楽の総合性から一転、主役格の歌い手ひとりをきわだたせる独唱中心の音楽がさかんになったのが17 世紀のイタリアであり、それがオペラという芸術様式の誕生を促したのだとすれば、ここに集められている小規模編成による「独唱モテット」の数々こそ、その粋をしめす至芸が凝縮されたジャンルにほかなりません。
 ヴァイオリン2挺とチェロ、テオルボ(独奏名盤も多い名手フランコ・パヴァン!)にオルガンまたはチェンバロ、という引き締まった小規模編成でも、アッコルドーネの演奏解釈はいつだって一味違う何かを感じさせてきたところ。また長年ライヴにこだわり録音制作を拒否しつづけてきた彼らが、満を持して刻み付けた新譜のひとつであるところも含め、今回の演奏解釈もまず間違いなく「只者ではない」はず——解説の充実度も相変わらず奮っています(歌詞含め全訳付)。
(店主より)

 これはひとつの奇跡か。
 マルコ・ビズリーとアンサンブル・アッコルドーネによるカッチーニ。

 http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=DeBDS-b4ASg

 これはただの偶然だと思われた方はこのモンテヴェルディを。

 http://www.youtube.com/watch?v=R48fKqxUhwI&feature=player_embedded

 そしてもっと聴きたいと思われた方はこのアルバムを。カッチーニとモンテヴェルディ、入ってます。

La Bella Noeva
Alpha 508
輸入盤
\2700→\2290
ラ・ベッラ・ネーヴァ
 〜天上の響き、愛の歌、そして民の心「タランテッラ」まで

 恋する幸せもの (ジョヴァンニ・ステーファニ、17c. )
 この苦悩はあまりに甘く
 (クラウディオ・モンテヴェルディ、1567-1643)
 翼を持つ愛の神よ
  (ジュリオ・カッチーニ、1550-1610)
 麗しのアマリリ (ジュリオ・カッチーニ)
 恋人たちよ、聞いてくれ (ジュリオ・カッチーニ)
 遠く離れて君を想う
  (ビアージョ・マリーニ、1587-1663)
 タランテッラ 第1-3 (マルコ・ビズリー、1957- )
 ラ・ベッラ・ネーヴァ (作者不詳)
 ガッラチーノの唄 (作者不詳)
 君は美しい (アレッサンドロ・グランディ、?-1630)
 コンチェルト・スピリトゥアーレ
 (グィド・モリーニ、1959- )
 主を讃えよ (クラウディオ・モンテヴェルディ)

 アレルヤ:生きるものみな、主を讃美せよ (アコルドネ)
マルコ・ビズリー(歌)
グイード・モリーニ(cmb・org・指揮)
アンサンブル・アッコルドーネ(古楽器使用)
 あくまでもライヴとライヴ録音にこだわってきた”幻のアンサンブル” アコルドネが、遂に許したレコーディングCD。テノールのマルコ・ビズリーと鍵盤奏者で作曲家のグィド・モリーニを最小ユニットとするアンサンブル・アコルドネ 。
 その旗揚げ10周年記念プログラム(1999年)に基づく当盤は、17世紀イタリア音楽のエスプリを聖・俗・民の三相から立体的に聴かせる、いわばアコルドネ・ワールドのショーケース。
 噂にきく世界で唯一の声の持ち主マルコの至芸、弦の名手5人に息を吹き込むグィドの時空を超えたアレンジ・センスが、従来の”古楽”に対するイメージを鮮やかに塗り替える。

 


Alpha603
(国内盤)
\2940
フォーレ:ピアノ連弾のための作品、
 フルートのための作品、ピアノ三重奏曲
  〜ピアノを伴う室内楽曲 Vol.4〜

ガブリエル・フォーレ(1845〜1924):
 ①ドリー op.56 〜ピアノ連弾のための
 ②マスクとベルガマスクop.112 〜ピアノ連弾のための
 ③バイロイトの追憶 〜ピアノ連弾のための
 ④フルートとピアノのための幻想曲 op.79*
 ⑤フルートとピアノのための課題小品*
 ⑥シシリエンヌ op.78〜フルートとピアノによる*
 ⑦ ピアノ三重奏曲op.120***
 ⑧夢のあと 〜チェロとピアノによる**
 ⑨シシリエンヌop.78〜チェロとピアノによる **
エリック・ル・サージュ、
アレクサンドル・タロー(ピアノ)
エマニュエル・パユ(フルート)*
フランソワ・サルク(チェロ)**
ピエール・コロンベ(ヴァイオリン)&
ラファエル・メルラン(チェロ)***
 待望の大好評シリーズ第4弾は、なんとアレクサンドル・タローが連弾パートナー!!
 フォーレ演奏史にかくじつに残るであろう「ドリー」他の連弾作品の新録音もさることながらパユのフルートやサルクのチェロまで。晩期の傑作トリオの収録も嬉しく、今回も解説充実度大!見過ごせない新譜が続くAlpha ですが、古楽器録音(また近日新録音をご案内予定!)もさることながら、やはり最近ではエリック・ル・サージュの活躍ぶりが目立つところ——
 シリーズ既存3作は一昨年からのリリースで相次いで大好評、このフランス随一のピアニストが、知性あふれる作品解釈と、同じフランス人としての限りない共感を注ぎ込んで録音しつづけるフォーレ室内楽曲集、最新リリースが登場いたします!まだサンプル未着ながら、なにしろ嬉しいのはその演奏陣——今回のテーマはおもに「連弾」「フルート」「ピアノ三重奏曲」なのですが、最初の連弾作品群にはなんと、harmonia mundi france やVirgin に名盤あまた、フランス近代作品とその直系の祖先であるフランス・バロック作品のピアノ解釈で絶大な支持を集めるアレクサンドル・タローが共演!ただ繊細なだけではない、フォーレの緻密で多角的な側面をかいまみせる「ドリー」や「マスクとベルガマスク」などをはじめ、若き日のワーグナーへの傾倒ぶりをしめす「バイロイトの追憶」など、じっくり向き合いたい傑作がこの現代フランス最高峰の俊才たちのピアニズムで聴けるというのだけでも、本盤は充分以上に価値があるというものです。
 フルート作品は、フォーレが同時代の名手タファネルとの出会いから書くようになった音楽——名曲「シシリエンヌ」の、あの印象的なピアノ・パートをル・サージュほどの大物が弾くというのも陶然となるような話ではありますが、フルート・パートには長年の朋友であるパユが参加...というのもドキドキするような贅沢な話ではありませんか。
 そのほかにも近年活躍めざましいフランソワ・サルクによるチェロ小品も、フォーレが晩年の衰えゆく肉体に抗いながら見出した新境地の結実である傑作「ピアノ三重奏曲」も、ル・サージュの的確な解釈でどう再現されてゆくのかが楽しみでなりません。
 


Alpha194
(国内盤)
\2940
アレクセイ・リュビモフ(フォルテピアノ)
 ベートーヴェン:三つのピアノ・ソナタ
  〜月光、ヴァルトシュタイン、テンペスト〜

ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770〜1827):
 1.ピアノ・ソナタ第14 番 嬰ハ短調 op.27-2「月光」
 2.ピアノ・ソナタ第21 番 変ホ長調op.53「ヴァルトシュタイン」
 3.ピアノ・ソナタ第17 番 ニ短調op.31-2「テンペスト」
アレクセイ・リュビモフ(フォルテピアノ)
使用楽器:パリのエラール1802年製作モデル
(再現製作:クリストファー・クラーク、2011年)
 20世紀ロシア・ピアニズムの行き着いた先に、最先端の古楽器研究があった——現代最高峰の異才アレクセイ・リュビモフが、Alphaの「知」と「洗練」にたどりついた瞬間。充実解説、比類ない自然派録音を背景に、選び抜かれた「“月光”の年のエラール」で紡ぎ出される、至高の銘解釈。

 東西冷戦終結後からErato やWarner といった“西側”のレーベルで入念なアルバム作りを続けてきた末、数年前からフランスの小規模レーベルZig-Zag Territoires で丹念に新録音を世に送り出し続けてきたロシアの異才、アレクセイ・リュビモフ。リヒテルやギレリス、ルプーらと同じく往年の名匠ゲンリヒ・ネイガウスに師事、その後はソ連時代からシュニトケ、シルヴェストロフ、グバイドゥーリナ...といった前衛作曲家たちと相次いで仕事をしながら、モスクワ・バロック・カルテットの鍵盤奏者として早くからチェンバロも演奏しつづけてきた彼が、冷戦終結後まっさきに手がけるようになったのが、旧東側では演奏可能な残存例などまず望むべくもなかった「本物の古楽器」、「モーツァルトやベートーヴェンが知っていた18〜19 世紀当時のピアノ(フォルテピアノ)」の探索でした。時には理想の楽器を求めるあまり、録音契約から何年ものあいだプロジェクトに着手できない...ということさえあったほど、リュビモフの演奏楽器にたいする執着は強く、ただでさえどんな楽器でも(そう——現代ピアノも含め!)とてつもない求心力を誇る演奏解釈を聴かせる彼が、そのようなこだわりを貫いた末に磨きあげていった古楽器演奏の素晴しさが、Zig-Zag Territoires レーベルからリリースされた何枚かのアルバムでたっぷり味わえるようになったのはまさに、演奏史上に残る記念碑的出来事と言えるかもしれません(Erato やWarner など大資本レーベルで録音していた時代には、こうした「納得がゆくまで待つ」ということが完全にはできなかったはず)。

 そのリュビモフの新譜が、ほかでもない、フランス小規模レーベルの至宝ともいうべきAlpha から新譜を出すとは、なんという素晴しい時代が来たのでしょう——録音技師はZig-Zag Territores 時代から彼のフォルテピアノ録音を一貫して手がけてきた信頼できるパートナー、フランク・ジャフレ。解説には音楽学者、哲学者、音楽博物館シテ・ド・ラ・ミュジークのキュレーター、復元楽器製作者クリストファー・クラーク...といった錚々たる面々が文章を寄せており、まるで洋書画集のような極上Digipack ジャケットの美しさ、テーマに合わせて選ばれた同時代のジャケット絵画の美質など、演奏の良さを引き立てるあらゆる仕掛けがなされている点はまさに、Alpha レーベルならではのこだわり。

 軸になるのは「月光」——このソナタが1802 年に書かれたさい、ウィーン型とは違うフランス最先端のエラール・ピアノがすでに世に現れていたことをふまえ、まさに同じ年に製作され現存している楽器をもとに作られた精巧な復元楽器(復元楽器は必ずしも「オリジナルに勝ちえない模造」ではなく、「ベートーヴェンがふれた時と同じく“出来たての楽器”」でもあるわけです)で奏でられる三つの傑作ソナタ...『月光』と 『ヴァルトシュタイン』は15 年ほど前にErato でも録音していたということは、当時果たし切れなかった何かが今回の録音に示されている...ということと考えてよさそうです。
 


Alpha193
(国内盤)
\2940
カフェ・ツィマーマン(古楽器使用)
 ヴィヴァルディ:協奏曲集「調和の霊感」op.3 他

 アントニオ・ヴィヴァルディ(1678〜1741):
  ①合奏協奏曲 ニ短調 op.3-11 RV565
  ②合奏協奏曲 ヘ長調 op.3-7RV567
  ③ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.3-9 RV230
  ④チェロ協奏曲 ト短調 RV414
  ⑤合奏協奏曲 ロ短調op.3-10 RV580
  ⑥ヴァイオリン、チェロ、弦楽合奏と通奏低音のための
    協奏曲 ヘ長調「プロテーオ、または逆さまの世界」RV544
  ⑦合奏協奏曲 イ短調 op.3-8 RV567
パブロ・バレッティ(vn)
カフェ・ツィマーマン(古楽器使用)
ダヴィド・プランティエ、
ラウロ・ロペス=フェレイラ、
ニコラス・ロビンスン(vn)
ペトル・スカルカ(vc)
 待望すぎた!!「バッハ:さまざまな楽器による協奏曲」シリーズ大好評のカフェ・ツィマーマン、満を持しての最新新譜はなんと、ヴィヴァルディ!超王道の傑作集からの作品と、チェロも大活躍の単独曲2曲...ということは、続編も?!

