アリア・レーベル第10弾 フリッツ・ブッシュ指揮&デンマーク国立放送交響楽団
ブラームス:交響曲第2番
ARIA AR 0010 1CD-R\1700
昔から、「どうしてこの人は高く評価されないんだろう」、という指揮者が何人かいる。
今回紹介するフリッツ・ブッシュはその筆頭。
まぎれもない大音楽家。アドルフ・ブッシュの兄としてではなく、フリッツ・ブッシュという指揮者として。
実際のところ、フリッツ・ブッシュが高く評価されないのは、録音が少ないから、ということに尽きる。
ブッシュは1890年生まれ。クレンペラー(1885年)、フルトヴェングラー(1886年)、ミュンシュ(1891年)、ベーム(1894年)たちと同世代。だから彼らと同じように多くの音源が残されていてもおかしくない。
しかしそうはならなかった。
ブッシュはドイツ・ジーゲンに生まれ、ケルン音楽院で学んだ後、アーヘン、シュトゥットガルト、ドレスデンの歌劇場の音楽監督を歴任。まさにドイツ指揮者の花道を歩んできた。
しかし、1933年。
もういい加減にしてくれ、と吐き捨てたくなるが、ここでまたもナチスが登場する。
何度も何度も言うが、この時代にドイツで活動する音楽家は、絶対にナチスの影響から逃れられない。
ナチス、本当に人々の人生をとことんまでグチャグチャにする。
ブッシュはユダヤ人ではなかったが、ナチスの下で演奏活動をすることを嫌った。そこでナチスは、ブッシュがドレスデン国立歌劇場で「リゴレット」を公演している最中にわざと暴動を起こし、ブッシュに辞任を迫った。
結果、ブッシュはドイツを去り、その後はイギリス、北欧を中心に活動することになる。
イギリスでは亡くなるまでグラインドボーン音楽祭の音楽監督を務めたので、オペラ・ファンには今でも根強い人気を誇る。
が、一方の北欧ストックホルム・フィルやデンマーク国立放送響でブッシュが首席指揮者を務めていたことはあまり知られていない。この頃の録音がたくさん残されていれば、この巨匠の真価は広く世界に伝わったはずなのに。
今回のアルバムは、そんなブッシュの貴重な交響曲録音。デンマーク国立放送交響楽団との演奏である。
それにしてもこの人、ニューヨーク・フィルやバイロイトの誘いを断ったというからかなりの頑固者と思われる。金や権威では動かない。羨ましいまでの高潔なる快男児。
だからそれが演奏にも現れる。
今回のブラームス。
そこまで勢いに任せて歌わせたら破綻する、という、その一歩手前できちんと収拾をつける。
その爽やかなスリル。
オケの団員の力量を完全に把握して、そのぎりぎりのところで勝負させる。だから緊張感もあるし、同時に痛快。
キリキリと引き絞られた弓矢のような美しきロマン。高らかに歌われる晴朗爽快な凱歌。
それは自らの行動と思いに一点の曇りもないからか。
まさに高潔なる快男児。
今回は珍しく別のSP録音も同時収録してみた。「レオノーレ」、そして「ドイツ舞曲」。
この1枚を聴けばあなたもいっぺんでフリッツ・ブッシュを好きになると思う。
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