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第78号
お奨め国内盤新譜(1)
2014.8.19〜2014.10.24


AEON



MAECD1438
(国内盤)
\2800+税
ブレンターノ四重奏団
 
ベートーヴェン:
  1) 弦楽四重奏曲第13 番 変ロ長調 op.130 
  2) 弦楽四重奏のための大フーガ op.133
ブレンターノ四重奏団
 マーク・スタインバーグ、
 セレーナ・キャニン(vn)
 ミッシャ・エイモリー(va)
 ニナ・マリア・リー(vc)
 ベートーヴェンの深み、音楽のみずみずしさ。ありがたいことに後期全曲録音の様相を呈しはじめたブレンターノSQによるベートーヴェン録音、第3弾は後期の“核”ともいうべき大作の全容に迫る——バッハ以後、最も重要なフーガと併せての第13番、待ち遠しい...!

 ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲...というと、おいそれと手を出しかねる印象が強いものなのかもしれません。なにしろ彼は若い頃から自分でも弦楽器が弾けたうえ、交響曲の場合と同じく、最初の曲集(作品18、弦楽四重奏曲第1〜6番)を刊行するまではたいへんな試行錯誤をくりかえしたうえ、その後ピアニストとして活動しながら作曲を続け、32 曲ものピアノ・ソナタを全て書いた後も、また9曲の交響曲がすべて完成した後もなお、弦楽四重奏曲は亡くなる直前まで新作を作り続けたジャンル——つまり、この楽聖の叡智のすべてが凝縮されているジャンルといえば、それはまさしく後期の弦楽四重奏曲群にほかならないのです。

 これまで幾多の全曲録音がなされてきた分野であり、つい最近も(以前はEMI で名盤を連発していた)ベルチャSQ が痛快な全曲録音をZigi-Zag Territoires レーベルから世に問い、『レコード芸術』誌の特選ももぎとり続けたのが記憶に新しいところ——そう、そこにいかに深遠を究める世界が広がっていようとも、これらの傑作に挑む演奏者は必ずしも老練・円熟の域にある老舗団体には限らず、むしろ比較的若い世代のカルテットが意気揚々、自分たちの活動のひとつの総決算のように「満を持して」録音したアルバムこそ、作品と演奏家とが最良の瞬間に、最良のかたちで邂逅をとげた名演につながっている場合が多いのではないでしょうか(実際、最近の例ではアルテミスSQ のベートーヴェン全集がまさにそうですし、すでに高い評価を博してきた古い名盤でも、たとえばアルバン・ベルクSQ の全曲盤は首席のギュンター・ピヒラーが30 代後半〜40 代初頭だった時代を通じて録音がなされています)。
 そうした「気鋭団体の快進撃」をあらためて実感させてくれているのが、アメリカから世界へ羽ばたき、ヨーロッパ中の重要なホールでも高い評価を保ち続けているブレンターノ四重奏団のツィクルスひすでに2011 年の「第12・14番」、翌2012 年には「第15・16番」と大物を相次いでリリース、全世界的に注目を浴びてきたところ、今度は後期四重奏曲の「核」ともいえる「第13 番」へ——当初はその終楽章として構想されたものの、あまりに長大にわたったため単独の楽章として独立させ、あらたな終楽章とさしかえられた「大フーガ」との併録はもちろん当然のカップリングひサンプル到着がいちはやく望まれる話題盤、室内楽ファンにはぜひともじっくり聴き究めていただきたい内容であろうことは間違いなし。

ALPHA



Alpha537
(国内盤・詞付)
\2800+税
ナポリの錬金術物語
 〜ビズリー台本、モリーニ作曲による
  新作バロック・オペラ〜

グイード・モリーニ(1959〜):
 『溶解と凝固』〜マルコ・ビズリー台本によるオペラ
マルコ・ビズリー(歌)
Ens.アッコルドーネ
エリーザ・チッテリオ、
ロセッラ・クローチェ(vn)
ジョヴァンニ・マラルディ(va)
マルコ・フレッツァート(vc)
ヴァンニ・モレット(cb)
フランコ・パヴァン(テオルボ)

 これは久々の快挙! 「バロック様式による新作オペラ」を、イタリアの異才集団アッコルドーネが手がける...
 一座のブレーン足る鍵盤奏者=作曲家=アレンジャーのグイード・モリーニが綴る音楽のテーマは「錬金術」。
 極上の18世紀バロック風、声の魔術師ビズリー絶好調...!

 飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続けてきたAlpha レーベルの初期を代表する名盤『ラ・タランテッラ』で一躍その存在感を印象づけて以来、“声の魔術師”マルコ・ビズリーの活躍はつねに、耳の肥えた日本の古楽ファンのなかでもとくに「違いがわかる」ユーザーの方々の熱いまなざしを集め続けてきました。
 とくに、1984 年の結成当初から一貫して録音物制作を拒否、ひたすらライヴ・パフォーマンスの魅力を追求し続けてきた彼自身のユニット「アッコルドーネ」も、2004 年に長年の禁をやぶり、ついにAlpha レーベルで録音を続けるようになってからは、このユニットのもうひとりの軸である古楽鍵盤奏者=作曲家=アレンジャーのグイード・モリーニとともに、他の古楽アンサンブルとは明らかに「何かが違う」一枚上手のパフォーマンスを続々と世に送り届けてくれるようになりました。
 Alpha デビュー盤『ラ・ベッラ・ネーヴァ』の直後、彼らはしばらくCypres とArcana で音盤制作を重ね(いずれも幸いにして弊社(代理店)扱い、すべて日本語解説付にて発売中)、2012 年に再びナポリ大衆音楽に特化したユニークなアルバムでAlpha へ電撃復帰。昨年はさらに古楽ど真ん中、17 世紀のイタリア教会音楽のなかでも独唱に特化した作品群を、時にはビズリーの多重録音も駆使しながら世に送り届けてくれたものでした。
 しかし、今回の新譜はまさにアッコルドーネでなくてはできないようなプログラム——なんと、全編まったく新たに書き起こされた、現代の新作バロック・オペラぼつまりそれは新作ではありながら、作曲様式のうえではあくまでルネサンス=バロック、それもとくに(日本の多くの人がごく自然に「バロック」と聞いてイメージするような)18 世紀前半の、ヴィヴァルディやスカルラッティ父子、ペルゴレージらが活躍した時代のイタリア音楽を思わせるスタイルでまとめられているのですぼそうした書法の只中に、ふと現代的なサウンドが時折おもわぬ効果をあげていたり——テーマは「錬金術」。信心深いカトリック教徒が多かった、スペイン支配下にあった18 世紀のナポリで、慇懃な物腰で人づきあいも悪くないにもかかわらず、引きこもりがちな性格で折にふれ著述にも打ち込み、ひとかどの錬金術研究家として多くの著作を残したライモンド・ディ・サングロ(1710〜1771)をテーマの中軸として扱いながら、美しいことばの使い手でもあるビズリー自身が台本を書き、それにグイード・モリーニが作曲するというスタイルで、18 世紀ナポリのギャラント様式による室内オペラを彷彿させる極小編成で織りなされる音楽の、なんと美しいこと…!
 プロジェクトの詳細を記した解説はもちろん日本語訳付、台本もきちんと訳付でお届けいたします。
 これぞ、名実とも「声の魔術」と呼ぶべき企画——俊才リュート奏者パヴァンをはじめ、器楽陣も腕達者な古楽器奏者ぞろい!





異才集団アッコルドーネ
旧譜
La Bella Noeva
Alpha 508
輸入盤
\2700→\2490
ラ・ベッラ・ネーヴァ
 〜天上の響き、愛の歌、そして民の心「タランテッラ」まで

 恋する幸せもの (ジョヴァンニ・ステーファニ、17c. )
 この苦悩はあまりに甘く
 (クラウディオ・モンテヴェルディ、1567-1643)
 翼を持つ愛の神よ
  (ジュリオ・カッチーニ、1550-1610)
 麗しのアマリリ (ジュリオ・カッチーニ)
 恋人たちよ、聞いてくれ (ジュリオ・カッチーニ)
 遠く離れて君を想う
  (ビアージョ・マリーニ、1587-1663)
 タランテッラ 第1-3 (マルコ・ビズリー、1957- )
 ラ・ベッラ・ネーヴァ (作者不詳)
 ガッラチーノの唄 (作者不詳)
 君は美しい (アレッサンドロ・グランディ、?-1630)
 コンチェルト・スピリトゥアーレ
 (グィド・モリーニ、1959- )
 主を讃えよ (クラウディオ・モンテヴェルディ)
 アレルヤ:生きるものみな、主を讃美せよ (アコルドネ)

 
マルコ・ビズリー(歌)
グイード・モリーニ(cmb・org・指揮)
アンサンブル・アッコルドーネ(古楽器使用)

 あくまでもライヴとライヴ録音にこだわってきた”幻のアンサンブル” アコルドネが、遂に許したレコーディングCD。テノールのマルコ・ビズリーと鍵盤奏者で作曲家のグィド・モリーニを最小ユニットとするアンサンブル・アコルドネ 。
 その旗揚げ10周年記念プログラム(1999年)に基づく当盤は、17世紀イタリア音楽のエスプリを聖・俗・民の三相から立体的に聴かせる、いわばアコルドネ・ワールドのショーケース。
 噂にきく世界で唯一の声の持ち主マルコの至芸、弦の名手5人に息を吹き込むグィドの時空を超えたアレンジ・センスが、従来の”古楽”に対するイメージを鮮やかに塗り替える。


 


Alpha191
(国内盤)
\2800+税
英国の幻想、ドイツの幻想
 〜17世紀、北海両岸のバロック・ヴァイオリン音楽など〜

 ◆作曲者不詳(ウプサラ大学図書館の写本より):
  ①ソナタと組曲
 ◆作曲者不詳(ダーラムD2写本より):
  ②ソナタ 第21 番 ③ソナタ 第27 番
 ◆作曲者不詳(ユトレヒト・カンプハイゼン写本より):
  ④ダフネ
 ◆作曲者不詳(『マンチェスター・リラ・ヴァイオル・ブック』より):
  ⑤何が一日でも⑥好機はわが仇敵
 ◆ヘンリー・バトラー(?〜1652):
  ⑦ソナタ ト短調 ⑧ソナタ ト長調
  ⑨アリア ホ短調
 ◆ウィリアム・ヤング(?〜1662): 
  ⑩ソナタ ニ長調
 ◆ハインリヒ・シャイデマン(1595〜1663):
  ⑪マスカラーダと変奏曲
  ⑫クラントと変奏曲
 ◆ジョン・ジェンキンズ(1592〜1678):
  ⑬アリア イ長調 ⑭クラント イ短調
 ◆ヴィルヘルム・ブラート(1530〜1660):
  ⑮コラール
 ◆ディートリヒ・シュテフケン(?〜1673):
  ⑯前奏曲 ⑰アッレマンダ(アルマンド)
 ◆ディートリヒ・ベッカー(1623〜1679):
  ⑱ソナタ ニ短調
 (※曲順は①⑦②④⑩⑪⑨⑬⑭⑤⑥⑧⑮⑫③⑯⑰⑱)
ジェローム・ヴァン・ワールベーク(バロック・ヴァイオリン)
Ens.ラ・サント・フォリー・ファンタスティーク(古楽器使用)
リュシル・ブーランジェ(vg)
アルノー・ド・パスクアル(cmb, org)
トーマス・ダンフォード(アーチリュート)
 古楽レーベルとしてスタートしたAlpha レーベル、自らの出発点に立ち戻るかのような極上盤...!
 17世紀の音楽シーンは、想像以上に国際交流がさかんだった。ドイツ北方と英国のつながりを「弦楽器」をテーマに解きあかす玄妙企画。演奏陣はさりげなく欧州新世代の超・注目株揃い!

 メジャーレーベルにまだまだ勢いがあった時代に生まれながら、創設当初から「小資本レーベルの革命」とうたわれるほどの成功をあげてきたAlpha——
 その最初の快進撃をつくったのが、ベッレロフォンテ・カスタルディという、古楽ファンにすらほとんど認識されていなかった17 世紀イタリアの作曲家の単体アルバムだったうえ、その後もドメーニコ・ベッリ、ムリニエ...と17 世紀ものを連発、ようやく8作目にしてバッハ盤が出たかと思いきや、10 作目は現代音楽、その後は100 タイトル以上も「ほぼ古楽器演奏か現代音楽のみ」で勝負しつづけ、いつしかフランス系の欧州最大級のCD ショップFnac の店頭で大がかりな仕掛け販売をするまでに成長していった...このレーベルの歴史を振り返ってみると、つくづく古楽器演奏シーンに革新をもたらしつづけてきた実績は大きいと追認するほかありません。
 最近ではOuthere グループの中軸として、過去盤のBOX 化があったり、主軸シリーズに現代楽器でのフォーレ室内楽作品集が出てきたり、古楽器録音でもバッハやヴィヴァルディら「大物」の新譜が多くなったり...と、リリース形態は確実に変わってはきているのですが、それでもこういう筋金入りのコアな良盤を届けてくれると俄然「やはりAlpha はAlpha だ!」と嬉しくなるのは、おそらく担当である自分だけではないはず。
 この新譜ではヴェルサイユ・バロック音楽センターをはじめ古楽先進国フランスの最前線で活躍する俊才が4人、作曲家の知名度ベースではなく「音楽史のうえでの注目ポイント」ありきで、アルバムの一貫性(=通して聴くときの味わい深さ)をあくまで大切にした入念な選曲でつくりあげたプログラムが、さりげなく本格派のたたずまいで最初から期待感にドキドキしてしまいます。
 実際に聴いてみて、その期待が予想以上に大きく覆される人は多いはず(こういうのがまさにAlpha らしいです!)——
 「17 世紀の英国とドイツでは、楽器だけで弾く音楽がどう活況をみせたか?」というテーマのもと、当時の手書き写本譜などに見つかる北海周辺地域の名曲の数々を手際よいプログラム配列で聴かせてくれるのですが、この実に耳なじみのよいガット弦サウンドのプログラムが、実は古楽通にも意外な発見にあふれているのです!
 ドイツ北方のオルガン演奏の伝統をひくシャイデマンが、実はチェンバロでは英国のヴァージナル音楽にも相通じる音世界を模索していたことに気づかされたり、英国人のヴァイオリニストたちが、さりげなくドイツ南方のウィーンでも活躍していたことを知ったり、北ドイツ系のヴァイオリン音楽が思いのほか英国音楽と相性が良かったり...。
 主役のバロック・ヴァイオリン奏者ヴァン・ワールベークは、知る人ぞ知る桁外れの異才パトリック・ビスミュート(!!!)の門下生。他の3 人はそれぞれAlpha でソロ盤・準ソロ盤をリリースしている俊才たちで、3人とも音楽修業の最初から「古楽」が身近にあった生え抜き!
 解説(日本語訳付)も充実、創設当初いらいのレーベルの個性が最良の形で結晶した新譜といえます。
 


Alpha606
(国内盤)
\2800+税
〜バロック時代と、ヴィルトゥオーゾ・ピアニズムの時代
 リュリ、ラモー、バッハ、ゴドフスキー、ラフマニノフ...〜

 ◆ジャン=フィリップ・ラモー(1683〜1764):
  ①前奏曲 イ短調
 ◆ラモー/レオポルド・ゴドフスキー(1870〜1938)編:
  ②メヌエット ③サラバンド ④リゴードン
 ◆ジャン=バティスト・リュリ(1632〜1687):
  ⑤アルマンド ⑥クラント
 ◆リュリ/ゴドフスキー編 :
  ⑦サラバンド ⑧ジグ
 ◆ジャン=バティスト・レイエ(1680〜1730)/
   ゴドフスキー編: ⑨ジグ
 ◆ドメーニコ・スカルラッティ(1685〜1757):
  ⑩ソナタ ロ短調 K.87 ⑪ソナタ ホ長調 K.162
 ◆スカルラッティ/カール・タウジヒ(1841〜1871)編:
  ⑫パストラーレ ⑬カプリッチョ
 ◆ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
  ⑭組曲 イ短調BWV818a
 ◆バッハ/セルゲイ・ラフマニノフ(1873〜1943)編:
  無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 変ホ長調BWV1006より
  ⑮前奏曲 ⑯ガヴォット ⑰ジグ
セルゲイ・カスプロフ(ピアノ)
 ロシアの凄腕ピアニストが、自分で弾きながら音楽史を考えてみた。

 ゴドフスキーやラフマニノフら超絶技巧の晩期ロマン派作品をあざやかに弾きこなすだけの腕前を持っていながら、彼がこのAlpha デビュー盤で選んだ企画はなんと、バロック作品を現代ピアノでの演奏向けに校訂・編曲した作品の数々を、オリジナルのバロック曲とともに演奏してゆく...というもの。しかしその選曲も、独奏者セルゲイ・カスプロフの経歴を少し振り返ってみれば「なるほど!」と納得——なんと、彼はモスクワ音楽院でもとくにアレクセイ・リュビモフのクラスで大きな刺激を受けて育った人だったのです!
 「現代ピアノをいちばん弾いているから自分はピアニストなのだと思う」と標榜しながらも、彼はチェンバロやフォルテピアノ、オルガンなど他の(時代の)鍵盤楽器も弾きこなす人——古楽器奏者としての意識で、現代ピアノ奏法には無批判にのめり込まない、というのが彼の面白いところで、そのうえで彼はバロック作品と向き合い、今から100 年前の、チェンバロやフォルテピアノなどの「古楽器」が新たに注目されるよりもはるか昔の世界で、バッハやスカルラッティ、あるいはラモーなどのバロック鍵盤作品がどう「現代ピアノで」「誠実に」演奏再現されていったのか?を探ってゆくのです。
 アルバム最後にラフマニノフ編曲でのゴージャスなピアノによる「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ」第3番を置いているところからもわかるとおり、カスプロフのタッチの正確さと指まわりの敏捷さは突き抜けた域にあるのですが、彼はそこに甘んじて派手な演奏効果をねらわないのが、すごいところ...
 ショパンのエチュードを2曲組み合わせて超絶技巧の難曲をつくったりする異才ゴドフスキーがピアノ譜として校訂を手がけたバロック作品の楽譜をみつけてきて、実はそれらが決して技巧の披瀝に走った編曲にはなっていないこと、彼ら20 世紀の、即興演奏を盛り込まなくては名手とみなされなかった時代のピアニストとしての、ひたすら誠実な楽譜校訂になっていたことを明らかにしてみせたり。
 大半の作曲家はオリジナルの楽譜で弾いたものと、ゴドフスキーやタウジヒ、ラフマニノフら19〜20 世紀の一流ピアニストが楽譜を校訂したものを並べて演奏しており、その点も興趣がつきません。この若き曲者名手へのインタビューが解説になっていて(全訳付)、これがまたいろいろ示唆的で実に面白い...ロシア人としての西欧音楽との距離感、バロックと晩期ロマン派の意外な相性、興趣の尽きない話題の連続!
 


