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第66弾
どこかいびつで不吉で哀しい・・・
ワルター＆ウィーン・フィル
1937年のブラームス交響曲第1番
ARIA AR 0066 1CD-R\1700

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　ワルターとウィーン・フィルによる1937年のブラームス交響曲第1番である。
　評論家の宇野功芳氏が「きわめて女性的で優雅な演奏」と評した。

　そう、この演奏は確かに美しい。
　だがどこかいびつで不吉で妖しく、哀しい。
　
　
　ワルターはブラームスの交響曲第1番をいくつか残しているが、このウィーン・フィルとの演奏以外はすべてアメリカのオケとの録音なので、これが唯一のヨーロッパのオーケストラとの録音ということになる。
　もちろんワルターのアメリカ・スタジオ録音はすばらしい。・・・が、少し人工的な気配がしなくもない。
　だからワルター・ファンは、戦後の上質のアメリカ録音を歓迎しつつも、心のどこかで、「これがドイツかオーストリアのオケならな」、と思ってしまう。

　そういう意味でこの1937年のウィーン・フィルとのブラームスは、ファンにとってはきわめて喜ばしい録音・・・

　・・・のはずである。

　だがこの録音、冒頭でお話したとおり、きわめて美しく、優雅で流麗・・・なのに、何か変なのである。

　まったく燃え上がらないのだ。
　ニューヨーク・フィルとの演奏などと比べると、悲しいほど燃え上がらない。

　とくにまったく盛り上がらない終楽章コーダに関しては、宇野功芳氏も「何回でも録音し直せるのに不思議でしようがない」というほどの燃え上がらなさ。
　あの天に向けて放つ凱歌のような熱い情熱がないのである。

　でもその理由は、この演奏が為された時代を考えればなんとなくわかってくる。

　ご存知のようにワルターはナチスの台頭により1933年、ドイツから亡命する。楽屋に銃弾を撃ち込まれたり、「演奏会を開けば会場を爆破する」と脅迫されるなどさまざまないやがらせや殺害予告を受けるようになり、とてもドイツに留まってはいられなかった。
　その後ワルターはさまざまな国を経てウィーンへ赴き、歓迎され、1936年からはウィーン国立歌劇場監督となる。ナチスの勢力が増していたとはいえ、まだ当時のオーストリアはトスカニーニが言うところの「自由の国」だったのだ。

　今回のブラームス交響曲第1番は、その時期の演奏。
　1937年5月。

　しかしまだオーストリアがナチスの支配下にないとはいえ、公演中に悪臭ガス弾を投げ込まれたりするなどナチスの勢力の拡大は明らか。当時のオーストリアは「自由の国」ではあっても「平和の国」ではない。

　そしてこの演奏のわずか10ヵ月後の1938年3月12日。
　ドイツ軍はオーストリア全土を占領、ついに「自由の国」オーストリアはナチスの手に落ちることになる。

　ワルターはたまたま海外公演中だったために逮捕されずにすんだが、娘は逮捕され、残された財産はすべて没収された。その後ワルターは幾多の遍歴を経つつ、ようやくアメリカに渡ることになる。

　一方、オーストリアに残されたウィーン・フィル。

　オーストリアを手中に収めたヒトラーだが、この世界最高のオーケストラに対してベルリン・フィルのような愛情を持っていなかった。
　ヒトラーはウィーン・フィルに対して「協会の解散」を迫ったのである。

　そこで登場したのがフルトヴェングラーだった。
　彼はナチスに対してウィーン・フィルの存続のためにさまざまな手を打ち、ヒトラーの誕生日にウィーン国立歌劇場でヒトラーの愛する「マイスタージンガー」を上演、ベルリンではヒトラーの前で御前演奏を行うなど懐柔作戦に出た。（でもナチスのいいなりだったわけではなく、ホールのハーケンクロイツの旗は取り外させた。）それによりウィーン・フィルは生き延びることになる。

　ただナチスはウィーン・フィルのユダヤ人演奏家に対しては容赦がなかった。
　コンサートマスターのアルノルト・ロゼーと首席チェロのフリートリッヒ・ブックスバウムはイギリスへ、楽団長のフーゴ・ブルクハウザーはアメリカへ亡命した。

　生きて逃れた人はまだいい。
　ウィーン・フィルのユダヤ人演奏家11人が解雇・追放。4人が強制収容所に送られ惨殺、2人がその前に死亡、1人は戦死した。

　ナチス・ドイツによって命を奪われたウィーン・フィル団員の氏名を記す。
　
　　　ユリウス・シュトヴェルトカ（コンサートマスター）
　　　アントン・ヴァイス（第１ヴァイオリン）
　　　マックス・シュタルクマン（第１ヴァイオリン）
　　　モーリッツ・グラッタウアー（第１ヴァイオリン）
　　　ハンス・カルヴァト（第１ヴァイオリン）
　　　ヴィクトール・ロビツェク（第２ヴァイオリン）
　　　アルミン・ティロラー（オーボェ）

　おそらく彼らの何人かは、あなたが聴いているこの演奏に参加していただろう。
　ひょっとすると第2楽章の美しいヴァイオリンのソロはユリウス・シュトヴェルトカのものかもしれない。

　ワルターの言によれば、この演奏当時のウィーン・フィルの団員たちはまだその後訪れる恐怖を実感していなかったという。
　しかしそれまでにナチスのさまざまな蛮行を目の当たりにしてきたワルターは、これからオーストリアが、ウィーンが、そしてウィーン・フィルがどんな恐ろしい運命に巻き込まれるかなんとなく感づいていたのではないか・・・だからワルターはこのとき、この曲のラストを凱歌のように演奏することができなかったのではないか・・・。
　そして団員たちもなんとなくその嫌な雰囲気を感じ取っていたのではないか・・・。

　だとするとここから聴こえてくるのは人々の不安の思い、迫り来るおそるべき運命への予感なのか。

　・・・この演奏がどこかいびつで不吉で妖しく哀しいのは、当然のことだったのかもしれない。

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AR 0066 1CD-R\1700 通常盤	第66弾　ワルター＆ウィーン・フィル　　1937年のブラームス交響曲第1番　　ブラームス交響曲第1番　モーツァルト：３つのドイツ舞曲 Kv.605	ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
AR 0066-F 1CD-R\2500 特別装丁盤
長い時間をかけてようやく見つけた盤。　ARDMOREの復刻は今回も最上といっていい。ノイズ処理をしているわけではないのにほとんどノイズが気にならないのは驚異的。　哀しい演奏ではあるが、その不吉なまでの美しさをとことんまで味わってほしい。それはある意味後世に残された我々の義務かもしれない。　通常盤は、薄型ケースで、シンプルなデザインのジャケットと盤面印刷の仕様です。特別装丁盤は通常ジュエル・ケース入り。表裏ジャケと盤面印刷の仕様です。原盤：78rpm HMV DB3277/81 　　　　　　　　HMV DA1570 録音：1937年5月　ウィーン・ムジークフェライン　モノラルフォーマットはＣＤ-Ｒ。針音や歪みなどのオリジナル・ノイズがありますがご了承ください。

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第66弾どこかいびつで不吉で哀しい・・・ ワルター＆ウィーン・フィル 1937年のブラームス交響曲第1番 ARIA AR 0066 1CD-R\1700

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ワルター＆ウィーン・フィル
1937年のブラームス交響曲第1番
ARIA AR 0066 1CD-R\1700