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第44号
店主イタリア紀行 ヴェネツィア編 第1部

 先日の10月19日からイタリアに1週間ほど行ってきました。
 仕事なのか、と言われると厳密には仕事じゃないような、でも観光かといわれると観光でもないような。勉強かといわれると、それも違うし、酒飲みに行ったのかと言われると、それが一番当たっているかもしれない。
 まあ、なので1週間もお休みして何をしに行ったんじゃ、と怒られそうな旅行ですが、仕事とは関係なく中身は超充実。これから読んでて頭痛くなるほど濃いものになってるかもしれません。
 正直、ヴェネツィアやミラノなど北イタリアの街は、ウィーンほど「音楽!!」という街ではありません。でも読んでいただければお分かりいただけるかもしれないのですが、これらの街での発酵・熟成を経ずして、クラシック音楽の発展はなかったんです。でも今の時代に行って、はたしてその発酵・熟成の名残を感じられるかどうか・・・それがこの旅の課題で、では結果的にそれが感じられたかどうか・・・実はまだ良くわかりません。旅の成果って、いつも数ヵ月後、数年後経ってから心や生活に現れてくるから・・・なんて言い訳かもしれませんが、とりあえず今回、いやになるほど詳細な、ほんと呆れるくらい馬鹿っぽい旅の話を細かく書くことで、ひょっとしたら書いてる本人にはわかってない何か面白いものを読んでくださっている方に感じ取っていただけるかもしれない、そしてまた、将来の自分に向けて何かメッセージになるかもしれない、というような思いで今回の紀行文を書きました。
 ほんっとに馬鹿みたいな話ばかりで、音楽の話なんて1割もないかもしれないのですが、もしもしよろしければお付き合いくださいませ。

 なお、記憶違いが勘違いなどにより事実と異なった記述があるかもしれないので、くれぐれもこれをイタリア旅行の聖典にしたりなさいませんよう・・・。軽く流して読む感じでお願いできれば・・・。
 またおみやげのCDを販売しておりますが、現地で買ったものについては基本的に再入荷しないものなので、もし応募多数の場合は先着や抽選となります。また完売の際はご容赦ください。

 それではどうぞごゆっくりイタリアの旅にお付き合いください!。


1日目 10/19(日)

 朝2時半に起きて最終準備。
 ほとんど準備はできているように思うが、やり始めるとあれもこれもやることがある。
 フィガロのDVDをかけながら荷物を詰めなおす。
 準備完了。寝ている子供たちをわざわざ起こして、「行ってくるぞー」とあいさつ。
 カミさんにJR勝川駅まで送ってもらい、JR、名鉄と乗り継いで、中部国際空港に7時着。
 乗るのはJALとエアフランスのコードシェア便。共同運航とでもいうのかな?海外でも使える携帯をレンタルして、両替も済ませて、いよいよ搭乗。昨年のウィーンのときはこのあたりで結構ドタバタしてたが、さすがにちょっぴり慣れたかあまりハプニングもなく搭乗に成功。一路パリ・シャルル・ドゴール空港へ。そこでヴェネツィア行きの飛行機に乗り換えるのだ。

 そしていよいよ12時間の空の旅を経て、いきなり着いた。パリ。ドゴール空港。すごく近代的で新しい空港。こんなきれいだったっけ。
 まあ、それはいいとして、ここでヴェネツィア行きの飛行機に乗り換える。
 ・・・今回の旅行の課題のひとつ、海外の空港での乗り換え。直行便でない限りこれからも必ず直面する問題。
 はてさて見ず知らずの空港でひとりでうまく乗換えができるものなのか?
 ・・・でも何を調べても、誰に聞いても「簡単」、と言う。特に今回のパリでのヴェネツィアへの乗り換えは、黙ってても大丈夫、というほど簡単らしい。
 で、それを信じて気楽に飛行機を降りる。まあ、日本人もいっぱいいるし何とかなるか。
 チケットには「2F」と書いてあるから、その表示に向かって進めば子供でも行き当たるんだろう。

 ・・・しかし。
 チケットに書いている「2F」なんてどこにもない。
 2Aも2Bも2Cも2Dも2Gもあるのに、なぜか「2F」の表示はどこにもない。
 うろうろしている間に、ふと気づくとあれほどいた日本人が誰もいなくなってる。
 う・・・と・・とりあえず気を取り直して先に進む。まだ時間はたっぷりある。
 電光掲示板らしきものがあるが、ヴェネツィア行きの飛行機のことなんかどこにも書いてない・・・。
 少しあせりながらさらに奥へ進むと「入出国審査」のゲートが出てきた。
 ココを通るのか?出国してしまっていいのか?

 ・・・確かイタリアとフランスは同じヨーロッパ仲間ということで、ヴェネツィアに着く前にパリで入国審査をすると何かで聞いたような気もする。・・・とするとココを通っていいわけか・・・。
 でもほんとか??
 もし出国した後にヴェネツィア行きの飛行機の乗り場は出国ゲートの手前だった、っていうことになったらどうすればいいのだ!?もう戻れんぞ!?
 うぎゃー。
 ・・・と、ゲートの横にちょっと怖いモデルのような黒人お姉さん係員が立っている。
 き、聞いてみるか・・・??ちょっと怖そうだけど・・・。なんか質問とかしたらぶっ飛ばされそうな雰囲気だけど・・・。
 で、聞いた。
 すると案の定「フン!」と、鼻息をかけられそうな勢いで入国審査ゲートのほうをしゃくりあげる。こ、こわい・・・。
 ああ、でもよかった・・・とりあえずここでよかったみたい・・・。
 で、出国審査をしてもらってゲートを抜ける。
 でもやっぱりどこにも「2F」の表示はない・・・。
 と、そこにエレベーターが。
 こ、これ・・・乗るのか?乗らないのか?なんか「EXIT」と書いている。「EXIT」?なんだ、これは?乗ってしまえばいいのか?え〜い、乗ってやれ!
 ・・・なーんてことはさすがにない。馬鹿は馬鹿だがそこまで馬鹿ではない。危ない危ない。もしこのエレベーターに間違って乗ってしまって空港からパリの街に出てしまったら、おれはヴェネツィアに行くこともできず、日本に帰ることもできず、お金もなくなり、そのままパリで一生皿洗いでもするしかない。しかしそのうちパリで一番の皿洗いになってNHKとかで取り上げられて、20年ぶりくらいに家族と再会するかもしれない。
 そんな・・・。それはあまりに寂しい。
 まあ、そういう人生もあるかもしれないが、それよりはとりあえず今はヴェネツィアへ行こう。
 ・・・しかしそこからしばらく歩いてもやっぱり「2F」なんて表示は現れない。
 でもしばらくすると「F38」とか「F42」とかそんな番号表示が出てくる。なんか近づいたか?
 そしてなんだかたくさんの人が並んでいる行列がある。先のほうではセキュリティ・チェックしてる。でもやっぱりそこにも「2F」という表示はない。とりあえずその列を横目で見ながらさらに奥へ進むが・・・やはり「2F」なんてない。
 さっきも言ったけどドゴール空港での名古屋からヴェネツィアの乗り換えはあらゆる乗換えの中で最も簡単というようなことが書いてあったのに、全然わからんじゃないか!?
 一体どこにあるなんだ「2F」は!?いい加減腹まで立ってきた。
 ひょ、ひょっとしてさっきゲートで「フン!」と教えてくれたモデルのような空港職員・・・おれをだましたんじゃないのか!?
 彼女は昔日本人の男と付き合っていてひどいふられ方をして、それ以来あそこに立っては、道を尋ねてくる日本人男性に嘘を教えることで復讐を果たしているのではないのか!?
 しまった!おれはまんまと彼女のわなにはまってしまったのだ。
 しかしそうはいくか。意地でもヴェネツィアへ行ってやる!
 しばらくうろうろしていたが、やっぱりさっきのセキュリティ・チェックの列が怪しいということで、その近辺をうろうろする。
 何か手がかりはないか?
 ない。
 どこにも「2F」とは書いてない。・・・けどやっぱりココが怪しい。
 と、そこにもエスニック系の美人職員が立っている・・・。でもやっぱり、ちょっとこわそう・・・。
 質問したらまた鼻息をかけられて、挙句の果てにだまされるかもしれない。
 し、しかし日本の100万人のアリアCDファンのためにもここは勇気を出して聞いてみよう。
 おそるおそるチケットを出す。
 すると、にっこり笑いながら、「ココ(日本語)」と教えてくれた。
 おー、もうそれだけでべりー・はっぴー!!あはははは、ここでよかったんだ。
 とするとさっきの鼻息モデルもおれをだましていたわけではなかったのか。
 いや、それはわからない。本当はだまそうと思っていたのだが、おれの顔を見て、この人だけはだましてはいけない、と思ってつい本当のことを言ってしまったのかもしれん。そしてもう二度とこんなことはするまい、と心に堅く誓ったかもしれない。
 ああ、なんていいことをしたんだろう。

 さて、その行列に並ぶこと15分。ようやくおなじみのセキュリティ・チェック現場に。
 しかし・・・なんかいやに厳しそうだぞ。日本の数倍も。
 ジャケットも脱がんといかんし、カーディガンもマシンガンもベルトも手榴弾も全部取らないといけない。
 ひえー、靴まで脱がせてる。
 これでもしもしパンツのひもが針金とかでできていたらどうするの!?そのときはやっぱり脱がないとまずいよな・・・。
 え〜!?こんな大衆の面前で!?
 そ、それはまずいよ。
 しかもおれの列のチェック職員は可愛い女の子だよ。この状況でパンツ脱いでフル○○というのは絶対まずい!
 頼むからそれだけは勘弁して!
 ・・・でも幸か不幸かパンツのひもは針金じゃなかったので特に問題なくチェック終了。
 ・・・と思いきやフェイント!
 目の前にカウンターが並んでいて、そこでまた呼び止められる。かばんを開けてもう一度中を見せろという。さっきX線で見てたじゃん!?
 かばんを開けると金属探査機でチェックしてる。さっき飛行機の中でこっそりくすねたパンがポロリと落ちて一瞬ヒヤリとしたが、それは問題ないみたいだった。危ない危ない。
 いやー、厳重やな〜、と安心してバッグを閉じたら、またもやフェイント!
 いきなりプロレスラーみたいなおじさんがやってきてパスポートと搭乗券を見せろという!わ、わ、わ、超こわい。
 今度は二つを差し出して両手を挙げてホールド・アップしていたら、軽くチェックしてすぐに返してくれて、どっかに立ち去ってしまった。
 ふー・・・。
 ちょっと拍子抜け。ところがパスポートと搭乗券をポケットに入れようとしたら、搭乗券が封筒の中から抜き取られている!!
 うぎゃー!!
 お、おれの搭乗券返せー!
 さっきのプロレスラーみたいなやつが抜き取ったんだ!新手のスリか!というか、ほかの職員も見てたじゃないか!ぎゃーぎゃー!なんで何も言ってくれないんじゃー、さっきのプロレスラーを探してくれー!!!
 と、思ったらプロレスラーはすぐそこで搭乗券をパソコンで照合してた。
 あはは。それならそうと言ってくれよ、ボブ!
 
