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第76号
お奨め国内盤新譜(1)
2014.4.15〜2014.6.13


ACOUSTICA



ACST2010-03
(国内盤)
\2800+税
ソレール 鍵盤のためのソナタ集vol.2
〜スペイン・ピアノ音楽のルーツ〜

 アントニオ・ソレール(1729〜1783):
  ①ソナタ 第39 番 ニ短調 R.39、②ソナタ第100 番 ハ短調 R.100
  ③ソナタ 第6 番ヘ長調 R.6、④ソナタ 第5 番 ヘ長調 R.5
  ⑤ソナタ 第15 番 ニ短調 R.15、⑥ソナタ第3 番 変ロ長調 R.3
  ⑦ソナタ 第38 番ハ長調 R.38、⑧ソナタ 第1 番 イ長調 R.1
  ⑨ソナタ 第9 番 ハ長調 R.9、⑩ソナタ 第90 番 嬰へ長調 R.90
  ⑪ソナタ 第8 番 ハ長調 R.8
イシドロ・バリオ(ピアノ)
 スカルラッティの衣鉢を継いだスペイン鍵盤芸術の巨匠ソレール、意外にピアノ録音がないところ来日公演で絶大な成功をおさめつづけるスペイン最前線の孤高の名匠が、長年にわたる愛奏の至芸を録音!
 息をのむ美しさは「ピアノによるチェンバロ音楽」の通念を覆す出来...!
 第1弾が早くも「レコード芸術」4月号で特選に輝いた、イシドロ・バリオのソレール新録音!嬉々として第2弾をご紹介させていただける運びとなりました。

 ソレールという名の音楽家はスパニッシュポップまで含めて数多く、18 世紀だけでもふたり有名人がいますが(もうひとりは『ドン・ジョヴァンニ』の終幕でちょっと引用される人気オペラ作曲家マルティン・イ・ソレール)、こちらはより広く知られているほう、ドメーニコ・スカルラッティの後を受けて鍵盤音楽のためのソナタを数多く残したアントニオ・ソレール神父...時おりしも古典派前夜、というより「古典派」というのはあくまでドイツ語圏とその周辺ベースで流行した合奏音楽のスタイルの話ではありますから、オペラや宗教音楽なども含めて「古典派ありき」で音楽史を語るのも妙な話ではあるのですが、ともあれソレールは18 世紀半ば、ピアノという楽器がしだいに欧州全体に流行しはじめる少し前の、チェンバロのための音楽が極限まで発達した時代を生きていた人ではありました。
 そのためチェンバロ奏者たちのなかには、有名な『ファンダンゴ』をはじめ、スカルラッティ作品の発展形のひとつとしてソレールの曲を好んでとりあげる人も少なくはないのですが、意外にいないのが、現代ピアノでこの作曲家と向き合ってきた演奏家...スカルラッティもモーツァルトもハイドンも、少なくとも若い頃の作品はみんなチェンバロ前提の曲だったはずなのに、今では多くのピアニストたちが(バッハの傑作と同じく)現代ピアノで独特の演奏成果をあげている——
 ではどうして、とくにスペインのピアニストたちが、このソレールの名作群を現代ピアノで積極的に演奏しないのか?理由はいろいろあるのかもしれませんが、少なくともひとつだけ言えるのは、名匠カルロ・ゼッキやエリーザベト・ハンゼンらに師事したスペインの異才イシドロ・バリオがCD3枚も使って連続録音してきたこのソレール解釈を聴いていると、そのあまりに美しい詩情、驚くべきなめらかさ、そして現代ピアノならではのニュアンスの妙が、ソレールの(本来きわめてチェンバロ向きであったはずの!)音使いのうまみを圧倒的なまでにみごとに「いま」に伝えるものとなっている...という事実!
 「ピアノから印象的な響きを作る発想が面白く、不協和音の強調の仕方も含めてとても聴かせる」(上掲誌・那須田務氏の評)とはまさに言い得て妙、現代ピアノという楽器で古い音楽に向き合うありかたのひとつの驚くべき事例として、この3枚(後続巻も近日ご案内予定)は玄人ファンもじっくり傾聴に値する内容だと思います(「現代ピアノは18 世紀音楽には不要」とお考えのフォルテピアノ・ファンの方にもぜひ聴いていただきたい...)。解説も充実、「ただの輸入盤」で終らせたくない、様々な話題を秘めた録音なのです!

AEON


MAECD1107
(国内盤)
\2800+税
ピアソラとベイテルマン 出会いと音楽
 〜アルゼンチンとパリ、タンゴと音楽家の出会うところ〜
   アストル・ピアソラ(1921〜1992):
    ①カモッラI〜III* ②コントラバヒシモ*
   グスタボ・ベイテルマン(1946〜):
    ③出会い* ④声はさまざま** ⑤消滅
     ※曲順は①③④⑤②
クヮチュオール・カリエンテ(カリエンテ四重奏団)
ヒルベルト・ペレイラ(バンドネオン)
ミシェル・ベリエ(vn)
セドリック・ロレル(p)
ニコラ・マルティ(cb)
ローラン・コロンバニ(g)*
ヴァンサン・マイヤール(ヴァイブラフォン) **

 夏近し——いよいよピアソラの似合う季節!ピアノが濃密なサウンドを刻んでゆくなか、「夜」と「悪」の香りも漂う艶やかなタンゴが心憎い——パリ暮らしのアルゼンチン人ベイテルマンの名品もはさみながら、クラシカルにしてエモーショナルな音世界へ...!

 暑い季節になると、人はどうしてタンゴが恋しくなるのでしょう——強い酒が似合うからでしょうか、夜の涼しさが似つかわしいからでしょうか、それともタンゴという音楽の発祥地、遠い南国・アルゼンチンにおのずと心が向かうからでしょうか...?
 パンパと呼ばれる大平原やラプラタ川の信じがたいスケール感をよそに、あくまで都会の音楽として興隆をみせてきたタンゴはしかし、欧州文化に目がないアルゼンチンの地元感覚では「不良の音楽」。ならず者たちが騒ぐときの音楽という位置づけであったところ、そのスタイリッシュな音楽美を見出し、世界的なブームのきっかけができてきたのは、ほかでもない、文化現象によろず好奇心の高い人がきわめて多い国・フランスにおいてのことでした。
 フォルクローレの大御所アタウアルパ・ユパンキを迎え入れたのもパリなら、タンゴ界の異端児、「ヌエボ(新)・タンゴ」と呼ばれる独自のジャンルを切り開いたアストル・ピアソラを門下で育て、その輝かしい未来への一歩を決心させたのも、この国の名教師ナディア・ブーランジェにほかなりません。現代音楽シーンですぐれた名盤を数多く生んできたフランスのaeon レーベルが、パリを拠点に活躍するタンゴ集団クヮチュオール・カリエンテ(カリエンテ四重奏団)の熱心な支持者でありつづけてきたのも、そうしたフランス人のタンゴにたいする独特の愛着あればこそ、のことだったのかもしれません。ここにご案内するのは、そうしたパリのタンゴの世界で活躍してきたアルゼンチン出身のもうひとりの才人、世界的なジャズ&タンゴ・ピアニストとしても知られるグスタボ・ベイテルマンのオリジナル曲を3曲交えての、大人たちの夜、悪の闇といったものの空気を漂わせた絶妙の1枚——

 基本編成はピアノとベース(コントラバス)にヴァイオリン&バンドネオンが絡む四重奏編成、そこへヴァイウラフォンが妖艶な空気を添え、ギターが夜の熱狂らしい気配を否応なしに盛り上げる——冒頭から3連続で演奏される「カモッラ」3連作で、ナポリに拠点をおくマフィア的組織を意味するカモッラという語にただよう黒い魅力が艶やかにあふれかえったあと、ピアソラ自身の傑作盤『タンゴ:ゼロ・アワー』での独特な存在感からベース奏者たちのひそかな憧れの曲のひとつとなった「コントラバヒシモ」へ、そしてベイテルマンのスタイリッシュな名品群へ。ライナーノートにはベイテルマン自身が言葉を寄せ(全訳付)、ピアソラという芸術家に対するシーン最前線のまなざしも肌で感じられる憎い仕掛けになっています。
 現代音楽レーベルが作るピアソラ盤、やはり一枚上手なのです…!
 


MAECD0977
(国内盤・2枚組)
\3700+税
モートン・フェルドマン チェロのための作品集
 〜偶然と反復の音世界〜

 モートン・フェルドマン(1926〜1987):
  ① 半音階平原の模様
    (Patterns in achromatic field/1981)
  ②プロジェクション1(Projection I/1950)
  ③コンポジション:八つの小品
    (Composition - 8 little pieces/1950)
  ④交叉点 IV(Interjection IV/1951)
  ⑤持続II(Duration II/1960)
アルヌ・ドフォルス(チェロ)
大宅裕(ピアノ)
 まるで一面に広がる草原に、風が模様をつくってゆくよう。じわり感じ入る、フェルドマンの音世界。
 ケージと並ぶニューヨーク楽派の大立者が残した後期の大作に、初期の出発点をしめす掌編をいくつか。画期的なクセナキス盤(MAECD1109)で注目されるドフォルス、堂々の2枚組!

 前衛芸術とひとくちに言っても本当にさまざまですが、このアルバムは極度に玄人好みな内容でありながら、まったく同時に何より素晴しい現代音楽へのイントロダクションにもなるであろう、周到なプログラム構成。
 さすがは現代系レーベルaeon、切り口が絶妙です。モートン・フェルドマンのチェロ作品集——フェルドマンといえば、前衛音楽畑ではケージ、ベリオ、ブーレーズ...といった名前と並ぶ超ビッグネームでありながら、コンサヴァティヴなクラシック演奏家が意外にとりあげない=音盤があるようでない作曲家。1950 年代にジョン・ケージと意気投合し、五線紙を全く使わない図形楽譜や、演奏してみるまでどんな音楽ができるかわからない“偶然性の音楽”といった、その後の前衛音楽の世界に浸透してゆくさまざまな作曲技法が彼の作品に端を喫しており、極度なまでに長い反復を伴う、とほうもなく演奏時間が長い作品が多いことでも有名ではありますが、本盤ではそうした長大系フェルドマンの名品「半音階平野の模様」がひとつと、彼がケージと出会って間もなく、フェルドマンがフェルドマンたりえてゆく最初の過程で残した小品がいくつか、チェロとピアノという多くのクラシック・ファンにとっても身近な(むしろ「多くの方が好きな」と言ってしまってもよいかもしれません)楽器で織り上げられてゆきます。
 2枚のCD のうち、「半音階平野の模様」は実にCD1枚にも収まりきらず、次のCD2まで浸食するほどの長さがある長大な作品(演奏時間90 分近く)で、さまざまな音型が一定期間つづく安定したリズムのなかで続いてゆくところが多く、現代畑で活躍するオランダ語圏ベルギーの天才奏者アルノ・ドフォルスが繰り出す音のテクスチュアの魅力、同じくベルギーを活躍の場にしている大宅裕のピアノの音色とあいまって、じっくり傾聴しつづけるだけでなく、音環境の演出素材として流しつづけても苦にならない、穏やかで心地よい音響体験の場にもなってくれる——そうした作品のあとに、フェルドマンが自己を確立しはじめた時期の小品(チェロの鳴らし方の工夫一覧のような演奏時間3 分あまりの「交叉点IV」なども、不思議体験の入口として絶妙かもしれません)がいくつかあるというあたりで、本盤は「聞き深めれば面白い、けれどなんとなく感じているだけでもOK」な、前衛音楽への糸口となってくれるアルバムに仕上がっているわけです。
 フェルドマンという大御所を知り、20 世紀の前衛音楽の基本的ルールを極上解釈でひとわたり味わえる企画。日本語解説とあわせ、ぜひご体感を。

ALPHA



Alpha186
(国内盤)
\2800+税
J.S.バッハ:フルート独奏のための作品全集
 〜真作ソナタ4編と無伴奏パルティータ〜

 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1714〜1788):
  1.フルートとチェンバロのためのソナタ ロ短調 BWV1030
  2. フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV1034
  3. フルートと通奏低音のためのソナタ ホ長調 BWV1035
  4. 無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV1035
  5.フルートとチェンバロのためのソナタ イ長調 BWV1032
フランソワ・ラザレヴィチ (フラウト・トラヴェルソ)
レ・ミュジシャン・ド・サン・ジュリアン(古楽器使用)
リュシル・ブーランジェ(vg)
ジャン・ロンドー(cmb)
トーマス・ダンフォード(リュート)
 ひさびさAlphaのバッハ、しかも同レーベルの常連...となれば、注目せずにはおれないこの企画。
 偽作ぬきの真作のみ、こだわりぬいた楽器選択、ふわり自然な解釈の妙、どこをとっても超一流。

 状況しだいでリュートも加えるなど、欧州最先端のセンスと底力を実感...演奏者自身の解説つき!2012 年の終わり頃にリリースされた『ミサ曲 ロ短調』のドレスデン初演版をイメージしてのアンサンブル・ピグマリオン『ミサ・ブレヴィス ロ短調』(Alpha188/他4曲とあわせてのBOX 仕様はAlpha818)から1年以上のブランクをへて、センス抜群のフランス発・伝説的小規模古楽系レーベルAlpha が、ひさびさに気合の入りまくったバッハ新録音をリリースしてくれました!

 フルートが主役になる独奏曲全集をCD1枚におさめ、自ら軽やかな筆致でわかりやすくも意外な視点の解説(全訳付)も執筆、その語り口とおなじくらい自然な説得力で作品の魅力を解き明かしてみせる演奏者は、稀代のバロック・フルート奏者にして各種バグパイプの名手としても知られるフランスの異才、フランソワ・ラザレヴィチ!
 今は引退したAlpha レーベル創設者のジャン=ポール・コンベ氏が、ある日ふらっとパリ5区のオフィスに現れた若者が、自己紹介もそこそこに、企画書ではなく民俗系のミュゼット(フランス中部のバグパイプの一種。
 宮廷ミュゼットとは別)をやおら取り出していきなり演奏、伝統舞曲を縦横無尽に吹きこなしたのを聴いて「これは彼の音楽を録音せねば」と即決した...とのこと。つまり民俗音楽のリズムが身体に沁み込んでいる名手なうえ(そういえばAlpha レーベルから刊行された名著『バッハを愉しむとき』でも、彼は舞曲についてのエッセイ執筆を担当していました)、ル・ポエム・アルモニークの主宰者ヴァンサン・デュメストルがいたことでも知られる意欲的古楽団体ラ・サンフォニー・デュ・マレへの参加をはじめ、フランス・バロック作品の演奏で宮廷ミュゼットが必要とされる場面で大いに活躍もみせてきた生粋の古楽奏者。
 トラヴェルソ(バロック時代のフルート)の吹き手としても、クリストフ・ルセのレ・タラン・リリーク、エマニュエル・アイム率いるコンセール・ダストレなどといった最前線のアンサンブルの腕利きメンバーとして活躍、パリ国立地方音楽院でミュゼットやトラヴェルソのクラスを任されるなど、古楽先進国フランスでの信望は絶大——同レーベルで名盤あまたのもうひとりの異才トラヴェルソ奏者アレクシス・コセンコやカフェ・ツィマーマンのディアーナ・バローニをさしおいて、Alpha 初のバッハ・フルート作品集が彼にゆだねられたのも不思議はなかったわけです。
 音の細かな機微にまでさりげなく気持ちが行き届いている歌い口が聴いていてとても心地よく、かつ聴き深めるほどに味わいを増す旨味たっぷりの演奏...チェンバロとの二重奏によるトリオ(鍵盤の右手・左手・フルート=計3パートを二人三役で弾く、バッハが得意とした室内楽スタイル)や通奏低音付ソナタでは、作曲年代をふまえた楽器選択や演奏編成(ケーテン時代の作品でのリュート参入、プロイセン宮廷でも愛されたガンバの使用…)もさることながら、共演者(同じく多忙な新世代名手たちです)との阿吽の呼吸も絶妙。
 無伴奏パルティータでの、ラザレヴィチの至芸があますところなく堪能できる吹奏にも息をのみます。古楽器演奏の最前線に息づく、ほっと心をほぐしてくれる自然派バッハ。注目です!