 濃密な音楽性、極上、極上...ついに登場、このサンプル到着をどれほど待ち望んだことか!! この極上小規模レーベルの要ともいうべきアンサンブルとして活躍、6枚にわたる『バッハ:さまざまな楽器による協奏曲』シリーズ(各1曲の「ブランデンブルク協奏曲」を収録)とそのBOX 版(Alpha811・事実上「ブランデンブルク協奏曲」と「管弦楽組曲」双方の全曲集プラスアルファ!)で大好評を博してきたフランスの古楽器集団カフェ・ツィマーマンが、長きにわたる沈黙を破ってついに待望の最新新譜をリリース...!
 しかも、演目は古楽器・現代楽器問わずヴァイオリン芸術にかかわる人が必ず通る超・注目作、ヴィヴァルディの『調和の霊感』作品3からの傑作群...とあっては、どうして注目せずにおれるでしょう!
 Alpha レーベルや古楽を聴きつけない方々も、いやそれどころかふだんクラシックを聴かないけれどセンスのよい音楽には敏感なファン層までも、彼らのバッハには心そそられてきた...という下地を思えば、この誰もが注目せずにはおれない王道名曲での新リリースが今年後半に広く注目を集めるのは時間の問題。そうした広い層への“引き”もさることながら、彼らの取り組みはいつもながら古楽に詳しい人々をも惹きつけずにおかないであろう仕掛けにも満ちていて、ヴァイオリン独奏がOpus111/Naive やZig-ZagTerritoires などで注目名盤を残してきた異才たちなのもまず気になるところ、すこしだけアップテンポのリズムで続く音作りの痛快さもさることながら、細部での微妙な装飾センス、音の運びに抗いがたい説得力をもたらすアゴーギグ、さらには「ノンビブラート・チェロはピンなし」などというステレオタイプの古楽器演奏像がいかに18 世紀の実情にそぐわなかったか...をさりげなく暴く演奏スタイル(たとえば「支えアリ」のチェロ...18 世紀の絵画史料をちゃんと見てゆけば、チェロの弾き方は決して足で挟むだけでなく、ピン的な支えを使っている例も多々あるのです!
 以前お話を聞く機会があったとき、そういうところを真摯にツメてゆきたいんだ...と主宰者パブロ・バレッティが語っていたのが印象的でした)と、原文解説のセッション現場写真含め、あらためて驚かされるところが多々。『カストラートの歴史』などで知られるパトリック・バルビエの充実解説(全訳付)や楽器製作者についての記述(同)など解説書の充実度も、Digipack ジャケの美麗さも、濃密な現場の空気まですくいとった自然派エンジニアリングも、Alpha ならでは。

ARCANA



Mer-A366
(国内盤)
\2940
ヴィヴァルディと、8種類のリコーダー
 アントニオ・ヴィヴァルディ(1678〜1741)
  ①ソナタ イ長調 RV31〔E管アルト・リコーダー〕
  ②ソナタ ト短調 RV Anh.95-6〔F管アルト・リコーダーi〕
  ③ソナタ ニ短調 RV16〔4度リコーダー〕
  ④ソナタ ト短調 RV36〔ヴォイス・フルート〕
  ⑤ソナタ ト短調 RV28(ドレスデンの手稿譜より)
   〔テナー・リコーダー〕
  ⑥ソナタ ヘ長調 RV52(ヴェネツィアの手稿譜より)
   〔バス・リコーダー〕
  ⑦ソナタ ニ短調 RV14〔ソプラノ・リコーダー〕
  ⑧ソナタ ト長調 RV806(ベルリンの手稿譜より)
   〔F管アルト・リコーダーii〕
ロレンツォ・カヴァサンティ(各種リコーダー)
セルジオ・チオメイ(cmb・org)
カロリーヌ・ブルスマ(バロック・チェロ)
 しなやかなアルト・リコーダーの美音さまざま、あるいは優美なるテナー・リコーダー、あるいは素朴なバロック・オルガンのように安らかな音色を奏でるバス・リコーダー...名盤あまたのイタリア古楽界最高峰の3名手が解き明かす、ヴィヴァルディ初期のスリリングな音楽世界!
 Erato の古楽セクションで数々の名匠たちと仕事を続けたあと、Astree(現Naive)レーベルを立ち上げて軌道に乗せ、古楽シーンの最先端を世界に発信しつづけてきた伝説的プロデューサー、故ミシェル・ベルンステン——彼が1993 年に立ち上げたArcana レーベルは、バドゥラ=スコダによるフォルテピアノ録音をいちはやく世に知らしめ、レツボールやフェシュテティーチ四重奏団など中欧最高峰の古楽プレイヤーたち、あるいはビオンディ、アレッサンドリーニ、アルヴィーニ、ガッティ...といったイタリア古楽界の鬼才たちの世界的成功を呼び込んだことで、その存在感を強くアピールしてきました。

 「Arcana 古楽盤は、絶品ばかり」——これはベルンステンの歿後しばらく過去商品が全く流通しなかった昨今の状況とあいまって、日本の古楽ファンたちのあいだでも強烈に擦り込まれ、しかと周知徹底している事実。そのArcana が新たなるヴィヴァルディ盤をリリースし、その演奏陣が1990 年代以来とてつもない数のリコーダー名盤をつくってきた3人と知るや、どうして興奮せずにおれましょうか!
 しかも今回の企画が何より面白いのは、協奏曲の作曲家としてヴィヴァルディが国際的な名声を博すようになる前からの、ごく初期に作曲された室内ソナタの数々(ヴァイオリンのための作品も含まれますが、当時はリコーダーでそれらを弾くことも珍しくなく、実際にリコーダー用の当時の編曲譜も多数残っているほど)を集めているうえ、なんと8曲の収録作品すべてに異なる歴史的モデルの楽器を使い分けている点——
 ブレッサンやステインズビーといった18 世紀の名工たちによるモデルを参考に、現代随一の古楽器製作家たちが作った銘器を名手カヴァサンティがさまざまに吹きこなす、それを聴き比べるだけでもきわめてエキサイティングな体験ができるうえ、演目がヴィヴァルディ初期というのが実に嬉しいところ。軽快な技巧的作品もさることながら、アッレマンダやサラバンダといった遅めのテンポの舞曲楽章で垣間見えるヴィヴァルディの歌心に、こうした銘器の美音でじっくり耳を傾けられる喜びといい、それを的確に、直接音を大切にした自然派録音で収めきったArcana ならではのエンジニアリングも心そそられる——
 とくに注目すべきは、バス・リコーダー(実際の演奏でも聴こえにくいぱ)を独奏楽器に使ったトラックで、この楽器の素朴なオルガンにも似た響きの妙を、カヴァサンティの演奏が信じがたい的確さで表現しえているところ、そしてそれを稀有の録音技術があざやかに収めきっているところぱ解説の充実度も各曲レベルで素晴しく(全訳付)「とにかく見つけたら入手」とお奨めできる逸品です。

CALLIOPE



CAL1316
(国内盤)
\2940
ドラージュ最新録音、電撃発売
 〜A.コルトー最後の門弟〜

  ワーグナー、ヴェルディ、リスト、ショパン
   伝説、愛と死、哀悼...アルフレッド・コルトーを讃えて
 ワーグナー(1813〜1883)/リスト編:
  1.『トリスタンとイゾルデ』〜イゾルデの愛の死
 リスト(1811〜1886):
  2.『二つの伝説』〜
   小鳥に話しかけるアッシジの聖フランチェスコ/
   水面をわたるパオラの聖フランチェスコ
 ヴェルディ(1813〜1900):
  3.『トロヴァトーレ』〜ミゼレーレ(哀悼歌)
 ショパン(1810〜1849):4. ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58

フローランス・ドラージュ(ピアノ)
 フランス20世紀最大の異才アルフレッド・コルトー最後の門弟が、えもいわれぬ馥郁たる解釈であでやかに綴ってゆく、ロマン派の爛熟、愛憎、悲哀と歓喜...!
 ドラージュ最新録音、電撃発売。記念年作曲家たちの世界をどこまでも深く、薫り高く。
 フローランス・ドラージュ!無数の天才的ピアニストがひしめきあい、とてつもない感性の持ち主がいっさい世に顔出さずに埋もれていることもまるで珍しくないフランスで、このピアニストはひっそりと、なんという驚くべきヴィルトゥオーゾ的感性を養ってきたのでしょう...!
 19 世紀ロマン派の伝統の残り香もまだ生々しく息づいていた20 世紀前半のパリで、巨匠フルトヴェングラーの共演者としても知られる伝説的名手イヴォンヌ・ルフェビュールの薫陶を受け、その才覚の確かさから、やがて世界的な活躍をみせていた異才アルフレッド・コルトーに引きあわされ、その最後の門弟として持てるすべてを注ぎこまれたピアニスト——フローランス・ドラージュのピアニズムに息づいているフランスの薫りや知性、ロマン派の魂といったものは、一昨年、突如として現れた2枚組アルバム(INDE020)での、コルトーから遺贈された1896 年製スタインウェイと1986 年製スタインウェイを弾き分けてのロマン派作品集で、圧倒的なまでの印象を日本の熱心なピアノ音楽ファンにも残さずにはおきませんでした。
 その後ショパンの前奏曲集の録音をへて、今回あらためて新録音として世に送り出されたのが、2013 年に生誕200 周年を迎えた2巨匠、ワーグナーとヴェルディを前面に押し出しての新たなるアルバム。「愛と死」や「ミゼレーレ」など、オペラの名場面を彩った至高の瞬間を“ピアノの貴公子”リストがあざやかに編曲した傑作群のほかに、超絶技巧がもはや絶美の音楽表現と混然一体となったリスト自身による中期の傑作「伝説」や、その最大のライヴァルにして友人ショパンによる、あの謎めいた第3ソナタ...全編が超絶技巧を、ロマンを、そして謎めいた悲哀を裏に漂わせた、見れば見るほど侮れないプログラム構成。これはある意味、LP 時代に入ってからの古き良きレコード制作をも思い起こさせるような選曲ではありませんか。
 しかし、その馥郁たる響きのなかにまごうことなき知性が漂う、あのフランスの伝統とコルトーの才覚とを強く思い起こさせずにおかないピアニズムでこれらの曲が解釈されてゆくのを聴くにつけ、私たちは本当に、この思いがけないピアニストがCD を通じて世界舞台に浮上してきてくれたことに、深い感慨を禁じ得なくなる——これは、そういう「聴けば聴くほど」な1枚に仕上がっていると思います。
 ロマン情緒と的確な情報整理が相半ばする、フランスのさる名批評家によるライナーノート(全訳付)も読み物として絶妙...CD で買ってよかった、と強く思わせずにはおかない、ひたすらに侮りがたい新名盤の登場!

CONCERTO



CNT2066
(国内盤)
\2940
リストと室内楽
 〜ヴァイオリンとチェロを伴う作品さまざま〜

フランツ・リスト(1811〜1886):
 ①ハンガリー狂詩曲 第9番「ペシュトの謝肉祭」(vn, vc,p)
 ②悲しみ〜オーベルマンの谷(E.ラッセン(1830〜94)編 vn, vc, p)
 ③交響詩「オルフェウス」(C.サン=サーンス(1835〜1921)編 vn, vc, p)
 ④ピアノとヴァイオリンのための協奏的大二重奏曲(vn,p)
 ⑤レメーニの結婚式に寄せる碑文(vn,p)
 ⑥ノンネンヴェルトの隠れ家(vc,p)
 ⑦忘れられたロマンス(vc,p)⑧悲しみのゴンドラ(vc,p)
トリオ・ディ・パルマ イヴァン・ラバーリア(vn)
エンリーコ・ブロンツィ(vc)
アルベルト・ミオディーニ(p)
 超絶技巧のピアノ独奏曲だけにあらず!オーケストラ芸術の大家でもあり、新ドイツ楽派の先進的作曲家でもあったリストだけに、室内楽でも実にユニークな音響世界を紡ぎ出していた...全員がソリストでありながら、トリオとしての呼吸も絶妙。イタリアの俊才集団、良盤作ります...!
 ショパンの親友にしてライヴァル、超絶技巧のピアニスト——「ピアノの貴公子」リストはしかし、19 世紀半ばには賛否両論だったワーグナーの桁外れな作風の魅力をいちはやく見抜き、自らも時代を大いに先取りした作曲センスで晩年に向けて独自の境地を切り開くなど、新ドイツ楽派の前衛作曲家としても数多くの傑作を生んできた大家。そのかたわらヴァイマール宮廷楽団の指揮者となって以来、オーケストラの音響世界でもユニークな音楽語法を模索、のちの管弦楽法にも大きな影響を与えました...などとリストの創意のあり方をあらためて振り返ってみたのは、この実に珍しい「リストの室内楽」ばかりを集めたアルバムがつくづく、この作曲家のそうした本来の姿を印象づけずにはおかない名演の連続になっているため。なにしろリストが活躍していた頃、本格的なピアノ曲というのは今のようなソロ・リサイタルではなく、少人数の選ばれた顧客が集まれるくらいの貴人の大広間で、ピアノを囲み、歌手や他の楽器の独奏者が折々に加わる「ソワレー」と呼ばれる催しで披露されることも非常に多かったわけで、そうした場で人気を得てきたリストが室内楽曲を書いていないはずがないのはもちろん、いい加減な駄作が残っていようはずもない——
 そうしたアンサンブル作品で彼が垣間見せているのは、ヴァイオリンやチェロなど“他の楽器”の持ち味をあざやかに引き出し、自分のピアノといかにうまく対話させ、戦わせてゆくか...ということについての、彼が音楽史上随一のセンス(そもそも、管弦楽の扱いに一家言あり・の彼が、ひとつひとつの楽器の使い方に長じていないはずもなかった...というわけです)。
 来日公演でも名をあげたチェロのエンリーコ・ブロンツィをはじめ、ソリスト級の3名手が集うトリオ・ディ・パルマによる演奏解釈は、知性・アンサンブル力・個々人の桁外れの音楽性を兼ね備えた彼らならではの、いっさい妥協のない音作りが実に痛快...こういう演奏集団だからこそ、待ったなしのデュオ対決でも、リストならではの玄妙な和声語法が積み重ねられてゆく中・後期の逸品でも、それぞれの持ち味をあざやかに弾き出した名演で仕上げられるのだと思います(とくに「忘れられたロマンス」のような後期作品など、センスがないと形にならないタイプの難曲が多いのではないでしょうか)。
 Digipack の美麗ジャケットも購買意欲をそそるところ、見過ごされがちなジャンルの日本語解説付アイテムだけに、静かな売れ筋になってくれそうな1枚。