 さて、今度こそ搭乗券を返してもらい、いよいよ乗り換えゲートに向かう。いよいよヴェネツィアに近づいてきた。
 通路を進んで突き当りを曲がると一気に広大なフロアに。そこが搭乗待合室だ。
 でもどっから乗るの?20くらいのゲートが並んでるけど、どこにも「2F」なんて書いてないよ。
 ・・・普通、空港といえばやたらでかい電光掲示板にいやというほど情報が輝いているもの。・・・だけどそういうようなものはない・・・探して探してようやく小さな電光掲示板を見つける。
 おお・・・あった!ヴェネツィア行きAF2226便!
 そこに書かれてあるゲートに行ったら、電光掲示板にVENEZIAと書いてある・・・これで大丈夫か。む?なんか出発時間が遅れてるぞ。5:35から6:15になってる・・・。とほほ・・・早めに着いたら今夜もどっかのコンサートへ行こうと思ってたのに、これではちと無理だな。
 しかし、ということはまだ2時間もある。じゃあ、トイレでも行ってこよう。
 階段を下りて、あ、あったあった・・・と思って入ろうとしたら女性用だった!危ない危ない、ここで変質者と間違われるとややこしいことになる。あ、なんだ、ちゃんと奥にあるじゃない、男性用。
 と思って入ろうとしたら、おっと!ここも女性用だった、あははは。
  ・・・って、おい!どっちも女性用か!?んなばかな。落ち着け、落ち着け、そんなわけがない。
 ・・・で、ドアのマークをよーく見たら、どちらも赤い女の人のマークだけど、一方はスカートで一方はズボン。
 な、なに!?赤いけどこれは男か!?両方とも赤って、そりゃないだろ〜!!??男は黒だろう!?これは日本人的偏見か?
 あーあ、トイレひとつでこの騒ぎか。先が思いやられます。

 そしてそれから1時間半、ひたすら待合室で待ち続け、ようやく搭乗!
 ・・・しかし日本人が全然いない・・・。
 さっきの飛行機にはあんなにたくさんいたのに・・・。
 本当にこの飛行機はヴェネツィアにいくのか??
 おそらく大丈夫だろうが、これだけ日本人がいないというのは気になる。パリからヴェネツィアへ行く飛行機に日本人が1人もいないなんておかしくない??
 ひょっとしてアルゲーロとかボルツァーノとか、聞いたこともないような田舎に行く飛行機ってことはないの??
 電光掲示板には大きくVENEZIAと書いてあるし、とりあえず搭乗口に入っていく。係員のお姉さんも何も言わなかったことから考えるとおそらく99%は大丈夫なんだろうけど、飛行機はバスみたいに「ヴェネツィア行き」とか書いてくれてないからどうしても不安になる。


 実際に飛行機に乗ってから、隣に座っているご婦人のチケットに「VENEZ」とまで書いてあるのがチラッと見えて安心した。
 けどひょっとしたら「VENEZOMPIA」とかいう田舎町ということはないのか!?
 ・・・とかいう気もしたが、もうそれ以上心配しても間に合わないし、そろそろいろいろ考えるのも疲れてきたし、あきらめた。

 飛行機に乗っている間に、次第に夜になってきた。
 アナウンスではヴェネツィアの気温がどうとか言ってる。全く何の問題もなくヴェネツィアに近づいているらしい!
 お!
 ふと窓から見ると眼下に明かりが!あれはひょっとしてヴェネツィアの街の明かりかっ!!??
 ・・・と感動していたら、滑走路の道路灯だった。
 あはは。もう着陸らしい。
 かくしてついに長い長い序曲の末に、ヴェネツィアの地に降り立つ店主であった。パチパチパチ。


 おや、思ったよりそうとうに小さい空港。昔の名古屋空港より小さいか。
 とりあえず荷物を受け取ろう。
 しかしいつも思うんだけど、この荷物の受け取り、全然違う別の人の荷物を取って行ってもわからんよね。出口で半券と照らし合わせることもあるし、ノーチェックのこともあるし。一番でかそうな荷物を取ってすたこら逃げていくやつとかおらんのかね。
 と、言ってるそばから、やっと出てきたおれの荷物をコンベアーから持ち上げて持っていく親父が!そ、それ、おれの荷物じゃないの!!??返せー!!と思ったら本物の荷物が出てきた。ごめんごめん。濡れ衣着せるところだった。
 さて、ということで荷物を取って出口を出る。
 出たところで旅行代理店のガイドが待ってくれている。電車に乗って水上バスに乗ってホテルまで行ってももちろんいいのだけど、夜も遅いしここは楽してホテルまで水上タクシーで乗り付けてもらうことにしたのだ。ヴェネツィアの街へのアプローチはやはり海の上から、というしね。

 ということで暴走族さながらにぶっ飛ばす水上タクシーで一路ヴェネツィアの中心へ!
 途中杭が何本も海面から出ていて「危ないな〜」と思いつつも、タクシーのスピードはゆるむことはない。
 やがて街の明かりが近づいてくる。
 そして海からやがて運河へ。運河の岸辺には写真で見たとおりの古い歴史を感じさせる建物が所狭しと並んでいる。
 ああ、本当にヴェネツィアに来たらしい・・・。
 今から20年前に来たときは、確か滞在時間3時間ほど。何が何だかわからないままお土産だけ買って電車に乗り込んだ覚えがある。雨に降られてその後のウィーンで風邪引いた。

 そしてタクシーはヴェネツィアの運河にかかる最も古い由緒ある橋、リアルト橋に到着。
 なんとヴェネツィアのホテルはこのリアルト橋のふもとにある。その名もホテル・リアルト。ちょっとぜいたく??
 チェック・インして部屋に案内してもらうと、ありゃりゃ、おそらくホテルでいっちばん狭い小さな部屋・・・だけどまあ、住めば都。文句ないです。
 それより、カーテンを開けると、おお、運河側の部屋!運河と橋が一望できるなんとも素敵なお部屋じゃないですか。幸せです。

 さて、もう9時も過ぎてコンサートも終わってるので、さっそく酒でも飲みに行くか。
 ヴェネツィアといえばバーカロ。立ち飲み居酒屋である。
 ヴェネツィアは街中にそのバーカロがいたるところにあって、軽くいっぱいワインと、カウンターに並んでる一口サイズのお惣菜(チケッティ)をいただいて、また次のバーカロへ、みたいにするらしい。いわゆるはしご酒。こりゃたまらん。ヴェネツィアの街は水路と歩道のみで車は走ってない。だから飲酒運転もない。街全体もそんなに広くないし、酔っ払っても家に帰れないということもないらしい。
 ということでさっそくリアルト橋を渡って有名なバーカロへ。
 リアルト橋近辺は観光客にとっても要所なのでこの時間もすごい賑わい。宵闇の黒い運河もまだまだ多くの船が行き交っている。
 橋を渡ったふもとにはテーブルが並べられ、たくさんの人たちがわいわい楽しそうに運河を眺めながらお酒を飲んだり食事をしたりしている。通称「ワインの岸辺」というらしい。
 腹は減ってないけど、早く何か飲みたい!
これは翌日の朝撮ったホテルの窓か
らの写真。こんなところです。

 ということでまず1軒。NHKでも紹介されたことのある有名なバーカロ。中ではそのNHKの番組がノートパソコンで流されていて、その番組に登場するそのまんまのの親父がカウンターの中でニコニコしてる。
 残念ながらつまみになるようなものがほとんど売り切れていて、コンビーフみたいなのを食べながら赤(ロッソ)&白(ビアンコ)いっぱいずつワイン(ヴィーノ)をいただく。まずまず。
 さて、ちょっと酔いもまわってきたしもう1軒行きますか。長居は無用。

 もう1件はアーケード街から少し中に入ったところにある小さなバーカロ。
 ちょっとおかまっぽいすごく優しそうなお兄ちゃんがやってる。
 少し高級なワインを置いてあるけど、そんなには高くない。目の前のチケッティを指差して、これとこれ、と言いながら注文していくとすぐにお勘定してくれる。
 バーカロによってお勘定の方法が違って、最後に一括してお勘定してくれるところもあれば、ここみたいに食べる前に払うところもあるみたい。でもどばーっとお客さんが来て、どばーっと注文して、最後に「お勘定!」って言って思い出せるものなのかね?まあいい加減なものなのかもしれん。その点、この店はレシートで出してくれるから安心。
 ちょっと混んできたので2杯目飲んだところで退散。
 ふー・・・幸せ。
 アーケードの人ごみをニコニコしながら歩く。ああ、なんだか嬉しい。

