アリア・レーベル第29弾
ARIA AR 0029 1CD-R\1700
ケンペ&ベルリン・フィル 1959年
ベルリオーズ:幻想交響曲
不可思議な演奏なのである。
1959年、ベルリン・フィルとの「幻想交響曲」。
AR 0021でも書いたが、ケンペは1950年代の中盤にオペラ指揮者からコンサート指揮者へ大きく舵を切った。
戦後ずっとオペラの世界に生きてきたケンペだが、総合芸術としてのオペラから、オーケストラとの純粋な音楽創造へその興味が移って行く。
とくに1954年に亡くなったフルトヴェングラーの隙間を埋めるように始まったベルリン・フィルとの関係が、その流れを加速させた。世界一のオーケストラと演奏する機会が増えれば、そう思うのも無理はない。
彼は1956年からベルリン・フィル常任客演指揮者となり、定期的に指揮台に上がる。
そして1955年から1960年までの6年間に、20枚以上のレコードをベルリン・フィルと録音することになる。当初こそ声楽系の録音が多かったが、後半の3年間は交響曲を中心とした純オーケストラ系の作品がレパートリーの中心となる。この時代、ブラームスの交響曲全集をはじめ、「新世界」、「英雄」など、今に残る名演が数多く残される。
今回の「幻想交響曲」は、そのベルリン・フィルとの録音期の最終時期にあたる1959年のもの。
時代はカラヤンへと大きく傾斜し、ベルリン・フィルの音色も変わりつつある。が、もちろんこの当時も名手の時代であることに変わりはない。とくにフルートを中心とする木管の音色には何度も惚れ惚れとさせられる。
だから第1楽章、第2楽章は、「幻想交響曲」録音史の中でも特筆すべき美しき壮絶さ。その気品あふれる落ち着き。嫌味のない華やかさ。まるで宮廷の「幻想」。続く第3楽章でのティンパニとコールアングレの掛け合いも、ステレオ初期ならではのきめ細かい音質がその効果を上げる。
ところが・・・
空前絶後の盛り上がりを期待したい第4楽章だけ、何か変なのである。
指揮者とオケの間に、異様な感情の齟齬がある。
感情を爆発させることを躊躇したかのような、あるいはそのまま突っ走ることをあえて拒否したかのような一瞬。
オケ団員が「行くのか?行かないのか?え、行かないのか?」と漏らした声が聞こえてくるような一瞬。
続く終楽章では名人芸を炸裂させながらきわめてまっとうな演奏を聴かせてくれているだけに、一体このとき何が起きたかよく分からない。
もちろんそれを含めてケンペの、またベルリン・フィルの名演と呼ばれている録音なのだが、店主にはいまだにここのところだけがよく分からないのである。
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原盤のジャケット
今から13年前に発売されて一気にケンペ・ファンを獲得することになったDISKY盤。
ロイヤル・フィルの「シェエラザード」、ベルリン・フィルとの「新世界」、そしてこの「幻想」が収められていた。
大ベストセラーとなったが瞬時に完売した。
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