ARCANA



Mer-A375
(国内盤)
\2800+税
プラッティ:鍵盤楽器のための三つの協奏曲
+オーボエ・ソナタ、鍵盤ソナタ

ジョヴァンニ・ベネデット・プラッティ(1697〜1763):
 1.鍵盤楽器の独奏を伴う協奏曲 ハ短調
 2.オーボエと通奏低音のためのソナタ ハ短調*
 3. 鍵盤楽器の独奏を伴う協奏曲 ト長調
 4.鍵盤楽器のためのソナタ ハ短調op.4-2
 5. 鍵盤楽器の独奏を伴う協奏曲 イ長調
ルーカ・グリエルミ(フォルテピアノ)
使用楽器:バルトローメオ・クリストフォリ1726年モデル
コンチェルト・マドリガレスコ(古楽器使用)
リアーナ・モスカ(第1ヴァイオリン)
ウルリーケ・フィシャー(第2ヴァイオリン)
テレーザ・チェッカート(ヴィオラ)
サラ・ベンニーチ(チェロ)
パオロ・グラッツィ(オーボエ)*

 音楽史上最も古い時期の「ピアノのための協奏曲」—-その素顔は、ほとんど室内楽曲のようだった!
 ドイツの片隅で、バッハが独自の模索を続けていた頃、音楽先進国で着々とセンスを磨いていたプラッティの名曲群。当時の楽器と奏法で解き明かされる真相は、なんとあざやかで心地よい...!

 「ピアノ協奏曲」の最も古い例...と言われたら、誰の曲が思い浮かぶでしょう?モーツァルト?いえいえ、彼も若い頃はチェンバロばかり弾いていました。その大先輩ハイドン?否、ハイドンもまた若い頃はチェンバロで音楽を学んでいたうえ、初期の鍵盤協奏曲はみなオルガン向けだったとのこと。
 バッハの協奏曲はみな(ピアニストたちも弾くにせよ)もとはチェンバロのために書かれていたのだし、そうすると、1740 年代中盤以降にC.P.E.バッハやW.F.バッハなど、ピアノを知っていたバッハ門下の息子や弟子たちが書きはじめたのが最古の例ということになるのでしょうか...?
 あるいはそうかもしれません。しかしそれよりもさらに昔に、しかも最初からピアノという楽器を念頭に置いて鍵盤協奏曲を作曲していた人がいたとしたら...?

 そう、音楽史の本をひもとけば、ピアノという楽器は1700 年前後にフィレンツェの楽器職人バルトローメオ・クリストフォリが開発した...ということになっているとおり、もとの発案はイタリアでなされていたのです(その設計を応用して、実用的なピアノを最初につくりはじめたのは結局、ドイツ人たちだったわけですが...)。
 そしてその最初期の演奏家のひとりが、数多くの鍵盤ソナタを残したドイツ語圏暮らしのイタリア人、プラッティだったという次第.

数多くのソナタが楽譜出版されているところから、生前も人気作曲家だったようすがしのばれるこの手際よいロココの作曲家は、自らオーボエ奏者として活躍するかたわら、当時の音楽家の例にもれず数多くの楽器を弾きこなし、そのなかには発明されたばかりの「フォルテとピアノが弾き分けられるチェンバロ」、つまりクリストフォリのフォルテピアノも含まれていたとのこと。のちにヴュルツブルクの宮廷作曲家として大成功をおさめた彼が1740 年代初頭に楽譜出版した「鍵盤楽器の独奏(オブリガート)を伴う協奏曲」の数々はつまり、フォルテピアノを弾きこなすプラッティが作曲した音楽史上もっとも早い時期の「ピアノ協奏曲」だったということになるのです。
 実際これらの協奏曲の存在は古くから注目されていて、現代ピアノでもフェリシア・ブリュメンタールその他の演奏家が室内弦楽合奏団とともに録音もしていたりするのですが、その魅力はやはり、当時の楽器と奏法、演奏スタイルを徹底的に再現してこそ、はじめて見えてこようというもの——祖国イタリアをはじめとする欧州の古楽界で、きわめて多忙な活躍をみせる凄腕通奏低音奏者グリエルミが、気の置けない俊才たちと室内楽スタイルで録音したこれらの協奏曲の響きは、音量の小さなクリストフォリ・モデルの楽器(ピアノというより、チェンバロに近い煌びやかな美音が特徴的です)から繰り出される音をきわめて雄弁に歌わせる、ロココ=疾風怒濤期ならではのセンスあふれる音作りがたまりません!

 解説充実全訳付、ひとつのジャンルの始まりを記念する注目作を、絶妙の名演で!
 オーボエ奏者でもあった作曲家の姿を偲ばせるソナタでも、Ens.ゼフィーロの名手グラッツィが美音を聴かせます。




プラッティ、結構印象的なアルバムがあるんです。

OEHMS
OC-794
\2000→\1890
ジョヴァンニ・ベネデット・プラッティ:通奏低音とチェロのための6 つのソナタ
 1-4.第1 ソナタ/5-8.第2 ソナタ/9-12.第3 ソナタ/
 13-16.第4 ソナタ/17-20.第5 ソナタ/21-24.第6 ソナタ
セバスチャン・ヘス(バロック・チェロ)/
アクセル・ヴォルフ(リュート&テオルボ)
 1697 年生まれの作曲家、プラッティ(1697-1763)はイタリアで歌とオーボエ、ヴァイオリンを学びました。
 当時発明されたばかりのフォルテピアノも習得し、この楽器のためにソナタを作曲しています。その後、25 歳の時にビュルツブルクの大司教ヨハン・フィリップ・シェーンボルンに招かれ、バンベルクとビュルツブルクを治めていたビショップ王子の宮廷楽師となります。ここで、8 人の子どもを持つソプラノ歌手、テレジア・ラングプリュックナーと結婚し、生涯をヴュルツブルクで過ごしました。このソナタ集は1725 年に作曲されたと見られ、シェーンボルンが編纂した60 作にものぼるリストの巻頭に置かれた「12のソナタ」の中の6 つの作品です。シンプルなスコアから導き出された見事な通奏低音と、美しいチェロの絡みが絶妙です。希少作品の発見に力を注ぐヘスとヴォルフによる演奏で。

 録音 2010 年9 月14-16 日ニュルンベルク、マイスタージンガーホール(小ホール)Recording Producer: Thilo Grahmann, Balance Engineer: Carsten Vollmer, Technical Engineer: Markus Spatz, Editing: Thomas Gotz

 このアルバム、とてもゆったりした音楽でいっぺんで好きになってしまいました。
 プラッティは1697年にヴェネツィアで生まれたイタリアの作曲家。その後いろいろあってヴュルツブルグで生涯を過ごしたらしいのですが、ヴュルツブルグは今のドイツのバイエルンなので、プラッティはイタリアからドイツに行ったんですね。
 事典には「初期古典派に影響を与えた」と書いてありますし、ある人は「プラッティこそが新時代のソナタ形式の先駆者」とも語ってます。何らかの形でドイツ・オーストリアの古典派に影響を与えたということなのでしょう。

 さて、このアルバム、曲はチェロ・ソナタです。
 でも「チェロとピアノ」じゃなくて、チェロと、「リュート&テオルボ」。
 だからこんなゆったりした音楽ができたんじゃないかと思います。ピアノだともっとチャッチャカチャッチャカしますよね。全体的にのんびりしてるんです。ヴュルツブルクという街がそういう土地柄だったんでしょうか。

 ちょっと興味があったのでそのヴュルツブルクという街についても調べたのですが・・・、びっくりしました。

 ヴュルツブルク・・・1630年代にはヴュルツブルクは魔女狩りの中心地の一つとなった。1626年から1630年までがその最盛期で、この間に司教区全体で900人以上、ヴュルツブルク市だけでも200人の「魔女」や「魔法使い」が火刑にされた。

 だそうです・・・。
 その100年後にこんなのんびりした音楽が生まれたということなのですか?なんか急に怖くなってきました。
 でもひょっとするとみんな昔のことを忘れようとしていたのかもしれません。だからこんなのんびりした音楽が宮廷では受け入れられたのかも・・・

 と思いたかったのですが、この曲が作られた当時はまだ魔女狩り行われていたみたいです。
 市井で火あぶりが行われていたとき、宮殿ではこんな音楽を聴いていたということですか?

 ・・・このギャップはやっぱり怖いです。(店主短文より)
  

このアルバムも結構売れたんです。
プラッティの協奏曲ばかりを集めたアルバムは珍しいんです。

CARO MITIS
CM005-2006
(SACD Hybrid)
(国内盤・日本語解説書つき)
\3465
ジョヴァンニ・ベネデット・プラッティ(1697〜1763):協奏曲集
 1. オーボエ協奏曲 ト短調
 2. チェンバロ協奏曲 ニ長調
 3. スターバト・マーテル
 4. ヴァイオリン協奏曲 イ長調
 5. チェロ協奏曲 ト短調
 6. ヴァイオリン、チェロと通奏低音のためのソナタ 変ロ長調
アルフレード・ベルナルディーニ(Ob)
プラトゥム・インテグルム・オーケストラ(古楽器使用)
CM005-2006
(SACD Hybrid)
輸入盤
¥2900→¥2290
 プラッティの作品を扱ったアルバムそのものは結構あるのだが、たいていはトリオないし通奏低音つきソロ・ソナタか鍵盤ソナタ集など、ごく小編成の作品ばかり。そこへヴァイオリン協奏曲やチェロ協奏曲、ましてチェンバロ協奏曲まで聴けるとは嬉しい限り。しかもオーボエは名手ベルナルディーニ!プラトゥム・インテグルムのトップ奏者たちも、つい先頃カフェ・ツィマーマンの面子がそうだったように、どんどんソリストとして腕を磨きつつあるようだ。
 ヴィヴァルディやテレマンなどの協奏曲がお好みの方、タルティーニ〜ボッケリーニ初期あたりの前古典派/ロココ系サウンドがお好みのファンはもちろん注目のアルバム。



 


Mer-A373
(国内盤)
\2800+税
エンリーコ・ガッティ/アンサンブル・アウローラ新譜!!
 パレストリーナから、モーツァルトへ
  〜弦楽四重奏でたどる対位法の源流、
     音楽史上の「巨人たちの肩に乗る」〜

 パレストリーナ(1525〜1594):
  ①キリエ・エレイソン
   (ミサ「見よ、この偉大なる祭司を」/1554 刊)
  ②曙に、やさしい春のそよ風が
   (ペトラルカの詩による/1555 刊)
 フレスコバルディ(1583〜1643):
  ③『音楽の花束』より2編
   〔日曜のミサの聖体奉挙にさいして弾く半音階的トッカータ、
   「使徒たちのミサ曲」のクリステ・エレイソンII/1635 刊〕
 ラッスス(1532〜1594):
  ④肌寒くも暗い夜(デュ・ベレの詩による/1576刊)
 ダーリオ・カステッロ(生歿年不詳、17 世紀前半に活躍):
  ⑤四つの弦楽器による第15 ソナタ(1629 刊)
 ヨハン・ローゼンミュラー(1617〜1684):
  ⑥4パートによる第7ソナタ(1682 刊)
 アルカンジェロ・コレッリ(1653〜1713):
  ⑦4声のフーガ Anh.15
  (コレッリの単一主題による真のフーガ/
   F.M.ヴェラチーニ(1690〜1768)『音楽実践の勝利』に掲載 )
 J.S.バッハ(1685〜1750):
  ⑧コントラプンクトゥス4
   (『フーガの技法』/1745〜49 頃作曲)
 モーツァルト(1756〜1791)
  ⑨アダージョとフーガ ハ短調KV.546(1788 作曲)
  ⑩弦楽四重奏曲第14 番 ト長調「春」KV387(1782 作曲)
アンサンブル・アウローラ(古楽器使用)
エンリーコ・ガッティ(vn1)
ロセッラ・クローチェ(vn2)
セバスティアーノ・アイロルディ(va)
ユディト・マリア・ブロムスターベルク(vc)
 イタリア屈指のバロック弦奏者ガッティ、絶美の端正さのなかに、さりげなく挑発を潜ませて...

 モーツァルトの『春の四重奏曲』に流れ込む作曲法の源流を、ルネサンスにまで遡ってゆくのは欧州屈指のガット弦奏者たちによる弦楽四重奏団...
 通奏低音ぬきに、なんという豊かな世界!

 昨年のコレッリ記念年には、これまで知られていなかったコレッリの「アッシジのソナタ集」という驚くべきプログラムで古楽ファンを騒然とさせ、Glossa からの新譜や旧譜、Arcana 盤などにもいまだ熱いまなざしが注がれつづけるイタリアのバロック・ヴァイオリン奏者エンリーコ・ガッティ。
 その挑戦の背景にはいつも、精密な古楽演奏探求の精神が息づいています。今回の新たな企画はなんと、モーツァルトがハイドンに捧げた傑作弦楽四重奏曲のひとつ「春」をハイライトにしつつ、この古典派屈指の名曲がいかにルネサンス以来の「対位法」という芸術に根ざしていたか、あらためて辿ってゆこうとするもの——いや、企画の趣旨はことほどさように知的ながら、弾き手がエンリーコ・ガッティとその信頼する古楽仲間たちであるというだけで、音楽はなんとさりげなく美しく、心に沁み入ってくるのでしょう...!
 もはや「古楽器奏者の妙な気負い」などという色眼鏡で見る人もいようはずもないでしょうが、この自然な音作りがあればこそ、彼らの企図は明らかに「音」を通じてすんなり伝わってくるのかもしれません。そう、「対位法」とはすなわち、すべて独立したメロディの流れを、いかに響きに矛盾をきたさないようにしながら同時進行させてゆくか...の技芸。
 ルネサンスのミサ曲の根幹がそこにあったところ、17 世紀のバロック期にもその考え方はさまざまな音楽に息づいていて、トリオ・ソナタの大成者コレッリも、もちろんフーガの達人バッハも、この技法をそれぞれに極めていたのです。大のバッハ対位法マニアだったファン・スヴィーテン男爵からの影響で、この種の音楽の魅力に開眼したモーツァルトによって書かれたのが、まさしく「春」の四重奏曲。精緻な音の綾を織り上げてゆくガット弦の響きのしなやかさ——パレストリーナやラッススの声楽曲も、チェンバロなど通奏低音楽器ぬきのガット四重奏で聴くと、なんと弦楽器とは人の声に近いのだろう...と不思議な感慨をおぼえるオーガニック&静謐な絶美の響きに。
 前半でそうしたルネサンス曲を聴いてきた耳がモーツァルト「春」の終楽章にたどりつくとき、ある種の懐かしさとともに奏者たちの企図がよく伝わることでしょう。
 企画の趣旨を解き明かす日本語解説とともに、ガッティの冒険を肌で体感しながら、至芸の深さに浸るりたい注目の1枚です!