 アーケードの上には大昔のワイン醸造の壁画が。どこをとっても歴史的建造物。どこをとっても映画のワンシーンに出てきそうな風景。なんちゅうところだ。
 リアルト橋の上から夜の運河を眺める。夜風が酔っ払って火照った頬に心地よい。
 さて、9時40分。このままホテルに帰るか・・・・いやいや、それはあまりにもったいない。酔った勢いでブラリと散歩しましょう。
 ヴェネツィア一番の観光名所サンマルコ広場まで、歩いて15分くらいらしいから、ぶらぶらしてたら着くでしょう。 
 ヴェネツィアはイタリアで一番治安がいいらしく、真夜中に女性一人で歩いても大丈夫なくらい安全な街だと誰もが口を揃えて言う。だからきっとそうなんでしょう。
 ということで地図を見るでもなく、なんとなくサンマルコ広場を目指して歩き始める。
 ・・・しかし歩き始めて5分で迷う。
 というか、迷うようにできている。
 街全体が道幅1メートルというような路地で張り巡らされているのである。まっすぐな道なんて存在しないし、どこも似たような街並みだし道だし。
 でもまあ酔っ払って機嫌もいいからこのままフラフラ散歩しましょ。
 と歩くこと30分、気づいたら大きな橋に出た。あ、アカデミア橋らしい・・・。南に向かっていたはずが、一番西の端っこに来てしまった。ま、いいか。まだヘロヘロということはない。
 なんとなく地図が頭にあるから、ここから東南東に向かって歩けばサンマルコ広場に着くはず。昼間の人であふれかえったサンマルコ広場ではなく、やっぱり夜のそこそこ静かなサンマルコ広場に行ってみたい。よし、もうひとがんばりして。
 そしてまた30分、迷いに迷いながら、自分がどこにいるかわからなくなりながら、ようやくサンマルコ広場の近くにたどり着く。ちと疲れた。
 小さな回廊をくぐると、おお、そこはサンマルコ広場!そしてサンマルコ大聖堂!
 広場ではたくさんのカフェの楽団が演奏してる。まだまだ夜はこれから!というノリである。
 そしてサンマルコ大聖堂。
 ガブリエリがモンテヴェルディが活躍した大聖堂。もちろんヴィヴァルディもココには何度も足を運んだだろうし、ワーグナーもヴェルディもチャイコフスキーもブリテンも、みんなココを眺めてため息をついたに違いない。
 ああ、なんという。これぞ旅行の醍醐味。
 さて・・・帰ろうか?ここからなら15分でホテルまで戻れるはず。
 でも・・・そこから海沿いの道に抜けてすぐのところに、ヴィヴァルディが活躍したというサン・ピエタ寺院があるはず。ちと疲れてきたけど、そう遠くないはずだし行ってみよう!
 海沿いの素敵な通りを歩き、ヴェネツィア一のホテル「ダニエリ」や、チャイコフスキーの定宿「ホテル・ロンドラ・パレス」を抜けて、ピエタへ。
 ・・・閉まってる。そりゃそうか。ひょっとしてまだコンサートとかやってるかも、とか思ったけどそれはなかった。
 さて、じゃあ帰ろう。
 えっと・・・サンマルコ広場まで戻れば確実だけど、結構人も多いし遠回りだし、ここから北北西に向かって進めばホテルに着くはず。そうしましょう。
 ・・・と言って歩くこと30分。
 それらしいところに出られない。
 自分では北北西に向かっているつもりなのだが、突き当りまでいくと行き止まりになっていて引き返して右に曲がったり左に曲がったりしているうちに、何がなんだかわからなくなってきた。
 先ほども言ったけど、ほんとに道幅1メートルの道がくねくねと続いて、2メートルくらいの道が出てきても急カーブでどこへ行くやらわからない。とくに肉体的にも精神的にも辛いのが、ここだーと思ってズンズンズンズン進んで行ったら最後に小運河にさえぎられて行き止まり・・・というやつ。これはへこたれる。
 そんなこんなで完全に自分がどこにいるかわからなくなってしまった。
 時計を見たら11時半。さすがにちょっとあせってきた。
 人気も全くなくなってきた。

 いかに治安がいいとはいえ、道幅1メートルの道路の向こうから黒人の男がやってきたらさすがに怖い。空手38段なので5人くらいならなんとかなるが10人くらいになるとさすがにやられるかもしれん。というか、この道10人も入れません。
 しかし冗談抜きで喉はからから、冷や汗は出てくるし、完全にあせってきた。
 一体自分はどこにいるのだ??
 すると、ヴェネツィアには珍しく、まーーっすぐ100メートルくらいの直進の小道が!
 どうやら北に延びているらしく、なんと、その道の先にはちらちらと船の明かりが見えるではないか!ということはこの道を抜けたところは運河!つまりリアルト橋も結構近くのはず!
 もう、走った。
 半分笑い声をあげながら小走りでその小道を駆けた。足はガクガクだが、まるで野をかける乙女のように!
 そして小道を抜けた。
 そこは運河のはず!

 ・・・しかし、そこに運河はなかった。
 真っ黒な、すべてを吸い込んでしまいそうな、漆黒の海。

 ちょっと想像してほしい。
 小さな小道を抜けて、その先に小川があると思って駆け抜けたら、そこに想像もしていない真っ黒な大海が広がっていたら。
 これは黒人10人どころの恐怖ではない。
 しかも明かりらしい明かりもなく、もちろん人も全くいない。
 あるのは永遠に広がる真っ黒い海だけ。遠くの船の明かりが心細げにユラユラ揺れているのみ。
 あまりの恐怖で全身鳥肌が立った。
 ・・・しかし人間は強い。ここに海があるということは、この海沿いを20分も歩けばリアルトの方向に行く道に出るはずと冷静に判断する力が残っているのである。
 明かりは暗いが、道幅は広いので海に落ちるというようなことはない。・・・とにかく恐怖を制して海沿いにガンガン歩いていこう。
 そうすると、くどいようだがやっぱり人間は強い。
 ものの5分もたつうちにその状況に慣れてくるのである。そして次第に、頭の中に残っている地図と、実際に自分が歩いている地形とを比較しながら自分がどこにいるか分析を始めるのである。
 すると10分もたたないうちに、サンマルコ広場行きの矢印が出てきた。
 ここは一旦サンマルコに戻ろう。
 そこからさらに数十分、サンマルコにたどり着く。
 ほとんど思考とかしていない。本能だけで動いている感じ。
 疲労と、でもそれと裏腹の極度の緊張状態。
 そして、そこから慎重に歩を進めて15分後、ようやくホテルにたどり着いた。
 時刻は12時を過ぎている。
 2時間半の素敵な散歩はようやく終了。
 この旅行で消費するはずのエネルギーの80%をすでに使い果たした気がする。
 足はがくがく、意識は朦朧。部屋に着くと倒れこむようにベッドへ。
 しかし意識は朦朧としているのに、ビンビンに緊張した神経は寝ることを許さない。半幻半現。異常な幻想が頭に渦巻く。
 意識朦朧とした中で目に浮かぶのはサンマルコの人だかり、楽しそうに演奏する楽団、小さな広場の噴水、バーカロに並ぶワインの瓶、ショーウィンドーに並ぶ仮面、運河を行き交う大小の船、肩幅ほどの広さの曲がりくねった道、そして暗黒の大海、静かに瞬く星。
 耳に響くのは人々の笑い声、歌声、ささやき声、広場で奏でられていたピアゾラとプッチーニの音楽、運河を過ぎるボートのエンジン音、無人の路地に響く乾いた足音、そして押し寄せる波の音、そして星の瞬きの音。
 頭がメリーゴーランドになったかのようにさまざまなシーンが津波のように押し寄せ、折り重なり、火花のようにはじける。
 今自分はどこにいるのだ?
 ここはどこなのだ?
 ・・・これがヴェネツィアなのか?
 そう・・・これがヴェネツィア。
 自分がいる「ここ」が、ではなく、このひどく混乱した頭の中こそヴェネツィア。

 ・・・そして錯乱した頭の中で、ピエロの仮面がニヤリと笑いながら言った。
 「ようこそヴェネツィアへ。」

 ふふふ、・・・ようやくヴェネツィアにたどりついたらしい。



2日目 10/20(月)

 さー!朝!!
 起きたら6時。時差もなんのその、よーく寝た。
 暑くもなく、寒くもなく、ベッドも快適で夜は静かで、ほんとよく眠れた。疲れは取れたぞ!
 よし、シャワーを浴びて出発だ!
 まず朝ごはん。
 ホテルで食べてもいいんだけど、朝からやってるバーカロがあるはずなのでそこでまずはワインでも1杯2杯飲んで景気をつけようじゃないの!
 ・・・と思ったが、今日の第1ポイント、アカデミア美術館は8時過ぎには開くから飯喰ってる暇はないな。まあ、早朝のバーカロは明日にするか。
 ということとで昼間は結構あったかくなりそうなのでちょっと薄手の恰好で出発。

 ホテルを出て、大運河沿いに歩く。昨日いろいろ歩いたので、なんとなくヴェネツィアの歩き方はわかった。
 ヴェネツィアを歩くときははっきり二通りに分けたほうがいい。
 ひとつは迷うつもりで散歩するような歩き方。最悪迷っても1時間あれば行きたい所には着ける。それを楽しむ歩き方。

 もうひとつはどこかに行くための歩き方。これは中途半端なことをしないで、地図を握り締め、ちょっとでも迷ったらすぐに引き返して自分の居場所を確かめながら進む歩き方。時間通りにどこかにたどり着かなくてはならないときは絶対この歩き方。
 その中間的な方法を取ると、結果的に全部一番目の歩き方になる。間違いない。
 ということで、この朝は2番目の絶対行き着く歩き方で進む。
 実はこれはこれでオリエンテーリングのようで面白い。
 道幅1メートルくらいの通路まで地図には大きく書いてあったりして、そこを忠実に進む。途中どうしてもこの路地に行きたい!という衝動が抑えられなくなったら、それはそれで許し、でもきちんと自分の居場所を捕捉しながら進む。
 目的地に到着したときは迷路を解き明かしたような快感が味わえる。ほーらね、みたいに。
 さて、ということで厳格に地図を見ながら進んでいくと、あら、昨日来たなあ、というような場所に何度も出くわす。
 これは途中出くわした広場から撮った鐘楼。店主の撮影技術はまったく稚拙だが、鐘楼が曲がって見えるのは店主の撮影の腕のせいではない。本当に傾いているのである。

