アリア・レーベル第53弾
ARIA AR 0053 1CD-R\1700
ケンペ&フィルハーモニア管
チャイコフスキー:交響曲第6番『悲愴』
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「ケンペの演奏で一番好きなのはウィンナ・ワルツなんです。」・・・と、ある人に言われた。
これはなかなか意味深い言葉。
実はケンペ、あるインタビューで「自分の録音に満足したことはない、でもウィーン・フィルとの「金と銀」だけは例外。」というようなことを言っていたりもする。
ケンペは生粋のドイツ人だが、その演奏の特徴はなかなか一言では言い表せない。その多様性がこの人の魅力といってもいい。
伝統的。イエス。
質実剛健。イエス。
手堅く実直。イエス。
職人気質。イエス。
華やかさも。イエス。
穏やかで健康的。イエス。
素直で明るい。イエス。
聴いてて楽しい。イエス。
ドイツの伝統的職人技を持ちつつも決して地味すぎず、手堅い音楽作りの中にエンターテイナー的な色づけも欠かさない。そして優雅で洗練された国際的な感覚も身に付けている。
こんな指揮者、なかなかいそうでいない。
だからドイツものの交響曲で伝統的な名演を繰り広げつつ、前述のとおり「ウィンナ・ワルツ」でも優雅で洗練された味わいを残すことができる。
分かりやすくいえば・・・かっこいいのに軽くないのである。
そしてそんなケンペだからこそ、ドイツ人指揮者が敬遠しがちな異国の「派手系」作品でもきわめて水準の高い結果を残す。
ドヴォルザークの「新世界」でも、ベルリオーズの「幻想交響曲」でも、R・コルサコフの「シェエラザード」でも、イタリア・オペラの管弦楽小品でももちろんOK。
そんな中、とくに絶品なのがチャイコフスキー。
ところがベルリン・フィルとのステレオ録音による交響曲第5番(1959年)は以前から注目されてきたが、今回の「悲愴」はオケがフィルハーモニア管(しかもモノラル)ということもあってか、これまで不当に無視されてきた。
20年近く前にリリースされたTESTAMENT盤は今は入手困難、ようやく最近発売されたケンペ・ボックスにひっそり納まっていたが、本来ならケンペの特徴や美質を最もよくあらわした演奏としてもっともっと広く知られていなければならないものである。
今回の録音は1957年5月。
ケンペは1956年に肝臓病のため活動を中止したが、病から立ち直ったケンペを多くの音楽ファンと楽団が待っていた。そしてケンペは以前にもまして精力的情熱的にオーケストラ作品を録音していく。
これはその時期の録音。40代ケンペの絶頂期と言っていい。
一方のフィルハーモニア管も、カラヤン-クレンペラーという偉大な指揮者たちの薫陶を受け、自分たちこそ「時代の最先端をいくオーケストラ」という高い意識があったことだろう。(・・・ブレインもまだぎりぎり生きていた。)
かくして指揮者とオーケストラはこの作品に魂を彫り込む。
楽曲の一音一音に深い意味と熱い思いが込められているのである。
実は、店主が好きなのはこの第2楽章。
厳しさと優しさ、美しさと醜さ、激しさと穏やかさ。
いろいろな要素を矛盾なく融和させ、ケンペはさらに上の次元に持っていく。
「悲愴」の第2楽章をこんな思いで聴き惚れたのは、あとにも先にもこの演奏だけのような気がする。
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