CYPRES



MCYP1664
(国内盤・訳詞付)
\2940
グリーンは、憂愁の色。 〜アーン、ドビュッシー、フォーレ...
  フランス19世紀末の歌曲など〜

 レナルド・アーン(1874〜1947):
  ①二人きりで ②妙なるひととき
  ③雅やかな宴
 クロード・ドビュッシー(1862〜1918):
  ④もの憂く心地よい ⑤街に雨が降るように
  ⑥木々の影 ⑦木馬 ⑧グリーン ⑨スプリーン(憂鬱)
 ベルナール・フォクルール(1953〜):
  ⑩か弱い片手が口づけるピアノ ⑪ガニュメード
  ⑫あどけない甘さに ⑬ジーグを踊ろう
 ガブリエル・フォーレ(1845〜1924):
  ⑭ヴェニスの唄(マンドリン/ひそやかに/グリーン)
  ⑮17、クリメーヌ ⑯もの憂く心地よい
 ブノワ・メルニエ(1964〜):⑰無限に続く退屈に ⑱シテール
 ウジェーヌ・ラクロワ(1858〜1950):⑲マンドリン
 エルネスト・ショーソン(1855〜1899):⑳静寂
 アンドレ・カプレ(1878〜1925):(21)グリーン
ゾフィー・カルトイザー(メゾソプラノ)
セドリック・ティベルギアン(ピアノ)
 もはや第一線!のフランス新世代ピアニスト、セドリック・ティベルギアンの多芸さが光る——
 ベルギー随一の名歌手カルトイザーと織り上げる極上のフランスもの、アーンやショーソンらなかなかリリースのない玄妙歌曲作曲家との出会いも嬉しい、企画性の高い歌曲アルバム!
 フランス語歌曲—-思いのほか根強いユーザーの存在するジャンルです。
 Alpha レーベルが最初期に出した「うるわしのヴァカンス」(グノー、ラロ、サン=サーンスの歌曲集Alpha033)がリリースから10 年過ぎたいまでも連綿と売れ続けていたり、管弦楽伴奏では近年躍進めざましいフランスのメゾ、カリーヌ・ドゥエーにょるフォーレ作品集(ZZT300)が堅調な売れ行きをみせていたり——
 シューベルトやシューマンのようなドイツものの作品群ほどにはリリースがないところも、このジャンルのアイテムへの注目度を高めているのかもしれません。
 許される限り訳詩もつけるようにしておりますが(本盤然り)、今回ここにご案内する新譜はベルギーCypres 社の企画。19 世紀末において、ベルギーはフランス語圏の国々でもとくに芸術・文化の先進地として有名で、ドビュッシー、マスネ、シャブリエ、フランク、ルコックなど多くのフランス近代の大御所たちが重要な新作の初演をまずフランスではなくベルギーで行っていたくらいですが、ここではベルギー・ブリュッセルの王立モネ劇場をはじめ、世界各地の一流歌劇場でその存在感をどんどん強めているゾフィー・カルトイザーが主人公——否、本盤ではピアニストも伴奏者というより「室内楽パートナー」としての存在感を感じさせるのですが、それもそのはず、なにしろ演奏者は今月の来日公演でも話題を呼んでいるセドリック・ティベルギアン!フランス新世代でもとくに早くから頭角を現し、今や最前線の名手と呼んで差し支えない活躍ぶりをみせているこのピアニストについては、harmonia mundi france からのデビュー盤以来、ベートーヴェンやブラームスなどドイツものでも実績をあげ、Cypres ではフランクの交響詩集(指揮は今をときめくレ・シエクルのF-X.ロート!MCYP7611)で日本でも高評価、しかも最近ではHypreion のロマン派ピアノ協奏曲シリーズにまで登場して、フランス近代のとにかく録音が少なかった大御所デュボワの協奏曲を聴かせる(しかも指揮はバロック・ヴァイオリンの名手として鳴らしたA.マンゼ...)など、何かと目立った活躍に目が離せないこの異才は、歌曲伴奏でも確かなピアニズムを披露。歌曲というものの聴き方をあらためて見直させてくれる立ち回りをみせています。
 ドビュッシーやフォーレらの傑作を交えながら、知る人ぞ知る19 世紀フランス歌曲界の隠れ名匠ラクロワの逸品、オルガニストとして名高い二人のベルギー人(フォクルール、メルニエ)の曲、意外に録音されない大人気歌曲作曲家レナルド・アーンの3曲...と選曲の緻密さも好感度大。
 テーマは「グリーン」...「秋の日の、ヴィオロンの...」の詩で知られるヴェルレーヌの詩にちなんでの命名です。このあたりの解題(解説全訳付)もアルバムへの共感を高めてくれるはず!

FUGA LIBERA



MFUG712
(国内盤)
\2940
20世紀、ロシアの色、チェロの響き
 〜ラフマニノフ、カバレフスキー、アウエルバッハ〜

 セルゲイ・ラフマニノフ(1873〜1943):
  1. チェロとピアノのためのソナタ ト短調 op.19(1901)
 ドミトリー・カバレフスキー(1904〜1987):
  2. チェロとピアノのためのソナタ 変ロ長調 op.71(1962)
 レーラ・アウエルバッハ(1973〜):
  3.『24 の前奏曲』より
   チェロとピアノのための七つの前奏曲(1999)
    〔前奏曲 第6・12・15・16・19・20・24 番〕
カミーユ・トマ(チェロ)
ベアトリス・ベリュ(ピアノ)
 ロマン派のよき伝統が正しく息づいている国、ロシア——
 ラフマニノフと、その系譜に連なる世紀半ばと世紀末のすばらしい音楽世界を、あざやかに描き出す俊才ふたりの色彩感とスケール感に、じっくり酔いたい。驚くべき広がりをみせる室内楽盤です。ほんとうに、チェロの世界というのは次から次へと桁外れの名手が出てきますね!

 新人発掘にすぐれたセンスを発揮する、エリザベート王妃国際コンクールとの連携も確かなベルギーFuga Libera レーベルから、ドイツで研鑽を積んだフランス系の名手ふたりによる、企画性から音楽内容まで筋の通った充実のアルバムが届きました。
 チェロのカミーユ・トマはここ数年、ヨーロッパの音楽史シーンの最先端をつくっているエージェントやプロモーターたちのあいだで静かに話題を呼びつづけてきた俊才——1988 年パリ生まれだそうですが、いやいやいやいや!ひとたびその音を聴けば、20 代とはとうてい信じられない堂に入った解釈姿勢、緻密な音作り、細やかでニュアンスに溢れた音色表現の多彩さ...と、あまりの達人ぶりに耳を疑う演奏内容。テーマは「ロシアの色彩と、1世紀の時間」...20 世紀最初の年に作曲されたラフマニノフの大作ソナタに始まり、その後期ロマン派的な音楽性を世紀半ばにまであざやかに伝えたカバレフスキーの傑作(この作曲家の魅力を知る人なら、このチェロ・ソナタが何枚かの既存盤で聴き比べできることもよくご存知のはず——それらとも充分伍してゆける新名盤の誕生!と自信をもっておすすめできます)、そして近年ギドン・クレーメルのクレメラータ・バルティカとのコラボレーションでとみに人気が高まってきたロシア系の大家アウエルバッハ(アヴェルバフ)の、小さきものへのこだわりと雄大なスケール感が相半ばする「24 の前奏曲」からの7選集へ...アウエルバッハの曲はまさしく20 世紀が終わろうとする頃、1999 年にまとめられた作品ですから、文字通り1世紀にわたるロシア系作曲家たちの至芸をたどってゆける1枚に仕上がっているわけです。
 ピアニストのベアトリス・ベリュも対等なパートナーとしての個性をいかんなく発揮、時にはチェロも阿吽の呼吸でピアノの引き立て役にまわってみせたり、息の合った極上室内楽ぶりが、あらゆる瞬間に極上の音楽体験を約束してくれます。
 「色彩」というワードにふさわしいニュアンス豊かな演奏の解題を、周到な解説(全訳付)で読み解けるのも嬉しいところ。筋金入りの、欧州最前線の本格派アルバム!

GRAMOLA



GRML98986
(国内盤 SACD-Hybrid)
\3150
ゴールトマルク:ヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
 〜ウィーン世紀ロマン派屈指の巨匠!〜

カール・ゴールトマルク(1830〜1915):
 1. ヴァイオリン協奏曲イ短調 op.28(1877)
 2. ヴァイオリンとピアノのためのソナタニ長調 op.25(1874)
トーマス・アルベルトゥス・イルンベルガー(vn)
ドロン・サロモン指揮
イスラエル室内管弦楽団
パヴェル・カシュパル(p)
 ブラームスやリストと同時代を生き、大いに人気と敬意をあつめたゴールトマルクの名声はユダヤの血ゆえに失われた? ひとつだけ言えるのは、その作品があまりにすばらしいということ。
 最高傑作群から2曲、きりりと堅固でひたすら甘美に…ロマン派好きにはたまらない至高の名演!
 この作曲家の無数にある傑作を、20 世紀に入ってから世間が見失ってしまったのは、なぜなのでしょう——それはきっと、ハプスブルク家の皇帝が収めるオーストリア=ハンガリーの帝都、さまざまな人間が暮らす大都市ウィーンで、ユダヤ人としての生き方をまっとうした彼のことを、20 世紀前半にオーストリア併合を果たした当時のドイツ語圏の権力者たちがあまり快く思わなかったからだったのでしょうか? カール・ゴールトマルク——生まれはハンガリー、1860 年代頃から作曲家として頭角をあらわしはじめ、ワーグナーの『指環』やブラームスの交響曲群などの初演があった1870 年代、傑作オペラ『サバの女王』やヴァイオリン協奏曲などで不動の名声をものにしていった大作曲家。生前その名声はきわめて高かったにもかかわらず、私生活は謎に包まれていたそうですが、ユダヤ教のハザン(キリスト教でいうカントール、聖歌隊指導者)の息子として生まれた彼は生涯、ユダヤ教に忠実な信仰生活を送り続けていたそうです。」19 世紀の偉大なユダヤ人作曲家といえば、他にブルッフやメンデルスゾーンが思い浮かぶところですが、ゴールトマルクもまた彼らと同じく、ユダヤ人たちにとっての特別な楽器のひとつであるヴァイオリンのため、素晴しい傑作協奏曲を残しました——今日でも唯一、この作曲家の作品で定番名曲として残っているものがあるとすれば、まさしくこの1877 年作曲の(つまり、ブラームスやチャイコフスキーの協奏曲とほぼ同時期の)ヴァイオリン協奏曲になるのでしょう。
 飛ぶ鳥を落とす勢いでウィーン楽壇に頭角をあらわし、時には古楽器演奏にも関わりながら、あくなきレパートリー開拓精神と妥協なき作品解釈で名演を紡ぎ続けているT-A.イルンベルガーはいま、昨今しばしば緊密な共演関係を続けている精鋭集団イスラエル室内管とともに、この傑作協奏曲の素晴しい新録音を世に問うてくれました——これが独奏・オーケストラとも桁外れの名演で、俊才ドロン・サロモン率いるイスラエル室内管の並々ならぬほど引き締まった一体感、しなやかな歌作り、抑揚あざやかな解釈には、同じユダヤ人としてゴールトマルクに限りない共感ゆえのもの?しかも嬉しいことに、同時期のもうひとつの傑作ソナタがまた充実の名演になっており、同じ頃に書かれたブラームスやラインベルガーらのソナタよりも圧倒的に長いこの傑作をしなやかに、チェコの名手カシュパルと阿吽の呼吸で織り上げてゆく解釈の深みは、何度聴いても惚れ惚れするほど。作曲家についての充実解説(全訳付)も日本語資料として貴重だと思います。何はともあれ、並居るソリスト先行型の競合盤ともぜひ聴き比べていただきたい協奏曲録音の名演ぶりが圧巻!お見逃しなく...!