 そしてようやく西の端、アカデミア橋まで来る。昨夜は本当に遠くまであちこちさまよってたんだなあ・・・。
 さて、そのアカデミア橋。

 木造だよ。でかいけど。
 手前から覗くと、なんだか浮世絵に出てくる江戸の橋みたい。意識して作ったのかな?
 でも屋台が並んで商業施設の一環となってるリアルト橋より風情があっていい。
 ちょうど夜明けと重なってラグーナの向こうから日が昇るのが見える。いいじゃない!
 ゆるりと降りて、アカデミア美術館へ。ちょっと早いので近くをぐるりと回る。
 近くに小学校があるのかな。元気な子供たちが走ってとおりを抜ける。車がないからみんなふざけ放題。人口減が心配されているヴェネツィアだけど、こんな元気いっぱいの子供がたくさんいるんなら安心だね。
 ちなみにこの時間は通勤ラッシュでもあるらしく、水上バスからどどどどっと人が降りてきて、足早に歩いていく。その風景は日本と変わりない。まあこんなヴェネツィアは見たくない。というか、ヴェネツィア劇場開演前のあわただしさということか?早めにアカデミア美術館に駆け込もう。

 ということでアカデミア美術館。大きさ的には中規模の美術館。
 朝一番なので自分以外は誰もいない。こういう雰囲気がいい。
 ベッリーニやティントレット、カルパッチョの傑作を足早に見て、例によって売店へ。CDは・・・・ない!!う〜ん・・・そうかあ。仕方ない。
 30分ほど見てまわって美術館を出る。
 そしてアカデミア橋を渡り、サンマルコ広場へ向かう。
 ただ、その前に今夜来る予定のコンサート会場とフェニーチェ歌劇場の場所だけ確認しておこう。一度見ておくと安心なので。
 今夜のコンサートはインテルプレティ・ヴェネツィアーニ。国内盤でも数枚出ている団体だが、正直有名ではない。
 出発前にこの日の夜にあるコンサートを調べた。ヴェネツィアといえばもちろんフェニーチェ歌劇場だが、それ以外にも小さめの室内楽団が毎晩のようにバロック・コンサートをやっている。まあ観光客目当てのコンサートなので、ほとんどが「四季」が入っていたりするポピュラーなもの。しかしその中でこのインテルプレティ・ヴェネツィアーニだけはマラン・マレのチェロ協奏曲やモーツァルトのフルート協奏曲といったヴェネツィアにあってはかなり野心的な選曲だったのでこの演奏会にしたのである。それにインターネットで見た彼らのビデオ・クリップがとってもスタイリッシュでかっこよかったから。
 もしよかったらどうぞご覧ください。

http://www.interpretiveneziani.com/index.php?page=35&lang=en
  

 日本に帰ってきてからもう一回見たけれど、ヴェネツィアの雰囲気をとってもよく表わしてるいいビデオだと思った。
 そのインテルプレティ・ヴェネツィアーニのコンサート会場。
 場所はアカデミア橋を下りたところあたり・・・なのだが、・・・ない。
 ぐるぐる回ってへんてこりんな路地裏まで見たがない。
 それらしい場所には素敵な教会があるが、入り口にはなんの告知もない。おかしいなあ・・・。
 結局10分ほどさまよった末に、やはりその素敵な教会がコンサート会場であるとの結論にたどり着く。でもなんの告知もしないのね・・・。商売っ気ないというか。でもまあ、ここならアカデミア橋のたもとなので今夜来るときも迷わずにすみそう。
 さて、それでは続いてフェニーチェ歌劇場にも行ってみましょう。劇場前には大きな広場があるようなのでわかるはず。
 さっき話した2つ目の歩き方で迷わないように慎重に進み、それでもちょっと迷いつつ、ようやくそれらしい場所に。
 ん?ここか?
 思ったよりかなり小さい。
 前の広場も広場というほどの広さじゃない。街の公会堂といった感じ。でもきっと中は素敵なんだろうなあ。数年前に火事に遭ってまだ再建間もない建物だけど、昔からあるような威厳はある。

 さあ、ふたつの施設を押さえたので、一路サンマルコ広場へ!
 幸か不幸か昨日散々歩いてなんとなくわかっていたので、それほど迷うことなくサンマルコ広場近辺まで来られた。
 今回は通りからすぐに広場に入らず、一度ラグーナ(海)のほうへ出て、岸辺を通って広場を目指す。途中、CDを売ってるかもしれないと書いてあったインフォメーション・センターに寄るがまだ開いてなかった。
 お土産屋台が並ぶにぎやかでちょっと猥雑な岸辺の大きな道を通って、いよいよサンマルコ広場。さすがにかなりの人。
 さて、昨日も来たけれど、今回は海側からのアプローチ。
 海に面して入り口に二本の巨大な円柱が立っている。

 柱の上には聖マルコを表す翼を持った獅子が。昔ヴェネツィア共和国が世界に君臨していた時代にどっかからぶんどってきた戦利品らしい。
 柱と柱の間は7,80メートルあって、当然みんなその間を通って広場へといくのだけど、昔、この柱と柱の間にロープを渡し、それを使って公開処刑をやっていたらしい。だからできればその柱の間は通りたくない。
 さて、柱の横を通って準備中のカフェの前をとおり、ヴェネツィア一の眺望を誇る鐘楼へ。
 サンマルコ大聖堂より15分早く開くし、昼になるとすごい行列になるというから、まずはここから攻略。
 鐘楼は9時半から、ということでまだちょっと時間があるな・・・と思ったらみんな入って行ってるじゃん!なんだか知らんがもう開いてるみたい。
 お、そんなに並んでない。ラッキー。サンマルコ広場にある施設の見学は早朝にしろ、というのは当たりだね。
 小さなエレベーターに乗る。列に並んでた5,6人とぎゅうぎゅう詰めになって上へ。

 こういう密室で外人たちといっしょになると、突然自分が「ガイジン」なんだということに気づく。
 そして日本人ってすごく地味だと思わせられる。顔立ちも地味だけど体格も華奢だから余計に存在感がなくなる。そしてウィーンのときも思ったけど、服装が地味。自分は結構お洒落にしているつもりでいても、選ぶ色が大体モノトーン系になって、日本ならそれで恰好がつくけどヨーロッパでは喪服か作業服みたいに埋没してしまう。思い切って狂ってるんじゃないかっていうくらい派手な色の服にするくらいでちょうどいい。日本人アーティストが海外CDデビューしたときに、こいつ何考えとんじゃ、というような超ど派手メイクにするのもわからなくはない。アジア系はヨーロッパでは本当に存在感がなくなるのである。
 まあ、それはそれとして、鐘楼の上に着く。降りると周囲360度の大パノラマ。
 わお。

 すごいすごい。
 でも表から見ると壮麗なサンマルコ大聖堂も上から見られるとちょっとハリボテだったりする。ははは。
 ただ、鐘楼だけあって頭上に巨大な鐘が。これが鳴ったらうるさいだろうなあ。それにしても日本も西洋もなんで宗教と鐘とが結びつくんだろう。
 なんのかんのと15分ほど見学して、それではいよいよサンマルコ大聖堂へ行きますかー!
 広場へ降り立ってサンマルコ大聖堂の方を見ると、・・・あじゃ・・・もうすごい列だよ。さっきこんなに並んでたっけ?しまったなあ・・・。
 まあ、9時半過ぎならもうみんな活動時間だし、ツアーとかなら早朝にバババっとポイントを回ってしまいたいという気持ちもわかる。
 見ると4列くらい列ができているので、とりあえず一番人が少ない列に並ぶ。日本人ツアーの人たちがたくさんいる列だ。
 なんだか日本人を久しぶりに見るような気がする。ちょっと照れくさいような恥ずかしいような。
 新婚さんが多い。まだいろいろ夢描いたり人生に希望を抱いたりしてるんだろうなあ。はっははは。
 まあ、それはいいとして並ぶこと20分、ようやく入れそうな雰囲気。1回に10人くらいずつ入れてくれるのだが、なにせ大人数なのでなかなか進まないのだ。
サンマルコの鐘楼から見た、沖合いにある
サン・ジョルジョ・マッジョーレ島。明日行き
ます。

 で、いよいよ前に並んでいる新婚さんs’ツアーがどどっと入り始める。自分もその最後尾で入れてくれるかな、どうかな、ディズニー・ランドやUSJとかだといつも自分の前で切られちゃうけど、今回は入れるかな、と思ったら、自分が入る直前で、そのツアーの添乗員さんらしい人が警備員さんに、「ここまでです。ココで切ってください。ココで終わりです!ココです!ココ、ココ!!!」と、言ってる。・・・そ、そんなに強調しなくても・・・。おれもいっしょに入れてくれよ〜・・・と思ったが無残に鎖で閉じられる。とほほ。
 仕方ない。まあそういうこともある。
 で、さらに並んでると、その警備員さんが後ろに並んでる中国人観光客集団に何か言ってる。すると中国人集団は何やらかんやら言ってるが、突然いなくなってしまった。
 ん?
 気づいたら自分1人。その列。
 すると警備員が、一人残った自分に「なんでおまえまだいるの?」という顔して見てる。
 で、一言。「ツアー・オンリー」。
 なぬー!ここツアー専用の列なの!?
 だったら早く言ってくれよ添乗員のおねーさん!だから「ココまで!ココまで」と激しく言ってたのね。
 ははは。
 で、ちょっと頬を赤らめてそこを抜け、「フリー」専用の列を見たらとんでもない長蛇の列!!うーん・・・これは明日出直そう。

 ということで一応計画通り次の隣のドゥカーレ宮殿へ向かう。
 一応ヴェネツィアに来たら、サンマルコ広場に来てサンマルコ大聖堂とドゥカーレ宮殿は見ろ、ということなので一応押さえとかないと。
 昔ヴェネツィア共和国時代、一番えらい総督の居城で、政治もここで行われていた。隣には牢獄も併設されていて、牢獄との間に渡されている橋は映画でも有名な「溜息の橋」と呼ばれている。
 店主も大好きな映画「リトル・ロマンス」でも登場して、その溜息の橋の下でキスをすると永遠の愛が叶えられると言われていた。そういやあの頃はダイアン・レインが好きだったなあ。永遠の愛を信じていたりしたなあ。
 まあ、それはいいとして、ではドゥカーレ宮殿行ってみようじゃないの。
 ここはサンマルコ大聖堂のようなキチガイじみた行列はない。でも入り口でチケットをレーザー読み取り機に照らして入場するのだけど、どうやっていいかわからずマゴマゴマゴマゴしてると怒られる。さっきのアカデミア美術館ではうまくいったのになあ。日々勉強です。
 さてドゥカーレ宮殿。