Alpha670
(国内盤)
\2800+税
アントニーニ&イル・ジャルディーノ・アルモニコ
 〜交響曲全曲録音「ハイドン2032」プロジェクト1〜

 ◆ヨーゼフ・ハイドン(1732〜1809):
  ①交響曲 第1番 ニ長調 Hob.I: 1
  ②交響曲 第39 番 ト短調 Hob.I:39
  ③交響曲 第49 番 ヘ短調 Hob.I:49「受難」
 ◆クリストフ・ヴィリバルト・グルック(1714〜1787):
  ④ドン・ジュアン、または石像の宴
   〜無言舞踏劇(1761 年初稿版)
    ※曲順は②④③①
ジョヴァンニ・アントニーニ(フラウト・トラヴェルソ)指揮
イル・ジャルディーノ・アルモニコ(古楽器使用)
 そして、新時代へ——Alpha発、イル・ジャルディーノ・アルモニコとアントニーニがスタートさせたハイドン交響曲全曲プロジェクト、ついに始動。第1弾のテーマは「ラ・パッショーネ」...!
 躍動感あふれるドラマ、情熱と受難のコントラスト、ハイドンの“語り口”を、精鋭集団が周到に...!

 Alpha レーベル2014 年の新企画は、ハイドン生誕300 周年となる2032 へ向けての、古楽器演奏による驚くべき挑戦...その仕掛け人はなんと、「古楽=オランダや英国や辛うじてフランス」だった20 世紀末にあって「音楽の本場イタリアでも、古楽器奏者がとてつもなくエキサイティングなことをしている!」ということを広く早くから知らしめてきた異才集団、ジョヴァンニ・アントニーニとイル・ジャルディーノ・アルモニコ(!)というから驚きです!

 アントニーニはスイスのバーゼル室内管弦楽団と自らの楽団である“イル・ジャル”を率いて、古楽器使用ないしそのスピリットを注ぎ込んだ演奏解釈によって、ハイドンの107 曲見つかっている交響曲のすべてを演奏。ヨーロッパではスイスを拠点に全曲演奏会シリーズを続けてゆきながら、録音はAlpha(ないしOuthere グループの)レーベルで継続してゆくとのこと。
 ようやく届いた第1弾リリースの解説書は実にぶあつく(もちろん日本語訳でお届けします)、アントニーニ自身のコメントをベースにした記事を筆頭に、示唆に富んだアイデアがさまざまなかたちで展開されていて、読み応えたっぷり!
 第1 弾のキィワードとしてジャケットに掲げられているのは、交響曲第49 番の綽名にもなっている「ラ・パッショーネ」——これはイタリア語で「キリストの受難・受難節」をあらわすことばであり、毎年春先の復活祭にさきがけ、オペラなど派手な催しは自粛して宗教的なことをする期間に初演されたために当該の交響曲の綽名として定着したようですが、アントニーニら制作側の企図は明らかにダブルミーニングを狙っているようで、それが証拠にジャケットには受難節=春先のイメージでは全くなく、むしろ「秋の紅葉の赤」と「情熱の赤」のイメージが重なるような、美しい紅蓮のアートワークがあしらわれています。
 その選曲もまた、さっそく情熱の交錯とふかく関わりのあるプログラムに——パッションという語は当時の音楽・諸芸術を読み解くためのワードでもあり、音楽は人間の「さまざまな思い=パッション」を表現するものであったという含みも持たせているに違いありません。
 なにしろ今いった第49 番のほか、いわゆる疾風怒濤期のハイドンを代表する短調の交響曲のひとつであるト短調の第39 番(モーツァルトの「小ト短調」こと交響曲第25 番と同じ調性で、やはりホルンを2対使ったドラマティックな展開が聴かれます)と、ハイドンが交響曲を書きはじめた頃ウィーンで初演された、歌劇の大家グルックによるバレエ音楽「ドン・ジュアン」(これもいたるところ、ロマン派を先取りしたような短調の使い方が印象的!)も盛り込まれているあたり、いかにも示唆的ではありませんか。そして「第1 弾」を記念すべく、実はめったに聴ける機会のない「ハイドンの交響曲第1 番」がうやうやしく収録されているのも嬉しいところ!
 ハイドン楽長就任時のエステルハージ宮廷楽団をつよく意識し、実情と彼の意向とをきちんとふまえた員数の演奏編成で、しかも首席は躍進めざましいステーファノ・バルネスキ、管にも“イル・ジャル”の俊才ロドルフィ(ob)ら精鋭ぞろい——彼らのこれまでの演奏を思えば、エッジの効いたスタイリッシュで突き抜けた、緩急あざやかな鮮烈解釈で攻めてくれるであろうことは想像に難くありません。期待感高まる新企画、ご注目を!
 


Alpha607
(国内盤)
\ 2800+税
エリック・ル・サージュ(ピアノ)
ベートーヴェン 最後の三つのソナタ
 〜ピアノ・ソナタ第30・31・32 番〜

  1. ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109
  2. ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
  3. ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op.111
エリック・ル・サージュ(ピアノ)

 2014年後半の瞠目新譜!
 シューマン→フォーレと「かゆいところ」を突いてきたエリック・ル・サージュが、今度はベートーヴェンに、それも最後のソナタから録音しはじめる...来日公演ファンも、必聴!

 それは20 世紀末のこと、フランスに何度目かの古楽旋風が吹き荒れていたころ——フランスに古楽系インディペンデントとして誕生したAlpha レーベルは、そのフェティッシュかつ抜かりのない音盤制作哲学によって意識の高い音盤ファンを魅了、またたくまのうちに欧州中で話題をふりまき「小規模レーベルの革新」とまで言われるようになりました。日本でも2006 年に『エスクァイア』誌がそのブームの秘訣を大きくとりあげています。
 古楽ブームが21 世紀初頭にまで続く重要な足がかりをつくった彼らはしかし、同じ2006 年のうちに思いがけない冒険へと乗り出しました——ほぼ古楽器録音専門でやってきた彼らが突如、フランスでもとくにきわだった活躍をみせていた「現代ピアノの」弾き手を、それも、まさしく現代楽器のスタインウェイによる演奏をフィーチャーし、シューマンのピアノ曲とピアノを使った室内楽の全曲録音へと乗り出したのです!
 日本でも「管楽器の王国フランス」を強く印象づける管楽合奏グループ、レ・ヴァン・フランセのピアニストとして広く知られていた俊英、エリック・ル・サージュとともに...やがて時は過ぎ2010 年、彼らは11 タイトルにおよぶシューマン全集に次ぐプロジェクトとして、フランス随一の作曲家フォーレに着目、やはり同じようにピアノを用いた室内楽作品と連弾作品をすべてとりあげるという、これもまたCD アルバム5タイトルにわたる企画に着手、これは昨年末にリリースされ『レコード芸術』誌でも準特選に輝いた、ベルリン・フィル首席の樫本大進とのデュオによるヴァイオリン・ソナタ集(Alpha604)をもって締めくくられています(彼らは来年2 月、フォーレのソナタを含むフランスもののプログラムをひっさげてデュオで来日予定)。

 この10 年ほどのあいだに、ル・サージュの音楽性にはますます磨きがかかり、度重なるレ・ヴァン・フランセの来日時にもしばしば単独リサイタルを敢行、ベートーヴェンやシューマンなどドイツものを中心とした演目で話題を呼びつづけてきました。そして2014年のいま、彼らが新たに録音企画に臨むのが——なんと、ベートーヴェン最後の三つのソナタとは!
 ル・サージュは近年の来日公演でもたびたびベートーヴェン作品をプログラムにとりあげ(とくに、今年6 月のリサイタルではまさにソナタ第30 番がプログラムに組み込まれていました)、ドイツ=オーストリア系作品の解釈への適性はシューマンの録音とともにシーンに織り込み済みのところ、ますますの注目を集める企画となりそうです(後続巻の登場に期待!)
 


Alpha821
(国内盤・3枚組)
\4800+税
C.P.E.バッハ トリオ・ソナタさまざま&
フルートのための協奏曲の全て(全6曲)

 カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜1788):
  ①トリオ・ソナタ ト長調ソナタ ホ短調 Wq.124/H.551
  ③トリオ・ソナタ ト長調 Wq.144/H.568
  ④トリオ・ソナタ イ長調Wq.146/H.570
  ⑤チェンバロとヴァイオリンのためのソナタ 変ロ長調 Wq.77/H.513
  ⑥トリオ・ソナタ ニ長調 Wq.151/H.575
  ⑦〜⑫フルート協奏曲
   (全6曲 Wq.13, 22, 166,167,168,169/H.416,425,431,435,438,445)*
アレクシス・コセンコ(各種フラウト・トラヴェルソ)
Ens.レザンバサドゥール(古楽器使用)
アルテ・デイ・スオナトーリ(古楽器使用)*


 ますます勢いづく、フランス古楽界きっての国際派トラヴェルソ奏者コセンコの秀逸録音ポーランド古楽界の突き抜けたクオリティを示した銘団体との協奏曲録音と、新録音の室内楽!

 アレクシス・コセンコ!「管楽器の王国」にして古楽先進国でもあるフランスにあって、ライヴァル数多のフラウト・トラヴェルソ(18 世紀型の古楽器フルート)の世界でユニークな存在感を示しつづける男。
 今をときめく古楽器集団レ・シエクルの指揮者F-X.ロートと同じく、フランス・フルート楽派の継承者アラン・マリオンの門下で学んだあと、この名手は(やはりロートと同じく)指揮者としても活躍をみせてきたのですが、その主なフィールドはあくまで18 世紀以前、トラヴェルソという楽器に密着した時代にふかく通暁する道を彼は選んできました。
 そしてカリスマ的古楽レーベルAlpha で2005 年、大バッハの次男C.P.E.バッハのフルート協奏曲を思わぬ楽団の「吹き振り」で録音——その楽団とは、かつてバロック・ヴァイオリン界の超実力派・レイチェル・ポッジャーとヴィヴァルディの傑作録音をリリースし、一躍世界舞台に躍り出たポーランドの凄腕古楽器集団アルテ・デイ・スオナトーリ!以後、彼はこの楽団とC.P.E.バッハの協奏曲全6作をすべて録音し、日本でもC.P.E.バッハを愛してやまない愛好家・音楽通の方々(音盤ファンに実は意外なほど多いことは、各バイヤー様のほうがご存知のはず...!)を中心に、その緩急あざやかなエッジの効いた演奏は高く評価されつづけてきました。数年前に第1弾(Alpha093)がプレス切れになってからも問い合わせが相次いできたこの全曲録音に続き、彼はヴィヴァルディ(Alpha174)とシャルパンティエ(Alpha185)の美しいディスクも同団体と録音。
 さらに最近は中東欧の俊才を中心に新たなアンサンブル・レザンバサドゥールを結成、ホルンやオーボエが大活躍する豪奢な編成のヴィヴァルディ協奏曲集(Alpha190)でも古楽ファンの度肝を抜いたばかり——そんな折、彼が今年生誕300 周年を迎えるC.P.E.バッハのBOX を世に送り出す…と聞けば、おおこれは折よく例の協奏曲全集が!と小躍りもしようというものですが、よく見れば3枚組であるという。なんとこのBOX、完全新録音でC.P.E.バッハのソナタやトリオ・ソナタを6曲集めた充実のアルバムが1枚、それら実績ある協奏曲CD2枚に付属するかたちになっているのです!
 コセンコは解説まで手を抜かない(例によって既存盤2枚のものも含め全訳付)、総合的な企画性を大切にしたアルバム作りをする人ですから、この新たなるソナタ録音部分(トリオ・ソナタでは、さきのレザンバサドゥール盤でみごとなヴァイオリン独奏を聴かせたゼフィーラ・ヴァロヴァが参加)まで含め、生誕300 周年を飾るにふさわしい充実BOX として、商品性の高い1作に仕上げて来るであろうことは明らか!

ARCANA



Mer-A378
(国内盤・19 枚組)
\9250+税

ゼッタイニカットイタホウガイイデス

 ハイドン:弦楽四重奏曲全集
  〜古楽器による初のハイドン四重奏曲全集、待望のBOX化!!〜


ヨーゼフ・ハイドン(1732〜1809):
《CDI-II》
 六つの四重奏曲 作品9
《CDIII-IV》
 六つの四重奏曲 作品17
《CDV-VI》
 六つの四重奏曲 作品20「太陽四重奏曲集」
《CDVII-VIII》
 六つの四重奏曲 作品33
 「ロシア四重奏曲集」・四重奏曲 作品42「スペイン四重奏曲」
《CDIX-X》
 六つの四重奏曲 作品50「プロイセン四重奏曲集」
《CDXI-XII》
 六つの四重奏曲 作品54・55「第1トスト四重奏曲集」
《CDXIII-XIV》
 六つの四重奏曲 作品64「第2トスト四重奏曲集」
《CDXV-XVII》
 六つの四重奏曲 作品71・74「アポニー四重奏曲集」
《CDXVIII-XIX》
 六つの四重奏曲 作品76「エルデーディ四重奏曲集」・
 二つの四重奏曲 作品77「ロプコヴィツ四重奏曲集」・
 四重奏曲 作品103「老人」
フェシュテティーチ四重奏団(古楽器使用)

 アリアCDを創業して以来、ここまで言うのは初めてだと思います。
 1年の間にいろいろなアルバムが出るけど、「絶対に買ったほうがいい」というアイテムはそうそうあるものじゃないです。(今年は1本あったが)
 はっきり言います。これは買っておいたほうがいいです。躊躇していたら間違いなく売り切れます。
 そのときになってあせって手に入れようと思ったら、名前の先頭に「A」がつくネット・ショップで数倍の値段になってしまってると思います。
 これははっきりいって資産です。もちろん聴いて楽しむためのものです。でもそれと同時にこれは資産です。
 ハイドン好きじゃなくても持っておいたほうがいいかもしれません。弦楽四重奏曲好きじゃなくても持っておいたほうがいいかもしれません。古楽器演奏が好きじゃなくても持っておいたほうがいいかもしれません。
 アリアCDもこれは在庫多めに持ちます。





 歯抜けで廃盤も相次いでいた超・重要全曲録音、遂に待望の全曲お値打ちBOXで再登場!

 各巻の日本語解説も添付の全19枚組でこの価格。

 いちはやくプレス切れ御免になりそうな古楽器によるハイドン弦楽四重奏曲全集、初出時「レコ芸」特選連続の、記念碑的全集です。

 弦楽四重奏曲というジャンルは18世紀半ばに流行しはじめ、ハイドンはその創始者ではなく、あくまで「あとから来た達人」としてこのジャンルに関わりはじめただけだったのですが、彼が1780 年代初頭に楽譜出版した作品番号33の四重奏曲集が大ブレイクした結果、全4楽章形式の、その後モーツァルトやベートーヴェンらにも踏襲されてゆく弦楽四重奏曲の「型」が確立された...というのは、まず間違いのないところ。
 結果、彼は全部で(晩年に「確実に自分が書いた」ことを覚えていただけでも)67曲もの弦楽四重奏曲を残して、「交響曲の父」であると同様に「弦楽四重奏曲の父」にもなったのでした。
 その重要性は「皇帝」「ひばり」「五度」といったニックネーム付の傑作だけでなく、全曲すべてに存在意義があるものとして昔から確かに認識されており、すでにLP 時代から全曲録音シリーズはいくつか進行していたくらいですが、それはあくまで現代楽器での話...

 そして驚いたことに、その古楽器による初の全曲録音は、弦楽四重奏という演奏形態を古楽器でやるグループさえそもそもほとんどいなかった頃から延々、この分野でのパイオニアとして活躍してきた老舗団体、フェシュテティーチ四重奏団によって早くも1990年代から進められていたのです!

