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世界の片隅で、今週も誰かが一枚のCDに耳を止めている。
その小さな「偶然の重なり」を、世界100の観測点から拾いました。


ARIA CLASSICAL 100

世界クラシック定点観測100

今週、世界から浮かび上がってきた3枚

第8回

鳴り響く恐怖、溢れ出す幸福、72年の眠りから覚めた名演。
今週も世界の批評家たちが、不思議なほど心を動かされた3枚を。

音を聴いたら、人間が見えた。
――恐怖と幸福と、72年目の大事件




 今週は、いつにも増して面白い3枚になりました。

 ショスタコーヴィチの第8番、19歳のモシュコフスキが書いた交響曲、そして1954年のクリュイタンス。
 時代も作曲家も、まったく違います。なのに3枚を聴き終えて、妙につながってしまった。

 一つは、身もすくむような恐怖を描く指揮者が、実は楽団員思いの温かな人物らしいという話。
 もう一つは、史上まれにみるお人好しの作曲家が若いころなかなかの交響曲を書いていたという話。
 そして最後は、72年間眠っていた演奏が、いろいろこちらの想像力を掻き立てるという話です。

 今回も、単に海外のレビューを翻訳するのではありません。

 まず世界の反響から3枚を見つけ、実際に店主が聴いて、それから演奏家の人となりや録音の歴史を追ってみました。
 ところが調べれば調べるほど、音楽の向こうに人間が見えてくるんですね。

 英国の大新聞が絶賛した現役指揮者、米英の専門誌が時間差で拾い上げた忘れられた交響曲、そしてベルギーとフランスを結ぶ巨匠の初出ライヴ。

 さあ、今週の3枚。


 この特集は店主の感想を書くところではないんですが、今回もついいろいろ語ってしまいました・・・。




今週の3タイトル



その1 ★世界的話題盤
アルティノグル&フランクフルト放送響
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第8番

ALPHA CLASSICS
ALPHA1287


 2026年10月9日、英国《The Guardian》が5つ星で絶賛。
 最新のショスタコーヴィチ第8番を、ベルリン・フィルの名盤と比較するほどの評価でした。

 壮絶な音楽に驚き、指揮者の素顔を調べてみたら、さらに驚くことに。



ALPHA CLASSICS


ALPHA1287
\3300→\3090
アルティノグル&フランクフルト放送響、
 ショスタコーヴィチ全集第2弾は巨大な悲劇性を湛えた第8番!

強靭な弦と精緻な管を自在に操り、恐怖、機械化された人間、
 そして最後に残るかすかな救いまで緊張感たっぷりに描き切る。


ショスタコーヴィチ: 交響曲 第8番


 ドミートリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975):
  1-5. 交響曲 第8番 ハ短調 Op. 65
フランクフルト放送交響楽団
アラン・アルティノグル(指揮)

 録音: 2025年5月 フランクフルト、アルテ・オーパー
 収録時間: 63分

 【アルティノグル&フランクフルト放送響ショスタコーヴィチ交響曲全集第2弾】

 アラン・アルティノグルが2021年から音楽監督を務めるフランクフルト放送交響楽団と進める、ショスタコーヴィチの交響曲全集に第8番が登場。
 作曲家自身が「私には、本質的に第4番と第8番の2つの交響曲しかない」と語ったとされ、第1楽章における大いなる恐怖の展開や悲痛なパッサカリア、そして最後に現れる共感という救いまで隙のない劇的構成を持つ傑作です。
 第5番や第7番より遥かに難解で辛辣とも評され、人間が操り人形のように機械化されて個が埋没していく悲劇や、殉教のテーマを重層的に描き、恐怖の中にも根底には人間への深い情感が流れているとされる作品。
 フランクフルト放送響の定評ある強力な弦楽器群と、精緻な管楽器セクションをアルティノグルが緻密かつダイナミックにリードし、冷徹な知性と圧倒的な推進力を与えた快演です。


 





■世界では――

 英国《The Guardian》のクライヴ・パジェットは10月9日、この録音に5つ星を与えました。

 とりわけ26分に及ぶ第1楽章で、弦楽器が引き出す色彩と、人を凍りつかせるような恐怖の表現を高く評価。木管などの独奏も緻密で、録音の細部まで見事だとしています。

 比較対象として挙げられたのは、2020年のキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルによる録音。
 第4番、第5番に続くアルティノグリュのショスタコーヴィチが、単発の話題盤ではなく注目すべきシリーズになりつつある、という指摘も興味深いところ。

参考:The Guardian(2026年10月9日)