 入ったらいきなり中庭のようなところになる。そこも豪壮で素敵なんだけど、それよりそこからどこへ行っていいかわからん。
 ヨーロッパの施設は何においても日本ほど親切ではない。日本はつくづく至れり尽くせりだと思う。ただ過保護かもしれん。とはいうものの外国人観光客には過保護くらいがちょうどいい。訳のわからないところに行ったり、あやうく退場してしまいそうになりながら、ようやく博物館の入り口にたどり着く。・・・きっと普通の人ならまっすぐ来られるんだとは思うけど。どうも自分は一番行ってはいけないところに引き寄せられてしまう習性がある。

 さてガム剥ぎの兄ちゃんがせっせと仕事している豪華な階段を上り、まずは美術館に。
 アカデミア美術館が直球のザ・美術館だとしたら、こちらはちょっと変化球的で、もともとの宮殿の存在感を生かした、博物館と美術館の折衷。中でも有名な世界最大の油絵壁画「天国」は圧巻。もちろん美術館としての規模は相当にでかい。
 さあ、続いて牢獄。
 案外こっちのほうが楽しみだったりする。カサノヴァとかも収容された当時のままの牢獄が見られる。
 で、昔はこの牢獄に入れられるのは重要政治犯とかで、たいてい生きて出られないとわかっていたらしく、牢獄に向かう「橋」の上から外の景色を見て溜息をついたことから、その橋を「溜息の橋」と呼んだという。ロマンティックな名前だが、恋人との別れを嘆いた橋ではない。でもまだ裏話があって、「溜息の橋」と名づけられた頃には、ここに収容されたのはすでに政治犯とかではなくこそ泥とか窃盗犯とかだったので、おそらくそんなには橋の上で溜息をつかなかっただろう、と何かに書いてた。まあそんな情緒ないこといわないで。
 さて、順路に従って進むといつの間にか牢獄棟に入っていた。
 ひんやり冷たい暗い石造りの建物。さすがにきらびやかで楽しそうな雰囲気ということはない。ポンペイの廃墟とかを思わせる心すさむ場所だ。牢屋自体は結構広いが、まさしく古代歴史映画に出てくるような牢屋。
 大小15,6の部屋に分かれていて、その壁や床には、過去にここで苦痛を味わった人々のオーラがかすかに残ってる。あまり物見遊山で来るところじゃなかった。早く出よう。いつの間にか観光客も自分ひとりになっていた。寒々しいしやはり怖い。
 まず1階をぐるっと回って階段を上って2階へ。基本的に1階と同じつくり。で、とりあえず2階もぐるっと回って通路を通って進んで角を曲がると、3階へ。

 あれ?
 何かここ来たな?錯覚か?
 いや、さっき写真撮ったところと似てる。なぬ?3階じゃない・・・1階だ・・・。
 ちと早足で通路を進み、階段を上る。あら、2階に出た。間違いない。ぐるりと回って通路を通って角を曲がると、ぎゃ、また1階だ!なんでじゃ!!
 脱獄犯が迷うようにできてるのか?それともおれが方向音痴なだけか?
 今度は慎重に進む。また2階通路をぐるりと歩く・・・どこかに抜け道がないか?あ、あった、ここを通るとどこへ行くんだ?
 ぎゃ、また1階になった!
 さすがヴェネツィア、こういうとこまで迷宮だよ・・・って感心してる場合か。周りには誰もいないし、だんだんあせってくる。
 しん、とした石造りの牢獄の中に自分の足音だけが冷たく響く。本気で早足になってくる。
 これは何かのたたりじゃないのか・・・!?

 昔ここで憤死した囚人の恨みで抜け出せないのか、あるいはおれ自身の前世がここで獄死して、その追体験をするためにここへいきたのか?だってさっきまでたくさんいた観光客が、まるで申し合わせたように人っ子一人いなくなってしまったじゃないか!?おれは何かの力で異世界へ迷い込んでしまったんじゃないのか!?
 ・・・と、思ったら2階の階段の手前に小さい道があって、ちゃんと看板まで出てる・・・ん、溜息の橋??・・・あはは、やっと出られた。ただ方向音痴なだけだった。
 で、「溜息の橋」・・・、なんてロマンティックな橋・・・かと思ったら、牢獄の中にあってはただのさびれた通路だった。左の写真のように殺風景なただの通路。通ってるときは橋だということすらわからん。きっと大勢で急ぎ足で通った人は、どこに「溜息の橋」があったかすらわからないと思う。
 ガイドブックとかでこの橋を紹介するのになぜ外からの写真ばかりで、橋の中を撮った写真がないんだろうと思ったら、そういうことだったのか。
 ・・・でも確かにこの通路の小さな窓から外の運河を覗き見ると、なんとなく切ない気持ちになった。
 ちなみに外から見ると右のようになる・・・今はなんだかへんてこりんな装飾をされていた。うーん。

 で、その「溜息の橋」らしい通路を抜けるとちょっとした展示室があったがあっさり終了。なんだか不思議なアトラクションという感じだった・・・。
 お、最後にお決まりの売店。かなりでかい。ひょっとしてCDはないか!?
 あった・・・なんだ??
 でかい贈呈用みたいな箱に入ってるぞ。ヴェネツィアなんとか・・・お、「四季」と書いてる。ぐわ、すんごい高い!!
 贈答用「四季」限定ボックスということか。
 まあ、ヴェネツィアといえばヴィヴァルディ、ヴィヴァルディといえば「四季」。それをごたいそうに豪華な箱に入れればよく知らない間抜けな観光客が買うと思ってるのか。ふう。
 とりあえず中を開けて見てみる。これまたごたいそうにシリアル・ナンバーまで刻印されてる。ひゃあ、ずいぶん凝ってるね。
 大体誰なのよ、演奏家は。
 ぎゃ。
 ラウテンバッハーじゃないの!
 うぐぐ。ラウテンバッハーの「四季」。
 最近はDISKYから復活したから入手可能な音源だけど・・・この装丁は・・・ラウテンバッハー・ファンにはちょっと・・・というかかなり魅力的・・・高いけど・・・買っちゃおうか・・・間抜けな観光客といわれてもいい・・・。しかし高いな。
 とりあえずひとつは家宝にして、もうひとつは店主と同じくらいラウテンバッハーを愛する人が1人くらいはいるかもしれないからお土産に買って帰ろう。ちょっと重そうだけど・・・。
 ほかにはめぼしいCDはなかったので、そのセットを買ってホクホク顔でドゥカーレ宮殿を後にする。

VENEZIA SOUNDS
\15900
ヴィヴァルディ:四季 ズザーネ・ラウテンバッハー(Vn)
 マルティン・ギャリング(Cem)
 イェルク・ファーバー指揮
 ウェルテンベルグ室内管弦楽団

「VeneziaSoundsCDはヴェネツィア文化のシンボルです。ヴェネツィアマーク制作委員会会長Philippe Starck(フィリッペ・スターク)氏のもとで生み出された貴重な商標をつけた、真のヴェネツィア音楽なのです。
限定盤豪華CDケース、高音質録音のVeneziaSoundsCDは高い評価を得ており、このCDを手に入れることは、ヴェネツィアへの愛情の証となります。またヴェネツィアの魅力を保つため、CDの売上金の一部はヴェネツィアプロジェクトに出資されます。」・・・なにか大きなプロジェクトの一環だったようである。



 あら、もうお昼じゃないか・・・。
 うーん、ちょっと時間的にまずい12時ジャスト。これではどこのレストランも満員だな・・・。
 サンマルコ近辺はもうどこも大混雑。毎日こう大混雑では大変。世界最大の観光地、というのもうなずける。
 とりあえず昨夜行って閉まってた、ヴィヴァルディが活躍したことで有名なピエタ寺院にもう一回行ってみよう。
 昨夜はまばらだったサンマルコからピエタに到る海沿いのスキアヴィーニ河岸を通る。ものすごい人。
 あちゃ・・・ピエタ教会、やっぱり閉まってる。
 う〜ん。仕方ない。飯にしようか。
 確かこの近くに日本人と結婚したイタリア人が経営している結構有名なレストランがあるって言ってたので探してみよう。
 10分くらい探してようやく見つける。すんごい細い路地の一角。どんな細い路地でも地図にはでっかい道路として書かれてるから錯覚してしまう。
 さあ、とりあえず腹ごしらえ!喜び勇んで店内に入ると、あれ?何か暗い。
 ズンズン入っていくと、結構広いレストランで、30人分くらいのテーブルにナプキンとコップがきれいに用意されてる。
 でも、従業員が誰もいないのでさらに入っていくと、あらら、スタッフがミーティングしてる。
 む?
 どう考えても営業してるふうじゃない。
 そうしたら1人立ち上がってこっち向いてやってきた。
 「オープン?」と尋ねると「ムニャニャニャ?」と聞いてきた。
 なんだ?
 おれには「ミキサー?」と聞こえた。そしてどうぞどうぞ、と言う。どこでもお座りください。と。
 いや・・・それは何か変だ・・・。珍しく勘が働いた。
 「ミキサー」、そして完璧にしつらえられた30人分のテーブル、そして結構真剣にやってるミーティング、さらに日本人妻をもつオーナー。
 その4つから推理するに、もうすぐこのレストランに「ミキさん」という添乗員が引き連れた日本人観光客ツアーの人たちが大挙して押し寄せてくると見た。
 どう?当たりっぽい?
 で、「アイム・ナット・ミキ」というと、やっぱり「オー・ソリー、ナット・オープン」みたいなことを言ってきた。
 あはは、当たり。よかった。
 もし訳もわからずテーブルに座ってたらもっと訳のわからんことになってた。大挙して押し寄せてくる日本人ツアーの人達が来て初めて「この始めに来た日本人は一体なに?」ということになってつまみ出されていたかもしれん。
 サンマルコ近くはあまりに人が多すぎる。
 それにおいしいレストランはサンマルコ近くにはない、とも聞く。
 荷物も重くなってきたし、一旦ホテルへ戻り、今日の午後訪れる予定の大運河の北にあるサンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラーリ教会あたりで食事にしよう。
 確かあの当たりにヴィヴァルディっていう名前のレストランがあったはず。
 あ、ヴィヴァルディといえばホテルの近くにもヴィヴァルディという名前のCDショップがあったはず。どうせホテルへ戻るならその前にそこへ行ってCDを買い出ししておいたほうがいいな。
 昨日の二の舞にならないよう、ピエタから一旦超人ごみのサンマルコ広場に戻り、そこからヴェネツィア一のブランド・ストリート「メルチェリエ」を通って、最短距離でホテルのあるリアルト橋に向かう。ようやくこのあたりの地理感覚はつかめてきたみたい。
 CDショップ「ヴィヴァルディ」。リアルト橋近くのいい立地にある。10坪ほどの小さい店だが、ほんとにヴィヴァルディのCDだけでやってる。ほとんどのCDは日本にも流通してるが、この店がプロデュースしてるオリジナルCDも6,7タイトルある。
 店内にはヴェネツィアのコンサートのチケットも売ってるみたいで、クラシック・インフォメーション・センター的役割を果たしてるんだろう。30代後半くらいのわりとしっかりした兄ちゃんが切り盛りしてる。
 店内ではちょうどそのオリジナルCDの1枚がかかってる。ヴィヴァルディのチェロ協奏曲。演奏的にはまあまあ。でも珍しいからどれかお土産に買っていくか。で、ちょっと迷ってたら、店の奥からお兄ちゃんの彼女らしき人が出てきて、レジ・カウンターに腰掛けているお兄ちゃんの膝の上に座っていちゃいちゃし始めた。
 んま。
 でもそれほど違和感がないのがさすが愛の国イタリア。
 これがもし日本のちっちゃなクラシックCDショップで、いきなり奥から奥さんが来て店の旦那さんの膝の上に座ったら、来てる客はびっくり仰天してあわあわしてしまうに違いない。
 「さすがイタリア愛の国」と自分には言い聞かせつつも、やっぱりその状態のレジ・カウンターに行くこともできず、結局あわあわしてたら、逆にお兄ちゃんがこっちへ来た。「飯の時間だから1時間ほど閉める」と。
 なぬ。
 あらら・・・そりゃ、仕方ない。また後で来る、と言って愛のヴィヴァルディを後にする。

