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さて、アンドラーシュ・シフである。
この名前を「発掘」する必要など、もちろんない。しかもブラームス。作品76、116、117、118、119。ピアノ好きなら何度聴いたか分からないような世界である。
だから最初は、正直、ここを素通りしたかった。
ところが聴き始めると、そうはいかなかった。
まず耳を引くのが、1859年製のブリュートナー。シフが以前、ブラームスの2つのピアノ協奏曲でも使った、あの歴史的な楽器である。現代のコンサート・グランドのように、どこまでも豊かに伸び、すべてを包み込む音ではない。もっと木質的で、もっと脆くて、音の輪郭が近い。だからブラームス晩年の小品の内声が、妙に生々しく聞こえてくる。
しかもこの2枚組、晩年だけで終わらない。冒頭には1853年、若きブラームスの《アルバムの一葉》。そこから作品76を経て、最後の作品119へ。
若いブラームスから、人生の終わりを見つめるブラームスへ。派手なドラマなどない。しかしその間に流れた40年が、音の色そのものとして聞こえてくるようなアルバムなのである。
世界が反応したのも、単に「巨匠シフの新譜だから」ではなかった。みんな、この静かな2枚組の中にある、異様なほど濃い親密さに耳を止めていた。
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