アリア・レーベル第114弾
無条件で元気になる
ボールト指揮&ロンドン・フィル
マーラー:交響曲第1番二長調「巨人」
ARD 0114 1CD-R\1800
イギリスの大指揮者「3大B」というとまず名が挙がるのが変人大富豪のビーチャム。
続いて出てくるのが愛と情熱の紳士バルビローリ。
・・・しかし3人目の名前が出てくるまでにちょっと時間がかかる。えっと・・・あ、ボールトか。
みんな巨匠だと思っているが、案外人気はない。「わたしボールトが好きなんです~」という人にはあまり会ったことがない。
それは本国イギリスでも同様だったみたいで、ビーチャム、サージェント、バルビローリが相次いで亡くなって、仕方なく忘れられていた老匠ボールトが担ぎ出されたというのが本当のところらしい。
だが、日本のファンはめざとい。
いまから15年まえ、ボールト80代前半のブラームスの交響曲全集が日本のショップで大ベストセラーを記録した。そして「ボールトって実はすごいんだ」というクチコミがネット上にあふれた。
このアルバムである。
そういえばもっていた、という方も多いと思う。それくらい売れた。それくらいすごかった。
そして続いて大爆発したのがロンドン・フィルとのシューマン交響曲全集。
新興復刻レーベルFIRST HAND RECORDSが突如リリースしてきたものである。
1956年67歳のときの録音。間違いなくボールトの全盛期。
世界最大の音楽消費都市だったロンドンのゆるぎない貫禄を思わせる、あるいは輝かしい大英帝国の象徴であるかのような圧倒的な存在感。
「やっぱりボールト、すごかった」とまたまたみんな大騒ぎになって、ショップも驚く大ベストセラー。売れすぎて完売してもう手に入らない。
このアルバムである。
もっている人は幸せである。
さて、そのボールト、もうひとつすごい録音をあげろと言われれば、文句なく、躊躇なく、容赦なく、このアルバムになる。
1958年のマーラー:交響曲第1番二長調「巨人」。
天下の名レーベルEVERESTの1枚。90年代にはCD化されたこともある。
このアルバム。
その時点で「37年前の収録とは俄かには信じ難い響き」と評価された高音質録音だが、それからもう25年以上経つ。
隠れ名盤として知られる存在だが、あまりCD化の実績は多くない。
そんななか今回はオリジナルのEVEREST盤からの復刻を果たした。
状態が良いEVEREST盤はほとんど流通していないという中で、ARDMORE社長が奇跡的に状態の良いものを発掘したことで今回の復刻となった。LP復刻のアルバムはこれが初めてではないか?
しかし今回の復刻理由は音質ではない。
演奏である。
この決然たる音楽。迷いのない一気呵成の音楽。
「とにかく聴け。そして前を向け。ひるむな。突き進め。」
カイゼル髭にはげ頭の爺様に眼光鋭くそう言われたら、黙ってうなずくしかない。
第2楽章。こんなマーラーを聴いたことがあるか。
なりふりかまわず猪突猛進。
史上最速級のこの演奏には、すべての悩みや妄念を駆逐して我々を次のステージにむりやり引き上げてくれるたくましさがある。
そして終楽章。戦慄を覚えるほどの潔さ。
聴くだけで胸の中にアドレナリンが噴出し、もやもや鬱々とした心情をぶち破ってとにかく前に進もうという気概が沸きあがってくる。
ボールトの音楽は、聴くものを無条件で元気にしてくれる。
いまのこの時代、我々が聴くべきはこの演奏である。
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