■店主は――


 重厚系のショスタコーヴィチ。
 失礼ながら、このアルティノグリュという指揮者、ほとんどノーチェックだった。

 ところが聴いてみて驚いた。
 冒頭からずしりとのしかかってくる重圧。
 背筋がゾゾッとするような恐怖感。

 この人、いったい何者なんだろう。
 こういう音を出させる指揮者だから、きっと昔のマエストロみたいに楽団員を徹底的に締めあげる、ものすごくねちっこくて、嫌味で、イヤ~な人なんじゃないか。
 すみません、店主は勝手にそんな人物を想像してしまいました(笑)。


 ところが、調べてみると、これがまるで違う。
 2021年のドイツ紙《Frankfurter Rundschau》によれば、楽団員たちの評判は「親しみやすく、思いやりがあり、しかも几帳面」。
 別のリハーサル取材では、奏者を名前で呼び、音楽について丁寧に意思を伝え、冗談まで交わしている。

 本人も、指揮者が腕を振るだけでは音楽は生まれない、奏者たちと一緒に音楽を作ることが大事だ、と語っているのです。
 ええっ、そうなのか。

 人柄は穏やか、音楽は容赦なし。
 むしろ、楽団員との信頼関係があるからこそ、ここまで恐ろしい音を一緒に作れるのかもしれない。

 そんなことまで考えさせられた、実に凄みのある第8番でした。

人物関連記事:Frankfurter Rundschau(2021年)/Top Magazin Frankfurt(リハーサル取材)








その2 ★マニア騒然盤
モーリッツ・モシュコフスキ:交響曲 ニ短調
TOCCATA CLASSICS TOCC 615


 19歳で書かれ、長く忘れられていたモシュコフスキの交響曲。
 2026年9月には米《Stereophile》、10月には英《MusicWeb International》がそれぞれ紹介。
 とりわけ後者は「本当の発見」と受け止めています。




TOCCATA CLASSICS



 TOCC 615
\2800
技巧的なピアノ曲で知られる
モシュコフスキ:管弦楽作品集 第4集

 モーリッツ・モシュコフスキ(1854-1925):
  1-4. 交響曲 ニ短調(1873)
  5-10. バレエ『ラウリン』より6つのエピソード
   5. I. Introduction and Dance of the Rose Elves
   6. II. March of the Dwarfs
   7. III. Sarabande et Double
   8. IV. Valse Coquette
   9. V. Nachtstuck
   10. VI. Bacchanale
 
 ※全て世界初録音
シンフォニア・ヴァルソヴィア
イアン・ホブソン(指揮)

 録音:ワルシャワ、ポーランド放送、Witold Lutoslawski Concert Studio (S1),2022年2月14-15日...1-4 2023年3月8日...5、6、8、10 2025年6月18日...7、9
 収録時間:59分

 技巧的なピアノ曲で知られるモシュコフスキが遺した、知られざる管弦楽作品に光を当てるシリーズ第4集。
 交響曲は19歳の夏、ベルリンの新音楽アカデミーでの学習の成果として書かれました。4楽章構成で演奏時間36分、シューマン風の響きと楽想を持つ、ドイツ・ロマン派スタイルの重厚な作品です。
 パリの国立図書館に所蔵されていた楽譜集の中から発見されて、ここに初めて録音されました。同じ1873年に書かれたブルックナーの第3番(第1稿)やドヴォルザークの第3番と聴き比べてみると、そのサウンドに相通じるものを感じられそうです。『ラウリン』は中世の叙事詩に基づくバレエですが、その楽譜は失われてしまいました。幸いモシュコフスキ自身がコンサート用の組曲を作っていたため、その巧みな管弦楽法が生み出す軽妙で牧歌的、精彩に富んだ音楽を聴くことができます。





■世界では――

 
米国のオーディオ誌《Stereophile》9月号は、この交響曲のシューマンを思わせる構想や、終楽章でのロシア的な響きに注目。
 演奏に5点満点中3.5点を与えました。
 一方、響きが残りすぎる録音や一部のアンサンブルには注文もつけており、手放しの絶賛ではありません。

 そして英国《MusicWeb International》10月5日。
 ロブ・メイナードは、この若書きの交響曲こそ本当の発見だと評しました。
 とりわけ管弦楽法の巧みさと旋律の豊かさを称え、先行する管弦楽作品集まで聴きたくなった、と結んでいます。

 2009年に手稿譜が再発見され、2026年に世界初録音。その音楽が、今ようやく耳の肥えた人々のもとへ届き始めたのです。

参考:Stereophile(2026年9月)/MusicWeb International(2026年10月5日)






