シュターツカペレ・ドレスデン。
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1548年にザクセン選帝侯の宮廷楽団として設立された。
時代はまだルネサンス。ドレスデンにあこがれたJ.S.バッハが生まれるのはまだ130年以上も先。
そんな頃に設立された団体。まさに神話か伝説。
だからこのオーケストラには、他のオーケストラとの比較を許さない、別世界的な存在感がある。
楽器がどうとか演奏家がどうとかじゃない、オーケストラ自体が持つ特殊な宇宙とでもいおうか。
そんなシュターツカペレ・ドレスデンを久しぶりにご紹介することになった。
選んだのは1962年のスイトナーが指揮したマーラーの交響曲第1番。
同曲の名盤に必ずしも顔を出す常連録音ではない。
どちらかというと「そんなのあったかな」というような感じかもしれない。
ただ、実際に聴いた人は、「マーラーの1番の名演はどれ?」と尋ねられると、いくつかの名盤をあげたあとで必ず・・・「うーんん・・それと、・・・あのドレスデンの古い録音も・・・」と、この演奏を思い出すことになる。
そういう名盤。
「おれがおれが」という自己主張の強い演奏ではない。
なんというか、朴訥とした親しみやすい貴族のような演奏。
伝統的・特徴的な管も弦も皆一心不乱に演奏している様が見えるようで、その一生懸命さが感動的であり、その素朴さが他のオーケストラとは違う芳香を放つ。
いやいや、そんな、学生じゃないんだから一生懸命さが感動や名演を生み出すなんて・・・と笑われるかもしれないが、当時の東ドイツ、まだ戦後を引きずっている。
レコード録音はもちろん、食料にすら困っていた時代。
1回1回の演奏会に、1回1回の録音に、団員たちはそうとう強い思い入れがあったのではないか。
だから終楽章、締めるところはキリリと締めてきて、鳴らすところはズンズン鳴らしてきて、やっぱりただの田舎貴族じゃなかったんだ、と背筋がピンとなる。
録音は、やがてこのオーケストラの録音の代名詞ともなるドレスデン・ルカ教会。
そのホールトーンの美しさは言語を絶するという。
1958年のベームが指揮した「ばらの騎士」からこの教会で録音が為されるようになり、その後国費を投入してクラシック音楽録音スタジオとして改築がおこなわれるようになる。
そしてその後多くの名盤が生まれるわけだが、今回のマーラー、そうした名録音史を飾った最初期の名演というわけである。
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