 2009 年、ハイドン歿後200 周年を記念すべくリリースされた全曲録音(各2〜3枚組で全9分巻)の完結編たる「作品33」と「作品42」のセット(Mer-A414)は、Arcanaレーベルの復活リリース第1弾として世に送り出され、全9巻にわたるフェシュテティーチSQ のハイドン弦楽四重奏曲全集(Mer-A411〜419)を半年にわたって順次日本語解説付にてリリース、うち6巻までもが「レコード芸術」特選(他の3巻も全て準特選)に輝いたのをはじめ、取扱前からの評価はいや増しに高まり、驚くほど早くプレス切れに追い込まれる巻が相次いで出てきたほどでした。

 なにしろフェシュテティーチSQ は「弦楽器大国」ハンガリーの出身だけあって、古楽器演奏の腕前もさることながら、信じられないほど底深い音楽性は(Arcana の直接音重視による自然派録音のおかげもあって)日本の玄人リスナーさえも魅了しつくさずにはおかないほどの充実度なのですから、それも不思議はありません。

 正直、入手可能カタログから削られてはならない重要シリーズであるにもかかわらず入手難が続いていたのを誰もが歯がゆく思っておりましたところ、ようやくArcana が全編収録19枚組BOX 仕様のリリースを決意、入手しやすい形態で再度世に送り出してしてくれることにぱもちろん、個別発売時の日本語解説も再編集のうえ添付。

 標題付の傑作だけでなく、67曲に“捨て曲”がいっさいなかったことを改めて体感できる絶好の機会といえましょう。

 BOX 仕様商品はプレス切れ以降再版されないケースが続く昨今、すぐに再度「パッケージCD では決して入手できない」貴重品に陥る可能性も大...どうぞお見逃しなきよう、早目の確保をお勧めします。
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ARCO DIVA



UP0083
(国内盤)
\2800+税
バルバラ・ドール(ヴァイオリン)
 ヴァイオリン、中欧、ロマン派の始まりと終わり
  〜シューベルト、エネスク、シェーンベルク、ヘンツェ〜

 ◆エネスク(1881〜1955):
  ①ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第3番イ短調 op.25「ルーマニア民衆風」
 ◆シューベルト(1797〜1828):
  ②ヴァイオリンとピアノのためのソナタイ短調 D385
    (歿後出版 op.Anh.137-2)
 ◆シェーンベルク(1875〜1951):
  ③ヴァイオリンのための幻想曲 ピアノ伴奏付 op.47
 ◆ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ(1926〜):
  ④五つの夜曲 〜ヴァイオリンとピアノのための
バルバラ・ドール(ヴァイオリン)
クリスティーナ・マルトン(ピアノ)
 ドイツ西部の最前線で活躍するバルバラ・ドールの、メリハリの利いた作品解釈が絶妙!
 対するピアニストはルーマニア出身の俊才。演奏家の知名度ではない、欧州随一の筋金入りの室内楽が聴ける。しなやかなシューベルトから、現代小品の親しみやすさまで。

 単体の作曲家に集約されていない、ピアノとのデュオ・リサイタルもののヴァイオリン音楽CD というのは、音盤としてはなぜか注目を集めにくいのかもしれませんが...自分の知りうるかぎりでは、一目見て面白い選曲でプログラムを組める人のアルバムにハズレはないどころか、たいていは「当たり」ばかりのように思うのです。
 とくにCD時代になって以来、この種のアルバムは演奏家たちの「名刺代わり」として作成されるようで、彼らがいろいろな国に進出してゆくにあたって自分を知ってもらうため、ひとわたり得意な曲を大小まとめてCD にするケースが多いところ、なにしろ自分の持てるものをきちんと出そうとするからには、結果的に演奏者自身が悪いもので妥協するはずがないというのも、こうしたクオリティの高さの背景にあるのかもしれません。
 ロマン派初期と近代のわかりやすいソナタが1編ずつ、そして作曲家の名前からすると「おそろしい現代音楽」を書きそうな二人—-しかし彼らもオーケストラや声楽入りのものであれば確かに恐ろしく耳になじみにくい曲も書きますが、ここに登場するシェーンベルク作品も、はたまたドイツの異才ヘンツェの5曲も、演奏者ふたりの確かな曲解釈あればこそ・で驚くほど耳なじみのよい仕上がりに。1曲ごと丹念に聴き確かめたくなる小品に仕上がっているのです!

 トーマス・ツェートマイアーの門下生というのもどこか頷ける、また同時にトーマス・ブランディスに師事して筋金入りの作品解釈を学び、またギトリスのような小品の神様、名教師ギンゴルドなどにも師事して多面的な感性を養っていればこそ、臨場感豊かなエネスクの民俗調を、シューベルトのしなやかな憂愁を、かくも鮮やかに聴かせられるのでしょう。見過ごせない1枚なのです。

CALLIOPE



CAL1418
(国内盤)
\2800+税
ジョルジュ・シフラ最後の門弟 クリストフ・ヴォーティエ(ピアノ)
 リスト、シューベルト、ブラームス
  〜 超絶技巧の時代から、ドイツ・ロマン派へ

 リスト(1811〜1886):
  ①セレナーデ
  (シューベルトの連作歌曲集『白鳥の歌』D957より編曲)
 シューベルト(1797〜1828):
  『三つのピアノ曲』D946より
   ②第1番 アレグロ・アッサイ 変ホ短調
   ③第2番 アレグレット 変ホ長調
 ブラームス(1833〜1897):
  ④二つのラプソディ 作品79
  ⑤間奏曲 イ短調 作品118-1
  ⑥間奏曲 イ長調 作品118-2
  ⑦バラード ト短調 作品118-3
クリストフ・ヴォーティエ(ピアノ)

 伝説的ヴィルトゥオーゾ、ジョルジュ・シフラ最後の門弟——丹念に磨き抜かれたピアニズムで、19世紀の大作曲家たちの作品にひそむ「親密さ」の真髄に迫る充実の録音。選び抜かれたプログラムは、必ずしも「曲集全て」ではないこだわり...静かに聴き進めたい、魂のリサイタル。

 ピアニストという職業は、本当に競争率が激しいのだな...と痛感することがよくあります。
 とくに、本盤のような比類ない聴覚体験を約束してくれるアルバムに出会ったとき、そしてそのアルバムで録音に臨んでいる演奏家が、決して若い“売り出し中”の俊才というわけではない、明らかにどこかでヴェテランになるくらい演奏経験を重ねてきた名手であったりするとき...本盤の主人公クリストフ・ヴォーティエは、20 世紀中盤に“リストの再来”と絶賛されたハンガリー出身のフランスの名匠、ジョルジュ・シフラが生涯最後にレッスンを続けた門弟とのことで、つまりは決して若手ではない、すでに確かな演奏経験を積んできたピアニスト——晩年のシフラはヴォーティエの演奏を聴いて、プライベートの場では深い感動をおぼえたと妻に語っていたそうで、その認識があればこそ彼はヴォーティエにレッスンを授けたのでしょう。ヴォーティエはしかし、その薫陶を受けた者として世に出るなどという安易な出世は望まず、その後も英国に渡り、リトアニア出身の名教師スラミタ・アロノフスキー門下でさらなる研鑽に励み、師のもとを離れてからも演奏活動のかたわら腕を磨くことをおさおさ怠らず、師弟とも納得するピアニズムを身につけるまでには実に15 年もの時間を要したとのこと。
 その妥協なき芸術性は、超絶技巧の人と思われてきたシフラの門下にあってなお、決して「技巧のための技巧」を追わない、真の音楽性を見据えて演奏を続ける...という彼自身の確かな音楽哲学が如実に反映された本盤のプログラムにも、よくあらわれているのではないでしょうか。
 リスト編曲によるシューベルトで始まるとはいえ、それは師シフラも得意としたこの作曲家の作品のなかでも、とりわけ超絶技巧を武器にしない、シューベルトの音楽性そのものと対峙した深い編曲例にほかならない...そのあとシューベルト自身の作曲による最晩年の傑作を、最後の第3曲だけぬきにして(いわば曲集を「弾き終わらず」という姿勢?)、そのままブラームス中期から後期にかけての、1曲ごとに深い個性をたたえた5曲の名品へ。
 プログラムを厳選してみせようという姿勢が一貫して明らかなうえ、彼は決して敏捷なテンポに訴えることなく、絶妙に美しく含蓄深く響く(これはもう聴いていただくよりほかありません...なんと聴きごたえある音...)で1音、また1音...とじっくり確かめるように弾いてゆく、曲そのものの魅力がおのずから匂い立つような演奏解釈を続けてゆくのです!
 比較的華やぎある曲なはずのブラームスのラプソディでも、彼の音作りではフォルティシモさえ哲学的に響き、心をせきたてず、音符ひとつひとつの味を確かめさせてくれる...秋の夜長、1トラックごと深く聴ききわめてゆきたい充実のピアニズム。ベートーヴェン後期やシューマンのいくつかを録音してほしい...などと今から期待せずにおれないのは、先走り過ぎなのでしょうか...?!

CYPRES



MCYP4639
(国内盤・2 枚組)
\3700+税
アルベール・アイブレクツ(1899〜1938)
 〜ベルギー近代の夭逝の天才III さまざまな楽器と室内楽〜

 アルベール・アイブレクツ(1899〜1938):
  ①木管五重奏とピアノのための組曲(1929)
  ②パストラーレ 〜6本の木管楽器のための(1927)
  ③木管五重奏曲(1936)
  ④チェロとピアノのための小協奏曲(1932)
  ⑤フルートとヴィオラのためのソナチネ(1934)
  ⑥パストゥレル 〜ヴィオラ・ダ・ガンバとピアノのための(1934)
ベルギー王立モネ劇場木管五重奏団
フィリップ・ピエルロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
リュカス・ブロンデール(va)
セバスティアン・ヴァルニエ(vc)
①②③⑤カルロス・ブリュネール、
②ティル・ファン・ハステル(fl)
①②③リュク・ニーラント(ob)
①②③イーフォ・レイベールト(cl)
①②③ディルク・ノーイエン(fg)
①②③ジャン=ノエル・メルレ(hr)
⑤イヴ・コルトフリント(va)
④セバスティアン・ヴァルニエ(vc)
⑥フィリップ・ピエルロ(vg)
①リュカス・ブロンデール、
④⑥リオネル・バムス(p)

 フランスとドイツのあいだ、晩期ロマン派と近代のあいだ。ベルギー近代の知られざる名匠が40年に満たぬ人生のあいだに残した秘曲のなかでも、とくに意外な楽器編成の名品が続々!
 モネ劇場の俊才たちをはじめ、ベルギー随一の精鋭陣のなかには、なんとあのガンバ奏者まで!

 ベルギー近代...それは、フランスとドイツのあいだに隠れ、さらにはベルギー現代楽壇の鼻息荒い前衛たちに阻まれて、なかなか光をあてられてこなかった絶美の世界!それはチョコレートなどフランス風料理や美術の世界と同じく、この国の「美」への情熱が最もあざやかに形をなしていた時代だったのですが、 ヴァイオリンの名手イザイも作曲家としての活躍はなかなか再発見されないまま(今月の『レコード芸術』で思わぬ秘曲集(MEW1472)が特選に輝いています)、ようやくルクーやジョンゲンなど、1900 年前後から活躍をみせてきた世代に注目が集まりはじめたのが21世紀初頭のこと。
 この国のフランス語圏側の音楽文化を担う気鋭レーベルのひとつCypres は、かつてジョンゲンの再評価に尽力したのと同じく、今はアイブレクツという、つい最近まで同国人でさえまったく知らなかった異才の天分をみごと見出し、すでに2枚のアルバムを通じて復権に寄与してきました(弦楽三重奏曲やヴァイオリン・ソナタ、チェロ小品などを集めた第1弾(MCYP4630)は静かな売れ筋でありつづけ、最近では三菱一号館美術館『ヴァロットン展』でも会場販売で話題を呼ぶ異色の売れ行きをみせています)。
 ここでついに日本上陸を果たす第3 弾リリースは、「管楽器の王国」フランスに負けじとばかり、木管五重奏やフルートをあざやかに使いこなした逸品の数々が並びます——
 ちょうどミヨーが木管五重奏のための至高の名曲『ルネ王の暖炉』を書き、マルティヌーがさまざまな管楽器のためのバロック風小品を書いていた頃、やはり18 世紀音楽の形式をほどよくとりいれた新古典主義的なセンスで、このアイブレクツという人はなんと耳を愉しませてやまない名曲を書きつづけたのでしょう!
 さらに面白いのは、ピアノを使わずフルートとヴィオラだけで奏でられる二重奏や、オーケストラではなくピアノとチェロだけで奏でられる協奏曲(シャミナードのフルート協奏曲などと似ていますね)のような意外な編成でも艶やかな音使いが聴かれるほか、なんと英語圏などで復権をとげはじめたばかりの「古楽器」ヴィオラ・ダ・ガンバのため、ピアノ伴奏で弾くよう作曲された充実の中編小品があること——作曲年代は1934 年、ちょうどプーランクがチェンバロを使った頃の曲というので納得ですが、それにしてもヴィオラ・ダ・ガンバでフランス近代風の音楽とは!それも演奏には古楽大国ベルギーを代表する大御所のひとりフィリップ・ピエルロが起用されているという贅沢さ...充実した音世界をつくるピアニストのバムズ、モネ劇場の俊英たちなど、他の演奏陣も超実力派ぞろいです。解説訳付、フランス近代ファンには強く推薦の新譜!

GRAMOLA



GRML98978
(国内盤)
\2800+税
〜ロシアの2巨頭 ヴァイオリンとピアノのための作品集〜
 チャイコフスキー(1840〜1893):
  ①ワルツ=スケルツォ ハ長調 Op.34
  ②憂鬱なセレナーデ Op.26
  『懐かしき土地の思い出』Op.42
   ③1.瞑想 ④2.スケルツォ ⑤3. 無言歌
 ストラヴィンスキー(1882〜1971)/
  サムエル・ドゥーシキン(1891〜1976)編:
   ⑥『妖精の口づけ』からの四つの場面
    ※曲順は③①②④⑤⑥
アンナ・カンディンスカヤ(ヴァイオリン)
イリーナ・カンディンスカヤ(ピアノ)

“東”の雰囲気を妖しくたたえた、完璧なコントロールでくりだされる精悍なヴァイオリンの音色...
 美しくエモーショナルなだけではない、本場ならではのチャイコフスキーをじっくり聴かせストラヴィンスキーに宿る東欧的センスをあぶりだす、ロシア大御所ふたりの妙技が頼もしい。

 チャイコフスキーが、あの有名な『ヴァイオリン協奏曲ニ長調』のほかにいくつかヴァイオリン曲を書いていたのは、音盤ファンの方々もよくご存知の通り…ヴァイオリン協奏曲のカップリング曲としてもよく選ばれてきた「憂鬱なセレナーデ」もさることながら、「なつかしき土地の思い出」という、1曲ごと味わい深い小品集の存在もまた、意外に無名ではないと思います。
 しかしながら、あの協奏曲の圧倒的な存在感の影で、これらの作品そのものを主人公に据えた録音というのが意外に見あたらない...もし、あの桁外れの協奏曲が書かれなかったとしたら、これらの(しばしば、決して「小品」とはいいがたい長さもある)名品の存在によっても「チャイコフスキーは素晴しいヴァイオリン曲を書く」と言われつづけたと思われるくらい、個々に深い魅力をたたえた傑作であるというのに。そしてそれは「春の祭典」や「プルチネッラ」など、とりあげるなら他にいくらでも傑作がある?

 ストラヴィンスキーも同じこと——チャイコフスキーと同じく、時代を代表するすぐれた名手たちの知遇を得て、かたや隠れファンも少なくないヴァイオリン協奏曲を、かたや「妖精の口づけ」からの抜粋のような耳なじみよくもエキサイティングな小品を書いたストラヴィンスキーもまた、スラヴ諸民族のみならず流浪の民(ロマ=ジプシー)やユダヤの人々など、「東」の諸地域に確かな伝統を持っているヴァイオリンという楽器のために、かなりの名曲を残した作曲家でもありました。
 とりわけ、バレエ『妖精の口づけ』から選ばれた抜粋楽章を、作曲家の共演者でもあった名手ドゥーシキンが編曲した楽譜は、エモーショナルなだけでなく独特の東っぽい野趣をたたえた音色でヴァイオリンを弾ける演奏家の技芸がとりわけ冴える演目でもあり...ここではそうしたロシアの2巨頭によるヴァイオリン音楽を、故郷ロシアだけでなく英国やオーストリアでも腕を磨いてきた俊才アンナ・カンディンスカヤがみごとな弓さばきで堪能させてくれます。

 ゾクゾクするような骨太の低音弦、高音域での艶やかな美音、超絶技巧の鮮やかな決まり具合...ロシアならではの、磨き抜かれていながら荒々しさをも忘れない音楽性は、彼女がクレーメルやバシュメット、ゲルギエフといった大物たちと室内楽や室内アンサンブル、協奏曲などで共演している才人であったことを改めて思い出させてくれるところ。レニングラード音楽院出身の多忙な銘伴奏者イリーナのパートナーシップも絶妙です...!
 


