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大アーティスト
なぜか埋もれていたアルバム
その5

フルトヴェングラー最後のバイロイト
1954年8月9日
「もうひとつのバイロイトの第9」


 その名の通り。
 大演奏家たちの、どういうわけか見過ごされてしまっている不遇な音源を紹介する特集。
 廃盤になるのが早いこの業界、こういう特集でその存在をきっちり押さえておいていただければ。


 ただ在庫数が限られている場合、抽選、あるいは早めの完売の可能性もあるのでご容赦ください。




 大アーティストの埋もれていたアルバム
 ――今回は「埋もれてはいない。でも、ぜひ紹介したい」一枚。

 在庫は8本限定。

フルトヴェングラー最後のバイロイト。
1954年8月9日。
「もうひとつのバイロイトの第9」。



 ORFEOR 851121
\3000
在庫は8本限定
1954 年8 月9 日
 フルトヴェングラー&バイロイト祝祭管
  ベートーヴェン:交響曲第9番 「合唱付き」
フルトヴェングラー指揮
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
ブローウェンスティン(Sp)
マラニウク(At)
ヴィントガッセン(Tn)
ウェーバー(Bs).

 ディスク・ルフラン(DR-910016)などで出ていた1954年8月9日のバイロイトの「第9」、正規盤としてORFEOから登場。

 1954 年8 月9 日 バイロイト


吉田秀和:

 私が彼から受けた最も深刻な感銘は--- これも前に書いたことだが--- バイロイトできいたベートーヴェンの第9 交響曲の演奏から来たものである。
 あれは本当にすごかった。その後、私も「第9」を何回、何十回きいたか知れないが、あの時以上の「第9」は、ついに、きいたことがない。フルトヴェングラーにとって「第9」はあらゆる交響音楽の王者、至高究極の作品だったように、私にも、あの「第9」はあらゆる管弦楽演奏会の経験の王者だった。
  (レコード芸術・別冊「フルトヴェングラー」より1984 刊)

 フルトヴェングラーは、その後、ザルツブルクで「ドン・ジョヴァンニ」と「フライシュッツ」を、バイロイトで「第9」をきいた。ことに「第9」は感心した。第3 楽章がよかった。第4 楽章の歓喜の主題がバスで出た時はずいぶん遅く、それが反復されるたびにだんだん速くなり、次第に盛り上がっていって、合唱にもってゆくところは、なんともめざましいばかりだった。
  (「音楽紀行」1957 刊-「荘厳な熱狂」より)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 フルトヴェングラーの「バイロイトの第9」。

 そう聞いて思い浮かべるのは、やはり1951年の、あの演奏だろう。

 しかし、その3年後にも、フルトヴェングラーは同じバイロイトで第9を指揮している。
 1954年8月9日。

 結果として、これが彼の最後のバイロイト出演となった。同年11月30日に亡くなる、その3か月余り前の記録である。

 もちろん、熱心なフルトヴェングラー・ファンにはおなじみの録音だ。
 「埋もれていた」と言ったら、「いやいや、知っているよ」と言われるかもしれない。

 でも、アリアCDの会員さんだって、みんながみんなフルトヴェングラーの超絶マニアというわけではない。
 先週初めて1951年の「バイロイトの第9」を聴いた人だっているかもしれない。
 いや、昨日初めてフルトヴェングラー「バイロイトの第9」の存在を知った人だっているかもしれない。

 だったら、この演奏を紹介しておこうではないか。
 1954年8月9日、もうひとつの「バイロイトの第9」である。


 そう思って久しぶりに聴き始めたのだが……。

バイロイトというのは、地獄にあったのか。

 そう思った。

 「これはティンパニ協奏曲か」、という人もいるかもしれない。
 楽器の音量がアンバランスすぎる、と怒る人もいるかもしれない。

 録音の古さもある。
 聴きやすい音ばかりが出てくるわけでもない。

 しかし、聴いているうちに、そんなことがほんとにどうでもよくなってしまった。

これは、すごい。すごすぎる。

 1951年盤と比べてどうなのか。
 そこは、ここではあえて言わない。

 ただ、この1954年の演奏を聴いていて、すさまじいと思った。
 音楽が進むにつれて、その単純な言葉しか出てこなくなった。

 まるで、地獄の底で開かれた祝宴。

 そして最後、その地獄の祝宴はあまりの乱痴気騒ぎに底が抜けて、抜けた先が天国だった、というような。

 自分でも何を言っているのかと思うが、そうとしか言いようがない。

 こんな「第9」、無茶苦茶である。

ここまですごいことをやっていたのか。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 この演奏は、ORFEOだけで発売されていたわけではない。

 Music & ArtsやEPITAGRAPHからもCD化されている。
 ただし、どちらも入手困難。
 別盤が存在するからといって、いつでも手軽に買えるというわけではない。

 今回ご紹介するのは、ORFEOが2012年に発売したC851121B。
 ただこれも現在入手困難。

 その貴重な海外在庫を発見した。
 在庫は8本。



 昔から知られている録音であり、これまでもCDになっている。

 それでも、存在は知っていても、実際には聴いたことのない方もいらっしゃるのではないか。
 そう思ってご案内するものである


1954年8月9日。
もうひとつのバイロイトの第9。




 ちなみにこの盤のブックレットには、演奏に劣らず驚くべき「音の救出劇」が記されている。
 放送のオリジナル・テープは失われ、残された音源には強い雑音やハム、歪み、音切れがあった。
 とりわけ難物だったのが、音の高さが不規則に揺れる現象。弦の響きまで不自然にうねり、長らく満足な復刻を阻んでいたという。

 突破口は、2011年に開発された独セレモニー社の修復ソフト「Capstan」。
 本盤は、この新技術を本格的に用いて修復された最初期の録音のひとつなのである。
 単に古い音源をCDに移したのではない。
 技術の進歩を待って、ようやく救い出せた響きがここにある。

 もうひとつ興味深いのは、オーケストラの位置。
 バイロイトの「第9」では、普段のワーグナー上演でおなじみの覆われたピットではなく、舞台上で演奏する。
 あの響きの舞台を想像する手掛かりになるだろう。

 そもそもワーグナー自身、1872年の祝祭劇場定礎式の日に、別会場の辺境伯歌劇場で「第9」を指揮していた。
 バイロイトにとって、この曲は特別な原点を持つ作品。
 これはその地でフルトヴェングラーが残した壮絶な一夜を、後世の技術が私たちの耳へとつないだ大切なアルバムである。








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