「クラシック名盤復刻ガイド」特別盤 音楽とは生きることだったのか
フェルディナント・ライトナー指揮
アンスバッハ・バッハ週間音楽祭ゾリステン
J.S.バッハ:「マニフィカト」 BWV.243
AR 888 1CD-R\1500
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拙著「クラシック名盤復刻ガイド」で最終章に掲載していた「書籍限定公開」の特別盤、発売から半年経ったのでいよいよネット一般公開します。
音楽とは生きることだったのか
フェルディナント・ライトナー指揮、アンスバッハ・バッハ週間音楽祭ゾリステン
バッハ:「マニフィカト」 BWV.243
1949年のドイツの音楽界。
終戦から4年、ようやく希望の光が見え始め、さまざまな混乱に終息の兆しが見え始めていた。
この時期、歌劇場やオーケストラは次々と力強く復活を遂げようとしていた。
しかし・・・レコード会社はまだ試行錯誤を繰り返していた。
今でこそ「天下のドイツ・グラモフォン(DG)」と呼ばれるこの大レーベルもこの時期まだ暗闇でもがいていた。
アメリカではすでにLPレコードの時代が訪れていたのに、DGはいまだこの新しい媒体を取り入れることができないでいたのである。
そうしたなかでDGは音楽史研究部門として「アルヒーフ・レーベル」を立ち上げる。
ちなみに AR 0049 でご紹介した、ドイツ音楽界の救世主フリッチャイがベルリン・フィルとドイツ・グラモフォンに初録音したのもこの時期。
彼らは自分たちの希望の光を、そうした新時代の演奏に託そうとしたのだ。
今回ご紹介するバッハの「マニフィカト」は、その「アルヒーフ・レーベル」立ち上げの際の記念すべきアルバムのひとつ。
世界でも有数のバッハ音楽祭、「アンスバッハ・バッハ週間音楽祭」で1949年に録音されたものである。
これは、いわば、レーベルの命運を担ってリリースされたアルバムと言っていい。
SPに刻まれた戦後復興期の歌声はきわめて素朴で、最近の完全完璧な新録音に慣れた耳からするとひどく愚直に聴こえるかもしれない。
しかし、まっすぐこちらに向かってくるその歌声には、この時期力強く蘇ろうとしているドイツの歌唱陣の無防備なまでのひたむきさを感じる。
ライトナーの指揮も、最近の演奏では考えられないような重厚テンポ。まるで踏みしめるように、噛み締めるように、音楽の一音一音を、演奏する者、聴く者と分かち合っているかのようである。
歌うことで生き返ろうとしているのか。
音楽を感じることで生きようとしているのか。
彼らは、第2次世界大戦末期、いつ敵機が来て爆撃されるかもしれない音楽ホールに命がけで音楽を聴いていた人たち、演奏していた人たち。
彼らにとって音楽とは生きることだったのだ。
この音源、これだけの名演でありながら最近リリースされた「アルヒーフ1947〜2013(55CD)
」という巨大なボックスには収録されていなかった。
まっさきに入っていておかしくないのに。
聞いたところでは最初の合唱が一部ひずんでいて、それはCD(DGレゾナンス・シリーズ)になっても直らず、ひょっとするとオリジナル・マスターテープは存在しないのではないかとも言われている。
ちなみにそのひずみは今回のSP復刻ではほとんど気にならない。その後LPも発売されたが、LP製造はまだ不安定だったので技術的にSPのほうが優れていた可能性は大いにある。とするとこのSP音源復刻が、現在この名演を聴くための最も優秀なアルバムということになる。
もちろん1949年の録音ということで優秀な音質とはいえないが、浮かび上がる音像は野太く、その存在感は圧倒的。
当時のドイツの音楽家たちの沸きあがるような力強さを真正面から受け止めてほしい。
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