こんなアルバムもありました

SOLO MUSICA
SM 126
\2500→¥2290
弦楽四重奏曲の誕生
 A・スカルラッティ:4声のためのソナタ ニ短調
 サンマルティーニ:弦楽のためのシンフォニア ト長調
 モーツァルト:弦楽四重奏曲第1番ト長調K.80
 ボッケリーニ:弦楽四重奏曲ハ短調Op.2-1
 ハイドン:弦楽四重奏曲第22番ニ短調Op.9-4
カザル弦楽四重奏団
〔ダリア・ザッパ(ヴァイオリン)、
 レイチェル・シュペート(ヴァイオリン)、
 マルクス・フレック(ヴィオラ)、
 アンドレアス・フレック(チェロ)〕
 カザル弦楽四重奏団は1995年にドイツ系スイス人の弦楽器奏者たちで結成されたスイスのアンサンブル。この録音では、1650年頃にオーストリアの名工ヤコブス・シュタイナーによって製作されたピリオド楽器を使用している。

 そのカザル四重奏団のニュー・アルバム。
 内容はA・スカルラッティやサンマルティーニまで歴史をさかのぼり、"弦楽四重奏曲の誕生"を探求するというコンセプト。
 前々から店主が言っているとおり、今、時代が変わろうとしている。
 ありきたりのつまらない繰り返し名曲演奏が飽きられ、そして一方で衝撃的だったはずの前衛音楽になんの刺激も感じない時代が来た。しかし逆にバロックから古典派にかけての「暗黒時代」の作品がさかんに掘り起こされ、そのなかに非常に衝撃的な音楽があったりする。
 バロック後期から古典派への過渡期、われわれがよく知るバッハやモーツァルトやハイドン以外に、どんなにも凄まじい才能が存在していたか・・・それを目の当たりする機会が最近異常に増えているのである。

 そんなときに、まさにそれを鋭敏に察知したアルバムが登場した。今回のカザルSQによるアルバム「弦楽四重奏曲の誕生」。
 ここでまず最初にカザルSQが取り上げたのはアレッサンドロ・スカルラッティの弦楽四重奏曲。実はこの曲、史上初めての弦楽四重奏曲として音楽史では極めて特別な席を与えられている作品。ご存知と思うがアレッサンドロは音楽史の教科書では必ずといっていいほど「バロック・オペラの大巨匠」として大きく登場する。しかしそのオペラが聴かれることは現在ほとんどない。というかまったくない。そんな、今は完全に忘れられたバロック・オペラの大巨匠の知る人ぞ知る傑作でもって、まずこのアルバムは開始されるのである。

 そして次に登場するのがサンマルティーニ。実はこのサンマルティーニも店主が虎視眈々とその復活を狙っている古典派最初期の大家。今では「バロックから古典派への橋渡しとしてとても重要な位置にありました」的な扱いしかされていないサンマルティーニ、正直これまであまりCDもなかった。・・・しかし絶対にもっとすごい音楽を書いていたはず。我々が思っているより絶対にもっと偉大な人だったはず。・・・話は飛ぶが、J・S・バッハの息子ヨハン・クリスティアン・バッハは、1760年から1762年までミラノ大聖堂でオルガニストを務めた。そしてその当時サンマルティーニはミラノ大聖堂の楽長だった。当然ながらヨハン・クリスティアン・バッハはサンマルティーニから教えを受けた。その後ヨハン・クリスティアン・バッハはロンドンで大活躍し、そこで少年モーツァルトに出会う。生涯深い尊敬と愛情で結ばれたヨハン・クリスティアン・バッハとモーツァルト。そこでヨハン・クリスティアン・バッハが、少年モーツァルトに先日までいたミラノの話、そしてサンマルティーニの話をしていないわけがない。実はその数年後の1770年にミラノを訪れたモーツァルトはサンマルティーニに強い影響を受け、後年に至るまでその研究を続けたというが、その話も、ヨハン・クリスティアン・バッハからすでにサンマルティーニの音楽の素晴らしさ、重要性を聞かされていたと思うと納得できる。いずれにせよモーツァルトにサンマルティーニが大きな影響を与えていることは間違いないし、なによりモーツァルトとサンマルティーニの両者がともに持つ豪奢で天国的な感覚がそれを裏付ける。同じ古典派でも、ハイドンやベートーヴェンには、サンマルティーニのこの育ちのよいきらびやかさはない。
 ・・・で、店主がいろいろ探し回ったサンマルティーニの作品の中でとても魅力的で素敵だったのが、弦楽のためのシンフォニア。そうしたらやっぱりカザルSQ、この曲をアルバムで取り上げてきたのである。
 もうこの時点でこのアルバムには十分満足。

 ・・・しかしこのアルバムまだまだあなたを解放させてくれない。そのあとに続くのがモーツァルト、ボッケリーニ、ハイドン。
 もうやめてくれ?いやいや、まだまだ。
 続くモーツァルトの弦楽四重奏曲は、栄えある「第1番」。当時のモーツァルトは今の日本ならさしづめ中学2年生。でもモーツァルトの生涯で最も栄光に彩られていた頃。アレグリのミゼレーレや大勲章やらの華々しいエピソードに彩られた輝かしい時期。この曲こそ、今お話したサンマルティーニの作品をミラノで聴いて強く影響されて書いたと言われている作品。そしてこの曲については、「1770年3月15日夜の7時にローディ(イタリアの田舎町)で書いた」という普通ではありえない記述まで残っていて、さらにモーツァルトの人生を変えた地獄のマンハイム・パリ旅行でマンハイムを経つときに、わざわざこの曲を知人に写譜させている。つまりこの第1番、若きモーツァルトにとってとってもお気に入りの作品だったのである!・・・さらに第4楽章だけは、おそらくローディではなくザルツブルグで追加で書かれたのではないかとされるのだが、ある人はこの第4楽章こそ、モーツァルトが自分自身のために書いた最初の作品だろうと言っている。この弦楽四重奏曲、あらゆる面で実は非常に重要な作品なのである。

 そしてボッケリーニ。これもまた何度もこれまでに話しているが、店主が復活を望む作曲家の中心的存在。我々が考える古典派のイメージを覆す超時空的作曲家。ボッケリーニはなぜか古典派の地味な作曲家扱いになってしまっているが、冗談じゃない。ドイツの初期のロマン派よりもはるかにロマンティックでユニークで洗練されている。マドリードの王宮で作曲を続けたこともあり、その個性は誰にも邪魔されることなくスクスクと育っていったのである。しかしあまりにもユニークすぎ、ドイツを中心に進んでいくことになる純音楽の世界からは「変なやつ」扱いで取り残されてしまった。・・・しかし、ここで聴く弦楽四重奏曲ハ短調の優美さ、華麗さ、洒脱さ。まさに古典派の主流から外れているからこそ味わえる粋な感性。この終楽章、王宮の隅っこの寝室での秘め事のようなこの作品を、ボッケリーニ以外の誰が書けるか?しかも驚くべきはこの作品はボッケリーニがまだ18歳、つまりまだスペインの王宮で働くずっとずっと前、まだ音楽家としてヨーロッパを楽旅していた頃の作品なのである。それがまたボッケリーニのたぐいまれな個性を物語る。それにしてもカザルSQがモーツァルトとハイドンの間にこの作品を持ってきたのもまったく「粋」としかいいようがない。

 さあ、最後が・・・ハイドン。前人未到の巨人。昨年のハイドン・イヤーはまったく盛り上がらず終わったが、しかし意欲的なファンはハイドンの膨大な作品の中にどれほど魅力的な鉱脈が眠っているか気づいたことだろう。このハイドンの弦楽四重奏曲第22番も実は隠れた傑作。この作品は後年モーツァルトに強い影響を与えた作品。ハイドンは晩成型の作曲家といわれるが、30代、まだ人生の序盤でこれだけの傑作を書いていたとは。作品9は6曲で構成されていて、中にはあまりおもしろくないものもあるのだが、この作品9-4はハイドンの前半生を代表する傑作といってもいい。第2楽章メヌエットも素敵だし、とくに終楽章の充実ぶりは「ベートーヴェンをもしのぐ」という声が上がるのも当然であろう。

 さあ、この充実の1枚を引っさげて登場したカザルSQ。彼らの演奏だからこそ、これまで埋もれそうになっていた作品が今の時代に一気に息を吹き返すことになるだろう。


ARCO DIVA



UP0117
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
フィビヒ、スーク、フェルステル
 チェコ近代、美しきミサ曲3編

 ヨセフ・スーク(1874〜1935):
  ①ミサ曲 変ロ長調「クシェチョヴィツェのミサ」(1888)
 ヨセフ・ボフスラフ・フェルステル(1859〜1951):
  ②グラゴル・ミサ 作品123(1923)*
 ズデニェク・フィビフ(1850〜1900):
  ③ミサ・ブレヴィス 作品21(1885)*
ヤクプ・ズィハ、
イジー・ペトルドリーク*指揮
プラハ・カレル大学合唱団
プラハ青少年器楽合奏団
マルタ・ファドリェヴィチョヴァー(S)
ヤナ・トゥコヴァー(A)
オンジェイ・ソハ(T)
ヤン・モラーヴェク(B)
ヴラディミール・イェリーネク、
ペトル・チェフ*(org)
 ドヴォルザークやヤナーチェクだけじゃなかった——馥郁たるロマン派情緒もあれば神秘的な近代ならではの魅力もあり、オーケストラ伴奏の美しさもあれば、しなやかなオルガン伴奏の素朴さもまた魅力。チェコ近代随一の巨匠作曲家3人、これは聴き逃せない。

 冷戦時代にSupraphon というチェコスロヴァキア随一の充実レコード・レーベルがあったおかげで、ドヴォルザークやスメタナ、ヤナーチェク、マルティヌーら4巨頭以外でも、チェコのすぐれた作曲家たちの名は思いのほか広く認知されているように思われます。
 偉大なヴァイオリン奏者の祖先にしてドヴォルザークの娘婿でもあった巨匠スーク、ワーグナー熱の高まりのさなか19 世紀後半のチェコ楽壇を支えたフィビフ、そして新世紀にかけ、ヤナーチェクと同時代を生きながら彼よりもはるかに穏当な、しかし確実に個性のある作風をはぐくんでいった多作家フェルステル...とはいえ、東西冷戦時代の“東側”では宗教というものがそれほど大事にされなかったこともあり、オルガン音楽や教会合唱曲などは録音があるようでない、という状態。
 しかし今ではチェコも豊かな音楽遺産の見直しは進んでおり、古楽演奏までさかんになってきたくらい「知られざる遺産」に対するまなざしがひときわ熱くなっているところ、プラハに拠点をおくArco Diva レーベルがきわめて貴重かつ注目度の高い録音を世に送り出してくれました。
 いま名をあげた3人の「4巨頭の影に隠れがちな」名匠たちが残した、さまざまなミサ曲の数々...べ合唱音楽の歴史の上でいえば、ちょうどリスト晩年からラインベルガー後期あたりと重なってくるフィビフの「ミサ・ブレヴィス」、これとほぼ同時期ながら活躍期全体はずっと遅く、最初期の作例として注目に値するスークの意欲作もさることながら、あのヤナーチェクの傑作『グラゴル・ミサ』より4年も早く仕上がり、オルガン伴奏だけのシンプルな演奏編成で、旋法的な音使いも含め神秘的で清らかな、えもいわれぬ響きがたまらない傑作を残していたフェルステルには、あらためて驚かされずにおれませんべ解説全訳添付、訳詞付でのお届けになるのはもちろん、プラスチックケースで保守的なデザインではありつつ美麗なパッケージも好感度が大きいところ。
 チェコ音楽もまたドヴォルザークの作品を中心に日本では根強いファンの多い分野でありつつ、オーケストラ伴奏のしっかりした作品(スーク)から清らかなオルガン伴奏(フェルステル、フィビフ)まで、さまざまな響きのありようを深々と味あわせてくれるチェコの実力派たちにも感服です。

CYPRES


MCYP1667
(国内盤)
\2800+税
shumann's fantasy
 ローベルト・シューマン(1810〜1856):
   ①アダージョとアレグロ op.70(va, p)
   ②幻想小品集 Op.73(cl, p)
   ③三つのロマンツェ Op.94(cl, p)
   ④おとぎの絵本 Op.113(va, p)
   ⑤おとぎの物語 Op.132(cl, va, p)
アンサンブル・コントラスト
アルノー・トレット(va)
ジャン=リュク・ヴォタノ(cl)
ジョアン・ファルジョ(p)
 ベルギー随一の現代音楽集団が、シューマンの世界をあざやかに呈示...それも、中音域で!
 ヴィオラとクラリネットのしなやかさ、あの意外なブルッフ盤で、えもいわれぬ静かな興奮を誘った3人は、やはりドイツ・ロマン派に抜群の適性があった...すっきり、じわり、深く堪能したい1枚。

 ひとつの国のなかにフランス語圏とオランダ語圏が隣りあい(ちょっとドイツ語圏もあり)、周囲をオランダやフランスや英国やドイツや...と大国に囲まれたヨーロッパの小国、ベルギー。
 この国のロマン派を代表する大家セザール・フランクが、隣国でフランス近代音楽の発展を支えつつも、若い頃にはドイツ語かぶれで、ドイツ語圏の最先端の音楽にばかり目を向けていた...など、この国の芸術家たちの一筋縄ではいかない多層的な文化感覚をよくあらわすエピソードだと思います。チョコレートや上面発酵ビールなど、美食とも深くかかわりがありつつ、アントウェルペンのデザイナーたちの活躍をはじめ、モードの発信地としても世界に知られているのは、手先の器用なレース職人や宝石職人が数多く暮らしてきた中世以来の伝統でもあり——そう、ベルギーの人々は独特の「中庸・慎ましさ」をもって綺麗に身づくろいをしながら、その心には確かな文化背景に裏打ちされた、またとない美への感覚を宿し、めいめいが自分だけの揺るぎない審美眼を養ってきたのです。そういう国だからこそ、すぐれたソリストたちが何ら臆することなく、同等以上の腕前をもつ音楽仲間たちとの室内楽に多大な時間を喜んで裂く、ということがしばしばおこりやすいようで…
 本盤に集うアンサンブル・コントラストもまさにそうした名手集団で、それぞれがソロ録音も作っていながら、アンサンブルでも現代音楽初演や数々のレコーディングなどで実績をあげている異才グループ。
 ブリュッセルのCypres レーベルからも、彼らは2010 年にリエージュ・フィルとの共演で素晴しいブルッフ作品集(MCYP7611)を制作、このアルバムは決して派手とはいえない選曲にもかかわらず、日本でも局地的にセールスが途絶えない(つまり、確かな耳をもったユーザー様からの支持が厚い)1枚となりましたし、Zig-Zag Territoires でのフォーレ四重奏曲&『よき唄(やさしき歌)』室内楽版(ZZT110302)は『レコード芸術』準特選に輝くなど確かな評価を得ています。
 そのようにフランスものにもドイツものにも適性を示してやまない彼らベルギーの才人たちが、シューマンの室内楽世界を心ゆくまで探求したら...?
 ブルッフ作品集で見せたドイツ・ロマン派音楽への限りない愛そのままに、フランス語圏の俊才たちがしばしばそうあるような、シューマンの音楽への独特な適性も随所に感じさせる、すっきりとしていながら味わい深い余韻を残す演奏解釈——シューマン自身がヴィオラを多用した後期の作品群もさることながら、本来的にはホルンかチェロのために書かれていた『アダージョとアレグロ』をしなやかに弾きこなすアルノー・トレットの芸達者ぶりにも惚れ惚れ、雄弁なコンチェルト演奏もできるJ-L.ヴォタノがほのかな郷愁をたたえた美音で綴るクラリネット曲も、何度も聴き確かめたくなる味わい。
 ジャケットも美しい、磨き抜かれた1枚なのです。

FUGA LIBERA



MFUG718
(国内盤)
\2800+税
ダウランド:
 ラクリメ、または七つの涙
  およびその他のヴィオール合奏作品集(1604・全)

 ジョン・ダウランド(1563〜1626):
  『ラクリメ、または七つの情熱あふふるパヴァーンで表された七つの涙』
 ①昔日の涙 ②昔日の涙、新たに
 ③ため息まじりの涙 ④悲しみの涙
 ⑤むりやりな涙 ⑥恋する者の涙 ⑦まことの涙
 ⑧ニコラス・グリフィス氏のガリアード
 ⑨ジョン・ソーチ卿のガリアード
 ⑩デンマーク王のガリアード(ロバート・ダウランド作曲)
 ⑪エマンド
 ⑬トーマス・カリアーのガリアードを、2部の高音域パートで
 ⑭ジョージ・ホワイトッド氏のアルマンド
 ⑮バクトン氏のガリアード ⑯ヘンリー・アンプトン卿の葬儀
 ⑰パイパー大尉のガリアード
 ⑱ヘンリー・ノエル氏のガリアード
 ⑲ジャイルズ・ハビー氏のガリアード
 ⑳ジョン・ラングトンのパヴァーン
 (21)ダウランドはつねに悲しむ者
ロミナ・リシュカ(ディスカント(高音域)・ガンバ&音楽監督)
ハトホル・コンソート(古楽器使用)
 古楽大国ベルギーの演奏家たちは、英国ものにも独特の適性あり——ダウランドが残した異色の弦楽合奏曲「ラクリメ」久々のうつくしき名演、ガンバ合奏の至芸にしっとり心が沁みいるひととき。
 これぞまさに“昔日の涙、新たに”。エリザベス朝時代の憂鬱の美質、しなやかに、深々と…!