GRML99029
(国内盤)
\2800+税
シュテファン・シュトロイスニヒ(p)
 ハインリヒ・シフ指揮&ウィーン放送響

ベートーヴェン:
 1) ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 op.19
 2) ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 op.58
シュテファン・シュトロイスニヒ(p)
ハインリヒ・シフ指揮
ウィーン放送交響楽団

 端正なシフの指揮のもと、一貫性あるベート—ヴェン解釈を聴かせてくれる新世代の才人!
 スタインウェイD-274のゴージャスさを上品にねじふせ、美質あふれるピアニズムでド・ビリーとの交響曲録音も好調なウィーンの銘団体と織り上げる、上質現代ベートーヴェン。

 ベートーヴェンの新録音が続きます。それも今度は本場も本場、楽聖を育てた「音楽の都」ウィーンから——異才ベルトラン・ド・ビリーとのタッグで新たに勢いづきはじめてから10 年以上、さらにまさしく最近、OEHMS CLASSICS からド・ビリーとベートーヴェンの痛快な交響曲全曲録音を進行中のウィーン放送交響楽団を、稀代のチェロ奏者として名をあげてきたほか指揮活動も旺盛に続けている名匠ハインリヒ・シフが率いて録音したのは...初期と中期の傑作ピアノ協奏曲!
 ソリストもウィーンでマイセンベルク門下に腕を磨き、バシキーロフやバレンボイムのもとでさらなる研鑽を積んできた多芸な才人シュテファン・シュトロイスニヒ——堂々のCD デビューでこのような王道曲目を引っ提げて登場するだけあって、風格はばっちり。

 モーツァルト風味の生きる初期作品・第2番でのクリスピーなセンスといい、第4番でのしなやかな詩情といい、技巧を磨くだけではないのはもはや当たり前、作品像をあざやかに浮き彫りにするコントラスト豊かな、それでいて一貫性あるピアニズムがたまりません(使用楽器はスタインウェイD-274...そのゴージャスさにふりまわされず、精緻な美質を上品に操ってみせる才人ぶりを発揮してみせています)。

 そのかたわら、なんといっても聴き逃せないのが「指揮者ハインリヒ・シフ」の芸達者ぶり!
 かつてシフは英国の俊英集団ノーザン・シンフォニアを率いて来日公演で指揮をつとめたり(絶妙にセンスのよいモーツァルトを聴かせてくれました)、同時期に知性派の名手クリスティアン・テツラフとハイドンのヴァイオリン協奏曲を録音していたり、あのチェロ演奏に聴かせる「格」をきれいにタクトに反映させたかのような、古典的均整と確かな血肉の通った音作りが併存する銘解釈を味あわせてくれていたものですが、2011 年に収録されたこのアルバムではさらに音楽性に深みと奥行きを増した感じがひしひしと伝わってきて、ウィーン放送響との息もぴったり、さながらひとつの楽器のような緩急自在のコントロールのなか、ベートーヴェンの織り上げた音楽世界をぬかりなく上品に、静々と迫るパワフルさを秘めた演奏でじっくり聴かせてくれるのです!軽快な第2 番はもちろんのこと、そうしたシフの端正さがとりわけ美しい結実をみせているのは、やはりあの雄大かつ繊細な第4番のほうかもしれません。
 ウィーンには、いつだって極上がある——そう改めて実感せずにはおれない、上質そのものの現代楽器ベートーヴェン解釈!
 


GRML99031
(国内盤)
\2800+税
パウル・バドゥラ=スコダ
 シューベルト(1797〜1828):
  1. ピアノのための幻想曲 ハ長調 D760「さすらい人」
  2. ピアノ・ソナタ 第14番ハ長調D840「レリーク」*
   〜バドゥラ=スコダ校訂による全4楽章版〜
パウル・バドゥラ=スコダ
(ピアノ/スタインウェイ&ベーゼンドルファー*)

 20世紀ウィーン最高の巨匠が、モーツァルトとともに愛してやまないシューベルトへ、いま——
 1968年、自ら補筆・完成させた「レリーク」の旧録音とともに、2009年新録音で綴られた「さすらい人幻想曲」のたとえようもない音楽性、艶やかな美質、夢のような楽興のひととき。
 20 世紀半ばに燦然と国際舞台に登場して以来、音楽都市ウィーンを代表するピアニストのひとりとして、音楽学著述や古楽器演奏への取り組みなど、ステージ・ピアニストとしての活躍に限られない独自の音楽探求を続けてきたパウル・バドゥラ=スコダ。

 この名ピアニストがひたすらモーツァルトに深い愛を注いできたことは誰しも知るところではありますが、実はそのかたわら、同じくウィーンとわかちがたく結びつけられた作曲家のひとりであるシューベルトにも、彼はつねに強い愛着を示しつづけてきました。もちろん体系的なソナタ録音にも乗り出し、とくに創設間もないArcana レーベルで敢行された古楽器使用による録音は、フォルテピアノでシューベルトを演奏するということ自体がまだ非常に珍しかった1990年代初頭当時、たいへんな話題を呼んだものです(さらに言えば、彼は盟友イェルク・デームスとともに確か1970年代にもフォルテピアノによる連弾作品の録音も残していたはず)。
 近年Transart レーベルで、プラハ室内管弦楽団とともに現代楽器を使ってのモーツァルト協奏曲録音をあらためて連続して行い、ウィーンの中心部に本拠をかまえるGramola レーベルでも、同じウィーンのモーツァルトハウス(かの天才作曲家が「フィガロの結婚」を書いていた頃住んでいた建物に開設された博物館)でソナタや小品などを録音、老境にあって自ら培ってきた音楽のすべてをモーツァルト録音に捧げているバドゥラ=スコダが、実はこうして現代楽器使用によるシューベルトの新録音にも着手していたというのは、なんという驚き、なんという喜びではありませんか...!
 選ばれたのは『未完成交響曲』とほぼ同じ頃、シューベルトのピアニズムをさまざまなかたちで凝縮するかのごとき作風で仕上げられた大作『さすらい人幻想曲』——フレーズのひとつひとつをいつくしむように、作曲家と作品への愛を確かめるように綴られてゆく演奏の深みは、これからもずっと、じっくり聴き究めてゆきたい味わいをたたえてやみません。
 そしてそのカップリングとして、彼は1968 年に手がけた「レリーク」の補筆完成版録音をも収録するよう取り計らったのです。「レリーク」はシューベルトが二つの楽章だけを書いた状態で未完のまま終わったソナタのひとつですが、バドゥラ=スコダはさまざまな音楽学見地と自らの音楽家としての直感をもとに、周到な補筆完成全4楽章版を作成しています。
 これはその版による録音...約40年の年月の開きがありながら、そこに確かに一貫した感性、ぶれることのないシューベルト愛を感じるとき、聴き手の耳はかけがえのない喜びに満たされるのではないでしょうか。
 見過ごしがたい名盤、新たに——さきのモーツァルト盤(GRML98989)に続く話題盤になること間違いなしの、巨匠の来し方と到達点を示す1枚!

INDESENS!



INDE024
(国内盤)
\2800+税
エマニュエル・キュルト
 地中海のパーカッショニスト
  〜フランス国立管弦楽団ソリストと、しなやかな打楽器のひとときを〜

 ◆フェルナンド・ペネリャ(1914〜1993):
  ①闘牛の牛たち(ロス・ミウラス)
 ◆ディディエ・ベネッティ(1960〜):
  ②ラティテュード(緯度)
 ◆モーリス・ラヴェル(1875〜1937)/サフリ・デュオ編:
   ③道化師の朝の歌
 ◆フランク・トルティレ(1963〜):
  ④クロードに捧ぐ 〜麗しの人生
 ◆チック・コリア(1941〜)/ステファーヌ・ラベリ編:
  ⑤ミュージックマジック(テューバと打楽器による)
 ◆ブルーノ・マントヴァーニ(1974〜):
  ⑥おそろしい夜々(ホーンテッド・ナイツ)
 ◆ティアリー・エスケシュ(1965〜):
  ⑦グラウンドII〜オルガンと打楽器のための
 ◆ステファーヌ・ペレグリ(1967〜):
  ⑧サーシャと、赤い山並み
 ◆ウード・ユルゲンス(1934〜):
  ⑨ギリシャのワイン(ジャン・ガラン編)
エマニュエル・キュルト(各種打楽器、ヴァイブラフォン)
アンサンブル・ラティテュード
ディディエ・ベネッティ指揮
フランス国立管弦楽団
ニコラ・バルデルー(cl)
ベルトラン・シャマユー(p)
ティアリー・エスケシュ(org)
ステファーヌ・ラベリ(tuba)他
 色彩的オーケストラの達人が多いフランスには、打楽器奏者たちも超一流の天才が揃っていた——
 フランス国立管弦楽団のスーパープレイヤー、エマニュエル・キュルトがくりだす緩急自在の演奏はメロウなものあり、痛快な南国のパッションあり、ラテンの息吹が理屈抜きに滅法すばらしいのです!

 各種打楽器を使いこなす桁外れの才人的パーカッショニストが主人公!
 エマニュエル・キュルト(ドイツ語のKurt をフランス風に読め、と言われました)、フランス国立管弦楽団で活躍する南仏出身の若きソリストが織り上げてみせたプログラムは、思いがけないソロ・トラックの数々もさることながら、共演者があってこそ映える打楽器の魅力をもあざやかにすくいとっていて、打楽器奏者としての一貫性をあざやかに印象づける仕上がりになっていて聴きごたえ充分。
 これを聴いたら他のフランス系オーケストラものの録音でも、あらためて打楽器パートの立ち回りに耳をそばだててみたくなるであろうこと請け合いな、実に興味深い打楽器の存在感がたまりません。
 とくに美しいのは、パイプオルガンと打楽器を組み合わせてみせたエスケシュの逸品、あるいはテューバ(!)の立中低音がシックなチック・コリアの「ミュージックマジック」...30 代でパリ音楽院の学長に就任した話題作曲家マントヴァーニの充実作も、かなり本格的な現代音楽であるにもかかわらず、このプログラムの流れのなかではまるで異質な感じがしないのが不思議なところ。

 ラヴェルの編曲ものなどユニークなトラックも含め、南仏出身のキュルトが原体験的に肌で感じてきた少年時代の「隣国スペインの空気」への憧憬が、ところどころ裏テーマのように盛り込まれているのもポイント。
 地中海の躍動感と人情味、生と死とが隣りあわせなラテン的緊張感にただよう官能性、全体に極上のヨーロッパ映画を愉しんでいるような気分にさせてくれる1枚です。

PAN CLASSICS



PC10314
(国内盤)
2800+税
リナ・トゥール・ボネ
 ヴィヴァルディ 協奏曲、あるいはソナタ
  〜新発見・新校訂作品さまざま〜

 ◆アントニオ・ヴィヴァルディ(1678〜1741):
  ①ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 RV 218(世界初録音)
  ②ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ
   (グラーツ・ソナタ第4番)ハ短調 RV7
  ③ヴァイオリン協奏曲 イ長調 RV346(世界初録音)
  ④ヴァイオリン協奏曲 ハ短調 RV771
   (オリヴィエ・フレ補筆完成版)
  ⑤ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ
   (グラーツ・ソナタ第3番)ニ長調 RV11
  ⑥ラルゴ ヘ短調〜ヴァイオリン協奏曲 ハ短調 RV202 より
   (ゲオルク・ピゼンデルによる装飾音が施された版、
    ドレスデンの手稿譜より)
リナ・トゥール・ボネ(バロック・ヴァイオリン)
Ens.ムジカ・アルケミカ(古楽器使用)
 スペイン出身の腕前確かなバロック・ヴァイオリン奏者が思わぬ新録音を届けてくれました!
 すでにたいていの曲は録音されていたかと思いきや、ヴィヴァルディの「作品番号なし」のヴァイオリン協奏曲の数々には実のところ、いまだに録音されたことのない異色の名曲が何曲もあり、本盤はそれらも「ワケあり」の事情をうまく読み解き対処したうえで収録した、いわば未知のヴィヴァルディ世界へのイニシエーションとなっているわけです。

 DigiPack による美麗なジャケットについつられて手を伸ばしてみた...といった気軽な気持ちで聴く人にとっても、じゅうぶん以上に満足いただけるであろう、いかにもヴィヴァルディらしい超絶技巧のヴァイオリン・ソロや艶やかな旋律美といった諸要素に事欠かないのはもちろん、本盤では基本的に協奏曲でも1パートひとりずつ、つまり(ヴィヴァルディが教鞭をとっていたヴェネツィアのピエタ養育院のオーケストラとは違う)18 世紀初頭当時のスタンダードな演奏環境にそくした編成で演奏しており、その合間に盛り込まれた通奏低音伴奏の身のソナタ群では逆にところどころ通奏低音楽器を増やして、18 世紀当時いかにソナタ(室内楽)と協奏曲(大合奏でも弾ける音楽)とが境目なく共存していたか、あらためて教えてくれる本格派のアルバム作りがまた頼もしいところ!
 コンチェルト・ケルンやレザール・フロリサンでコンサートマスターもつとめてきたスペインの名手リナ・トゥール・ボネの、しっとり濃密ながら華やぎに事欠かないガット弦さばきが痛快です。

 解説はマイクル・タルボットを追い落とさん勢いでヴィヴァルディ盤ライナーを書き続ける才人オリヴィエ・フレ(全訳付)——見逃せない注目盤です!
 


PC10306
(国内盤)
\2800+税
リンドン・ウォッツ
 19世紀バスーンの銘器と、作曲家たち
  〜ベートーヴェン、ライヒャ、ロッシーニ、ドニゼッティ〜

 ◆ジュゼッペ・タンプリーニ(1817〜1888):
  ①ドニゼッティの『連帯の娘』の主題群による技巧的幻想曲
  (ファンタジア・ディ・ブラヴーラ)〜
   バスーンとピアノのための
 ◆ベートーヴェン(1770〜1827):
  ②三重奏曲 ト長調 WoO.37 〜
   フルート、バスーンと鍵盤楽器のための*
 ◆アントン・ライヒャ(またはアントニーン・レイハ 1770〜1836):
  ③バスーンとピアノのための二重奏曲 変ロ長調
 ◆ロッシーニ(1792〜1868)/フレデリク・ベル編 :
  ④カヴァティーナ(歌劇『どろぼうかささぎ』より)〜
   バスーンとピアノのための
リンドン・ウォッツ
(19 世紀バスーン/J=N.サヴァリ1823 年モデル)
エドアルド・トルビアネッリ
(fp/ローゼンベルガー1840 年製オリジナル)
マリアン・トロイペル=フランク
(ft/グレンザー1810 年頃製作モデル)*
 ミュンヘン・フィルで、レヴァイン時代から首席を張ってきた若き名手は「古楽器の達人」だった!

 「バスーンのストラディヴァリウス」と呼ばれたサヴァリ2世の稀少な現存銘器を周到に再現製作、えもいわれぬ低音の上品さと高雅な高音部に魅了される、古楽器を使う意義をつよく感じる名演!

 ファゴット...いや、本盤のひそかな主人公である楽器製作者サヴァリ2世はパリの工房で活躍した人ですから、彼が作ってきた楽器はファゴットというより、フランス式楽器(バソン)の先祖ととらえたほうがよいのでしょう(そのあたりを意識しつつ、今回のアルバムでは一貫して英語の「バスーン」を訳語として充てています)。

 19 世紀中盤に亡くなったにもかかわらず、この18 世紀末生まれの名工ジャン=ニコラ・サヴァリ2世(1786〜1853)が手がけた楽器は広くフランス語圏と英国で高く評価されつづけ、名高い楽譜出版社ブージー&ホークスの所蔵する19 世紀末(!)の英国製バスーンの多くの作りにも、このサヴァリ2世の楽器からの影響がありありとみとめられるほどだそうです(つまり、18 世紀末にパリで楽器製作を学んだ人の作ったバスーンが、そのままエルガーやラヴェル、ヴォーン=ウィリアムズやストラヴィンスキーが活躍した時代の英国やフランスで人気だったということになりますが、なかなか思いがけない話ではありませんか)。
 現存する貴重なサヴァリ2世自身の作例をもとに、周到に復元製作がなされた歴史的バスーンを吹くのは、近年なおレヴァインや故マゼールらとの共演で知られるミュンヘン・フィルで、20 世紀末以来ソロ奏者をつとめてきたオーストラリア出身の名手リンドン・ウォッツ——なんと彼は古楽器の達人でもあり(アンサンブル・ゼフィーロの大ヴェテラン、アルベルト・グラッツィ門下に研鑽を重ねています)、フォルテピアノの名盤を数多くリリースしている俊才トルビアネッリの弾くウィーン製オリジナルの歴史的ピアノとともに、あるときはベル・カント・オペラの名旋律を流麗な超絶技巧とともに余裕綽々、またあるときはベートーヴェン最初期の、管楽器を使った「知る人ぞ知る」トリオ(なんと、古楽器では初録音!
 意外な盲点)や、同じボン宮廷に仕えていたあとパリに出た才人ライヒャの秀逸な二重奏曲など、充実した多彩なプログラムで、サヴァリ2世の楽器の特徴ともいえる優美な低音のあでやかさを、あるいは高音域での高雅な調べを、たっぷり堪能させてくれるのです!

 解説充実全訳付、バスーンの歴史にサヴァリ2世あり、を強く印象づける、好事家の慰みの域をはるかに超えた古楽器バスーン録音の白眉といえる1枚。「音」も届いております、お気軽にお申し付けを!
 