GRML98885
(国内盤)
\2940
ウィーンのヴァイオリンは、いま
 〜クライスラー、パガニーニ、イザイ...〜

 ◆フリッツ・クライスラー(1875〜1962):
  ①プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ
  ②中国の太鼓 op.3
  ③レチタティーヴォとスケルツォ=カプリース op.6
  ④コレッリの主題もとづく、タルティーニの様式による変奏曲
  ⑤ウィーン奇想曲 op.2
 ◆ニコロ・パガニーニ(1782〜1840):
  ⑥カンタービレ op.17
  ⑦無伴奏ヴァイオリンのための奇想曲 第17 番op.1-17
  ⑧同 第24 番op.1-24
 ◆ウジェーヌ・イザイ(1858〜1931):
  ⑨子供の夢 op.14 ⑩無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 op.27-3
 ◆パブロ・サラサーテ(1844〜1908):
  ⑪アンダルシアのロマンス(『スペイン舞曲集』より)op.22-1
  ⑫序奏とタランテッラ op.43
   曲順:① ⑥ ⑦ ⑨ ② ⑩ ⑪ ③ ④ ⑧ ⑤ ⑫
ダニエル・アウナー(ヴァイオリン)
使用楽器:ウィーンのJ.C.ライドルフ1740年製作
イリーナ・アウナー(ピアノ)
 ウィーン生粋のヴァイオリン奏者、楽器もウィーン製。そこから引き出されるのは、とろけるような魔法のような弦音の妙——往年の名手たちをも彷彿させる、しなやかな、あでやかな、「音楽の都」ならではの歌いまわしで、古き良き日のヴァイオリン芸術をいま、瑞々しく。
 ウィーンの音楽家だからこそ、わかること。そういう阿吽の呼吸のようなものが、この「音楽の都」にまつわる音楽にはあるのだそうです。
 フランス音楽の機微を、フランス語圏の人々がとりわけ敏感に察知できるのと似て、ウィーン訛りのドイツ語で生まれ育ち、ウィーンの「音」を聴いて育った演奏家には、この町で生まれ育った作曲家たちが楽譜に込めたもの、音の動きのニュアンスを、彼らなりに直感的に「わかる」のでしょう。「若手ヴァイオリン奏者が、またひとりか」というテンションでこのアルバムを聴きはじめた方はおそらく、すぐにそのことを痛感せずにおれなくなるはず——ダニエル・アウナー、1987 年ウィーン生まれのこの若き才人がくりだすヴァイオリンの音色には、1音1音、あるいは音から音へ、すべての瞬間にえもいわれぬ、あの聴く者を陶然とさせずにはおかない“空気”が漂っているのですから...
 ウィーン音大とザルツブルク・モーツァルテウムで錚々たる名教師たちにオーストリア気質を叩き込まれるかたわら、五嶋みどりやライナー・クスマウルなど世界的な名手たちのマスタークラスにも続々参加、ユニヴァーサルなパフォーマー的感性と地元魂の両面を磨き上げてきたその結実は、まさしく——そう、世界各地の音楽家たちと仕事をしながら“ウィーンの音”をはぐくんでいったクライスラーのようにぱ——往年のヴィルトゥオーゾが磨きあげてきた、後期ロマン派〜近代の小品群を珠玉のものとして聴かせる、極上の演奏解釈にあざやかに示されているのです。
 あまり気に留めず聴きはじめてみたのですが——唖然とさせられました!
  いまどきの演奏家らしくテクニックはまず全く問題なし、そこまでなら「凡百の天才」ですが、とんでもない...この人には「歌」がある、えもいわれぬ艶と華やぎを、独特の憂愁と相半ばさせながら音を紡いでゆく、ああこれがウィーンの音か、と強い個性を感じさせてやまない音なのです。
 クライスラーの偽バロック作品など、まさにその真骨頂...そのかたわら、イザイやサラサーテのような“異国もの”でも、彼の艶やかな感性と完璧な技量はあざやかな親和性とともに、比類ない弦の響きを紡ぎ出してゆくのです。

INDESENS!



INDE045
(国内盤)
\2940
フランセ 管楽器のための協奏曲と室内楽
 〜フランス最前線の名手たちと、フランス近代最後の巨匠の世界を〜

ジャン・フランセ(1912〜1997):
 ①愉しきパリ(tp, octet)②クラリネット協奏曲(cl, orc)
 ③フルートとピアノのためのディヴェルティメント(fl, p)
 ④トランペットとピアノのためのソナチネ(tp, p)
 ⑤五つのエキゾチックな舞曲(sax, p)
 ⑥クラリネットとピアノのための主題と変奏(cl, p)
 ⑦バソンと弦楽五重奏のためのディヴェルティスマン(bn, 2vn, va, vc, cb)
①④エリック・オービエ(tp)
フィリップ・キュペー指揮
パリ管楽八重奏団
②フィリップ・キュペー(cl)
ジャン・フランセ指揮ブルターニュ管弦楽団
③ヴァンサン・リュカ(fl)
パスカル・ガレ(p)
⑤ニコラ・プロスト(sax)
③⑤ローラン・ヴァグシャル(p)
⑥ジャン=ルイ・サジョ(cl)
ジャン・フランセ(p)
⑦ロラ・デクール(バソン)
フランス八重奏団
 静かに好評!な室内楽作品集に続き、今度は協奏曲。
 —-難曲ぞろいで知られるフランセの傑作群は、アマチュア管楽器愛好家にも大人気!「芸術の秋」へ向けて浮き立つ心に寄り添ってくれそうな、瀟洒さと聴きごたえを兼ね備えた絶品トラックの数々を、どうぞ!
 ジャン・フランセの室内楽作品をたっぷりCD4枚に集め、フランス最前線のプレイヤーたちがじっくり演奏、聴きごたえあるBOX としてリリースされたフランス八重奏団のIndesens!盤(INDE043)から、はや数ヵ月—-「管楽器の王国フランス」を代表するこのレーベルが、今度は1枚もので、難曲ぞろいの新たなるアルバムを送り出してきました。たとえ4枚組でも、弊社の予想をつねに少し上回るペースの安定した売れ行きで、しょっちゅう在庫切れを起こすIndesens!のフランセ録音、やはり管楽器ユーザーの方々はこの作曲家に熱い視線を送っていたのだ...!と認識を新たにしたものですが、今度は買いやすい仕様で瞬発力もあるのでは、と想像。
 なにしろ、クラリネット演奏の経験者たちにはつとに有名な何曲中の難曲「クラリネット協奏曲」を、実に軽やかに、実に瀟洒に吹きこなしてみせている名手フィリップ・キュペーの演奏だけでも聴きがいがあるというのに(指揮は晩年の作曲者自身、オーケストラは意気揚々の超気鋭集団・ブルターニュ管弦楽団!)、モーリス・アンドレの正統なる後継者エリック・オービエによる「愉しきパリ」やソナチネ、パリ管の名手ヴァンサン・リュカが吹くフルートのためのディヴェルティメント、上り調子の俊才ニコラ・プロストの絶妙サクソフォンが聴ける「五つのエキゾチックな舞曲」といったファン垂涎のトラックの数々に加え、さきの4枚組から「ディヴェルティスマン」および「主題と変奏」も再録、4枚だと買いにくいが...と手をのばしかねていたファンにとっても嬉しい仕様になっているのです!
 解説充実全訳付、今回もまたフランセ自身の指揮やピアノまで聴ける嬉しい演奏編成(上記参照)——Indesens!レーベルの管楽器ものは、こういうフランス音楽ものこそ好調な売れ行きをマークしつづけているので、お見逃しなく(今秋はさらにいくつか管楽器アイテムが控えています)!

JB RECORDS



JBR-013
(国内盤)
\2940
セドラツェク(1799〜1866) 東の風、西の歌
 〜ベートーヴェン『第九』初演時の名手によるフルートとピアノのための7名品〜

ヨハン・セドラツェク(またはヤン・セドラチェク1799〜1866):
 ①ラ・マリー(華麗なる変奏曲)*
 ②協奏的二重奏曲 第2番(パガニーニ風のロンド=カプリッチョ)
 ③パスタとルビーニの追憶 第6番 〜ベッリーニの歌劇『海賊』による**
 ④ザンパの追憶 〜エロルドの歌劇『ザンパ』による**
 ⑤友情(華麗なる変奏曲)*
 ⑥パガニーニの追憶(『ヴェニスの謝肉祭』による大変奏曲)
 ⑦シンプロン峠の追憶(牛飼いの笛歌)
  ①⑤カール・ゴットリープ・ライシガー(1798〜1859)と共作
  ③④アントン・ディアベッリ(1781〜1858)と共同編曲
エルジビェータ・ヴォレィンスカ(フルート)
エルジビェータ・ザヴァジカ(ピアノ)
 なんという意外な名盤——フルートが桁外れにうまい!ピアノの存在感、圧倒的...さすがは音楽大国ポーランド、おもいがけない音楽遺産を最上の形で提案してくれました。

 晩期古典派、ほとんどロマン派。シューベルトと同時代のフルート芸術、こんなにも美しく!
 そもそもヨーロッパは今や、どこの国も何かしらの意味において音楽大国だと思うのですが、地元の演奏家たちの腕前が飛びぬけて優れている国として、ポーランドの存在感がいま改めて強まっているように思います。プラシド・ドミンゴだったか、最近のインタビューで「あの国の音楽家たちの素晴しさを世界に知らしめたい」と言っていたそうですが、アンデルシェフスキやブレハッチら世界的に活躍するピアニストたちもさることながら、ポーランド地元密着型で活躍する演奏家の素晴しさは、たとえばNaxos やCPO などのレーベルに出てくるポーランド地元系のオーケストラが概して桁外れの適応力をみせているところからも、よくわかることでしょう。そうしたなかで思いがけず度肝を抜かれたのが、この1枚——
 ポーランド南西部、ドイツ国境にほど近いシロンスク地方(歴史的にドイツ語圏だった時代が長い地域)に拠点をおくJB Records の主宰者、自らも凄腕クラリネット奏者として活躍するJ.J.ボクン氏が「こんなアルバム作ったのですが...」と送ってきたのは、かつてベートーヴェンがその邸宅を訪れたことでも知られる、リヒノフスキー侯爵家のそばに所領を持っていたシロンスク地方のポーランド貴族、オッペルスドルフ伯爵の楽団に名を連ねたセドラツェクというフルート奏者=作曲家の作品集。
 なんという地味な企画...と思いかけてみたCD から流れ出したのは、シューベルトやパガニーニが活躍していた頃の、あの穏やかでありながら不穏な影をどこかに宿したサロン風の音楽...を、なんと10 分以上にも展開しながら聴き手をまるで飽きさせない、抜群のセンスを誇る作曲家の名品だったのです!
 まったく無名といっても過言ではないポーランドの名教師ふたりの演奏が、また息をのむほど美しい——フルートのトラヴェルソ的魅力をひたすらしなやかに、超絶技巧もものともせず、あるいは「伴奏者ではなくデュオ・パートナー」であることを否応なしに印象づけるピアニズムで...なんという興奮の連続でしょう!
 作曲家セドラツェクの主君オッペルスドルフ伯爵は、その後ベートーヴェンに第4・第5交響曲を書かせたことで歴史に名を刻んだ人ですが、セドラツェク自身もその後ウィーンに出てベートーヴェンの知遇と信頼を得、1824 年に「第九」が初演されたさい首席フルートを任されたのも彼だったそうですが、ここではやはり自ら名手だった芸術家ならではの、フルートの魅力をよく知り尽くした音作りが私たちを魅了してやまないことを、あらためて強調しておきたいと思います。

NCA



NCA60174
(国内盤)
(SACD Hybrid)
\3150
クリスティーネ・ショルンスハイム(fp)
 ダンツィ:ピアノと管楽器のための五重奏曲
  〜古典派から初期ロマン派へ〜