■店主は――



 古今東西の作曲家の中でも、モシュコフスキという人は、何本かの指に入るお人好しだったんじゃないかと、私は勝手に思っているのです。

 実際、妻に去られ(親友に取られたらしい)、第一次世界大戦では投資していた債券の価値を大きく失い、晩年は経済的にも苦しんだという人。
 しかも当時の人物評を読むと、教え子を怒鳴ることもなく、理解できるまで穏やかに教え、同業者の才能を心から褒めることのできた人物だったという。
 人格者なのか、お人好しなのか、能天気なのか。
 そのあたりのことは大昔に拙著「このNAXOSを聴け!」でも書きましたが・・・

 で、今回登場した再発見の交響曲。
 これがもう、やっぱり天国的な幸福感に満ちている。
 民族色をちらりと覗かせながら、骨格はしっかりドイツ・ロマン派。
 第1楽章の出だしの魅力的なこと!そして第3楽章の温かく優しく穏やかな雰囲気。

 でも、ただ綺麗な旋律を書いて終わる作曲家ではないです。
 終楽章では大きな構成を堂々と動かし、一大交響曲らしいダイナミックな高揚を聴かせてくれる。
 いいじゃないですか。

 19歳でこれだけの作品を書いたというのはすごい、と言おうと思ったんですが、何歳で書いたとしてもこれはいい作品だと思います。

 たしかに晩年のさまざまな不幸をまだ知らない青年の音楽だと思うと余計に愛おしくなりますが。


 なんにしても単なる「珍しい初録音」では終わらない。
 ここへきて世界で評判になるのも、よく分かります!

人物関連記事:The Etude(1910年・人物証言)/ピティナ・ピアノ曲事典









その3 ★アリアCD発掘盤
クリュイタンスのルツェルン・ライヴ!
フランク:交響曲 ニ短調
若きイーゴリ・オイストラフとのハチャトゥリアン

AUDITE AU97846


 クリュイタンスの1954年ルツェルン音楽祭ライヴが、なんと初出!
 フランクとイーゴリ・オイストラフのハチャトゥリアン。
 欧州各国の評論家が次々反応し、当時の《ル・モンド》にも驚くべき証言が残っていました。




.

AUDITE



AU97846
\3200→\2990
クリュイタンスのルツェルン・ライヴ!
 若きイーゴリ・オイストラフとのハチャトゥリアン


 1. 拍手
 2-4. セザール・フランク(1822-1890):交響曲 ニ短調
 5-7. アラム・ハチャトゥリアン(1903-1978):ヴァイオリン協奏曲 ニ短調*

イーゴリ・オイストラフ(ヴァイオリン)*
フィルハーモニア管弦楽団
アンドレ・クリュイタンス(指揮)


 録音:1954年8月28日(ルツェルン音楽祭のライヴ) MONO スイス、ルツェルン、クンストハウス
 収録時間:70分

 【クリュイタンスのルツェルン・ライヴ!得意のフランクと若きI.オイストラフとのハチャトゥリアン】
 auditeレーベルがルツェルン音楽祭と提携して歴史的音源を復刻する「Lucerne Festival Historic Performances」にクリュイタンスが登場。
 1954年のルツェルン音楽祭の最終公演から2曲を収録しています。ベルギー生まれのクリュイタンスにとってフランクの交響曲は手の内に入ったレパートリーの一つ。
 1953年にはフランス国立放送管とセッション録音しており、ここに収録された演奏も循環形式による全体の構造をしっかりと掴みつつ、随所でドラマティックな高揚を見せる、起伏に富んだものとなっています。
 アルバム後半は当時23歳だったイーゴリ・オイストラフを迎えたハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲。彼はまだモスクワ音楽院在学中ながら、1952年のヴィエニャフスキ・コンクールで1位となり、翌53年にはフィルハーモニア管とこの曲を録音しています。
 両端楽章はかなり速いテンポながら、まるで楽しんでいるかのように表情豊か。オーケストラとの一体感も万全で、演奏後に盛大な拍手と歓声を浴びているのも納得です。
 クリュイタンスにはこの曲の公式録音が無いので、その点からも貴重な復刻です。
 




■世界では――

 反響はじつに賑やか。
 ルクセンブルク《Pizzicato》は5点満点。
 フランス《ARTAMAG》(9月10日)は暗い陰影と激しい高揚を帯びたフランク、イーゴリの痛快な技巧に注目。
 英国《MusicWeb International》(9月21日)も録音全体を喜びをもって迎え、フランス《ResMusica》(10月7日)は、気品と均衡、そして爆発的なエネルギーが同居する演奏と評しました。

 さらに驚いたのは、録音当時の1954年8月31日付《ル・モンド》。
 評論家ルネ・デュメニルは、ルツェルン音楽祭を締めくくったクリュイタンスの成功を報じ、この日の選曲がフランスとロシアだけでなく、クリュイタンスとフランクの故郷ベルギーにも敬意を表している、と明記していたのです。

 72年後の批評家だけでなく、当時の批評家もこの組み合わせに耳を傾けていたわけです。

参考:AUDITE公式・各国批評/Le Monde(1954年8月31日)/ResMusica(2026年10月7日)





■店主は――

 ようやく聴けた!