PC10300
(国内盤)
\2800+税
グナール・レツボール、Symphonia の名盤復活!
 ビーバーの、ありとあらゆる祝祭音楽
  〜チェコ東部、音楽宮殿クロムニェジーシュ城のバロック謝肉祭〜

◆ハインリヒ・イグナーツ・フランツ・フォン・ビーバー(1644〜1704):
 ①喇叭の響きと、音楽による食卓のもてなし
 ②4声のアリア(I) 〜4声のための
 ③ハルモニア・ロマーナ(ローマ風の音楽)
 ④バレッティ(舞踏音楽さまざま I)
 ⑤4声のアリア (II)
 ⑥バレッティ(舞踏音楽さまざま II)
 ⑦バレッティ・ラメンタービリ(悲哀の舞踏音楽)
  〜4声のための
グナール・レツボール(バロック・ヴァイオリン)
アルス・アンティクヮ・アウストリア(古楽器使用)
 これは痛快!
 村祭りをイメージした宮廷音楽を思わせる、緩急自在の娯楽的バロック弦芸術——

 ほんのり物語仕立てにプログラムを並べ、リコーダーなど織り交ぜて。モーツァルトの1世紀前、オーストリアの宮廷音楽生活はなんて精彩鮮やか!異才レツボールの懐の深さ、最高です!

 私たちにとって「バロック音楽」というとつい、バッハやヴィヴァルディの活躍した18 世紀初頭の音楽のことを思い浮かべてしまうかもしれません。
 でも実のところ「バロック」とは「ゆがんだ真珠」の意...美術史用語としてのバロック美術が、17 世紀の美術家たちの表現をさすことばとして使われやすいのと同じように、西欧芸術音楽の世界が「ゆがんだ真珠」のごとく、均整よりも躍動感を、理知よりも感情の発露を、統一よりも逸脱をいっそう求めていた時代といえば、それはやはり17 世紀にほかなりません(コレッリがトリオ・ソナタ形式を洗練の極致に導き、ダ・カーポ・アリアの形式が定まり...などというのはいわば「次の時代」に属することのような)。

 ルーベンスの虎狩りの絵やベルニーニの官能的な彫刻装飾のような、ダイナミズムあふれるエキサイティングでエッジの効いたバロック宮廷音楽をおもうぞんぶん味わうなら...娯楽にかけては周辺諸国を押しのけんばかりの本気をみせるオーストリア人たちこそ、この種の音楽を本気で突き詰められる天才ぞろいだったのだとあらためて痛感せずにおれなくなるのが、超絶技巧と本格音楽学の徒、バロック・ヴァイオリンの鬼才グナール・レツボール率いるアルス・アンティクヮ・アウストリアのこの1枚!

 かつてSymphonia レーベルで制作されたものの長らく廃盤になっていた本盤は、17 世紀のオーストリアを代表する作曲家のひとりH.I.F.ビーバーに焦点をあて、膨大な量に上るその作品の数々をていねいに厳選、彼がかつて仕えていたチェコ・オルミュッツの司教君主の宮殿における、痛快きわまりない謝肉祭の祝典を音で再現してみせよう...というプロジェクト!
 ビーバーは自らドイツ語圏随一の技巧派ヴァイオリン奏者として名をはせただけでなく、作曲家としても合奏曲から礼拝音楽まで、ありとあらゆるジャンルを手がけた多作家だったわけですが、ここに選ばれているのは、主君である司教君主の入場をたたえる金管・打楽器入りの壮麗な導入曲から、ヴァイオリンがひとつ、あるいは合奏であざやかな音の交錯を聴かせるソナタや舞踏曲、そしてビーバーならではの描写的な音使いにみちた異色系の小品など、全面的に歌詞や歌い手などほとんど出てこないにもかかわらず、とにかく多種多様な音遊びの妙の連続で、まるで物語のようなスリリングな展開でまったく聴き手を飽きさせないのです。
 折々よーく耳を傾けてみれば、使われている音楽のそこかしこに信じがたい超絶技巧が盛り込んであり、レツボールが極度の劇的起伏をあくまで大切にしながら、そうしたパッセージをこともなげに弾きこなしてゆくようすにもまた、あらためて陶然とさせられたり…その後ビーバーはオルミュッツ司教の宮殿を去って、いつしかザルツブルク大司教の楽長となるのですが、それ以前の若き日のみずみずしい感性も彷彿とさせるような曲が揃っているのも貴重。
 


PC10312
(国内盤)
\ 2800+税
シュトラウス父子のホルン協奏曲集
 フランツ・シュトラウス(1822〜1905):
  1. ホルン協奏曲 ハ短調 op.8
 リヒャルト・シュトラウス(1864〜1949):
  2. ホルン協奏曲 第1番 変ホ長調 op.11
  3. ホルン協奏曲 第2番 変ホ長調(1942)
ザムエル・ザイデンベルク(ホルン)
ゼバスティアン・ヴァイグレ指揮
フランクフルト放送交響楽団

 生誕150周年の「息子」R.シュトラウスの2傑作もさることながら、「父」フランツの協奏曲も!
 ブラームスやワーグナーの同時代に、巨匠たちからも絶賛されたホルン奏者だった父の逸品、息子の新古典主義的傾向...ミュンヘン・フィルでも活躍したドイツの名手、あざやかな名演!

 今年ついに生誕150 周年を迎え、リヒャルト・シュトラウスの見過ごされがちな曲目にも静かな注目がなされるように...という流れの一環といえましょうか、見過ごせない好企画&名演奏の1枚が本場ドイツから登場!
 パーヴォ・ヤルヴィとの共演でますます勢いづくフランクフルト放送交響楽団による最新録音は、リヒャルト・シュトラウスが若い頃と晩年とにそれぞれ1曲ずつ書いているホルン協奏曲(ご存知の通り、どちらも対照的な名曲!)のかたわら、この稀代のオーケストラ作曲家が早くからホルンその他の管楽器への見識を養うにあたっても大きな存在だった父親、ミュンヘンの名ホルン奏者フランツ・シュトラウス(1822〜1906)の協奏曲をも収録してくれているのです!

 リヒャルト・シュトラウスの伝記的記述を紐解けば、父がバイエルン王ルートヴィヒ2世の治世下で、ミュンヘン宮廷楽団のホルン奏者として大いに活躍をしていたこと、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』や『ラインの黄金』など、バイエルン王室で初演されたワーグナー作品のホルン・セクションは彼なくしては考えられなかったことなど、息子の知名度とは全く関係のないところでフランツ・シュトラウスがいかに大きな活躍を続けていたか、さまざまなエピソードに出会うことになるところ。
 ここでソロを吹いている名手ザムエル・ザイデンベルクは、ベルリン・ドイツ響やバンベルク響、作曲家父子ともゆかりの深い町のミュンヘン・フィル(!)...といったドイツに冠たる世界的オーケストラでソロ奏者を歴任したのち、2006 年からフランクフルト放送響の首席をつとめている超実力派。
 つまり近年のドイツ各地における独墺ものの名演、なかんずくさまざまなブルックナー・マーラー録音などでも活躍をみせてきた名手...というわけですが、古典派的なテクスチュアをよくふまえたうえで、シンプルとはいいがたい音運びに的確に対応できる腕前なしには吹きこなせないであろうR.シュトラウスの新古典主義的な第2協奏曲などはまさに、この名手がいかに一筋縄ではゆかない腕前の持ち主だったかを強く印象づけずにはおかない名演になっていて、頼もしいことこの上ありません。
 気になるフランツ・シュトラウスの協奏曲は、ハ短調の陰翳もあざやかな盛期ロマン派風——ヴェーバーやシューマンがホルンを使って描き出してきた浪漫情緒を、ここでも存分に味わえること請け合い!そのしなやかなブロウを支えるゼバスティアン・ヴァイグレ(NHK 響なども振っていますね)の好サポートも、父子ともどもの作風を引立てる絶妙の解釈をみせています。

 充実解説日本語訳付——秋冬にじっくり聴き込みたい、見過ごせない1枚です!
  


PC10318
(国内盤)
\2800+税
待望の再登場!アントニオ・メネセスのポッパー!
 ポッパー:
  チェロ協奏曲第2番、および
  その他のチェロと管弦楽のための小品さまざま

   ダーヴィト・ポッパー(1843〜1913):
    ①チェロ協奏曲(第2番)ホ短調 作品24
    ②森のなかで 作品50
    ③蝶々 作品3-4
    ④タランテッラ 作品33
    ⑤ハンガリー狂詩曲 作品86
    ⑥妖精の踊り 作品39
アントニオ・メネセス(チェロ)
ロナルト・ゾルマン指揮
バーゼル交響楽団

 待望の再登場、もちろん国内仕様では初出!!

 ロマン派時代のチェロ演奏を大きく進歩させ超絶技巧の小品の数々とともに記憶された名匠・ポッパー...
 重要な協奏曲をはじめ、艶やかさと軽妙さ、浪漫的な味わいをたたえた名品群を、名匠メネセスの名演で聴ける!

 先日、カール=アンドレアス・コリーが録音した、ヴィトゲンシュタインのための「左手のためのピアノ協奏曲」などをはじめとする作品集をPan Classics が10 数年ぶりに廃盤から復活させたとき、これは2 回前のレーベル経営体制変更の少し前に作られてすぐに埋もれてしまった何枚かの名盤が復活するチャンスだろうか...と恐る恐るレーベルディレクターに確認してみたところ「うん、徐々に出しましょう」との色よい返事が!
 その言葉にたがわず、Pan Classics は1995 年にリリースしたものの、流通在庫がなくなるや廃盤になってしまったこの比類ない名盤を、あらためてDigipack の美麗ジャケットとともに再発売してくれました。
 解説付の国内仕様で日本流通するのは、もちろんこれが初めて(のはず)——グリーグと同じ年にプラハで生まれ(フォーレより2歳年上)、ウィーン皇室劇場の指揮者にもなりつつ、桁外れのチェロの名手として広く演奏旅行も行うかたわら、ヘルメスベルガー四重奏団やフバイ四重奏団の一員としても活躍、第一次大戦直前の1913 年に亡くなったロマン派チェロ界の大御所、ダーヴィト・ポッパーの作品集!

 チェロのための小品を数多く残したことで知られるポッパーの曲としては、チェロ・リサイタルで腕に覚えのある凄腕奏者がアンコールなどでとりあげる「妖精の踊り」というめまぐるしい曲が最も有名かもしれませんが(かのヤーノシュ・シュタルケル(実はポッパーの直接の孫弟子!)も彼の小品を集めたアルバムを1枚、アメリカで制作しています)、このPan Classics の録音が特にうれしいのは、そんなポッパーの貴重な協奏曲を1曲フルで収録してくれているうえ、他の小品の数々もまた、オーケストラ演奏会用に管弦楽伴奏のために用意された楽譜で演奏されているところ...
 そのうえ、演奏は日本でも20世紀以来ずっと高い評価を博し続けている巨匠、アントニオ・メネセスというのですから、なんと贅沢な話ではありませんか!
 指揮はベルギー国立管弦楽団との共演などでも名盤をいくつか残している俊才ロナルト・ゾルマン、1995 年時点ではまだ統合・名称変更がなされる前だったバーゼル交響楽団はとにかく絶好調で、メネセスの勢いを小品では絶妙に好サポート、協奏曲ではじっくり対話の相手として立ちまわる頼もしさ!
 ポッパーについて日本語で読める解説訳がついてくるのも、意外に重要なポイントかもしれません。見過ごせないチェロ盤、ご注目を!
 


PC10298
(国内盤)
\2800+税
レツボール、満を持して
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
  1.パルティータ第1番 ロ短調 BWV1002
  2.パルティータ第2番 ニ短調BWV1004
  3.パルティータ第3番ホ長調BWV1006
グナール・レツボール(バロック・ヴァイオリン)
使用楽器:ゼバスティアン・クロッツ18 世紀製オリジナル

「バッハの“無伴奏”は、ホールの響きで聴くほうがおかしい」——
 徹底して「作曲当時」の演奏環境にこだわる異才レツボールが、自ら録音技法にまでこだわりぬいて録音してみせた傑作中の傑作...まるですぐそばで演奏しているような驚異の音で、ついには「シャコンヌ」も..

 .2012 年に、日本ではいまさらのように「レコード・アカデミー賞」を授けられたオーストリアのバロック・ヴァイオリン奏者、異才中の異才グナール・レツボール——自国の17〜18 世紀における演奏習慣に徹底してこだわりをみせ、この国における音楽文化を育てた修道院や地方教会の奏楽隊をイメージしながら、聖歌隊の高音はすぐれた少年歌手に、弦楽合奏はたいてい1パートひとりずつの極小編成で、ひたすら「当時の音の組み合わせ」のなかから作曲家の真意に迫ろうとする男。
 バロック・ヴァイオリンの演奏技量が桁外れに洗練されていることは、彼が受賞したアルバムが、17 世紀ドイツ語圏最大とも言われるヴァイオリンの名手でもあった作曲家H.I.F.ビーバーの、きわめて演奏のむずかしいソナタ集であったことからも、よくわかると思います。そのレツボールが、自らの齢50 を記念するかのように、満を持して録音したバッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』は、その素晴しすぎる演奏解釈(このあたりはもう、世界クラスの演奏家であってみれば一定以上のクオリティを満たしていても驚かれないかもしれませんが)もさることながら、なによりもまず録音エンジニアリングがきわめてユニーク...

 レツボール曰く、そもそも当時この種の無伴奏曲を大人数の聴き手相手に演奏・披露するなどということはあったためしがなく、作曲家はあくまで、見識の高い音楽愛好家(ないし宮廷人?)が私室で弾き楽しむものとしてこれを書いたはず...との前提のもと、演奏会場の残響はいっさいぬきの、ひたすら直接音だけが聴こえる場所(レツボールの私邸!)で、極度の近接設定でマイクを設置、妥協を全く許さないその演奏環境で、まさに演奏者自身が、あるいは(ヴァイオリンを生涯たくみに弾きこなしつづけたという)作曲家バッハ自身が脳裏に聴いていたであろう響きに迫ったのです!

 この企画にさいし演奏者自身が解説を書いていますので、少し引用してみましょう:

 「ここで私は、これらの作品にひそんでいる、ごく私的・個人的な側面をとくに強調したいと思いました——お聴きいただくみなさんにも、私からほとんど距離のないくらいのところで、そう、普通の「演奏会」ではありえないくらい近くで、この音楽を体感していただけるように。[…中略…]セッションにさいして、マイクは私のヴァイオリンのほんとうにすぐそばに設置されました。[…中略…]お聴きくださるみなさんの耳には、私が演奏中、どう弾いてゆこうか...と思い描いているのと、まったく同じ音が届けられるのです。[…中略…]注意深く聴いていれば、音が虚空に投げ出される瞬間、その弦に当たっている弓の毛の数までわかってしまうかもしれません。それは苦しげな、ほとんど悲鳴のようでさえある不協和音が、ひたすら安らかで寛いだ協和音と、すぐ隣同士で隣りあっている、そういう不思議な世界です。そういった相反する要素が、この作品の響きの世界に、無限のニュアンスを、またとない陰翳をもたらしてやまないのです」(G.レツボール/第1巻解説より)。

 ここに語られているとおりのサウンドで、あの重音奏法を多用する第1パルティータや「シャコンヌ」に切り込み、従来であればホールの残響で和声を感じさせていたところさえも、あくまで直接音のみに作曲者の企図を感じさせる...フーガの連続で圧倒的な演奏効果をあげた前作以上の存在感!

PASSACAILLE



PSC903
(国内盤)
\2800+税
C.F.アーベル 六つの交響曲
 〜交響曲の都ロンドン、モーツァルトの来た道〜

 カール・フリードリヒ・アーベル(1723〜87):
  ①序曲(交響曲)ハ長調 作品5-4
  ②序曲(交響曲)ト長調 作品14-5
  ③交響曲 変ロ長調 作品17-8
  ④序曲(交響曲)ハ長調 作品1-2
  ⑤交響曲 変ホ長調 作品4-3
  ⑥序曲(交響曲)ニ長調 作品7-3
パウル・ドンブレヒト指揮
イル・フォンダメント(古楽器使用)
 少年モーツァルトに交響曲というものの面白さを教えたのは、先進都市ロンドンの音楽界だった...?!
 「歌うアレグロ」の真髄をいちはやくとらえ、オーケストラだけの音楽に絶賛を送ったロンドンっ子を興奮させた「バッハ=アーベル演奏会」の花形曲目を、古楽界随一のプレイヤーたちの名演で!

