フルトヴェングラーが生きていたときの、最後のベルリン・フィルの録音
そしてずっと幻となっていた録音
第63弾
ヨッフム&ベルリン・フィル
ベートーヴェン:交響曲第4番
ARIA AR 0063 1CD-R\1700
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今回取り上げるのはヨッフムとベルリン・フィルによる1954年の第4番。
これがなんともいわくつきの演奏なのである。
ヨッフムはベートーヴェンの交響曲全集を3回録音している。
1.DG(1952-61) ベルリン・フィル&バイエルン放送交響楽団
2.PHILIPS(1967-69) アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
3.EMI(1976-79) ロンドン交響楽団
いずれもヨッフムらしい内容の濃い演奏で知られる。
さて、今回お贈りするベルリン・フィルとの1954年の第4番。
時期的にみて当然、上記第1回のDG全集に入っているかというと、・・・入っていない。
第1回全集に入っている第4番は
ベルリン・フィル(1961年1月ステレオ)
なのである。
ああ、なるほど、5年後にもう一回ステレオで録音しなおしたんだな、と。
でも、この全集はベルリン・フィルとバイエルン放送交響楽団の混成録音なのだが
交響曲第1番 バイエルン放送交響楽団(1959年4月ステレオ)
交響曲第2番 ベルリン・フィル(1958年1月ステレオ)
交響曲第3番 ベルリン・フィル(1954年2月モノラル)
交響曲第4番 ベルリン・フィル(1961年1月ステレオ)
交響曲第5番 バイエルン放送交響楽団(1959年4月ステレオ)
交響曲第6番 ベルリン・フィル(1954年11月モノラル)
交響曲第7番 ベルリン・フィル(1952年11月モノラル)
交響曲第8番 ベルリン・フィル(1958年5月ステレオ)
交響曲第9番 バイエルン放送交響楽団(1952年12月モノラル)
こういう収録内容。
第4番以外にもモノラル録音はいっぱいある。
それがどうして第4番だけ録音しなおしたか謎。
ステレオで全集録音をやりなおそうとして、1961年に契約か何かが切れて計画自体が頓挫したのか。(ヨッフム、バイエルン放送交響楽団首席指揮者(1949-1960年)、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団首席指揮者(1961-1964年))
まあ、そんなところだろう。
それはそれでいいのだが、不幸なのは今回のこの録音である。
聴いていただくと分かるとは思うが、大巨匠的で重厚、且つ烈しい演奏。
これだけの大時代がかった第4番はそうそうない。
・・・にも関わらず、5年後に新録音が誕生してしまったために、この録音、その後まったく陽の目を見なくなってしまったのである。
少なくともCDで見たことはない。
だからヨッフム・ファンにとっても、50年代のベルリン・フィルを追いかけているオーケストラ・ファンにとっても、なかなか聴けない録音になってしまった。
いわば幻の録音だったわけである。
そしてさらにこの録音、実は録音年月日がはっきりしていなかった。
70年代のレコ芸では「不詳」、HUNTのカタログでは「1956年11月」、音楽の友社の「ドイツ・グラモフォン完全データ・ブック」では「1956年録音・1956年3月発売」というかなり無理な記録になっている。
ところが最新の研究であるマイケル・グレイ編のベルリン・フィル・ディスコグラフィーでは・・・1954年11月16-19日という詳細な日にちが出ている。
ヨッフムとベルリン・フィルには、その数日前に「田園」やブラームスのピアノ協奏曲第2番の録音が残っているので、この日付はきわめて信憑性が高い(逆に1956年11月の前後には、ヨッフムはベルリン・フィルにまったく登場していない)。
そしてもし、この録音が1954年11月16-19日の演奏だとすると・・・
これは、フルトヴェングラーが生きていた当時の、最後のベルリン・フィルの演奏録音ということになる。
フルトヴェングラーが亡くなったのは1954年11月30日。
今回の第4番の録音、1954年11月19日からその日までに残された録音はない。
つまりベルリン・フィルにとって、これ以降の録音(この次はマルケヴィチのワーグナー、シューベルト(アリア・レーベル ARIA AR 0048))は、フルトヴェングラーのいない世界の演奏なのである。
何もこの第4番が、「フルトヴェングラーの死を予感したベルリン・フィルの人々による壮絶なる演奏」というつもりはない。フルトヴェングラーの入院は伝えられていただろうが、その死は唐突だったと多くの人が語っているから。
しかしただ言えるのは、この演奏のときはまだフルトヴェングラーが生きていたということ。
フルトヴェングラーがベルリン・フィルの団員たちとともに生きていたということ。
団員たちはフルトヴェングラーの思いを胸に演奏していたということ。
ただそんなことを知らなくても、この演奏を聴けば、きっとあなたはこの演奏の背後に、偉大なる巨匠の姿を見ることだろう。
ヨッフムのうしろに、フルトヴェングラーがいるのである。
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