フランツ・ダンツィ(1763〜1826):
 ①ピアノと木管楽器のための五重奏曲 ヘ長調op.53
 ②ピアノと管楽器のための五重奏曲 ヘ長調op.41
 ③ピアノと木管楽器のための五重奏曲 ヘ長調op.54
 * ①③:fp, ft, ob, cl, fg / ②:fp, ob, cl, fg, hr
クリスティーネ・ショルンスハイム(fp)
使用楽器:ナネッテ・シュトライヒャー1814年製作モデルによる
ライヒャッシェ五重奏団(古楽器使用)
ミヒャエル・シュミット=カスドルフ(ft)
ハンス=ペーター・ヴェスターマン(ob)
ギィ・ヴァン・ワース(cl)
ヴィルヘルム・ブルンス(fg)
クリスティアン・ボイゼ(hr)
 ロマン派の息吹を準備した、ベートーヴェンの同時代人たち——モーツァルトとも知遇があり、古典派の様式感覚を受け継ぎながら、ほのかな浪漫情緒を体現した「最後のマンハイム楽派」
 ダンツィの至芸、当時の楽器と奏法でこそ美しく甦る。ドイツ楽壇の超・俊才集団による名演ぱ何はともあれ、つかみは演奏陣のあまりの豪華さだと思います——
 日本の古楽ファンのあいだでもカルト的人気を博してきた、ドイツ屈指の大御所フォルテピアノ奏者クリスティーネ・ショルンスハイムが、1814 年のシュトライヒャー・モデルを前に、そしてめったに名手が揃わない「古楽器による木管五重奏団」を体現した稀有の集団、ライヒャッシェ五重奏団(ムジカ・アンティクヮ・ケルンの初期メンバーでもあった超実力派オーボエ奏者H.P.ヴェスターマン、アルノンクールのもとで15 年間バロック・ファゴットを吹いてきた現ベルリン古楽アカデミーの屋台骨C.ボイゼ、「ホープリッチでなければこの人」と言ってもよいほどのベルギーの異才クラリネット奏者G.ヴァン・ワース...)とともに、DSD 録音で「当時の息吹そのまま」に録音したのは...モーツァルトと家族ぐるみのつきあいがあり、後年は『魔弾の射手』のヴェーバーとも親しかった初期ロマン派の天才作曲家、F.ダンツィの傑作室内楽3編。

 作曲年代は1810〜20 年頃、つまりベートーヴェンやシューベルトの傑作ソナタや室内楽曲が続々書かれていた時代ですが、昨今ではNAXOS がベートーヴェンの愛弟子リースの再評価に乗り出したり、他社からもツェルニーやヴェルフルら19 世紀初頭の“初期ロマン派の先駆け”ともいうべき作曲家たちの知られざる傑作が続々新録音で登場している昨今、このNCA からの1枚を見過ごす手はない...と、ここにあらためて周到な日本語解説付にてお届けする次第でございます。
 モーツァルトが頻繁に訪れていた頃のマンハイム宮廷で15歳の頃にはもうチェロ奏者として活躍、宮廷劇場のためにオペラを書くなど早くから才能をあらわしたダンツィは、後年ミュンヘン、シュトゥットガルト、カールスルーエなどの宮廷楽長を歴任して大いに実績を残し、若き日のヴェーバーの才能を発掘したことでも有名。木管五重奏曲をはじめ、管楽器を使った室内楽曲を多く残しており、いまも愛奏されている作品も録音も多いのですが、初期ロマン派の作品の常として、現代楽器とは違う当時の楽器を前提とした響きの作り方をきちんと伝えるにはやはり、古楽器演奏が一番ぱナチュラルホルンのまっすぐな響きやまろやかなトラヴェルソ、ヴィブラートに頼らないオーボエの音色...といった美質がひとつひとつ粒立ちよく聴こえるなか、作品と同じ時代のピアノを弾くショルンスハイムの至芸は実に精妙。

PAN



PC10283
(国内盤)
\2940
スビサーティ(1606〜1677):『ヴァイオリンのためのソナタ集』
 〜コレッリ以前の北イタリア・ヴァイオリン芸術〜

アルデブランド・スビサーティ(1606〜1677):
 『ヴァイオリンのためのソナタ集 第1集』
 (1675 年、フォソンブローネにて刊行)
  〜ヴァイオリンと通奏低音のための17のソナタ〜
アレッサンドロ・チッコリーニ(バロック・ヴァイオリン)
ガエターノ・ナジッロ(バロック・チェロ)
ルーカ・スカンダーリ(チェンバロ&オルガン)
カール=エルンスト・シュレーダー(テオルボ)
 コレッリ歿後300周年のいま、かの巨匠がどんなイタリア・ヴァイオリン音楽界から生まれたのかあらためて気になるところ——
 イタリア古楽界の名手たちが、均整のとれた知性あふれる解釈で北イタリアの「バロック初期」と「バロック後期」をつなぐ絶妙の羊腸弦サウンドをお届けします。
 2013 年、コレッリ歿後300 周年。

 バロック・ソナタ形式の大成者たるコレッリは、生前からヨーロッパ各地で絶大な名声を誇り、演奏家として作曲家として、たいへん尊敬されていました。しかしそんな彼とて、その至芸をゼロからつくりあげたわけではなかった——この数十年のあいだに、音楽史研究と古楽器演奏のめざましい発展によって、そんな「コレッリを準備した人々」の音楽世界が次々と明らかになってきています。
 私たちが何かと疑問に感じざるを得ないのは、17 世紀初頭のモンテヴェルディや彼の同時代人たち(マリーニ、フォンターナ、カステッロ...)があれだけ奔放なヴァイオリン芸術を謳歌したあと、コレッリのソナタのような均整を重んじる音楽がどうやって出来ていったのか?ということ——
 その謎を解く鍵はたいてい17 世紀中盤の作曲家たちに秘められているわけですが(たとえばストラデッラやパンドルフィ=メアーリ)、祖国に古楽界が育つ前から英国やオランダで腕を磨いてきたイタリアの超ヴェテラン・バロック・ヴァイオリン奏者アレッサンドロ・チッコリーニがここに発掘してきたのは、そんなバロック初期から後期にかけてのヴァイオリン音楽のうつりかわりを1 冊の曲集ですべて浮き彫りにしてみせる、きわめて注目すべき曲集ぱフォソンブローネという古都で生まれ育ち、ポーランド王や神聖ローマ皇帝といった強大な君主たちにも仕えながら「つとに知られた名演奏家」とまで呼ばれていた謎のヴァイオリン芸術家、アルデブランド・スビサーティの作品集です。
 手書きの楽譜だけで残っているこの曲集、1675 年という年記はあるものの収録作品の作曲年代はおそらくまちまちで、未完の2曲(本盤収録なし)を含む19 曲が、おそらく1630 年代から40 年あまりのあいだに作曲されたものと考えられています。さながらルネサンス末期を思わせる多声教会音楽のアレンジめいたものもあれば、初期バロックらしいカプリッチョやバッロもあり、かと思えばコレッリのカンタービレもかくやと思わせるほどの均整あふれる緩徐楽章あり...と、その内容の多彩さは目をみはるばかりぱチッコリーニのしなやかな運弓がまた美しく、イタリア人らしい温もりと歌を感じさせながらも、キャスリーン・マッキントッシュやロイ・グッドマンらの師に通じる美音とバランス感覚で、いとも心地よい羊腸弦さばきを聴かせてくれるのが嬉しいところ。
 故K-E.シュレーダーの的確なテオルボ伴奏や躍進めざましいガエータノ・ナジッロのチェロなど、通奏低音陣の豊かな至芸も雰囲気を盛り上げてくれます。筋金入りの安心できる古楽解釈に、ついつい全曲聴き通してしまうことも珍しくないはず——本盤を聴き深めれば聴き深めるほど、17 世紀のイタリア弦楽芸術の謎は感覚的に解き明かされてゆくことでしょう。
 周到な解説(全訳付)も的確でわかりやすく、音と言葉で「知る喜び」を堪能させてくれる1枚でもあります。
 2010 年に屋号を畳んだSymphonia からの移行盤ですが、なるほど、これは廃盤入手困難にしてしまうにはあまりにもったいない1枚...どうぞお見逃しなく!
 


PC10291
(国内盤)
\2940
テレマン 音楽の世界地図
 ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767):
  『音楽の世界地図』(校訂:A.ホフマン)
  (1)序曲 変ロ長調 (2)世界について:常動曲
  (3)ヨーロッパ:アントレ
  (4)ポルトガル:昔と今のポルトガル人たち(5)スペイン:サラバンド
  (6)スイス:スイス人たち (7)北イタリア:イタリア風エール
  (8)中部イタリア:イタリア風バディヌリ (9)フランス王国:メヌエット
  (10)プロヴァンス:リゴードン
  (11)ロートリンゲン、ブルグント(ロレーヌ、ブルゴーニュ):ブーレー
  (12)イングランド、スコットランド、アイルランド:ジグ
  (13)スコットランド:ホーンパイプ (14)ネーデルラント連邦(オランダ):さざ波
  (15)スペイン領ネーデルラント(ベルギー):カリヨン
  (16)ドイツ語圏:昔と今のドイツ人たち (17)オーストリア:ロンドー
  (18)バイエルン:プレリュード
  (19)フランケン、シュヴァーベン、ブルグント:ファンタジア
  (20)オーバーライン、ニーダーライン:ヴィースバーデンの角笛
  (21)ヴェストファーレン:メルクリウス
  (22)ニーダ—ザクセン:甘美なエール
  (23)ハノーファー選帝侯国:ガヴォット・アン・ロンドー
  (24)ヒルデスハイムの修道院:パストラーレ
  (25)ブラウンシュヴァイク=ヴォルフェンビュッテル公国:レジュイサンス
  (26)オーバーザクセン:フーガ (27)ベーメン(チェコ):ハナク地方の女
  (28)北欧:昔と今のデンマーク人たち
  (29)スウェーデン:昔と今のスウェーデン人たち
  (30)ロシア:モスクワの人たち (31)ポーランド:ポロネーズ
  (32)ハンガリー:行進曲 (33)ヨーロッパ側のトルコ:トルコ人たち
  (34)アジア:イェニチェリたち
  (35)アジア側のトルコ:トルコの道化師メゼッティーノ
  (36)アフリカ:ムルキー(37)アメリカ:ミシシッピに期待をかけて
  (38)最後にコラールを:「今ぞ我ら帆を下ろさん」(今やすべての森は安らぎ)/
  (39)4声の協奏曲 ニ短調 TWV43-d2
ダニエラ・ドルチ(cmb)指揮
Ens.ムジカ・フィオリータ(古楽器使用)
 これは痛快におもしろい&末永く楽しめるひテレマンやバッハの時代、ドイツ人は世界をどう眺めていたのか——当時の世界地図に則して、テレマンの無数の組曲から標題付曲などを厳選。バロック語法のセンスの良さを味わいながら、じっくり解説を読み解く楽しみも...ひヨーロッパ古楽界、さすが...と唸らされる、末永く楽しめそうな新譜の登場でございます。
 さすが、欧州は歴史的史料たっぷりの現場で音楽学と向き合っているセンスのよい研究者がたくさん控えているだけあって、思いつくことが違う——
 ここに収録されているのは、一説によれば8,000 曲を越えるとも言われる膨大な作品を残したセンス抜群の大作曲家テレマン(バッハの同時代を生きたドイツ人作曲家では、おそらくヘンデルかテレマンが最大級の名声を誇っていました)が、とくに傾注していたジャンルで作品数も多い管弦楽組曲から、当時のさまざまな国とその人々にかんするテーマの小品を厳選、それらをあざやかな配列で並べながら、18 世紀当時のドイツ人たちが世界にくりだしたら何をどう感じたのか...
 と、室内楽編成の痛快なバロック語法で織りなされる舞曲や小品の数々を通じ、時空を超えた世界旅行を味あわせてくれるプログラム。もとはA.ホフマンという音楽学者がまとめて校訂した楽譜がベースにある企画のようですが、ドイツやフランス語圏・ラテン系地域を中心に欧州各地の最前線で活躍するプレイヤーが集うムジカ・フィオリータは通奏低音以外ひとり1パートの極少編成(リコーダー、オーボエ2、ファゴット、弦楽+通奏低音)で、テレマンならではの多彩な音楽をあざやかに聴かせつづけてくれ、1時間にもおよぶ全世界一周もついつい聴き通してしまうほど——
 あとから「あそこはどうだったっけ?」と聴き確かめながら、今とは微妙に違う国の区分(さすがドイツ人の企画だけあって、ドイツだけは各地方にいたるまで異様にトラックが多いひ)に思いをはせ、解説(全訳付)を読み解く楽しみも。岩波文庫にもあるシューマンの『音楽と音楽家』にも「テレマンが“いやしくも作曲家たるもの、人の表札を曲で書き分けられなきゃね”と語っていた」云々という記述がありますが、こういう多彩な音楽にふれてみると、やっぱりこの人アタマおかしいよ(最大限の誉め言葉として)ひと叫ばずにはおれません。内容をよくあらわしたジャケットの美麗さもあわせ、これもついつい手が伸びそうな1枚!

PHI(φ)



LPH010
(国内盤・訳詞付・2枚組)
\4200
ジェズアルド:聖週間のためのレスポンソリウム、
 およびその他の礼拝音楽(1611・全曲)

ヴェノーサ公カルロ・ジェズアルド(1566〜1613):
 1.聖水曜日のためのレスポンソリウム群
 2.聖木曜日のためのレスポンソリウム群
 3.聖金曜日のためのレスポンソリウム群
 4.ベネディクトゥス(祝福あれ)
 5.ミゼレーレ(憐れみください/詩編第50 編)
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(古楽室内合唱)
 待ちに待った「新たなるヘレヴェッヘの素顔」は——今年歿後400年、異形の天才ジェズアルドが生涯最後に残した、悔悛の大曲集のすべて...!