 「英国は、音楽不毛の地——パーセル以後エルガーの時代まで、英国にはろくな音楽家がいなかった」...などという言い草は前時代的な事実誤認だなんて、いまさらここでくりかえす必要もないでしょう。
 なにしろ17世紀末いらい、欧州に冠たる先進地域でありつづけた英国...華やかな大都市には最先端の文化に目がないセンスあふれる人々が集い、その財布を目当てに、世界中からすぐれた芸術家が集まってきた場所。音楽も例外ではなく、英国人作曲家がすぐに後世人たちから忘れられていったとはいえ(このあたり「ひとむかし前の自国の偉い人より、ほんものの外人選手」という一貫した姿勢も感じられます。
 金満家文化?たとえばメンデルスゾーンの傑作オラトリオ『エリア』やドヴォルザークの『レクィエム』はバーミンガムで世界初演されて大好評を博しましたし、いうまでもなくヘンデルはロンドンで大活躍、ハイドンもロンドンに来てから大いに株をあげたわけで。
 他にもhyperion やChandos など英国のレーベルが続々発掘してきているとおり、18〜19世紀の英国人作曲家たちにもすぐれた人物は枚挙に暇がなく、この国に音楽不毛などとそしられるいわれはまったくなかったことは今や、多くの人がよく知るところ。そしてこの国が古典派からロマン派の時代にかけ、音楽史上とくに大きな意味を持っていた点として見過ごせないのが「交響曲というものの流行の先端を担った場所」だったということ——
 もともとオペラの序曲にすぎなかった全3楽章の音楽が、チケットを売ってお客さんを集め演奏を披露するというオーケストラ演奏会(この興行形態じたい、17世紀の英国が発祥の地とも言われています)の重要な演目として発展してゆくにあたっては、この国の耳の肥えた聴衆層が大きな役割をになったと言っても過言ではなかったのです。それはもはや限られた人しか聴けない宮廷音楽ではなく、多くの人に開かれた音楽ジャンルになり、人気が出れば楽譜も印刷され売り出されて、アマチュア演奏家たちを巻き込みさらなるブームを盛りあげる...という、注目度の高い音楽になっていったわけです(楽器や楽譜にお金を出せる市民層が多かった…という点でも、英国は交響曲が流行するうえで大きな意味を持った場所でした)。
 だからこそハイドンも腕によりをかけ、最も充実した交響曲をこの国に捧げた次第ですが、その少し前、交響曲というものが最初に人気になった頃にも、ロンドンの演奏会文化に触発されて交響曲を書くようになったウィーン古典派の大物がいました——当時まだ年端のゆかぬ天才少年だったモーツァルトです。
 ロンドンに来て、大バッハの末子J.C.バッハが書くイタリア仕込みのファッショナブルな合奏曲やソナタの調べ(いわゆる「歌うアレグロ」)に夢中になった彼は、この大先輩が開催していた演奏会で耳にしたような、全3楽章形式の交響曲をすぐに書きはじめる...そのときJ.C.バッハと共同経営でこのコンサートシリーズを主宰していたのが、やはりバッハとも親子ぐるみで知り合いだったC.F.アーベル!

 18世紀まで英国では人気だったヴィオラ・ダ・ガンバのすぐれた演奏家としても知られたアーベルの書いた交響曲の数々のなかには、当時モーツァルトが気に入り自ら筆写した楽譜があったため、長いあいだモーツァルト最初期の作と思われていた曲(交響曲第3番)もあったほど——センス抜群のアレグロ、しなやかな緩徐楽章をへてクリスピーな終楽章へといたる全3楽章形式の交響曲の数々は、モーツァルトを愛する現代人の耳をも深く魅了してやみません。

 天才少年の「ルーツ」のひとつともいうべきその魅力的な世界を、古楽大国ベルギーの俊才集団イル・フォンダメントと、レオンハルトやブリュッヘンらとも長年共演を続けてきた大ヴェテランP.ドンブレヒトの指揮で聴けるPassacaille の逸品を、的確にまとめられた解説の日本語訳とともに...これも制作元在庫限りの流通となりますので、お求めはどうぞ、お早めに...!

PHI(φ)



LPH014
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
バード『5声のミサ曲』、およびその他のモテトゥスさまざま
 ウィリアム・バード(1542 頃〜1623):
  ①5声のミサ曲 さまざまなモテトゥス
  ②わたしたちは、よりよい自分になれるよう
  ③わたしは不幸せです
  ④ごきげんよう、マリアさま(アヴェ・マリア)
  ⑤救世主よ、光であらせられるかたよ
 アルフォンゾ・フェラボスコ1世(1543〜1588):
  ⑥わたしは日々、罪を犯しています
 フィリップス・デ・モンテ(1521頃〜1603):
  ⑦主よ、わたしを憐れんでください(ミゼレーレ)
   ※曲順は②③④⑥①⑤⑦
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(古楽声楽集団)

 絶好調が続くヘレヴェッヘの活躍は、ルネサンスから近現代まで軽やかにまたいでゆく——
 故レオンハルト含め、古楽復興の大物たちも愛した英国最大級の「世界的巨匠」バードの音楽世界を、あらためてじっくり解き明かす——

 コレギウム・ヴォカーレ・ヘント、真の躍進へひ2010 年末にPhi レーベルを発足させて以来、フィリップ・ヘレヴェッヘと彼のアンサンブルの活躍はますます充実をきわめています。
 古楽器演奏でロマン派以降の作品をとりあげてきたシャンゼリゼ管弦楽団もついに古典派交響曲の録音を成功させたり(モーツァルトの交響曲)、ヘレヴェッヘにとって初のハイドン録音も高い評価を受け(『四季』、発売中の「レコード芸術」で特選)、そのかたわら古楽合唱の精度を年々さらに高めているコレギウム・ヴォカーレ・ヘントは、ルネサンス系の作品でも痛快なまでの売れ行きを記録中...
 およそクラシック界広しといえど、ベートーヴェンとドヴォルザークとビクトリアとジェズアルドとが、ほぼ同じ速さでどんどん売れる音盤が作れるアンサンブルなど、いったいどれほどいましょうか?

 レオンハルトとアルノンクールによる古楽器でのバッハ・カンタータ全集の録音プロジェクトに合唱指揮者として携わって以来、40 年近くにわたる指揮活動を通じて異才ヘレヴェッヘが培ってきた音楽知、つねに仲間同士の確かな結束があり「家族のようなアンサンブル」とメンバーたちも胸を張る彼らが、独自レーベルPhi(フィー)で新たに世に問うてみせるのは...あらためてルネサンス、それも英国随一の巨匠バードひ16 世紀のエリザベス朝時代、何かにつけてカトリック信徒が迫害をうけまくっていた英国国教会の躍進期にあって、バードは自身カトリック教徒でありながら女王の絶大な信頼を得、師のタリスとともに王室礼拝堂に数多くの多声音楽を提供、時代を代表する巨匠として尊敬を集めた人物——
 英国の作曲家というと、何かと同じ英国人たちこそ真の魅力を追求できる...と思われもするようですが、16 世紀といえば英語そのものも現代のそれとは違い、むしろフランス語に近い部分があるとも言われるところ。
 さらに言うなら、バードの教会音楽はカトリック教徒の常どおりラテン語の歌詞を使っていて、その意味では国際的なメンバーが集い、カトリック大国であるベルギーで充実した活躍を続けてきたコレギウム・ヴォカーレ・ヘントの面々は、そうした音楽世界を少し違った角度から意識させてくれる重要な存在なのかもしれません(実際、チェンバロの世界では(やはりバードを愛してやまないと常々標榜していた)グスタフ・レオンハルトがこの作曲家の鍵盤作品をAlpha レーベルに録音、世界的に高い評価を勝ち得ています)。

RAMEE



RAM1205
(国内盤)
\2800+税
マラン・マレの描いた音楽
 〜ヴィオールのための組曲と小品 テオルボの響きを添えて〜

◆マラン・マレ(1656〜1728):
 ①組曲 ニ短調(第2曲集/1701 年刊行)
 ②組曲 ト短調(第5曲集/1725 年刊行)
 ③組曲 ホ短調(第5曲集/1725 年刊行)
 ④ミュゼット ハ短調(第4曲集/1717 年刊行)
 ⑤組曲 ヘ長調(第3曲集/1711 年刊行)
◆ロベール・ド・ヴィゼー(1660頃〜1732頃):
 ⑥プレリュード ホ短調 ⑦プレリュード ハ短調
◆エティエンヌ・ル・モワーヌ(1640頃〜1716):
 ⑧プレリュード ト短調
  ※曲順は①⑧②⑥③⑦④⑤
ミーネケ・ファン・デル・フェルデン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
フレッド・ヤーコプス(フランス式テオルボ)

 押しも押されぬ大ヴェテランのファン・デル・フェルデン、満を持してのマラン・マレ録音はなんと「鍵盤ぬき」!

 通奏低音にはフランスで愛されていたテオルボ(大型リュート)、俊才フレッド・ヤーコプスの妙技とともに、繊細さの極致ともいうべきフランス・バロックの粋を。20 世紀の半ば以来、オランダは一貫して古楽復興の拠点のひとつでありつづけてきました。
 現代ピアノを意識したつくりの近代開発型モダンチェンバロではない、16〜18 世紀の現存例やその忠実な模作による歴史的チェンバロを徹底して弾いたグスタフ・レオンハルト(1928〜2012)を筆頭に、リコーダーの巨匠フランス・ブリュッヘン、バロック・チェロというものの独奏楽器としての存在感を強く印象づけたアンナー・ビルスマ、 英国の古楽器オーケストラを横目に早くから活躍をはじめたアムステルダム・バロック管弦楽団... 顕微鏡を覘いて研究を続けた同国の生物学者レーヴェンフックを横目に、かつてレンブラントやフェルメールの時代のオランダ人画家たちが、他の国とは明らかに違う「現実世界を写実的に描き取る」写真のように克明な描き方で世界中から注目されるようになった頃と同じく、この国が古楽復興の先進地となった背景にはおそらく、徹底して「もの」の存在感にこだわる文化的背景が大きくものを言ったところがあったのかもしれません(オランダを旅行されたことのある方ならご存知の通り、この国にはとにかく「もの」を大切にし、徹底して掃除を欠かさないキレイ好き文化がいつも隅々まで行き届いています)——
 そうしたことを強く感じさせてやまないのが、ふだん見過ごされている「思いがけない美しい音」を発掘してくるセンスにかけては随一のRamee レーベルのこの1枚。

 ヴィオラ・ダ・ガンバ(フランス語では「ヴィオール」)を愛してやまなかったルイ14 世時代のフランスにあって、「天使のように弾く」と讃えられた巨匠中の巨匠マラン・マレの音楽に、オランダ古楽界随一のガンバ奏者ミーネケ・ファン・デル・フェルデンが真正面から向き合った1枚なのですが、そこでファン・デル・フェルデンは伴奏となる通奏低音パートを、安易にチェンバロに任せはせず、熟慮の末、大型リュートの一種であるテオルボひとつに預けてみせました。
 弾き手はやはりオランダきっての名匠、フレッド・ヤーコプス...17 世紀初頭のイタリアで生まれたテオルボとは少し異なる、やや短めのフランス風テオルボを選び、3 本の脚で床にしかと立つチェンバロの響きに頼らず、どちらも奏者のからだと密着したかたちで奏でられる弦楽器ふたつだけで織り上げられる響きが、マラン・マレの各曲集からの小品ひとつひとつの魅力をかつてないほど自然に、ゆたかに引き出してゆく——
 そこで私たちはたんに音楽そのものだけでなく、ガンバ特有の音色のありようにも、おのずと心を寄せずにはおれなくなるのです。チェンバロや第2ガンバが伴奏に入っていると、独奏者の音を耳でよりわけるのに気をとられるのだな...とあらためて気づく、テオルボひとつの伴奏の自然な優しさ——テオルボ独奏のトラックも少しあり、まるですぐそこで名手ふたりが音楽を紡いでいるような親密さが...。充実解説訳付、美麗ジャケットも絶好の魅力のひとつ!
 


RAM1303
(国内盤2 枚組
トラック別詳説付)
\4000+税
ラインハルト・カイザー(1674〜1739):
 受難オラトリオ「イエス、世界の罪ゆえに苦しみ死す」

  〜B.H.ブロッケスの台本による(通称『ブロッケス受難曲』)
ペーテル・ファン・ヘイヘン指揮
Ens.レ・ムファッティ(古楽器使用)、
ヴォクス・ルミニス(古楽声楽集団)
ズュジ・トート(S)
ペーター・コーイ(Bs)
ヤン・ファン・エルサッケル(T)
 テレマンと人気を二分した、後期バロックの「北の巨匠」カイザー...あざやかな作曲手腕を強く印象づける傑作『ブロッケス受難曲』は、バッハの受難曲群より10年以上も前に書かれヘンデルやテレマンの同題作の手本ともなった傑作。欧州屈指の俊英陣、意欲的名演!
 

 ほんとうに、バロック後期にはもっと開拓されるべき作曲家が何人いることでしょう——とくにオペラやオラトリオなど、CD では2枚組になることの多い大作ジャンルには、腕によりをかけて傑作を残し、並居る有名作曲家たちにも全くひけをとらないどころか、時には凌駕しさえするほどの作曲手腕をみせた巨匠も少なくないというのに、多くの人がヘンデルやバッハのオラトリオや受難曲「しか」聴かないまま、この分野の面白さに気づかないままでいるというのは、音楽愛好にかけては世界随一の日本にとての大きな損失であるように思えてなりません。

 19 世紀に名を残したか奇跡的に復権を遂げた巨匠「だけ」に固執する古典的ドイツ音楽史のせいで不遇をかこっている「幻の巨匠」は数あまた、おそらくその筆頭は今年歿後250 周年を迎えるラモーであり、あるいはその大先達のリュリ、もしくはA.スカルラッティやボノンチーニ、カルダーラ...といったイタリア出身の巨匠たちなのでしょうが、実はこの古めかしい音楽史観のせいで埋もれてしまった名匠は、当のドイツにもたくさんいたのです。

 最近CD も増えてきたピゼンデルやハイニヒェンなどドレスデン宮廷の巨匠たち、ファッシュやグラウプナーなど「バッハがらみ」で名前だけはよく出てくる作曲家たちなどはまだ恵まれているほうかもしれませんが、ことバッハの生涯と全くリンクしていないドイツ語圏の作曲家たちは、そもそも名前すら挙がる機会がめったにないためか、復権がことのほか遅れているように思います。本盤の主人公カイザーなど、まさにその筆頭格ぱハンブルクの歌劇場で、若きヘンデルやテレマンが活躍を始める前から人気作曲家として高い名声を誇ったこの巨匠は、文献などでは名前が出てくるけれど音楽はまったく演奏されず実態がつかめない...というタイプの音楽家。

 しかしさすがは人気作曲家だっただけあって、その音楽が実に抑揚に富んだドラマティックな、そして後期バロックならではの美しい旋律美に彩られた傑作ぞろいだったことは、ここに堂々全曲録音された「ブロッケス受難曲」の隅々からひしひしと伝わってきます。
 のちにテレマンやヘンデルも同じ台本を使い、それぞれの『ブロッケス受難曲』を書いていますが、このカイザーの作品はそれらの作品で台本として使われた詩人B.H.ブロッケスの受難劇を最初に台本として使った記念碑的名作。
 イエスの悩みと苦しみをあざやかな音楽劇に仕立て上げ、弦楽合奏にリコーダーやオーボエが加わる色彩感豊かなバロック・オーケストラとともに、変幻自在の音楽世界を汲み上げてゆく——初期ヘンデルを彷彿とさせながら、それらよりもずっとこなれた書法で織り上げられた音楽に心を預けるうち、知るべき世界がそこに秘められていたことを追認すること間違いありません。

 上記のとおり、主要な独唱者3人はバッハ・コレギウム・ジャパンなどでも活躍する世界的名歌手ばかり、多忙なベルギーの古楽器奏者たちが集うレ・ムファッティも、このプロジェクトには並々ならぬ意欲を持って臨んできたとのこと。
 バロックを知るうえで見過ごせない名匠の世界、ありがたい新録音です!





第77号でお知らせしたカイザーのアルバム
今までほとんど見向きもされなかったカイザーの作品がここへ来て頻繁にリリースされるようになったというのは、やはり「聴け!」ということだと思う。

MD+G
605 10372
\2400→\2190
〔再発売〕
待望の再発売!
ラインハルト・カイザー(1674-1739):

 ①歌劇「クラウディウスの誘惑」より
 ②フルート、ヴィオラ・ダモーレと通奏低音のための3声のソナタ第1番
 ③歌劇「バビロンの王」より
 ④弦楽のための協奏曲
 ⑤アリア「最愛のアドニス」
 ⑥歌劇「美徳の力」より
エリザベート・ショル(Sp)
ラ・リコルダンツァ(ピリオド楽器アンサンブル)

 ドイツ・バロック歌劇の祖、カイザーによる美しいアリア
 ハンブルグで活躍したバロック時代中期の作曲家ラインハルト・カイザー。オペラ、アリア、デュエット、カンタータ、セレナーデ、教会音楽とオラトリオなど、幅広い作品ジャンルで、テレマン同等の人気を誇った作曲家といわれています。
 特にバッハやテレマンがあまり着手しなかったオペラのジャンルでは、「ドイツ・バロック歌劇の祖」とされています。そのカイザーのオペラからのロココ趣味を取り入れた歌にソナタや器楽合奏を組み合わせたバランスよいカップリング。
 そして名バロック歌手エリザベート・ショルの透明感ある歌声によって、美しさが際立ったアルバムです。
 長らく入手困難になっておりましたが、待望の再発売です!