 ルネサンス〜バロック期に愛された弦楽器、ヴィオラ・ダ・ガンバ——イタリアで生まれながら英国やドイツ、フランスなどで大きく発展をとげ、とくに後年は「英国のヴィオラ」などと呼ばれたほど、この楽器は英国紳士たちに深く愛されていました。
 フランスにはこの楽器を独奏楽器に使った生楽器一本勝負系の名曲、ないし2面のヴィオラ・ダ・ガンバでの二重奏曲が数多く残されていますが、16 世紀のエリザベス朝時代、英国で特に愛されていたのが、高音・中音・低音と3種のガンバを集めて構成されたヴィオラ・ダ・ガンバ合奏。
 貴族たるもの楽器のひとつも弾きこなせるのが社交上のたしなみ、数人の紳士たちが集まって語らう折など、ふと楽器を手に卓を囲んで合奏などしながら、交流を深めるのが楽しみのひとつだったようです。そして当時の英国では、ただでさえ英国国教会とカトリックの対立、諸外国との軋轢など社会全体が落ち着かなかったところ、メランコリー(憂鬱)を気取るのが紳士たちのあいだでも流行していたとのこと——ものうげな悩みを美しい詩句に託し、リュートひとつの伴奏であざやかに歌いあげたジョン・ダウランドは、そうした時代の寵児でありながら、後年は隣国デンマークの宮廷に仕えて国を想うという、彼なりの切ない人生を過ごしていたのでした。
 ガンバ(英語では「ヴァイオル」)の合奏のために編まれた、冒頭に七つの同じ舞曲形式によるゆったりした曲を集めての曲集『ラクリメ、または(中略)七つの涙』は、そうした憂鬱の音楽家の至芸の頂点をもって、エリザベス1世の宮廷に返り咲こうとしたダウランド晩年の意欲作——結局その望みは果たせなかったのですが、仕上がった音楽は今なお傑作の誉れ高いガンバ合奏の名品のひとつとして愛されています。
 リュート伴奏歌曲やリュート独奏曲としても人気だった(…いまも人気ですね!)「流れよ、わが涙」に基づくしっとり遅い舞曲が、さまざまな「涙」もありようを織り上げていったあと、思い出したように一連のガリアード(テンポのやや速い舞曲)が続く構成を、ここでは古楽大国ベルギーの最前線で多忙な活躍を続ける名手たちが集うハトホル・コンソートがあでやかに演奏(「ハトホル」とはエジプトの女神で、死後の世界に魂を導く音楽と踊りの神…秘教的な雰囲気!)。
 20 世紀以来W.クイケンやPh.ピエルロなどのガンバの巨匠を生んできだこの国の俊才たちだけに、彼らと同じく「となりの」英国ものの解釈には独特の親和性を感じさせてやみません(日本の古楽愛好家の方々にも(私と同じく)こういう深みを感じさせながら親しみやすい響きが好きな方は多いのでは)。解説充実全訳付、久々の新録音で聴くルネサンスの傑作。
 


MFUG717
(国内盤・4枚組)
\5500+税
BOX化!限定特価
オーボエ・弦楽・古楽器演奏
 バッハ アルビノーニ ファッシュ
 〜古楽器集団イル・フォンダメント 結成25周年記念BOX〜

《CD-1/2》
 ◆ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750)
 『管弦楽組曲』の初期稿復元版
  ①序曲 ハ長調 BWV1066a(管弦楽組曲 第1番)
  ②同 イ短調 BWV1067a(第2番)
  ③同 ニ長調 BWV1068a(第3番)
  ④同 ニ長調 BWV1069a(管弦楽組曲 第4番)
《CD-3》
 ◆トンマーゾ・アルビノーニ(1683〜1750)
  ①『5声の協奏曲集 作品7』より 協奏曲第3・6・9・12 番
  ②『協奏曲集 作品9』より 協奏曲第2・5・8・11 番
《CD-4》
 ◆ヨハン・フリードリヒ・ファッシュ(1688〜1758)
  ①8声の序曲(組曲)ト短調FWV K:g2
  ②7声の序曲(組曲)ニ短調 FWV K:d4
  ③8声の序曲(組曲)ト長調 FWV K:G15
パウル・ドンブレヒト(バロック・オーボエ)
Ens.イル・フォンダメント(古楽器使用)
 バロック・オーボエの大御所パウル・ドンブレヒト、そのしなやかな吹奏は、多忙な音楽仲間とのアンサンブルあればこそ——
 Passacaille レーベルにも名盤あまたの古楽集団イル・フォンダメントとFuga Libera レーベルでリリースしてきた音源、待望のBOX化!限定特価、お早めに入手を...!

 古い作品は、作曲家が知っていた当時の楽器と奏法で——隣国オランダとともに、古楽器演奏という行為にいちはやく開眼した演奏家たちが多かったベルギーは、クイケン兄弟やヘレヴェッヘ、ファン・インマゼール...といった大御所たちが世界的な古楽器集団を率い、そのメンバーたる演奏家たちがそれぞれに小規模なグループでも活躍をみせている、もはや古楽器演奏が最も身近に息づいている国のひとつといえます。
 そこで活躍する室内合奏団規模の古楽器バンドのなかでも、とりわけ活発な録音活動を展開してきたのが、パウル・ドンブレヒト率いる俊才集団イル・フォンダメント!主宰者ドンブレヒトはかつてSEON レーベルでグスタフ・レオンハルト指揮により録音された『ブランデンブルク協奏曲』全曲録音や、ブリュッヘンによる画期的なテレマン・ソナタ集などで彼ら大御所たちと対等に立ちまわるバロック・オーボエ奏者として存在感をあらわし、その後もACCENT レーベルで貴重なバロック・オーボエ独奏曲集を録音するなど、CD 時代初期前後から古楽音盤をあさりつづけてきた人にとっては神のような存在のひとり——
 リコーダーのように素朴なつくりのバロック・オーボエから驚くほど多彩な音色や表現を引き出してみせるこの名手が、ベルギー随一の多忙な演奏家たちと結成したイル・フォンダメントは、1990 年代から数多くのすぐれた録音物を制作、それらの多くはPassacaille レーベルで順次日本発売もなされていますが、これは彼らの結成25 周年記念盤として、21 世紀以降にFuga Libera レーベルで刻まれてきた3 つの傑作盤をお値ごろのBOX として集めた嬉しい企画!国内初出時に『レコード芸術』で特選に輝いたファッシュ作品集や準特選を勝ち取ったアルビノーニ(バロック・オーボエでの体系的な録音は貴重!)など、ハイ・バロックならではの耳なじみの良い音作りをする名匠たちの傑作群を心ゆくまで楽しめるのも嬉しければ、あのバッハの『管弦楽組曲』の、金管・打楽器ぬきの初期稿を復元するという異例の試み(フルートの活躍で知られる第2組曲がヴァイオリン独奏で奏でられたり...)にも心そそられるところ(こちらも単独発売盤(MFUG580)が安定して売れ続けています)。
 全点初出時の日本語解説付でお届けいたします。この種のBOX は突然プレス切れになって入手不可になるのが意外に早いことも多いので、どうぞお早めにお求めを・・・
 


MFUG713
(国内盤)
\2800+税
パウル・ヒンデミット(1895〜1963):チェロのための作品集
 ①かえるの求婚 〜英国民謡による変奏曲(1941)
 ②無伴奏チェロ・ソナタ op.25-3(1922)
 ③チェロとピアノのための三つの小品op.8(1917)
 ④チェロとピアノのためのソナタop.11-3(1918)
ユディト・エルメルト(チェロ)
ダーン・ファンドヴァール(ピアノ)
 欧州の縮図・文化大国ベルギーでは、多面的かつ豊かな音楽活動がくりひろげられている...!
 スタイリッシュに味わい深く、無伴奏とデュオ作品とでチェロの魅力を掘り下げたヒンデミットの名品群。
 ドイツ出身のエルメルト、現代音楽畑の超・実力派ピアニストと織り上げた充実名演!

 ドイツ、フランス、オランダ、英国など諸大国のあいだに位置する小国ベルギーは、ハプスブルク家支配下で「南ネーデルラント」と呼ばれていた時代から文化先進地として知られ、すぐれた工芸品や毛織物を産するだけでなく、周辺の大国からいろいろな事情のもと移り住んできた文化人たちが、さまざまな芸術分野を盛り上げてきた場所——それは、欧州連合の拠点がブリュッセルに置かれている現代においても変わりません。
 同国随一の気鋭小規模レーベルFuga Libera がいま新たに世に送り出そうとするユディト・エルメルトも、出身はベルギーではなくドイツ。そのデュオ・パートナーとして本盤で存在感をつよくアピールしているダーン・ファンドヴァールが、知る人ぞ知るアメリカ系現代音楽のスペシャリストであり、アイヴズ、ケージ、ジェフスキ...といった異才たちの名曲を弾きこなすかたわら、メシアン、ソラブジ、バーロウといった20 世紀最大級の巨匠たちが折々に世に問うてきた問題作(ソラブジの超難曲『アルス・クラヴィチェンバリスティクム』など)をレパートリーとするベルギー人奏者である...といったことを知るにつけ、つくづくこの国の文化人たちは視野が広い、と感嘆させられてしまいます(なにしろ公用語がオランダ語・フランス語・ドイツ語とあるうえ、知識人ならたいてい英語も流暢、仲の悪いオランダ語圏とフランス語圏の人同士が軋轢を避けるためにあえて英語で話すことも...などと聞くと、ある種のスケールの違いに驚いてしまいます)。自らヴィオラ奏者だったヒンデミットは早くから弟が弾くチェロにも興味を示し、レーガーやブリテンの傑作と並ぶ20 世紀屈指の無伴奏ソナタを含む名品を数多くこの楽器のために残していますが、ここで彼らはあえてプログラムを戦時の小品で始め、より古い時代の作品を後半におく聴きごたえあるプログラム(流して聴いていると、優美さから硬派な作風へ、そして再び若々しい創意の発露へ...とつながる流れがいかにも綺麗)で、その音楽の面白さをさまざまな角度から印象づけてやみません。

 チェロのエルメルトは26 歳でブラッセルズ・フィルハーモニック(ブリュッセル・フィルとは別団体、ブラッセルズ〜の方が勢いを感じさせます)のソロ奏者に就任、その後も現代音楽まで視野に入れた広範なプログラム感覚をもち、自らベルギーでの連続演奏会の芸術監督もつとめているほど。そうした躍進も、本人の演奏センスあればこそ——本盤解説(全訳付)にも南ドイツの大手新聞からの演奏会評が一部引用されていて「最初の1音から聴き手を虜にする」とあるとおり、いかようにもとっつきにくくできてしまうヒンデミットの音作りをいとも自然に、耳になじむ近代音楽の粋として聴かせてくれるのも、そうした技量あればこそ、のことなのでしょう。作曲家と同じドイツ人が弾く、しかし威力で圧倒するのではないヒンデミット。

GRAMOLA



GRML99007
(国内盤)
¥2800+税
フランス近代の無伴奏チェロ
 〜オネゲル、ソーゲ、イベール、ジョリヴェ...〜

 アルテュール・オネゲル(1892〜1955):
  ①パドゥアーナ(パヴァーヌ)H.181 〜
   無伴奏チェロのための(1945)
 ジャック・イベール(1890〜1962):
  ②無伴奏チェロのための練習曲=奇想曲〜
   ショパンの墓標(1949)
  ③ギルラルツァーナ 〜無伴奏チェロのための(1950)
 アンリ・ソーゲ(1901〜1989):
  ④[無伴奏の]チェロのためのソナタ(1956)
 アンドレ・ジョリヴェ(1905〜1974):
  ⑤無伴奏チェロのための演奏会用組曲(1965)
 アンリ・デュティユー(1916 〜2013 ):
  ⑥SACHER の名による三つの詩節(1976〜82)
 ダヴィド・シャイユー(1971〜):
  ⑦ひとり 〜チェロのためのモノローグ(2011)
クリストフ・パンティヨン(チェロ)
 チェロ無伴奏と、フランス近代。この国から世界的なチェロ奏者が次から次へとあらわれた時代、センス抜群のフランスの作曲家たちは、その「生楽器ひとつ」の魅力にとりつかれはじめる——
 「無伴奏チェロ盤に駄盤なし」をあらためて印象づける、実力派パンティヨンの絶妙な1枚。

 これは個人的な自論なのですが、「無伴奏チェロ盤に駄盤なし」ではないでしょうか。
 バッハの、ブリテンの、レーガーの無伴奏全曲盤などを抜きに、あえて小品の数々などの無伴奏チェロ作品を、それぞれ何かしらのコンセプトのもとに集めてプログラムを編み、1枚のCD アルバムとして提案する...などということを大胆にやってのけるチェロ奏者というと、たんに伴奏ぬきでも勝負できるほどの腕前を持っているのは当然、そのうえで独自の確かな知見と経験にもとづいた、聴き手を惹きつけて離さないプログラム構成もできる...おのずとそういう稀有な芸術家肌の名手に絞られてくるからなのでしょう。
 ベルリン・フィルのルートヴィヒ・クヴァントがCampanellaMvsica で録音した逸品、タチヤーナ・ヴァシリェヴァの秀逸作、古くはマット・ハイモヴィッツの20 世紀作品集...ちょっと思い出すだけでも印象的な名盤がいくつも思い浮かびますし、チェコArco Diva から出ているヴラフSQ の名手ミカエル・エリクソン盤(『チェロ奏者、北欧から中欧へ』UP0138)もまさにその例にあたりますが(『レコード芸術』誌でも準特選に輝きました)、ここにご紹介するGramola レーベルからの新譜もまた、そうした無伴奏チェロ秀逸盤の歴史に新たなページをつけくわえる名演に仕上がっています。

 演奏はフランス語圏スイス出身の名手、クリストフ・パンティヨン——同じスイス出身のオネゲル作品を冒頭に、過剰な前衛主義を横目に見つつ、あくまで確かな音楽性を大切にしつつ瀟洒な、あるいは深々とした響きをチェロから引き出してきた、20世紀の「フランス六人組に続く路線のチェロ作品」が、この1枚にたっぷり詰め込まれているのです。
 おもにウィーンをベースに室内楽奏者として活躍(アーロンSQ チェロ)、ウィーン室内管弦楽団のソロ奏者でもある縁からか、ウィーンの老舗Gramola でしっかり制作された本盤、作曲年代から前衛ばかりかと恐れるのは筋違い——全て第二次大戦後の作品ながら、パンティヨン自身の解説(全訳付)にいわく「シンプルで控えめ、明快で客観的な音楽を書こうと志し」ていたフランス六人組と、その系譜に連なる作曲家たちの音楽ばかりが集中的にとりあげられていて、一聴して恐ろしげな前衛とは無縁の世界に仕上げられたプログラムはいかにも、彼ら名匠たちを刺激してやまなかったマレシャル、フルニエ、ジャンドロン...ら20 世紀フランス屈指のチェロ奏者たちのことさえ彷彿させる、高雅にして瀟洒、そして芯の通った音楽性をありありと感じさせてやまない響き。チェロという楽器の逞しさと艶やかさとを同時に、楽器ひとつの確かな存在感とともに味あわせてくれる、充実した内容になっているのです。
 イベールやジョリヴェのしなやかな詩情、フランス音楽ファン垂涎のソーゲ作品…同時代のフランスで活躍した抽象画家ド・スタールの絵画をあしらったジャケットも実にセンスよく、静かに音楽に耽溺する時間を美しく彩ってくれます。
 


GRML98989
(国内盤)
\2800+税
モーツァルトが暮らした家のピアノ
 〜バドゥラ=スコダ、2013年最新録音〜

モーツァルト(1756〜1791):
 ①ソナタ第16 番 ハ長調 KV545「やさしいソナタ」
 ②ソナタ第10 番 ハ長調 KV330
 ③ソナタ第11 番 イ長調 KV331
 ④ハ長調の小品「バターパン」KV Anh.C.27.09
パウル・バドゥラ=スコダ(フォルテピアノ)
使用楽器:
 アントン・ヴァルター1790年頃製作オリジナル

 ウィーンの巨匠、最後の来日。あふれんばかりの作曲家愛が十指に宿る、2013年に録音されたウィーンGramola レーベル発、最新のモーツァルト独奏作品集...しかも録音場所はモーツァルトが過ごした“フィガロハウス”、使用楽器も作曲家自身が愛したヴァルターの楽器!