 ホテルに戻り、軽くシャワーを浴びる。
 さて、これからはとくに買い物の予定もないし、フラーリ教会辺りをぶらぶらしながら適当に飯食うだけなので手ぶらで行きましょう。
 リアルト橋を渡って、昨日の夜飲んだあたりを抜けて、ちょっとしたブランド・ショップ通りも抜けて、グングン西へ。
 このあたりも結構人が多い。まだまだ観光地なのだ。
 と、そこに、あったあった、レストラン・ヴィヴァルディ。腹もいい感じで減ったし入ろう・・・と思ったら、おや、中に若い二人連れの日本人女性客が・・・。
 これは恥ずかしい・・・。なんとなく。
 ちょっと気後れしてしまって、まあ、しばらく教会を回った後にしよう、ということに決定。

 と、思って歩を進めると大きな広場が出てきた。
 ここで人が散らばってしまうのか、人ごみはそこで霧散する。
 そこにちょっとした教会が。そう、大きな広場と教会は常にワン・セットなのだ。
 あとで調べたが、名前はサン・ポーロ教会。
 ちょっと入ってみよう・・・。
 ギギギと扉を開けて奥へ入って行こうとしたらすぐそこにブースが。
 え・・・ひょっとして有料??
 とりあえず確認のために「ハウマッチ?」と聞くと、「2ユーロ」。あらま、有料なのね。
 ま、いっか、なんとなく素敵っぽい。
 大きさ自体はそこそこ、といった感じ。入ってすぐ奥に小さな別室があって、そこも礼拝堂がある。

 もう一度元の部屋に戻って、壁にかかっている大きな教会画を見ていく。ティントレットやG.D.ティエポロの荘厳な絵画が並ぶ。
 そうして三方の絵画を見て、光差し込む南側に移ってきた。
 そこに幼子キリストを抱く聖母マリア像が。

 真っ白な大理石でできたマリア像。
 まるで真珠で彫られたかのように純白で穢れのないマリア像。
 見ていて思わずうつむいてしまうほどに美しいマリア像。
 真っ白で荘厳で気高いのだけれど、でもまるで生きていて今にも動き出しそう・・・。
 優しくて穏やかな瞳。ふくよかで温かそうな頬。
 本当に生きているみたいなのである。
 そして穏やかで透き通ったうっすらとした笑みで、こちらを見ている。
 いいんですよ・・・と。
 と、まだお酒飲んでないのに感極まって涙が出てくる。
 もしもしヴェネツィアに来られる方がいらっしゃったら、サン・ポーロ教会のマリア像にだけはぜひ会ってみてね・・・。

 さてそれからくねくねくねと小道を歩いて水路を渡ると、そこにサンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラーリ教会が。
 このあたりでは一番大きい、規模や知名度の点でもサンマルコ大聖堂に次ぐ教会である。
 モンテヴェルディのお墓があるはずなのだが、大規模な改修工事をやっていてどうもその中にあるみたい。
 ヴェネツィアの人がみんな口を揃えて言うように、確かにこの教会は訪れたほうがいいと思う。ゆったりと壮大巨大な印象の豪壮な教会。もちろんベッリーニやティツィアーノの祭壇画も素晴らしい。ただスケールでかすぎて手に負えない印象も残る。
 さてフラーリ教会を出て、裏に抜けるともうひとつ教会が。正確には教会ではないのかな?スクオーラ・グランデ・ディ・サ・ロッコ(大信者会)。ペストを鎮めるために15世紀に作られた教会。
 大きさ自体は最初のサン・ポーロ教会と同じくらい?
 うわ、でもサン・ポーロとフラーリが2ユーロだったのに、ここは8(7だったか?)ユーロ。結構高いなあ・・・。しかもブースのおばちゃん、有料の音声サービスをしっかりすすめてくる。商売熱心。
 そんな不信心なことを思いながら1階をぐるりと回る。薄暗いサロンのような感じ。壁面にも天井にもティントレットの豪華な絵画が所狭しと飾られている。
 と、2階への大きな階段が。2階もあるんだ。
 これがまあすごかった。
 大きな体育館くらいの集会所(?)で入り口入ってすぐ右側に始まって、高い天井、壁面とこれまたティントレット尽くし。まったく期待していなかっただけにこれは仰天。
 ちゃんと見学用にパイプ椅子もたくさん用意してくれていて、なんかずっといたくなるような雰囲気。結局10分ほどぼ〜っと眺めていた。これは8ユーロの価値がある。ごめん、おばちゃん。
 ゆるゆると1階に下りると、出口のところにRIVO ALTOのCDがあるが、おそらくほかのところでもあると思うので買わなかった。

 さーて、3つも教会見たし、この先は明日反対方向から攻める予定なので、そろそろ昼飯のためにレストラン「ヴィヴァルディ」に行こう。そうとう腹減った。
 で、ズンズン元来た方向へ歩く。
 どんどん人が増えていく。思うけどやっぱりあんまり人が多いところではヴェネツィアの情緒は感じられなくなる。寂れた感じとか、光と影とか、そうしたすごく繊細で内面的なものがヴェネツィアの個性だと思うので。そういう意味ではメインの観光地はとりあえず押さえて、あとはできる限り人がいないところを散策したほうがいいような気がする。
 で、レストランへ向かう。
 けど、ない。
 なんとなくこのあたりだったかな、という感じでグイグイ進んで、どこかにいくという目的のための鉄則「2」の歩き方をしないといけないのに、ついつい散策方歩き方「1」をしてしまったら、はい、あっという間に迷って、何がなんだかわからなくなる。確かこのあたりは来たよなあ、一回引き返そうかなあ、と思いつつも、もう足が棒のようになってもうそのパワーがない。
 あらま、気づいたらリアルト橋まで来てしまった。なんでじゃ。
 うー、どうしよう、どこで飯食べよう。
 あ、そうか、ここは昨日の夜行ったバーカロの近くだからあの辺りに行ってみよう。
 昨日行った1軒目のとこを覗くと結構混んでたのであきらめて、2軒目のところへ。お、お客さんはおばあちゃんがひとりだけ。これはいいや。
 ということでそこへ入る。
 昨日のちょっとおかまっぽい優しい兄ちゃんがメニューを持ってきてくれる。
 う、しまった・・・こういう観光客目当てじゃない店の場合、昨日みたいにカウンターに並んでいるおつまみを頼むのは指差すだけだから言葉は関係ないけど、こういうきちんとしたメニューの場合、全部イタリア語。全然わからん。今回この旅行ために一日50時間1ヶ月一生懸命イタリア語を勉強して、なんとか「チャオ」と「ボンジョルノ」だけは覚えてきたが、さすがに料理の名前までは覚え切れなかった。
 さあ、どうしよう。
 ま。いいか、まずはワイン。ロッソ・ビアンコ!と嬉しそうに言う。
 なんかお兄ちゃんが怪訝そうな顔をしているので変だな、と思ったら、ヴィーノ・ビアンコ(白ワイン)の間違いだった。
 ロッソ・ビアンコというと「赤」「白」。・・・饅頭じゃないんだから。アー、はずかし。
 ということで疲れた体にワインを一気に流し込み、続いて「ヴィーノ・ロッソ(赤ワイン)!」。
 ここのワインは高級です。おいしいです。

 うー、酔っ払ってきた。こうなると怖いものはない。さて、メニュー見ましょう・・・えっと?
 やっぱり酔っ払ってもわからんものはわからん。
 と、その中に「スパゲッティ」の文字を発見。これにしましょう。シュリンプと書いてるからエビ関係のシーフード・スパゲティかな?
 すると15分ほどで出てきた。むっちゃでっかいエビが10匹くらい入ってるスパゲッティ(後で写真を見たらもっと入ってる)。スンゴイおいしそう。
 それがまた本当にうまかった。今回の旅行で一番美味しかったのはここのスパゲッティ。生涯最高のスパゲッティ。今でもすぐ行ってまた食べたいくらい!
 お店の名前は「AL SACRO E PROFANO」。もしよかったらどうぞ。