  【録音】2000年5月録音



 バロック時代、音楽の中心はイタリアだった。一方ドイツは、芸術的にも文化的にも商業的にも他のヨーロッパ諸国と比べて格段に差をつけられていた。
 ところが港町ハンブルグだけは違っていた。もともと「ドイツ」というひとかたまりの国などなく、幾多もの自由国家やらなんやらで構成されていた当時の「ドイツ」地方。ハンブルグはそのなかで例外的に裕福で文化的にも進んだ都市だった。
 さて、オペラは基本的に貴族の宮廷のために存在していたが、ようやくヴェネツィアで一般庶民も見られる劇場が生まれた。そしてドイツでもようやくハンブルグでそうした劇場が生まれ、イタリアにも負けないようなドイツ独自のオペラが人気を博した。ご当地オペラである。そのハンブルグで一世を風靡したのが、ラインハルト・カイザー。後のハンブルク市立歌劇場の首席作曲家を勤め、ドイツの国民オペラを隆盛に導いた。年代的にはヴィヴァルディとほぼ同時代。年下のテレマンも彼を慕ってハンブルグに来たらしい。その後いろいろ確執はあったらしいが、カイザーが繁栄させた土壌の上に、ドイツ最大の人気作曲家テレマンが生まれたことは間違いない。実際若きヘンデルもカイザーが発掘したと言われる。

 さて、そんなドイツの隠れた偉人カイザーのいろいろな作品を巧みに組み合わせた秀逸なアルバム、待望の再発売。


 


RAM1306
(国内盤)
\2800+税
ミケラニョーロ・ガリレイ:リュートのための作品集
 〜ガリレオ・ガリレイの弟、モンテヴェルディの同時代人によるリュート芸術〜

 ミケラニョーロ・ガリレイ(1575〜1631):
  ①ソナタ ヘ短調
   〔トッカータ/コルレンテ/ヴォルタ/
    パッサメッツォ/サルタレッロ〕
  ②ソナタ 変ロ長調
   〔トッカータ/コルレンテ/ヴォルタ1・2〕
  ③ソナタ ハ短調
   〔トッカータ/コルレンテ1・2・3/パッサメッツォ/
    サルタレッロ〕
  ④ソナタハ長調
   〔トッカータ/ヴォルタ1・2・3・4〕
  ⑤トッカータ ニ短調
  ⑥ソナタ ト長調
   〔トッカータ/コルレンテ1・2/ヴォルタ〕
  ⑦ソナタイ短調
   〔トッカータ/コルレンテ1・2/ヴォルタ〕
  ⑧トッカータ ヘ長調
 ヴィンチェンツォ・ガリレイ(1520 頃〜1591):
  ⑨わたしは誰も知り得ない
  ⑩第3ファンタジア ⑪カリオペ
  ⑫ポリュムニア ⑬ウラニア
   ※曲順は①②⑨⑩③④⑤⑪⑫⑬⑥⑦⑧
アントニー・ベイルズ(リュート)
 「それでも地球は回っている」の天文学者ガリレオには、音楽家の父と弟がいた...これはその「弟」,巨匠ラッスス亡き後のミュンヘン宮廷で、イタリア・ルネサンス&バロック様式にとどまらない多元的な音楽作法をリュートで追求した名匠の傑作曲集!大御所ベイルズ、満を持しての名演。

 リュートという楽器は、意外に全盛期が短かったのかもしれません——
 ルネサンス期、とくに16 世紀の約100 年間を過ぎると、17 世紀にはもはや限られた地域でしかこの楽器のための独奏曲は注目されなくなってきます。とりわけ局地的にこの楽器が愛されていたのが、フランスであり、あるいは英国であり...と、いずれもリュートのみならず、ヴィオラ・ダ・ガンバを独奏楽器としてかなり後まで大切にしてきた場所だったことは、おそらく偶然ではなかったのでしょう。ともあれ少なくとも、バロック音楽発祥の地イタリアでは、早くも1600 年を過ぎたあたりからリュートのかわりにテオルボやキタローネなど、弦の数を増やして通奏低音楽器として使いやすくしたタイプの楽器が流行りはじめ、ルネサンス風のリュートそのものはあまり独奏で活躍しなくなってゆきました。
 そうしたなか、ポーランドの天文学者コペルニクスの地動説を支持して「それでも地球は回っている」とローマの法廷でさえ天動説を否定し続けたことで有名なガリレオ・ガリレイ(1564〜1642)の、父ヴィンチェンツォ・ガリレイ(1520 頃〜1591)と弟ミケラニョーロ(1575〜1631)が、ローマのカプスベルガー(1580〜1651)などと同じ頃、イタリア人によるリュート音楽の興隆の最後の盛り上がりを支えていたことは、意外に知られていないかもしれません——
 かつて音楽が数学や天文学と同じ「宇宙の調和にかかわる学術」だった中世の名残りか、ガリレオの一族に重要な音楽家がふたりもいたということは、あらためて注目するに値する事実ではあるのでしょう。実際、音楽史をひもとけば、父ヴィンチェンツォ・ガリレイは必ず「オペラの誕生を準備したフィレンツェの知識人サークル“カメラータ”の一員」として言及されているので、こちらはご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
 また弟ミケラニョーロの作品はCD 時代初期にパウル・バイアーが録音していましたが、それもすでに大昔の録音...かそけき音色の玄妙さを旨とするリュートという楽器の音楽なら、それから長足の進歩をとげた自然派録音によって収録されている今回のアルバムこそ、その魅力の粋を伝える名盤になっていると言えるでしょう。
 しかも弾き手は、Ramee レーベルに名盤あまたのアントニー・ベイルズ...英国リュート界の大ヴェテランが満を持してこの作曲家と向き合ったということの意義を、本盤での名演はあらためて強く感じさせてやみません。
 ミケラニョーロ・ガリレイの作風で面白いのは、彼が音楽のまごうことなき本場イタリアで育った音楽家でありながら、この時代に後期リュート音楽の一大中心地となりつつあったフランスの作法の影響を大きく蒙っている点...フランスものに通暁したベイルズの至芸が、その魅力の諸相を静かに解き明かしてくれます。
 解説全訳付..!

RICERCAR


MRIC225
(国内盤)
\2800+税
シャイデマン オルガンのための作品集
 〜ブクステフーデとラインケンを教えた、ドイツ北方の古き巨匠〜

 ハインリヒ・シャイデマン(1595頃〜1663):
  ①救世主は死の縄に繋がれ WV3
  ②天使は、羊飼いたちに向かって
   (ラッススのモテトゥスによる)WV46
  ③前奏曲 ニ短調 WV35
  ④救世主イエス、我らが救い主
   (コラール・ファンタジア)WV10
  ⑤前奏曲 ニ短調 WV33
  ⑥カンツォーナ ヘ長調WV44
  ⑦トッカータ ト長調WV43
  ⑧わたしを憐れんでください、主なる神よ(低旋律を中音部に)WV4
  ⑨前奏曲(第10 番)ホ短調 WV38
  ⑩ことばは肉となり(H.L.ハスラーのモテトゥスによる)WV56
  ⑪讃えよ、主を WV13 ⑫前奏曲 ト短調WV41
  ⑬第2旋法によるマニフィカト WV15
ベルナール・フォクルール(オルガン)
使用楽器:シェラー1624年建造
 (タンガーミュンデ聖シュテファン教会)

 英国にも通じるルネサンスの鍵盤世界が「ドイツ北方のオルガンの伝統」へ向かうころ——
 押しも押されぬ名匠フォクルールがRicercarに刻んだ名盤、ようやく国内盤仕様化です!

 スヴェーリンクの門弟にして、ブクステフーデとラインケンの師匠。古き銘器の響きも絶好...
 15 年の歳月をかけて録音したバッハのオルガン作品全集のBOX 版(MRIC289)であらためてその存在感を不動のものにした、古楽大国ベルギーきってのオルガンの巨匠、ベルナール・フォクルール!
 Ricercar レーベルトとは1980 年の創設時からのつきあいで(リチェルカール・コンソート設立時の鍵盤奏者もフォクルールでした)、とくに21 世紀に入ってからは、いわゆるバッハ以前のドイツ北方におけるオルガン音楽を、ひとりの作曲家につき1アルバムずつ充てながら録音しつづけてきた偉業もあります。
 トゥンダー( MRIC239 ) 、ブクステフーデ( 5 枚組全集・MRIC250 ) 、ラインケンとブルーンス( MRIC204 ) 、G. ベーム(MRIC319)...と、それらの名盤を折にふれ国内仕様でリリースを続けてまいりましたが、最後の未踏の地として残っていたのがこのシャイデマン作品集。
 実はこの大家こそ、バッハが接した17 世紀後半におけるドイツ北方のオルガン芸術の先鞭をつけ、それ以前の、ルネサンスの英国鍵盤芸術などとも相通じるところのあるルネサンス末期の伝統とをつなぐ重要な存在のひとりだったのです!
 いくつもの短い楽節を並べて対照的な音楽を織り連ねてゆく「プレルディウム」(オルガン・プレリュード)という曲種が、足鍵盤まで動員した北ドイツ風の大がかりなスタイルへと発展をとげてゆくにあたっては、このシャイデマンが(同世代のヤーコプ・プレトリウスとともに)大きな貢献をなしたとのことです。しかも彼はどんな相手にも人当たりが良かった...と伝えられており、多くの門弟を育ててきたのもそうしたところに理由があるようです。
 とくに重要な弟子としては、バッハが若い頃わざわざ徒歩行脚をしてまでその演奏を聴きに行き、当時の職場を何週間も無断欠勤するほど夢中になったという巨匠ブクステフーデと、その少し後のバッハの演奏を聴いて感動した…とのエピソードが残っている大家ラインケン。
 バッハが最も若い頃、少年時代に記譜した楽譜にも、このふたりの巨匠の曲が記されていましたから、シャイデマンはいわばバッハの「心の師たちの師」という事になる存在。フォクルールはつねどおりの泰然自若な指さばきで、聴き手を圧倒することなく、ごく自然に作品の味わいをおのずから語らしめるような演奏解釈で、その魅力を十全に伝えてくれます。
 使用楽器は、幾多の名盤を産んできた北ドイツ17 世紀の銘器中の銘器、タンガーミュンデのシェラー・オルガン——ちょうどシャイデマンと同時代に出来た楽器!
 古色蒼然とした美音の深い魅力も、このアルバムに集められた大小さまざまな作品の美質をよく活かしているようです。充実解説日本語訳付。見過ごせない1枚です!
 


MRIC350
(国内盤)
\2800+税
ようやくの新録音!ラモー:六声のコンセール集
 〜作曲者歿後250周年〜

 ジャン=フィリップ・ラモー(1684〜1764):
  1. 第6コンセール〔めんどり、未開地の人々、他〕
  2. 第1コンセール〔ヴェズィネ、リヴリ、他〕
  3. 第2コンセール〔ラボルド、鬱陶しい女、他〕
  4. 第3コンセール〔内気な女、タンブラン、他〕
  5. 第4コンセール〔無言劇、ラモー、他〕
  6. 第5コンセール〔フォルクレ、マレ、他〕
フローランス・マルゴワール(バロックvn・指揮)
Ens.レ・ドミノ(古楽器使用)

 ようやく現れた、この曲集の新録音!
 歿後250周年、オペラや鍵盤楽曲だけではないラモーの魅力は小編成オーケストラか、室内楽編成か、判然としがたいスタイルが魅力の合奏曲でもよく伝わる!
 めったに録音が出ない曲集の「謎」をときあかし、精鋭フランス古楽勢が精妙解釈で聴かせます

 フランス音楽史上、18 世紀最大の作曲家のひとりでありながら、歌劇場が限られた場所にしかなく、オペラというジャンルがクラシック界の真の中心とやや離れている日本ではいまひとつ注目度が薄いラモー…
 しかし古楽ファンの皆様などとくにご存知の通り、今年はこの作曲家の歿後250 周年!亡くなってからまだ300 年たっていないというのが改めて驚きかもしれませんが、そう、このラモーという作曲家、オペラの世界でとくに名をあげたにもかかわらず、彼が最初の傑作「イッポリトとアリシ」で歌劇場デビューを果たしたのは、実に齢50 を超えてからのことだったのです。
 それはつまり、時すでに「バロック」と呼ばれる時代が終わりかかり、というより精確に言うなら(ドイツ語圏の19 世紀の学者があとから考えた時代区分とは別物の)明らかに「ロココ」と呼びうる時代、つまり18 世紀後半の古典派時代にもさしかかる、新しい音楽スタイルが欧州各地を賑わせていた頃——
 なにしろラモーが亡くなった年というのは、モーツァルト父子が(まさに彼の活躍地である)パリに足を踏み入れ、音楽愛好家たちを騒然とさせていた頃でもあったのです!そんなラモーの、おそらく現存する楽譜では最も新しい作品...というより、筆写された楽譜で残っているのが作曲者歿後の1768 年らしい、というところから、このかたちに編曲した人物はおそらくラモー自身ではなかったのでは?ともうわさされる謎の曲集があります。
 「6声のコンセール」—−そう、この曲集の原曲は1740 年頃(ヴィヴァルディが亡くなる頃、ヘンデルの『メサイア』とほぼ同時期)に楽譜出版された「コンセールによるクラヴサン曲集」で、それを6パートからなる弦楽合奏のために編み直したのがこの曲集なのですが、往年のパイヤール管弦楽団のたおやかな録音でこの曲集の魅力をご存知の方からすれば、なぜ古楽器録音が出てこなかったのだろう...?と疑問だったかもしれません。
 実は他にも古楽器で演奏・録音された例はなくもないのですが、このたびフローランス・マルゴワールを中心にパリの俊才たちが集うレ・ドミノの面々がエスプリたっぷり、18 世紀当時の作法をふまえて録音したこの新録音では、演奏編成もたんに弦楽合奏とはせず、徹底した検証の末にバソン(!)や横吹式フルート、中声部にはヴィオラ・ダ・ガンバを加えるなど、考え抜かれた楽器の組み合わせで作品の魅力を幾倍にも増幅させてくれているのが嬉しいところ。
 とくにアニマ・エテルナなどでも活躍するアメリー・ミシェルと、レザール・フロリサンの常連として活躍を続けてきたS.サイタがトラヴェルソを吹き、中声のガンバには録音少なき超実力派C.ジャルデッリ女史がいるのもドキドキ…さらにチェンバロは昨今ダングルベール録音(Zig-Zag Territoires)であらためて注目度を増した異才ステヴァールが!この絶妙の布陣の銘解釈に加え、解説は例によって「リチェルカール古楽器ガイド」の著者J.ルジュヌ氏(訳付)。記念年にふさわしい1枚なのです!
 


MRIC339
(国内盤)
\2800+税
ホルボーン 1599年の合奏曲集
 〜英国ルネサンスのガンバ合奏曲の世界〜

 アントニー・ホルボーン(1545頃〜1602):
  『パヴァーン、ガリアード、アルメイン、
  およびそのほか暗い曲・明るい曲さまざま〜
   5声のための』(1599)より
  ①愛の果実 ②ガリアード
  ③善き希望を(ボナ・スペランツァ) 
  ④ガリアード ⑤夜の見張り ⑥遺言と、遺言状
  ⑦うるわしきスペインの女(エルモーサ)
  ⑧実に愛らしい娘(ムイ・リンダ)
  ⑨地獄のよう(インフェルヌム)
  ⑩ガリアード ⑪パヴァーナ「その人は泣いていた」
  ⑫見よ、なんという恵み(詩編第133 編)
  ⑬選ばれたのは ⑭ムーサたちの涙 ⑮葬列
  ⑯アルメイン ⑰パヴァーン ⑱ガリアード
  ⑲天国(パラディゾ)⑳すいかずら
  (21)妖精の円舞のあと
  (22)憂愁の姿
フランソワ・ジュベール=カイエ(ディスカント・ガンバ&総指揮)
アンサンブル・ラシェロン(古楽器使用)
フランソワ・ジュベール=カイエ、
リュシル・ブーランジェ、
マリオン・マルティノー、
アンドレアス・リノス、
サラ・ファン・アウデンホーフ(高音〜低音ガンバ)
ミゲル・アンリ(リュート、シターン)
ソフィー・ファンデン・エインド(リュート、バンドーラ)
ヨアン・ムーラン(ヴァージナル、オッタヴィーノ・チェンバロ)
 英国古楽は静かに謎めいていて、軽やかに奥深い——その魅力は、ガンバ合奏でこそひときわ映えるもの。不思議な浮遊感、ダウランドもかくやという美しき憂鬱の影、あるいはルネサンス流儀の神秘的な表題の数々...フランス古楽界最先端からの新録音、惚れます..!