 若き日にフルトヴェングラーとカラヤンに見出され、またたくまのうちに世界的なピアニストとなっただけでなく、ウィーンの音楽家としてモーツァルト作品の演奏解釈に深い造詣をしめし、自ら作品分析と奏法指南を執筆するにとどまらず、いまだピアノ演奏に古楽器を使う習慣がなかった20 世紀後半にあって、同じく折にふれ来日を続けてきた世界的名匠イェルク・デームスとともに、他の誰よりも早くから「モーツァルトが知っていた当時のピアノ」の演奏技術をさまざまに突き詰めてきた、生粋のモーツァルト奏者、パウル・バドゥラ=スコダ——

 その演奏がいつも限りない作品愛に貫かれていて、細かな機微ひとつひとつが聴き手の心を静かにざわつかせ、モーツァルト作品のえもいわれぬ魅力に引き込んでやまないことは、数多くの名盤を聴き親しんできた方々も、また折にふれての来日公演に出向き続けてきた方々も、よくおわかりのことに違いありません。

 今年5 月末から6月にかけ、「これで最後」と公言したうえで来日公演を続けることとなる“我らが”バドゥラ=スコダが、故郷ウィーンの中心に本拠をかまえる老舗Gramola レーベルから、その音楽活動の全てを集約するかのようなモーツァルト・アルバムをリリースしてくれたことは、本当にかけがえのない喜びというほかありません。
 バドゥラ=スコダ自身、この録音には並々ならぬこだわりがあったに違いない...と感じさせてやまないのは、この最新録音が2013 年になされた場所が、ほかでもない、ウィーン暮らしのモーツァルトが『フィガロの結婚』やハイドン四重奏曲集、幾多のピアノ協奏曲などを作曲した頃に住んでいた家に置かれている博物館=演奏会場「モーツァルトハウス」であったから。
 録音に使われたのは、現代のピアノではなく、モーツァルト自身も高く評価して亡くなるまで愛奏していた、ウィーンの名製作家アントン・ヴァルターによる1790 年頃製のオリジナル古楽器。その十指は軽やかに鍵盤上を行き来して、数十年来をかけて磨き続けてきた解釈をあざやかに伝え、モーツァルト自身もかくやと思う大気のような美しい響きを私たちの耳に、心に、届けてくれます。
 「モーツァルトは子供たちにとって何より易しく、大人たちにとっては何より難しい」という言葉を象徴するかのような選曲にも、バドゥラ=スコダの確かな意思があらわれているのではないでしょうか——
 玄妙な音使いが不思議でたまらないイ長調の第11 ソナタ、はきはきと明快で愛らしいハ長調の第10 ソナタ、そして誰もがあの平明さの前に心を打たれずにおれない、「易しいソナタ」の綽名で知られるKV545 の第16 ソナタ...私たちの時代とモーツァルトの時代の中間に産み落とされたらしき謎の小品で終わる仕掛けに、一筋縄ではいかないオーストリア気質を感じるもよし——

 全ての音楽ファンに届けられるべき、あらゆる「格」と「粋」を越えて心に響きわたるモーツァルト録音、ここに...!
 


GRML98995
(国内盤)
\2800+税
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲全集Vol.1
 幽霊、第1番、WoO.38
 ①ピアノ三重奏曲 第5番 ニ長調op.70-1「幽霊」
 ②ピアノ三重奏曲 変ホ長調 WoO.38
 ③ピアノ三重奏曲 第1番 変ホ長調 op.1-1
トリオ・ファン・ベートーヴェン
 クレメンス・ツァイリンガー(p)
 ヴェレナ・ストウルジ(vn)
 エーリヒ・オスカル・ヒュッター(vc)
 ウィーン楽壇、なお快調!気鋭奏者たちがベートーヴェン作品の全曲録音に乗り出すのが静かな流行?と思うくらい、最近の新進奏者たちのベートーヴェン録音は周到このうえない——
 堅固な様式感、匂い立つウィーン情緒。古楽器演奏派も往年名演派も、耳を洗ってくれる名演!

 CD 録音でアルバムを世に出すという行為がLP よりもひろく行われるようになってから、すでに20 年ほどの年月が経ちました。おかげで近年では、世界各地の気鋭の若手奏者たちの演奏が諸外国でも楽しめるようになり、ネットラジオその他のよりスピーディなメディアとあわせ、欧州楽壇の活況はいっそう身近なものとなっているのではないでしょうか。
 そうしたなか、ウィーンの中心部グラーベン大通り広場に拠点をおく老舗レコード店が母体のGramola レーベルは今日もますます盛況で、ヨハン・シュトラウスやモーツァルトを生んだこの楽都の最先端の活況をみずみずしく伝えつづけています。今度の新譜でも、ベートーヴェンの王道名曲と真正面から取り組んだ3人の新世代奏者たちのみごとな解釈が、長年にわたり聴き古されてきた名曲のイメージをみずみずしく一新してくれるのです…!
 堂々ベートーヴェンの名を冠するこのトリオ、それぞれがソリストとしても活動を続けてきた新進たちがメンバーで、とくにピアノのツァイリンガーはすでにベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32 曲の連続演奏会も完遂しているといいますが、近年ではこうしたかたちで早いうちからベートーヴェンの壮大な宇宙の全容に取り組もうとする演奏家も少なくなく、CaroMitis レーベルのイーゴリ・チェトゥーエフ、Zig-Zag Territoires レーベルのF-F.ギィ(ベートーヴェン全曲録音シリーズは『レコード芸術』特選の連続)など、録音シーンでも驚くべき成果をあげている新進名演奏家たちが少なくないところ、彼らもまさにそうした世情に新たな1ページをつけくわえてくれる異才たちと言っても過言ではないと思います。
 何より、その演奏結果が素晴しい!楽聖の傑作と向きあう気負いを必要以上に感じさせず、意気揚々と演奏することの喜びに身を任せているのがわかる、自発性あふれるライヴ感にみちた音作りにも強く惹きつけられますが、よく聴き込めば聴き込むほど、細部にも聴きどころに事欠かないことに気づかされるのが頼もしくてなりません!
 気負ったヴィブラートをかけず音の造形をくっきり浮かび上がらせる尖鋭的な演奏をしているかと思いきや、弦楽器奏者ふたりが細部で聴かせる微妙なアゴーギグはいかにもウィーン風、その後ろで軽快にピアノの音を紡ぐツァイリンガーのタッチも、遠くで聴いていると何となくフォルテピアノのような風情さえ感じさせ、全体として実に印象深い余韻を残す充実した演奏解釈となっているのです。
 師匠ハイドンとの軋轢のなかで出版された処女刊行作の「第1番」、それ以前の作とも言われる初期の隠れ名曲WoO.38、そして玄妙な「幽霊」三重奏曲のえもいわれぬ響きの妙...!
 


GRML98997
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
ブルックナー 男声合唱のための作品集Vol.2
 〜管楽伴奏、ピアノ伴奏、ア・カペラ...〜

ブルックナー(1824〜1896):
 ①セレナーデ WAB 84 ②祭りのときに WAB 59
 ③教師という仕事 WAB 77
 ④私たちみな、老いも若きもWAB 148-2
 ⑤夢と目覚め WAB 87
 ⑥祖国の酒の歌 WAB 91
 ⑦深夜に(第2の作例)WAB 90
 ⑧自由な心、喜ばしき勇気 WAB 147
 ⑨感謝の言葉を、わたしが口にできますよう WAB 62
 ⑩民の歌 WAB94 ⑪君の結婚に寄せて WAB 54
 ⑫歓喜の声が轟きわたり WAB 76
 ⑬比類なき恵み、父なるかたの国の安らぎ WAB 95-2
 ⑭ドイツ祖国の歌 WAB 78
 ⑮ドイツの歌 WAB 63
 ⑯偉大なる聖職者フリードリヒ・マイヤーのための
   第1カンタータ WAB 60
トーマス・ケルプル指揮
男声合唱団「ブルックナー12」
アンサンブル・リンツ
フィリップ・ゾンターク(オルガン)
 第1弾の驚くべきロングセラーを受け、ブルックナーの祖国から新たなる名盤が登場!
 ア・カペラもあればピアノ伴奏もあり、ルネサンス=バロック風金管伴奏や管楽合奏付もあり...聴くほどに多元的。一言ではくくれない、ドイツ=オーストリアのロマン派の広大無辺な音楽を!

 日本の音盤シーン、とくに合唱関係のCD で意外なまでに注目を集める傾向にあるのが、ブルックナーまわりの思わぬ秘曲もの——交響曲がつとに有名なこのオーストリアの大作曲家、交響曲をちゃんと書きはじめたのは齢40 頃からのことにすぎず、若い頃には敬虔なカトリックの教会音楽作曲家として活躍したうえ、合唱指揮者として数々の団体と仕事をしてきた経験をもつ、生粋の合唱人だったということは、この種のアルバムを手に取るユーザー様の方がずっとよくご存知のことと思います。
 一連の大作ミサや『テ・デウム』などオーケストラ伴奏の作品が世界的な巨匠指揮者たちのタクトによる名演を生んできた一方、バロック以前の古い教会音楽の伝統に連なる金管合奏付の合唱曲などはなかなか演奏機会が少なく、ましてや男声合唱(ブルックナー自身もこの演奏形態には深く通暁していました)のための小品をたっぷり集めたアルバムとなるとなかなか見つからないもの…そうしたわけで、本盤に先立つケルプル指揮ブルックナー12 の先行盤(GRML98869)は、発売から3年近くが過ぎたにもかかわらず、なお売れ行きが途切れない定盤となっています。
 そこへ新たに登場した、彼らオーストリアの実力派集団によるこの男声合唱曲集第2弾では、前作よりもさらに充実した演奏編成で、1850 年代(まだ交響曲を書きはじめるよりずっと前)の、シュッツその他の17 世紀作曲家さえ思わせる金管合奏付きの教会音楽(WAB60 のカンタータ)や歓待合唱曲もあれば、交響曲第9番を作曲中、トロンボーンやチューバが入る編成で書きとばしたら大ヒット曲になってしまった晩期の「ドイツの歌」など、充実した伴奏がつく曲も数多く含まれていて興趣がつきません。
 もちろん、あのオーストリアののどかな田園風景を思わせる、ロマン派情緒たっぷりの非・教会音楽も数多く収録されていて、各作品についての充実した解説(全訳付)や訳詞とあわせ、あの一連の交響曲を生ましめたブルックナーの“心のありか”をじっくり探れる、極上の演奏が詰まった充実盤に仕上がっています。お見逃しなく!


旧譜
ブルックナー :男声合唱傑作集第1巻

GRML98869
(国内盤)
\2940
ブルックナー :男声合唱傑作集
 アントン・ブルックナー(1824〜1896):
  ①夕暮れの空IWAB55 ②真夜中に WAB89
  ③夕暮れの空II WAB56
  ④「結婚式の合唱」の主題によるオルガン即興演奏
  ⑤結婚式の合唱 WAB49
  ⑥「音楽は慰め」の主題によるオルガン即興演奏
  ⑦音楽は慰め WAB88 ⑧秋の歌 WAB73
  ⑨墓場にて WAB2 ⑩真夜中 WAB80
  ⑪3本のトロンボーンのためのエークヴァーレ WAB114
  ⑫修道院長アルネートの墓の前で WAB53
  ⑬3本のトロンボーンのためのエークヴァーレ WAB149
  ⑭わたしは下僕のダヴィデに目をかけWAB19
  ⑮祝典カンタータ「主をほめたたえ」WAB16
トーマス・ケルブル指揮
男声合唱団「ブルックナー08」
アンサンブル・リンツ
※邦訳解説&訳詞付

 9曲プラスアルファの交響曲群が何より有名なブルックナー。ドイツ・オーストリア系の音楽こそ至高・という意識が根強く息づいている日本のクラシック・ファンのあいだで、この作曲家ほどカルト的人気を誇る作曲家がいるでしょうか?ことによると、バッハとモーツァルトに次いで単独作曲家で深く愛されているのが、このブルックナーかもしれません。
 ただ、ニコラウス・アルノンクール御大が「音楽史上に突然、宇宙から落ちてきた隕石」と呼んだほどの、19 世紀という時代をはるかに超越した音楽性のありようは、晩年になってから作曲するようになった交響曲の数々においての話。ところが実のところこの作曲家の全作品のなかでは、作品数としてみた場合、圧倒的に多いのは合唱作品なのです。
 40 歳くらいまでのブルックナーは、教会音楽や世俗の合唱曲ばかりを作曲していた朴訥な作曲家でした。そしてその時代の集積が、この大家の交響曲に息づく「詩情」の側面をかたちづくっていったわけです。
 アマチュア合唱団員の方々も、ブルックナーの合唱作品に目がない、という方は思いのほか多いはず。しかしながら、かの有名な3曲の大作ミサ曲をはじめとする宗教曲は何とか録音にも恵まれているものの、彼の世俗合唱曲ばかりを収録したアルバムというのは、そう数多く登場するわけではありません。ブルックナーは若い頃から男声四重唱団を自ら結成して歌を続けたり、アマチュア合唱団の指揮者として活躍したりで、俗世間向けの詩情豊かなロマン派的合唱曲を相当数残しているにもかかわらず、です。
 そんな渇を癒すかのごとく、ブルックナーの故郷でもある音楽大国オーストリアのGramola レーベルから登場してくれたのが、この傑作新譜!
 なんと収録作品の大半が世俗合唱曲で、ア・カペラ作品の滋味ぶかい味わいもさることながら、ブルックナー芸術の隠れた本質を解き明かす楽器でもあるオルガンも随所で大活躍。さらに、これもやはり耳の肥えたブルックナー・ファンには忘れがたい小品である「3本のトロンボーンのためのエークヴァーレ」2曲もしっかり収録。
 こうした企画をドイツの合唱団がやると、かなり引き締まった硬派な美質が打ち出されることも少なくないでしょうが、ここで歌唱にあたるのは、ほかでもないブルックナーの故郷オーストリアを拠点に活躍している合唱団。気張らず泰然自若、にもかかわらず一糸乱れぬ繊細な音の重なりを描き出してみせ、えもいわれぬ郷愁をたたえたブルックナー作品の美質を、おのずと浮かび上がらしめるセンスは、まさに脱帽。バロックとの意外な親和性、ロマン派ならではのハーモニー感——合唱の響きの濃やかさとは、オーケストラ以上に雄弁なもの。それを改めて教えてくれるという意味で、交響曲一辺倒のブルックナー・ファンや、この作曲家を誤解している方々にも強く推したい1枚なのです。


MUSIQUE EN WALLONIE



MEW1472
(国内盤)
\2800+税
カントロフ指揮!
 イザイ:弦楽器のための協奏的作品集

   〜フランコ・ベルギー派の黄金時代〜
 ウジェーヌ・イザイ(1858〜1931):
  1) 瞑想曲op.16 〜
    チェロと管弦楽のための
  2) 夕暮れの調和 op.31 〜
    弦楽四重奏と管弦楽のための
  3) 悲しき詩 op.12〜
     ヴァイオリンと管弦楽のための(T.サムイル)
  4) セレナーデop.22 〜
     チェロと管弦楽のための
  5) 友情 op.26 〜
     2挺のヴァイオリンと
      管弦楽のための(E.ベロー、O.ジオ)
  6) 祖国を離れて op.25 〜弦楽合奏のための
ジャン=ジャック・カントロフ指揮
ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団
タチヤーナ・サムイル、
エミリー・ベロー、
オリヴィエ・ジオ(vn)
ティボー・ラヴレノフ(vc)
アルデンテ四重奏団
 むせかえるような晩期ロマン派の高雅さ。フランス語圏ベルギーは、パリより薫り高い文化発信地だった!
 世界を魅了したフランコ・ベルギー派の弦楽芸術、知られざる絶美の世界を、カントロフ率いる名門リエージュ・フィルとともに…Musique en Wallonie レーベル、満を持して国内仕様流通開始です!