 不協和音や驚くべき大胆な書法を稀有の高雅さへと昇華してしまう少数精鋭才人集団と、比類ないタクトの精緻さ、あざやかさ...!何が出てきても必ず痛快なヒット作となる、異才古楽指揮者フィリップ・ヘレヴェッヘ自主制作レーベルPhi(フィー)の新譜——これまで同レーベルでは、偶数番号品番のものが必ずバッハ作品で占められていたので(モテット集、ミサ曲ロ短調、ライプツィヒ就任初年度のカンタータ集、無伴奏ヴァイオリン曲集…)今度はさてどんなバッハが...?と思いきや、やおら登場したのは今年歿後400 周年を迎える16 世紀末の異才、ルネサンス末期のイタリア・マニエリスム音楽を代表する作曲家ジェズアルド最後の大作とは!!

 オーケストラものばかりが大人気の日本にあって、ヘレヴェッヘのレーベルでは完全ア・カペラで録音されたビクトリアのレクィエム(LPH005)さえシリーズ屈指の定番売れ筋商品になったこともあり、今回のジェズアルド盤も——この作曲家に関する日本語資料が決定的に少ない中、当該作の現代校訂譜を手がけた音楽学者による解説の訳付!(もちろん訳詩もつきます!)
 ジェズアルドはイタリアの貴族の出身で、かつて妻の不貞の現場を押えたさい、間男もろとも惨殺した(当時の貴族社会はジェズアルドに同情的で、罪には問われなかったようです)という経歴からか、その作風はきわめて不思議な、独特の不安感と隣り合わせのゾクゾクするような魅力に満ちており、和声言語の逸脱や極度なまでに精緻な作曲技法の追求といった技法が何かと愛されていた16 世紀末のイタリアにあって、他の追従を許さないユニークな音楽の数々がそのペンから生まれたのでした。

 6冊のマドリガーレ(俗世間向けの高度に文学的な詩に音楽をつけた重唱曲)集にはそういったジェズアルド随一の技量が示されていますが、ここに録音された『レスポンソリウム集』(復活祭の前の週、キリストの死について瞑想して暮らす聖週間に、夜明け前に唱えられていた礼拝音楽)は亡くなる2年前、最後の2冊のマドリガーレ集と同じ年に出版されており、かつての罪を悔いながら生きる芸術家の音楽的遺言と目される傑作。英国勢の名録音もさることながら、ヘレヴェッヘ自身も20 年前に別団体と録音しているルネサンスの最高峰ともいうべき傑作ですが、21 世紀に入ってからの彼が主兵コレギウム・ヴォカーレの精鋭ソリスト陣(各パート2〜3名)を率いて織り上げた本盤の、息をのむような美しさ、退廃の不協和音、それがまるで下品に響かない驚くべき高雅さは、どうでしょう...!
 こういう傑作こそ他の録音と聴き比べて認識を深めるべきだ...と、それぞれ個性的な他の録音を思いながら考えずにはおれません。

RICERCAR



MRIC335
(国内盤・訳詞付)
\2940

当初MRIC336とご案内しましたが
MRIC335の間違いでした。
カベソン(1510〜1566)『音楽作品集』とその原作さまざま
 〜スペイン・ルネサンス最大の巨匠が生きた時代〜

 ◆アントニオ・デ・カベソーン(1656 頃〜1716 以降):
  『鍵盤、ハープおよびビウエラのための音楽作品集』(1578 年刊・遺稿集)
   からの作品、およびその原曲
    ①ヴェルドロの「今際のため息よ、次々と」による合奏曲
    ②今際のため息よ、次々と(フィリップ・ヴェルドロ 1475〜1552)
    ③「御婦人はそれをご所望だ」の歌による変奏曲
    ④わたしはあえて死の苦しみを選ぼう(トマ・クレキヨン 1505〜1557)
    ⑤クレキヨンの「わたしはあえて死の苦しみを選ぼう」による合奏曲1
    ⑥クレキヨンの「とある愉しみゆえに」による合奏曲
    ⑦シュザンヌはある日(オルランドゥス・ラッスス 1532〜1594)
    ⑧ラッススの「シュザンヌはある日」による合奏曲
    ⑨セルミジの「教えてください、美しいひと」による合奏曲
    ⑩教えてください、美しいひと(クローダン・ド・セルミジ 1495頃〜1562)
    ⑪サンドランの「甘き思い出に」による合奏曲
    ⑫「この別れに際して、なお」による合奏曲
    ⑬ミラノのガリャルダによる変奏曲
    ⑭わたしの苦しみに、憐れみを(トマ・クレキヨン)
    ⑮クレキヨンの「わたしの苦しみに、憐れみを」による合奏曲
    ⑯「わたしはあえて死の苦しみを選ぼう」による合奏曲
    ⑰ヴェルドロの「ある日、恋神が眠っていると」による合奏曲
    ⑱ゴンベールの「あの騎士殿に」の歌による変奏曲
    ⑲クレキヨンの「陽気な羊飼いひとり」による合奏曲
    ⑳誰が彼女に伝えてくれましょう(トマ・クレキヨン)
    (21)ヴィラールトの「誰が彼女に伝えてくれましょう」による合奏曲
    (22)「灼けつくような、このため息」による合奏曲
      (アドリアン・ヴィラールト1490頃〜1562)
ドゥニ・レザン=ダドル指揮
Ens.ドゥス・メモワール(古楽器使用)
 16世紀。ラッススやパレストリーナの無伴奏合唱曲ばかりが、ハイ・ルネサンスの至芸ではありません
 この時代に世界随一の強国だったスペインが、いかに国際的な文化大国だったかは16世紀最大の巨匠の遺稿から、よくわかること。欧州随一の古楽集団、精妙なる1枚で、じっくりと。

 カベソーンといえば、かつて巨匠ジョルディ・サヴァールがReflexe(当時はEMI 傘下)で制作していたスペイン古楽大全シリーズでも「天才カベソーン」の名のもとにとりあげられていた、黄金時代のスペインを代表する超大物巨匠のひとり! 盲目のオルガニストとして即興演奏にすぐれた手腕を発揮、音楽家といえばネーデルラント出身者たちばかりが引き立てられていた当時のスペイン王室でも、カベソーンはスペイン人でありながら絶大な信頼を勝ち得、世界史にも登場する強力な国王フェリペ2世は、諸外国へ赴くさいにも彼を引き連れていったと伝えられています。ともあれ、本人が鍵盤奏者だったということは、即興演奏の才能にすぐれていたという意味
 ——つまり、その作品の楽譜というのは生前はほとんど世に出ず、歿後12 年が過ぎた頃ようやく、息子が遺稿を整理して刊行したのが残っているくらい——これが独奏楽器のための曲集だったこともあり、カベソーンの偉業はほとんどチェンバロやオルガンの演奏を通じて古楽愛好家に知られてきたわけですが、欧州古楽界の最先端をゆく凄腕集団ドゥス・メモワールがこの作曲家に焦点を当てたということは、声楽家を交えつつ、さまざまな楽器の合奏でその作品を演奏しているということ——
 そう、ここに収録されているのは、既存楽曲の編曲こそが器楽合奏の常だった当時の習慣にならい、カベソーンの残した楽譜から合奏曲を周到に再現しただけでなく、その原曲となっているネーデルラントの作曲家たちの声楽作品もあわせて演奏、生のままの16 世紀宮廷音楽のありようをじっくり味わってもらおう...という充実したプログラムなのです!リコーダー合奏、ファゴット合奏(当時スペインにはバホンというファゴットの前身があり、これは低音用のみならずソプラノ用やテノール用の小さな楽器もある合奏楽器として使われていました)、あるいはハープやみずみずしい古楽歌唱が入り混じるそのサウンドは、まさに16 世紀美術を思わせる妙なる美に貫かれている——古楽ファンのみならず、ただかけているだけで雰囲気に浸れる、本格派の1枚なのです。
 


MRIC336
(国内盤)
\2940
ヴィーラント・クイケン、
 ヨハン・シェンク(1656 頃〜1716 以降):
 『ライン川のニンフたち〜二つのヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ集』(1702)

  ①第3ソナタ ニ長調 ②第7ソナタ ロ短調
  ③第2ソナタ イ短調 ④第11 ソナタ ト長調
  ⑤第8ソナタ ハ短調 ⑥第12ソナタ ニ短調
ヴィーラント・クイケン、
フランソワ・ジュベール=カイエ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
 ヴィオラ・ダ・ガンバ演奏芸術の頂点に立つ、並ぶ者なき名匠。およそ古楽というものが盛んになりはじめて以来、私たちはジョルディ・サヴァール、フィリップ・ピエルロ、パオロ・パンドルフォ、ジョナサン・ダンフォード、ファミ・アルカイ...と数々のとてつもないガンバ奏者たちと出会ってきたわけですが、そうした人々の源流となって20 世紀におけるガンバ芸術復興の屋台骨をつくっただけでなく、自ら第一線の凄腕プレイヤーでありつづけて今にいたる伝説的巨匠ヴィーラント・クイケンの存在感は、今でもやはり、ひとつ頭飛びぬけていると言わなくてはならないでしょう。
 30 年以上にわたって欧州古楽界屈指の良心的レーベルでありつづけてきたベルギーのRicercar から、そんな“ガンバの導師”たる人物の最新録音がリリースされたとあっては、どうして心動かされずにおれましょう——
 しかも、演目はバロック・ガンバ芸術のなかでとてつもなく重要な存在意義を誇る、諸様式の要にいた作曲家・ヨハン・シェンクの傑作曲集とはぼチェロに似て足で挟んで弾く古い弦楽器ヴィオラ・ダ・ガンバは、もともとイタリアや英国で合奏用楽器として、あるいは無伴奏などの独奏楽器としてルネサンス末期に大活躍をみせたあと、17 世紀にはその人気がドイツにも及んだほか、フランスでは独奏楽器として、あるいは二つのガンバによる二重奏で、独自の音楽芸術がはぐくまれたことで知られています。
 とくに有名なのが、映画『めぐり逢う朝』でも有名になった“天使のように弾く”マラン・マレの曲集5冊...シェンクは17 世紀半ばにアムステルダムで生まれたドイツ人作曲家で、諸民族の行き交うこの国際都市で何冊もの作品集を発表したあと、1696 年には当時デュッセルドルフ(つまり、フランスとドイツの間を流れるライン川のそばぼ)にあったライン選帝侯の宮廷に雇われ、さらなる傑作を続々生みました。彼の曲集だけでなく、イタリア人作曲家たちの最新の傑作を続々楽譜出版していたE.ロジェとの親交、フランスに近い場所で欧州中の最新文化に敏感だった選帝侯の宮廷...といった環境ゆえのことか、シェンクはセンスのよいドイツ人作曲家ならではの柔軟さで、当時のイタリア様式とフランス様式のよいところをあざやかに融合させてみせ、同世代のフランス人マレのガンバ芸術やイタリア人コレッリのソナタ芸術のかたわら、ガンバ音楽史上に見過ごしがたい混合様式の名品群を送り出していたわけです。
 デュッセルドルフの宮廷に来てからまとめられた「ライン川のニンフたち」という題のこのソナタ集も、コレッリ流儀のイタリア風ソナタ様式をベースにしていながら、演奏編成は通奏低音なしのガンバ二重奏という、明らかにフランス様式を意識したセッティング——玄妙な装飾音を重ねながら、どこまでも深い呼吸で、あるいはドラマティックなコントラストを打ち出しながら、ヴィーラント・クイケンは新世代の経験豊かな名手ジュベール=カイエ(Ricercar の数々の名盤で通奏低音を支えてきた超・実力派ぼ“導師”が見込んだパートナーだけあり、紡ぎ出される室内楽の呼吸はまさに至高そのもの…)とともに、この作曲家の音世界がいかに多元的で聴き深めるに足る内容だったかを、ありありと印象づけてやみません。20 世紀いらい喧伝されてきた巨匠奏者の最新録音だけに、注目度の高まりは必至!