 16 世紀、英国ルネサンス期——エリザベス女王のもと英国がますますの繁栄をみせ、新大陸へ向かいながら当時の超大国スペインを打破、海洋王国として栄華を誇っていた時代。紳士たちはイタリアからもたらされたヴィオラ・ダ・ガンバ(チェロより古くからある、タテに構える弓奏弦楽器)の合奏をたしなみ、あるいはラテン語・ギリシャ語を学びながらセンスの良い詩をひねり出し、高踏な文化生活を愉しんでおりました。そしてそれ以降、英国はフランスと並ぶガンバ大国となり、ガンバの故郷だったはずのイタリアでもガンバが「英国式弦楽器」などという呼び名で知られるようになってゆくほどですが、どうしたものか、ガンバ合奏曲の名盤というのは意外にそうそう出てこないもの。

 古くはフレットワーク、あるいはローズ・コンソート、最近ではオックスフォードのシャリヴァリ・アグレアブル...といった英国勢の活躍をよそに、欧州勢(とくに、意外なことにラテン系諸国の演奏家たち)も実はこの種の音楽に適性があることは、たとえばサヴァール御大率いるエスぺリオンXXI の録音などからもわかることなのですが、昔から英国のガンバ合奏曲を愛好してきた人の多かった隣国ベルギーのRicercar レーベルから、思わぬ新録音が登場してくれました。
 演奏陣はなんとフランス勢ぼ昨年ヴィーラント・クイケンとの二重奏で素晴しいバロック盤を世に送り出してくれた俊才ジュベール=カイエ率いるアンサンブル・ラシェロンには、パリやヴェルサイユで腕を磨いた新世代の俊英古楽奏者たちが集まっていますが、なにしろ彼ら突き抜けた才人たちが「英国ものをやろうぼ」と意気込んで録音しただけあって、かつてAlpha レーベルでレ・ウィッチズがプレイフォードを録音したときのような、あるいはエルヴェ・ニケがパーセルの名盤をGlossa で作ったときのような、フランス古楽勢の意外なまでの英国物への適性をつよく感じさせる1枚に仕上がっているのです!
 ここで演奏されているのは、1599 年、英国ではじめて印刷されたガンバ合奏曲集としても知られる作品集からの名曲22 選——作曲者アントニー・ホルボーンはリュートやシターンなど撥弦楽器の演奏家だったそうですが、この合奏曲集は広く人気を博し、本人が外交官としても活躍していたこともあって、ドイツやイタリアにも楽譜が出回っていたとか。そこに息づく英国ルネサンスならではの不思議な浮遊感、謎めいた曲の表題がこだまする奥深い和声の妙...フランス人が英国ものを手がけたとき特有の高雅な色香が、「当時の英語」と「いまのフランス語」の親和性にも思い及ばせてくれる——しなやかな羊腸弦の振動の重なり、抜群の古楽盤なのです。

ZIG ZAG TERRITOIRES



ZZT346
(国内盤)
\2800+税
ユーリ・マルティノフ(ピアノ)
セルゲイ・プロコフィエフ(1891〜1953):
 1. ピアノ・ソナタ 第5番 ハ長調 op.38
 2. 思いさまざま(思考)op.62
 3. 子供のための音楽(12 の小品)op.65
 4. ピアノ・ソナタ 第6番 イ長調 op.82
ユーリ・マルティノフ(ピアノ)

 19世紀の歴史的ピアノによる「リスト編曲ベートーヴェン交響曲」シリーズで話題のマルティノフ、新たなる録音はなんと「故郷ロシアのヴィルトゥオーゾ=作曲家」プロコフィエフの世界へ!
 ロシア・ピアニズムの伝統を弾く圧巻の存在感、音楽史的感覚はどのように研ぎ澄まされるか?

 レフ・オボーリンの系譜に連なる名匠ミハイル・ヴォスクレセンスキーに教えを受けたロシア・ピアニズムの申し子でありながら、パリでフォルテピアノ奏法を学び、同じくロシアの伝統を身につけながら逸早く古楽器による作品解釈を追求しつづけてきた異才アレクセイ・リュビモフにも師事しつつ、そのデュオ・パートナーとしても演奏活動や録音を残している——
 ユーリ・マルティノフはそうした活動を通じ、リュビモフと同じく歴史的ピアノと現代ピアノの両方を使い分けながら、広範にわたる作品解釈を続けてきた男。とくに近年では19 世紀半ば、齢50 を超えた偉大なピアニスト=作曲家リストによって周到に編曲されたベートーヴェンの交響曲のピアノ独奏版を続々と録音するにあたり(すでに第1・2・3・6・7・8番の録音が日本でも『レコード芸術』特選や準特選に輝くなど、きわめて高い評価を博しています)、1837 年製エラール・ピアノや1867 年製ブリュートナー・ピアノなど、リストと同時代のピアノを厳密に選択しながら、現代ピアノとはやや勝手が違うそれらの楽器からみごと変幻自在の音を引き出し、オーケストラにも比しうる雄大な音楽的広がりをピアノ上に現出せしめたリストの創意をあざやかに「いま」に甦らせてみせました。

 そうした楽器そのものの音のしくみへのこだわりのなせるわざか、彼がベートーヴェン&リスト・シリーズの合間にふと録音するのに選んだのはなんと...20 世紀ロシア屈指の巨匠、プロコフィエフのソナタと小品集!
 彼もまたリストと同じように、生前は自らも技巧あらたかなステージ・ピアニストとしても活躍した作曲家であり、並大抵の腕前では弾きこなせないような、そしてそれぞれに豊かな世界をもつピアノ・ソナタを数多く残していたことはご存知の通り——
 彼は今回、完全な現代仕様のスタインウェイ・ピアノでこの録音に臨んでいるのですが、ピアノという楽器がどういうふうに音を出すのかをふだんから意識しているからこそなのでしょうか、とにかくどの作品も非常に身体性が高い、まさに肉体の続きとしてピアノを操っているかのような縦横無尽かつ生物的なピアニズム、それでいて実に精緻に設計された音楽解釈が実に頼もしいかぎりです。最も早い時期の作品は1923 年のソナタ5番、そこから1940 年の第6ソナタにいたるまでのあいだに書かれた『思考(思いさまざま)』という全3曲のしなやかな小品集と、全12 曲からなる『子供のための音楽』(まさに「ピーターとおおかみ」の作曲者らしい佳品ぞろい...)を合わせて収録。

 ソナタでの雄大な音作りも聴きごたえたっぷりなら、小品ひとつひとつの磨き抜かれた小宇宙もきわめて個性的...ピアニシモのあまりの美しさなど、さすがフォルテピアノにも通暁した名手!と聴き惚れずにはおれません。
 1音1音じっくりと、虚空に消えゆくまで耳で追い続けてしまう——そしてフォルティシモも、あくまで痛快!全体に丁寧さがきわだつ、それでいてどこまでも艶っぽいエレガントな音楽。
 


ZZT051001
(国内盤)
\2800+税
在庫限定!
 インマゼール&ミドリ・ザイラー

モーツァルト(1756〜1791):
 1. ヴァイオリン協奏曲 第2番 ニ長調KV211
 2. 交響曲 第29番 イ長調 KV201
 3. ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調KV216
  「ストラスブール協奏曲」
ミドリ・ザイラー(ヴァイオリン)
ヨス・ファン・インマゼール指揮
アニマ・エテルナ管弦楽団
(現アニマ・エテルナ・ブリュッヘ/古楽器使用)
 インマゼールが異才ミドリ・ザイラーとの共演でZig-Zag Territoires に刻んだ、あの傑作モーツァルト録音——ありがたく在庫確保いたしました!
 プレス切れしだい終了の限定流通になりそうですが、ぜひとも広く聴かれたい1枚。あらためて、お見逃しなく!

 Zig-Zag Territoires レーベルでは昨年、ベルギーの古楽系鬼才指揮者=フォルテピアノ奏者ヨス・ファン・インマゼールが刻んできたモーツァルト関係のアルバム4点(うち2点は2枚組)をまとめてBOX 化してくれましたが、そこに含まれていた名盤のうちひとつが、2005 年末頃に制作されたオリジナルの1枚ものタイトルとして、まだ一定数入手可能であることが判明!
 急ぎ在庫確保した分のほか、バックオーダーも可能らしいということがわかりました。そこで先日ご案内したシューベルトのヴァイオリン・ソナタ集( ZZT060501 )やロシア管弦楽作品集(ZZT050502)などと同じく、あらためて日本語解説付仕様で国内盤発売→可能なかぎり流通させる流れに——

 いまはオーダー可能な状況ではありますが、単体盤としては(つまり、BOX 仕様ZZT324 の一部としてではなく)いつまたプレス切れ再入荷未定になるかはわかりませんので、お早目の確保をお勧めしたい1枚です!

 ご存知の通り、インマゼールはまだメジャーレーベルが元気だった20 世紀末、早々と小資本レーベル(当初はChannel Classics)に着目して自身の録音プロジェクトを自分の企図どおり熱心・丁寧に進めてきた人。気の置けない古楽器演奏仲間と結成したアンサンブルであるアニマ・エテルナとの最初の長期プロジェクトのひとつが、彼自身の弾き振りによるモーツァルトの「フォルテピアノでの」ピアノ協奏曲の体系的録音だったことからもわかるとおり、モーツァルトには格別の思い入れと周到な演奏経験を誇る人。
 21 世紀に入り、ドビュッシーやムソルグスキーといった20 世紀作品を大編成古楽器オーケストラで演奏するようになった最近でも、モーツァルトは比較的小規模な、考え抜かれた演奏編成で録音に臨み、聴きはじめた瞬間からあらためて陶然とせずにはおれない、独特の極上演奏解釈を送り出しつづけてきたのでした。
 そうした取り組みがある意味で最上の結果を生んでいるのが、この1枚だったのです...

 同楽団のほか、切れのよい鋭角的ピリオド・アプローチで知られるベルリン古楽アカデミーなどでも首席奏者として活躍してきたミドリ・ザイラーが、随所で絶妙な古楽式ヴィブラートも駆使して織り上げてゆく2曲の協奏曲は、曲の存在感を何倍にも感じさせてくれる充実解釈!
 そして初期の交響曲のなかでもとりわけ壮大な構想が美しい交響曲第29 番での、意気揚々とした演奏陣の空気感...あらためて聴き深めたくなる1枚です。入手不可となる前に、どうぞお早目に!
 


ZZT347
(国内盤)
\2800+税
逸材・・・アンドリュー・タイソン(ピアノ)
 ショパン(1678〜1741):24の前奏曲 他

  1. 24 の前奏曲集 op.28
  2. 新しい前奏曲 嬰ハ短調 op.45
  3. 前奏曲 嬰イ長調 KKIVb-7
  4. 即興曲 第3番 変ト長調 op.51
  5. 三つのマズルカ op.59〔第36〜38 番〕
アンドリュー・タイソン(ピアノ)

 なぜ私たちは、たえず更新される“ショパン弾きの伝説”に毎回こう反応せずにはおれないのか...
 リーズ受賞をバネにピアノ大国イギリスに乗り出し、エリザベート受賞で大きな躍進へ——
 聴けば納得の美音、泰然自若のセンス。アンドリュー・タイソン、これは化ける逸材…括目あれ!

 「もういまさら新しいショパン弾きなんていらない」と思う人も決して少なくないとは思います。フランソワがいれば、コルトーが、ワッツが、ルービンシュタインが、ポリーニがいるじゃないか...と。
 ところが、新しい逸材がショパン盤を出してきたとなると、それも舞曲やソナタ、バラードなどとりまとめたリサイタル盤ではなく(それはそれで、ほぼ必ず痛快に魅力的なものですが)正面から何かしらの全曲録音をしてきたとなれば、どうして私たちはがぜん、注目せずにおれないのでしょう——

 さらにいうなら、そのピアニストがどこそこのコンクールで活躍をしているあいだ、地元新聞だけでなく各地で話題を呼びはじめていたり、レパートリーやYoutube 映像を見ればどうやら、ショパンどころかモーツァルトも絶妙、ベートーヴェンやシューマンでも味のある、胸のすくような(しかも、技巧一辺倒などではない個性をふりまきながら)演奏をどんどん聴かせているとなれば...!ここに現われたアンドリュー・タイソンは、そういったことをことごとく自然に体現してしまっている、新時代を着実に担ってゆくであろう新生にほかなりません。

 カーティス音楽院で名教師クロード・フランク(知る人ぞ知る名ヴァイオリニスト・パメラ・フランクの父)に師事、ジュリアード音楽院でロバート・マクドナルド(五嶋みどりの共演者としてご存知の方も多いかもしれません)に学ぶうち頭角をあらわし、ギナ・バッカウアー、リーズ、エリザベート...といった世界的大舞台のコンクールで続々実績をあげてきたのが、ここ数年。リーズでの成功はハレ管弦楽団との密な連携につながり、今や同オケのソリストたちとも頻繁に室内楽で共演しているほか、エリザベートの覇者たちが常々そうであるように、ベルギーでも続々活躍の場を広げているとか...などという話題をいくら連ねてもむなしいだけなので、まずはYoutube で「Andrew Tyson」と検索していただくのが今はいちばん早いような気がします——

http://www.youtube.com/watch?v=zVe8xsOg1kc CHOPIN Etude in E minor, Op. 25, no. 5  変な演奏。

http://www.youtube.com/watch?v=32qoeQ00azQ Polonaise op.53 "Heroic" 笑いながら弾いてる。やっぱり何か変。 でも惹かれる・・・

http://www.youtube.com/watch?v=XzEL2zk0AUE CHOPIN Etude in F major, Op. 10, no. 8  何でこんなに楽しそうに弾いてるんだ?

 モーツァルトの協奏曲やシューマンの「交響的変奏曲」なども捨てがたいところ、ここにご紹介するOp.28 の、制作元主導によるトレイラーがいちばん端的にわかりやすいはず!ポーランドを去りパリにやってきたショパンが、このピアノ音楽の新たな拠点でピアノ芸術家としての名を不動のものにする重要な足がかりとして楽譜出版した『24 の練習曲集』は、バッハの「平均律」を遠目に見やりながら、フンメルやモーシェレスら、当時すでに定評のあったピアノのための個性的・音楽的にして非凡な小品集にも比肩しうる存在となって、実に150年来、誰もがこの曲集なしの19 世紀ピアノ音楽界など想像もつかないくらいの金字塔的曲集となり、無数の名演・名盤を産んできたもの...

 しかしどうでしょう、アラン・タイソンの弾く前奏曲のどれかを数音きいただけで、その澄み切った音色に、泰然自若の、まるで気負ったところがない音運びに、どうして魅了されずにおれましょう——
 古今の他の名盤群のことなど、彼のピアニズムと対峙しているあいだは少なくとも、ほとんど思い出せなくなるのではないでしょうか?
 


ZZT353
(国内盤)
\2800+税
インマゼールの「カルミナ」!
 オルフ:「カルミナ・ブラーナ」〜歴史的奏法による解釈!

 カール・オルフ(1895〜1982):
  世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」
   〜独唱、合唱と管弦楽のための
ヨス・ファン・インマゼール指揮
アニマ・エテルナ・ブリュッヘ(管弦楽)
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(合唱)
イェリー・スー(S)
イヴ・サーレンス(T)
トーマス・バウアー(Br)

 ついにヴェールを脱ぐ...20世紀作品のピリオド奏法のパイオニア、インマゼールの一党がなんと今度はドイツ=オーストリア系、しかもこれまで以上に「いま」に近い年代の傑作に挑んだ!
 「適切な演奏編成は必ずしも巨大でなくてよい」を立証する新録音、合唱はなんと...あの銘団体!

 今年のはじめにムソルグスキー『展覧会の絵』ラヴェル編曲版で、またもや20 世紀前半の音楽のピリオド解釈の意義を圧倒的に印象づけたヨス・ファン・インマゼール&アニマ・エテルナ・ブリュッヘ、巷でもひそかに噂になっていたようですが、そう、今度の新譜はなんと...もう少し時代を下り、いまからちょうど77 年前の1937 年に世界初演され、一躍人気作品に躍り出たオーケストラつき合唱作品の金字塔的傑作『カルミナ・ブラーナ』という選択!

 彼らがピリオド解釈、つまり今とは必ずしも同じではなかった「作曲当時」の楽器や奏法を検証したうえで、作曲家の企図に肉薄しながら作品本来の魅力に迫る演奏解釈をしてきた近代作品は、これまでにもチャイコフスキー、リムスキー=コルサコフといったロシアもの、さらにラヴェルやドビュッシーらのフランス系作品などがありましたが、ドイツ=オーストリア系の近代ものがとりあげられるのはこれが初めて。さらに、今まで録音してきたなかでは最も時代的に新しかったのがプーランク(!)の作品集で、ここでとりあげていたのも1935 年の「フランス組曲」が最新ですから、今度の録音はさらに時代を「いま」に近づけてのピリオド解釈ということになります。
 実際のところ、大きな戦争があるとたいてい楽器のような貴重品が多く壊れたり、金属が軍に徴用されて金管楽器が溶かされてしまったり...と、歴史的な実物というものがどんどんなくなってしまううえ、古い録音は技術も未発達、録音用オーケストラを編成していたりなど、残っている録音でも必ずしも「ホールに響いたサウンド」というものに私たちも接することができない可能性もあるのは事実——
 そこで彼ら、バッハやそれ以前の作曲家たちなど、古い音楽の本来の姿を(徹底した音楽史検証とともに)甦らせてきた実績のある演奏家たちが、同時にこういった新しい領域の音楽でもその方法論を適用することでいかに痛快な演奏成果があがるか?ということについては、昨今「春の祭典」の歴史的復古演奏で音盤ファンをにぎわせているF-X.ロート&レ・シエクルの演奏のみごとさや、我らがインマゼールの快挙の連続が実証しているところ。
 しかし…古楽の世界では、14 世紀の古文書である「ブラヌス写本」の詩を歌詞に使っていながら、当時の音楽などいっさい顧みていないオルフのこの作品は不人気なはず、なぜそこでインマゼールが?というところからして興味深いのですが、そのあたりも今回ひさびさに充実したインタビュー記事が解説になっていますので、ぜひ全訳とともにご一読いただければ。
 演奏上でひとつ今いえることがあるとすれば、巨大編成で圧倒的サウンドに仕上げることが多いこの大作でも、インマゼールはあくまで弦楽編成を最小限(6/6/6/6/4)に絞り「適切な編成で適切な鳴らし方をすれば、どんな大ホールでも少数精鋭で最も効果があがる」という自説を立証してみせている、ということ。独唱陣にも実績あまたの超・名歌手バウアーをはじめ俊才が揃い、オーケストラも例によってソリスト続々、しかも合唱はなんと——音楽監督ヘレヴェッヘの独自レーベルPhi で絶好調の!——コレギウム・ヴォカーレ・ヘントという…インタビューアが「夢の布陣ではないですか!」と色めき立つのも納得です。



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