 さーて、ワインも飲んでスパゲッティも食べて、一息ついたところで出発!
 今度はリアルト橋の東方面。そこをずーっと東に行くと昨日出くわした海になるけど、そこまで行かない、ドイツ人商館やついそのあたり、である。
 さすがリアルト近辺はすごい人ごみ。
 ドイツ人商館やサン・ジョヴァンニ・クリソストーモ教会を抜けてもまだ人口密度は変わらない。このあたりはとくにそんな見物して面白い、というものもないし、どこかへ行くときの拠点、ということもないように思うのだけど・・・。ヴェネツィアとしては極めて珍しい高級デパートがあったりするが、別に大して魅力的ではない。
 どこまで行けば人ごみがなくなるんだろう、と思いながらそぞろ歩き。
 比較的大きな中運河を渡るとこれまた中くらいの広場が。この広場で一応人ごみは分散するみたい。東西南北四方に道が伸びて人々はそれぞれの道に散らばっていく。まあ、このあたりで引き返そうかな。
 と、思ったらそのさきにこれまた中くらいの教会が。やはり教会と広場はワンセットなのである。
 ガイドブックにも特に記載されてなかったと思うし、人が押し寄せている気配もない普通の教会。だけど、なんとなくその寂れた質素な感じがいい。
 開いてるかな?ギギギと重い扉を開ける。・・・開いた。
 お金取られるかな?
 おや、入り口にブースはない・・・というか、教会、誰もいない。
 広さはさっきマリア様がいたサン・ポーロ教会よりも一回り小さい感じ。中央に大きな祭壇があって、左右にキリストが。
 ふと気づくと小さな音でバロックが流れている。何の曲だろう・・・。
 ・・・それにしても誰もいない。
 ついその先までまっすぐ歩けないほどすごい人ごみだったのに、この教会には誰も足を踏み入れない。先ほどまでの喧騒が嘘のような静寂。
 それに今まで回った教会はたいてい薄暗い感じだったが、ここは妙に明るい。清浄で静謐。
 中央の祭壇の前に座る。
 それにしてもヨーロッパはどこに行っても教会が目に付く。・・・しかもヴェネツィアの教会の数はかなり多いような気がする。道路が狭く、広場があるとすぐに気づくからそこにある教会がいやに多いように思うのか。いや、それにしてもちょっと歩けばすぐに教会。それに道のそこかしこにまるで標識のようにマリア様の像や壁画が祭られている。
 昔のヴェネツィアはキリスト教に対して一定の立場をとっていて、ヴェネツィア共和国時代には、ローマ教皇ですら、「私はローマ教皇である。ヴェネツィア以外では」というような皮肉を言ったというほど、キリスト教の権力に対峙した。確か当時のヴェネツィアの人は「まずはヴェネツィア人、次にキリスト教徒」・・・というようなことを言っていたように思う。キリスト教徒とイスラム教徒が平気で軒を連ねた、当時のヨーロッパにあっては極めて珍しい街。道徳心や厳しい戒律よりも享楽と快楽を求めた・・・。
 そんなイメージの強かったヴェネツィアだが、こんなにも教会の存在感の強い街が今まで訪れたヨーロッパの街にあっただろうか。
 そしてひとつひとつの教会のなんと素晴らしいことか。
 いま腰を下ろしているこのサンティ・アポストリも、9世紀に建てられたらしいが、今まで回った教会とは違った意味でとても崇高で、しかしとても親しみやすく、なんというか誰でも神に招かれて神と会うことが許されるような、そんな不思議で特別な雰囲気。
 立ち上がって、右手のキリストが磔になっている像のところへ。
 鎖とかで仕切られていないので、本当にその像の足元までいける。

 そんなにキリストの磔像をたくさん見てきたわけではないが、今まで見てきた磔にされたキリストは、みな上を向いたり、横を向いたり、下を向いていても足元にいる自分を意識してくれているということはなかった。
 しかし、今ここに磔になっているキリストは下を向いているのだが、明らかに足元にいる人間を見ているのである。目はつぶっている。しかし、見ているのである。
 そしてわななきながら自分を見上げている人に向かって、
 「あなたは何を悩んでいるのか?」
 と問いかけてくるのである。
 さきほどのサンポーロでのマリア様も生きているようだったが、このキリストもまた生きているよう。・・・というか、生きていると思った。その息遣いが感じられたし、強い視線を感じたし、一瞬まぶたが少し開いて黒い瞳がかすかに見えた気がした。
 教会の屋根全体がぐるぐるとまわってどすんと落ちてきそうな錯覚。
 一体どれくらいキリストの足元で立ち尽くしていたかわからないが、生まれて一度も経験したことのないような敬虔な興奮に襲われた。
 目を真っ赤にして教会を後にする。
 サンティ・アポストリ教会、忘れない。


 それにしてもヨーロッパの人は、ヴェネツィアの人は、日常の中でいつもこんな経験をしているのか?
 こんな奇跡を体験しているのか?
 だとしたらキリスト教というものが神と人間をつなぐひとつの確実な媒体として人々の心に浸透していったというのもわかる。今の日本では絶対に考えられない。人間そのものの生き方や考え方が根本から変わってきてしまう。

 それからしばらくどこをどう歩いたか覚えていないのだが、人ごみをかきわけながらまたサンマルコ広場に向かっていた。

 おみやげを買うのだ。時間的にもう今しかない。
 サンマルコ広場の近くのカメオやヴェネツィア・グラスを売っているお店。
 そこで昨日空港から案内してくれた人が仕事している。
 サンマルコ広場近くの、大混雑の一等地。
 なんでヴェネツィアでカメオ売ってるのと聞くと、ナポリのほうで作られたカメオはイタリアの特約店に送られて販売されていて、そこもその特約店のひとつなんだとか。ナポリとか行くとカメオを売ってる店がたくさんあるが、実は本物でない場合が多いらしい。初めは買うつもりなかったが、いろいろ見せられてるとだんだん欲しくなってきて、しかもいい職人が作ったのと普通の職人が作ったのを見せられると、どうしてもいいものが欲しくなってしまう。結局いっちばん小さい、いいものを買ってしまった。でもそれはやっぱり素敵だった。
 それからヴェネツィア・グラス。ヴェネツィア・グラスといえばムラーノ島。ここでは昔から受け継がれた伝統的な工法によるヴェネツィア・グラスが今も作られ続けている。・・・しかし残念ながらムラーノ島で売られているものの大半はほんものの伝統的なヴェネツィア・グラスではなく、別の工法で作られた派手で見栄えのいいものらしい。実際のヴェネツィア・グラスはもっと地味で、しかも手間や工賃もかかるため、今はすぐに売れる別の工法やひどいときは中国製のものを売っているという。ヴェネツィア全体に、目先の利益を追う傾向があって、今さえよければあとはどうでもいい、というような風潮が蔓延しているとその人は嘆いていた。結局きらびやかな一般的にヴェネツィア・グラスと呼ばれているものを横目に、一見するとひどく地味な(でも思ったより安い)本物のヴェネツィア・グラスを自宅と実家用に買う。スタッフにもムラーノ島で作られたペンダントを。これも一見地味だが、なかなか深い味わい。

 さあ、これでお土産の大半は買った!ホテルへ帰って今夜のコンサートへ行く準備をしよう!
 その前にヴェネツィアで一番大きなCDショップへ!・・・でもそれはイコール、一番小さいCDショップでもあった。要はヴェネツィアにはCDショップはほぼ皆無なのである。広さはさきほどの「ヴィヴァルディ」とそう変わらない。14,5坪か。日本の個人店より小さい。おそらくヴェネツィア人、CDなんか聴かないのだ。そしてクラシックは・・・10枚くらいしかなかった。ぐう。厳しい現実。
 帰りにヴィヴァルディ・ショップへ寄って今から行くコンサートのチケットだけ買う。オリジナルCDもちょっと心動かされたが、試奏されているアルバムがまあまあだったのでそのとき買うのはやめた。今から行くコンサート会場にも何かあるかもしれないし、明日もまだ時間はある。

 コンサートが終わったらきっと何かを食べに行く時間はないと思うので、ホテルの近くでサンドイッチと飲み物だけ買って帰る。なにせコンサートは9時からなので、ちょっとだけ食べて行ってもいい。
 ホテルへ戻るとシャワーを浴び、ベッドの上で一口サンドイッチを食べたら強烈な眠気が・・・。確かに相当疲れている。コンサートまで2時間半。1時間ほど寝よう。
 7時半に跳ね起きる。30分寝た。まだまだ時間はある。部屋でいろいろ片付けとか整理とかして8時過ぎに出て行く。
 外は思ったより寒い。
 夜のヴェネツィアはいい。昼間の異常な喧騒が嘘のよう。全く無人になることはないが、街の本来の姿を落ち着いて観られるほどには落ち着く。それに当然ながら裏路地の寂寥感も夜のほうが断然際立ってくる。
 まるで夜になるのを街全体が待っていたような、そんなふうに思える。
 いや、実際数百年前まではきっとそうだったのだ。貴族も商人も外国人もマスクをして禁断の愛と性を享楽し、毎日のようにカーニバルに明け暮れた。そのときの強烈な人間の欲望をヴェネツィアという街はまだ忘れていないのである。それが夜になるとじわじわ街全体を覆い始め、にぶい光でもって建物を運河を路地を、そして人を浮かび上がらせる。

 何回かの学習を経て、特に問題なくコンサート会場の教会に着く。まだ40分もある。開場前。横を通るとヴィヴァルディのフルート協奏曲のフルート・パートをさらっているのが聴こえる。
 まだ時間あるのでもうちょっと近くをぶらつく・・・とすぐに迷いそうなので、ひたすら前の公園のベンチで待つ。
 普通こうした広場とかだと夜ともなれば浮浪者とかがいそうなのに全然見かけない。前も言ったように危ない連中も皆無。でもあまり警官は見かけない。この治安のよさはでも本当にすごいし、謎だ。誰かが冗談で、悪いことをしても袋小路だしアップダウンが多いので逃げる側にはあまりにも不利だ、と言っていた。確かによそものの犯罪者には仕事しにくいところはあるだろうな。閉鎖的な社会だとも言っていたし。