 フランス語とオランダ語(と少しだけドイツ語)を公用語とするヨーロッパの小国ベルギーは、独立まもない19 世紀から(なにしろ、当時はフランス語がいまの英語くらい世界公用語だった頃ですから)大いに国力を伸ばし、隣国フランスと並ぶ文化拠点として存在感を放ちました。フランク、ジョンゲン、ルクー...と数多くの巨匠を世界に輩出、ヴュータンやイザイのようなフランコ=ベルギー派の弦楽器奏者=作曲家たちが麗しい音楽で人々を魅了したことも、音楽の世界ではよく知られています。
 そんなベルギーのフランス語圏側(ワロン共同体)の豊かな音楽文化をひろく世界に伝えるMusique en Wallonie(ミュジーク・アン・ワロニー)レーベルを、このたび弊社で取扱開始するところとなりました。
 古楽から近現代にいたる、見過ごされてきた驚くほど美しいフランス語圏ベルギーの音楽遺産を発掘するこのレーベルの日本語解説付仕様第一弾として、最もふさわしいと思われるアルバムがこのたびリリースされたので、さっそくご紹介へ——
 フランコ=ベルギー派の名匠イザイが、むせかえるような美をたたえた晩期ロマン派の音楽感性をいかんなく発揮して書いた、弦楽器とオーケストラのための作品集べ私たちが彼の作品で比較的よく知っているのは、初期のただひたすらに美しい「悲しき詩」と、その作風とは大きく違う、斬新な書法がきわだつ後期の『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ集』...後者の作品番号が27であることからもわかるとおり、もちろんイザイはその間も作曲を続けていました。
 うかつな弾き方では惰弱な印象も与えかねない難曲も多いようですが、ここではなんとフランス系ヴァイオリン作品の銘解釈でも知られる名手ジャン=ジャック・カントロフ(!)が指揮台に立ち、ブリュッセルのモネ劇場でもコンサートマスターをつとめていた俊才サムイルをはじめ、現代随一の名手たちをソリストに迎え、フランス語圏ベルギー屈指の老舗名門リエージュ・フィルの艶やか&きりっと引き締まったサウンドで、この作曲家が常々いかに豊かなオーケストラ言語を操り、どれほど多元的な弦楽技巧を追求したか、最上のかたちで教えてくれる協奏的作品の数々の銘解釈をじっくり味あわえるのです!
 作曲年代も1893 年の「悲しき詩」ほか、1910 年頃から1920 年代後半までほどよくばらけており、馥郁たるロマンをたたえた高雅な弦の響き、優美なチェロの味わい、超絶技巧も難なく華やぎ、2挺ないし4挺のソロの対話のおもしろさ、管楽器群のえもいわれぬ音色の妙をはじめとするオーケストラ・サウンドの豊饒さ...ラフマニノフやR.シュトラウスの同時代をゆく比類ない晩期ロマン派の調べは、やはり作曲家と同郷の、フランス語話者の楽団だからこその適性ゆえ、かくも薫り高くも下品に堕さず、極上の解釈になるのでしょうべ。充実解説全訳付。

PAN CLASSICS



PC10243
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
ポルポラ 受難節の二重唱曲集
 〜18世紀ナポリ、古典派前夜の艶やかな教会音楽〜

 ニコラ・ポルポラ(1686〜1768):
  1.「我らが救世主イエス・キリストの
   受難に寄せる、六つのラテン語二重唱曲
  2. フーガ第5番(クレメンティ編曲によるオルガン版)
  3. フーガ第5番(クレメンティ編曲によるオルガン版)
 作曲者不詳(18 世紀後半):
  4. ミゼレーレ
エマヌエーラ・ガッリ、
フランチェスカ・カッシナーリ(S)
マリーナ・デ・リーゾ(A)
フルヴィオ・ベッティーニ(Br)
ステーファノ・アレージ指揮
Ens.スティーレ・ガランテ(古楽器使用)

 本来の季節は、早春向け——しかしそれはキリスト教の暦の上での話、この濃密な音作りは否応なく、南国ナポリの夏の夜へと心をさそう...
 イタリア古楽界の押しも押されぬ実力派たちがあふれんばかりの音楽愛を傾けて刻んだ、イタリア版「ルソン・ド・テネブル」に宿る美質...!


 キリスト教の世界では、イエス・キリストが全人類の罪をあがなうべく十字架にかけられて亡くなった...ということが何よりの大事件であり、そのあとイエスが(のちに天に上げられるべく)預言どおり現世での死から復活したことを祝う早春の復活祭は、何より大きな祭典のひとつでもあります。そしてその復活祭に先立つ約40 日あまりの日々は「四旬節」「受難節」などと呼ばれ、派手なことは慎み質素に暮らしながら、イエスの現世での苦しみについて思いをはせ、自分たちの行いを反省するシーズンになっています。
 敬虔なカトリックの国々では、この季節の礼拝への強い思い入れと、歌劇場が閉鎖されるこの時期にも音楽を耳にしたいという願いから、四旬節向けの宗教曲ですばらしい傑作を書く作曲家たちが少なくありませんでしたが、それはイタリアでも同じこと——熾烈な人間ドラマを「受難曲」という宗教音楽劇に託したドイツ人たちを横目に、フランス人たちが節制ムードのなか簡素な伴奏だけを添えた声楽曲として「ルソン・ド・テネブル(暗闇の朝課)」と題した清らかな傑作を残していたとすれば、南国イタリアでもとりわけキリスト教信仰にかける思いが強い地域でもあるナポリでは、18 世紀に全欧州を熱狂させたオペラ作曲家たちが折々、四旬節のための静謐な、あるいはきわめて主情的で劇的な声楽曲を綴ってきたのでした。
 後年オーストリアで暮らしていた間、若きハイドンを教えていたことでも知られる巨匠ニコラ・ポルポラも、その例にもれません——本盤のプログラムに選ばれている、『受難節の二重唱曲集』と題された一連の声楽作品は、通奏低音パートだけが伴奏に添えられた二重唱作品を集めていながら、驚くべきメロディと和音進行のセンスで聴き手の心をあざとく抉りつづけ、濃密な南国情緒あふれるバロック的美質で、古楽ファンのみならずとも惹きつけられずにはおれない、なんともユニークな魅力にあふれています。
 ナポリ楽派の四旬節音楽はNuova Era やNaive/Opus111 にも先例があったところ、近年ますますドイツ語圏にも活躍の場を広げつつあるイタリアの才人ステーファノ・アレージ率いるイタリアの少数精鋭古楽集団スティーレ・ガランテは、稀代の対位法教師でもあったポルポラの知的側面を伝えるフーガ(なんと、ベートーヴェンやモーツァルトの同時代人でもあったピアノ芸術家クレメンティの編曲!)をはさみ、四旬節特有の神秘的な気配をいやおうなしに高める至高の名演を織り上げてみせました。
 濃密な南国の夜を思わせるその音作りは、むしろ夏に聴きたい古楽サウンドかもしれません。
 


PC10305
(国内盤)
\2800+税
C.P.E.バッハ、ヴァイオリンと鍵盤で
 〜ソナタ、変奏曲、幻想曲...〜

 カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714-1788):
  1. ヴァイオリンと鍵盤のためのソナタロ短調 Wq.76/H512
  2. チェンバロとヴァイオリンのためのアリオーソ イ長調 Wq.79/H.535
  3. 幻想曲 嬰へ短調〜ヴァイオリン助奏付きの鍵盤のための Wq.80/H.536
  4. ヴァイオリンとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ニ長調 Wq.71/H.502
  5. ヴァイオリンと鍵盤のためのソナタハ短調 Wq.78/H.514
ライラ・シャイエーク(バロック・ヴァイオリン)
イェルク・ハルーベク(タンジェント・ピアノ、チェンバロ)
 生誕300周年、じわじわ火のついてきた感もあるC.P.E.バッハの新譜、またしても登場!
 バンキーニ率いるアンサンブル415で確かな活躍をみせてきた俊英シャイエークの冒険は初期フォルテピアノ(タンジェント・ピアノ)との確かなパートナーシップで耳を、心を魅了する…


 2014 年は、大バッハの次男C.P.E.バッハの生誕300 周年!
 昨今では総合的な大型BOX セットも相次いでリリースされるなど、あらためて録音シーンで賑わいをみせてきた作曲家だったことが実感されるところではありますが(裏を返せば、音盤コレクターにとっても宝の山であり、売れ行きを見越して発売された意欲盤も少なからずあった…ということ)、そうした状況はもちろんこの記念年にさいしても言えること。昨年後半から意欲的な演奏家たちが進行させてきたプロジェクトが徐々に音盤として結実をみせるかたちで、注目に値する新録音も出てまいりました。
 古楽の牙城バーゼル・スコラ・カントルムで腕をみがき、かつてはエンリーコ・ガッティやエミリオ・モレーノといった世界的異才を続々輩出してきた名手集団アンサンブル415(最近ではZig-Zag Territoires レーベルで活躍中のアマンディーヌ・ベイエールも、このアンサンブル出身者として見逃せません)で長くソリストのひとりとしてやってきたライラ・シャイエークが、確かな室内楽パートナーのイェルク・ハルーベクとともに世に問うのは、父である大バッハも愛奏した楽器ヴァイオリンが首座をつとめる5名品——ソナタばかり、というわけではなく、ソナタ3曲と“大がかりな小品”を2曲、長調短調とりまぜ、中期から後期にかけての名品を幅広く…という曲目構成もうまいなあと思うのですが、つねに新鮮な意識で古楽器演奏を考え続けてきたアンサンブル415 の出身者らしく、運弓や演奏編成、アゴーギグなどにも隅々までこだわりの感じられる演奏解釈は、ただ耳に心地よく心になじむ、というのでは終らない、音楽内容のいろいろなところに意識をむけさせてくれる充実した内容を誇るものとなっているのが頼もしいところ。
 アルノンクールやブリュッヘンが、モーツァルトの交響曲を録音しはじめた頃に受けた衝撃と、どこか似たようなカリスマ的魅力を感じられる方も少なくないような気がします(「アリオーソ」など特に…)。
 この「衝撃」のありかたこそ、人の心の機微や移り変わりを音楽を通じて表現しようとしてきたC.P.E.バッハの「多感様式」の真髄なのでは...とも思えるところ。解説は多感様式についてのことはもちろん、ブラームスの楽譜収集などにもふれつつ、その後のC.P.E.バッハ受容にも言及した読み応えある内容(全訳付)。
 共演の鍵盤奏者ハルーベクも、レーゲンスブルク型タンジェント・ピアノ(先週ご案内したA.リュビモフも弾いていた、ウィーンのヴァルター型よりも前からある初期ピアノのひとつのスタンダード)とチェンバロをうまく使い分け、エマヌエル・バッハの機微を良く伝えるアンサンブルの呼吸をつくっているのが小気味よくてたまりません。愛さずにはおれない新録音、お見逃しなく!



旧譜
ようやくカール・フィリップの時代が来た。
もう「バッハの息子」とは言わせない。
C P E Bach - Reveries for Connoisseurs & Amateurs
MFUG536
(国内盤)
\2940
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜88):
 『音楽通・愛好家諸氏のためのソナタ集』より

  1. カンタービレ(ソナタ第3番Wq.55より)
  2. ロンド 第1番 Wq.58
  3. ファンタジア ヘ長調 Wq.59
  4. ファンタジア 変ロ長調 Wq.61
  5. ロンド 第1番 ハ長調 Wq.56
 6. ソナタ イ短調
 7. 自由なファンタジア 嬰ヘ短調 Wq.67
 8. ジルバーマン殿のピアノに別れを告げて Wq.66
ジョスリーヌ・キュイエ(クラヴィコード)
C.G.フーベルト1785年製楽器のコピー/C.G.フリーデリツィ1773年製楽器のコピー
FUG536
(輸入盤)
\2600→\2290
 そのすべてが美しいというわけでなくても、中にとてつもなく素晴らしい曲があると、それだけでそのアルバムを手放せなくということがある。
 このアルバムに収録されたのは、当時世界最高の鍵盤奏者だったカール・フィリップ・エマヌエルが残した作品。
 カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ。ご存知大バッハの息子。音楽家として最も成功した息子であり、生存中は父親よりも名声が高かった。
 だが、歴史は残酷なもので、いまや彼はバロック後期と古典派の居並ぶ大偉人たちの影に隠れ、「バロックと古典派を結ぶ貴重な作曲家」という名声にとどまる。
 しかしカール・フィリップ・エマヌエルの生きた時代、すでにバロックの全盛期を抜け、王侯貴族の寵愛は受けながらも、その作風は「疾風怒濤」で「多感様式」、つまり聴いてわくわくどきどきする新しいタイプの音楽になりつつあった。なので彼の作品にも、後に現れるモーツァルトやベートーヴェンを髣髴とさせる、時代を先駆けた傑作が多く現れる。
 とはいってもカール・フィリップ・エマヌエルの作品すべてが「どきどきわくわく」するほど美しく感動的な作品というわけではない。
 実際このアルバムに収録されている曲も、ほとんどはよくある「古典派への橋渡し」という哀しいあだ名を付けられそうなフツーの曲である。
 しかし、中に2曲、とんでもない名曲が入っている。
 最初にそれを言ってしまうと推理小説の犯人を先に言ってしまうようなもので恐縮だが、ソナタ第3番のカンタービレ、そしてこのアルバムの中核をなすソナタイ短調。
 哀愁漂う、美しくも気高い作品。
 モーツァルトやベートーヴェンにやがて訪れるあの「天からの才能」を、早くもこの時点でたっぷり味わうことができる。そして何よりこうした「激情的」でロマンティックな音楽はそれまでほとんど存在しなかった(とくにソナタイ短調は1759年の作曲。大バッハの死後まだ10年も経ってない)。まさに新しい時代の先駆であり、ある種革命的な作品といえるかもしれない。そんな痛切な曲をまた、クラヴィコードのキュイエが、抜群の繊細さで、まるで詩を語るかのような演奏で聴かせてくれる。
 この2曲が聴きたくて、何度このアルバムをかけたことか。フリードリヒ大王が彼を手放したくなかったのもわかる。(「まだまだクラシックは死なない!」より)


PASSACAILLE



PSC993
(国内盤)
\2800+税
チェロは、どこから来たのか
 〜イタリア・バロック、最初期のチェロ独奏曲さまざま〜

 ◆ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィターリ(1632〜1729):
  ①パッサガッリ ②ベルガマスカ+
  ③八つの音符によるカプリッチョ*
 ◆ジュゼッペ・コロンビ(1635〜1694):
  ④喇叭の調べ*⑤チャコーナ
 ◆ドメーニコ・ガッリ(1649〜1697):ソナタ2編
  ⑥第1番 ⑦第5番
 ◆ドメーニコ・ガブリエッリ(1651〜1690):
  リチェルカール2編 ⑧第1番 ⑨第6番
 ◆フランチェスコ・パオロ・スプリアーニ
   (またはシプリアーノ 1678〜1753):
  トッカータ2編(各・無伴奏版と通奏低音付版**による演奏)
  ⑩第5番 ⑪第10 番
 ◆ジュゼッペ・マリア・ダッラーバコ(1710〜1805):
  カプリッチョ5編
   ⑫第1番 ⑬第4番 ⑭第5番 ⑮第6番 ⑯第10 番
 ◆ジューリオ・ルーヴォ(活躍期1703〜1707):
  ロマネッラとタランテッラ各2編
   ⑰第1番 ⑱第2番
 ◆作曲者不詳(アンジェロ・マリア・フィオレ?):
  ⑲ソナタ イ短調
エリナー・フライ(バロック・チェロ)
エステバン・ラ・ロッタ(テオルボ*、バロックギター +)
スージー・ナッパー(バロック・チェロ/通奏低音**)
 チェロを独奏楽器にしたのは、バッハではなく、イタリア人たちだった...!ヴァイオリン音楽の発展のかたわら、この楽器が少しずつ独自の存在感をあらわしていった頃の独奏曲をカナダ出身の多芸な才人が縦横無尽、あざやかなバロック・チェロさばきで解き明かします!

