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「バッハに影響を与えた人」――。
J.C.F.フィッシャーは、どうしてもそんな説明だけで終わってしまいがちです。
たしかに、さまざまな調をめぐる前奏曲とフーガ集《アリアドネ・ムジカ》が、後のバッハ《平均律クラヴィーア曲集》へつながる重要な先駆となったことは有名です。
しかし、この一枚を聴くと分かります。
フィッシャーは、鍵盤音楽だけの作曲家ではありませんでした。
ここに収められたのは、管弦楽組曲と二つのミサ曲。
つまり、宮廷の華やかな祝祭音楽と、教会の厳粛な宗教音楽。
一人の作曲家の中に、この二つの顔がしっかり共存していたことが分かります。
まず《管弦楽組曲第1番》。
序曲、行進曲、リゴドン、メヌエット、シャコンヌ――曲名を見るだけでも、そこには明らかにフランス宮廷音楽の香りがあります。
重々しいドイツ・バロックを想像していると、拍子抜けするほど軽やかで、鮮やかで、舞曲的。
しかし、ただ華やかなだけではありません。
短い各曲の中に、きっちりとした構成感と対位法の感覚が息づき、フランス的な優雅さとドイツ的な堅牢さが自然に結びついています。
続く《大天使聖ミカエルのミサ》では世界が一変。
合唱と独唱、器楽が立体的に絡み合い、荘厳さの中に色彩感が浮かび上がります。
そして最後の《対位法によるミサ》。
こちらは題名どおり、フィッシャーの作曲技法そのものが前面に出た作品。
線と線が絡み合いながら、音楽が少しずつ組み上がっていくその感覚は、まさに後のバッハへつながっていく世界です。
けれど重要なのは、
「バッハの前にこんな人がいた」
というだけではありません。
舞曲ではこれほど粋で、ミサではこれほど荘厳。そして対位法になると、これほど知的で精密。
フィッシャーという人そのものが、実に懐の深い作曲家だったのです。
演奏はライナー・ヨハネス・ホムブルク指揮、ヘンデルズ・カンパニーとマリエン・カントライ・レムゴ室内合唱団。
古楽器ならではの透明感のある響きで、華やかさと厳粛さ、その両方をきれいに描き分けています。
バッハ以前のドイツ音楽は、決して「助走期間」ではなかった。
そこにはすでに、こんなにも豊かで完成度の高い世界があった。
「バッハの先駆者」という肩書きを外して、J.C.F.フィッシャーという一人の作曲家をまるごと聴いてみる。
そのための格好の一枚です!
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