 さて、ようやく開場。

 昼間のサンティ・アポストリ教会と同じくらいの小規模な教会。サン・ヴィターレ教会。地図にも載ってない。でも何回か書いてあるとおり、こうした小さめの教会も本当に雰囲気があって素敵。もちろんコンサート用の演出もあると思うけれど荘厳な中にゴージャスな空気が漂う。祭壇の上には美しいカルパッチョの絵が飾られている。
 一方会場は簡単なパイプ椅子でしつらえられている。まだ30分もあるので客もまばら。10分前にようやく9割がた埋まった。結構入っているほうではないか?客層は・・・よくわからん。観光客のようにも見えるし、地元の人のようにも見えるし。でも観光客はわざわざ来ないか。大人数の団体というのはいない。
 昼間サンマルコ広場を通り過ぎたあたりで、別のコンサートのチケットを売っているおじさんがいたが、「四季やってるよ〜。安いよ〜。お客さん、四季見ていかないかい〜?」、とまるで夜の繁華街の呼び込みみたいでちょっとげんなりした。演奏はどうかわからないけれど、あまりクラシック音楽を安売りされるのも、ちょっと見ていて辛い。
 CDもいっしょか。

 そうしていよいよ開演。さあ、どうだ?インテルプレティ・ヴェネツィアーニ。
 登場。
 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、チェンバロ。最小8人の弦楽合奏団。ここに曲によってソリストが加わるのである。
 おや、中にひとり完全に浮いているやつがいる。チェリスト。
 ほかの人より行動が派手で、目立ちたがりオーラがプンプン。登場の仕方も派手なら、お辞儀も派手、座り方までなんだか派手で、すべての行動がみんなよりワンテンポ早い。ほかの連中はいかにもクラシック畑のまじめそうな人達ばかりなので、そのチェリストの異常な行動と存在感は完全に浮いている。お辞儀をするときも、着席するときも、ほかのみんなはその男のあとについて行っている感じ。年齢はメンバーの中で1番か2番目に若いと思うのだがリーダーなのか?いや、そういう感じでもない・・・(後で調べたらリーダーはチェンバロだった)。何にせよある者はアワアワと、ある者は「仕方ねーなー」という感じでその男の行動にあとからついていっている。どうみても和気あいあいコンビネーションばっちりの合奏団という感じではない。
 まあ、それはいいとして演奏が始まる。
 まずはヴィヴァルディの2台のヴァイオリンのための協奏曲。なかなか本格派。少なくとも観光客相手の中途半端な団体ではない。技巧的にも音楽的にも非常にしっかりしている。
 そしてどうも気になる、さっきのチェリストの演奏。ただのバックなのに、身振りでかすぎ。さすがにソリスト以上に大きな音を立てることはないが、弓を大きく振りかぶり、必要以上に大きな動作で首を振り、髪をかきみだし、陶酔している。まるでデュ・プレ。これはソリストは弾きにくいだろうなあ。・・・でもきっと慣れてるんだろう、完璧に無視してソリストたちは毅然と完璧に演奏をし終えた。
 続いてヴィヴァルディのピッコロ協奏曲。さっき練習してたのはピッコロだった。古楽器の本当に小さなおもちゃのようなピッコロ。
 でもこれまた超絶技巧、すんごいうまい。この団体、本当にうまい。・・・にしてもまたもやチェロが強烈。ちょっとでもチェロが目立つ場面が来るとそこからチェロ協奏曲になる。ただの自意識過剰ならただの鼻つまみ者だが、実際それが許されるくらいうまいし、聴かせる。
 観てる方もだんだんそれが楽しみになってきた。
 逆に言えば、ここまで自意識過剰で自信過剰な演奏家というのにはなかなかお目にかかれない。「おれは天才だけど、まあよかったら聴いていきな。すごいの一発かましてやるからびっくりすんなよ。」。
 かなり気になってきた。ダヴィッド・アマディオ。覚えておこう。
 3曲目はヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲。これは一番若いヴァイオリニストがソリストをやっていたが、弾くには弾いたが、味わうところまではいってなかったかもしれない。
 そうして前半の3曲が終わって休憩。

 パンフレットを見ていたら、おや、CDがあるじゃない!
 えっと・・・かなり出てるな。17タイトル・・・すごいじゃない。さっき「ヴィヴァルディ」の店で見たオリジナルCDも悪くはないが、ほとんど楽曲のレパートリーがかぶるから、どうせならこっちのCDにしましょう。で・・・チェロ協奏曲はないかな?
 あった。ありましたよ、例のチェリストを主役にしたチェロ協奏曲アルバム。
 どっかで売ってないかな?席を立って会場をぐるりと見渡すと、ありましたありました、後ろの入り口のところにスタッフがCD売ってます。すかさず行ってチェロ協奏曲のCDをまず10枚、そしてめぼしいアルバムを4タイトルほど4,5枚ずつ選ぶ。さすがにスタッフもあせって対応してくれる。でもこんな馬鹿な買い方する人はいないみたいでちょっとあわててる。しかもクレジットとか言っちゃったし、ごめん。


インテルプレティ・ヴェネツィアーニのCD
1CD¥3000

 いつからか日本に入らなくなったRIVO ALTOレーベル。数年前トクマ・ジャパンからリリースされたアイテムもある。
 9814だけ10枚。あとは各3枚ずつ。

CRR 9814
¥3000
ヴィヴァルディ: チェロ協奏曲 ニ短調 RV 407
                  ト長調 RV 413
                  イ短調 RV 418
タルティーニ:チェロ協奏曲ニ短調
ロッシーニ:老いの過ち
ダヴィッド・アマディオ(Vc)
インテルプレティ・ヴェネツィアーニ
なんといってもこの1枚。国内盤でも出ていたようだが(トクマ)、その当時はまったく無視されていた(というかアマディオの表現はどぎつすぎる、と書かれていた。当たっている。)。しかし以下の4枚が「ヴェネツィアの優雅さを物語る現代楽器による素敵・知的な演奏」とでも言うなら、やはりこの1枚だけは天才・奇才ダヴィッド・アマディオの変人ぶり天才ぶりを味合わせてくれる異形の1枚。聴いているだけでアマディオがむせび叫びのたうちまわっている様子が伝わってきそう。
CRR 2021
¥3000
ジェミニアーニ:合奏協奏曲「ラ・フォリア」
ヴィヴァルディ:リコーダー協奏曲ハ長調 RV.443
         ヴァイオリン協奏曲 ニ長調「不安」 RV.234
         ヴァイオリン協奏曲 イ短調 RV.354
アルビノーニ:オーボエ協奏曲Op.9-2
インテルプレティ・ヴェネツィアーニ
CRR 2502
¥3000
ヴィヴァルディ:フルート協奏曲ヘ長調 RV433「海の嵐」
         フルート協奏曲ニ長調 RV428「ごしきひわ」
         トリオ・ソナタ イ短調RV86
A.マルチェッロ:映画「ヴェニスの愛」より オーボエ協奏曲ニ短調第2楽章「アダージョ」
チコニーニ:映画「旅情」より「サマータイム・イン・ヴェニス」
ジュナン:ヴェニスの謝肉祭
マーラー:映画「ヴェニスに死す」より 交響曲第5番 第4楽章「アダージェット」
山形由美(Fl)
インテルプレティ・ヴェネツィアーニ
山形由美との共演盤があったので確保。国内盤「LUCE」と同じ内容。
CRR 9813
¥3000
タルティーニ:悪魔のトリル
パガニーニ:ヴェネツィアの謝肉祭
        魔女たちの踊り
        カンタービレ
        ポラッカと変奏曲
エマニュエーレ・バルディーニ(Vn)
インテルプレティ・ヴェネツィアーニ
CRR 9815
¥3000
ヴィヴァルディ:四季
         ヴァイオリン協奏曲ヘ長調 RV.253「海の嵐」
         ヴァイオリン協奏曲ハ長調 RV.180「喜び」
インテルプレティ・ヴェネツィアーニ

 わ、後半の始まる時間になってしまった。とりあえず会計の続きは終演後に、ということで席に着く。

 次は・・・そのダヴィッド・アマディオ主役のマラン・マレである。これで本当の実力がわかる。
 すごい。原曲はなんなんだろう・・・。今まで聴いたことがない曲。しかしダヴィッド・アマディオ縦横無尽、天衣無縫、唯我独尊。もう自由気ままに天才爆発。まわりの誰もついてこられない。でもアマディオ自身はまわりの人達の演奏を聴いてないわけではない。逆にしっかりきっちり聴いて、そして確信犯的に周りの人達とずらして際立つような演奏をしているのである。ただ自分勝手でムチャクチャやっているわけではない。どうすれば自分を目立たせられるか、どうすれば過激にできるか、それだけを考えているのである。
 辟易する?確かにそういう考え方もあるだろう。しかし・・・強力に魅力的である。実際終演後の拍手はすごかった。ものすごい充実感である。
 そして最後の曲はメイン・ディッシュ、モーツァルトのフルート協奏曲。これは甘く穏健な演奏。
 アンコールは2曲、1曲目は「四季」から、そして2曲目はやはり、というか結局ダヴィッド・アマディオをソリストとしたヴィヴァルディのチェロ曲。最後まで気持ちよく颯爽と弾ききった。

 イヤー、面白かった・・・。こんな刺激的なコンサートを地場公演で観られるとは。嬉しいです。
 終演後ぞろぞろとみんなが帰り支度をし始め、自分もCDのあるカウンターに戻って会計を済ませていたら、まだフロアにはたくさんお客さんがいるというのに、いきなり教会の楽屋(控え室)からアマディオがチェロを担いで出てきた。と思うと、お客さんの列の中に割って入って外に出て行く・・・。最後まで人騒がせというか、目立ちたがり屋というか・・・。それにメンバーと公演後話したりは絶対にしない、ということか。・・・ふう。

 会計が終わって満面の笑みのスタッフの女の子とたちをあとに、教会を出る。もう11時近い。でも開いてる店もちらほらある。どっか寄ろうかな・・・うーん・・・でも今夜は早めにホテルに帰って休もう。
 例によってちょっと迷うが、いつものようにズンズン突き進まず、珍しくわかるところまで戻ってそこからやり直してほどなくホテルに到着。人生こういう選択もたまには必要ということか。
 ホテルではビール飲んで、残っていたサンドイッチを食べて、おそらくすぐ寝たと思う。ノックダウンという感じか。
 明日も予定では結構大変だったりする。



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