 協奏曲や独奏曲など、主役格の活躍をみせるのが当たり前...と思われているチェロ。しかしそのような存在感をあらわしたのは比較的最近のことで、19 世紀の演奏家たちでさえ「レパートリーが少ない」と、ヴァイオリンやピアノの演奏家たちをうらやんでいたとか。ましてや18 世紀以前となると、たたでさえ楽器だけで弾く「歌い手ぬき」の音楽(器楽曲)が珍しいものという扱いだったところ、イタリアの才人ボッケリーニが出てくるまではめったに独奏曲などないだろう...と思ったら、あにはからんや。古くは20 世紀後半にA.ビルスマが名盤を刻み、近年では日本が世界に誇る名手・懸田貴嗣氏もさかんに開拓・演奏を続けておられる通り、実はすでに17 世紀後半、若き日のコレッリがボローニャやモデナでヴァイオリンの腕前を磨いていた頃から、チェロを独奏楽器として使う名手が活躍をみせていたのです!
 また(今のようなチェロとは形状が違ったかもしれませんが)17 世紀初頭にも、たとえばフォンターナのソナタなど、ヴァイオリンと同等の立場で低音弦楽器を活躍させているものが見つかります。
 このアルバムではそうしたチェロの歴史をふまえ、17 世紀に遡る無伴奏チェロ独奏の名品をたんねんに拾い集め、あざやかな演奏でそこに込められていた音楽性を「いま」に解き放つ、えもいわれぬ名演の連続を堪能することができます。

 弾き手はエリナー・フライ、近年躍進めざましいカナダ古楽界出身の腕利き奏者...学生時代から無伴奏チェロ作品の研究にいそしむかたわら、古楽作品はもとより近現代の無伴奏曲でも素晴しい演奏結果を残してきた彼女だけに、単なる知識欲をみたすだけに終わらず、1曲1曲の演奏をたんねんに磨き上げ、明敏な感性で私たちの耳を喜ばせてやまない充実した解釈を聴かせてくれているのが嬉しいところです。
 ガブリエッリやG.B.ヴィターリ(「ヴィターリのシャコンヌ」の作者の父)といったコレッリの同時代人たちの音楽知(まさに低弦ひとつの小宇宙!といった精巧な音楽…)から、バッハの無伴奏組曲よりも新しい18 世紀中盤のダッラバーコ作品、あるいは通奏低音つきの楽章の数々など、多彩さの点でも申し分ない内容——充実した解説(日本語訳付)も含め、意外にも広く知られていないことが多かったチェロの歴史を体感的に辿るにとどまらない、1トラックごと傾聴に値する内容。大いにおすすめです!
 


PSC972
(国内盤)
\2800+税
ヴィオラ・ダ・ガンバで協奏曲を
 〜野趣と洗練、バロックからロココへ〜

 ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767):
  ①協奏曲 イ短調 TWV52:a1 〜
   リコーダー、ヴィオラ・ダ・ガンバ、弦楽合奏と
    通奏低音のための
 ヨハン・ゴットリープ・グラウン(1702〜1771):
  ②ヴィオラ・ダ・ガンバ協奏曲 ニ長調
 アントニオ・ヴィヴァルディ(1678〜1741):
  ③協奏曲 イ長調 RV546 〜
   ヴァイオリン、英国式チェロ、弦楽合奏と
    通奏低音のための
 ジュゼッペ・タルティーニ(1692〜1770):
   ④協奏曲 イ長調 〜ヴィオラ・ダ・ガンバ独奏と弦楽合奏のための
ヴィットリオ・ギエルミ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ドロテー・オーバーリンガー(リコーダー)
平崎真弓(バロックvn)
マルセル・コマンダン(ツィンバロム)
Ens.イル・スオナール・パルランテ(古楽器使用)
Passacaille 972
\2500→¥2290

輸入盤紹介済み
 桁外れの技量。凄腕ガンバ奏者ヴィットリオ・ギエルミの腕前は、いっそ協奏曲で聴きたい——
 バロック末期、ヴァイオリンをさえ脅かしかかっていたガンバ芸術最後の強烈な残照のありようを欧州きっての名手たちが少数精鋭、めくるめくスリリングな演奏で...ゲスト・ソリストの豪華さにも瞠目!

 Passacaille レーベルは、クイケン兄弟やインマゼール、ヘレヴェッヘといった巨匠たちを続々生んできた古楽大国ベルギーで、多忙な活躍をみせるトラヴェルソ(=古楽フルート)奏者ヤン・ド・ヴィンヌが主宰者だけあって、欧州古楽界の熾烈な競争社会を生き抜いている名手たちを妥協なく選び出し、その至芸をすばらしい音盤に結実させてきた実績は大きく、過去のカタログも目移りせずにはおれない宝の山…
 まずは注目盤だけでも順次、国内仕様でしっかり紹介させていただきます(今後も思わぬ凄腕奏者・有名奏者たちの強力盤が徐々に登場予定)。
 日本と違い声楽こそが売れ筋となるヨーロッパの古楽界にあって、Passacaille のよいところはなんといっても、歌ぬき器楽系の本格名盤に事欠かないところ——ここに紹介するのは、同レーベルでも数多くの名盤を刻んでいるオルガン奏
 ロレンツォ・ギエルミの年の離れた弟で、しなやかなカンタービレから桁外れの超絶技巧まで易々とこなしてしまうヴィルトゥオーゾぶりには欧州批評家勢も大興奮、いつしか「ガンバのハイフェッツ」などと、およそこの優雅な宮廷楽器から想像もつかないような異名まで博しつつある俊才ヴィットリオ・ギエルミの決定的名盤。しかし実際の演奏を耳にしてみれば、なるほどこれはハイフェッツだ...とあらためて実感するに違いありません。
 本盤はその最良の紹介盤ともいえる“ガンバ協奏曲集”——オーケストラの大音響にはかないようもない繊細な音色を誇り、もっぱら室内楽や教会音楽に活躍の場を見出していたガンバという楽器は、ヴィヴァルディその他のイタリア人作曲家たちによって協奏曲というものが流行りはじめた18 世紀初頭にもなお辛うじて使われていたところ、ヴァイオリンなどという新参者には負けないぱとばかり、この楽器の超絶技巧を最大限に発揮してみせるような協奏曲を披露してみせる選ばれた名手もいて、本盤ではそうした名手たちのために書かれた室内編成の協奏曲や、ヴァイオリンにできることをガンバにできないはずがないぱといわんばかりに、ヴァイオリンの名人芸が詰め込まれた協奏曲をガンバで弾いてみせた往年の名手を彷彿させるトラックなど、4編の思いがけない協奏曲を通じ、ヴィオラ・ダ・ガンバ芸術の通念を微調整せずにはおれなくなるスリリングな演奏を味わえるのです。
 「悪魔のトリル」で知られるタルティーニ作品にひそむ歌心や超絶技巧との思わぬ親和性、ヴィヴァルディがヴァイオリンとガンバを対比させてみせた異色作、プロイセン王の宮廷で最後の流行をみせたロココ的ガンバ世界の徒花、あまりに美しいグラウンの協奏曲...テレマン作品では思わぬ豪華ソリストも参加、少しだけ宮廷でも使われた民俗楽器ツィンバロムの導入も絶妙の采配ぱまさに野趣と洗練のあいだをゆく瞠目古楽盤なのです...!



ヴィットリオ・ギエルミ
美しき旧譜・・・

Passacaille 957
\2500→¥2290

輸入盤
強さと優しさ
 マレ:ヴィオール曲集より/
 ガロ:前奏曲とシャコンヌ、アポロン、ジグ/
 マレ:サント=コロンブ氏を悼むトンボー、
  ビスカイヤン、ロンドー・モワティエ・ピンス/
 ガロ:ソメイユ・デ・デュフォー、
  メヌエット・ラ・シガル、グロワーヌ・アティス/
 マレ:グルジアの女、鍛冶屋たち 、からかい、
  ペルシア人の行進、アルマンド・アスマティク、
  ラ・マリエ、ガヴォット・ラ・シンコペ、
  スペイン風サラバンド/
 ガロ:モナコ王妃を悼むトンボー
ヴィットリオ・ギエルミ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、
ルカ・ピアンカ(リュート&テオルボ)
 ギエルミ&ピアンカのマラン・マレ!ギエルミ兄弟の弟でヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のヴィットリオ・ギエルミ、ル・ジャルディーノ・アルモニコのリュート奏者ルカ・ピアンカの強力デュオ!
 ギエルミとピアンカのデュオが取り上げたのは、ルイ14世の宮廷に仕えた天才ヴィオール奏者としての名声、ヴィオールのための傑作の数々を後世に遺したフランス・ヴィオール楽派最大の大物マラン・マレ。名手同士のアンサンブルでパレットに絵を描いていくかのようにマレとガロの音楽を奏でるギエルミとピアンカ。演奏、選曲とも抜群です。
 レーベルの特色でもあるパッケージも秀逸。


ZIG ZAG TERRITOIRES


ZZT339
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
フランスの小唄、時を越えて。
 〜いまのシャンソン、ルネサンスのシャンソン〜

 ①サン=ジャンの私の恋人(E.カララ)
 ②パヴァーヌ・レケルカード(N.デュ・シュマン)
 ③恋はあまりに悩ましく(P.ド・ヴュイルドル/T.スザート編)
 ④まだ3人とも小娘だったころ
  (作者不詳/C.ジェルヴェーズ編)
 ⑤シャンパーニュのブランル(ジェルヴェーズ)
 ⑥わたしはいつも、願いとは裏腹に(P.セルトン)
 ⑦ガヤルド(G.モルレ)
 ⑧この美しい珊瑚細工も(C.ジャヌカン)
 ⑨わが雌鶏(A.バルジェス)
 ⑩ある若い娘がいて(C.ジャヌカン)
 ⑪パヴァーヌ「陽気な小娘」/ガヤルド「すべて」(スザート)
 ⑫ニヴェルのジャンの歌(J.マンジャン)
 ⑬モンマルトルの丘(G.ヴァン・パリス)
 ⑭糸を紡ぐのは、神様から何か授かったとき/ホーブッケンの踊り
  (ド・ヴィルドル/スザート編)
 ⑮かわいい君、薔薇のようすを見に行こうよ
  (J.シャルダヴォワーヌ版&G.コストレ版)
 ⑯パヴァーヌ(E.デュ・テルトル)
 ⑰夫は裕福、でもただのろくでなし(作者不詳)
 ⑱わたしの炉辺を返しておくれ/ポワトゥーのブランル
  (N.デ・セリエ・デダン/ファレーズ編)
 ⑲さあ、楽しくやろう/ガヤルド(A.ヴィラールト/P.ボケ編)
 ⑳ある朝、美しい女が起き出して(セルトン)
ドゥニ・レザン・ダドル(音楽監督)
Ens.ドゥス・メモワール(古楽器使用)
ヴェロニク・ブーラン(S)
ユーグ・プリマール(T)
 フランス語圏の音楽家は、いつだってエスプリにあふれている——それは昔も今も、あるいはシャンソンの世界でも古楽の世界でも、おなじこと。音楽学に通じたドゥス・メモワールの本格ルネサンス解釈が、なんら違和感なく「古楽器での現代シャンソン」と隣りあう不思議!

 ヨーロッパの古楽の世界の最先端にふれるとなると、一番よいのは音楽祭シーズンを選んでライヴを聴きに直接、ヨーロッパまで行ってしまうこと——でもやっぱり、日常的に驚きたいですよね。
 そこで録音物の登場なのですが、ここまであざといくらい「いまの古楽のライヴ感」を前面に出してくれたアルバムも珍しいかもしれません。
 欧州ラテン系諸国、なかんずくフランス語圏の古楽奏者たちはよく、ライヴのアンコールなどで(ルネサンス〜バロック期の古楽器を手にしたまま)往年のシャンソンの名曲を歌ってみせたりするのですが、このアルバムではなんと、ルネサンス期以前の音楽のあり方を徹底した音楽史検証と稀有のイマジネーションで「いま」に甦らせる正統派の古楽演奏を続けてきた銘団体ドゥス・メモワールが、彼らの得意芸であるフランス語圏のルネサンス歌曲(まぎらわしいことに「シャンソン」と呼ばれます)や舞曲の数々のさなかに、さりげなく20 世紀シャンソンの名曲「サン=ジャンの私の恋人」や「モンマルトルの丘」など、むしろアコーディオンやクラリネットなどの響きのほうが似合いそうな歌を隣りあわせてみせ、フランス語で「小唄」を意味する「シャンソン」という単語で呼ばれうる歌が、実はルネサンス期のものであろうと現代のそれであろうと、なんら違和感なく共存できるものだったことを、センス抜群の古楽器演奏であざやかに知らしめてくれるのです。
 これぞまさに「カフェ古楽」系というか、京都や神戸、東京だと自由が丘や代官山などの小さなカフェや雑貨屋さんで聴こえてきそうな音。
 古楽器ならではのオーガニックな生音、ほんのり異国感を漂わせたフランス語の響き、そして何より、ラテン系の演奏家たちだからこその天性のリズム感、ふんわりした音作りをぼやけさせない職人芸...エスプリあふれるフランスならではの古楽盤、紙製DigiPack ジャケットの綺麗さとあいまって、ちょっとした音の贈り物にもなりそう。
 最前線の古楽アルバムであると同時に、つかのま心のフランス旅行を満喫させてくれる素敵な1枚です。
 


ZZT338
(国内盤)
\2800+税
ヴィヴァルディ:チェロと通奏低音のためのソナタ集
 アントニオ・ヴィヴァルディ(1678〜1741)
  ①ソナタ 変ロ長調 RV46(作品14-6)
  ②ソナタ イ短調 RV43(作品14-3)③ソナタ ト短調RV42
  ④ソナタ ヘ長調 RV41(作品14-2)⑤ソナタ 変ホ長調 RV39
  ⑥ソナタ ホ短調 RV40(作品14-5)
  ⑦プレリュード RV38
マルコ・チェッカート(チェロ)
アカデミア・オットボーニ(古楽器使用)
フランチェスコ・ロマーノ(バロックギター、リュート)
アンナ・フォンターナ(オルガン、チェンバロ)
レベッカ・フェルリ(バロック・チェロ/通奏低音)
マッテオ・コティコーニ(コントラバス)

 誰よりも早く、チェロという楽器をポピュラーな独奏楽器にした人物のひとりが、ヴィヴァルディだった!
 アマンディーヌ・ベイエールやキアラ・バンキーニらと活躍をみせてきた俊才チェッカートがいま信頼のおける凄腕通奏低音奏者たちとともに鮮やかに解き明かす「低音のヴィヴァルディ」の世界!
 音楽史をたどっていると、いま巨匠とみなされている作曲家たちが生前、意外に認められておらず、不運をかこっていたらしいと気づかされることがあります(シューベルト、サティ、ヤナーチェク…)が、逆にびっくりするくらい影響力が強かった人も。
 たとえばヴィヴァルディは『四季』が20 世紀に再発見されるまで全く無視されていたのかと思いきや、実はパリでは少年モーツァルトが来訪した年まで「春」だけが、毎年のようにコンセール・スピリチュエルの演奏会の人気曲目としてとりあげられていたとのこと。実に作曲者歿後20 年以上におよぶ快挙です。