 まずはフランク。
 これは評判になるだろう。
 もう絶対的、圧倒的な演奏です。

 優美で品のよいフランス音楽、といった生易しいものではない。
 この迫力でゴリゴリ来られたら、そりゃあ誰だって推薦したくなる。
 歴史的録音でこれほど強烈なフランクに出会えるとは!

 それにしても考えてみれば、フランクもクリュイタンスもベルギー生まれで、のちにフランス音楽界の中心に立った人物。
 フランクはリエージュ、クリュイタンスはアントウェルペンと地域こそ違いますが、二人とも境界を越えて生きた音楽家です。
 クリュイタンスも相当な親近感を抱いていたのではないか……

 これはもちろん店主の想像。
 でも当時の《ル・モンド》が、二人のベルギーという共通点をちゃんと指摘しているのです。
 しかもクリュイタンスにとってフランクは、繰り返し取り上げてきた重要なレパートリーだった。
 どうしてこれまで、この人のフランクはもっと話題にならなかったのだろう。これほどピッタリな指揮者はいないのに。


 そしてもう一つ。
 店主が偏愛してやまない、イーゴリ・オイストラフのハチャトゥリアン!
 うまい、うまい、うまい!
 流麗、華麗、スマート。
 しかも、したたるような美音。
 技巧が完璧なだけではなく、音楽が軽やかに踊り、歌う。
 父ダヴィッドの有名な演奏ももちろん素晴らしい。
 でも、これはイーゴリのほうが好きかもしれない。


 しかも驚いた。
 今回のルツェルン公演は1954年8月28日。

 ところが、父ダヴィッドが作曲者ハチャトゥリアンの指揮で同じフィルハーモニア管と残した有名な録音は、その3か月後。

 わずか3か月後ですよ!

 そもそもこの協奏曲は、ダヴィッド自身のために書かれ、彼が初演した作品。
 その曲を息子が堂々と弾きこなし、同じオーケストラで、今度は父が作曲者と録音する。

 ダヴィッドは息子の演奏をどう聴いていたのだろう。

 誇らしかったのか。
 それとも、ちょっと複雑だったのか。


 ちょっと待て・・・、イーゴリは、父親がもうすぐこの曲を作曲者と録音することを知って、わざとこの日取り上げたのか?
 とするとこれは親父への挑戦状か?


 それはもちろん知る由もありません。


録音データ参考:Forgotten Records(イーゴリ1953年盤)/EMI録音集収録データ(ダヴィッド1954年11月)/ロイヤル・アルバート・ホール公演記録








第8回を終えて。


 今回は少し妙な3枚でした。

 ショスタコーヴィチでは、音の恐ろしさから指揮者の性格を勝手に決めつけていたら、まるで正反対の人物像が現れた。

 モシュコフスキでは、幸福な音楽の向こうに、一人の作曲家の人生が透けて見えた。

 そしてクリュイタンスでは、72年の時を経た音楽が、こちらにいろいろなことを夢想させてくれた。


 一枚のCDを聴いて「いい演奏だ」で終わらない。

 その人はどんな人生を送り、どんな気持ちでこの作品と向き合ったのか。
 そんなところまで想像できるのが、この定点観測の面白さなのでしょう。


 なぜ今、遠い国の人々がこの音楽に反応したのか。
 そこを意識して聴くといろいろなものが見えてくることがある。



 今週も、世界の片隅で起きた小さなざわめきから、大きな出会いをもらいました。


 次回はいったい何が浮かび上がってくるのでしょう。




ページ内の商品チェック・ボックスをクリックしたら、最後に 「かごに入れる」ボタンを押してください。
新店内のほかのページのお買い物がありましたら、そちらもすませ、最後に「注文フォームへ」ボタンを押して注文フォームで注文を確定してください。
(チェック内容を変更したら、必ずもう一度「かごに入れる」ボタンをクリックしてください。変更内容がかごに反映されませんので)


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