SAPHIR



LVC1179
(国内盤)
\2940
ロマン・エルヴェ(ピアノ)
 ロマン派を創った三人  

リスト、シューマン、ショパン〜
 フランツ・リスト(1811〜1886):
  1.ヴィルヘルム・テルの聖堂
   (『巡礼の年 第1年』より)
  2. バッハのカンタータBWV12「泣き、嘆き、憂い、怯えよ」による変奏曲
  3. シューマンの歌曲「春の夜」(独奏用編曲版)
 ローベルト・シューマン(1810〜1856):
  4. 蝶々 op.2
 フレデリク・ショパン(1810〜1849):
  5.ポロネーズ イ長調op.40-1「軍隊ポロネーズ」
  6. 四つのマズルカ作品67 より3編
   (マズルカ第43・44・45 番)
  7.ポロネーズ 変ホ長調op.53「英雄ポロネーズ」
ロマン・エルヴェ(ピアノ)
 フランスの才人、またひとり!
 シフラやベルマンらリスト弾きや、バシキーロフやレフ・ナウモフらロシア・ピアニズムの系譜をひく名匠たちにも師事しつつ、多元的な演奏活動を続ける筋金入りの名手が、ロマン派王道の「曲者選曲」で聴かせる圧倒的なピアノ芸術とは...?

 音楽大国といえば、西の大国フランスも負けてはいません——とくに、この国からは本当にとてつもない数の、とてつもない才能を持ったピアニストが続々現れるので、日々驚きの連続です。高雅で知的な「フランスならでは」の至芸を味あわせてくれるタイプ(ル・サージュ、シャプラン...)もいれば、現代ものやフォルテピアノなど特定ジャンルですぐれた実績をあげる人もあり(カサール、ゴットリープ...)、秘曲発掘に熱をあげる人物あり(M-C.ジロー、ヴァグシャル...)、室内楽の名手あり(デシャルム、ビアンコーニ...)、異国からの留学で母国ものを独特の感性で仕上げてくる異才あり(ナウモフ、ベルリンスカヤ、ツィバコフ...)、あるいは既存の型にあてはめようのないユニークな才人あり(タロー、ミュラロ...)。そしてもうひとつ、腕利きピアニストたちの修業課程をよくたどってゆくと、意外に多いのが「パリ音楽院→外国」のパターン。ドイツや米国、ロシアなどに留学して芸術性の幅を広げる人たちですが、ここにご紹介するロマン・エルヴェも、そうした国際派フランス人のひとり!
 彼が何より頼もしいのは、早くから自分のピアニズムと音楽的偏向がはっきりしていたのか、コルトーやフランソワら往年の名匠たちに連なる名教師陣に師事したあとも、ラザーリ・ベルマンやジェルジ・シフラといった凄腕リスト弾き、バシキーロフやレフ・ナウモフらロシア・ピアニズムの名匠たち、あるいはレオン・フライシャーのような大御所にも薫陶を受けていて、そのあとCalliope レーベルでリリースした2枚のCD はショパン盤とリスト盤...と、いわば国際派ヴィルトゥオーゾを地でゆく着実なキャリア形成を続けつつある人というわけです。
 パリに本拠をおくSaphir レーベルが世に送り出した本盤は、スイス・ロマンド放送との連携で録音されたライヴ収録盤なのですが、1810〜11 年に生まれた3人の才人たちの、王道名曲というのとは趣を異にした曲者選曲でおくるプログラムの充実度に、このピアニストが日々、舞台俳優や映像作家など「他ジャンル」の芸術家たちとのコラボレーションを通じて多様なリサイタルを続けてきた、単なるピアノ弾きに終わらないアーティストだったことが何より如実にあらわれていると思います。
 リストの(決して未知ではない)秘曲、シューマンからはヴィルトゥオーゾ性がきわだつ「蝶々」、そして締めくくりのショパンはあえて王道名曲を押えつつ、繊細かつ堅固なショパン解釈のたくみさを堂々と印象づけてみせる。
 


LVC1175
(国内盤)
\2940
ゴリホフ:見えざる者イサクの夢と祈り
 ブロッホ:ユダヤの生活風景・アボダー
  〜ユダヤのクラリネットと、弦と...〜
 オスバルド・ゴリホフ(1960〜):
  1. 見えざる者イサクの夢と祈り
   〜クレズマー・クラリネットと弦楽四重奏のための
 エルネスト・ブロッホ(1880〜1959):
  2. ユダヤの生活風景〜三つの小品(cl, p)
  3. アボダー(cl, p)
ミシェル・ルティエク(クラリネット)
ウィーン・アルティス四重奏団
イタマール・ゴラン(ピアノ)
 あの名門アルティスSQが、その筋金入りのスタイリッシュな音楽性そのままにパリ随一の多忙な超実力派・ルティエクと綴ってゆく、変幻自在のユダヤ室内楽——
 晩期ロマン派の頃から世界を魅了しつづけたユダヤの音楽性は、脈々と「いま」に続く...
 民俗系の越境クラシック——次頁で新譜紹介しているAlpha レーベルのアッコルドーネもそうですが、この路線は昨今、確実にセールスを作ってゆく技ありのジャンルとして注目に値するラインなのだと思います。
 いわゆるクロスオーヴァーというのとはやや趣が違う、演奏者自身が自分たちのルーツを徹底して見据えた結果としての、内側からわきあがる音楽をあえてジャンルの枠で閉じ込めたりしない、そうやって届けられる生のままの音楽は、耳の肥えたクラシック・ファンにも強く訴えかけずにはいないのでしょう(それは、たとえばクレメンス・クラウスが指揮するウィンナ・ワルツ、ロシアのピアニストたちが強い共感とともに奏でるチャイコフスキーやラフマニノフ、あるいはバーンスタインが「同じユダヤ人として」指揮し続けたマーラーなどと同じ深みが、そこに体現されるからなのかもしれません)。そうしたわけで、本盤は(凄腕クラリネット奏者がごろごろしている)パリでもとくに多忙なクラリネットの名手ミシェル・ルティエク、もういまさら紹介の必要もない?Sony やNimbus での桁外れな名盤群で室内楽ファンに圧倒的な印象を刻みつけてきたウィーン・アルティス四重奏団、そしてミンツ、ヴェンゲーロフ、マイスキー、ハイヴィッツ...といったユダヤ系の超一流弦楽器奏者たちから絶大な信頼を受けている室内楽ピアノの名匠イタマール・ゴラン、という、まったく申し分ない面々が「ユダヤの音楽」にこだわりぬいて作った1枚——越境はしていない、近代音楽の範疇で息をのむほどの仕上がりをみせるブロッホ作品のあざやかさ(クラリネットとピアノの二重奏が紡ぎ出す、なんてシックな大人びた艶...)のかたわら、冒頭に置かれたアルゼンチンのユダヤ系作曲家ゴリホフの作品では、「弦」と「クラリネット」というユダヤ音楽と切っても切り離せない楽器を使いながら、さながらペルトかエスケシュか...といった静かな祈り、絶美の瞬間でいたるところ息をのむ名演ぶりが素晴しく。ユダヤ系クラシックの多元性を申し分ない演奏解釈でじっくり味わえる、至上の室内楽のひとときが詰まった1枚に仕上がっているのです。演奏陣の確かさにつられて手をのばす価値、十二分にあり。
 解説全訳付、侮れない1枚でございます。
 

LVC1168
(国内盤・訳詞付)
\2940
ヤニス・クセナキスの世界
 〜打楽器とピアノのあいだで〜

ヤニス・クセナキス(1922〜2001):
 ①ズィイア(1952)〜 独唱、フルートとピアノのための
 ②ピアノのための『六つのギリシャのうた』(1951)
 ③打楽器(とエレクトロニクス)のための「プサッファ」(1975)
 ④打楽器とエレクトロニクスのための「ペルセファサ」(1969)
ニコラオス・サマルタノス(ピアノ)
ディミトリ・ヴァシラキス(p)
ダニエル・チャンポリーニ(perc)
アンジェリカ・カタリウ(Ms)
セシル・ダルー(fl)
 純然たる美しさから、クセナキスならではの複雑系まで——この作曲家の広がりを知るには初期から中期へかけての、小規模編成の作品をたどるべし。
 古代へと通じるギリシャ語の歌から聴こえてくる笛の音、艶やかに変容する打楽器の表現力。知るべき作曲家へ、扉を開く1枚。誰もが騒然とする芸術家には、必ず理由があるものです。自意識の強い芸術家ばかりがひしめきあっている現代芸術界で、ただ渡世術だけで生き延びてゆけるわけがないのは、もちろんのこと——
 20 世紀の後半という魑魅魍魎の現代音楽世界でつねに第一線を張り続けてきたルーマニア生まれのギリシャ人、フランスを中心に世界を揺るがせた大作曲家ヤニス・クセナキスの表現には、いったいどのような秘術が隠されていたのでしょう?
 2011 年、作曲家の歿後10 周年を記念してのプロジェクトとして企画されたこの録音は、フルート奏者として加わったセシル・ダルーの急逝により、急遽その追悼アルバムという趣きを帯びることにもなりましたが、何はともあれ、私たちリスナーにとってこのアルバムが実にかけがえがない点は、CD1枚でクセナキスの音楽世界の広がりを、さまざまな角度から深く味わえるようになっているところ。
 クセナキスといえば、ブーレーズやペンデレツキらと並び「耳を弄する恐ろしい音響を平気で用いる現代作曲家」というイメージがあるかもしれませんが、本盤では実に周到に作品が選ばれていて、初期のピアノ作品『六つのギリシャのうた』のように、ごく美しい民謡本来の響きをいっさい阻害しない音作りの曲も含まれていますし、打楽器が活躍する末尾の2曲でも、複雑ではありながら規則的なリズム・パターンを追ってゆく理屈ぬきの快感が、私たちをすんなりクセナキスの音の綾へと招き入れてくれます。
 冒頭の「ズィイヤ」では、悠久の時の流れを感じさせる、ギリシャ語によるどこか古代めいた歌い口がひたすらに美しく、この作曲家があくまで西欧芸術史の流れのなかで生きていたことを如実に感じさせずにはおきません。演奏者5人のうち3人まではギリシャ系の音楽家で、同じことばで育ってきた者ならではの共感や解釈なのでは...と思わせる瞬間もいたるところ(たとえば独唱者カタリウの堂に入った歌い口の細やかさ、録音技師としても活躍するサマルタノスが描き出す民謡のフレーズ感)。
 小沼純一氏の書下ろしによる日本語解説もまた、アルバムの世界への、クセナキスの音世界への憧れを静々とかきたててくれるのが嬉しいところです。
 バルカン半島からさらに東さえ望める、諸文化の交錯点としてのクセナキスの音世界への扉を開く1枚。
 


LVC1174
(国内盤)
\2940
エミール・ナウモフ(ピアノ)
 チャイコフスキー(1840〜1893):

  1.組曲『四季』作品37a
  2.序曲「ロミオとジュリエット」(ナウモフ編)
  3.アダージョ・ラメントーゾ〜
    交響曲第6番「悲愴」より(ナウモフ編)
エミール・ナウモフ(ピアノ)
 パリ音楽院のブルガリア人異才、涼しい季節へ向けての待望新譜はチャイコフスキー...
 変幻自在の小品群がうつくしい「四季」の絶品さもさることながら、フォーレ「レクィエム」の独奏編曲でみせた圧巻のセンスが、なんと「悲愴」のあの楽章でも示されるとは...
  エミール・ナウモフぱ かつてヴァレーズ、コープランド、ピアソラ...と幾多の天才たちを育ててきた20世紀屈指の名教授、ナディア・ブーランジェの最晩期の門弟のひとりであり、作曲家的センスを持ち合わせた編曲の天才としても活躍するかたわら、自らもパリ音楽院の名教師としてさまざまな門弟を育ててきた、ブルガリア出身のピアニスト——そして、自らもまた演奏家としてリヒテル、バーンスタイン、ハチャトゥリヤン、フランセ、マルケヴィチ...といった20 世紀屈指の作曲家・名演奏家・大指揮者たちの薫陶も受けてきた男。
 パリ音楽院を退いてからはブルーミントンのインディアナ大学(ボザール・トリオのメナヘム・プレスラーや故シュタルケル、スラットキンらが教員として有名な世界的音楽教育機関)やジュリアード音楽院で後進の育成にあたりながら、この天才芸術家は折々に新録音を欠かさず続けてもきたのです。
 とくに最近ではパリに本拠をおくSaphir レーベルでの活躍がめざましく、プーランクのさまざまな楽器とのソナタ(一部は新校訂版を使用)を、パスキエやモラゲスといったフランス楽壇随一の名手たちと録音していたり、あるいはフォーレの『レクィエム』を自らピアノ編曲、フォーレのピアノ曲としては考えられないくらい長大なピアノ曲のように仕上げてみせ、日本のファンたちからも圧倒的な支持の声があがっているこの名匠、最新アルバムはなんと、自らと同じスラヴの血をひくロマン派作曲家の大本命、チャイコフスキーの作品集ぱ嬉しいことに、今回の解説はナウモフ自身の長大なコメントが続く充実インタビューからなっていて(もちろん全訳付)、作品と作曲家に対する個人的な思い入れや編曲についての洞察など、アルバムを通じてつくりあげられてゆく音楽の世界と真正面から向き合い、その世界の内奥へと深く分け入ってゆけるようになっています。『四季』は折々深い愛着を示してきたピアニストも少なくない、チャイコフスキーのピアノ芸術の代表的作品。
 ナウモフの緻密な解釈の妙は、そのタッチの繊細さもさることながら、曲集全体を通して聴いたときの充実感にもありありと示されているところ。しかしアルバムの残り半分を占める2曲が、どちらもオーケストラ楽曲からの編曲というのがまた驚くべきところ——
 しかも、あの長大な幻想序曲(事実上の交響詩)「ロメオとジュリエット」を、あるいは『悲愴』の最後を締めくくる、あの暗澹たる終楽章を、ピアノひとつで壮大なスケール感やドラマ性そのまま、ないしはその深い心の闇と対峙するかのような印象深い解釈で弾きこなしてしまう編曲者=演奏者ナウモフの引き出しの多さには、あらためて脱帽するよりほかありません。じっくり聴き深めたい新名盤、時期を逸するとプレス切れで二度と入手不可になりやすいレーベルゆえ、お早目に!