 さらにヴィヴァルディはそうしたヴァイオリン音楽や地元ヴェネツィアでのオペラなどだけでなく、実はチェロのための音楽にも独自の貢献をなしとげていました。ボローニャの音楽学者たちや一部の凄腕奏者たちだけが(おそらく特例的な作例として)チェロのための独奏曲を書いていたに過ぎなかった頃から、ヴィヴァルディはより多くの人に向けて演奏されるチェロ協奏曲を次々と書いたり、チェロと通奏低音のためのソナタの楽譜を多々残していたりと、18 世紀初頭にはまだ伴奏楽器としての側面が強かったこの低音弦楽器がいかに独奏でも活躍しえたか、広く知らしめる一助をなしていたのです。
 作曲者が亡くなる前年の1740 年、パリで出版された全6曲からなるソナタ集(なぜか「作品14」とも呼ばれます)が、おそらくヴィヴァルディ自身の了承を得ずに刊行されたものと偽作まがいのように語られはすれど、実はこのソナタ集にはちゃんと手書きの原稿があり、ヴィアルディが原作者であることはどうやら確かとのこと。
 世紀中盤にボッケリーニらがチェロの高音域まで弾ける奏法をあみだす前だけに、より低い音域だけで音作りがなされるこれらのソナタには、くぐもった響きの陰鬱さとスリリングな超絶技巧とが相半ばする独特の魅力が宿っているのです。
 しかも、作曲年代はどうやら1720 年前後—-これはナポリ楽派のレーオやドイツ語圏の作曲家たちがチェロを独奏楽器に使ったソナタや協奏曲を続々と書きはじめるより、ずっと前のことでもあり、興趣はつきません。そんな作品内容についての周到な説明(アマンディーヌ・ベイエールのヴィヴァルディ録音にも解説を寄せているオリヴィエ・フレ氏による解説の日本語訳付)を傍らに、古楽の牙城バーゼル・スコラ・カントルムで腕を磨き、ガッティやベイエールら後代の凄腕たちを育てたキアラ・バンキーニ率いるアンサンブル415で周到な実践経験を積んだイタリアの名手マルコ・チェッカートが、自ら信頼のおける通奏低音仲間と結成したアカデミア・オットボーニとともに送る名演の数々を聴いていると、この作曲家がいかに歌心あふれるしなやかなメロディをこの楽器に託し、低音域の表現性を開拓していったのか、さまざまな発見に目を見開かされる思い——というより、なにしろ演奏が絶妙ぱなので、音楽学的なこといっさいぬきにも、このオーガニックな古楽器の響きに魅了されてしまうこと間違いありません。
 動きの速いパッセージでの細かな弓の返しも小気味よく、緩徐楽章でのしつこすぎない歌の味わいも格別...幾多の名盤に易々と比肩しうる新名演、Zig-Zag Territoires より登場です!
 


ZZT342
(国内盤・2枚組)
\3700+税
イザイ:
 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ、
 2挺のヴァイオリンのためのソナタ

 ウジェーヌ・イザイ(1714〜1788):
  ①〜⑥無伴奏ヴァイオリン・ソナタ集 op.27
   ①ソナタ第1番ト短調〜ヨーゼフ・シゲティに
   ②ソナタ第2番イ短調〜ジャック・ティボーに
   ③ソナタ第3番ニ短調〜ジョルジュ・エネスコに
   ④ソナタ第4番ホ短調
    〜フリッツ・クライスラーに
   ⑤ソナタ第5番ト長調
    〜マチュー・クリックボーンに
   ⑥ソナタ第6番 ホ長調 〜マヌエル・キロガに
   ⑦2挺のヴァイオリンのためのソナタ イ短調
テディ・パパヴラミ (ヴァイオリン)
スヴェトリン・ルセフ(第2ヴァイオリン)

 フランス語圏のヴァイオリニスト(たち)の妙技でイザイの至芸を味わえる機会は、意外に貴重!
 いまフランスで最も熱い名手のひとり、無伴奏作品にこだわりありの異才パパヴラミが、満を持しておくるイザイ全曲録音の、泰然自若にして研ぎ澄まされた響き...二重奏ソナタの共演者も豪華!

 1923 年—-それはクラシック・ヴァイオリンの歴史のうえで、記念すべき年号。フランコ=ベルギー派のヴァイオリンの名匠イザイが、ヨーゼフ・シゲティの弾くバッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ』を聴いたあと、その興奮から一息に6曲の無伴奏ソナタを作曲し、同時代の名手6人にそれぞれのソナタを捧げたのです。
 第1番はもちろん、インスピレーションをくれたシゲティその人に。第2ソナタはフランスの巨匠ティボーに、第3ソナタは作曲家としても名高いルーマニアのエネスク(否、ここはフランス流に「エネスコ」と呼びましょうか)に...20 世紀初頭のヴァイオリン界の頂点を凝縮したような、6曲それぞれに驚くべき演奏効果をあげる技巧的ソナタ集。
 すでに数多くの天才的ヴァイオリニストたちがさまざまな全曲録音を世に問うてきたとはいえ、イザイと同じようにフランス語を話す名手が意外に録音しないのも、この作品集の不思議なところではあります。
 そうした不足を見越してか、現代フランスで最も華々しい活躍をみせている多芸な才人のひとりが、ついにその全曲録音を世に問うてくれました。
 テディ・パパヴラミ——フルートの名手アラン・マリオンに見出され、若くして祖国アルバニアからフランスにやってきて早数十年。ただでさえ無伴奏に一家言あり、すでにバッハ全曲はもちろん、パガニーニは全曲演奏のスタジオ版とライヴ版を2枚組でリリースするという周到さ、さらにはバッハやスカルラッティ(ぱ)の鍵盤作品までヴァイオリンひとつで弾いてしまうほど、彼は無伴奏という演奏形態に思い入れが強いのです。
 つまり今回のイザイ全曲録音は、まさに「満を持して」の充実企画——聴きはじめて直ちに心を捉えられる人も、きっと少なくないはずぱこの驚くべき才人の技量がいかに多元的な深みを持っているか、最初のソナタの冒頭からえもいわれぬ空気感をたたえた演奏で、すぐにわかるのではないでしょうか。
 聴き手に緊張を強いないリラックスした佇まいで自由自在、しかし本人は驚くべき集中力で、イザイが思い描いた作品像が少しずつ、浮彫のように見えてくる——音ひとつひとつの流れに自然と耳が、心が引っ張られてしまう、ナチュラルな魅力あふれる超絶技巧の音作りぱしかも本盤で嬉しいのは、演奏時間30分近くに及ぶ「2挺のヴァイオリンのためのソナタ」を、こちらもソリストとしての技量を日本でもいかんなく発揮してきた仙台コンクールの覇者、スヴェトリン・ルセフとのアンサンブルで聴けることぱ二人のヴァイオリニストそれぞれに確かな技量が要求される、演奏機会も少ないこの傑作を、かくも腕達者なフランス語圏の名手たちの極上演奏で味わえるとはぱ冴えわたる弦の響き、驚くべき高度な技巧の交錯…音楽史上の大立者イザイの素晴しさを多角的に知伝えてくれる、充実の2枚組なのです。
 


ZZT341
(国内盤)
\2800+税
ハイドン:十字架上の七つの言葉
 〜作曲者公認によるピアノ独奏版〜

ヨーゼフ・ハイドン(1732〜1809):
 十字架の上の七つの言葉 Hob.III-50〜56
  〜序奏、七つのソナタと地震の音楽(1787)
   (作曲者公認によるピアノ版)
アレクセイ・リュビモフ(タンジェント・ピアノ)
使用楽器:
 レーゲンスブルクのシュペート&
 シュマール1796 年モデル
 ロシア・ピアニズムの異端児にして、古楽ピアノの世界的名手でもあるアレクセイ・リュビモフ、思わぬハイペースで提案してきた新譜はなんと、ハイドンきっての異色作「七つの言葉」...フォルテピアノの最初期形=タンジェント・ピアノの魅力炸裂、これは彼にしかできない偉業!
 ネイガウスやレフ・ナウモフらロシア・ピアニズムの巨匠たちに師事し、1970 年代以降のソ連における現代音楽シーンの先端をひた走りながら、同時に着実に古楽にたいする見識を深め、偉大な師匠たちの「作品そのものと向きあう」という姿勢から古楽器演奏に造詣を深めてきた、新時代型ロシア・ピアニズムの申し子アレクセイ・リュビモフ——Erato やWarner での録音をへて、今ではZig-Zag Territoires レーベルのみならずAlpha レーベルでも名盤を提案しつづけているこの巨匠は、自分が本当に納得のゆく楽器での作品解釈にあくまでこだわる芸術家肌で、シューベルトの『即興曲集』にいたっては、理想の古楽器を見つけるまで実にプロジェクト開始から8年もレーベルを待たせていたとか...そんなこだわりを妥協なく貫いているからこそ、彼の録音するアルバムはどれもが桁外れに充実した内容を誇る、傑作の魅力を十二分に伝えてやまない存在感あふれる演奏内容をキープし続けているのでしょう。そのリュビモフが前回のベートーヴェン盤(Alpha194)からさほど間をおかず、やおら新譜をリリースしてきたと思ったら...なんとその演奏曲目はハイドン異形の傑作「七つの言葉」とは!
 1787 年、名声あらたかなハイドンのもとに「聖週間の峻厳な祈りの時間のあいだ、ゆっくり奏でられ続ける合奏曲を」と、敬虔なスペインの聖職者から依頼を受けて書かれたこの作品は、なんと全9楽章のうち8楽章までが緩徐楽章でできている驚くべき音楽。
 ジョルディ・サヴァールの名盤などで知られる管弦楽版、ないし名盤あまたの弦楽四重奏版が有名である一方、それらと同時に1787 年頃のうちに楽譜出版された鍵盤独奏ヴァージョン(楽譜には当時の鍵盤楽曲らしく「チェンバロまたはピアノで」と指定がなされています)は、他の2ヴァージョンの特徴あるレガートやカンタービレを思うにつけ、 このゆったりした音楽展開を奏でるにはもっとも不向きでは...?と思わせられてしまう異色版ではあるのですが、あにはからんや。
 リュビモフは18 世紀半ばにいちはやく完成度の高いピアノとして提案されたタンジェント・ピアノというタイプの楽器を用い、作品とほぼ同時期の18 世紀末に作られた作例をもとにして精巧に再現複製された名器で、この緩徐楽章の数々をきわめてコントラストあざやかに、まったく聴き飽きることのない興奮の瞬間の連続として演奏再現してみせているのです...!
 タンジェント・ピアノはハンマー部分の部品の材質ゆえか、音栓を操作することによってチェンバロさながらの煌びやかな音も出せる一方、初期ピアノらしいまろやかな音色も奏でられる、使いこなせば音色美の多彩さで聴き手を魅了できる独特の楽器ではあるのですが、この「使いこなせば」がどうやら容易ではないもよう——
 しかしリュビモフの手にかかれば、それはいとも易々と自然な表現で最大のスペックを発揮、私たちの耳を魅了してやまない驚くべき演奏解釈を体現してくれるのです!
 演奏者自身のコメントも含め、解説全訳付。「これがあの“七つの言葉”?」と耳を疑うことうけあいの興奮の名演。リュビモフの注目度も高まりつつあるところ、お見逃しなく...!





先日ご紹介のリュビモフ/ベートーヴェン

Alpha194
(国内盤)
\2940
アレクセイ・リュビモフ(フォルテピアノ)
 ベートーヴェン:三つのピアノ・ソナタ
  〜月光、ヴァルトシュタイン、テンペスト〜

ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770〜1827):
 1.ピアノ・ソナタ第14 番 嬰ハ短調 op.27-2「月光」
 2.ピアノ・ソナタ第21 番 変ホ長調op.53「ヴァルトシュタイン」
 3.ピアノ・ソナタ第17 番 ニ短調op.31-2「テンペスト」
アレクセイ・リュビモフ(フォルテピアノ)
使用楽器:パリのエラール1802年製作モデル
(再現製作:クリストファー・クラーク、2011年)
Alpha194
(輸入盤/日本語解説なし)
\2500→\2190
 20世紀ロシア・ピアニズムの行き着いた先に、最先端の古楽器研究があった——現代最高峰の異才アレクセイ・リュビモフが、Alphaの「知」と「洗練」にたどりついた瞬間。充実解説、比類ない自然派録音を背景に、選び抜かれた「“月光”の年のエラール」で紡ぎ出される、至高の銘解釈。

 東西冷戦終結後からErato やWarner といった“西側”のレーベルで入念なアルバム作りを続けてきた末、数年前からフランスの小規模レーベルZig-Zag Territoires で丹念に新録音を世に送り出し続けてきたロシアの異才、アレクセイ・リュビモフ。リヒテルやギレリス、ルプーらと同じく往年の名匠ゲンリヒ・ネイガウスに師事、その後はソ連時代からシュニトケ、シルヴェストロフ、グバイドゥーリナ...といった前衛作曲家たちと相次いで仕事をしながら、モスクワ・バロック・カルテットの鍵盤奏者として早くからチェンバロも演奏しつづけてきた彼が、冷戦終結後まっさきに手がけるようになったのが、旧東側では演奏可能な残存例などまず望むべくもなかった「本物の古楽器」、「モーツァルトやベートーヴェンが知っていた18〜19 世紀当時のピアノ(フォルテピアノ)」の探索でした。時には理想の楽器を求めるあまり、録音契約から何年ものあいだプロジェクトに着手できない...ということさえあったほど、リュビモフの演奏楽器にたいする執着は強く、ただでさえどんな楽器でも(そう——現代ピアノも含め!)とてつもない求心力を誇る演奏解釈を聴かせる彼が、そのようなこだわりを貫いた末に磨きあげていった古楽器演奏の素晴しさが、Zig-Zag Territoires レーベルからリリースされた何枚かのアルバムでたっぷり味わえるようになったのはまさに、演奏史上に残る記念碑的出来事と言えるかもしれません(Erato やWarner など大資本レーベルで録音していた時代には、こうした「納得がゆくまで待つ」ということが完全にはできなかったはず)。

 そのリュビモフの新譜が、ほかでもない、フランス小規模レーベルの至宝ともいうべきAlpha から新譜を出すとは、なんという素晴しい時代が来たのでしょう——録音技師はZig-Zag Territores 時代から彼のフォルテピアノ録音を一貫して手がけてきた信頼できるパートナー、フランク・ジャフレ。解説には音楽学者、哲学者、音楽博物館シテ・ド・ラ・ミュジークのキュレーター、復元楽器製作者クリストファー・クラーク...といった錚々たる面々が文章を寄せており、まるで洋書画集のような極上Digipack ジャケットの美しさ、テーマに合わせて選ばれた同時代のジャケット絵画の美質など、演奏の良さを引き立てるあらゆる仕掛けがなされている点はまさに、Alpha レーベルならではのこだわり。

 軸になるのは「月光」——このソナタが1802 年に書かれたさい、ウィーン型とは違うフランス最先端のエラール・ピアノがすでに世に現れていたことをふまえ、まさに同じ年に製作され現存している楽器をもとに作られた精巧な復元楽器(復元楽器は必ずしも「オリジナルに勝ちえない模造」ではなく、「ベートーヴェンがふれた時と同じく“出来たての楽器”」でもあるわけです)で奏でられる三つの傑作ソナタ...『月光』と 『ヴァルトシュタイン』は15 年ほど前にErato でも録音していたということは、当時果たし切れなかった何かが今回の録音に示されている...ということと考えてよさそうです。




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