アリア・レーベル第25弾
ARIA AR 0025 1CD-R\1700
カイルベルト&ハンブルク国立フィル
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
いきなりがすごい。
長距離砲で打ち抜かれたような轟音。
これが戦後最高の音質と言われたドイツ・テレフンケンの音。
カイルベルトの「英雄」である。
もう20年以上前になるだろうか。「すごい」という噂だけを聞いていたカイルベルトのベートーヴェンを初めて聴くことができたのは。
そこで聴こえてきたのは、「これがドイツか」と思わずうならされる「ズシリ」と重く低く分厚い音。
今も若いがそのときはもっと若かった店主の心に、カイルベルトの演奏はまさに「ズシリ」と重く低く深く残った。
ところがその後あまりカイルベルトの交響曲録音について耳にすることがなくなった。
どうやらメジャー・レーベルから何度か超廉価盤で出直しになるがあまり音がよろしくないため、正当な評価を得られないままいつの間にか廃盤になる・・・そんなことの繰り返しだったのだ。
しかし、今回の復刻はすごい。
当時最高の音質を誇ったテレフンケンの威力を目の当たりにすることになる。
まるでそれぞれの楽器の音色を墨筆で縁取りしたかのような野太い音。
ちょっぴりやんちゃな管楽器を華やかに演出する表現力。
正統派の直球解釈の中に並々ならぬ意欲とエネルギーを充満させる強靭な生命感。
これらはテレフンケンのなせる技だろうが、もちろんそれはカイルベルトの指揮があってのこと。
「ドイツの偉大なる田舎もの」と言われようと、これだけ逞しくドスの効いた凄みを味あわされるとグウの音も出ない。旅先の田舎街で思わぬ大親分に会ったような感じである。
小細工はったり一切なし。まん前からビシっと凝視されてこちらの人間力を試されるような、そんな「英雄」。
カイルベルトといえば親子のように縁が深いバンベルク交響楽団が有名であるが、今回のオーケストラはハンブルク国立フィル。彼は1950年にこのオーケストラの首席指揮者に着任、1959年まで10年間にわたってその任に就いている。ハンブルク国立歌劇場のオーケストラでもあるこのオケは、ヨッフムが1949年まで総監督を務めるなど「コンサート・オーケストラ」としても一流で、バンベルク響とは一味違ったオペラ・オーケストラらしい自発的で感情豊かな側面も見せてくれる。
実は当時のカイルベルトは、今の我々からは想像もつかないほど人気指揮者だった。
1945年にドレスデン国立歌劇場音楽監督、バンベルク交響楽団常任指揮者(1950年から首席)、1950年からハンブルク国立フィル首席指揮者、1952年からバイロイトに登場し常連となり、ザルツブルグ音楽祭、ルツェルン音楽祭にもレギュラー出演、ベルリン・フィル、ケルン放送響、ハンブルク国立歌劇場にも何度も登場、1959年からはバイエルン国立歌劇場の音楽総監督に就任した。
要はドイツ指揮者界のスターとして引っ張りだこだったのである。
今回の「英雄」はそんなカイルベルトが全盛期に残した栄光の記録。そこにはドイツ復興の喜びと、未来への希望すら垣間見える。
彼が1968年、「トリスタン」の指揮中に急死しなければ、その後世界の音楽界で重要な役割を果たしていたことは間違いない。
彼の2週間前に生まれたカラヤンのその後の躍進を見ても、カイルベルトの60歳の死はあまりにも早すぎた。
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