アリア・レーベル第51弾
ARIA AR 0051 1CD-R\1700
クナッパーツブッシュ&ベルリン国立歌劇場管
ベートーヴェン:交響曲第7番
どうせクナを聴くのであれば生真面目で破綻のない演奏より、しっちゃかめっちゃかで驚天動地の演奏を聴きたい。
「クナをピエロか何かと思っているのか」とお叱りを受けるかもしれないが、あんな重厚で深遠で恐ろしいピエロはいない。
ということで今回持ち出してきた音源はなんと1929年のSP録音。
この当時からすでにクナがクナだったことを知ってもらうための音源。
1929年。
ナチスがようやく初の国政選挙で12議席を獲得した年。第2党の地位を獲得するのは翌年のこと。
ドイツも世界もまだその後に訪れる地獄を知らない。だからクナが一時的にナチスと仲良くしていた時期とも言われる。
そのクナはといえば、ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場の音楽監督の地位をゆるぎないものにし、ウィーン・フィルとも共演、いくつかのスキャンダルにもまれつつもドイツを代表する指揮者として活躍していた頃。
そんなこの時期にクナは幸いにもいくつかのSP録音を残してくれた。有名な爆裂「軍隊」を含むハイドンの交響曲や、小粋なウィンナ・ワルツが録音されたのがこの時期である。
そしてその中の最大の録音がこのベートーヴェンの交響曲第7番。
これがまあすごい。
普通、自分の録音がレコードとして後世に残ると思ったら、もうちょっとまともな演奏にしようと思うものではないのか?
きれいにそろえたり、整えたり。
クナにはそんな意識はまったくない。
第1楽章冒頭から破綻しかけ、いや、破綻し、それでもまったく気にすることもなくそのまま突っ走る。オケはただただ必死でその棒に喰らいつく。おいてけぼりにされながら、ぐちゃぐちゃに振り回されながら、必死についていく。
「「そろえる」とか「整える」というのはなんなのだ?それは音楽をする上で必要なことなのか?」、そう言わんばかりの暴君ぶり。
演奏とはまず破綻なくきれいにまとめることから始まる我々の常識からすると、この演奏は非常識で破廉恥で猥褻で暴力的。
しかしこの推進力、この生命力。
押さえても押さえてもその下からグイグイ顔を出してくる強烈な存在感。
きれいに整って化粧されているのに何の覇気も感じない演奏と、この破天荒な演奏とどちらを取るかといわれたらどうするか・・・?
そして特筆すべきは今回のARDMOREの復刻。
これがSPか!?いや、これがSPなのだ。
安易なノイズ・カットの金属的音質復刻とはまったく違う地の底から湧き上がってくるような重低音。しかも気になるノイズすらほとんどない。
こんな音がSPから出てくるのだ。
この録音をアリア・レーベル再出発の第51弾でリリースできることを心から喜びたい。
. |
|