自分にとって「たからもの」であり、命の恩人
アリア・レーベル第132弾
イーゴリ&ダヴィッド・オイストラフ
バッハ&ヴィヴァルディ:2つのヴァイオリンのための協奏曲
ARD 0132 (1CD-R)\1800
先日両親が相次いで亡くなりました。
勝手なもので、親というのは永遠にいるものだと思い込んでいて、しばらくはその現実が受け入れられませんでした。
頭では分かっていても、整理できないというか、本当のところでは理解できない。
元気なふたりが夢に出てきて、そのたびに、「なんだ、生きてるじゃないか。びっくりした。」と言って・・・でも朝起きたらやはりもういない。
そんなことが何度も何度もありました。
考えてみれば、世界中、どんなに探しても親というのは二人しかいないわけで、そう思うとやっばり本当に大切な存在だったんだ、と。
今回のアリア・レーベル新譜は、イーゴリ・オイストラフとダヴィッド・オイストラフが共演したバッハとヴィヴァルディ。
ダヴィッド・オイストラフ(父)
1908年オデッサ生まれ(当時ロシア帝国、現在ウクライナ)。
20世紀最大のヴァイオリニストの一人。
温かく深みのある音色、完璧な技術、音楽的誠実さで世界的に尊敬された。
イーゴリ・オイストラフ(息子)
1931年オデッサ生まれ。
幼少期から父に師事し、早くから天才ヴァイオリニストとして注目された。
1952年のヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールで優勝。
1950年代以降、父ダヴィッドとのデュオ演奏で国際的に活躍。
のちに単独でも指揮者・教授として活動し、ベルギーのブリュッセル王立音楽院で教鞭をとった。
早くから父にヴァイオリンを学んだイーゴリは、早い段階で完璧な技巧と清澄な音を備えていました。
しかし多くの人はイーゴリを偉大なる父ダヴィッドと比べ、「ダヴィッドの再来」、あるいは「巨星の影に立たされた不幸な芸術家」と呼びました。
でも少なくないイーゴリの大曲録音を実際に聴いた人は、ときに父親を超えるその技術と音楽性に驚嘆します。
「ただの七光りじゃない!」と。
それは父親も知っていたのでしょう、「この子は天才だ」、と。
そこでダヴィッドは息子のすばらしさを世に知らしめるために、息子と多くの共演を果たします。そこで父はしばしば第2ヴァイオリンを取り、息子を光の中央に置きます。
そしてイーゴリはイーゴリで父の栄光の複製にはならず、自らの音で真実を語ろうとします。
愛情に満ちたその構図は、血と音の継承の象徴。録音史上でもきわめて希な奇跡的な音楽。
それらの録音は音楽ファンにとって「たからもの」といっていいでしょう。

そう本当に「たからもの」なんです。
・・・店主にとっても。
今回はプライベートな話ばかりで恐縮ですが、いまから25年前。
大手から独立して新たなCDショップを立ち上げた直後。人間関係でそうとう苦しんだ時期がありまして、もう、さすがにちょっと続けられないとまで思いつめて先が見えなかったとき、まるですがるような思いで毎日聴いていたのがこの演奏。
これを聴いて、なんとかその日その日を生きながらえていた、そんな毎日でした。
この演奏に出会わなかったら、あのときの状況をクリアできたか・・・。
なので自分にとってこの演奏は、今でも「たからもの」であり、命の恩人なんです。
今回久しぶりに聴いて思ったのは、この演奏の背景にある、父ダヴィッドの、息子イーゴリに対する厳しくも温かい存在感。
その包容力、思慕、献身の思い。ダヴィッドが息子を思い、優しく厳しく包み込んでいるんです。
25年前に聴いた時には気づなかったんですが、そうしたダヴィッドの思いというものがあのときの自分に無意識に伝わり、ひそかに自分を励まし、支えてくれていたような気がするのです。
負けるな、もう一息、歯を食いしばってがんばれ、と。
ひょっとするとこれを聴いたあなたにも、そんなダヴィッドの思いが伝わってくるかもしれません。
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