ZIG ZAG TERRITOIRES



ZZT329
(国内盤)
\2940
クリヴィヌ指揮&ルクセンブルク・フィル
 展覧会の絵&シェエラザード

  ムソルグスキー/ラヴェル:
   1. 組曲『展覧会の絵』
  ニコライ・リムスキー=コルサコフ:
   2. 交響組曲『シェヘラザード』作品35
      独奏:フィリップ・コック(vn)
エマニュエル・クリヴィヌ指揮
ルクセンブルク・フィルハーモニー管
 昨年のラヴェル盤に続き、クリヴィヌの至芸が隅々まできわだつ、ゾクゾクするような名演が!
 冒頭のしなやかなトランペットから、新時代の気配はあざやかに。ルクセンブルク・フィルの名手ぞろいゆえの精妙さ、クリヴィヌの周到な解釈で、ロシアの色彩と彫琢を、じっくりと。
 エマニュエル・クリヴィヌ!あのフランス屈指の侮れない名匠がまたやってくれました——彼の意気揚々にして精緻なことこの上ない極上ラヴェル盤(ZZT311)を送り出したZig-Zag Territoires が、今度はロシアものを、精鋭ルクセンブルク・フィルとのタッグで贈り出してくれます。何はともあれ、これが話題になること間違いなしの充実内容、聴き手の心に深く刻まれるであろう極上演奏!昨年のラヴェル盤やTimpani レーベルからのドビュッシーその他の名盤群に示されているとおり、そもそもクリヴィヌはフランス近代に比類ないセンスを発揮する指揮者。ラヴェル編曲による『展覧会の絵』といい、ディアギレフ率いるパリのロシア・バレエ団の公演にも使われた『シェヘラザード』といい、その感性に合わないはずがなかったわけです。
 しかも、オーケストラは彼と比類ない一体感で名演を紡ぎ続けている精鋭集団、ルクセンブルク・フィルという...クリヴィヌは近年、古楽器も操る異才楽団ラ・シャンブル・フィラルモニークとベートーヴェンの交響曲全集を制作、これがベートーヴェンのピリオド解釈には世界屈指の一家言を持つ日本の批評家勢からも手放しで絶賛されたほどの内容だったことは記憶に新しいところですが、つまりスコアに対する読み込みの徹底ぶりを、まるで手足を動かすように鮮やかにそのタクトに反映させてくる手腕は他の追従を許さないほどで、それがこうしたロシアものでも全く妥協なく発揮されているうえ、彼と抜群の相性をみせるルクセンブルク・フィルがそもそもソリストぞろいの精鋭集団なだけあって(なにしろ「現実には演奏不可能」と思われるほどの現代作曲家クセナキスの難曲群で3枚も名盤を作ってしまう天才集団です...)
 「展覧会の絵」冒頭のトランペットのソリスト然とした響きから「これは何か異例のことが始まるに違いない」という予感をさせずにおかず、事実その後も一瞬ごとに驚きの連続——
 『シェヘラザード』では知る人ぞ知るベルギー随一の名手、フィリップ・コック(コッホ)のうっとりするようなソロに息をのむ——オーケストラの圧倒的存在感も、最後まで揺るぎなく。


最近のクリヴィヌを代表する録音

ZIGZAG
ZZT311
(国内盤)
\2940
エマニュエル・クリヴィヌ指揮&ルクセンブルク・フィル
 ラヴェル管弦楽作品集

 ラヴェル(1875〜1937):
 ①道化師の朝の歌(1918)
 ②ボレロ(1928)
 ③海上の小舟(1906)
 ④シェエラザード 〜独唱と管弦楽のための(1903)
 ⑤ラ・ヴァルス(1920)
 ⑥逝ける王女のためのパヴァーヌ(1910)
  ④訳詞付)
エマニュエル・クリヴィヌ指揮
ルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
カリーヌ・デエー(メゾソプラノ)
ZZT311
(輸入盤)
\2600→\2090
日本語解説なし
 痛快、絶妙——異才クリヴィヌの「お国もの」、その冴えわたるタクトは、理屈ぬきに心を射る。
 超一流、極上、そういう言葉は、この演奏のために使うべき言葉...フランス語圏随一の由緒正しき精鋭楽団に、『シェエラザード』の独唱はなんと、今をときめく名歌手デエー!
 ごらんの通りの、極上の人選で録音されたラヴェル管弦楽作品集——古典派以来のレパートリーはもちろん、現代音楽の超難曲やフランス近代のみずみずしく美しい秘曲系でも素晴しい成果をみせるルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団(ルクセンブルクはドイツ語と地元言葉も公用語ですが、一番通じるのはもうひとつの公用語であるフランス語...接客業と文化事業はフランス語でまわっている国なのです)がZig-Zag Territoires に登場したと思ったら...なんと指揮者はフランス屈指のスーパーマエストロ、エマニュエル・クリヴィヌ御大!
 そう、20 世紀末に稀代のモーツァルト解釈者として名をあげただけでなく、フォーレ『レクィエム』の傑作録音、Timpani レーベルでのロパルツやドビュッシーなどフランス近代もの、Naive でのシベリウスやドヴォルザーク、そして最近ではあろうことか、楽器選択も含めピリオド解釈を大々的に導入してのベートーヴェン交響曲全集(シャンブル・フィラルモニークと。Naive)で痛快なヒットを出し、ここへきて急速に「クリヴィヌここにあり」と印象づけた感があります。
 そうした隅々まで徹底した楽譜分析のセンスそのまま、そしてクラシック王道系を一枚上手の解釈で聴かせるカリスマ性そのままに、この人の感性は生粋の知性派エンターテイナーたる大作曲家ラヴェルの音楽と、ここまで痛烈に相性がよいものか...。
 近年はフランスを中心に欧州騒然の快進撃を続けているカリーヌ・デエーを独唱に迎えた『シェエラザード』の高貴さもさることながら、絶妙のテンポとコントラストの妙で迫真のドラマへと聴き手の心を引き込んでゆく『ラ・ヴァルス』のあざとさ、あまりにも美しい『逝ける王女のためのパヴァーヌ』でのルクセンブルク・フィルの名手たちの立ち回り、そして冒頭からドキドキせずにはおれない(音の録り方が絶妙にウマいZig-Zag Territoires ならではの成果!)
 すこーしだけハイテンポで進むにもかかわらず一切焦りを感じさせない、逆にこちらがどんどん得なくならざるを得なくなる、理屈抜きに痛快な13 分45 秒の『ボレロ』...!白黒写真で無機物を録っているだけなのに不思議な肉感性を漂わせているDigiPack ジャケットも実に「何か素敵なことがありそうな予感」に満ちています!

 
Dvorak - Symphony No. 9
NAIVE
V 5132
\2500→¥2290
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」
シューマン:コンチェルトシュトゥック
ホルン/
デイヴィッド・グリアー、
アントワーヌ・ドレイファス、
エマニュエル・パデュ、
ベルナール・シラー
エマニュエル・クリヴィヌ(指)
ラ・シャンブル・フィルハーモニク
録音:2008年1月0822186 051320

 古楽器オケでクリヴィヌが「新世界」。
 前回のメンデルスゾーンこそなんとなく雰囲気合うけど「新世界」となるとちょっとどうだろう。どうせやるならまだ8番のほうがよかったんじゃないかな。
 「新世界」には聴く側もどうしても爆発的なエネルギーの壮大な演奏を求めるし、第2楽章だってそうした体力があってこそ充実した演奏になる。
 ということでちょっと聴くまでに時間があった。

 ・・・そうしたらこれがまあ素晴らしい演奏だった。
 古楽器オケといっても指揮はクリヴィヌ。ハッタリかましたり、とんでもないアゴーギグを利かせるなんてことはない。・・・のだが、細部まで念入りに手を入れた極めて精密で心のこもった室内楽的演奏と、自由で溌剌とした晴朗な感性がまったく矛盾なく同居し、聴いていてすがすがしく、そしてドキドキするような刺激を与えてくれる。胸が熱くなったり、ゾクゾクと背筋が寒くなるような見せ場も何度も何度も何度も現れる。ちょっとエキセントリックな楽器バランスのときもあったりして、そういうときには「おろろ、こんな素敵な裏メロディーがあったの!」と新たな感動を与えてくれる。しかもそんな細部のこだわりを見せながらも、スケールもそうとうでかい。終楽章ラストの盛り上がりなど、大メジャー・オケもぶっとぶ壮大なパノラマを描いてくれる。
 とにかく徹頭徹尾生き生きと飛び跳ねるような活力が音楽そのものに躍動的なエネルギ−を与え続けてくれる。聴いているだけでこちらのパワーも2倍にも3倍にもアップさせてくれる純粋で根源的な生命力がある。
 最近聴いたオケものでは白眉。今年(2008年)10本の指に入る名演といっていい。迷わず、どうぞ。 

 


ZZT326
(国内盤)
\2940
ネルソン・ゲルナー(ピアノ)
 ドビュッシー(1862〜1918):

 1. 版画(パゴダ/グラナダの夕暮れ/雨の庭)
 2. 練習曲集 第2集
 3. 映像 第1集
 (水の反映/ラモーを讃えて/動き)
 4. 喜びの島
ネルソン・ゲルナー(ピアノ)
 ショパン協会レーベルでのエラール1849年ピアノによるブリュッヘン共演盤から早何年、今年6月の来日公演をへて新世代名手が世に問う、じっくり養ってきたドビュッシー解釈。ネルソン・ゲルナー!が、ドビュッシーを!
 この名前を聞いて私たちがまっさきに思い浮かべるのは、今年6月の下野達也指揮NHK 交響楽団との共演でしょうか——それとも、2009 年にショパン協会が満を持して世に送り出した、かの作曲家がピアノと管弦楽のために書いた作品群を古楽器で演奏したアルバムでしょうか? 後者は(こちらも本年の来日が話題だった)巨匠フランス・ブリュッヘンとの共演で、焦茶地にシックな文字が躍るあのジャケットでブリュッヘンとともにNELSON GOERNER の名が輝かしく記されていたので、それを見てこのピアニストに注目するようになった人は思いのほか多いのではないでしょうか。
 アルゲリッチ、バレンボイム、ゲルバー...と数々の世界的ピアニストを生んだアルゼンチン出身、1969 年生まれ——若くしてアルゲリッチに見出されてヨーロッパに向かい、ジュネーヴではチッコリーニと並ぶナポリ派の大御所マリア・ティーポの薫陶を受け、ジュネーヴ音楽院卒業の年にあたる1990 年には難関ジュネーヴ国際コンクールでみごと優勝。このあたりから折々、明敏なリスナーたちをドキドキさせるような活躍をみせはじめ、EMI やCascavelle(←つくづく目が高い良質レーベルですよね)などで名盤を連発。故郷ブエノスアイレスでもリスト・コンクールで優勝しただけあって、磨き抜かれた技巧がくりだすリスト解釈も素晴しければ、上述のとおり歴史的ピアノもあざやかに操り、ショパンの玄妙さを表現してみせる——
 そんな彼が、実は若い頃からずっとドビュッシーの音響世界にふかく心を惹かれつづけていて、数多くの名教師たちのもとでじっくり解釈を練り上げていた...と聞いて、ピアノ音楽ファンがどうして黙っていられるでしょう?圧巻の超絶技巧を大前提とするリストのピアニズムにも、そしてもちろんショパンの玄妙な響きにも、彼の解釈は確かに「この人がドビュッシーを弾いたらどうなってしまうのだろう?」と思わせる詩情が漂っているところ、満を持して我らがZig-Zag Territoiresレーベルで世に問うてくれたのが、「映像」や「版画」といった、まさしくドビュッシーの詩情そのものの名品であり、また新時代のピアニズムと音響芸術のはざまをゆく晩年の異色作「練習曲集」の後半であり...というのは、もう聴かずにおれない注目度ではないでしょうか?? この秋、レビュー高評価の強い予感とともに目が離せないリリースであることだけは間違いありません。




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